説明

難燃性ポリエステル系繊維構造物

【課題】環境問題に配慮したフッ素系撥水撥油剤を使用し、難燃性との機能複合した繊維構造物を提供する。
【解決手段】難燃性化合物とフッ素系撥水剤を含有する繊維からなり、該フッ素系撥水剤が高速液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)で測定したパーフルオロオクタン酸および/またはパーフルオロオクタンスルホン酸の量が5ng/g未満であることを特徴とする難燃性、撥水性ポリエステル系繊維構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球環境、生物に配慮した難燃性、撥水性に優れたポリエステル系繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル系繊維構造物に難燃性を付与する方法としては、難燃原糸を製造する方法と難燃性化合物で後加工する方法に大別される。前者の方法としては、繊維製造時に難燃性化合物を共重合する、難燃性化合物をブレンドするなどの方法がある。後者の方法としては、ヘキサブロモシクロドデカンのようなハロゲン元素を含む化合物で処理する方法(特許文献1参照)が古くから実施されているが燃焼時にハロゲン化ガスが発生することから、近年の環境保護の観点からハロゲン元素を含まない燐系化合物による処理が提案されている(特許文献2、3参照)。
【0003】
しかしながら、前者の方法は、繊維製造時の製糸性が低下する、また例えば、織編物とした場合にその布帛組織や目付により難燃性能が大きく低下する場合があり、難燃原糸だけでは満足な難燃性能が得られないため、さらに難燃性化合物で後加工しなければならないなどの問題がある。後者の方法では、難燃剤がブリードしたり、風合いが硬化したり、堅牢度が低下するなどの問題がある。さらに、カチオン可染型ポリエステルには十分な難燃性を付与できないという重大な欠点を有するものである。カチオン可染型ポリエステルを含有する繊維構造物の難燃化に関してはホスホニウム塩を使用する方法が提案されているが(特許文献4参照)、染色性が低下するなどの問題がある。また、難燃性に別の機能を複合する方法において、フッ素系撥水剤による撥水性能を付与することも試みられているが、昨今、かかるフッ素系撥水撥油剤に生活環境、生物に影響を及ぼす可能性がある化合物、例えばパーフルオロオクタン酸(以下PFOA)、パーフルオロオクタンスルホン酸(以下PFOS)等が含まれていることが判明している。該化合物を含まないかあるいはできるだけ含有量の少ないフッ素系撥水撥油剤を使用した繊維製品が要望されている。
【特許文献1】特公昭53−8840号公報
【特許文献2】特開2000−328445号公報
【特許文献3】特開2000−154465号公報
【特許文献4】特開2005−9041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる現状に鑑み、環境問題に配慮したフッ素系撥水撥油剤を使用し、難燃性との機能複合した繊維構造物を提供せんとするものである。さらには、難燃性を付与するのに、塩素、臭素元素を含まない難燃性化合物を使用するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、次の手段を採用するものである。
【0006】
(1)難燃性化合物とフッ素系撥水剤を含有する繊維からなり、該フッ素系撥水剤が高速液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)で測定したパーフルオロオクタン酸および/またはパーフルオロオクタンスルホン酸の量が5ng/g未満であることを特徴とする難燃性、撥水性ポリエステル系繊維構造物。
【0007】
(2)パーフルオロオクタン酸および/またはパーフルオロオクタンスルホン酸の量が1ng/g未満である上記(1)記載の難燃性、撥水性ポリエステル系繊維構造物。
【0008】
(3)該難燃性化合物が、下記一般式で示される燐系化合物の少なくとも1種類である上記(1)または(2)記載の難燃性、撥水性ポリエステル系繊維構造物。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
【化4】

【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地球環境、生物に配慮した難燃性と撥水性を兼ね備えたポリエステル系繊維繊維構造物を安定して供給することができる。本発明の機能を有する繊維構造物は、一般衣料用途、寝装用途、産業用途などに有効に使用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らは、前記課題、すなわち地球環境や生物に配慮した化合物を用いて難燃性と撥水性に優れたポリエステル系繊維構造物について鋭意検討した結果、難燃性には塩素および臭素元素を含まない難燃性化合物を使用し、撥水性にはPFOAやPFOSを含まないもしくは含有量が極めて少量であるフッ素系撥水剤を使用することで、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0015】
本発明で用いられるポリエステル系繊維としては、芳香族成分を含むポリエステル繊維や脂肪族ポリエステルポリエステル繊維が挙げられる。芳香族成分を含むポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートあるいはこれらと第三成分、例えばイソフタル酸、イソフタル酸スルホネート、アジピン酸およびポリエチレングリコールなどが共重合またはブレンドしたものを例示することができる。また、脂肪族ポリエステル繊維としては、ポリL乳酸、ポリD乳酸およびD、L乳酸からなるホモポリマー、またはポリ乳酸−グリコール酸共重合体などを例示することができる。本発明のポリエステル系繊維に難燃性化合物が共重合またはブレンドされていてもかまわない。
【0016】
本発明で用いられるポリエステル系繊維は、原糸糸条の製造工程や加工工程での生産性や特性改善のために、通常使用されている各種添加剤を含んでいても良い。例えば、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、平滑剤、可塑剤、抗菌剤、防かび剤および消臭剤などの添加剤をポリエステル系繊維に含有させることができる。
【0017】
本発明では、これらのポリエステル系繊維を単独あるいは2種以上混合して使用することができるもので、短繊維、長繊維またはこれらを混合してもよい。
【0018】
本発明で用いられるカチオン可染型ポリエステル系繊維としては、ジカルボン酸とグリコールからなるポリマであり、具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンテレフタレートなどを主たる構成成分とし、さらにカチオン可染化のために−SO3M基(Mはアルカリまたはアルカリ土類金属で、アルカリ土類金属の場合1/2価を表す)やスルホン酸ホスホニウム基のような極性基を有し、かつエステル形成能を有する官能基を1個以上持つ化合物が共重合されていることが好ましい。このカチオン可染型ポリエステル系繊維はエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするものが、また上記共重合成分として好ましいスルホネート化合物としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびそのエステル誘導体、5−リチウムスルホイソフタル酸およびそのエステル誘導体、5−(テトラアルキル)ホスホニウムスルホイソフタル酸およびその誘導体、p−ヒドロキシエトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、2,5−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸カリウムなどが挙げられる。該スルホネート化合物の共重合率は酸成分に対して0.5〜6.0モル%、好ましくは1.0〜4.0モル%、でありさらに好ましくは1.3〜2.0モル%である。該カチオン可染型ポリエステルに分子量400〜6000のポリアルキレンオキシドグリコール成分が共重合されているものも使用することができる。また、本発明のカチオン可染型ポリエステル繊維には難燃性化合物が共重合あるいはブレンドされていてもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の繊維、例えば、木綿、羊毛、絹および麻などの天然繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリルなどの合成繊維を混合して使用することができる。
【0019】
本発明のポリエステル系繊維構造物としては、織物、編物および不織布などの布帛状物や、糸、紐、ロープなどの糸条物の形態のものを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明のフッ素系撥水剤は、環境負荷物のPFOAやPFOS対策を講じたフッ素系撥水剤を使用する。かかるフッ素系撥水剤に含有されるPFOAおよび/またはPFOSの量は高速液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)で測定したときに、定量下限の5ng/g未満であり、好ましくは検出下限の1ng/g未満である。かかるフッ素系撥水剤は新たな製造法を用いて前記の環境負荷物の発生を無くしたものや、従来の製造法の過程で、様々な手法を用いて環境負荷物を回収したもの等を使用することができ、特に、旭硝子(株)製のフッ素系撥水剤であるアサヒガードEシリーズAG−E061や住友スリーエム(株)製のスコッチガードPM3622、PM490、PM930などが好ましく使用できる。該加工剤を0.1〜10%の濃度で使用する。
【0021】
本発明は、上記フッ素系撥水剤に、フッ素元素を含有しない撥水性化合物を混合することができる。かかる化合物としては、パラフィン系化合物、脂肪族アマイド系化合物、アルキルエチレン尿素系化合物、シリコン系化合物であり、公知の化合物を使用することができ、これらの1種または2種以上をフッ素系撥水剤に混合する。フッ素系撥水剤とフッ素元素を含有しない撥水性化合物の重量混合比はフッ素系撥水剤1.0に対して0.001〜1.0であり、好ましくは0.01〜0.5である。
【0022】
本発明の撥水剤の繊維への付与方法は特に限定されないが、所定の濃度の水系処理液に浸漬した後、目的とする付着量になるようにマングルで絞った後、100〜140℃の温度で乾燥し、150〜200℃の温度で熱処理するか、また、処理液をスプレーで塗布した後、同様に乾燥、熱処理しても良い。さらには処理液に浸漬したまま液の温度を50〜130℃に上げて、繊維表面に吸着させる浴中処理を採用することもできる。
【0023】
本発明の難燃性化合物は、ヘキサブロモシクロドデカンに代表されるハロゲン元素含有化合物や水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの無機系化合物、燐酸エステル、燐酸エステルアミドなどの燐系化合物を使用することができ、特に限定されるものではないが、
昨今の環境保護の観点から、ハロゲン元素を含まない燐系化合物が好ましく使用される。燐系化合物としては下記に示す化合物を1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
該難燃性化合物の好ましい含有量は、目的に応じて決定すればよいが、繊維構造物の重量に対し、0.01〜10.0%であり、好ましくは0.1〜5.0%である。
【0029】
本発明における難燃性化合物の付与方法は特に限定されるものではなく、公知の吸尽法または固着法のいずれも採用することができる。吸尽法としては、難燃性化合物を含む水浴中で100〜135℃の温度で10〜60分の処理をする方法、また、固着法としては難燃性化合物を含む水系液に繊維構造物を浸漬し、マングルなどで所定の付着量になるように絞り、100〜140℃で乾燥し、150〜200℃の温度で1〜10分熱処理する方法を採用することができる。固着法においては、該処理液中に撥水剤を混合して処理することができる。
【0030】
本発明の難燃性、撥水性ポリエステル系繊維構造物は、一般衣料、寝装、カーテン、シート、シートカバー、テント、養生シートなどの産業資材などの用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例中の品質評価は次の方法で実施した。
<FOAおよびPFOSの量>
次の条件で測定し、ng/gで表示した。
装置:LC−MS/MSタンデム型質量分析計TSQ−7000(サーモエレクトロン)
高速液体クロマトグラフLC−10Avp(島津製作所)
カラム:Capcellpak C8 100mm×2mmi.d.(5μm)
移動層:A;0.5mmol/L酢酸アンモニウム
B;アセトニトリル
流速:0.2mL/min、試料注入量:3μL
CP温度:220℃、イオン化電圧:4.5kv、イオンマルチ:1300v
イオン化法:ESI−Negative
<撥水性>
JIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法」(1998年)に規定される方法でスプレー法により評価を行い級判定した。
【0032】
<難燃性>
JIS L 1091 A−1法(ミクロバーナー法)およびJIS L 1091 D法(コイル法)に準じて測定した。
【0033】
<洗濯耐久性>
水洗濯はJIS L 1042に準じて、ドライクリーニングはJIS L 1018に準じてそれぞれ5回の洗濯を実施した後、難燃性の測定を行った。
【0034】
(実施例1〜18 、比較例1〜8)
ジメチルテレフタレート、エチレングリコールを原料に重合ポリマを合成、糸条化し130デシテックス、40フィラメントのポリエチレンテレフタレートからなる仮撚り加工糸を得た。この加工糸をタテ糸とヨコ糸に使用して平織り物とし、常法により95℃の温度で精練し、130℃で乾燥し、180℃でヒートセットし、目付180g/m2の織物とした。
【0035】
該織物を以下にします方法で処理し、性能を評価した結果を表1に示した。
<難燃処理>
化合物A:次に示す化合物を40重量%の濃度で含有する水分散液を使用した。
【0036】
【化9】

【0037】
化合物B:次に示す化合物を40重量%の濃度で含有する水分散液を使用した。
【0038】
【化10】

【0039】
化合物C:次に示す化合物を40重量%の濃度で含有する水分散液を使用した。
【0040】
【化11】

【0041】
化合物D:次に示す化合物を40重量%の濃度で含有する水分散液を使用した。
【0042】
【化12】

【0043】
上記難燃性化合物を含む水系液を調整し、液流染色機を用いて、pH3.5、浴比1/20で130℃で60分の処理を行い、次いで80℃で20分湯洗し、水洗を10分行い、120℃で乾燥し、170℃でヒートセットした。
<撥水処理>
撥水剤(a):アサヒガードAG−E061(旭硝子(株)製、フッ素系撥水剤、固形分20%)
撥水剤(b):スコッチガードPM930(住友スリーエム(株)製、フッ素系撥水剤、固形分30%)
上記撥水剤を使用して撥水処理液を調整し、該液に織物を浸漬し、付着量が100%になるようにマングルで絞り、120℃で乾燥し、170℃でピンテンターセットした。
必要に応じて上記難燃性化合物を混合した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1から、本発明によるものは、環境に配慮した難燃剤と撥水剤を使用して、撥水性と難燃性を兼ね備えていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性化合物とフッ素系撥水剤を含有する繊維からなり、該フッ素系撥水剤が高速液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)で測定したパーフルオロオクタン酸および/またはパーフルオロオクタンスルホン酸の量が5ng/g未満であることを特徴とする難燃性、撥水性ポリエステル系繊維構造物。
【請求項2】
パーフルオロオクタン酸および/またはパーフルオロオクタンスルホン酸の量が1ng/g未満である請求項1記載の難燃性、撥水性ポリエステル系繊維構造物。
【請求項3】
該難燃性化合物が、下記一般式で示される燐系化合物の少なくとも1種類である請求項1および2記載の難燃性、撥水性ポリエステル系繊維構造物。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】


【公開番号】特開2007−247092(P2007−247092A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70782(P2006−70782)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】