説明

難燃性熱可塑性樹脂組成物

【課題】相溶性、分散性、加工性及び難燃性に優れた、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとエチレン系共重合体を主成分とする熱可塑性樹脂組成物の提供。
【解決手段】(A)成分である熱可塑性ポリウレタン系エラストマー及び(B)成分であるエチレン重合体及び/またはエチレン系共重合体を主成分とする熱可塑性樹脂組成物に対して、下記、(C)成分、(D)成分及び(E)成分を配合してなる難燃性熱可塑性樹脂組成物;(C)成分:アンモニアまたは(2)式で表わされるトリアジン誘導体を含む(1)式で表わされる(ポリ)リン酸塩化合物;(D)成分:ピペラジンまたはピペラジン環を含むジアミンを含有する(ポリ)リン酸塩化合物;(E)成分:炭素原子数1〜10のアルキル基、または芳香族基を有する(ポリ)リン酸エステル化合物。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーとエチレン(共)重合体を主成分とする熱可塑性樹脂組成物に関し、特に、それらの相溶性、加工性、難燃性に優れた熱可塑性樹脂組成物、及びこれを用いてなる電線又はケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、その優れた機械的強度及び耐磨耗性を生かして、ホース、ベルト、電線、ケーブル、パイプ、靴底、各種成形品等、従来から種々の分野に用いられている。特に、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のエチレン系共重合体とアロイ化することにより成形性や耐水性を向上させ、使用することが行われている(特許文献1)。しかしながら、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーは、ソフトセグメントと称される動きやすい長鎖部分と、ハードセグメントと称される極めて結晶性の強い部分とからなり、他の樹脂との相溶性がよくないために、エチレン重合体やエチレン系共重合体との相溶性が不十分であるという欠点があった。
【特許文献1】特開平3−97750号公報
【0003】
また、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーとエチレン系共重合体を主成分とする熱可塑性樹脂組成物は、難燃性に乏しいという欠点がある。この欠点は、水酸化マグネシウム等の金属水和物を添加することによって改善される(特許文献2)。しかしながら、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーとエチレン(共)重合体を主成分とする熱可塑性樹脂組成物は、それ自体が非相溶もしくは相溶性に乏しいため、金属水和物等の無機物を大量に使用することによってさらに相溶性が悪くなるだけでなく、加工性、樹脂の表面性、物性等が低下する上、その難燃性も充分であると言えるものではなかった。
【特許文献2】特開2004−51903号公報
【0004】
また熱可塑性ポリウレタン系エラストマーに、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、縮合リン酸エステル等の窒素及び/又はリンを含有する化合物を添加して難燃性を付与することも知られている(特許文献3)。しかしながらこの場合の難燃機構は、燃焼時に表面膨張層(Intumescent)を形成し、分解生成物の拡散や伝熱を抑制することによって難燃性を発揮させるものではない上、樹脂組成物の相溶性が向上することを示唆する記載もない。
【特許文献3】特開2001−49053号公報
【0005】
一方、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーに、特定のリン酸塩化合物とリン酸エステル系難燃剤を組み合わせて添加する発明も開示されている(特許文献4)。しかしながら、この発明は電線やケーブル等の用途とは全く異なる防火性シーリング剤に関するものである上、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとエチレン系共重合体を主成分とする樹脂組成物の相溶性や難燃性を向上させることを示唆する記載も全くない。
【特許文献4】特開2004−137316号公報
【0006】
従来、電気・電子機器、伝送装置の内部および外部配線に使用される電線、絶縁電線、ケーブル、キャブタイヤケーブルや光コード、光ファイバケーブル等の被覆材料として、塩素含有難燃性樹脂や、分子中に臭素原子や塩素原子を含有する所謂ハロゲン系難燃剤を配合した、エチレン系共重合体を主成分とする樹脂組成物を使用することがよく知られている。
しかしながら、上記したような難燃性樹脂や難燃剤を含有する樹脂を、適切な処理をせずに廃棄すると、被覆材料に配合されている重金属安定剤が溶出する場合があるだけでなく、燃焼した場合には腐食性ガスが排出されることがあるという欠点があった。又、塩素含有樹脂を更に難燃化するために三酸化アンチモンを使用した場合には、三酸化アンチモンが、原鉱石に由来する鉛と砒素を不純物として含んでいるために、これらの有毒な成分をも同時に含有することになることも問題となっている。
そこで近年、有害な重金属の溶出やハロゲン系ガスなどの発生の恐れがない、ノンハロゲン難燃材料で電線を被覆する技術の開発が求められるようになった。
【0007】
ノンハロゲン難燃材料は、ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に配合することによって難燃性を発現させるものであり、難燃剤としては例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水和物が使用される。しかしながら、これらの難燃性は充分ではないために大量に配合しなければならないため、相溶性や分散性が問題となるだけでなく加工性が劣るので、電線やケーブルに求められる物性も不十分なものであった。
【0008】
また、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーとエチレン系共重合体を主成分とする非相溶系の樹脂組成物に難燃剤を付与した場合には、電線等の製造時における加工不良・分散不良が問題となるので、従来は滑剤を併用して加工性を改良することが試みられていた。しかしながら、滑剤を併用した場合には難燃性が低下するという欠点があるため、このような非相溶系においても、難燃性を損なうことなく良好な加工性・分散性を有する難燃性樹脂組成物の開発が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の第1の目的は、相溶性、分散性、加工性及び難燃性に優れた、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとエチレン系共重合体を主成分とする熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
本発明の第2の目的は、難燃性、表面性及び物性に優れた電線又はケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記諸目的を達成すべく鋭意検討した結果、難燃剤として、特定の二種類の(ポリ)リン酸塩化合物を使用すると共に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとエチレン系共重合体の相溶性、及び組成物中の他の添加成分との相溶性と分散性を改良する相溶性・分散性改良剤として更にリン酸エステル化合物を組み合わせて使用することにより、良好な結果を得ることができることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、下記、(A)成分及び(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物に対して、(C)成分、(D)成分及び(E)成分を配合してなることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物、及びそれを用いた電線又はケーブルである。
【0011】
(A)成分:熱可塑性ポリウレタン系エラストマー
(B)成分:エチレン重合体及び/またはエチレン系共重合体
(C)成分:下記一般式(1)で表される(ポリ)リン酸塩化合物
(D)成分:下記一般式(3)で表される(ポリ)リン酸塩化合物
(E)成分:下記一般式(4)で表されるリン酸エステル化合物

但し、(1)式中のnは1〜100の数を表し、Xはアンモニア又は下記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体であり、pは、0<p≦n+2の関係を満たす数である。

但し、(2)式中のZ及びZは同一でも異なっていてもよく、−NR基〔ここでR及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基もしくはメチロール基〕、水酸基、メルカプト基、炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐のアルコキシ基、フェニル基及びビニル基からなる群より選ばれる基である。

但し、(3)式中のrは1〜100を表し、Yは〔RN(CH)mNR〕、ピペラジンまたはピペラジン環を含むジアミンであり、R、R、R及びRはそれぞれ、水素原子、炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基であり、R、R、R及びRは同一の基であっても異なってもよく、mは1〜10の整数であり、qは0<q≦r+2の関係を満たす数である。

但し、(4)式中のR、R、R10及びR11は、同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜10のアルキル基、又は下記一般式(5)で表される芳香族基を表す。Rは下記一般式(6)又は(7)で表される2価の芳香族基を表し、sは0〜30の数である。

但し、上記一般式中のA及びAは、各々独立に水素原子、ヒドロキシ基又は炭素原子数1〜10のアルキル基を表す。A、A、A、A、A及びAは各々独立に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子又はシアノ基を表す。Gは直接結合、2価のイオウ原子、スルホン基又は炭素原子数1〜5のアルキリデン基もしくはアルキレン基を表す。
【0012】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、さらに(F)成分として、酸化亜鉛を含有させることが好ましく、前記(C)成分として、前記一般式(1)におけるnが2、pが2、Xがメラミン(前記一般式(2)におけるZ及びZが−NH)であるピロリン酸メラミンを用いることが好ましい。
【0013】
更に、本発明においては、前記(D)成分として、前記一般式(3)におけるqが1、Yがピペラジンであるポリリン酸ピペラジンを用いることが好ましく、特に、ピロリン酸ピペラジンを用いることが好ましい。
また本発明で使用する前記(B)成分であるエチレン系共重合体としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、相溶性、分散性、加工性及び難燃性に優れた、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとエチレン系共重合体を主成分とする熱可塑性樹脂組成物であるので、特に電線又はケーブルの被覆材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物について詳述する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物で用いる(A)成分の熱可塑性ポリウレタン系エラストマー(TPU)は、一般に、ポリオール、ジイソシアネート、および鎖延長剤を用いて調製される。ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールおよびポリエーテルポリオールが挙げられる。
【0016】
ここで、ポリエステルポリオールとしては、脂肪族ジカルボン酸、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、及びアゼライン酸等;芳香族ジカルボン酸、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸等;脂環族ジカルボン酸、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、及びヘキサヒドロイソフタル酸等;又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等、又は、これらの混合物との脱水縮合反応で得られるポリエステルポリオール;ε−カプロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。
【0017】
また、ポリエステルエーテルポリオールとしては、脂肪族ジカルボン酸、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、及びアゼライン酸等;芳香族ジカルボン酸、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸等;脂環族ジカルボン酸、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、及びヘキサヒドロイソフタル酸等;又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、ジエチレングリコール又はプロピレンオキサイド付加物等のグリコール等、若しくはこれらの混合物との脱水縮合反応で得られる化合物等が挙げられる。
【0018】
さらに、ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコールの1種または2種以上と、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等とを反応させて得られるポリカーボネートポリオールが挙げられる。
また、ポリカプロラクトンポリオール(PCL)とポリヘキサメチレンカーボネート(PHL)との共重合体であっても良い。
【0019】
また、ポリエーテルポリオールとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルをそれぞれ重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等、及び、これらのコポリエーテルが挙げられる。
【0020】
前記ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添XDI、トリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネートメチルオクタン、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI;HMDI)等が挙げられる。本発明においては、これらの中でも、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及び1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)が好ましく用いられる。
【0021】
熱可塑性ポリウレタン系エラストマー(TPU)の調製に使用される前記鎖延長剤としては、低分子量ポリオールが使用される。この低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン等の脂肪族ポリオール、及び、1,4−ジメチロールベンゼン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物等の芳香族グリコールが挙げられる。
【0022】
エステル(ラクトン)系ポリウレタン共重合体の具体的な市販品としては、エラストランC80A10(BASFジャパン(株)製)、エラストランC80A50(BASFジャパン(株)製)、レザミンP−4000シリーズ(大日精化工業(株)製)、レザミンP−4500シリーズ(大日精化工業(株)製)等;エステル(アジペート)系ポリウレタン共重合体の具体的な市販品としては、パンデックスT−5000V(ディーアイシーバイエルポリマー(株)製)、パンデックスTR−3080(ディーアイシーバイエルポリマー(株)製)、レザミンP−1000シリーズ(大日精化工業(株)製)、レザミンP−7000シリーズ(大日精化工業(株)製)等;エーテル系ポリウレタン共重合体の具体的な市販品としては、エラストラン1180A50(BASFジャパン(株)製)、パンデックスT−8180(ディーアイシーバイエルポリマー(株)製)、パンデックスT−8283(ディーアイシーバイエルポリマー(株)製)、パンデックスT−1190(ディーアイシーバイエルポリマー社製)、レザミンP−2000シリーズ(大日精化工業(株)製)等;カーボネート系ポリウレタン共重合体の具体的な市販品としては、パンデックスT−7890N(ディーアイシーバイエルポリマー(株)製)等;エーテル・エステル系ポリウレタン共重合体の具体的な市販品としては、デスモパンDesKU2−88586(ディーアイシーバイエルポリマー(株)製)、レザミンP−800シリーズ(大日精化工業(株)製)等が挙げられる。
これらの熱可塑性ポリウレタン系エラストマー(TPU)は、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0023】
(A)成分の配合量は、(A)成分及び(B)成分の合計を100質量%として、5〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜60質量%であり、最も好ましくは20〜40質量%である。配合量が5質量%未満では、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーの特徴である耐傷性及び機械強度が不十分なものとなる傾向があり、80質量%を超えると、相溶性、加工性及び樹脂の表面性の点で不十分なものとなる傾向がある。
【0024】
次に、熱可塑性組成物の(B)成分であるエチレン重合体及び/又はエチレン系共重合体について説明する。
本発明で使用する(B)成分であるエチレン重合体は、エチレンが重合した構造を持つ高分子であり、具体例としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)などが挙げられる。
【0025】
本発明で使用する(B)成分であるエチレン系共重合体としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体等のエチレン系共重合体を挙げることができる。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体を公知の方法によってケン化し、あるいは、エチレン、酢酸ビニル、ビニルアルコールを公知の方法によりグラフト化することによって得られる、エチレン−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体等も使用することができる。
【0026】
上記した(B)成分として使用するエチレン重合体及びエチレン系共重合体の中でも、分散性の観点や、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと混合した場合に顕著な耐油性の向上が得られるという観点から、本発明においては、エチレン−酢酸ビニル共重合体を使用することが好ましい。またエチレン−酢酸ビニル共重合体における酢酸ビニル含有量は、25〜85質量%(10〜65モル%)であることが好ましく、さらに好ましくは約30〜85質量%(12〜65モル%)、最も好ましくは約40〜85質量%(18〜65モル%)である。酢酸ビニル含有量を25質量%より高くする事により力学的強度を保つことが出来、これによって、耐油性や難燃特性を維持することが可能となる。
本発明においては、これらのエチレン重合体及びエチレン系共重合体は、それぞれ単独で使用しても、2種以上を併用しても良い。
【0027】
本発明で使用するエチレン重合体及び/またはエチレン系共重合体の、分子量、密度、軟化点、溶媒への不溶分の割合、立体規則性の程度、触媒残渣の有無、原料となる単量体の種類や配合比率、重合触媒の種類等は、適宜選択すればよい。
(B)成分の配合量は、(A)成分及び(B)成分の合計を100質量%として、20〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは40〜90質量%であり、最も好ましくは60〜80質量%である。配合量が20質量%未満では、相溶性、加工性、樹脂の表面性の点で不満足なものとなる傾向があり、95質量%を超えると、耐傷性や機械強度のみならず、相溶性、加工性、及び樹脂の表面性の点で不満足なものとなる傾向がある。
【0028】
次に、本発明の難燃性熱可塑性組成物に使用する(C)成分と(D)成分について説明する。
(C)成分と(D)成分は難燃剤成分であり、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物の燃焼時に、表面膨張層(Intumescent)を形成して難燃性を発現する成分である。
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物において(C)成分として用いられる下記一般式(1)で表される(ポリ)リン酸塩化合物は、リン酸とアンモニアまたはトリアジン誘導体との塩である。

但し、(1)式中のnは1〜100の数を表し、Xはアンモニアまたは下記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体であり、pは、0<p≦n+2を満たす数である。

但し、(2)式中のZ及びZは同一でも異なっていてもよく、−NR基〔ここでR及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基もしくはメチロール基〕、水酸基、メルカプト基、炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐のアルコキシ基、フェニル基及びビニル基からなる群より選ばれる基である。
【0029】
上記一般式(2)における、Z及びZで表される炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第三アミル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル等が挙げられ、炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐のアルコキシ基としては、これらアルキル基から誘導される基が挙げられる。
【0030】
前記トリアジン誘導体の具体的な例としては、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4−ジアミノ−6−ノニル−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4,6−ジハイドロキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−エトキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−プロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−イソプロポキシ−1,3,5−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メルカプト−1,3,5−トリアジン、2−アミノ−4,6−ジメルカプト−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0031】
(C)成分として好ましく使用される(ポリ)リン酸塩化合物としては、リン酸とメラミンとの塩、又はポリリン酸アンモニウム化合物が挙げられる。好ましく使用されるリン酸とメラミンとの塩としては、例えば、オルトリン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン等が挙げられる。本発明においては、これらの中でも前記一般式(1)におけるnが2、pが2、Xがメラミンであるピロリン酸メラミンを使用することが特に好ましい。
【0032】
上記リン酸とメラミンとの塩は次の方法によって得ることができる。例えばピロリン酸メラミンの場合には、任意の反応比率のピロリン酸ナトリウムとメラミン混合物に塩酸を加えて反応させ、水酸化ナトリウムで中和してピロリン酸メラミンを得る。
また、前記ポリリン酸アンモニウム化合物は、ポリリン酸アンモニウム単体若しくはポリリン酸アンモニウムを主成分とする化合物である。このポリリン酸アンモニウム単体としては、市販品を使用することができる。市販品としては、クラリアント社製のエキソリット−422、エキソリット−700、モンサント社製のフォスチェク−P/30、フォスチェク−P/40、住友化学(株)製のスミセーフ−P、チッソ(株)製のテラージュ−S10、テラージュ−S20等を挙げることができる。
【0033】
本発明においては、ポリリン酸アンモニウムを主成分とする化合物を使用することもできる。このような化合物としては、ポリリン酸アンモニウムを熱硬化性樹脂で被覆若しくはマイクロカプセル化したものや、メラミンモノマーや他の含窒素有機化合物等でポリリン酸アンモニウム表面を被覆したもの、界面活性剤やシリコン処理を行ったものの他、ポリリン酸アンモニウムを製造する過程でメラミン等を添加して難溶化したもの等が挙げられる。
上記のポリリン酸アンモニウムを主成分とする化合物の市販品としては、クラリアント社製のエキソリット−462、住友化学(株)製のスミセーフ−PM、チッソ(株)製のテラージュ−C60、テラージュ−C70、テラージュ−C80等が挙げられる。
【0034】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物における(D)成分として用いられる下記一般式(3)で表される(ポリ)リン酸塩化合物は、リン酸とジアミンまたはピペラジンとの塩である。

但し、(3)式中のrは1〜100を表し、Yは〔RN(CH)mNR〕、ピペラジンまたはピペラジン環を含むジアミンであり、R、R、R及びRは、それぞれ水素原子、炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基であり、R、R、R及びRは同一の基であっても異なってもよく、mは1〜10の整数であり、qは、0<q≦r+2を満足する数である。
【0035】
上記一般式(3)におけるYで表されるジアミンの具体例としては、N,N,N’,N’−テトラメチルジアミノメタン、エチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−ジエチルエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1、7−ジアミノへプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9ージアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、ピペラジン、trans−2,5−ジメチルピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン等が挙げられ、全て、市販品を用いることができる。
【0036】
(D)成分として好ましく使用される(ポリ)リン酸塩化合物としては、リン酸とピペラジンとの塩が挙げられる。リン酸とピペラジンとの塩としては、具体的には、オルトリン酸ピペラジン、ピロリン酸ピペラジン、ポリリン酸ピペラジン等が挙げられる。本発明においては、これらの中でも、上記一般式(3)におけるqが1、Yがピペラジンであるポリリン酸ピペラジン、特にピロリン酸ピペラジンを使用することが好ましい。
【0037】
リン酸とピペラジンの塩は、公知の方法によって得ることができる。例えばピロリン酸ピペラジンの場合には、ピペラジンとピロリン酸とを水中又はメタノール水溶液中で反応させ、水難溶性の沈殿として容易に得ることができる。ただし、ポリリン酸ピペラジンの場合には、オルトリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、その他のポリリン酸の混合物からなるポリリン酸とピペラジンとから得られた塩でもよく、原料のポリリン酸の構成は特に限定されるものではない。
【0038】
上記(C)成分の配合量は、(A)成分及び(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは5〜60質量部、さらに好ましくは10〜35質量部である。一方(D)成分の配合量は、(A)成分及び(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは10〜90質量部、さらに好ましくは15〜50質量部である。
【0039】
難燃剤成分である上記(C)成分と(D)成分との合計配合量は、(A)成分及び(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは15〜150質量部、さらに好ましくは25〜85質量部である。15質量部未満では十分な難燃化効果が得られない場合があり、150質量部を超えて配合すると、樹脂としての特性を低下させる場合がある。また、上記(C)成分と上記(D)成分との配合比率(質量基準)は、(C)/(D)=20/80〜50/50であることが好ましく、(C)/(D)=30/70〜50/50であることが更に好ましい。
【0040】
次に、本発明の難燃性熱可塑性組成物の(E)成分のリン酸エステル化合物について説明する。
本発明で使用する(E)成分は、本発明で使用する(A)成分の熱可塑性ポリウレタンエラストマーと(B)成分のエチレン系共重合体の相溶性を改良し、さらに(C)成分と(D)成分のみならず、他の添加成分の組成物中における相溶性と分散性を改良する相溶化剤・分散剤として働く成分である。
(E)成分の縮合リン酸エステルは、下記一般式(4)で表される。

但し、(4)式中のR、R、R10及びR11は、同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜10のアルキル基、又は下記一般式(5)で表される芳香族基を表す。Rは下記一般式(6)又は(7)で表される2価の芳香族基を表し、sは0〜30の数を表す。
【0041】

但し、(5)式中のA及びAは、各々独立に水素原子、ヒドロキシ基又は炭素原子数1〜10のアルキル基を表し、(6)式及び(7)式中のA、A、A、A、A及びAは、各々独立に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子又はシアノ基を表す。Gは直接結合、2価のイオウ原子、スルホン基又は炭素原子数1〜5のアルキリデン基もしくはアルキレン基を表す。
【0042】
上記一般式(4)〜(7)におけるR、R、R10、R11、A、Aで表される炭素原子数1〜10のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第2ブチル、第3ブチル、アミル、第3アミル、ヘキシル、2−エチルヘキシル、n−オクチル、ノニル、デシル、デシル等が挙げられる。A、A、A、A、A及びAで表される炭素原子数1〜4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、第2ブチル、第3ブチル等が挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロヘキシル等が挙げられる。アリール基としては、フェニル、クレジル、キシリル、2,6−キシリル、2,4,6−トリメチルフェニル、ブチルフェニル、ノニルフェニル等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。また、一般式(5)で表される芳香族基としては、フェニル、クレジル、キシリル、2,6−キシリル、ブチルフェニル、ノニルフェニル等が挙げられる。Gで表される炭素原子数1〜5のアルキリデン基としては、エチリデン、イソプロピリデン等が挙げられ、炭素原子数1〜5のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン等が挙げられる。
また、(E)成分であるリン酸エステル化合物を表す上記一般式(4)において、sは0〜30であり、好ましくは1〜10である。
【0043】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物において(E)成分として使用されるリン酸エステル化合物の具体例としては、下記化合物No.1〜6が挙げられ、特に相溶性・分散性の向上効果が高いことから、化合物No.2の化合物を使用することが好ましい。



【0044】
これらのリン酸エステル化合物は単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物における(E)成分の配合量は、(A)成分及び(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.01〜15質量部、より好ましくは0.1〜10質量部、最も好ましくは0.5〜5質量部である。0.01質量部未満では、相溶性や分散性の向上効果が得られないことがあり、15質量部以上では、経済的に不利となる場合がある。
【0045】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、さらに(F)成分として、難燃助剤である、酸化亜鉛を含有することが好ましい。該酸化亜鉛は表面処理されていてもよい。本発明においては、市販されている酸化亜鉛を使用することができる。市販されている酸化亜鉛としては、例えば、酸化亜鉛1種(三井金属工業(株)製)、部分被膜型酸化亜鉛(三井金属工業(株)製)、ナノファイン50(平均粒径0.02μmの超微粒子酸化亜鉛:堺化学工業(株)製)、ナノファインK(平均粒径0.02μmの珪酸亜鉛被膜した超微粒子酸化亜鉛:堺化学工業(株)製)等があげられる。
(F)成分としての酸化亜鉛の配合量は、(A)成分及び(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、さらに好ましくは0.1〜5質量部である。
【0046】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、(A)成分と(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物に対し、(C)成分、(D)成分及び(E)成分を配合することを必須とするが、さらに(F)成分を含有することが好ましい。(C)〜(F)成分を熱可塑性樹脂組成物に配合するタイミングは特に制限されることはない。例えば、予め、(C)〜(F)成分の中から選択される2種以上をワンパック化して(A)成分と(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物に配合しても、個々の成分を(A)成分と(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物に対して配合してもよい。もちろん、(A)〜(F)成分を各々配合して難燃性熱可塑性樹脂組成物としてもよい。
【0047】
ワンパック化する場合、各成分を各々粉砕してから混合しても、混合してから粉砕してもよい。
また、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、フッ素系のドリップ防止剤を配合してもよい。ただしこれらのフッ素系ドリップ防止剤を配合した場合には、樹脂のメルトフローレート(MFR)の低下を引き起こす傾向が顕著であるため、注意が必要である。
【0048】
フッ素系のドリップ防止剤の具体例としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素系樹脂やパーフルオロメタンスルホン酸ナトリウム塩、パーフルオロ−n−ブタンスルホン酸カリウム塩、パーフルオロ−t−ブタンスルホン酸カリウム塩、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム塩、パーフルオロ−2−エチルヘキサンスルホン酸カルシウム塩等のパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩化合物またはパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して用いることができる。また同様に、その他のドリップ防止剤としてシリコンゴム類を配合することも可能である。
【0049】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、配合時における二次凝集の抑制や耐水性を改良するためにシリコーンオイルを配合してもよく、このようなシリコーンオイルとしては、特にメチルポリシロキサン構造を有するシリコーンオイルを使用することが好ましい。
メチルポリシロキサン構造のシリコーンオイルには、ジメチルポリシロキサン構造のみからなるものと、ジメチルポリシロキサン構造とメチルハイドロジェンポリシロキサン構造の両者を含む構造からなるものと、メチルハイドロジェンポリシロキサン構造のみからなるものがあげられる。また、上記シリコーンオイルは、エポキシ変性、カルボキシル変性、カルビノール変性及び/又はアミノ変性されたものでもよい。
【0050】
上記シリコーンオイルの具体例をあげると、メチルハイドロジェン構造が100%のものとしては、KF−99(信越化学(株)製)、一部がメチルハイドロジェン構造のものとしては、HMS−151(Gelest社製)、HMS−071(Gelest社製)、HMS−301(Gelest社製)、DMS−H21(Gelest社製)などがあり、エポキシ変性品としては、例えば、X−22−2000(信越化学(株)製)、KF−102(信越化学(株)製)、カルボキシル変性品としては、例えば、X−22−4015(信越化学(株)製)、カルビノール変性品としては、例えば、X−22−4015(信越化学(株)製)、アミノ変性品としては、例えば、KF−393(信越化学(株)製)などがあげられる。
【0051】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、樹脂成分として、(A)成分と(B)成分以外の合成樹脂を配合してもよい。このような合成樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−3−メチルペンテン等のα−オレフィン重合体及びこれらの共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、塩化ゴム、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン−酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル−シクロヘキシルマレイミド共重合体等の含ハロゲン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、スチレン及び/又はα−メチルスチレンと他の単量体(例えば、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、メタクリル酸メチル、ブタジエン、アクリロニトリル等)との共重合体(例えば、AS樹脂、ABS樹脂、MBS樹脂、耐熱ABS樹脂等)、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等の直鎖ポリエステル、ポリフェニレンオキサイド、ポリカプロラクタム及びポリヘキサメチレンアジパミド等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリカーボネート/ABS樹脂、分岐ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリウレタン、繊維素系樹脂等の熱可塑性樹脂及びこれらのブレンド物あるいはフェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。さらに、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム等のエラストマーであってもよい。
【0052】
さらに本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、滑剤を配合することも好ましい。
このような滑剤としては、流動パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、合成パラフィン、低分子量ポリエチレン等の純炭化水素系滑剤;ハロゲン化炭化水素系滑剤;高級脂肪酸、オキシ脂肪酸等の脂肪酸系滑剤;脂肪酸アミド、ビス脂肪酸アミド等の脂肪酸アミド系滑剤;脂肪酸の低級アルコールエステル、グリセリド等の脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸のポリグリコールエステル、脂肪酸の脂肪アルコールエステル(エステルワックス)等のエステル系滑剤;金属石鹸、脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、脂肪酸と多価アルコールの部分エステル、脂肪酸とポリグリコール、ポリグリセロールの部分エステル系の滑剤や、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、シリコーンオイル等が挙げられる。
滑剤の好ましい配合量は、(A)成分及び(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、0.01〜5質量部、好ましくは、0.1〜1質量部である。
【0053】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等を添加することにより安定化することが好ましい。
上記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ第三ブチル−p−クレゾール、2,6−ジフェニル−4−オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ホスホネート、1,6−ヘキサメチレンビス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4’−チオビス(6−第三ブチル−m−クレゾール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−第三ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−第三ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(6−第三ブチル−m−クレゾール)、2,2’−エチリデンビス(4,6―ジ第三ブチルフェノール)、2,2’−エチリデンビス(4−第二ブチル−6−第三ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−第三ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、2−第三ブチル−4−メチル−6−(2−アクリロイルオキシ−3−第三ブチル−5−メチルベンジル)フェノール、ステアリル(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル〕メタン、チオジエチレングリコールビス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサメチレンビス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2−第三ブチル−4−メチル−6−(2−ヒドロキシ−3−第三ブチル−5−メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5−トリス〔(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。これらは、(A)成分及び(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、0.001〜10質量部、好ましくは、0.05〜5質量部用いられる。
【0054】
前記リン系酸化防止剤としては、例えば、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2−第三ブチル−4−(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルチオ)−5−メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ第三ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6−トリ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−n−ブチリデンビス(2−第三ブチル−5−メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10−ジハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、2,2’−メチレンビス(4,6−第三ブチルフェニル)−2−エチルヘキシルホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−第三ブチルフェニル)−オクタデシルホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2−〔(2,4,8,10−テトラキス第三ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ〕エチル)アミン、2−エチル−2−ブチルプロピレングリコールと2,4,6−トリ第三ブチルフェノールのホスファイト等が挙げられる。これらは、(A)成分及び(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、0.001〜10質量部、好ましくは、0.05〜5質量部用いられる。
【0055】
前記チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類、及びペンタエリスリトールテトラ(β−アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類が挙げられる。これらは、(A)成分及び(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、0.001〜10質量部、好ましくは、0.05〜5質量部用いられる。
【0056】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、5,5’−メチレンビス(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)等の2−ヒドロキシベンゾフェノン類;2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ第三ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾ−ル、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾ−ル、2−(2’−ヒドロキシ−5’−第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、2,2’−メチレンビス(4−第三オクチル−6−(ベンゾトリアゾリル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−第三ブチル−5’−カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2−(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジ第三ブチルフェニル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ第三アミルフェニル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類;2−エチル−2’−エトキシオキザニリド、2−エトキシ−4’−ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル−α−シアノ−β,β−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;2−(2−ヒドロキシ−4−オクトキシフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−プロポキシ−5−メチルフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)−s−トリアジン等のトリアリールトリアジン類が挙げられる。これらは、(A)成分及び(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、0.001〜30質量部、好ましくは、0.05〜10質量部用いられる。
【0057】
上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルステアレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)・ジ(トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,4,4−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−ブチル−2−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、1−(2−ヒドロキシエチル)−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノ−ル/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−モルホリノ−s−トリアジン重縮合物、1,6−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4−ジクロロ−6−第三オクチルアミノ−s−トリアジン重縮合物、1,5,8,12−テトラキス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕−1,5,8,12−テトラアザドデカン、1,5,8,12−テトラキス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕−1,5,8−12−テトラアザドデカン、1,6,11−トリス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕アミノウンデカン、1,6,11−トリス〔2,4−ビス(N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ)−s−トリアジン−6−イル〕アミノウンデカン等のヒンダードアミン化合物が挙げられる。これらは、(A)成分及び(B)成分を主成分とする熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して、0.001〜30質量部、好ましくは、0.05〜10質量部用いられる。
【0058】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてp−第三ブチル安息香酸アルミニウム、芳香族リン酸エステル金属塩、ジベンジリデンソルビトール類等の造核剤、帯電防止剤、金属石鹸、ハイドロタルサイト、トリアジン環含有化合物、金属水酸化物、無機リン系難燃剤、シリコン系難燃剤、その他の無機系難燃助剤、その他の有機系難燃剤、充填剤、顔料、発泡剤等を添加してもよい。
【0059】
上記トリアジン環含有化合物としては、例えば、メラミン、アンメリン、ベンズグアナミン、アセトグアナミン、フタロジグアナミン、メラミンシアヌレート、ピロリン酸メラミン、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、メチレンジグアナミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3−ヘキシレンジメラミン等が挙げられる。
【0060】
前記金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化亜鉛、キスマー5A(水酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0061】
前記、その他の無機系難燃助剤としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの無機化合物、およびその表面処理品が挙げられ、例えば、TIPAQUE
R−680(酸化チタン:石原産業(株)製)、キョーワマグ150(酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製)、DHT−4A(ハイドロタルサイト:協和化学工業(株)製)、アルカマイザー4(亜鉛変性ハイドロタルサイト:協和化学工業(株)製)、などの種々の市販品を用いることができる。
【0062】
前記、その他の有機系難燃助剤としては、例えばペンタエリスリトールがあげられる。その他、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて通常合成樹脂に使用される添加剤、例えば、架橋剤、帯電防止剤、防曇剤、プレートアウト防止剤、表面処理剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、蛍光剤、防黴剤、殺菌剤、発泡剤、金属不活性剤、離型剤、顔料、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で、配合することができる。
【0063】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物を公知の方法によって成形することにより、難燃性合成樹脂成形体を得ることができる。成形方法は、特に限定されるものではなく、押し出し加工成形、カレンダー加工成形、射出成形、ロール成形、圧縮成形、ブロー成形等を例示することができる。これらの成型方法によって、樹脂板、シート、フィルム、異形品等の、種々の形状の成形品を製造することができる。
【0064】
又、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物及びその成形体は、電気・電子・通信、農林水産、鉱業、建設、食品、繊維、衣類、医療、石炭、石油、ゴム、皮革、自動車、精密機器、木材、建材、土木、家具、印刷、楽器等の幅広い産業分野に使用することができる。より具体的には、プリンター、パソコン、ワープロ、キーボード、PDA(小型情報端末機)、電話機、複写機、ファクシミリ、ECR(電子式金銭登録機)、電卓、電子手帳、カード、ホルダー、文具等の事務、OA機器、洗濯機、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ、照明器具、ゲーム機、アイロン、コタツ等の家電機器、TV、VTR、ビデオカメラ、ラジカセ、テープレコーダー、ミニディスク、CDプレーヤー、スピーカー、液晶ディスプレー等のAV機器、コネクター、リレー、コンデンサー、スイッチ、プリント基板、コイルボビン、半導体封止材料、LED封止材料、電線、ケーブル、トランス、偏向ヨーク、分電盤、時計等の電気・電子部品及び通信機器等の用途に用いられる。
【0065】
更に、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物及びその成形体は、座席(詰物、表地等)、ベルト、天井張り、コンパーチブルトップ、アームレスト、ドアトリム、リアパッケージトレイ、カーペット、マット、サンバイザー、ホイルカバー、マットレスカバー、エアバック、絶縁材、吊り手、吊り手帯、電線被覆材、電気絶縁材、塗料、コーティング材、上張り材、床材、隅壁、カーペット、壁紙、壁装材、外装材、内装材、屋根材、デッキ材、壁材、柱材、敷板、塀の材料、骨組及び繰形、窓及びドア形材、こけら板、羽目、テラス、バルコニー、防音板、断熱板、窓材等の、自動車、車両、船舶、航空機、建物、住宅及び建築用材料や、土木材料、衣料、カーテン、シーツ、合板、合繊板、絨毯、玄関マット、シート、バケツ、ホース、容器、眼鏡、鞄、ケース、ゴーグル、スキー板、ラケット、テント、楽器等の生活用品、スポーツ用品、等の各種用途に使用される。
これらの用途の中でも、特に、ノンハロゲンの電線、電線被覆材、ケーブル等の用途に適している。ハロゲンを使用しないので、廃棄が従来より容易になるという利点がある。
【0066】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、表1の配合は、すべて質量部基準である。
【0067】
〔実施例1〜 及び比較例1〜〕
熱可塑性ポリウレタン系エラストマー(大日精化工業(株)製:レザミンP−1078F)20質量部及びエチレン−酢酸ビニル共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン635)40質量部に、ステアリン酸カルシウム(滑剤)0.1質量部、テトラキス[3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル]メタン(フェノール系酸化防止剤)0.1質量部、トリス(2,4−ジ−第三ブチルフェニル)ホスファイト(リン系酸化防止剤)0.1質量部、グリセリンモノステアレート(滑剤)(理研ビタミン(株)製:S−100)0.3質量部、及びシリコーンオイル(滑剤)(信越化学工業((株):KF−96)を配合して得られた熱可塑性樹脂組成物と、下記表1に記載した成分を配合した。次いで、下記の加工条件で押し出してペレットを製造し、これを使用して190℃で射出成型し、1.6mm×12.7mm×127mmの難燃性試験用試験片とし、相溶性を評価するための電子顕微鏡(SEM)用試験片を得た。
【0068】
上記試験片の調製時に使用したエチレン−酢酸ビニル共重合体の替わりに、低密度ポリエチレン(日本ユニカー(株)製:PES−120)40質量部を用い、同様にして、試験片を得た。
得られた各試験片について、下記条件で加工性試験、難燃性試験、及び相溶性試験を行い評価した。結果を表1に示す。
【0069】
<加工性試験条件>
押し出し機:ラボプラストミル押出機(東洋精機(株)製)
温度:190℃
スクリュー:コニカル(二軸)
回転数:75rpm
ダイス:1mm×19mm
フィード:70〜85g/分
【0070】
<加工性試験評価>
加工性の評価は、上記押し出し加工時のストランドの表面を目視で確認し、以下の基準で評価することによって行った。
○:ストランドの表面が滑らかで、平滑性に優れる。
△:ストランドの表面に、少し凹凸が見られる。
×:ストランドの表面に、凹凸があり、平滑でない。
【0071】
<難燃性UL−94V試験方法>
長さ127mm、幅12.7mm、厚さ1.6mmの試験片を垂直に保ち、下端にバーナーの火を10秒間接炎させた後で炎を取り除き、試験片に着火した火が消える時間を測定した。次に、火が消えると同時に2回目の接炎を10秒間行ない、1回目と同様にして着火した火が消える時間を測定した。また、落下する火種により試験片の下の綿が着火するか否かについても同時に評価した。
1回目と2回目の燃焼時間、及び綿着火の有無等から、UL−94V規格にしたがって燃焼ランクをつけた。燃焼ランクはV−0が最高のものであり、V−1、V−2となるにしたがって難燃性は低下する。但し、V−0〜V−2のランクの何れにも該当しないものはNRとした。
【0072】
<相溶性試験>
電子顕微鏡(日本電子(株)製:JSM−6390LA)を用いて試験片の断面を確認した。断面の写真を図1〜4に示す。
その写真から相溶性を以下の基準で判定した。
○:相溶しており、相溶性・分散性に優れている。
△:やや非相溶の部分があり、相溶性・分散性にやや劣る。
×:非相溶であり、相溶性・分散性に劣る。
【0073】
また、表1に記載した(C)成分と(D)成分は、以下の方法で製造した。
〔製造例1〕
(C)成分:ピロリン酸メラミン
ピロリン酸とメラミンを1:1で反応させて製造した。
〔製造例2〕
(D)成分:ピロリン酸ピペラジン
ピロリン酸とピペラジンを1:1で反応させて製造した。
【0074】
表1に記載した(E)成分のリン酸エステル化合物としては、下記の、前記した化合物No.2を使用した。

化合物No.2





【0075】

【0076】
本発明の実施例1と2は、UL−94V試験においてV−0を達成している上、加工性と相溶性、及び分散性に優れることが確認された。これに対し、比較例1と2もUL−94V試験においてV−0を達成しているが、加工性と相溶性、及び分散性には劣っていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、機械的強度及び耐磨耗性に優れた熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、エチレン系共重合体を主成分とする熱可塑性樹脂組成物であるにもかかわらず、相溶性、分散性、加工性及び難燃性に優れているので、特に電線又はケーブルの被覆材料として好適である。また、ハロゲンを使用していないので環境適性にも優れており、産業上極めて有益である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1の相溶性試験のSEM写真対応図である
【図2】比較例1の相溶性試験のSEM写真対応図である
【図3】実施例2の相溶性試験のSEM写真対応図である
【図4】比較例2の相溶性試験のSEM写真対応図である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分である熱可塑性ポリウレタン系エラストマー及び(B)成分であるエチレン重合体及び/またはエチレン系共重合体を主成分とする熱可塑性樹脂組成物に対して、下記、(C)成分、(D)成分及び(E)成分を配合してなることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物;
(C)成分:
下記一般式(1)で表される(ポリ)リン酸塩化合物。

但し、(1)式中のnは1〜100の数を表し、Xはアンモニアまたは下記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体であり、pは、0<p≦n+2を満たす数である。

但し、(2)式中のZ及びZは同一でも異なっていてもよく、−NR基〔ここでR及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基もしくはメチロール基〕、水酸基、メルカプト基、炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基、炭素原子数1〜10の直鎖又は分岐のアルコキシ基、フェニル基及びビニル基からなる群より選ばれる基である。
(D)成分:
下記一般式(3)で表される(ポリ)リン酸塩化合物。

但し、(3)式中のrは1〜100を表し、Yは〔RN(CH)mNR〕、ピペラジンまたはピペラジン環を含むジアミンであり、R、R、R及びRは、それぞれ水素原子、炭素原子数1〜5の直鎖又は分岐のアルキル基であり、R、R、R及びRは同一の基であっても異なってもよく、mは1〜10の整数であり、qは、0<q≦r+2を満足する数である。
(E)成分:
下記一般式(4)で表されるリン酸エステル化合物。

但し、(4)式中のR、R、R10及びR11は、同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜10のアルキル基、または下記一般式(5)で表される芳香族基を表す。Rは下記一般式(6)または(7)で表される2価の芳香族基を表し、sは0〜30の数である。

但し、上式中のA及びAは各々独立に、水素原子、ヒドロキシ基または炭素原子数1〜10のアルキル基を表す。A、A、A、A、A及びAは各々独立に、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子又はシアノ基を表す。Gは直接結合、2価のイオウ原子、スルホン基または炭素原子数1〜5のアルキリデン基又はアルキレン基を表す。
【請求項2】
(F)成分として、更に酸化亜鉛を配合してなる、請求項1に記載された難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)成分として、前記一般式(1)におけるnが2、pが2、Xがメラミン(前記一般式(2)におけるZ及びZが−NH)であるピロリン酸メラミンを用いる、請求項1又は2に記載された難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(D)成分として、前記一般式(3)におけるqが1、Yがピペラジンであるポリリン酸ピペラジンを用いる、請求項1〜3の何れかに記載された、難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリリン酸ピペラジンがピロリン酸ピペラジンである、請求項4に記載された難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記(B)成分であるエチレン系共重合体がエチレン−酢酸ビニル共重合体である、請求項1〜5の何れかに記載された、難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記(A)成分の配合量が、(A)成分及び(B)成分の合計100質量%中の5〜80質量%である、請求項1〜6の何れかに記載された難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載された難燃性熱可塑性樹脂組成物を用いてなる、電線またはケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−37393(P2010−37393A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−200049(P2008−200049)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】