説明

難燃性樹脂組成物、被覆電線及びケーブル

【課題】優れた柔軟性及び耐外傷性を得ることのできる難燃性樹脂組成物、被覆電線およびケーブルを提供すること。
【解決手段】酸変性されていない非酸変性スチレン系エラストマと、金属水酸化物粒子と、金属水酸化物粒子の表面に付着しているβ−カルボキシアクリル酸アルキルと、マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン系エラストマとを含み、非酸変性スチレン系エラストマ100質量部に対して、金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸アルキルが合計で35〜60質量部、マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン系エラストマが0.5〜5質量部の割合で含まれている難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、被覆電線及びケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用内装材、建材、日用品などには軟質塩化ビニル樹脂組成物が広く使用されてきた。軟質塩化ビニル樹脂組成物は、安価で加工性に優れ、可塑剤の添加量により柔軟性を自在に変化させることができ、さらには自己消化性を有し、機械特性も比較的良好であるなどの利点を有する。
【0003】
しかし、この軟質塩化ビニル樹脂組成物においては、可塑剤の移行に起因するそれ自体の脆化や周辺部位の汚染の問題がある。また、軟質塩化ビニル樹脂組成物は、ハロゲンである塩素を含むことから、これを焼却処分する際に、有害なダイオキシンなどの有機化合物が発生する。さらに、安定剤として環境汚染の恐れがある鉛化合物を使用することがあるなどの不都合も多い。
【0004】
そこで、最近では、このような軟質塩化ビニル系組成物の代替材料として、種々の材料が提案されている。
【0005】
例えば、下記特許文献1では、スチレン系エラストマと、シランカップリング剤や高級脂肪酸などで表面処理された水酸化マグネシウムと、マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン系エラストマとを含む難燃性樹脂組成物によって、優れた柔軟性及び耐外傷性を得ることが提案されている。
【特許文献1】特開2006−225480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の難燃性樹脂組成物は、優れた柔軟性を有するものの、耐外傷性の点では未だ改良の余地がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた柔軟性及び耐外傷性を得ることのできる難燃性樹脂組成物、被覆電線及びケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、酸変性されていない非酸変性スチレン系エラストマに、金属水酸化物粒子及びマレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン系エラストマ(以下、「マレイン酸変性SEBS」と呼ぶ)を添加し、さらに金属水酸化物粒子とそれを包囲する樹脂(以下、「包囲樹脂」と呼ぶ)との間に特定の物質を介在させ、この特定の物質と金属水酸化物粒子との合計含有量、および、上記マレイン酸変性SEBSの含有量が、非酸変性スチレン系エラストマに対して特定の比率となるようにすることによって、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、酸変性されていない非酸変性スチレン系エラストマと、金属水酸化物粒子と、前記金属水酸化物粒子の表面に付着しているβ−カルボキシアクリル酸アルキルと、マレイン酸変性SEBSとを含み、前記非酸変性スチレン系エラストマ100質量部に対して、前記金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸アルキルが合計で35〜60質量部、マレイン酸変性SEBSが0.5〜5質量部の割合で含まれていることを特徴とする難燃性樹脂組成物である。
【0010】
この難燃性樹脂組成物によれば、優れた柔軟性及び耐外傷性が得られる。
【0011】
本発明の難燃性樹脂組成物によって優れた柔軟性が得られるのは、本発明の難燃性樹脂組成物が、樹脂として、非酸変性スチレン系エラストマを含むことに起因するものと考えられる。またこのように優れた柔軟性を有する樹脂を使用しているにもかかわらず、優れた耐外傷性が得られる理由については定かでないが、本発明者は、金属水酸化物粒子および包囲樹脂のそれぞれと、β−カルボキシアクリル酸アルキルとの間でイオン的な分子間相互作用が強まることや、耐外傷性を向上させる作用を有するマレイン酸変性SEBSが含まれていることで、包囲樹脂として、柔軟性に優れた樹脂が使用されていても、難燃性樹脂組成物の耐外傷性が高まるのではないかと推測している。
【0012】
なお、金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸アルキルが非酸変性スチレン系エラストマ100質量部に対して合計で35質量部未満の割合で含まれていると、その難燃性樹脂組成物の難燃性が著しく低下する。一方、金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸アルキルが非酸変性スチレン系エラストマ100質量部に対して合計で60質量部を超える割合で含まれていると、その難燃性樹脂組成物の耐外傷性が顕著に低下し、柔軟性も低下する。さらに、マレイン酸変性SEBSが非酸変性スチレン系エラストマ100質量部に対して0.5質量部未満の割合で含まれていると、耐外傷性が顕著に低下する。一方、マレイン酸変性SEBSが非酸変性スチレン系エラストマ100質量部に対して5質量部を超える割合で含まれていると、流動性が低下し、押出加工等の加工性が悪くなる。
【0013】
上記非酸変性スチレン系エラストマは、70以下のデュロメータ硬度A及び2.0N/mm以上のヤング率を有するスチレン系エラストマを含むことが好ましい。
【0014】
このような特性を有するスチレン系エラストマは、強靭で十分な柔軟性を有するため、上記スチレン系エラストマを含む非酸変性スチレン系エラストマを含有する難燃性樹脂組成物は、より優れた柔軟性を持ち、強靱なものとなる。
【0015】
また本発明は、導体と、前記導体を被覆する被覆層とを備えており、前記被覆層が、上述した難燃性樹脂組成物で構成される被覆電線である。また本発明は、導体と、前記導体を被覆する被覆層とを備えており、前記被覆層が、上述した難燃性樹脂組成物を架橋処理してなる被覆電線であってもよい。
【0016】
これらの被覆電線は、被覆層が上記難燃性樹脂組成物またはそれを架橋処理したもので構成されているので、優れた柔軟性及び耐外傷性を得ることができる。
【0017】
また本発明のケーブルは、複数本の被覆電線と、前記複数本の被覆電線を一体化する一体化材とを備えており、前記一体化材が、上記難燃性樹脂組成物又はこれを架橋処理したもので構成されることを特徴とする。
【0018】
このケーブルは、一体化材が上記難燃性樹脂組成物またはそれを架橋処理したもので構成されているので、優れた柔軟性及び耐外傷性を得ることができる。
【0019】
本発明において、「デュロメータ硬度A」とは、JIS K6253の硬さ試験に準拠し、タイプAのデュロメータ計を用いて測定された硬さ(15秒値)を意味する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた柔軟性及び耐外傷性を得ることができる難燃性樹脂組成物、被覆電線及びケーブルが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図1を用いて詳細に説明する。
【0022】
(被覆電線)
図1は、本発明に係る被覆電線の一実施形態を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の被覆電線10は、導体1と、導体1を被覆する被覆層2とを備えている。被覆層2は、難燃性樹脂組成物を架橋処理してなるものである。上記難燃性樹脂組成物は、酸変性されていない非酸変性スチレン系エラストマと、金属水酸化物粒子と、金属水酸化物粒子の表面に付着するβ−カルボキシアクリル酸アルキルと、マレイン酸変性SEBSとを含有する。そして、上記非酸性スチレン系エラストマ100質量部に対して、金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸アルキルが合計で35〜60質量部、マレイン酸変性SEBSが0.5〜5質量部の割合で含まれている。
【0023】
ここで、上記難燃性樹脂組成物は、優れた柔軟性及び耐外傷性を有する。特に柔軟性については、デュロメータ硬度Aを75以下となる程度まで向上させることができる。このため、上記難燃性樹脂組成物を架橋処理してなる被覆層2を備えた被覆電線によれば、優れた柔軟性、および、優れた耐外傷性を得ることができる。従って、被覆電線10を狭所に施工することが容易になるとともに、擦れによる傷つきや白化の問題を解消することもできる。
【0024】
上述した被覆電線10は以下のようにして製造される。
【0025】
(導体)
まず導体1を準備する。導体1は、1本の素線のみで構成されてもよく、複数本の素線を束ねて構成されたものであってもよい。また、導体1は、導体径や導体の材質などについて特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜定めることができる。
【0026】
(難燃性樹脂組成物)
一方、上記難燃性樹脂組成物を準備する。難燃性樹脂組成物は、上述したように、非酸変性スチレン系エラストマと、金属水酸化物粒子と、金属水酸化物粒子の表面に付着するβ−カルボキシアクリル酸アルキルと、マレイン酸変性SEBSとを含有する。
【0027】
(非酸変性スチレン系エラストマ)
非酸変性スチレン系エラストマは、酸変性されていないものであれば特に限定されない。このような非酸変性スチレン系エラストマは、例えば、70以下のデュロメータ硬度A及び2.0N/mm以上のヤング率を有するスチレン系エラストマや、ヤング率1.0N/mm以下のSEBS、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0028】
ここで、非酸変性スチレン系エラストマは、70以下のデュロメータ硬度A及び2.0N/mm以上のヤング率を有するスチレン系エラストマを含むことが好ましい。このような特性を有するスチレン系エラストマは、強靭で十分な柔軟性を有するため、上記スチレン系エラストマを含む非酸変性スチレン系エラストマを含有する難燃性樹脂組成物は、より優れた柔軟性を持ち、強靱なものとなる。なお、非酸変性スチレン系エラストマのうち、70以下のデュロメータ硬度A及び2.0N/mm以上のヤング率を有するスチレン系エラストマの含有率は、65〜80質量%であることが好ましい。70以下のデュロメータ硬度A及び2.0N/mm以上のヤング率を有するスチレン系エラストマとしては、例えば、旭化成社製のL.O.E.(登録商標)−SS(L605)(ヤング率:2.9N(0.3kg)/mm、デュロメータ硬度A:67)が挙げられる。
【0029】
非酸変性スチレン系エラストマは、上記70以下のデュロメータ硬度A及び2.0N/mm以上のヤング率を有するスチレン系エラストマのほかに、ヤング率1.0N/mm以下のSEBSをも含むことがより好ましい。ヤング率1.0N/mm以下のSEBSは、70以下のデュロメータ硬度A及び2.0N/mm以上のヤング率を有するスチレン系エラストマよりも優れた柔軟性を有するため、難燃性樹脂組成物の柔軟性をより向上させることができる。このようなヤング率を有するSEBSとしては、70以下のデュロメータ硬度A及び2.0N/mm以上のヤング率を有するスチレン系エラストマに対して相溶性を有するものが好ましく、例えば旭化成社製のタフテック(登録商標)H1221、同1272、JSR社製のダイナロン(登録商標)1320Pなどが挙げられる。なお、非酸変性スチレン系エラストマのうち、ヤング率1.0N/mm以下のSEBSの含有率は、20〜35質量%であることが好ましい。
【0030】
(金属水酸化物粒子)
金属水酸化物粒子は金属水酸化物からなるものであり、金属水酸化物としては、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどが例示できる。中でも、水酸化マグネシウムが好ましい。これは、β-カルボキシアクリル酸アルキルとのイオン的な分子間相互作用をより強めることができ、耐外傷性をより向上させることができるためである。
【0031】
(β−カルボキシアクリル酸アルキル)
β−カルボキシアクリル酸アルキルとしては、β−カルボキシアクリル酸メチル、β−カルボキシアクリル酸エチル、β−カルボキシアクリル酸プロピルなどが例示できる。中でも、β−カルボキシアクリル酸エチルが最も好ましい。
【0032】
金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸アルキルは、非酸変性スチレン系エラストマ100質量部に対して合計で40〜55質量部の割合で含まれることが、難燃性及び耐外傷性をより向上させることから好ましい。
【0033】
金属水酸化物粒子の表面にβ-カルボキシアクリル酸アルキルを付着させる方法としては、例えば金属水酸化物粒子をβ−カルボキシアクリル酸アルキルで表面処理する方法が挙げられる。このような表面処理法には湿式法及び乾式法がある。
【0034】
湿式法としては、例えばエチル(メチル)アルコール又は酢酸ブチル中に分散させた金属水酸化物粒子中に、β―カルボキシアクリル酸エチルを添加し、ヘンシェルミキサなどを用いて撹拌処理を行い、その後60〜80℃にて乾燥し粉砕する方法が挙げられる。別の湿式法としては、水に対して、ポリエステル系分散剤(例えばルーブリゾール社製SOLPLUS27000)などの分散剤を添加した分散液中に、β―カルボキシアクリル酸アルキルを添加し、ヘンシェルミキサなどを用いて撹拌処理を行った後、60〜80℃にて乾燥し粉砕する方法を用いることもできる。このとき、上記分散液としては、例えば水100質量部に対して分散剤を1〜10質量部添加したものが用いられる。
【0035】
乾式法としては、β−カルボキシアクリル酸アルキルを原液のままスプレーなどにより金属水酸化物粒子に吹き付けた後、粉砕する方法が挙げられる。別の乾式法としては、ニーダやバンバリなどのバッチ式混練機で上記非酸変性スチレン系エラストマ、マレイン酸変性SEBS及び金属水酸化物粒子を混練する際に、液状添加物としてβ−カルボキシアクリル酸アルキルを同時に添加し、混練する方法などを用いることもできる。
【0036】
ここで、β−カルボキシアクリル酸アルキルは、金属水酸化物粒子100質量部に対して0.5〜5質量部の割合で含まれることが、より優れた柔軟性及び耐外傷性が得られるため好ましく、2〜4質量部の割合で含まれることがさらに好ましい。
【0037】
(マレイン酸変性SEBS)
マレイン酸変性SEBSは、難燃性樹脂組成物の耐外傷性を向上させるためのものであり、マレイン酸変性SEBSとしては、例えば旭化成社製のタフテック(登録商標)M1943などを用いることができる。
【0038】
マレイン酸変性SEBSは、非酸変性スチレン系エラストマ100質量部に対して0.5〜5質量部の割合で含まれていればよいが、非酸変性スチレン系エラストマ100質量部に対して2〜4質量部の割合で含まれていることが好ましい。
【0039】
(プロセスオイル)
上記難燃性樹脂組成物は、必要に応じてプロセスオイルを含んでいてもよい。プロセスオイルは、難燃性樹脂組成物の柔軟性を向上させるものであるが、非酸変性スチレン系エラストマ100質量部に対して、15質量部以下の割合で含まれていることが好ましい。これにより、難燃性樹脂組成物の難燃性、耐外傷性を損なうことなく柔軟化することができる。プロセスオイルとしては、非酸変性スチレン系エラストマとの相溶性の良いものが好適であり、例えばパラフィン系オイル、ナフテン系オイルなどの炭化水素系オイルを用いることができる。より具体的には、プロセスオイルとして、日本サン石油社製のサンパー2280(パラフィン系オイル)が挙げられる。
【0040】
上記難燃性樹脂組成物は、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線劣化防止剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤などの充填剤を含んでもよい。
【0041】
上記難燃性樹脂組成物は、前述した各材料を混練機により混練することによって得ることができる。混練機としては、例えばバンバリーミキサ、ニーダ、ミキシングロール、押出混練機(一軸又は二軸)などを用いることができる。混練温度は、160〜230℃程度であることが好ましい。
【0042】
次に、上記難燃性樹脂組成物で導体1を被覆する。難燃性樹脂組成物の被覆は、例えば難燃性樹脂組成物を押出成形によりチューブ状に押し出して導体1の表面に密着させたり、上記難燃性樹脂組成物を収容したダイスに導体1を通したりすることによって行うことができる。
【0043】
次に、難燃性樹脂組成物を架橋処理する。この架橋処理により、耐薬品性及び耐熱性に優れた被覆層2が得られる。架橋処理は、例えば難燃性樹脂組成物に電子線を照射したり、難燃性樹脂組成物中の樹脂を熱硬化させることなどにより行うことができる。但し、樹脂を熱硬化させる場合には、上記難燃性樹脂組成物に予め、パーオキサイド等の有機過酸化物を含有させることが好ましい。
【0044】
こうして被覆電線10が得られる。架橋処理を電子線照射により行う場合、電子線照射量は、非酸変性スチレン系エラストマ及びマレイン酸変性SEBSが架橋される量であれば特に限定されず、例えば5〜150kGyであればよい。
【0045】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、被覆層2は、難燃性樹脂組成物を架橋処理することによって得られているが、難燃性樹脂組成物に対して架橋処理は必ずしも必要ではなく、導体1上に難燃性樹脂組成物を被覆した状態で耐薬品性および耐熱性が十分に高いならば、難燃性樹脂組成物に対して架橋処理は行わなくてもよい。
【0046】
また上記実施形態では、上記難燃性樹脂組成物又はそれを架橋処理したものが被覆電線10の被覆層2として用いられているが、上記難燃性樹脂組成物又はそれを架橋処理したものは、複数の被覆電線と、これらを一体化する一体化材とを備えたケーブルの一体化材として用いることも可能である。このケーブルは、一体化材が上記難燃性樹脂組成物またはそれを架橋処理したもので構成されているので、優れた柔軟性及び耐外傷性を得ることができる。ここで、被覆電線は、上記難燃性樹脂組成物又はそれを架橋処理したものが被覆電線10の被覆層2として用いられている被覆電線10であってもよく、被覆電線10でなくてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1〜10及び比較例1〜6)
下記表1及び表2に示す(A−1)〜(A−2)、(B−1)〜(B−6)、(C)及び(D)の各材料を、下記表1及び表2に示す配合比で配合し、バンバリーミキサによって180℃で4分間溶融混練し、得られた混練物をプレス装置によりシート状に成形し、厚さ1mmのシート試験片を得た。
【0049】
こうして得られた実施例1〜10及び比較例1〜6のシート試験片について、引張試験、硬度の測定、燃焼試験、耐外傷性の評価を以下の通り行った。結果を表1及び表2に示す。
【0050】
(引張試験)
JIS C 3005に準じて引張強度及び破断伸びを測定した。引張強度は10MPa以上であれば「良好」と判断され、破断伸びは350%以上であれば「良好」と判断される。
【0051】
(硬度の測定)
JIS K6253に準じた硬さ試験により、シート試験片についてデュロメータ硬度A(15秒値)を測定した。なお、デュロメータ硬度Aは、柔軟性の尺度となるものである。デュロメータ硬度Aは、75以下であれば「良好」と評価され、75を超える場合は「不良」と評価される。
【0052】
(燃焼試験)
シート試験片について、UL94 HBに規定される水平性燃焼試験を行い、その合否により燃焼試験の合否を決定した。
【0053】
(耐外傷性の評価)
シート試験片の表面に、先端の曲率半径が0.5mmのダイヤモンド圧子を当て、200gの荷重を加えながら、移動速度100mm/minで移動させてシート試験片を傷つけ、そのときの白化の有無を肉眼で観察した。白化が見られたシート試験片は「合格」と評価し、白化が見られなかったシート試験片は「不合格」と評価した。
【0054】
なお、表1及び表2における(A−1)〜(A−2)、(B−1)〜(B−6)、(C)及び(D)の各材料としては、以下のものを用いた。
(A−1)非酸変性スチレン系エラストマ
商品名:旭化成社製のL.O.E.(登録商標)−SS(L605)(ヤング率:2.9N/mm(0.3kg/mm)、デュロメータ硬度A:67)
(A−2)非酸変性スチレン系エラストマ
商品名:JSR社製のダイナロン1320P(SEBS)
(B−1)水酸化マグネシウム
水酸化マグネシウム100質量部に対するβ−カルボキシアクリル酸エチルの添加量:0.5質量部
(B−2)水酸化マグネシウム
水酸化マグネシウム100質量部に対するβ−カルボキシアクリル酸エチルの添加量:1.0質量部
(B−3)水酸化マグネシウム
水酸化マグネシウム100質量部に対するβ−カルボキシアクリル酸エチルの添加量:3.0質量部
(B−4)水酸化マグネシウム
水酸化マグネシウム100質量部に対するβ−カルボキシアクリル酸エチルの添加量:5.0質量部
(B−5)水酸化マグネシウム
商品名:X−22−1894(水酸化マグネシウム100質量部に対するポリオルガノシロキサンの表面処理量:6質量部)
(B−6)水酸化マグネシウム
商品名:協和化学社製のキスマ5A
(C)マレイン酸変性SEBS
商品名:旭化成社製のタフテックM1943
(D)プロセスオイル
商品名:日本サン石油社製のサンパー2280(パラフィン系オイル)
【表1】

【表2】

【0055】
上記表1及び表2の結果より、実施例1〜10のシート試験片は、比較例1〜6のシート試験片に比べて、優れた柔軟性及び耐外傷性を有することが分かった。
【0056】
このことから、本発明の難燃性樹脂組成物によれば、優れた柔軟性及び耐外傷性を得ることができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の被覆電線の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1…導体、2…被覆層、10…被覆電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性されていない非酸変性スチレン系エラストマと、
金属水酸化物粒子と、
前記金属水酸化物粒子の表面に付着しているβ−カルボキシアクリル酸アルキルと、
マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン系エラストマとを含み、
前記非酸変性スチレン系エラストマ100質量部に対して、
前記金属水酸化物粒子及びβ−カルボキシアクリル酸アルキルが合計で35〜60質量部、
マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン系エラストマが0.5〜5質量部の割合で含まれていること、
を特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記非酸変性スチレン系エラストマが、70以下のデュロメータ硬度A及び2.0N/mm以上のヤング率を有するスチレン系エラストマを含むことを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
導体と、
前記導体を被覆する被覆層と、
を備えており、
前記被覆層が、請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物で構成されることを特徴とする被覆電線。
【請求項4】
導体と、
前記導体を被覆する被覆層と、
を備えており、
前記被覆層が、請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物を架橋処理してなることを特徴とする被覆電線。
【請求項5】
複数本の被覆電線と、
前記複数本の被覆電線を一体化する一体化材とを備えており、
前記一体化材が、請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物又はこれを架橋処理したもので構成されることを特徴とするケーブル。



【図1】
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【公開番号】特開2010−37499(P2010−37499A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204851(P2008−204851)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】