説明

難燃性熱可塑性樹脂組成物

【課題】難燃性、耐衝撃性、光沢性および耐傷付き性が優れた塩素化合物および臭素化合物を含有しない難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)50〜90重量%、芳香族ポリエステル(B)45〜5重量%、およびビニル系単量体またはビニル系単量体混合物をゴム質重合体(イ)にグラフト共重合せしめてなるグラフト共重合体(a)を含むゴム強化樹脂(C)5〜45重量%からなる樹脂組成物((A)+(B)+(C))100重量部に対し、フッ素系樹脂(D)0.01〜5重量部、下記一般式(I)


で示されるリン酸エステル化合物(E)1〜40重量部、および炭素数12〜34の高級脂肪酸と炭素数12〜34の高級アルコールとのエステル化物である高級脂肪酸アルコールエステル(F)0.5〜10重量部配合してなることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、耐衝撃性、光沢性および耐傷付き性に優れた塩素化合物および臭素化合物を含有しない難燃性熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックス(樹脂)は、優れた機械的性質、成形加工性および電気絶縁性を有することによって、家庭電気機器、OA機器および自動車などの各部品を始めとする広範な分野で使用されている。しかしながら、プラスチックス(樹脂)の大半は易燃性であり、安全性の問題で難燃化に対し種々の技術が案出されてきた。
【0003】
一般的には、難燃化効率の高い臭素化合物などのハロゲン系難燃剤と酸化アンチモンを樹脂に配合して難燃化する方法が採用されている。
【0004】
また、近年の環境問題に関連し、塩素化合物および臭素系難燃剤を含有しない難燃性樹脂として、芳香族ポリカ−ボネ−ト、ABSなどのスチレン含有グラフトポリマおよびリン酸トリフェニル等のモノリン酸エステルを配合する方法(特許文献1参照。)、芳香族ポリカ−ボネ−ト、スチレン含有共重合体および/またはスチレン含有グラフト重合体およびオリゴマ−性リン酸エステル難燃剤を配合する方法(特許文献2参照。)、芳香族ポリカ−ボネ−トに1,4−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステルを配合する方法(特許文献3参照。)、および芳香族ポリカ−ボネ−トにレゾルシンポリホスフェ−ト難燃剤を配合する方法(特許文献4参照。)などが提案されている。
【0005】
さらに、家庭用電気機器に代表されるハウジング等の外観部品で使用されるにあたり、汚れ等をふき取る場合に発生する表面の擦り傷の抑制の要求も多く、また、昨今薄型TV等に見られる意匠性の点から、外観部品の薄肉化も求められている。表面の擦り傷を防止するために、樹脂表面上の摺動性を向上させる目的で樹脂に高級脂肪酸エステルやシリコーンを配合する技術が開示されている(特許文献5参照。)。
【0006】
そして、難燃性と樹脂表面の摺動性を両立する目的でリン酸エステル難燃剤を使用し、シリコーンを配合した技術も提案されているが、光沢性が劣るため電機機器に代表されるハウジング等の外観部品に使用するには問題がある(特許文献6参照。)。
【特許文献1】欧州公開特許第0174493号公報
【特許文献2】特開平2−115262号公報
【特許文献3】米国特許第5,122,556号明細書
【特許文献4】特開昭59−45351号公報
【特許文献5】特開平10−306206号公報
【特許文献6】特開2000−143965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、難燃性、耐衝撃性、光沢性および耐傷付き性に優れた塩素化合物および臭素化合物を含有しない難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、芳香族ポリカ−ボネ−ト、芳香族ポリエステルおよびゴム強化樹脂からなる樹脂組成物に、フッ素系樹脂、特定のリン酸エステルおよび特定の高級脂肪酸アルコールエステルを配合することにより、上記目的が効率的に達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の難燃性熱可塑性樹脂は、芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)50〜90重量%、芳香族ポリエステル(B)45〜5重量%、およびビニル系単量体またはビニル系単量体混合物をゴム質重合体(イ)にグラフト共重合せしめてなるグラフト共重合体(a)と少なくとも2種類のビニル系単量体を共重合せしめてなるビニル系共重合体(b)を含むゴム強化樹脂(C)5〜45重量%からなる樹脂組成物((A)+(B)+(C))100重量部に対し、フッ素系樹脂0.01〜5重量部(D)、下記一般式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Xは2価の芳香族基を表す。R1、R2、R3、R4のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基であり、残りは炭素数1〜6のアルキル基無置換のフェニル基または/および炭素数1〜6のアルキル基を表す。)で示されるリン酸エステル化合物(E)1〜40重量部および炭素数12〜34の高級脂肪酸と炭素数12〜34の高級アルコールとのエステル化物である高級脂肪酸アルコールエステル(F)0.5〜10重量部を配合してなることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物である。
【0012】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の一般式(I)のR1、R2、R3およびR4の全ては炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基である。
【0013】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の一般式(I)のR1、R2、R3およびR4の全ては炭素数1〜6のアルキル基二置換のフェニル基である。
【0014】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のポリカーボネート(A)の粘度平均分子量は17000以上である。
【0015】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の芳香族ポリエステル(B)の、オルトクロロフェノール溶媒で0.5g/dl溶液の25℃の温度における比粘度は1.2〜2.5である。
【0016】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の高級脂肪酸アルコールエステル(F)の炭素数は50〜68である。
【0017】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のゴム強化樹脂(C)が、グラフト共重合体(a)50〜100重量%とビニル系共重合体(b)50〜0重量%からなるゴム強化樹脂である。
【0018】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記のグラフト共重合体(a)は、ゴム質重合体(イ)30〜80重量部の存在下に、芳香族ビニル系単量体(ロ)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(ハ)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(ニ)0〜80重量%からなる単量体混合物70〜20重量部をグラフト共重合して得られたものであり、また、前記のビニル系共重合体(b)は、芳香族ビニル系単量体(ロ)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(ハ)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(ニ)0〜50重量%からなる単量体混合物を共重合して得られてものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、難燃性に優れ、耐衝撃性、光沢性および耐傷付き性が優れた塩素化合物および臭素化合物を含有しない難燃性熱可塑性樹脂組成物が得られ、この難燃性熱可塑性樹脂組成物は成形時や燃焼時にハロゲン化合物の分解有毒ガスを発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物について具体的に説明する。
【0021】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂は、芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)50〜90重量%、芳香族ポリエステル(B)45〜5重量%、およびビニル系単量体またはビニル系単量体混合物をゴム質重合体(イ)にグラフト共重合せしめてなるグラフト共重合体(a)を含むゴム強化樹脂(C)5〜45重量%からなる樹脂組成物((A)+(B)+(C))100重量部に対し、フッ素系樹脂0.01〜5重量部(D)、下記一般式(I)
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、Xは2価の芳香族基を表す。R1、R2、R3、R4のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基であり、残りは炭素数1〜6のアルキル基無置換のフェニル基または/および炭素数1〜6のアルキル基を表す。)で示されるリン酸エステル化合物(E)1〜40重量部、および炭素数12〜34の高級脂肪酸と炭素数12〜34の高級アルコールとのエステル化物である高級脂肪酸アルコールエステル(F)0.5〜10重量部を配合してなることを特徴とする難燃熱可塑性樹脂組成物である。
【0024】
本発明で用いられる芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)としては、具体的には2,2−ビス(4−オキシフェニル)アルカン系ビスフェノ−ル類、ビス(4−オキシフェニル)エ−テル系ビスフェノ−ル類、ビス(4−オキシフェニル)スルホン系ビスフェノ−ル類、スルフィド系ビスフェノ−ル類およびスルホキサイド系ビスフェノ−ル類などのビスフェノ−ル類からなる重合体もしくは共重合体等が挙げられる。
【0025】
芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)は、任意の方法によって製造される。例えば、4,4´−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン(通称、ビスフェノ−ルA)のポリカ−ボネ−トの製造には、ジオキシ化合物として4,4´−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパンを用いて、苛性アルカリ水溶液および溶剤存在下にホスゲンを吹き込んで製造するホスゲン法や、4,4´ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパンと炭酸ジエステルとを触媒存在下でエステル交換させて製造する方法を利用することができる。
【0026】
芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)の分子量は、粘度平均分子量が好ましくは17000〜35000であり、特に18000〜30000の範囲のものが好ましく、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性と流動性のバランスに優れている。
【0027】
本発明で用いられる芳香族ポリエステル(B)は、芳香環を重合体の連鎖単位に有するポリエステルで、芳香族ジカルボン酸とジオ−ル(あるいはそのエステル形成性誘導体)とを主成分とする縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体である。
【0028】
ここでいう芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4´−ビフェニルジカルボン酸、4,4´−ビフェニルエ−テルジカルボン酸、4,4´−ビフェニルメタンジカルボン酸、4,4´−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4,4´−ビフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4´−ジカルボン酸、2,5−アントラセンジカルボン酸、2,6−アントラセンジカルボン酸、4,4´−p−タ−フェニレンジカルボン酸、および2,5−ピリジンジカルボン酸などがあり、特にテレフタル酸が好ましく用いられる。
【0029】
これらの芳香族ジカルボン酸は、二種以上を混合して使用してもよい。少量であれば、これらの芳香族ジカルボン酸と共に、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸を、一種以上混合使用することができる。
【0030】
また、ジオ−ル成分としては、例えばエチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、ブチレングリコ−ル、ヘキシレングリコ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、2−メチル−1,3−プロパンジオ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ルなどの脂肪族ジオ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ルなどの脂環族ジオ−ルなど、およびそれらの混合物などが挙げられる。少量であれば、分子量400〜6000の長鎖ジオ−ル、すなわちポリエチレングリコ−ル、ポリ−1,3−プロピレングリコ−ル、およびポリテトラメチレングリコ−ルなどを、一種以上共重合せしめてもよい。
【0031】
具体的な芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレ−ト、ポリプロピレンテレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレ−ト、ポリヘキシレンテレフタレ−ト、ポリエチレンナフタレ−ト、ポリブチレンナフタレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4´−ジカルボキシレ−トなどのほか、ポリエチレンイソフタレ−ト/テレフタレ−ト、ポリブチレンテレフタレ−ト/イソフタレ−ト、およびポリブチレンテレフタレ−ト/デカンジカルボキシレ−トなどのような共重合ポリエステルが挙げられる。これらのうち、機械的性質および成形性などのバランスのとれたポリブチレンテレフタレ−トおよびポリエチレンテレフタレートが特に好ましく用いられる。芳香族ポリエステル(B)の製造法は特に制限がなく、公知の製造法を用いることができる。
【0032】
芳香族ポリエステル(B)は、オルトクロロフェノ−ル溶媒で0.5g/dl溶液の25℃の温度における比粘度が1.2〜2.5、特に1.5〜2.0の範囲のものが好ましく、耐衝撃性と靭性に優れている。
【0033】
本発明で用いられるグラフト共重合体(a)を構成するグラフト成分のビニル系単量体としては、芳香族ビニル系単量体(ロ)、シアン化ビニル系単量体(ハ)および共重合可能なその他のビニル単量体(二)からなる群から選ばれたビニル系単量体であることが好ましい。
【0034】
本発明で用いられるグラフト共重合体(a)は、好ましくは、ゴム質重合体(イ)30〜80重量部の存在下に、芳香族ビニル系単量体(ロ)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(ハ)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(ニ)0〜80重量%からなる単量体混合物70〜20重量部をグラフト共重合させて得られたグラフト共重合体である。
【0035】
本発明において、グラフト共重合体(a)に用いられるゴム質重合体(イ)としては、ジエン系ゴム、アクリル系ゴムおよびエチレン系ゴム等が挙げられる。それらの具体例としては、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレン−ジエンラバー、ポリ(エチレン−イソプレン)、およびポリ(エチレン−アクリル酸メチル)等が挙げられる。
【0036】
これらのゴム質重合体(イ)は、1種または2種以上の混合物で使用される。これらのゴム質重合体(イ)の中でも、耐衝撃性の点で、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)およびエチレン−プロピレンラバーが特に好ましく用いられる。
【0037】
本発明で用いられる芳香族ビニル系単量体(ロ)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、オルソメチルスチレン、パラメチルスチレン、パラ−t−ブチルスチレンおよびハロゲン化スチレン等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を用いることができる。中でも、スチレンとα−メチルスチレンが好ましく、特にスチレンが好ましく用いられる。
【0038】
本発明で用いられるシアン化ビニル系単量体(ハ)の具体例としては、アクリロニトリルおよびメタアクリロニトリル等が挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。中でも、耐衝撃性の点でアクリロニトリルが好ましく用いられる。
【0039】
本発明で用いられる上記の共重合可能なその他のビニル系単量体(ニ)の具体例としては、メタクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル系単量体、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物およびアクリルアミド等の不飽和アミドなどが挙げられる。これらは、単独ないし2種以上の混合物で用いることができる。
【0040】
本発明において好ましく用いられるビニル系共重合体(b)は、芳香族ビニル系単量体(ロ)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(ハ)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(ニ)0〜80重量%からなる単量体混合物を共重合して得られたビニル系共重合体である。より好ましくは、芳香族ビニル系単量体(ロ)50〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(ハ)10〜40重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(d)0〜40重量%からなる単量体混合物を共重合して得られたビニル系共重合体である。さらに好ましくは、芳香族ビニル系単量体(ロ)60〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(ハ)20〜40重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(二)0〜20重量%からなる単量体混合物を共重合して得られたビニル系共重合体である。
【0041】
本発明で用いられる芳香族ビニル系単量体(ロ)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、オルソメチルスチレン、パラメチルスチレン、パラ−t−ブチルスチレンおよびハロゲン化スチレン等が挙げられ、これらの中から1種または2種以上を用いることができる。中でも、スチレンとα−メチルスチレンが好ましく、特にスチレンが好ましく用いられる。
【0042】
本発明で用いられるシアン化ビニル系単量体(ハ)の具体例としては、アクリロニトリルおよびメタアクリロニトリル等が挙げられ、これらは1種または2種以上を用いることができる。中でも、耐衝撃性の点でアクリロニトリルが好ましく用いられる。
【0043】
本発明で用いられる上記の共重合可能なその他のビニル系単量体(ニ)の具体例としては、メタクリル酸メチル等の不飽和カルボン酸エステル系単量体、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物、マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物およびアクリルアミド等の不飽和アミドなどが挙げられる。これらは、単独ないし2種以上の混合物で用いることができる。
【0044】
本発明で用いられるグラフト共重合体(a)とビニル系共重合体(b)の製造方法は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合および乳化重合等のいずれの方法であってもよい。また、単量体の仕込方法としては、初期一括仕込み、単量体の一部または全てを連続仕込み、あるいは単量体の一部または全てを分割仕込みのいずれの方法を用いてもよい。
【0045】
本発明で用いられるゴム強化樹脂(C)は、好ましくはグラフト共重合体(a)50〜100重量%とビニル系共重合体(b)50〜0重量%からなるゴム強化樹脂である。ゴム強化樹脂(C)は、より好ましくはグラフト共重合体(a)70〜90重量%とビニル系共重合体(b)30〜10重量%からなるゴム強化樹脂である。
【0046】
本発明で用いられる樹脂組成物は、芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)50〜90重量%と芳香族ポリエステル(B)45〜5重量%およびゴム強化樹脂(C)5〜45重量%からなり、好ましくは芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)60〜90重量%と芳香族ポリエステル(B)35〜5重量%およびゴム強化樹脂(C)5〜35重量%からなる。
【0047】
本発明で用いられるフッ素系樹脂(D)としては、例えばテトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体およびテトラフルオロエチレンとフッ素を含まないエチレン性不飽和モノマ−との共重合体などが挙げられる。
【0048】
フッ素系樹脂(D)の製造方法としては、例えば水性媒体中で、触媒ペルオキシ二硫酸ナトリウム、カリウムまたはアンモニウムを用いて、7〜71kg/cmの圧力下、0〜200℃の温度において、テトラフルオロエチレン等の重合を行うなどの方法を用いることができる。
【0049】
フッ素系樹脂(D)は、通常比重が2.0〜2.5g/cmで、融点が310〜350℃の粉末状のものが好ましく用いられる。また、フッ素系樹脂(D)の形状は、好ましくはASTM D1457で測定された粒子径(二次)が10〜600μmである粉末状のものが用いられる。
【0050】
本発明におけるフッ素系樹脂(D)の配合量は、芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)と芳香族ポリエステル(B)およびゴム強化樹脂(C)の樹脂組成物100重量部に対し、0.01〜5重量部であり、好ましくは0.05〜2.0重量部である。フッ素系樹脂(D)の配合量が0.01重量部未満では、樹脂組成物の難燃性が悪くなり、5重量%を超える場合は樹脂組成物の耐衝撃性が悪くなる。
【0051】
次に、本発明で用いられるリン酸エステル化合物(E)とは、下記一般式(I)
【0052】
【化3】

【0053】
(式中、Xは2価の芳香族基を表す。R1、R2、R3、R4のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基であり、残りは炭素数1〜6のアルキル基無置換のフェニル基または/および炭素数1〜6のアルキル基を表す。)で示されるものである。
【0054】
上記の一般式(I)における2価の芳香族基、すなわちアリーレン基としては、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、ビフェニレン基およびフェニレンオキシフェニレン基などが例示され、中でもm−フェニレン基、p−フェニレン基およびビフェニレン基が好ましく用いられる。
【0055】
また、上記の一般式(I)で示されるリン酸エステル化合物(E)において、R1、R2、R3、R4のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基であり、残りは炭素数1〜6のアルキル基無置換のフェニル基または/および炭素数1〜6のアルキル基であるが、R1、R2、R3およびR4の全てが炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基であることが好ましく、さらにR1、R2、R3およびR4のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基二置換のフェニル基であり、残りは炭素数1〜6のアルキル基無置換のフェニル基または/および炭素数1〜6のアルキル基であるが、R1、R2、R3およびR4の全てが炭素数1〜6のアルキル基二置換のフェニル基の構造を有するものが好ましく用いられる。さらに上記においてアルキル基の炭素数としては1〜3のものが好ましく用いられる。
【0056】
上記の一般式(I)で示されるリン酸エステル化合物(E)としては、具体的には、1,4−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル、1,4−フェニレン−テトラキス(3,5−ジメチルフェニル)リン酸エステル、1,4−フェニレン−テトラキス(2,6−ジエチルフェニル)リン酸エステル、1,4−フェニレン−テトラキス(3,5−ジエチルフェニル)リン酸エステル、1,4−フェニレン−テトラキス(2,6−ジプロピルフェニル)リン酸エステル、1,4−フェニレン−テトラキス(3,5−ジプロピルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(3,5−ジメチルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(2,6−ジエチルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(3,5−ジエチルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(2,6−ジプロピルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(3,5−ジプロピルフェニル)リン酸エステル、4,4´−ビフェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル、4,4´−ビフェニレン−テトラキス(3,5−ジメチルフェニル)リン酸エステル、4,4´−ビフェニレン−テトラキス(2,6−ジエチルフェニル)リン酸エステル、4,4´−ビフェニレン−テトラキス(3,5−ジエチルフェニル)リン酸エステル、4,4´−ビフェニレン−テトラキス(2,6−ジプロピルフェニル)リン酸エステル、4,4´−ビフェニリン−テトラキス(3,5−ジプロピルフェニル)リン酸エステル、1,4−フェニレン−テトラキス(2−メチルフェニル)リン酸エステル、1,4−フェニレン−テトラキス(3−メチルフェニル)リン酸エステル、1,4−フェニレン−テトラキス(4−メチルフェニル)リン酸エステル、1,4−フェニレン−テトラキス(5−メチルフェニル)リン酸エステル、1,4−フェニレン−テトラキス(6−メチルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(2−メチルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(3−メチルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(4−メチルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(5−メチルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(6−メチルフェニル)リン酸エステル、4,4´−ビフェニレン−テトラキス(2−メチルフェニル)リン酸エステル、4,4´−ビフェニレン−テトラキス(3−メチルフェニル)リン酸エステル、4,4´−ビフェニレン−テトラキス(4−メチルフェニル)リン酸エステル、4,4´−ビフェニレン−テトラキス(5−メチルフェニル)リン酸エステル、および4,4´−ビフェニレン−テトラキス(6−メチルフェニル)リン酸エステル、などが挙げられる。
【0057】
特に1,4−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル、4,4´−ビフェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル、1,4−フェニレン−テトラキス(3−メチルフェニル)リン酸エステル、1,3−フェニレン−テトラキス(3−メチルフェニル)リン酸エステル、および4,4´−ビフェニレン−テトラキス(3−メチルフェニル)リン酸エステルが、剛性と難燃性に優れており、好ましく用いられる。
【0058】
リン酸エステル化合物(E)の製造法としては、例えば溶媒中で、オキシ塩化リンとハイドロキノンを実質的に2:1のモル比で反応させた後、2,6−ジメチルフェノ−ルを適量加えて反応させることにより、1,4−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステルを得ることができる。
【0059】
本発明におけるリン酸エステル化合物(E)の配合量は、芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)と芳香族ポリエステル(B)とゴム強化樹脂(C)とからなる樹脂組成物100重量部に対し、1〜40重量部であり、好ましくは4〜30重量部である。リン酸エステル化合物(E)の配合量が5重量部未満では難燃性が悪くなり、40重量%を超える場合は樹脂組成物の耐熱性が悪くなる。
【0060】
本発明で用いられる高級脂肪酸エステル(F)としては、天然ワックス、例えばキャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、ミツロウおよびラノリン等から抽出される高級脂肪酸と、高級アルコールのエステル化物あるいは高級脂肪酸と高級アルコールより合成される化合物が好ましく挙げられる。
【0061】
高級脂肪酸エステル(F)の合成方法としては、脂肪酸とアルコールより脱水反応で合成する直接エステル化、エステルとアルコールまたはエステルと脂肪酸あるいはエステルとエステルの反応で新しいエステルを合成するエステル交換反応、塩化アシルとアルコールより合成する方法などがある。
【0062】
高級脂肪酸および高級アルコールの好ましい炭素数は、12〜32である。さらに好ましくは、高級脂肪酸と高級アルコールの炭素数をあわせた数が50〜68である。炭素数が12未満では耐熱性が低下し、炭素数が32を超えると耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0063】
高級脂肪酸エステル(F)には、リグノセリン酸ミリシルエステルやセロチン酸ミリシルエステル好適である。
【0064】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、例えば芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)、芳香族ポリエステル(B)、ゴム強化樹脂(C)、フッ素系樹脂(D)、リン酸エステル化合物(E)および高級脂肪酸エステル(F)を混合して、バンバリーミキサー、ロール、エクストルーダーおよびニーダーなどで溶融混練することによって製造され製品化される。
【0065】
また、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、目的とする難燃性、耐衝撃性、光沢性および耐傷付き性を阻害しない限りにおいて、ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系および含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系やアクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンソフェノン系およびサクシレート系などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系やヒンダードアミン系などの光安定剤などの各種安定剤、高級脂肪酸の金属塩類や高級脂肪酸アミド類などの滑剤、フタル酸エステル類やリン酸エステル類などの可塑剤、アルキルカルボン酸やアルキルスルホン酸の金属塩、カーボンブラック、顔料および染料などを添加することもでき、また、各種強化剤や充填材を配合することもできる。
【0066】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は溶融成形されて、樹脂成形品となり用いられる。この樹脂成形品は、その難燃性をはじめとする特徴からOA機器や家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、各種一般雑貨やシート等に有用である。
【0067】
特に、本発明の樹脂成形品は、難燃性、衝撃性と摺動性(耐傷付き性)に優れているので、パソコン、プリンター、薄型テレビジョンおよびゲーム機等のOA機器や家電機器の外装部品用途、特に人が触ったりして傷付きやすい部位に好適に用いられる。
【実施例】
【0068】
本発明をさらに具体的に説明するために、以下、実施例を挙げて説明する。実施例中の部数および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。参考例および実施例(比較例)中で用いた特性および物性の測定方法を、次に示す。
【0069】
(1)芳香族ポリエステルの極限粘度:
芳香族ポリエステルの極限粘度は、ウベローデ粘度計を使用し、測定温度25℃で、試料濃度0.4g/dlのオルトクロロフェノ−ル溶媒を用いて測定した。
【0070】
(2)グラフト共重合体(a)のグラフト率:
グラフト共重合体(a)の所定量(m)に、アセトンを加え3時間還流し溶液を得た。この溶液を、8000rpm(10,000G)で30分間遠心分離後、不溶分を濾過した。この不溶分を70℃の温度で5時間減圧乾燥し、乾燥重量(n)を測定した。次の式でグラフト率を算出した。
・グラフト率=[(n)−(m)×L]/[(m)×L]×100
ここでLは、グラフト共重合体中のゴム含有率を意味する。
【0071】
(3)ビニル系共重合体(b)の極限粘度:
ビニル系重合体(b)の極限粘度は、ウベローデ粘度計を使用し、測定温度30℃で、試料濃度0.4g/dlのメチルエチルケトン溶媒を用いて測定した。
【0072】
(4)シャルピー衝撃強度:
ISO 179(2000)(温度23℃、湿度50RH%)に準じて測定した。
【0073】
(5)荷重たわみ温度:
ISO 75(2004)(1.8MPa荷重)に準じて測定した。
【0074】
(6)燃焼性:
UL94規格に従い、垂直型燃焼テストを1/8″×1/2″×5″の燃焼試験片で行った。試験方法は、次のとおりである。
【0075】
[試験方法]:
燃焼試験片を垂直に保持し、燃焼試験片の下端中央に長さ20mmの青色炎を10秒間接炎後,炎を離して燃焼時間を測定する。一回目の炎が消火して再び10秒間接炎する。判定は次のとおりである。
[V−0]:
1回目と2回目の接炎後10秒以上燃えず、2回目の接炎後のグロー消火時間は30秒以内である。接炎時、接炎後に滴下物は発生してはいけない。更に、5本の燃焼試験片の有炎燃焼時間の合計が、50秒以内である。
[V−1]:
1回目と2回目の接炎後30秒以上燃えず、2回目の接炎後のグロー消火時間は60秒以内である。30cm下方に置かれたガーゼは着火してはいけない。更に、5本の燃焼試験片の有炎燃焼時間の合計が、250秒以内である。
[NG]:
1回目と2回目の接炎後30秒より燃焼もしくは、2回目の接炎後のグロー消火時間は60秒以上である。また、5本の燃焼試験片の有炎燃焼時間の合計が、250秒より大きくなる場合もNGとなる。
【0076】
(7)耐傷付き性
80℃の温度の熱風乾燥機中で5時間乾燥した熱可塑性樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度250℃に設定した住友(株)製プロマット成形機内に充填し、射出成形により成形した試験片ISO3167 TypeA(多目的試験片)を、協和界面化学社製自動摩擦・摩耗試験機DFPM−SS型により、試験荷重:500g、相手材:Pure Leaf M−210、環境条件:温度23℃、湿度50%RH、ストローク:40mm、回数:20回で測定した。耐擦傷性は、試験後の傷を目視にて確認し、傷の本数によって3段階に順位付けを行った。I:0〜5本、II:6〜10本、III:11本以上。
【0077】
(参考例1)芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)
(1)ポリカーボネート(A1):出光石油化学(株)製:“タフロンA2200”(登録商標)(粘度平均分子量:22000)を使用した。
(2)ポリカーボネート(A2):出光石油化学(株)製:“タフロンA1900”(登録商標)(粘度平均分子量:19000)を使用した。
【0078】
(参考例2)芳香族ポリエステル(B)
(1)ポリブチレンテレフタレート(B1):東レ(株)製“PBT−1200S”(オルトクロロフェノ−ル溶媒で25℃測定の比粘度が1.58)を使用した。
(2)ポリブチレンテレフタレート(B2):東レ(株)製“PBT−1100S”(オルトクロロフェノ−ル溶媒で25℃測定の比粘度が1.45)を使用した。
【0079】
(参考例3)グラフト共重合体(a)
次にグラフト共重合体の調製方法を示す。
【0080】
ポリブタジエンラテックス(平均ゴム粒子径0.32μ、ゲル含率88%)60部(固形分換算)の存在下で、スチレン70%とアクリロニトリル30%からなる単量体混合物40部を加えて乳化重合した。得られたグラフト共重合体を硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和し、洗浄し、ろ過し、乾燥してパウダー状のグラフト共重合体(a1)を調製した。得られたグラフト共重合体は、グラフト率が38%であった。このグラフト共重合体は、スチレン構造単位70%およびアクリロニトリル構造単位30%からなる非グラフト性の共重合体を17%含有するものであった。また、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.36dl/gであった。
【0081】
(参考例4)ビニル系共重合体(b)の製造方法
スチレン70%とアクリロニトリル30%からなる単量体混合物を塊状重合して、ペレット状のビニル系共重合体を得た。このビニル系共重合体(b)のηsp/cは、0.53dl/gであった。
【0082】
(参考例5)フッ素系樹脂(D)
ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体の“メタブレンA3800”(登録商標)(三菱レイヨン(株)製)を使用した。
【0083】
(参考例6)リン酸エステル化合物(E)
リン酸エステル化合物(E1):レゾルシノールビス(ジ−2,6−ジメチルフェニルホスフェート)を使用した。
リン酸エステル化合物(E2):1,3−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステルを使用した。
リン酸エステル化合物(E3):レゾルシノール−ビス(フェニル)ホスフェートオリゴマ−(CR733S,大八化学工業製)を使用した。
【0084】
(参考例7)高級脂肪酸エステル(F)
(1)リグノセリン酸(C24)ミリシル(C30)エステルを用いた(F1)。
(2)セロチン酸(C26)ミリシル(C30)エステルを用いた(F2)
(3)ステアリン酸(C18)ブチル(C4)エステルを用いた。(F3)
[実施例1〜11]
上記の参考例で準備した芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)A1とA2、芳香族ポリエステル(B)B1とB2、グラフト共重合体(a)、ビニル系共重合体(b)、フッ素系樹脂(D)、リン酸エステル化合物(E)E1、E2とE3および高級脂肪酸エステル(F)F1、F2とF3を、表1と表2に示した配合比で混合し、ベント付30mmφ2軸押出機でバレル温度250℃により溶融混練し、押出しを行うことによって、ペレット状のポリマを製造した。得られた結果を、表1と表2に示す。
【0085】
[比較例1〜7]
上記の参考例で準備した芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)A1とA2、芳香族ポリエステル(B)B1とB2、グラフト共重合体(a)、ビニル系共重合体(b)、フッ素系樹脂(D)、リン酸エステル化合物(E)E1、E2とE3および高級脂肪酸エステル(F)F1、F2とF3を、表1と表2に示した配合比で混合し、ベント付30mmφ2軸押出機でバレル温度250℃により溶融混練、押出しを行うことによって、ペレット状のポリマを製造した。得られた結果を、表1と表2に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
表1と表2の結果から、次のことが明らかである。本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物(実施例1〜11)は、いずれも耐衝撃性、耐熱性、耐傷付き性および難燃性が均衡して優れている。
【0089】
しかしながら、比較例1では、高級脂肪酸アルコールエステルが添加されないことから、実施例1に比較して衝撃性および耐傷付き性が劣るものであった。比較例2では、高級脂肪酸アルコールエステルが炭素数12〜34の高級脂肪酸と炭素数12〜34の高級アルコールとのエステル化合物でないため、実施例1に比較して耐傷付き性で劣るものであった。比較例3では、リン酸エステルとしてオリゴマーを用いたため、実施例1に比較して耐熱性が劣るものであった。比較例4では、高級脂肪酸アルコールエステルの添加量が多いため、実施例1と4に比較して難燃性が劣るものであった。比較例5では、ポリカーボネートの添加量が少ないため、実施例1、9および10に比較し難燃性が劣るものであった。比較例6では、リン酸エステル化合物の添加量が多すぎるため、実施例1に比較し、耐衝撃性および耐熱性に劣るものであった。比較例7では、リン酸エステル化合物が添加されていないため実施例1に比較し難燃性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカ−ボネ−ト(A)50〜90重量%、芳香族ポリエステル(B)45〜5重量%、およびビニル系単量体またはビニル系単量体混合物をゴム質重合体(イ)にグラフト共重合せしめてなるグラフト共重合体(a)を含むゴム強化樹脂(C)5〜45重量%からなる樹脂組成物((A)+(B)+(C))100重量部に対し、フッ素系樹脂(D)0.01〜5重量部、下記一般式(I)
【化1】

(式中、Xは2価の芳香族基を表す。R1、R2、R3、R4のうち少なくとも1つは、炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基であり、残りは炭素数1〜6のアルキル基無置換のフェニル基または/および炭素数1〜6のアルキル基を表す。)で示されるリン酸エステル化合物(E)1〜40重量部、および炭素数12〜34の高級脂肪酸と炭素数12〜34の高級アルコールとのエステル化物である高級脂肪酸アルコールエステル(F)0.5〜10重量部を配合してなることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
一般式(I)のR1、R2、R3およびR4の全てが炭素数1〜6のアルキル基置換のフェニル基であることを特徴とする請求項1記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
一般式(I)のR1、R2、R3およびR4の全てが炭素数1〜6のアルキル基二置換のフェニル基であることを特徴とする請求項1記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリカーボネート(A)の粘度平均分子量が17000以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
芳香族ポリエステル(B)の、オルトクロロフェノール溶媒で0.5g/dl溶液の25℃の温度における比粘度が1.2〜2.5であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
高級脂肪酸アルコールエステル(F)の炭素数が50〜68であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂化合物。
【請求項7】
ゴム強化樹脂(C)が、グラフト共重合体(a)50〜100重量%とビニル系共重合体(b)50〜0重量%からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂化合物。
【請求項8】
グラフト共重合体(a)が、ゴム質重合体(イ)30〜80重量部の存在下に、芳香族ビニル系単量体(ロ)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(ハ)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(ニ)0〜80重量%からなる単量体混合物70〜20重量部をグラフト共重合して得られ、ビニル系共重合体(b)が、芳香族ビニル系単量体(ロ)40〜90重量%、シアン化ビニル系単量体(ハ)10〜60重量%およびその他の共重合可能なビニル系単量体(ニ)0〜50重量%からなる単量体混合物を共重合して得られることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2009−275159(P2009−275159A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129095(P2008−129095)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】