説明

難燃性樹脂組成物及びそれからなる成形体

【課題】 難燃性樹脂組成物及びそれからなる繊維や薄物成形体を提供。
【解決手段】 下記の成分(A)〜(D)を含む難燃性樹脂組成物。 (A)ポリオレフィン系樹脂:91〜99.4質量% (B)特定の構造の芳香族リン酸エステル:0.2〜5質量% (C)トリアジン環を有するNOR型ヒンダードアミン系安定剤:0.2〜2質量%


[式中、R〜Rは、それぞれ水素原子又はトリアジン環を介して2ヶのNOR型ヒンダードアミンを結合した基を表わす。] (D)無機系難燃剤:0.2〜2質量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物及びそれからなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂は、化学的、機械的特性に優れ、建材、自動車部品、包装用資材、農業用資材、家電製品のハウジング材、玩具等に広く使用されている。しかし、ポリオレフィン樹脂は可燃性物質であり、用途によっては難燃化が不可欠である。難燃化の方法としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、金属水酸化物や窒素化合物を単独で又は組み合わせて使用することが広く知られている。
【0003】
近年、燃焼時に有毒なガスを発生するハロゲン系難燃剤を使用することなく、優れた難燃性を有する非ハロゲン系の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物が求められている。
【0004】
非ハロゲン系の難燃性ポリオレフィン樹脂組成物について、フィルム、シート、パイプ、容器、電線、ケーブル等の成形品の用途では、例えば、ポリオレフィン系樹脂に難燃剤と赤リンとが配合された架橋性難燃組成物が開示されている(特許文献1参照)。この文献では難燃剤として、リン系難燃剤、無機系難燃剤等の添加型難燃剤が挙げられている。
【0005】
しかし、これらの難燃剤を使用した樹脂材料は、難燃剤が極めて高濃度で配合されているため、厚手のシートや各種の成形品に用いる場合は問題ないが、繊維用途や薄層フィルムに用いる場合には、物性的に低強度の繊維やフィルムしか得られなかった。また、製糸及び製膜時の安定性も問題となった。さらに、繊維や、フィルム等の薄物成形品の厚み(0.3mm未満)になると、難燃性が著しく低下する問題があった。
【0006】
一方、耐光安定剤として知られているヒンダードアミン化合物のうち、特にNOR型ヒンダードアミン化合物が、添加剤配合量程度で難燃性能を示すことが開示されている(特許文献2参照)。NOR型ヒンダードアミン化合物は多様な樹脂材料に添加でき、配合量が添加剤程度であるので製糸及び製膜時の安定性は問題ない。しかし、難燃性能は必ずしも十分とはいえない。
【0007】
また、難燃性を改善するため、NOR型ヒンダードアミン化合物とリン酸エステル系難燃剤との併用(添加剤配合量程度)も提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、難燃性は十分ではなかった。
【特許文献1】特開平7−102128号公報
【特許文献2】国際公開第WO99/00450パンフレット
【特許文献3】特開2001−348724号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、繊維や薄物成形体であっても、高い難燃性を有する成形品が得られる難燃性樹脂組成物及びそれからなる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究したところ、ポリオレフィン、NOR型ヒンダードアミン化合物及びリン酸エステルからなる難燃性樹脂組成物に、無機系難燃剤を少量添加することにより、繊維や薄物成形体の難燃性を向上できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、以下の難燃性樹脂組成物等が提供される。
1.下記の成分(A)〜(D)を含む難燃性樹脂組成物。
(A)ポリオレフィン系樹脂:91〜99.4質量%
(B)下記式(1)又は(2)で表されるリン酸エステル:0.2〜5質量%
【化4】


(式中、Meはメチル基である。)
(C)下記式(3)で表されるNOR型ヒンダードアミン系安定剤:0.2〜2質量%
【化5】

[式中、R〜Rは、それぞれ水素原子又は下記式(4)の基を表す。ただし、R〜Rのうち少なくとも1つは式(4)の基である。
【化6】

(式中、Rは、炭素数1〜17のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、フェニル基又は炭素数7〜15のフェニルアルキル基を表し、R、R、R及びRは、それぞれ炭素数1〜4からなるアルキル基を表す。R10は水素原子、又は炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖のあるアルキル基を表す。)]
(D)無機系難燃剤:0.2〜2質量%
2.前記(D)無機系難燃剤が、ハイドロタルサイト、ドロマイト系化合物及び錫酸亜鉛の中から選ばれる少なくとも1種の化合物である1記載の難燃性樹脂組成物。
3.1又は2記載の難燃性樹脂組成物からなる、厚み0.3mm未満の薄物成形体。
4.1又は2記載の難燃性樹脂組成物からなる繊維。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、難燃性を向上させた、ポリオレフィン、NOR型ヒンダードアミン化合物、リン酸エステル系難燃剤及び無機系難燃剤からなる難燃性樹脂組成物及び薄物成形体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の難燃性樹脂組成物の各成分について説明する。
(A)ポリオレフィン系樹脂
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂及びオレフィン系合成ゴム等が挙げられる。
【0012】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体(ポリプロピレン)、プロピレンを主成分とする共重合体が挙げられる。この共重合体としては、例えば、プロピレン/α−オレフィン共重合体が挙げられ、α−オレフィンとして、例えば、エチレン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−ブテン、1−ペンテン等が挙げられる。
ポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレン等が挙げられる。
オレフィン系合成ゴムとしては、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−1−ブテンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム等が挙げられる。
この中で、延伸効果に優れるプロピレン単独重合体、低密度ポリエチレンが好ましい。
【0013】
また、ポリオレフィン系樹脂のメルトインデックス(MI)は、高いほうがより難燃性が高くなる。
具体的には、温度230℃、荷重2.16kg/10分におけるMIが3g/10分以上であるのが好ましく、10g/10分以上であるのがより好ましい。
ただし、MIが20g/10分を超えるとフィルムの成形が困難となる恐れがあり、またMIが50g/10分を超えると繊維の成形は可能であるが、低強度の繊維しか得られない恐れがある。
【0014】
成分(A)〜(D)の合計質量に占める(A)成分の配合量は、後述する(B)〜(D)成分の配合量との関連から、91〜99.4質量%、好ましくは94.4〜99.1質量%、特に好ましくは95.2〜98.5質量%である。
【0015】
(B)リン酸エステル
リン酸エステルとして、下記式(1)又は式(2)で表されるリン酸エステルが用いられる。
【化7】

(式中、Meはメチル基である。)
【0016】
成分(A)〜(D)の合計質量に占めるリン酸エステルの配合量は、0.2〜5質量%である。0.2質量%未満では、難燃性が低下する。5質量%を超えると、難燃性が向上せず、リン酸エステルがブリードする。好ましくは、0.3〜2質量%である。さらに好ましくは、0.5〜1.8質量%である。
【0017】
(C)NOR型ヒンダードアミン系安定剤
NOR型ヒンダードアミン系安定剤として、下記式(3)で表される化合物が用いられる。
【化8】

[式中、R〜Rは、それぞれ水素原子又は下記式(4)で表される基を表す。ただし、R〜Rのうち少なくとも1つが、式(4)で表される基である。
【化9】

(式中、Rは、炭素数1〜17のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、フェニル基又は炭素数7〜15のフェニルアルキル基を表し、R、R、R及びRは、それぞれ炭素数1〜4からなるアルキル基を表し、R10は水素原子、又は炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖のあるアルキル基を表す。)]
【0018】
である炭素数1〜17のアルキル基のうち、メチル基、オクチル基が好ましい。
また、炭素数5〜10のシクロアルキル基のうち、シクロヘキシル基が好ましい。
また、フェニル基又は炭素数7〜15のフェニルアルキル基のうち、フェニル基が好ましい。
【0019】
〜Rである炭素数1〜4からなるアルキル基うち、メチル基が好ましい。
10である炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基のうち、n−ブチル基が好ましい。
【0020】
式(3)で表される化合物において、式(3)中のR、R、及びRが式(4)の基であるもの、又はR、R、及びRが式(4)の基であるものが望ましい。
具体的には、N,N’,N”−トリス[2,4−ビス{(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ}−sym−トリアジン−6−イル]−3,3’−エチレンジイミノジプロピルアミン、N,N’,N”−トリス[2,4−ビス{(1−オクチルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ}−sym−トリアジン−6−イル]−3,3’−エチレンジイミノジプロピルアミン、N,N’,N”−トリス[2,4−ビス{(1−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルアミノ]−sym−トリアジン−6−イル}−3,3’−エチレンジイミノジプロピルアミン等を例示することができる。
【0021】
本発明の難燃性樹脂組成物に用いられるNOR型ヒンダードアミン系安定剤は、上記のNOR型ヒンダードアミン系安定剤のいずれか1種を用いても、2種以上を混合体として用いても良い。
【0022】
成分(A)〜(D)の合計質量に占めるNOR型ヒンダードアミン系安定剤の配合量は、0.2〜2質量%である。0.2質量%未満では、難燃性が低下する恐れがある。2質量%を超えると、難燃性はあまり向上せず、ブリードする恐れがある。NOR型ヒンダードアミン系安定剤の配合量は、0.3〜1.8質量%が好ましく、0.5〜1.5質量%がさらに好ましい。
【0023】
(D)無機系難燃剤
無機系難燃剤として、以下の無機化合物が挙げられる。
(i)シリカ(二酸化ケイ素)、合成非晶質シリカ(二酸化ケイ素)、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、ケイ藻土等のケイ素化合物
(ii)水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ジルコニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、ヒドロキシスズ酸亜鉛、酸化スズ水和物、ホウ砂等の金属水酸化物
(iii)酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、酸化アンチモン、ジルコニウム−アンチモン複合酸化物等の金属酸化物
(iv)炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム−カルシウム等の金属炭酸塩化合物
(v)硫酸アルミニウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩化合物
(vi)ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム等のホウ酸化合物
(vii)錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛等の錫酸化合物
(viii)アルミナ水和物、ゼオライト、セピオライト、ハイドロタルサイト、ヒドロキシアパタイト、ケイ藻土等の無機系化合物複合体
【0024】
この中で、ハイドロタルサイト、ドロマイト系化合物及び錫酸亜鉛が好ましい。
【0025】
ハイドロタルサイトは、マグネシウム及びアルミニウムからなる化合物である。例えば、下記式(5)で表される化合物を挙げることができる。
Mg1−XAl(OH)(Aq−X/q・aHO (5)
(式中、qは1又は2であり、Aq−は(CO2−又は(ClOであり、X及びaはそれぞれ0<X≦0.5、0<a≦1を満足する実数である。)
【0026】
ハイドロタルサイトの代表例としては、下記の化合物が挙げられる。
Mg0.750Al0.250(OH)(CO0.125・0.5H
Mg0.692Al0.308(OH)(CO0.154・0.1H
Mg0.683Al0.317(OH)(CO0.159・0.5H
Mg0.667Al0.333(OH)(CO0.167・0.1H
Mg0.750Al0.250(OH)(ClO0.250・0.5H
Mg0.692Al0.308(OH)(ClO0.308・0.1H
Mg0.667Al0.333(OH)(ClO0.333・0.1H
ハイドロタルサイトは、市販されているものが使用できる。
【0027】
ドロマイト系化合物は工業的に幅広く、大量に産出されている無機化合物であり、製鋼から陶器、建材、農業等極めて幅広い産業で使用されているため、安定な品質で、安易かつ安価に入手可能なものである。
【0028】
無機系難燃剤として用いられるドロマイト系化合物は、特別の制限はない。例えば、天然に広く産出し、壁材料、製鉄用耐火物等に用いられている天然ドロマイトを用いることができる。また、ドロマイト系化合物として、その化学組成が炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムとの複塩からなる合成ドロマイトを用いることもできる。さらに、天然ドロマイトと合成ドロマイトを、それぞれ1種又は2種以上ずつを混合したものを用いることもできる。
【0029】
本発明で用いられる天然ドロマイト及び/又は合成ドロマイトの組成は、カルシウムとマグネシウムがある比率で混在していればよく、そのカルシウムとマグネシウムの重量比率はCaO対MgO換算で5対95〜95対5であることが好ましい。この比率範囲を外れた天然ドロマイト及び/又は合成ドロマイトを用いた場合には、十分な難燃性が得られない恐れがある。
【0030】
また、本発明では、これらの天然ドロマイト及び/又は合成ドロマイトについて焼成、消和等を行い、金属元素組成を大きく変更させることなく変成したドロマイトの誘導体を用いることもできる。その具体例としては、ドロマイトを700〜800℃で加熱して得られるドロマイトセメント、900〜1000℃で加熱して得られる軽焼ドロマイト、さらに1600〜1800℃の高温で硬焼した死焼ドロマイト、軽焼ドロマイトに水を加えて消化した苦土消石灰、合成マグドロクリンカー等が挙げられる。
【0031】
さらに、アケルマナイト(CaMgSi)や透輝石〔CaMg(SiO〕、各種スラグのように、カルシウムとマグネシウムの比率が前記の合成ドロマイトと同じ範囲にある天然鉱物や合成の複塩を同様に変成した誘導体も用いることができる。さらに、これらの任意の混合物であってもよい。
【0032】
無機系難燃剤として用いられる錫酸亜鉛は、特別の制限はなく、市販品を使用することができる。
【0033】
無機系難燃剤の平均粒子径(D50)は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。
尚、平均粒子径(D50)は、メジアン径ともいい、累積50%に相当する粒子径の値である。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂との相溶性、分散性等を向上させるために、無機系難燃剤を表面処理剤で表面処理したものを使用することができる。表面処理剤としては、有機酸及び有機酸金属塩が挙げられる。これらの化合物は各々単独で用いてもよく、任意の混合物として用いてもよい。
【0035】
成分(A)〜(D)の合計質量に占める無機系難燃剤の配合量は、0.2〜2質量%である。0.2質量%未満では、難燃性が低下する恐れがある。2質量%を超えると、難燃性が低下する恐れがあり、また、薄物成形品に成形する時に外観不良、成形困難(特に繊維に成形する場合)の原因となる恐れがある。無機系難燃剤の配合量は、好ましくは、0.3〜1.8質量%であり、さらに好ましくは、0.5〜1.5質量%である。
【0036】
本発明の難燃性樹脂組成物は、上記の(A)〜(D)成分の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて従来公知の添加剤、その他配合物を添加又は配合することができる。
例えば、酸化防止剤として、リン系化合物、フェノール系化合物、イオウ系化合物等を用いることができる。
【0037】
耐候剤として、ベンゾフェノン系化合物、サリチレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等を用いることができる。
帯電防止剤として、アニオン系帯電防止剤、カチオン系帯電防止剤、ノニオン系帯電防止剤、両性系帯電防止剤等を用いることができる。
滑剤として、脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、炭化水素系化合物等と用いることができる。
【0038】
核剤として、金属塩系化合物、ソルビトール系化合物等を用いることができる。
充填剤として、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラス繊維、マイカ、ワラストナイト等を用いることができる。
その他の添加剤として、金属不活性化剤、着色剤、ブルーミング防止剤、表面処理剤等を用いることができる。
【0039】
本発明の難燃性樹脂組成物は、上記の(A)〜(D)成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速攪拌機、単軸又は二軸の連続混練機、バンバリーミキサー、ロールミキサー等を、単独で又は組み合わせて用いる方法が採用できる。
【0040】
上記で製造した難燃性樹脂組成物を成形することにより、繊維や、フィルム状等の薄物成形品を製造することができる。成形方法は、製造する薄物成形品の形状に応じて適宜選択することができる。
例えば、フィルム状に成形する場合は、本発明の難燃性樹脂組成物を一般に用いられるインフレーション、Tダイ法等により均一にフィルム状に押出して、通常のチルロールで冷却した後、巻き取ることによりフィルムを成形することができる。フィルムは1軸、2軸延伸しても良い。又は、簡易的に熱プレスによりフィルムを成形することもできる。
【0041】
繊維状に成形する場合は、本発明の難燃性樹脂組成物を公知の溶融紡糸方法により繊維化して得ることができる。モノフィラメントを一例にして以下に説明すると、モノフィラメント成形ダイスを用い、溶融押出し、次いで冷却固化した後、所定温度で延伸し、弛緩熱処理を施してモノフィラメントを形成することができる。延伸方法は一段延伸又は二段延伸以上の多段延伸が可能である。
【0042】
本発明の難燃性樹脂組成物からなる薄物成形体は、厚さが0.3mm未満の薄物であっても優れた難燃性を有する。また、繊維に加工しても十分な難燃性を付与できる。
また、十分な強度を有し、さらに燃焼時に有毒ガスを発生しない。
尚、薄物成形体には、フィルム(シート)状、チューブ状等、各種形態を含む。
【実施例】
【0043】
実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。
尚、下記の実施例及び比較例に用いた物質は、下記の通りである。
(A)ポリオレフィン系樹脂
ポリプロピレン(プライムポリマー株式会社製、F−300SP、ホモポリプロピレン、MI=3(g/10分))
(B)リン酸エステル
(i)式(1)で示される1,3−フェニレンビス(2,6−ジメチルフェニルホスフェート)(旭電化工業株式会社製、FP−500)
(ii)式(2)で示されるビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(旭電化工業株式会社製、FP−600)
(C)NOR型ヒンダードアミン系安定剤
チバ・スペシャルティー・ケミカルズ株式会社製、FlameStab NOR116FF
(D)成分
(i)ハイドロタルサイト(協和化学工業株式会社製、DHT−4A)
(ii)ドロマイト系化合物(三共有機合成株式会社製、MC−100B)
(iii)錫酸亜鉛(水澤化学株式会社製、ALCANEX ZHS)
その他成分
(i)レゾルシノールジホスフェートオリゴマー(アクゾ・ノーベル株式会社製、Fyrolflex RDP)
(ii)トリフェニルホスフェート(味の素ファインテクノ株式会社製、レオフォスTPP)
【0044】
実施例1
(1)予備混合
表1に示す配合組成となるように、成分(A)〜(D)を配合し、これらの合計量100重量部に対して、0.2重量部のグリセリンモノステアレート(ライオン(株)製、GS95P)、0.2重量部のトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(旭電化工業(株)製、MARK2112)、0.1重量部のペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(旭電化工業(株)製、AO−60)を配合し、ヘンシェルミキサー又はタンブラーで予備混合した。
【0045】
(2)溶融混練
得られた予備混合物を、二軸混練機(池貝鉄鋼(株)製、PCM45)を用いて、以下の条件にて溶融混練して組成物を製造し、ストランドカットを用いてペレット化した。
混練温度 :210〜230℃
スクリュー回転数:150rpm
メッシュ :40と60の組み合わせ
ベント :2箇所(常圧ベント一箇所、真空ベント一箇所)
吐出量 :40kg/h
【0046】
(3)フィルムの作製
得られた組成物ペレット3gを鏡面加工した300×300mmのアルミ板にはさみ、熱プレス機で230℃、30トンの条件で加圧し、厚み100μmのフィルムを得た。
【0047】
(4)繊維の作製
得られた組成物ペレットを、バレル径9.55mmのキャピラリーメーター(東洋精機製キャピログラフ1D)を用いて230℃で溶融し、内径1mm、長さ10mmのキャピラリーより、押出速度5mm/分、引取速度5m/分で紡糸し、巻き取り延伸を行うことで繊維(平均直径:0.25mm)を作製した。
【0048】
(5)難燃性評価
以下に示す方法で難燃性を評価した。結果を表1に示す。
(a)フィルムの酸素指数
JIS−K−7201−2に示されるV型試験片試験法に従って酸素指数試験を行った。
簡略に説明すると、指定のU字型保持具に試験片を挟み固定した後、各種酸素濃度の雰囲気下に置き、その上端に点火器を近づけ、着火後に連続燃焼する際の酸素濃度を求めた。酸素指数値は、燃焼時間が上部標線から3分以上継続して燃焼するか、又は燃焼長さが上部標線から80mm以上燃え続けるのに必要な酸素濃度である。
(b)繊維の酸素指数
JIS−L−1091に示された試験方法のE−1号試験片試験に従って酸素指数を測定した。
簡略に説明すると、直径0.8mmの針金を芯にして繊維を、こより状に密に巻き上げ、その長さを100mmにした後針金を抜き取る。各種酸素濃度の雰囲気下に置き、その上端に点火器を近づけ、着火後に連続燃焼する際の酸素濃度を求めた。酸素指数値は、燃焼時間が3分以上継続して燃焼するか、又は着火後の燃焼長さが50mm以上燃え続けるのに必要な酸素濃度である。
【0049】
実施例2〜4
(A)〜(D)成分の組成を、表1に示される通りにした以外は、実施例1と同様にして、フィルム及び繊維を得た。フィルム及び繊維について実施例1と同様に難燃性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
比較例1〜7
(A)〜(D)成分、及びその他成分の組成を、表2に示される通りにした以外は、実施例1と同様にして、フィルム及び繊維を得た。フィルム及び繊維について実施例1と同様に難燃性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
実施例1〜4は、各成分の配合量が本発明の範囲内である場合を、比較例1〜5は、成分(D)の配合量が本発明の範囲外の場合を、比較例6及び7は、成分(B)以外のリン酸エステルの場合を、それぞれ示したものである。
表1及び表2より、成分(D)の配合量が本発明の範囲外の場合に比較して、また、成分(B)が、本発明の範囲外のリン酸エステルの場合に比較して、本発明の範囲内である場合は、フィルム及び繊維ともに酸素指数が向上している。
【0054】
一般にオレフィン系樹脂は酸素指数が17〜18程度であり、通常の空気中の酸素濃度(酸素指数20〜21)と比較して低い酸素濃度で燃焼可能で、非常に燃えやすい材料といえる。
本発明の樹脂組成物の酸素指数値は25以上であり、通常の空気中の酸素濃度では燃焼しないことを示す。
【0055】
例えば、薄物のコルゲートチューブの酸素指数合格値は23.5以上である。本発明の樹脂組成物のコルゲートチューブ成形体に近いフィルム成形体の酸素指数値は25以上で合格している。しかし、比較例の従来技術では23であり不合格となる。
従って、本発明の樹脂組成物は、薄物成形体に成形したときに十分な難燃性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の難燃性樹脂組成物、薄物成形体、及び繊維は、ポリオレフィン繊維、ポリオレフィンフィルム及びポリオレフィンシートの分野、例えば、自動車用繊維、テント、キャンプ用品、壁材、日よけ、雨よけ、カーテン、ジュウタン、クッション、椅子、かけ布、建築用フィルム、養生シート、電材用部品、難燃テープ、コルゲートチューブ、チューブ、シース、電線被覆、光ファイバー用被覆材料、光ファイバーケーブル等として利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)〜(D)を含む難燃性樹脂組成物。
(A)ポリオレフィン系樹脂:91〜99.4質量%
(B)下記式(1)又は(2)で表されるリン酸エステル:0.2〜5質量%
【化1】

(式中、Meはメチル基である。)
(C)下記式(3)で表されるNOR型ヒンダードアミン系安定剤:0.2〜2質量%
【化2】

[式中、R〜Rは、それぞれ水素原子又は下記式(4)の基を表す。ただし、R〜Rのうち少なくとも1つは式(4)の基である。
【化3】

(式中、Rは、炭素数1〜17のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、フェニル基又は炭素数7〜15のフェニルアルキル基を表し、R、R、R及びRは、それぞれ炭素数1〜4からなるアルキル基を表す。R10は水素原子、又は炭素数1〜12の直鎖もしくは分岐鎖のあるアルキル基を表す。)]
(D)無機系難燃剤:0.2〜2質量%
【請求項2】
前記(D)無機系難燃剤が、ハイドロタルサイト、ドロマイト系化合物及び錫酸亜鉛の中から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物からなる、厚み0.3mm未満の薄物成形体。
【請求項4】
請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物からなる繊維。


【公開番号】特開2007−56150(P2007−56150A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243911(P2005−243911)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000104364)カルプ工業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】