説明

難燃性樹脂組成物の製造方法

【課題】揮発性有機化合物の発生を抑制して変色を防止することを可能とした難燃性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】配合物を加圧ニーダで混練する。この混練は、製造温度140℃以上、製造時間10分間以上の設定で行うものとする。混練中は、真空吸引を行い、蒸気化して配合物から出てくる揮発性有機化合物を除去する。配合物をペレット形状にした後、空気置換を行う。この空気置換は、置換温度60℃以上、置換時間60分間以上の設定で行うものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化物質を含まない難燃性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有害なハロゲン系ガスが発生しない難燃性樹脂組成物としては、ベース樹脂をオレフィン系樹脂とし、このオレフィン系樹脂100重量部に対して、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の難燃剤を例えば50〜100重量部程度配合するとともに、酸化防止剤及び滑剤も配合してなるものが知られている。
【0003】
ところで、オレフィン系樹脂は、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)に侵されて変色することから、この変色を回避するため、特殊な酸化防止剤や光安定剤や紫外線吸収剤を使用する技術が提案されている(例えば、下記特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開2002−69316号公報
【特許文献2】特開2001−310972号公報
【特許文献3】特開2001−81250号公報
【特許文献4】特開平8−283473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に開示された酸化防止剤は、変色を抑制する抑制剤としてその効果が期待されるものの、変色を引き起こす全ての要因には対応することができないという問題点を有している。すなわち、フェニル基やカルボニル基等を持つ重合残渣に起因した変色には対応することができないという問題点を有している。
【0005】
フェニル基やカルボニル基等(ヒドロペルオキシド基も含む)を持つ化合物が金属と反応する。そして、この反応したものに対して窒素酸化物や硫黄酸化物が反応し易くなる。そしてさらに、窒素酸化物や硫黄酸化物が反応すると、この反応したものが変色を引き起こす。
【0006】
難燃性樹脂組成物は、難燃剤に水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等を使用するが、これに少量の金属分が含まれるため、この金属分がフェニル基やカルボニル基等を持つ化合物と反応してしまう。
【0007】
変色の一つの要因として、ポリマーの重合残渣で揮発性有機化合物でもあるフェニル基やカルボニル基等を持つ物質が関係することから、この要因を解消する策を講じることが必要である。尚、難燃剤に含まれる少量の金属分の除去は困難である。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、揮発性有機化合物の発生を抑制して変色を防止することを可能とした難燃性樹脂組成物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法は、オレフィン系樹脂と難燃剤と酸化防止剤とを含み、これらを配合してなる難燃性樹脂組成物の製造方法において、配合物を混練する製造温度と製造時間とを前記製造温度が140℃以上で前記製造時間が10分以上に制御しつつ混練中に真空吸引を行い、前記配合物をペレット形状にした後には置換温度と置換時間とを前記置換温度が60℃以上で前記置換時間が60分以上に制御しつつ空気置換を行うことを特徴としている。
【0010】
このような特徴を有する本発明によれば、フェニル基等を持つ揮発性有機化合物の除去に効果的な製造方法となり、製造後の難燃性樹脂組成物に含まれる揮発性有機化合物の量が少なくなる。揮発性有機化合物の量が少なくなることにより、難燃剤に含まれる少量の金属分との反応が抑制され、これに伴って窒素酸化物や硫黄酸化物との反応も抑制される。
【0011】
揮発性有機化合物を除去することができる原理としては、揮発性があるため、比較的低温でも圧力を低く(真空吸引)することで、蒸気圧を低くできるため、蒸気化して配合物から出てくる。これにより除去することができる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載された本発明によれば、変色し難い難燃性樹脂組成物の製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法の一実施の形態を示すフローチャートである。
【0014】
本発明は、温度と時間の制御、真空吸引、空気置換を行って難燃性樹脂組成物を製造する方法である。ベース樹脂となるポリマーはオレフィン系樹脂であり、例えば、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体)、ポリエチレン等を使用するものとする。このオレフィン系樹脂100重量部に対して、本形態では、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等の難燃剤を30〜200重量部、フェノール系の酸化防止剤を1重量部、滑剤を1重量部、などを例えば配合することにより、難燃性樹脂組成物を製造するようになっている。本発明は、製造の過程に特徴を有している。
【0015】
図1において、ポリマーを含む組成物中に残存する揮発性有機化合物及びフェニル基やカルボニル基等を持つ重合残渣を除去することを目的とした工程を含んで難燃性樹脂組成物は製造されるようになっている。製造後の難燃性樹脂組成物は、この組成物から発生する揮発性有機化合物が常温(23℃)で400μg/mh以下となるようになっている。
【0016】
製造工程に関して具体的に説明すると、(a)配合物を加圧ニーダで混練する。この混練は、製造温度140℃以上、製造時間10分間以上の設定で行うものとする。(b)混練中は、真空吸引を行い、蒸気化して配合物から出てくる揮発性有機化合物を除去する。(c)配合物をペレット形状にした後、空気置換を行う。この空気置換は、置換温度60℃以上、置換時間60分間以上の設定で行うものとする。尚、置換する空気は循環ではないものとする。
【0017】
難燃剤に含まれる少量の金属分の除去が困難であることから、本発明ではフェニル基等を持つ揮発性有機化合物の除去に重点を置いている。後述する実施例の説明から分かるようになるが、本発明によれば、製造後の難燃性樹脂組成物に含まれる揮発性有機化合物の量が従来と比べて格段に少なくなる。揮発性有機化合物の量が少なくなることによって、難燃剤に含まれる少量の金属分との反応が抑制され、これに伴って窒素酸化物や硫黄酸化物との反応も抑制される。従って、重合残渣に起因した変色が抑制される。
【実施例】
【0018】
以下、本発明に係る製造方法を採用してなる難燃性樹脂組成物と、本発明に係る製造方法とは異なる条件によりなる比較例とを比較しながら説明する。尚、本発明に係る製造方法を採用してなる実施例1〜3は表1を、比較例1〜6は表2を参照するものとする。
【0019】
実施例1の難燃性樹脂組成物は、ベース樹脂となるオレフィン系樹脂(具体的には、JPO製のA−1100)100重量部に対して、水酸化マグネシウム(具体的には、協和化学工業(株)製のキスマ5A)30重量部、酸化防止剤(具体的には、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガノックス1010)1重量部、滑剤(具体的には、ステアリン酸であって(株)ADEKA製のSA−200)1重量部配合したもので、この配合物を加圧ニーダーを用いて製造温度140℃、製造時間10分で混練するとともに、真空吸引を行いながら混練し、そして、配合物をペレット形状にした後には、置換温度60℃、置換時間60分で空気置換(清浄空気での置換。置換する空気は循環でない)することによりなるものである。
【0020】
実施例2の難燃性樹脂組成物は、ベース樹脂となるオレフィン系樹脂(上記のA−1100)100重量部に対して、水酸化マグネシウム(上記のキスマ5A)100重量部、酸化防止剤(上記のイルガノックス1010)1重量部、滑剤(上記のSA−200)1重量部配合したもので、この配合物を加圧ニーダーを用いて製造温度140℃、製造時間10分で混練するとともに、真空吸引を行いながら混練し、そして、配合物をペレット形状にした後には、置換温度60℃、置換時間60分で空気置換(清浄空気での置換。置換する空気は循環でない)することによりなるものである。実施例2は、実施例1に対して水酸化マグネシウムの配合量が異なっている。
【0021】
実施例3の難燃性樹脂組成物は、ベース樹脂となるオレフィン系樹脂(上記のA−1100)100重量部に対して、水酸化マグネシウム(上記のキスマ5A)200重量部、酸化防止剤(上記のイルガノックス1010)1重量部、滑剤(上記のSA−200)1重量部配合したもので、この配合物を加圧ニーダーを用いて製造温度140℃、製造時間10分で混練するとともに、真空吸引を行いながら混練し、そして、配合物をペレット形状にした後には、置換温度60℃、置換時間60分で空気置換(清浄空気での置換。置換する空気は循環でない)することによりなるものである。実施例3は、実施例1、2に対して水酸化マグネシウムの配合量が異なっている。
【0022】
これに対して比較例1の難燃性樹脂組成物は、ベース樹脂となるオレフィン系樹脂(上記のA−1100)100重量部に対して、水酸化マグネシウム(上記のキスマ5A)100重量部、酸化防止剤(上記のイルガノックス1010)1重量部、滑剤(上記のSA−200)1重量部配合したもので、この配合物を加圧ニーダーを用いて製造温度120℃、製造時間10分で混練するとともに、真空吸引を行いながら混練し、そして、配合物をペレット形状にした後には、置換温度60℃、置換時間60分で空気置換(清浄空気での置換。置換する空気は循環でない)することによりなるものである。比較例1は、実施例2に対して製造温度が異なっている。
【0023】
比較例2の難燃性樹脂組成物は、ベース樹脂となるオレフィン系樹脂(上記のA−1100)50重量部に対して、水酸化マグネシウム(上記のキスマ5A)200重量部、酸化防止剤(上記のイルガノックス1010)1重量部、滑剤(上記のSA−200)1重量部配合したもので、この配合物を加圧ニーダーを用いて製造温度140℃、製造時間10分で混練するとともに、真空吸引を行いながら混練し、そして、配合物をペレット形状にした後には、置換温度60℃、置換時間0分(一瞬の間)で空気置換(清浄空気での置換。置換する空気は循環でない)することによりなるものである。比較例2は、実施例3に対してオレフィン系樹脂の配合量と置換時間とが異なっている。
【0024】
比較例3の難燃性樹脂組成物は、ベース樹脂となるオレフィン系樹脂(上記のA−1100)50重量部に対して、水酸化マグネシウム(上記のキスマ5A)50重量部、酸化防止剤(上記のイルガノックス1010)1重量部、滑剤(上記のSA−200)1重量部配合したもので、この配合物を加圧ニーダーを用いて製造温度120℃、製造時間5分で混練するとともに、真空吸引を行いながら混練し、そして、配合物をペレット形状にした後には、置換温度60℃、置換時間0分(一瞬の間)で空気置換(清浄空気での置換。置換する空気は循環でない)することによりなるものである。比較例3は、実施例1〜3に対してオレフィン系樹脂の配合量、水酸化マグネシウムの配合量、製造温度、製造時間、及び置換時間が異なっている。
【0025】
比較例4の難燃性樹脂組成物は、ベース樹脂となるオレフィン系樹脂(上記のA−1100)100重量部に対して、水酸化マグネシウム(上記のキスマ5A)100重量部、酸化防止剤(上記のイルガノックス1010)1重量部、滑剤(上記のSA−200)1重量部配合したもので、この配合物を加圧ニーダーを用いて製造温度130℃、製造時間10分で混練するとともに、真空吸引を行いながら混練し、そして、配合物をペレット形状にした後には、置換温度60℃、置換時間60分で空気置換(清浄空気での置換。置換する空気は循環でない)することによりなるものである。比較例4は、実施例2に対して製造温度が異なっている。
【0026】
比較例5の難燃性樹脂組成物は、ベース樹脂となるオレフィン系樹脂(上記のA−1100)100重量部に対して、水酸化マグネシウム(上記のキスマ5A)100重量部、酸化防止剤(上記のイルガノックス1010)1重量部、滑剤(上記のSA−200)1重量部配合したもので、この配合物を加圧ニーダーを用いて製造温度140℃、製造時間10分で混練するとともに、真空吸引を行いながら混練し、そして、配合物をペレット形状にした後には、置換温度55℃、置換時間60分で空気置換(清浄空気での置換。置換する空気は循環でない)することによりなるものである。比較例5は、実施例2に対して置換温度が異なっている。
【0027】
比較例6の難燃性樹脂組成物は、ベース樹脂となるオレフィン系樹脂(上記のA−1100)100重量部に対して、水酸化マグネシウム(上記のキスマ5A)100重量部、酸化防止剤(上記のイルガノックス1010)1重量部、滑剤(上記のSA−200)1重量部配合したもので、この配合物を加圧ニーダーを用いて製造温度140℃、製造時間10分で混練するとともに、真空吸引を行いながら混練し、そして、配合物をペレット形状にした後には、置換温度60℃、置換時間55分で空気置換(清浄空気での置換。置換する空気は循環でない)することによりなるものである。比較例6は、実施例2に対して置換時間が異なっている。
【0028】
評価に関しては、揮発性有機化合物の評価と変色の評価とを行う。前者は、常温(23℃)の石英製チャンバーに試料(難燃性樹脂組成物)を投入し清浄空気で置換する。発生した揮発性有機化合物をTenaxGR捕集管で捕集したものを、GC−MSで定量する。判断基準は、揮発性有機化合物が400μg/mh以下となるかどうかである。後者は、硫酸雰囲気中(23℃常温)に白色の難燃性樹脂組成物を168時間放置し、標準光源下で目視により変色の有無を確認する。表中の記号は、○が変色無しの判定(合格)であり、△がやや変色有りの判定(不合格)、×が変色有りの判定(不合格)である。
【0029】
実施例1〜3、及び比較例1〜6は、揮発性有機化合物の量を確認する上でノイズとなることから、次の点を前提としている。すなわち、揮発性有機化合物を抑制するために、組成物中には可塑剤(フタル酸エステル類やパラフィンオイル類等)、リン及びリン化合物、シリコーン及びシリコーン化合物、低分子の酸化防止剤を使用しないことを前提とする(低分子の酸化防止剤において、特にBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)は変色の原因になり揮発性も高いことから使用しない)。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表1及び表2において、実施例1〜3は、揮発性有機化合物の発生量が少なく変色のない難燃性樹脂組成物であることが分かる。これに対して、比較例1〜6では揮発性有機化合物の発生量が多くなり変色も生じていることが分かる。実施例1〜3で採用している本発明に係る製造方法(製造温度140℃以上、製造時間10分間以上の設定で混練を行う。また、置換温度60℃以上、置換時間60分間以上の設定で空気置換を行う)が有効であることが分かる。
【0033】
比較例1の場合では、配合物を混練する際の製造温度が実施例1〜3と比べて20℃低い120℃であり、これが原因となって、揮発性有機化合物の発生量が400μg/mhを上回る600μg/mhと多くなり、結果、やや変色が生じてしまうと考えられる。
【0034】
比較例2の場合では、空気置換をする際の置換時間が無く(実施例1〜3は置換時間が60分。これに対して比較例2は0分)、これが原因となって、揮発性有機化合物の発生量が400μg/mhを2倍の量で上回る800μg/mhと多くなり、結果、やや変色が生じてしまうと考えられる。
【0035】
比較例3の場合では、配合物を混練する際の製造温度が実施例1〜3と比べて20℃低い120℃であり、また、製造時間も実施例1〜3と比べて半分の5分であり、さらに、空気置換をする際の置換時間が無く(実施例1〜3は置換時間が60分。これに対して比較例3は0分)、これらが原因となって、揮発性有機化合物の発生量が400μg/mhを大幅に上回る1500μg/mhと多く(4倍弱多く)なり、結果、変色が生じてしまうと考えられる。
【0036】
比較例4の場合では、配合物を混練する際の製造温度が実施例1〜3に比べて10℃低い130℃であり、これが原因となって、揮発性有機化合物の発生量が400μg/mhを上回る450μg/mhと多くなり、結果、やや変色が生じてしまうと考えられる。
【0037】
比較例5の場合では、空気置換をする際の置換温度が実施例1〜3に比べて5℃低い55℃であり、これが原因となって、揮発性有機化合物の発生量が400μg/mhを上回る430μg/mhと多くなり、結果、やや変色が生じてしまうと考えられる。
【0038】
比較例6の場合では、空気置換をする際の置換時間が実施例1〜3と比べて5分短い55分であり、これが原因となって、揮発性有機化合物の発生量が400μg/mhを上回る430μg/mhと多くなり、結果、やや変色が生じてしまうと考えられる。
【0039】
この他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法の一実施の形態を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂と難燃剤と酸化防止剤とを含み、これらを配合してなる難燃性樹脂組成物の製造方法において、
配合物を混練する製造温度と製造時間とを前記製造温度が140℃以上で前記製造時間が10分以上に制御しつつ混練中に真空吸引を行い、
前記配合物をペレット形状にした後には置換温度と置換時間とを前記置換温度が60℃以上で前記置換時間が60分以上に制御しつつ空気置換を行う
ことを特徴とする難燃性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−13280(P2009−13280A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176265(P2007−176265)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】