説明

雷電流分布推定システム

【課題】注入電流についての分流波形を簡易且つ精度良く検出し、落雷時における建造物の接地系統への雷電流分布を推定する。
【解決手段】雷電流分布推定システムは、建造物における複数の分岐路を有する接地系統の一地点から、所定の周波数及び所定の電流値を有する高周波微弱電流からなる注入電流を非接触にて注入する電流注入器30と、接地系統の他の地点に設置され、接地系統における分岐路を経由した注入電流の分流電流を非接触にて検出する電流検出器50と、検出された分流電流から所定の周波数の電流成分を抽出してピーク値を検出するピーク値検出手段61〜70と、ピーク値から所定の電流値に対する分流割合を算出すると共に、雷電流分流割合又は雷電流分流値を推定するための演算部69とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷時に、建造物の接地系統(例えば、接地線、接地構造体、あるいは導波管の外管部といった信号線の外部接地導体等)に侵入する雷電流の分布を推定する雷電流分布推定システムに係り、特に、建造物の接地系統の一地点から高周波微弱電流を注入し、他の各地点におけるその注入電流についての分流状態を測定し、この測定結果に基づいて、落雷時における建造物への雷電流分布の推定が可能な雷電流分布推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
落雷から設備機器を保護するため、建造物には各種の雷対策が施されている。例えば、避雷針による対策(直撃雷に対する保護)では、避雷針により落雷を受け止め、専用の避雷ケーブルを介して大地に埋設された接地体に雷電流を放流している。又、落雷時には、信号線や電源線に誘起電圧が生じ、過大電流が建造物に侵入するおそれがあるため、誘導雷に対する保護として、建造物内にはサージ防護デバイス(以下「SPD」という。)や耐雷トランスが配設されており、SPDにより、大地に埋設された接地体に過大電流を放流したり、耐雷トランスにより過大電流の侵入をブロックしている。
【0003】
他方、建造物に設置される接地が必要な設備機器は、建造物内に布設されるアースバーや建造物の鉄骨等に接地ケーブルを接続する等して、設備機器の接地を確保している。
【0004】
このように、建造物には接地系統が張り巡らされており、この接地系統にSPD等の防雷機器や各種の設備機器が接続されると共に、大地に埋設された接地体にその接地系統が接続されている。
【0005】
なお、避雷針用の接地体は、建造物の接地体と別個に配設される場合もあれば、建造物の接地体を共用する場合もある。
【0006】
ところで、上述したように、落雷時には誘起された雷電流(微小なものから、SPDが動作する程度の過大なものまで様々)が建造物の接地系統に流入する可能性があるので、接地系統の各地点における流入電流分布(割合)を把握し、接地系統の各地点に配設されている設備機器への影響の調査・分析が求められている。このような調査・分析が満足に行えるとなれば、ひいては、接地系統の見直し(接地線の引き回し変更等の構造的な見直しや、設備機器の配置変更等)を効果的に行えることとなり、建造物全体の耐雷性能の向上を図ることが可能となる。特に、近年は設備機器の集積(以下「IC」という。)化が進んでいるところ、IC機器は一般的に耐電圧や絶縁抵抗の特性が低いため、このような調査・分析は極めて重要であり、且つ意義がある。
【0007】
従来、接地系統の一地点から雷電流が侵入した場合、接地系統の各地点における雷電流分流の電流分布(割合)を把握するための雷電流分布推定システムとして、例えば次の(1)、(2)のようなシステムが知られている。
【0008】
(1) インパルス電圧を印加するシステム
このシステムは、例えば、下記の特許文献1に開示されているように、建造物(例えば、建造物の屋上に設置されている避雷針)に対し、実際の雷を模擬した比較的高圧のインパルス電圧を印加するシステムである。インパルス発生器により模擬雷(高圧波形)を建造物に印加し、建造物の複数箇所(測定ポイント)に設置した各測定器(例えば、電圧測定用のプローブ)により、電圧変化量を測定する。この試験結果に基づき、実際の雷電流が流入した際の雷電流分布を推定するものである。
【0009】
(2) 微弱電流を注入するシステム
このシステムは、基本的には大きく分けて、微弱電流を注入するための発生器と電流測定用の変流器(以下「CT」という。)とにより構成され、前記(1)のようなインパルス電圧を印加するシステムではなく、微弱電流を注入するシステムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4112871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の前記(1)、(2)のシステムでは、以下のような課題があった。
【0012】
(1) インパルス電圧を印加するシステムの課題
このシステムでは、次のような課題がある。
【0013】
(1・1) 試験時に数kV以上の大きなインパルス電圧を建造物に印加するため、建造物内に設置されている設備機器への悪影響が懸念される。又、雷対策として建造物内にはSPDが設置されているのが通例のところ、このような大きなインパルス電圧を印加した場合はSPDが反応することとなる。試験において何度もインパルス電圧を印加した場合は、SPDが劣化あるいは損傷してしまう可能性もある。
【0014】
(1・2) 印加する電圧が大きいため、感電等の試験中の安全対策に十分な配慮が必要である。
【0015】
(1・3) 装置・準備が大掛かりなものとなる。
【0016】
(1・4) 前記(1・3)の理由から実施コストが高い。
【0017】
(1・5) 準備に多大な時間を要する。
【0018】
(1・6) 一人で操作(測定)することは困難である。
【0019】
(1・7) 測定結果から分流分布を判断するためには、高度な経験と熟練を要する。
【0020】
(2) 微弱電流を注入するシステムの課題
建造物がおかれる環境は様々である。例えば、一般の住宅や商業ビル等は電気的ノイズが少ない環境下におかれることが多い。一方、変電所・発電所等の電力施設内に建設される局舎、各種産業の工場敷地内に建設される建物、あるいは鉄道路線の側近に建設される建物等は、必然的に電気的ノイズが大きい環境下におかれることになる。
【0021】
このシステムは、微弱な電流を注入する方式であるところ、電気的ノイズが大きい環境下におかれる建造物では、満足に試験が行えない。即ち、測定器において注入電流の分流波形を測定したとしても、測定波形はノイズによる影響を大きく受けてしまうため、目的の測定波形を得ることができない。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のうちの請求項1に係る発明の雷電流分布推定システムは、建造物における複数の分岐路を有する接地系統の一地点から、所定の周波数及び所定の電流値を有する高周波微弱電流からなる注入電流を非接触にて注入する電流注入器と、前記接地系統の他の地点に設置され、前記接地系統における前記分岐路を経由した前記注入電流の分流電流を非接触にて検出する電流検出器と、検出された前記分流電流から前記所定の周波数の電流成分を抽出してピーク値を検出するピーク値検出手段と、前記ピーク値から前記所定の電流値に対する分流割合を算出して雷電流分流割合又は雷電流分流値を推定する演算部とを備えている。そして、前記所定の周波数は、一周期分の波形のうち、立ち上がり部分である四分の一周期分の部分波形が、雷インパルス電流波形の立ち上がり部分波形に近似する波形とすることにより算出される周波数であることを特徴とする。
【0023】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の雷電流分布推定システムにおいて、前記電流注入器は、前記注入電流を前記一地点に注入するカレントインジェクションプローブにより構成されていることを特徴とする。
【0024】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の雷電流分布推定システムにおいて、前記電流検出器は、前記分流電流を検出する変流器により構成されていることを特徴とする。
【0025】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の雷電流分布推定システムにおいて、前記ピーク値検出手段は、少なくとも、検出された前記分流電流から、前記所定の周波数よりも高い高周波成分を遮断する第1フィルタと、前記第1フィルタの出力信号を増幅する信号増幅部と、前記信号増幅部の出力信号に対してフィルタ処理を行い、前記所定の周波数の電流成分を抽出して前記ピーク値を検出するフィルタ処理手段と、を有する第1系統のピーク値検出手段であることを特徴とする。
【0026】
請求項5に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の雷電流分布推定システムにおいて、前記ピーク値検出手段は、少なくとも、検出された前記分流電流から、前記所定の周波数よりも高い高周波成分を遮断する第1フィルタと、前記第1フィルタの出力信号を増幅する信号増幅部と、前記所定の周波数を有する参照信号を発生する信号発生部と、前記参照信号に同期して、前記信号増幅部の出力信号から前記参照信号と等しい周波数成分を検波し、前記ピーク値を検出する同期検波部と、を有する第2系統のピーク値検出手段であることを特徴とする。
【0027】
請求項6に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の雷電流分布推定システムにおいて、前記ピーク値検出手段は、第1系統のピーク値検出手段と、第2系統のピーク値検出手段とを備えている。
【0028】
前記第1系統のピーク値検出手段は、少なくとも、検出された前記分流電流から、前記所定の周波数よりも高い高周波成分を遮断する第1フィルタと、前記第1フィルタの出力信号を増幅する信号増幅部と、前記信号増幅部の出力信号に対してフィルタ処理を行い、前記所定の周波数の電流成分を抽出して前記ピーク値を検出するフィルタ処理手段とを有している。更に、前記第2系統のピーク値検出手段は、少なくとも、検出された前記分流電流から、前記所定の周波数よりも高い高周波成分を遮断する第1フィルタと、前記第1フィルタの出力信号を増幅する信号増幅部と、前記所定の周波数を有する参照信号を発生する信号発生部と、前記参照信号に同期して、前記信号増幅部の出力信号から前記参照信号と等しい周波数成分を検波し、前記ピーク値を検出する同期検波部とを有することを特徴とする。
【0029】
請求項7に係る発明は、請求項4又は6記載の雷電流分布推定システムにおいて、前記フィルタ処理手段は、前記信号増幅部の出力信号に対してデジタルフィルタ処理を行うデジタルフィルタ処理部により構成されていることを特徴とする。
【0030】
請求項8に係る発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の雷電流分布推定システム前記所定の周波数は、略10kHz〜150kHzの範囲の周波数、前記所定の電流値は、交流の略10mA〜500mAの範囲の電流値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明の雷電流分布推定システムによれば、以下の(1)、(2)のような効果がある。
【0032】
(1) 微弱電流を用いても分流波形を精度よく測定できる効果
(1・1) 接地系統の各地点(各測定ポイント)における分流波形の振幅のピーク値を簡易且つ精度良く検出することができる。即ち、測定の際に注入する電流が微弱である場合、当該微弱電流にノイズ(周波数や大きさ等の異なる種々のノイズ)が混入すると、通常は当該微弱電流の分流波形を測定することは極めて困難であるが、請求項1〜8に係る発明によれば、前記のようにシステムを構成したので、注入する電流が微弱であっても効果的にノイズを処理(除去)し、目的の分流波形の振幅のピーク値を簡易且つ精度良く検出することができる。
【0033】
特に、請求項6、7に係る発明のように、ピーク値検出手段を、デジタルフィルタ処理を行う第1系統のピーク値検出手段と、同期検波処理を行う第2系統ピーク値検出手段との両方により構成した場合には、両系統により検出すると共に、両系統の検出結果を比較することも可能となるため、更に精度良く接地系統の各地点における分流波形の振幅のピーク値を検出することができる。
【0034】
(1・2) 前記のように効果的にノイズを処理できるので、変電所や発電所等の建造物(電気的ノイズが大きい環境下におかれる建造物)においても、微弱電流を用いて何ら不都合なく測定を行うことができる。
【0035】
(1・3) 従来のインパルス電圧を印加するシステムであると、測定の際に大きな電圧を印加するので、建造物内への影響(例えば、建造物内の設備機器やSPDの損傷又は停電等)が懸念される。これに対し、本発明によれば、測定の際、微弱電流を用いるため、建造物内の設備機器へ与える影響を少なくすることができると共に、感電等の危険性が少ないため、作業者が安全に作業することができる。従って、本発明によれば、従来の懸念を解決でき、運用中(稼働中)の建造物に対して何ら問題なく測定を行うことができる。
【0036】
(1・4) 非接触の測定方式であるため、線の取り外し等を行う必要がなく、効率的に測定を行える。更に、操作性が簡便であり、1人で測定することも可能である。よって、従来のようなインパルス電圧を印加するシステムに比べ、準備等にかかる費用と時間を大幅に節約できる。
【0037】
(1・5) 測定対象の建造物が高層ビル等の場合、建造物の容積が大きいため(階層が多層で、各階層の面積も大きいため)、分流波形を測定したい地点が、場合によっては数十カ所に及ぶこともある。従来のインパルス電圧を印加するシステムであると、多箇所の同時測定は実質不可能である。これに対し、本発明によれば、注入電流を単発的な雷インパルス波形ではなく連続的な交流(以下「AC」という。)波形にしているので、長時間にわたる連続的な測定が可能であると共に、多箇所の同時測定が可能となる。
【0038】
(1・6) 前記のように接地系統の各地点における分流波形の振幅のピーク値を簡易且つ精度良く検出することができると共に、多箇所の同時測定も可能であるため、接地系統の各地点における分流(分布)の割合(対注入電流比)の算出も、精度良く可能となる。
【0039】
(2) 雷電流の分流波形について精度良く推定できる効果
請求項1に係る発明によれば、注入する高周波微弱電流の周波数は、一周期分の波形のうち、立ち上がり部分である四分の一周期分の部分波形が、雷インパルス電流波形の立ち上がり部分波形に近似する波形とすることにより算出される周波数としたので、流入電流が高周波微弱電流の場合における接地系統の各地点における分流割合と、流入電流が雷電流の場合の分流割合とを、同等であると推定できる。そのため、分流割合を本発明の高周波微弱電流にて測定することにより、雷電流が侵入した場合の分流割合を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は本発明の実施例1における雷電流分布推定システムを示す概略の構成図である。
【図2】図2は図1中の電流注入器30を示す概略の構成図である。
【図3】図3は図1中の電流検出器50を示す概略の構成図である。
【図4】図4は図1中の同期検波部66の構成を示す概略の回路図である。
【図5】図5は図1中の表示部71の構成例を示す概略の図である。
【図6】図6は変電所における無線鉄塔の局舎を例にした電流注入ポイント及び電流検出ポイントを示す模式図である。
【図7−1】図7−1は図1の試験結果例である注入電流波形を示す図である。
【図7−2】図7−2は図1の試験結果例である注入電流波形を示す図である。
【図7−3】図7−3は図1の試験結果例である注入電流波形を示す図である。
【図7−4】図7−4は図1の試験結果例である注入電流波形を示す図である。
【図8】図8は図4の同期検波部66における入出力波形を示す図である。
【図9−1】図9−1は試験結果例である図6の電流検出ポイントP1における信号波形図である。
【図9−2】図9−2は試験結果例である図6の電流検出ポイントP2における信号波形を示す図である。
【図9−3】図9−3は試験結果例である図6の電流検出ポイントP3における信号波形を示す図である。
【図9−4】図9−4は試験結果例である図6の電流検出ポイントP4における信号波形を示す図である。
【図9−5】図9−5は試験結果例である図6の電流検出ポイントP5における信号波形を示す図である。
【図9−6】図9−6は試験結果例である図6の電流検出ポイントP6における信号波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0042】
(実施例1の構成)
図1は、本発明の実施例1における雷電流分布推定システムを示す概略の構成図である。
【0043】
この雷電流分布推定システムは、高周波微弱電流からなる注入電流を接地系統における一地点から注入する電流注入装置10と、接地系統の他の地点(電流検出ポイント)における分流電流の分布(分流の割合)を測定する計測装置40とを備えている。
【0044】
電流注入装置10は、注入電流を発生する信号発生装置20と、この出力側に接続された電流注入器30とを備えている。電流注入器30は、信号発生装置20で発生された注入電流に基づき、建造物における複数の分岐路を有する接地系統の一地点から、所定の周波数及び所定の電流値を有する高周波微弱電流からなる注入電流を非接触にて注入するものである。
【0045】
注入対象箇所として接地系統の一地点に注入する電流特性としては、設置されている設備機器に対し、悪影響(誤動作等)を及ぼさないよう、注入電流は小さい値であることが望ましい。しかし、一方で、計測装置40側の電流検出器で読み取ることになる分流電流があまりにも小さい値であると読み取り不可能である。そのため、注入電流は、前記両条件を満足するよう、所定の周波数及び所定の電流値を有する高周波微弱電流としている。所定の周波数は、一周期分の波形のうち、立ち上がり部分である四分の一周期分の部分波形が、雷インパルス電流波形の立ち上がり部分波形に近似する波形とすることにより算出される周波数であり、例えば、略10〜150kHzの範囲の周波数であり、好ましくは100kHz程度が望ましい。更に、所定の電流値は、ACの略10〜500mAの範囲の電流値であることが望ましい。
【0046】
電流注入器30に対して注入電流を与えるための信号発生装置20は、例えば、所定周波数で発振する水晶発振器等の信号発生部21と、この信号発生部21の出力側に接続された信号増幅部22と、条件設定部23と、これらの信号発生部21、信号増幅部22及び条件設定部23を制御するための制御部24とを有している。
【0047】
信号増幅部22は、信号発生部21の出力信号を所定の増幅率で増幅して電流注入器30へ供給する回路である。これらの信号発生部21及び信号増幅部22により、注入電流が結果的にAC10〜500mA程度となるよう調整を行う構成になっている。例えば、信号発生部21から出力する信号波形を以下のようにすると共に、信号増幅部22の増幅率を以下のようにしている。そうすることで、AC10〜500mA程度の電流が注入対象箇所に注入されることとなる。
電圧;AC1V、増幅率;10倍、周波数;100kHz
【0048】
条件設定部23は、信号発生部21の出力電圧や周波数を設定するために種々の値の入力が可能で、更に、信号増幅部22の増幅率を設定するために種々の値の入力が可能になっており、設定用ボタン等により構成されている。制御部24は、制御信号S24a,S24b,S24cにより信号発生部21、信号増幅部22及び条件設定部23をそれぞれ制御し、条件設定部23に入力された各値を読み取り、信号発生部21に対して出力電圧や周波数をセットし、信号増幅部22に対して増幅率をセットする機能を有し、中央処理装置(以下「CPU」という。)等により構成されている。
【0049】
なお、注入対象箇所に注入される電流の値は、諸条件(例えば、接地系統の特性、電流注入器30の特性等)により変化するものであって、一様に定まるものではない。そのため、結果的に注入電流の値がAC10〜500mA程度になるよう、信号発生部21及び信号増幅部22で原電圧波形及び増幅率を設定している。それぞれの設定は、条件設定部23及び制御部24で行う。
【0050】
電流注入器30は、信号増幅部22からの出力電圧を受けて、非接触で接地系統の一地点に電流を注入するものであり、本実施例1では、例えば、カレントインジェクションプローブを用いている。
【0051】
計測装置40は、電流検出ポイントに設置されて非接触にて分流電流を検出する電流検出器50と、その検出された分流電流を解析してピーク値及び分流割合等を求める解析装置60とを備えている。
【0052】
電流検出器50は、例えば、CTにより構成され、この出力側に、解析装置60が接続されている。
【0053】
解析装置60は、電流検出器50で検出された分流電流から所定の周波数の電流成分を抽出してピーク値を検出するピーク値検出手段と、そのピーク値から所定の電流値に対する分流割合を算出して雷電流分流割合又は雷電流分流値を推定する演算部69等とを備えている。
【0054】
前記ピーク値検出手段は、原波形に対してフィルタ処理(例えば、デジタルフィルタ処理)を行う第1系統のピーク値検出手段と、原波形及び参照波形を入力して同期検波処理を行う第2系統のピーク値検出手段とを有している。
【0055】
第1系統のピーク値検出手段は、少なくとも、電流検出器50の出力側に接続された第1フィルタ61、信号増幅部62、及びフィルタ処理手段(例えば、デジタルフィルタ処理部70)により構成されている。この第1系統のピーク値検出手段には、検出精度を向上させるための第2フィルタ63や、デジタル処理を行うためのアナログ/デジタル変換部(以下「A/D変換部」という。)64等を設けることが望ましい。
【0056】
第2系統のピーク値検出手段は、少なくとも、第1フィルタ61、信号増幅部62、信号発生部65、及び同期検波部66により構成されている。この第2系統のピーク値検出手段には、検出精度を向上させるための第2フィルタ63及び第3フィルタ67や、デジタル処理を行うためのアナログ/デジタル変換部(以下「A/D変換部」という。)64等を設けることが望ましい。
【0057】
第1系統のピーク値検出手段において、第1フィルタ61は、電流検出器50で検出された分流電流から、所定の周波数よりも高い高周波成分を遮断するものであり、例えば、ローパスフィルタ(以下「LPF」という。)により構成されている。分流波形は、接地系統をたどってきたものであり、ノイズが含まれているため(特に、変電所等の建造物における分流波形は大きなノイズが含まれている場合が多いため)、第1フィルタ61を構成するLPFにより、一定の周波数帯の信号成分を遮断(カット)する。例えば、注入電流が100kHzである場合は、抽出したい分流波形の周波数も100kHzなので、500kHz以上の周波数成分をカットする。この第1フィルタ61の出力側には、信号増幅部62が接続されている。
【0058】
信号増幅部62は、注入電流が微弱な電流(例えば、AC10〜500mA程度)であってその注入電流の分流である分流電流が更に微弱なものとなるため、第1フィルタ61の出力信号を所定の増幅率で増幅するものである。電流注入装置10側の信号増幅部22と同様に、信号増幅部62の増幅率は可変である。この信号増幅部62の出力側には、第2フィルタ63が接続されている。第2フィルタ63は、信号増幅部62で増幅した信号に対して、念のためフィルタリングするためのものであり、第1フィルタ61と同様に、例えば500kHz以上の周波数成分をカットして、このアナログ出力信号S63をA/D変換部64の第1チャネルCh1へ与える構成になっている。
【0059】
第2系統のピーク値検出手段において、信号発生部65は、所定の周波数を有するパルス信号からなる参照信号S65を発生するものであり、水晶発振器等で構成されている。この信号発生部65の出力側には、同期検波部66が接続されている。同期検波部66は、参照信号S65に同期して、第2フィルタ63のアナログ出力信号S63からその参照信号S65と等しい周波数成分を検波して所定の周波数の電流成分を出力する回路であり、この出力側に、第3フィルタ67が接続されている。第3フィルタ67は、同期検波部66から出力される同期検波波形の出力信号S66を念のためにフィルタ処理し、このアナログ出力信号S67をA/D変換部64の第2チャネルCh2へ与える構成になっている。
【0060】
A/D変換部64は、第1チャネルCh1から入力された第2フィルタ63のアナログ出力信号S63をデジタル信号に変換すると共に、第2チャネルCh2から入力された第3フィルタ67のアナログ出力信号をデジタル信号に変換し、これらのデジタル信号を演算部69へ与える機能を有している。
【0061】
演算部69は、A/D変換部64の出力信号、及びデジタルフィルタ処理部70の出力信号等を入力し、検出された分流電流のピーク値から所定の電流値に対する分流割合を算出して雷電流分流割合又は雷電流分流値を推定する機能の他に、信号増幅部62、信号発生部65、条件設定部68、及びデータ出力手段(例えば、表示部71)を制御するための制御信号S69a,S69b,S69c,S69d等を出力する機能も有しており、CPU等で構成されている。
【0062】
条件設定部68は、信号発生部65の電圧や周波数を設定するための種々の値が入力可能であると共に、信号増幅部62の増幅率を設定するための種々の値が入力可能であり、且つ、表示部71の表示内容(例えば、リアルタイム表示、1秒更新表示、5秒更新表示等)の設定を行うものであり、設定用ボタン等により構成されている。条件設定部68で設定された条件は、演算部69により把握され、この演算部69から出力される制御信号S69a,S69b,S69c,S69dにより、信号増幅部62、信号発生部65、条件設定部68、及び表示部71が所定の動作を行う構成になっている。
【0063】
デジタルフィルタ処理部70は、第2フィルタ63のアナログ出力信号S63をA/D変換部64及び演算部69を介して入力し、目的の周波数帯の信号(例えば、100kHz帯の分流波形)を抽出してこの抽出結果を演算部69へ与える機能を有している。このデジタルフィルタ処理部70は、数学的なアルゴリズムを用いて高速演算(例えば、高速フーリエ変換やZ変換)することにより、目的の周波数帯の信号成分を抽出するものであり、アナログフィルタ処理に比べて信号対雑音比(SN比)が高く、目的の周波数帯以外の周波数帯の信号をほとんどカットできるメリットがある。
【0064】
前記演算部69は、具体的には次の(i)〜(iv)のような機能を有している。
(i) 演算部69は、デジタルフィルタ処理部70の出力信号が入力されると、デジタルフィルタ処理部70で抽出された目的の周波数帯の波形を把握し、ピーク値についても把握する。これにより、第1系統による波形測定が完了する。一方、演算部69は、A/D変換部64における第2チャネルCh2の出力信号が入力されると、A/D変換部64でA/D変換された同期検波波形を把握し、同期検波波形のピーク値についても把握する。なお、同期検波部66の回路特性上、同期検波後の波形の周波数は変形される場合もあるが、同期検波後の波形のピーク値は、目的の周波数帯の波形のピーク値と等しい値となる。そのため、同期検波後の波形のピーク値を、目的の周波数帯の波形のピーク値と見做すことができる。これにより、第2系統による波形測定が完了する。そして、演算部69は、第1系統で測定された分流波形のピーク値及び/又は第2系統で測定された分流波形のピーク値を表示するよう表示部71へ命令する。
【0065】
(ii) 上述したように、演算部69は、目的の周波数帯の波形のピーク値を把握する一方、条件設定によって注入電流値についても把握しているので、これらの値を基に、分流比についても算出し、この算出結果を表示するよう表示部71へ命令する。
【0066】
(iii) 演算部69は、流入電流が雷電流であった場合の分流比について推定する。この推定の原理は、本実施例1において、注入する高周波微弱電流の周波数は、一周期分の波形のうち、立ち上がり部分である四分の一周期分の部分波形が、雷インパルス電流波形の立ち上がり部分波形に近似する波形とすることにより算出される周波数であるので、流入電流が高周波微弱電流の場合における接地系統の各地点における分流割合と、流入電流が雷電流の場合の分流割合とを、同等と推定できる、ことに基づくものである。又、予め条件設定により、演算部69に対して一般的な雷電流の電流値を記憶させておけば(例えば、直撃雷時の雷電流値を数種類、誘導雷時の雷電流値を数種類記憶させておけば)、これらの一般的な雷電流値と、先程推定した分流比とに基づき、接地系統の各地点における雷電流の分流電流のピーク値を推定することもできる。そして、演算部69は、この推定結果を表示するよう表示部71に命令する。
【0067】
(iv) 演算部69は、測定又は推定した分流波形のピーク値又は分流比が所定のレベル以上の場合には、表示部71へ警報表示する旨の命令を出力することも可能である。
【0068】
表示部71は、液晶、発光ダイオード(以下「LED」という。)、ブザー部品等により構成されており、演算部69からの命令を受けて、第1系統で測定された分流波形のピーク値、第2系統で測定された分流波形のピーク値、分流比、雷電流分流比(推定)、雷電流の分流電流のピーク値(推定)等を表示する。又、演算部69から警報表示する旨の命令を受けた場合には、LEDを点灯させたり、あるいはブザー部品から警報音を発するようにする。なお、表示部71には、分流波形そのものを表示させるような機能をもたせても良い。
【0069】
図2は、図1中の電流注入器30を示す概略の構成図である。
図2の電流注入器30は、接地系統の一地点(例えば、導波管81)から非接触にて注入電流を注入するものであり、例えば、カレントインジェクションプローブにより構成されている。カレントインジェクションプローブは、導波管81の外側から着脱可能な2分割構造をしており、ドーナツ状のトロイダルコア31に導線32を巻き付けたものである。ACの注入電流を導線32に入力すると、トロイダルコア31を貫通する導波管81に起電力が誘導され、注入電流に対応した電流が導波管81に注入される構造になっている。
【0070】
本実施例1では、カレントインジェクションプローブのように非接触で注入電流を注入できる測定器具を採用したため、線の取り外しや結線等の作業を必要とせず、対象箇所に容易に効率的に測定器具をセットすることが可能になる。
【0071】
図3は、図1中の電流検出器50を示す概略の構成図である。
電流検出器50は、接地系統の他の地点(例えば、接地線83)における分流電流を非接触で検出するものであり、2分割型のCTで構成され、ドーナツ状のトロイダルコア51に導線52を巻き付けたものである。トロイダルコア51を貫通する接地線83に分流電流が流れると、起電力が誘導され、その分流電流に対応した電流が導線52から出力される構造になっている。
【0072】
本実施例1では、CTのように非接触で分流電流を抽出できる測定器具を採用したため、電流注入器30と同様に、線の取り外しや結線等の作業を必要とせず、対象箇所に容易に効率的に測定器具をセットすることが可能になる。
【0073】
図4は、図1中の同期検波部66の構成を示す概略の回路図である。
同期検波部66は、例えば、掛け算手段66a及びLPF66bより構成されている。第2フィルタ63のアナログ出力信号S63と参照信号S65とが掛け算手段66aにより乗算され、第2フィルタ63のアナログ出力信号S63に含まれる各種の信号の内、参照信号S65の周波数と等しい成分が検出され、LPF66bを通過する。これにより、第2フィルタ63のアナログ出力信号S63から参照信号S65と等しい周波数成分が検出され、この出力信号S66が第3フィルタ67へ出力される。
【0074】
なお、上述した通り、同期検波部66の回路特性上、同期検波後の波形の周波数は変形される場合もあるが、同期検波後の波形のピーク値は、目的の周波数帯の波形のピーク値と等しい値となる。
【0075】
図5は、図1中の表示部71の構成例を示す概略の図である。
この表示部71では、抽出された分流波形のピーク値(数字)だけを表示する簡易型の構造のものが示されている。表示内容の更新は、例えば、1秒毎に更新する等、自由に設定可能である。
【0076】
(実施例1の動作)
例えば、変電所等における無線設備の雷害被害が発生しており、接地の最適化が課題となっている。特に、無線鉄塔への落雷に伴い、無線鉄塔に近接する局舎内の設備への被害が多い。そのため、変電所における無線鉄塔に近接する局舎の最適な接地を行うために、本実施例1の雷電流分布推定システムを用いた場合の動作について、測定波形を図示しつつ具体的に説明すると、以下の通りである。
【0077】
図6は、変電所における無線鉄塔の局舎を例にした電流注入ポイント及び電流検出ポイントを示す模式図である。
【0078】
無線鉄塔75の近傍には局舎90が設置されており、無線鉄塔75と局舎90との間には、通信線路80が布設されている。ここで、通信線路80は例えば導波管81であり、局舎90の1階の引き込み口82より局舎90の内部に引き込まれている。導波管81は、送信機から送信アンテナへ、受信アンテナから受信機へ、マイクロ波、ミリ波帯の高周波電力を伝送するための伝送損失の小さな線路であり、この導波管81の外管部は、外部接地導体の役割も有している。一方、局舎90内には接地系統(接地線83、複数の接地線83を集合接続するための集合板84−1等、鉄骨等の接地構造体、信号線の外部接地導体等より形成される系統)が存在し、導波管81の外管部は前記接地系統と電気的に接続されている。
【0079】
局舎90の1階及び2階の内、1階には、設備機器として複数の集合板84−1,84−2、配線盤85、変電設備86等が設置され、更に、2階には、設備機器として複数の集合板84−3、観測装置87、制御装置88等が設置されている。1階の引き込み口82付近では、導波管81の外管部と接地線83aとが接続されており、接地線83aは集合板84−1に接続されている。又、1階に設けられた接地線83及び集合板84−1,84−2により形成された複数の分岐路を介して、複数の配線盤85及び変電設備86等が電気的に接続されている。同様に、2階に設けられた接地線83及び集合板84−3により形成された複数の分岐路を介して、複数の観測装置87及び制御装置88等が電気的に接続され、これらが1階の集合板84−2を介して、大地に埋設された接地体89に接続されている。
【0080】
ここで、図6のように、導波管81における1地点(電流注入ポイントP0の地点)から雷電流が流入し、局舎90の引き込み口82から内部の接地系統の分岐路を介して矢印方向へ分流電流が流れると仮定し、この場合の(I)電流注入ポイントP0における波形、(II)電流検出ポイントP1における波形、及び、(III)電流検出ポイントP2〜P6における波形について説明する。
【0081】
(I) 電流注入ポイントP0における波形
図7−1〜図7−4は、図1の試験結果例である注入電流波形を示す図である。
【0082】
導波管81における電流注入ポイントP0に、図2に示す電流注入器30を装着すると共に、局舎90内に設置された各設備機器の近傍の接地線83の各電流検出ポイントP1〜P6に、図3に示す電流検出器50を装着する。
【0083】
電流注入ポイントP0において、図1の電流注入装置10の図示しない電源スイッチをオン状態にすると、条件設定部23で設定された電圧、周波数、及び増幅率を読み取った制御部24の制御信号S24a,S24b,S24cにより、信号発生部21の電圧(例えば、AC1V)や周波数(例えば、100kHz)がセットされると共に、信号増幅部22の増幅率(例えば、10倍)がセットされる。
【0084】
すると、信号発生部21が発振して電圧AC1V、周波数100kHzの発振信号が出力され、これが信号増幅部22において増幅率10倍で増幅される。そのため、電流注入器30により、AC10〜500mAの注入電流が電流注入ポイントP0に注入される。
【0085】
図7−1の上側の注入波形図は、横軸の1目盛が5μS、縦軸の1目盛が200mVであり、信号発生部21から出力される電圧波形V21(AC1V、100kHz)を示している。
【0086】
図7−1の下側の注入波形図は、横軸の1目盛が5μS、縦軸の1目盛が20mAであり、電流注入ポイントP0付近(引き込み口82側)における電流波形I82を示している。この電流波形I82は、接地系統(導波管81の外管部)に注入された電流波形であり、参考として電流検出器50で読み取ったものを示したものである。電流波形I82は接地系統を辿った電流波形であるため、ノイズ成分が含まれているが、AC100mA、100kHzの波形であることが概ね把握でき、従って予定された注入電流波形が接地系統に注入されたことが把握できる。この電流波形I82が、接地系統(接地線83等)の各所に分流することとなる。
【0087】
ここで、本実施例1が上述したような周波数の注入電流波形を採用した背景・理由について説明すると、次の(a)〜(d)の通りである。
【0088】
(a) 注入電流波形を雷インパルス波形と同様の波形にすることも考えられるが、雷インパルス波形や方形波等の単一でない波形(複数の種類の周波数成分により形成される波形)にした場合、この分流波形(電流検出器側で抽出する目的の波形)を検出することは容易でないという問題がある。つまり、複数の種類の周波数成分により形成されている雷インパルスのような波形を抽出することは、信号処理(ノイズ除去等)が複雑となるため困難である。そのため、注入電流波形は、単一波であるAC波形を採用できるのであれば都合が良い。
【0089】
(b) 同期検波部66は、同期処理の特性上、特に単一波のAC波形については極めて精度良く抽出することができる一方、雷インパルスのような波形(複数の種類の周波数成分により形成される波形)を抽出することは困難である。そのため、注入電流波形は、単一波であるAC波形を採用できるのであれば都合が良い。
【0090】
(c) 接地改修工事についてであるが、接地改修工事着手前、接地改修工事中、接地改修工事後の一連の工事時間帯において、リアルタイム(連続的)に測定及び推定が可能であれば、例えば第1回目の接地線の引き回し変更後に測定及び推定し、第1回目の接地線引き回し変更の効果が十分でない場合は、その後直ぐに第2回目の同様の作業を行うといったように、接地改修工事を効率的に行うことができ、接地系統の最適化を短時間で行うことができる。このように、リアルタイム(連続的)に測定できるようにするためには、注入電流は、雷インパルス波形のような単発的な波形ではなく、AC波形のような連続的な波形であることが望まれる。そのため、注入電流波形は、連続的な波形であるAC波形を採用できるのであれば都合が良い。
【0091】
(d) 前記(a)〜(c)の通りであるから、単純に注入電流波形をAC波形とすれば良さそうであるが、当然のことながらAC波形は雷インパルス波形と異なるので、注入電流をAC波形にした場合、はたして雷電流分布の推定を精度良く行えるのかという疑問が生じる。つまり次の通りである。ACは、周波数が高ければ線路を伝搬する際にインダクタンスが高くなり、周波数が低ければインダクタンスが低くなる特性を有する。そのため、接地系統にインダクタンスの相違するAC波形を注入した場合、その相違により分流様相(各地点における分流比や減衰量等)が相違してしまう可能性が多分にある。そうすると、雷電流分布の推定精度に多大な影響を及ぼすという懸案が生じる。そこで、本発明者は、雷インパルス波形の分流様相と同等の分流様相を示すAC波の周波数について試験・研究した結果、AC波の周波数を「一周期分の波形のうち、立ち上がり部分である四分の一周期分の部分波形が、雷インパルス電流波形の立ち上がり部分波形に近似する波形とすることにより算出される周波数」とすることが最適であることを突き止めた。
【0092】
以上の背景・理由により、本実施例1の注入電流波形(換言すれば高周波微弱電流)が決定されたものである。前記の波形の近似について図示すると、図7−2〜図7−4の通りである。
【0093】
本願の雷インパルス電流波形とは、社団法人電気学会内の電気規格調査会(略称JEC:Japanese Electrotechnical Committee)の標準規格である「JEC−0202−1994 インパルス電圧・電流試験一般」で定義された波形のことである。雷インパルス電流波形には直撃雷の波形や誘導雷の波形があり、その一般的な波形は、2/70μS、8/20μS、10/350μSのように表される。
【0094】
図7−2は、最高値に達するまでの時間(立ち上がり時間)が早い雷インパルス電流波形とこれに近似する注入電流波形を示す図である。横軸の1目盛は、10μSである。
【0095】
図7−2において、上側の波形は雷インパルス電流波形であり、最高値に達する時間が2μSで、最高値の50%にまで減少する時間が70μSである。
【0096】
ここで、AC波の周波数を「一周期分の波形のうち、立ち上がり部分である四分の一周期分の部分波形が、雷インパルス電流波形の立ち上がり部分波形(本図では2μSの部分波形)に近似する波形とすることにより算出される周波数」として算出すると、周波数は略125kHzとなり、このAC電流波形は図7−2の下側の通りとなる。このようにして、立ち上がり時間が早い雷インパルス電流波形に対応する、ACの注入電流波形を算出したものである。
【0097】
図7−3は、最高値に達するまでの時間(立ち上がり時間)が比較的遅い雷インパルス電流波形とこれに近似する注入電流波形を示す図である。横軸の1目盛は、5μSである。
【0098】
図7−3において、上側の波形は雷インパルス電流波形であり、最高値に達する時間が8μSで、最高値の50%にまで減少する時間が20μSである。ここで、AC波の周波数を「一周期分の波形のうち、立ち上がり部分である四分の一周期分の部分波形が、雷インパルス電流波形の立ち上がり部分波形(本図では8μSの部分波形)に近似する波形とすることにより算出される周波数」として算出すると、周波数は略31.25kHzとなり、このAC電流波形は図7−3の下側の通りとなる。このようにして、立ち上がり時間が比較的遅い雷インパルス電流波形に対応する、ACの注入電流波形を算出したものである。
【0099】
図7−4は、最高値に達するまでの時間(立ち上がり時間)が遅い雷インパルス電流波形とこれに近似する注入電流波形を示す図である。横軸の1目盛は、50μSである。
【0100】
図7−4において、上側の波形は雷インパルス電流波形であり、最高値に達する時間が10μSで、最高値の50%にまで減少する時間が350μSである。ここで、AC波の周波数を「一周期分の波形のうち、立ち上がり部分である四分の一周期分の部分波形が、雷インパルス電流波形の立ち上がり部分波形(本図では10μSの部分波形)に近似する波形とすることにより算出される周波数」として算出すると、周波数は略25kHzとなり、このAC電流波形は図7−4の下側の通りとなる。このようにして、立ち上がり時間が遅い雷インパルス電流波形に対応する、ACの注入電流波形を算出したものである。
【0101】
これらの図7−2〜図7−4から分かるように、注入電流の周波数は、雷インパルス電流波形の立ち上がり時間に基づいて算出され、一般的な雷インパルス電流波形は上述した通りであるから、注入電流の周波数は10〜150kHzであることが望ましいこととなる。そこで、本実施例1においては、図7−1に示すように、信号発生部21から出力されるAC電圧波形V21の周波数を100kHzとし、電流注入ポイントP0に注入される注入電流のAC波形の周波数が100kHzとなるようにしたものである。
【0102】
(II) 電流検出ポイントP1における波形
図8は、図4の同期検波部66における入出力波形を示す図である。
【0103】
図9−1(a)、(b)は、試験結果例である図6の電流検出ポイントP1における信号波形図である。
【0104】
図9−1(a)の上側の波形図は、横軸の1目盛が5μS、縦軸の1目盛が20mAであり、電流検出ポイントP1における電流波形I50を示している。この電流波形I50は、参考として電流検出器50で読み取ったものを示した所謂生波形である。電流波形I50は接地系統を辿ってきた電流波形であるため、ノイズ成分が含まれているが、ピーク値はAC95mA程度で、周波数は100kHzであることが概ね把握できる。これより、電流波形I50は、注入電流波形(電流波形I82)の分流波形であると共に、分流比は95%(=AC95mA/AC100mA×100)であることが概ね把握できる。この電流波形I50が、解析装置60に入力され、デジタルフィルタ処理部70や同期検波部66にて信号処理されることとなる。なお、このように参考として生波形の電流波形I50を把握した理由は、解析装置60にて処理した後の波形と照らし合わし精度を確認するためである。そのため、実際にはこのような生波形を表示部71に表示する必要はない。
【0105】
図9−1(a)の下側の波形図は、横軸の1目盛が5μS、縦軸の1目盛が20mAであり、デジタルフィルタ処理部70で処理されたデジタルフィルタ処理後の電流波形I70を示している。電流波形I70はノイズ成分が無いAC波形(単一波)であり、ピーク値はAC95mAで、周波数は100kHzであることが確認できる。即ち、ノイズ成分が含まれた分流電流である電流波形I50について、ノイズを効率的且つ確実にカットし、目的の分流電流(注入電流波形I82の分流電流)を精度良く抽出できたことが分かる。
【0106】
従って、電流検出ポイントP1における分流波形のピーク値は95mAであり、分流比は95%であると算出される。そして、仮に同様に雷電流が侵入した場合、雷電流の分流比も95%であると推定される(理由は上述した通り)。なお、想定される侵入する雷電流値(ピーク値)を予め設定しておけば、前記推定された雷電流の分流比に基づき、侵入する雷電流の分流値(ピーク値)も推定できることとなる。例えば、一般的な事例に基づき、侵入する雷電流値(ピーク値)を30kAと仮定し、この数値を予め設定しておけば、ポイントP1における雷電流の分流値(ピーク値)は28.5kAであることが推定されることとなる。もっとも、このような過大な電流が実際に接地系統に流れると、設備機器が損傷する可能性が極めて高いため、実際には局舎内の適切な場所にSPDを設けるのが通例である。
【0107】
図9−1(b)の上段の波形図は、縦軸のスケールの関係により外観は相違するが、上述した電流検出ポイントP1における電流波形I50であるので、当該波形の説明は省略する。
【0108】
図9−1(a)の中段の波形図は、横軸の1目盛が5μS、縦軸の1目盛が5Vであり、同期検波部66に入力される参照信号S65を示している。周波数が100kHzの信号を抽出したいため、参照信号S65は100kHzで周期を繰り返すパルス波を採用している。なお、ピーク値は5Vの電圧波形である。
【0109】
図9−1(a)の下段の波形図は、横軸の1目盛が5μS、縦軸の1目盛が40mAであり、同期検波部66で処理された後、更に第3フィルタで処理された後の電流波形I67を示している。電流波形I67はノイズ成分が無いAC波形(単一波)であり、ピーク値はAC95mAであることが確認できる。即ち、ノイズ成分が含まれた分流電流である電流波形I50について、ノイズを効率的且つ確実にカットし、目的の分流電流(注入電流波形I82の分流電流)のピーク値を精度良く抽出できたことが分かる。なお、上述した通り、同期検波によれば、信号処理の特性上、同期検波後の波形の周波数は、必ずしも目的の波形の周波数に一致するものではないが、目的の波形のピーク値については精度良く算出するものであり、この点については同図のI67の波形が示す通りである。
【0110】
従って、電流検出ポイントP1における分流波形のピーク値は95mAであり、分流比は95%であると算出される。そして、仮に同様に雷電流が侵入した場合、雷電流の分流比も95%であると推定される(理由は上述した通り)。なお、想定される侵入する雷電流値(ピーク値)を予め設定しておけば、前記推定された雷電流の分流比に基づき、侵入する雷電流の分流値(ピーク値)も推定できることとなる。例えば、一般的な事例に基づき、侵入する雷電流値(ピーク値)を30kAと仮定し、この数値を予め設定しておけば、ポイントP1における雷電流の分流値(ピーク値)は28.5kAであることが推定されることとなる。もっとも、このような過大な電流が実際に接地系統に流れると、設備機器が損傷する可能性が極めて高いため、実際には局舎内の適切な場所にSPDを設けるのが通例である。
【0111】
次に、解析装置60における信号処理動作を含めて更に説明すると、以下の通りである。
図6の電流検出ポイントP1に装着された図3の電流検出器50では、電流検出ポイントP1に流れる分流電流を検出する。この検出された分流電流の電流波形I50は、図9−1(a)、(b)に示すように、接地系統をたどってきてノイズが含まれているため、第1フィルタ61により、一定の周波数帯の信号成分がカットされる。注入電流が100kHzである場合は、抽出したい分流波形の周波数100kHzよりも大きな例えば500kHz以上の周波数成分がカットされる。
【0112】
注入電流は微弱電流(本実施例1ではAC100mA)であり、この注入電流から分流される分流電流は更に微弱なものとなる。そのため、第1フィルタ61の出力信号は、条件設定部68及び演算部69で設定された増幅率に基づき、信号増幅部62で増幅される。増幅された信号は、念のため、第2フィルタ63によりフィルタリングされる。第2フィルタ63では、第1フィルタ61と同様に、例えば、500kHz以上の周波数成分がカットされ、このアナログ出力信号S63が、デジタルフィルタ処理部70側の第1系統と同期検波部66側の第2系統とに分岐される。
【0113】
第1系統側において、A/D変換部64は、第2フィルタ63のアナログ出力信号S63を第1チャネルCh1に入力してデジタル信号に変換し、演算部69を介してデジタルフィルタ処理部70へ送る。デジタルフィルタ処理部70は、演算部69により制御され、変換されたデジタル信号に対してデジタルフィルタ処理を行い、図9−1(a)に示すような目的の周波数帯の電流波形I70(即ち、100kHz帯の分流波形)を抽出し、その分流波形(ピーク値を含む。)を把握し、演算部69に伝える。
【0114】
演算部69は、デジタルフィルタ処理部70で抽出された電流波形I70を把握するため、電流波形I50のピーク値が95mAであることを認識する。演算部69は、このように分流波形のピーク値を認識するので、分流波形の分流比について95%と算出すると共に、この算出結果に基づき、分流電流が雷電流であった場合の分流比についても95%であると推定する。更に、演算部69は、分流電流が雷電流であった場合の分流比を95%と推定するので、分流電流が雷電流であった場合の雷電流値(ピーク値)についても推定する。そして、演算部69は、条件設定部68から出力された信号に応じ、これらの値を表示部71に表示するよう命令する。
【0115】
表示部71は、演算部69からの表示命令を受け、「分流波形(電流波形I70)のピーク値:95mA」、「注入波形(電流波形I82)に対する分流比:95%」、「雷電流の分流比(推定):95%」、「雷電流のピーク値(推定):28.5kA」である旨を表示する。
【0116】
一方、第2系統側において、同期検波部66は、図8及び図9−1(b)に示すように、信号発生部65から出力された参照信号S65に同期して、第2フィルタ63のアナログ出力信号S63から、その参照信号S65と等しい周波数成分を検波する。
【0117】
ここで、図8に示すように、同期検波部66に入力される参照信号S65は、目的の分流波形と同様の周波数(例えば、100kHz)を有するパルス波形(方形波)である。同期検波部66は、第2フィルタ63のアナログ出力信号S63が所定の周波数信号(=参照信号S65)を含んでいるか否かを確認するための回路であり、第2フィルタ63のアナログ出力信号S63と参照信号S65とを掛け算手段66aでアナログ的に掛け算し、LPF66bで高周波成分を除去して同期検波波形の出力信号S66を出力する。この出力信号S66のピーク値は、第2フィルタ63のアナログ出力信号S63中に含まれる参照信号S65のピーク値を表すことになる。
【0118】
なお、同期検波波形の出力信号S66の周波数は、必ずしも参照信号S65の周波数と一致しない。出力信号S66のピーク値は、第2フィルタ63のアナログ出力信号S63に含まれる参照信号S65の周波数のピーク値である。即ち、出力信号S66から、分流波形のピーク値を把握できる。
【0119】
出力信号S66は、第3フィルタ67により、念のためフィルタ処理され、このアナログ出力信号S67がA/D変換部64へ出力される。A/D変換部64は、第3フィルタ67から出力されたアナログ出力信号S67を第2チャネルCh2に入力し、デジタル信号に変換して演算部69へ与える。
【0120】
演算部69は、変換されたデジタル信号(同期検波波形:電流波形I67)を把握するため、電流波形I50のピーク値が95mAであることを認識する。演算部69は、このように分流波形のピーク値を認識するので、分流波形の分流比について95%と算出すると共に、この算出結果に基づき、分流電流が雷電流であった場合の分流比についても95%であると推定する。更に、演算部69は、分流電流が雷電流であった場合の分流比を95%と推定するので、分流電流が雷電流であった場合の雷電流値(ピーク値)についても推定する。そして、演算部69は、条件設定部68から出力された信号に応じ、これらの値を表示部71に表示するよう命令する。
【0121】
表示部71は、演算部69からの表示命令を受け、「分流波形(電流波形I50)のピーク値:95mA」、「注入波形(電流波形I82)に対する分流比:95%」、「雷電流の分流比(推定):95%」、「雷電流のピーク値(推定):28.5kA」である旨を表示する。
【0122】
上述したように、演算部69は、デジタルフィルタ処理に基づいて算出及び推定した各種の値を表示部71に表示しても良く、同期検波処理に基づいて算出及び推定した各種の値を表示部71に表示しても良い。しかし、例えば、双方の処理による各種の値を比較し、誤差がある場合は平均値を算出して、この平均値を表示部71に表示するようにしても良い。このような演算処理を加えることにより、更に精度を向上することが可能になる。
【0123】
(III) 電流検出ポイントP2〜P6における波形
図9−2(a)、(b)〜図9−6(a)、(b)は、試験結果例である図6の電流検出ポイントP2〜P6における信号波形を示す図であり、図9−1(a)、(b)中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0124】
図9−2(a)、(b)〜図9−6(a)、(b)についての説明は、図9−1(a)、(b)についての説明と同様となるため、詳細は省略し、各ポイントにおいて検出された電流波形のピーク値及び分流比について説明する。
【0125】
図9−2(a)、(b)の通り、ポイントP2における分流波形(電流波形I50)のピーク値等は以下のように算出又は推定される。但し、雷電流が侵入したと仮定した場合の雷電流値(ピーク値)は30kAと設定されているものとする。
分流波形(電流波形I50)のピーク値 :40mA
※デジタルフィルタ処理及び同期検波処理の両方共に40mA
注入波形(電流波形I82)に対する分流比 :40%
雷電流の分流比(推定) :40%
雷電流のピーク値(推定) :12kA
【0126】
図9−3(a)、(b)の通り、ポイントP3における分流波形(電流波形I50)のピーク値等は以下のように算出又は推定される。但し、雷電流が侵入したと仮定した場合の雷電流値(ピーク値)は30kAと設定されているものとする。
分流波形(電流波形I50)のピーク値 :30mA
※デジタルフィルタ処理及び同期検波処理の両方共に30mA
注入波形(電流波形I82)に対する分流比 :30%
雷電流の分流比(推定) :30%
雷電流のピーク値(推定) :9kA
【0127】
図9−4(a)、(b)の通り、ポイントP4における分流波形(電流波形I50)のピーク値等は以下のように算出又は推定される。但し、雷電流が侵入したと仮定した場合の雷電流値(ピーク値)は30kAと設定されているものとする。
分流波形(電流波形I50)のピーク値 :10mA
※デジタルフィルタ処理及び同期検波処理の両方共に10mA
注入波形(電流波形I82)に対する分流比 :10%
雷電流の分流比(推定) :10%
雷電流のピーク値(推定) :3kA
【0128】
図9−5(a)、(b)の通り、ポイントP5における分流波形(電流波形I50)のピーク値等は以下のように算出又は推定される。但し、雷電流が侵入したと仮定した場合の雷電流値(ピーク値)は30kAと設定されているものとする。
分流波形(電流波形I50)のピーク値 :10mA
※デジタルフィルタ処理及び同期検波処理の両方共に10mA
注入波形(電流波形I82)に対する分流比 :10%
雷電流の分流比(推定) :10%
雷電流のピーク値(推定) :3kA
【0129】
図9−6(a)、(b)の通り、ポイントP6における分流波形(電流波形I50)のピーク値等は以下のように算出又は推定される。但し、雷電流が侵入したと仮定した場合の雷電流値(ピーク値)は30kAと設定されているものとする。
分流波形(電流波形I50)のピーク値 :90mA
※デジタルフィルタ処理及び同期検波処理の両方共に90mA
注入波形(電流波形I82)に対する分流比 :90%
雷電流の分流比(推定) :90%
雷電流のピーク値(推定) :27kA
【0130】
これらの図9−1(a)、(b)〜図9−6(a)、(b)に示すように、接地線83において異なる地点に設定される電流検出ポイントP1〜P6毎に、デジタルフィルタ処理後の電流波形I70及び同期検波処理後の電流波形I67が異なり、その結果、分流比も異なる。
【0131】
なお、図7−1〜図7−4、及び図9−1〜図9−6は、試験結果例を示す波形図であるが、これらはイメージを優先させて図示しているので、若干実際とは異なる部分もある。即ち、実際には、電流検出器50から出力される電流波形は、図1中の各フィルタ61,62,67等の段階で減衰してしまったり、あるいは、信号増幅部62にて増幅されるため、電流検出器50から出力された電流波形のピーク値と、A/D変換部64の第1チャネルCh1から出力された電流波形のピーク値、あるいは、A/D変換部64の第2チャネルCh2から出力された電流波形のピーク値とは、一致しない。これについては、演算部69で補正することにより、電流検出器50から出力された電流波形を推定して算出している。
【0132】
(実施例1の効果)
本実施例1の雷電流分布推定システムによる効果をまとめれば、以下の(1)〜(5)の通りである。
【0133】
(1) 微弱電流を用いても分流波形を精度よく測定できる効果
(1・1) 接地系統の各地点(各測定ポイント)における分流波形の振幅のピーク値を簡易且つ精度良く検出することができる。即ち、測定の際に注入する電流が微弱である場合、当該微弱電流にノイズ(周波数や大きさ等の異なる種々のノイズ)が混入すると、通常は当該微弱電流の分流波形を測定することは極めて困難であるが、図1のようにシステムを構成したので、注入する電流が微弱であっても効果的にノイズを処理(除去)し、目的の分流波形の振幅のピーク値を簡易且つ精度良く検出することができる。
【0134】
特に、ピーク値検出手段を、デジタルフィルタ処理を行う第1系統のピーク値検出手段と、同期検波処理を行う第2系統ピーク値検出手段との両方により構成した場合には、両系統により検出すると共に、両系統の検出結果を比較することも可能となるため、更に精度良く接地系統の各地点における分流波形の振幅のピーク値を検出することができる。
【0135】
(1・2) 前記のように効果的にノイズを処理できるので、変電所や発電所等の建造物(電気的ノイズが大きい環境下におかれる建造物)においても、微弱電流を用いて何ら不都合なく測定を行うことができる。
【0136】
(1・3) 従来のインパルス電圧を印加するシステムであると、測定の際に大きな電圧を印加するので、建造物内への影響(例えば、建造物内の設備機器やSPDの損傷又は停電等)が懸念される。これに対し、本実施例1によれば、測定の際、微弱電流を用いるため、建造物内の設備機器へ与える影響を少なくすることができると共に、感電等の危険性が少ないため、作業者が安全に作業することができる。従って、本実施例1によれば、従来の懸念を解決でき、運用中(稼働中)の建造物に対して何ら問題なく測定を行うことができる。
【0137】
(1・4) 非接触の測定方式であるため、線の取り外し等を行う必要がなく、効率的に測定を行える。更に、操作性が簡便であり、1人で測定することも可能である。よって、従来のようなインパルス電圧を印加するシステムに比べ、準備等にかかる費用と時間を大幅に節約できる。
【0138】
(1・5) 測定対象の建造物が高層ビル等の場合、建造物の容積が大きいため(階層が多層で、各階層の面積も大きいため)、分流波形を測定したい地点が、場合によっては数十カ所に及ぶこともある。従来のインパルス電圧を印加するシステムであると、多箇所の同時測定は実質不可能である。これに対し、注入電流を単発的な雷インパルス波形ではなく連続的なAC波形にしているので、長時間にわたる連続的な測定が可能であると共に、多箇所の同時測定が可能となる。
【0139】
(1・6) 前記のように接地系統の各地点における分流波形の振幅のピーク値を簡易且つ精度良く検出することができると共に、多箇所の同時測定も可能であるため、接地系統の各地点における分流(分布)の割合(対注入電流比)の算出も、精度良く可能となる。
【0140】
(2) 雷電流の分流波形について精度良く推定できる効果
注入する高周波微弱電流の周波数は、一周期分の波形のうち、立ち上がり部分である四分の一周期分の部分波形が、雷インパルス電流波形の立ち上がり部分波形に近似する波形とすることにより算出される周波数としたので、流入電流が高周波微弱電流の場合における接地系統の各地点における分流割合と、流入電流が雷電流の場合の分流割合とを、同等であると推定できる。そのため、分流割合を本実施例1の高周波微弱電流にて測定することにより、雷電流が侵入した場合の分流割合を精度良く推定することができる。
【0141】
(3) 調査・分析に資する効果
前記のように雷電流が侵入した場合の接地系統の各地点における分流割合を精度良く推定できるので、接地系統の各地点に配設されている設備機器への影響の調査・分析が可能となる。即ち、落雷時に設備機器へ流入する可能性がある雷電流の程度を精度よく推定できるので、接地系統の各地点に配設されている設備機器の耐電圧・耐電流特性と照らし合わせることにより、設備機器への影響(誤動作発生リスク、絶縁破壊の危険性等)を調査・分析することが可能となる。特に、近年は設備機器のIC化が進んでいるところ、IC機器は一般的に耐電圧や絶縁抵抗の特性が低いため、このような調査・分析は極めて重要であり且つ意義があるところ、このようなニーズに応えることができる。
【0142】
(4) 接地系統の見直しに資する効果
(4・1) 前記のように接地系統の各地点に配設されている設備機器への影響の調査・分析が可能となるので、ひいては、接地系統の見直し(接地線の引き回し変更等の構造的な見直し)や設備機器の配置変更といった方策を効果的に講じることができ、建造物全体の耐雷性能の向上を図ることが可能となる。そのため、本実施例1のシステムは、耐雷設計評価装置として利用することも可能である。
【0143】
(4・2) 上述のように簡便に測定及び推定を行えるため、接地系統見直し前(接地改修工事前)と接地系統見直し後(接地改修工事後)の効果検証を容易に行うことが可能である。見直し前後の効果は、測定及び推定した分流値から直接的に確認することができる。
【0144】
(4・3) 上述のように簡便に測定及び推定を行えるため、接地改修工事着手前、接地改修工事中、接地改修工事後の一連の工事時間帯において、必要の都度或いはリアルタイムで測定及び推定が可能である。そのため、例えば第1回目の接地線の引き回し変更後に測定及び推定し、第1回目の接地線引き回し変更の効果が十分でない場合は、その後直ぐに第2回目の同様の作業を行うといったように、接地改修工事を効率的に行うことができ、接地系統の最適化を短時間で行うことができる。
【0145】
(5) その他の効果
従来、落雷により設備機器が損傷した場合には、何らかの方法で原因の探求と検証を行っているが、このような原因の探求と検証を本実施例1にて行うことができる。
【0146】
(実施例1の変形例)
本発明は、上記実施例1に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。この利用形態や変形例としては、例えば、次の(A)〜(D)のようなものがある。
【0147】
(A) 図1の雷電流分布推定システム、図2の電流注入器30、図3の電流検出器50、及び図4の同期検波部66は、図示以外の他の回路等で構成しても良い。例えば、A/D部64、演算部69、及びデジタルフィルタ処理部70は、これらの機能を一体化したワンチップマイクロコンピュータ(以下「ワンチップマイコン」という。)で構成して回路構成を簡単化したり、あるいは、ワンチップマイコン以外の回路で構成しても良い。
【0148】
(B) 精度を気にしなければ、図1の第1系統、第2系統のいずれか一方の系統のみを備えた構成にしても良く、これにより回路構成を簡単化できる。例えば、第1系統のみを設ける場合は、信号発生部65、同期検波部66及び第3フィルタ67を削除してA/D変換部64を1チャネル型構成に変更すれば良い。又、第2系統のみを設ける場合は、デジタルフィルタ処理部70を削除する構成に変更すれば良い。
【0149】
(C) 図1の第1系統では、デジタルフィルタの方が検出精度を向上できるので、デジタルフィルタを用いて演算部69によりデジタルフィルタ処理を行っているが、本発明はこれに限定されず、アナログフィルタを用いてフィルタ処理を行っても良い。
【0150】
(D) 図1の計測装置40側において、演算部69により制御される送信手段を追加し、表示部71に表示させる表示内容をその通信手段により外部へ送信する構成にしても良い。これにより、遠隔監視も可能になる。
【符号の説明】
【0151】
10 電流注入装置
20 信号発生装置
30 電流注入器
40 計測装置
50 電流検出器
60 解析装置
66 同期検波部
69 演算部
70 デジタルフィルタ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物における複数の分岐路を有する接地系統の一地点から、所定の周波数及び所定の電流値を有する高周波微弱電流からなる注入電流を非接触にて注入する電流注入器と、
前記接地系統の他の地点に設置され、前記接地系統における前記分岐路を経由した前記注入電流の分流電流を非接触にて検出する電流検出器と、
検出された前記分流電流から前記所定の周波数の電流成分を抽出してピーク値を検出するピーク値検出手段と、
前記ピーク値から前記所定の電流値に対する分流割合を算出して雷電流分流割合又は雷電流分流値を推定する演算部とを備え、
前記所定の周波数は、一周期分の波形のうち、立ち上がり部分である四分の一周期分の部分波形が、雷インパルス電流波形の立ち上がり部分波形に近似する波形とすることにより算出される周波数であることを特徴とする雷電流分布推定システム。
【請求項2】
前記電流注入器は、前記注入電流を前記一地点に注入するカレントインジェクションプローブにより構成されていることを特徴とする請求項1記載の雷電流分布推定システム。
【請求項3】
前記電流検出器は、前記分流電流を検出する変流器により構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の雷電流分布推定システム。
【請求項4】
前記ピーク値検出手段は、少なくとも、
検出された前記分流電流から、前記所定の周波数よりも高い高周波成分を遮断する第1フィルタと、
前記第1フィルタの出力信号を増幅する信号増幅部と、
前記信号増幅部の出力信号に対してフィルタ処理を行い、前記所定の周波数の電流成分を抽出して前記ピーク値を検出するフィルタ処理手段と、
を有する第1系統のピーク値検出手段であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の雷電流分布推定システム。
【請求項5】
前記ピーク値検出手段は、少なくとも、
検出された前記分流電流から、前記所定の周波数よりも高い高周波成分を遮断する第1フィルタと、
前記第1フィルタの出力信号を増幅する信号増幅部と、
前記所定の周波数を有する参照信号を発生する信号発生部と、
前記参照信号に同期して、前記信号増幅部の出力信号から前記参照信号と等しい周波数成分を検波し、前記ピーク値を検出する同期検波部と、
を有する第2系統のピーク値検出手段であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の雷電流分布推定システム。
【請求項6】
前記ピーク値検出手段は、
第1系統のピーク値検出手段と、第2系統のピーク値検出手段とを備え、
前記第1系統のピーク値検出手段は、少なくとも、
検出された前記分流電流から、前記所定の周波数よりも高い高周波成分を遮断する第1フィルタと、
前記第1フィルタの出力信号を増幅する信号増幅部と、
前記信号増幅部の出力信号に対してフィルタ処理を行い、前記所定の周波数の電流成分を抽出して前記ピーク値を検出するフィルタ処理手段とを有し、
前記第2系統のピーク値検出手段は、少なくとも、
検出された前記分流電流から、前記所定の周波数よりも高い高周波成分を遮断する第1フィルタと、
前記第1フィルタの出力信号を増幅する信号増幅部と、
前記所定の周波数を有する参照信号を発生する信号発生部と、
前記参照信号に同期して、前記信号増幅部の出力信号から前記参照信号と等しい周波数成分を検波し、前記ピーク値を検出する同期検波部とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の雷電流分布推定システム。
【請求項7】
前記フィルタ処理手段は、前記信号増幅部の出力信号に対してデジタルフィルタ処理を行うデジタルフィルタ処理部により構成されていることを特徴とする請求項4又は6記載の雷電流分布推定システム。
【請求項8】
前記所定の周波数は、略10kHz〜150kHzの範囲の周波数、
前記所定の電流値は、交流の略10mA〜500mAの範囲の電流値であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の雷電流分布推定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図9−4】
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【図9−5】
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【図9−6】
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【公開番号】特開2011−149729(P2011−149729A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9172(P2010−9172)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000222037)東北電力株式会社 (228)
【出願人】(000130835)株式会社サンコーシヤ (64)
【Fターム(参考)】