説明

電位差測定方法

【課題】 化学反応が生じている溶液に対して,任意の時点で計測を行うことができる生体試料分析装置,手段を提供する。
【解決手段】 測定法として電位差計測法を用いて,反応開始(すなわち,分注した検体試料に試薬溶液を添加・混合)と同期して測定を行い,得られた電位差から検体試料中の測定対象物の濃度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,生体試料中,特に血液や尿中の分析対象成分を測定する電位差計測装置およびそれを用いた測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野における血液,尿等の生体試料の定性・定量分析は,検体試料と試薬を反応させた反応液の吸光度変化を測定する比色法が主に用いられおり,この方式を自動化した生化学自動分析装置で行われている。生化学自動分析装置としては,フロータイプからディスクリートタイプまで様々な機種が開発されている。現在では,検体試料と試薬溶液の反応容器への分注,検体試料と試薬溶液の攪拌,反応溶液の吸光度変化測定等の全ての操作を自動化したディスクリートタイプが主流である(例えば,特許文献1,2)。これらの装置は,比色法を測定原理とするため,大型で高価な光学系が必要であった。比色法で用いられる試薬は,検体試料中の測定対象物と特異的に反応する酵素や化学物質が単独であるいは複数組み合わせて使用されている。例えば,血糖値の測定では,測定対象物質であるグルコースを基質とするヘキソキナーゼを用いて,ATP存在下でグルコースにリン酸を付加し,生成したグルコース−6−リン酸をNADP存在下でグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼによる脱水素反応の際に生じるNADPHの吸収度の増加により目的のグルコース濃度を得ている。
【0003】
吸光光度法を用いた呈色法で測定対象物の濃度を求める方法としては,通常,エンドポイント法が用いられている。エンドポイント法は,反応開始前の測定値と反応終了後の測定値から測定対象物の濃度を求める方法である。反応開始前の測定値は,検体試料中の測定対象物と反応する試薬成分を除いた試薬(例えば緩衝液)と検体試料との混合溶液を測定した値であり,反応終了後の測定値は,その混合溶液に測定対象物との反応を生じさせる成分を含有する試薬を添加して反応終了後に測定した値である。
【0004】
一方,光学系を必要としない測定法としては,検体試料の濃度を電気化学的に測定する方法がある。本方式は測定原理が電気化学的測定法であり,大型で複雑な装置が不要であり,装置システムが小型になる利点を有している。電気化学的測定法には,酸化還元反応に伴い作用電極に流れる電流値を測定する電流計測法と,化学反応に伴い変化する測定電極の界面電位を測定する電位差計測法がある。
【0005】
電気化学的測定で用いられる試薬は,比色法で用いられる試薬と同様に測定対象物と特異的に反応する酵素や化学物質が単独であるいは複数組み合わせて使用されている。例えば,電流方式を用いた血糖値の測定では,測定対象物質であるグルコースを基質とするグルコースオキシダーゼで酸素あるいはメディエータ存在下でグルコースを酸化することにより,グルコノラクトンと過酸化水素水が生成する。生成した過酸化水素水を電極に流れる電流として測定することにより,測定対象物質であるグルコース濃度を測定する(非特許文献1)。本方式では,酵素を含む反応試薬が予め測定電極上に保持されており,サンプル注入口から導入された検体試料は流路を通り,測定電極表面に達成して,所定の酵素反応が開始する構成になっている。
【0006】
電位差計測方式では,グルコースオキダーゼによる酸化反応を酸化還元反応のメディエータであるフェリシアン化カリウムとフェロシアン化カリウムの酸化還元電位の変化として測定して,測定対象物質であるグルコース濃度を測定する(特許文献4,5)。電位差計測方式でも,通常,酵素を含む反応試薬が予め測定電極上に保持されており,導入された検体試料が測定電極表面に達成して,所定の酵素反応が開始する構成になっている(特許文献4)。また,測定容器を用いる場合には,酵素等の試薬を含む反応溶液が予め保持された測定容器中に検体試料を注入後の一定時間後の電位差,または検体試料を注入前もしくは注入直後の電位差と一定時間後の電位差との変化量を用いて測定対象物の濃度を求めていた(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2525063号
【特許文献2】WO2002/05962
【特許文献3】特開2005-345173号公報
【特許文献4】特許第3387926号
【特許文献5】特開2008-128803号広報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Pure & Appl. Chem., Vol.68, (1996) pp.1837-1841
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら,従来の生化学自動分析装置では,任意の時点で測定を行うことが現実的ではなかった。例えば,吸光度法を用いた装置では,単一の吸光度計測部と複数の測定容器が装置に含まれているため,時間分割して複数容器の吸光度測定を行っていた。そのため,任意の時点で測定を行うこと,複数の測定容器を同時に計測することはできなかった。さらに,通常,吸光度法を用いた装置では,検体と試薬の混合・攪拌を行った後に吸光度の測定を行っていた。混合・攪拌と吸光度計測は通常別の場所で行われていたため,混合・攪拌を行っている最中は吸光度の測定は行えなかった。また,仮に,混合・攪拌と吸光度の測定を同時に行ったとしても,攪拌棒などの攪拌素子や攪拌により生じた気泡が光路をさえぎってしまう恐れがあり,安定な測定を阻害する恐れがあった。
【0010】
電気化学的計測法を用いることで,測定容器ごとに計測部を設けることが容易となる。なぜなら,吸光度計測が光学系を必要とするため吸光度計測装置が大型になるのに比べて,電気化学的計測法は光学系を必要としない電気的測定法であるため計測部を小型にすることができるからである。しかし,電気化学的計測法の一つである電流計測法では電極の表面積に信号強度が依存するため,複数の計測部を設けた際に,計測部間での電極面積のわずかな違いに起因する信号強度の違いを補正する,いわゆるキャリブレーションを行う必要がある。さらに,測定を行うことで電極表面に汚れが付着するなどして電極の実効的な表面積が変化した場合,キャリブレーションをしなおす必要があり,手間がかかってしまう。本発明は,化学反応が生じている溶液に対して,任意の時点で計測を行うことができる生体試料分析装置,手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために,電位差計測法を用いて,混合・攪拌を行いながら測定を行った。測定容器中に測定に用いる電極を配置し,測定容器内に溶液を分注し,溶液の分注と同期して攪拌と計測を開始した。例えば,測定容器中に予め血清・血漿・全血などの検体試料を分注しておき,さらに測定容器中に第1の反応溶液を分注し,第1の反応溶液の分注と同期して攪拌と電位計測を開始した。第2の反応溶液を用いる場合は,さらに測定容器中に第2の反応溶液を分注し,第2の反応溶液の分注と同期して電位計測を行った。また別の手順として,測定容器中に予め第1の反応溶液を分注しておき,電極を第1の反応溶液に接触させておき,さらに測定容器中に検体試料を分注し,検体試料の分注と同期して攪拌と電位計測を開始した。これらの計測手順においては,攪拌を開始してから測定終了まで攪拌を継続することが望ましいが,攪拌を途中で停止しても測定を行うことはでき,上記課題を解決することはできる。
【0012】
得られた測定値から混合に要する時間や測定値のゆらぎを求め,データベースと比較をし,攪拌が正常に行われたか判定する。必要に応じて得られた測定値に対し逆畳み込み演算を施し,化学反応が一瞬で終わったと仮定した場合の測定値,すなわち伝達関数を求める。求めた伝達関数から混合に要する時間や測定値のゆらぎを求め,攪拌が正常に行われたか判定する。混合に要する時間は,例えば,溶液の分注から最終的な測定値の9割となるまでの時間とする。ゆらぎの大きさは,例えば,溶液の分注後の測定値から極大値と極小値を求め,それらの差分とする。
【0013】
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)測定対象物を含有する試料溶液を測定容器に分注する第1の分注工程と,測定対象物と反応する第1の試薬を含む第1の反応溶液を前記測定容器に分注する第2の分注工程と,前記測定容器中に分注された前記第1の反応溶液を撹拌する撹拌工程と,前記測定容器中に配置された測定電極の界面電位を測定する複数の測定工程とを有し,前記測定工程のうち少なくとも1つは前記第2の分注に同期して開始され,前記攪拌工程は前記第2の分注に同期して開始することを特徴とする電位差測定方法。
(2)前記撹拌工程は,前記測定容器中に分注された前記試料溶液と前記第1の反応溶液との混合溶液を撹拌する工程であることを特徴とする(1)に記載の方法。
(3)前記測定工程のうち少なくとも1つは前記撹拌工程を伴わないことを特徴とする(2)に記載の方法。
(4)前記撹拌工程を続けながら,前記第2の分注工程後に,前記測定対象物と反応する第2の試薬を含む第2の反応溶液を前記測定容器に分注する第3の分注工程を有し,前記測定工程のうち少なくとも1つは前記第3の分注に同期して開始されることを特徴とする(1)に記載の方法。
(5)前記第2の分注工程後に,前記測定対象物と反応する第2の試薬を含む第2の反応溶液を前記測定容器に分注する第3の分注工程と,前記測定容器中に分注された前記第2の反応溶液を撹拌する第2の撹拌工程とを有し,前記測定工程のうち少なくとも1つは前記第3の分注に同期して開始され,前記測定工程のうち少なくとも1つは前記撹拌工程も前記第2の攪拌工程も伴わず,前記第2の攪拌工程は前記第3の分注に同期して開始することを特徴とする(1)に記載の方法。
(6)前記第2の分注工程後に前記第1の分注工程を有し,前記測定工程のうち少なくとも1つは前記第1の分注に同期して開始されることを特徴とする(1)に記載の方法。
(7)前記測定容器中に分注された試料溶液を撹拌する第2の撹拌工程を有し,前記測定工程のうち少なくとも1つは前記撹拌工程も前記第2の攪拌工程も伴わず,前記第2の撹拌工程を前記第1の分注工程に同期して開始することを特徴とする(6)に記載の方法。
(8)前記攪拌工程は前記第2の分注ではなく前記第1の分注に同期して開始することを特徴とする(6)に記載の方法。
(9)前記測定工程のうち少なくとも1つは前記撹拌工程を伴わないことを特徴とする(6)に記載の方法。
(10)前記第1の反応溶液もしくは第2の反応溶液によって生じる反応は,酵素反応または酸化還元反応であることを特徴とする(1)乃至(9)いずれかに記載の方法。
(11)前記測定工程により得られた電位差の時系列データにおいて,前記データの立ち上がりにおける一定時間のデータを標準データと比較し,比較結果を出力する工程を有することを特徴とする(1)乃至(10)いずれかに記載の方法。
(12)前記測定工程により得られた電位差の時系列データにおいて,前記データの極大値と極小値との差異を,標準データと比較し,比較結果を出力する工程を有することを特徴とする(1)乃至(10)いずれかに記載の方法。
(13),前記測定工程により得られた電位差の時系列データにおいて,前記時系列データから伝達関数を導き,前記伝達関数の逆関数を導き,前記逆関数と前記時系列データとの演算により入力関数を求める工程を有することを特徴とする(1)乃至(10)いずれかに記載の方法。
(14)前記入力関数において,前記入力関数の立ち上がりにおける一定時間のデータを標準データと比較し,比較結果を出力する工程を有することを特徴とする(13)に記載の方法。
(15)前記入力関数において,前記入力関数の極大値と極小値との差異を,標準データと比較し,比較結果を出力する工程を有することを特徴とする(13)に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
電位差計測では攪拌による測定への影響が小さいため,電位差計測法を用いることで攪拌を行いながら測定を行うことが可能となる。溶液の分注と同期して攪拌と計測を行うことで,これまでは行うことのできなかった試薬や検体を混合した直後から溶液の反応過程を測定でき,精度良い測定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電位差計測装置の一例を示すブロック図。
【図2】電位差計測装置の一例を示すブロック図。
【図3】電位差計測装置を用いた測定動作の一例を示す図。
【図4】測定動作の一例を示すフローチャート。
【図5】測定動作の一例を示すフローチャート。
【図6】測定動作の一例を示すフローチャート。
【図7】測定動作の一例を示すフローチャート。
【図8】測定動作の一例を示すフローチャート。
【図9】測定動作の一例を示すフローチャート。
【図10】測定動作の一例を示すフローチャート。
【図11】測定動作の一例を示すフローチャート。
【図12】異常検出の一例を示す図。
【図13】異常検出の一例を示す図。
【図14】逆演算の一例を示す図。
【図15】電位差計測装置に使用する測定電極の構造例を示す図。
【図16】電位差計測装置のほかの実施例を示すブロック図。
【図17】FETセンサを用いた電位差計測装置に使用する分析素子の構造の一例を示す図。
【図18】測定結果の一例を示す図。
【図19】測定結果の一例を示す図。
【図20】測定結果の一例を示す図。
【図21】測定結果の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1は,本発明による電位差計測装置の一例を示すブロック図である。本実施例の測定装置は,電位差測定用電極101,参照電極102,攪拌装置103,測定容器104,制御装置105,データ処理装置106,データ表示装置107,検体試料分注装置108,試薬溶液分注装置109,洗浄装置110から構成される。電位差測定用電極101は,金等の貴金属やカーボンからなる電極を用いることができる。また,生体成分測定時の夾雑物の影響を低減のために,電極表面に酸化還元物質を固定化して使用しても良い。酸化還元物質としては,フェロセン,ピリジン,ピリミジン等を使用すれば良い。参照電極102は,測定容器104中の溶液に接触した電位差測定用電極101の表面で起こる平衡反応あるいは化学反応に基づく電位変化を安定に測定するために,基準となる電位を与える。通常は参照電極102としては,飽和塩化カリウムを内部溶液に使用している銀・塩化銀電極,あるいは甘こう(カロメル)電極が用いられるが,測定する試料溶液の組成が一定であったりして必要な測定精度が確保できる場合には,疑似電極として内部溶液を含まない銀・塩化銀電極を使用することもできる。攪拌装置103は測定容器内に分注された溶液の攪拌を行う。攪拌装置103は,回転軸の先端に取り付けられたヘラを溶液内で攪拌するものであっても,測定容器外部の磁石を回転させ溶液内に配置した磁石を回転させるいわゆるマグネチックスターラーであってもよい。円筒形の測定容器を回転させ溶液を攪拌しても良い。電位差測定用電極101と参照電極102を一体化させた一体化電極とし,さらには,一体化電極を回転させて溶液を攪拌しても良い。測定容器104は角セルのような角を有する容器では分注された検体試料,試薬溶液と測定容器104内の溶液との攪拌混合がやり難いので,曲線を有する容器,例えば円筒形の容器が望ましい。制御装置105は,電位差測定用電極と参照電極間の電位測定と,電位差測定用電極,参照電極,攪拌装置,検体試料分注装置,試薬溶液分注装置,洗浄装置の移動および動作の制御を行う。電位差測定用電極101と参照電極102間の電位測定を行う電位測定装置111には,入力インピーダンスが1GΩ以上の電圧計・OPアンプ・FET(Field Effect Transistor)を用いることが望ましい。電位差測定装置111は電位差測定用電極101と一体化してもよい。データ処理装置106は演算装置112,一時記憶装置113,不揮発性記憶装置114を有し,電位差測定装置111で取得した信号を演算し検体試料中の測定対象物濃度を求めたり,異常判定を行ったり,フィッティングを行ったり,逆畳み込み演算を行ったりする。データ表示装置107はデータ処理装置106に接続されていて,各種データの表示を行う。検体試料用分注装置108は,別途準備する検体試料を分取し測定容器104内に分注するのに用いる。試薬溶液分注装置109は,別途準備する試薬溶液を分取し測定容器104内に分注するのに用いる。洗浄装置110は,測定容器104内の測定溶液を排出したり,別途準備する洗浄液を用いて測定容器104を洗浄したりするのに用いる。検体試料用分注装置108,試薬溶液分注装置109,洗浄装置110で液体を分取・分注する機構にはシリンジポンプやペリスタポンプ(チューブポンプ)を使用することができる。
【0018】
図2は,本発明による電位差計測装置の別の一例を示すブロック図である。基本的な構成とそれらの役割は図1と同様であるが,電位差測定用電極,参照電極,攪拌装置,測定容器の組を複数有していて,異なる検体試料や異なる測定対象物質を同時に測定することができる。電位差測定装置は各組に対応する数だけ用いても良いし,必要な精度が確保できる場合にはマルチプレクサなどを用いて単一の電位差測定装置でそれぞれの電位差を測定しても良い。吸光度計測などの光学系を必要とする計測方法と異なり,電気的計測では電極を小型にすることが容易であるため,装置が巨大化し設置面積や装置体積当たりのスループットが大幅に低下することは生じない。さらに,電位差計測は理論的に電極面積に信号強度が依存しないため電極を小型化することができ,電極を複数設けたことによる装置の大型化を抑制することができる。複数の電極間での出力信号強度の違いは,標準溶液を測定し,補正をする。いわゆる,キャリブレーションを行う。電位差計測では電極表面が汚れるなどして実効的な表面積が変化したとしても,電極表面の抵抗値に比べて大きな入力インピーダンスを有する電圧計を用いれば,出力信号強度は変化せず,再度キャリブレーションを行う必要は無い。
【0019】
図3は,本発明による電位差計測装置を用いた測定動作の一例を示す図である。測定手順は以下の通りである。最初,図3(a)に示すように,測定容器301に検体試料用分注装置302を用いて検体試料303を分注する。次に,図3(b)に示すように,電位差測定用電極304,参照電極305および攪拌素子306を測定容器301に設置する。この状態では,分注された検体試料303と参照電極305および攪拌素子306は接していない。次に,測定容器301中に試薬溶液分注装置307を用いて試薬溶液を分注する。試薬溶液の分注と同期して攪拌素子306による攪拌混合と電位差測定用電極304の電位測定を開始する(図3(c))。さらに,測定容器301内に試薬溶液分注装置307を用いて別の試薬溶液を分注する。このとき,攪拌素子306による攪拌は継続して行い,電位差測定用電極304の電位測定も継続して行う。測定終了後,電位差測定用電極304,参照電極305および攪拌素子306を測定容器301外に移動し,測定容器301内の溶液を洗浄装置308を用いて吸出し,洗浄装置308から洗浄液を吐出・吸引することで測定容器301を洗浄する。
【0020】
図4は,本発明による図1もしくは図2の電位差計測装置を用いた測定動作の一例を示すフローチャートである。縦軸は時間を表し,上から下に向かって時間が経過していく。まず,検体試料用分注装置108などの分注手段により検体試料を測定容器104に分注する(401)。次に,試薬溶液分注装置109などの分注手段により試薬溶液を分注する(402)。この試薬分注に同期して攪拌素子103などの攪拌手段により検体試料と試薬溶液がよく混合されるように攪拌し(403),おなじく同期して電位差測定用電極101と参照電極102の間の電位差を電位測定装置111を用いて測定する(404)。攪拌による電位への影響を一定に保つため,攪拌は測定の間一定の割合で継続して行うことが望ましいが,その影響が求める測定精度よりも小さい場合,検体試料と試薬溶液を十分に混合した後に攪拌を止めても良い。その場合,フローチャートは図5のようになる。その後,計測を続け(405),測定開始から一定時間経過したり,測定したデータを分析し検体溶液中の測定対象物濃度がある誤差範囲内で求まったり,もしくは液体の分注や反応に異常が検出されたりして,測定を終了する条件となった場合,攪拌をやめ,測定を終了する。測定容器104内の溶液を洗浄装置110などの液体排出手段により排出し(406),洗浄液で洗浄し(407),次の測定に備える。測定容器104を使い捨てにした場合,液体の排出および洗浄液での洗浄を省くことができる。図2のような電位差測定用電極,参照電極,攪拌装置,測定容器の組を複数有している場合,図4に示したフローを同期して行っても良いし,非同期で行ってもよい。非同期で行った場合,何らかの理由である組での測定が他の組での測定よりも早期に終了した場合,他の組での測定の終了を待たずに測定を行うことができる。
【0021】
図6は,本発明による図1もしくは図2の電位差計測装置を用いた測定動作の別の一例を示すフローチャートである。2種類の試薬を順番に加えて測定を行う点が図4のフローチャートと異なる。まず,検体試料用分注装置108などの分注手段により検体試料を測定容器104に分注する(601)。次に,試薬溶液分注装置109などの分注手段により試薬1溶液を分注する(602)。この試薬分注に同期して攪拌素子103などの攪拌手段により検体試料と試薬1溶液がよく混合されるように攪拌し(603),おなじく同期して電位差測定用電極101と参照電極102の間の電位差を電位測定装置111で測定する(604)。その後,計測を続け(605),試薬1溶液の分注から一定時間が経過したり,測定したデータを分析し検体試料と試薬1溶液の反応が終了したと判定されたりした場合,試薬溶液分注装置109などの分注手段により試薬2溶液を測定容器内に分注する(606)。試薬2溶液の分注に同期して電位差測定用電極101と参照電極102の間の電位差を電位測定装置111で測定する(607)。試薬2分注中も攪拌を行う。試薬2溶液の分注から一定時間経過したり,測定したデータを分析し検体溶液中の測定対象物濃度がある誤差範囲内で求まったりした場合,攪拌と電位計測を止め,測定を終了する。また,測定中であっても,液体の分注や反応に異常が検出されたりした場合,測定を終了する。測定容器104内の溶液を洗浄装置110などの液体排出手段により排出し(609),洗浄液で洗浄し(610),次の測定に備える。測定容器104を使い捨てにした場合,液体の排出および洗浄液での洗浄を省くことができる。攪拌による電位への影響を一定に保つため,攪拌は測定の間一定の割合で継続して行うことが望ましいが,その影響が求める測定精度よりも小さい場合,検体試料と試薬溶液を十分に混合した後に攪拌を止めても良い(図7)。その場合,試薬2溶液の分注に同期して攪拌素子103などの攪拌手段により測定容器104内の溶液と試薬2溶液がよく混合されるように攪拌を開始し,おなじく同期して電位差測定用電極101と参照電極102の間の電位差を電位測定装置111で測定する。
【0022】
図8は,本発明による図1もしくは図2の電位差計測装置を用いた測定動作の別の一例を示すフローチャートである。検体試料と試薬溶液の分注の順番が図4のフローチャートと異なる。まず,試薬溶液分注装置109などの分注手段により試薬溶液を分注する(801)。次に,この試薬分注に続いて攪拌素子などの攪拌手段による攪拌を開始し(802),それと同じくして電位差測定用電極101と参照電極102の間の電位差の測定を開始する(803)。その後,計測を続け(804),試薬1溶液の分注から一定時間が経過したり,測定したデータを分析し電位差測定用電極101と参照電極102の間の電位差が安定したと判定されたりした場合,試薬溶液分注装置109などの分注手段により検体試料を測定容器104に分注する(805)。検体試料の分注に同期して電位差測定用電極101と参照電極102の間の電位差を電位測定装置111で測定する(806)。試薬分注中も攪拌を行う。検体試料分注から一定時間経過したり,測定したデータを分析し検体溶液中の測定対象物濃度がある誤差範囲内で求まったり,もしくは液体の分注や反応に異常が検出されたりして,測定を終了する条件となった場合,攪拌をやめ,測定を終了する。測定容器内の溶液を洗浄装置110などの液体排出手段により排出し(808),洗浄液で洗浄し(809),次の測定に備える。測定容器を使い捨てにした場合,液体の排出および洗浄液での洗浄を省くことができる。検体分注の後に試薬分注を行う方式では,少量の検体試料に対して多量の試薬溶液を分注することで、検体試料と試薬溶液が混合しやすい。一方、本発明では,攪拌と測定を同時に行うことができるため、攪拌に費やす時間を従来よりも多くでき,多量の試薬溶液分注後に少量の検体試料を分注しても十分に混合されるようにできる。図4のフローに対する図8のフローの利点は,測定電極の表面電位の安定にある程度の時間がかかる場合でも検体分注(805)の時点では測定電極の表面電位は安定していて,測定対象物質の反応を検体試料と試薬溶液の混合直後から追跡することができるようになる点である。その他の攪拌のフローとして,図9のように試薬分注と検体分注に同期して攪拌を開始し,十分に攪拌を行ってから攪拌を停止する場合,図10のように検体分注に同期して攪拌を開始し,測定終了時まで攪拌を行う場合,図11のように検体分注に同期して攪拌を開始し,十分に攪拌を行ってから攪拌を停止する場合もある。図8,図9のフローにおいて,試薬分注後に攪拌を行う利点は,電位差測定用電極101および参照電極102の表面の状態と測定容器104内の電極表面以外の溶液の状態を攪拌を行わない場合よりも短時間で均一化できることにある。
【0023】
図4〜11のフローチャートは、図1,2の電位差測定装置を用いた場合だけでなく、同様の動作を発揮できる電位差計測装置を用いた場合にも適用され得る。
【0024】
図12は、本発明の異常検出の一例を示す図である。図12に示されたフローチャートにより,検体試料と試薬溶液との混合,もしくは試薬2溶液の分注によって生じる信号の変化が妥当な時間で起きているかを検証し,混合・攪拌が正しく行われたかを判定する。まず,測定値のデータ配列に対し,必要に応じて,ノイズ低減を目的としてローパスフィルタの処理を施す。次に,測定で得られた最終的な値のある割合,例えば90%に達する時刻を求め,分注の時刻と最初に最大値を取る時刻の差を立ち上がり時間とする。検体試料,試薬溶液の量比・粘性を元に混合標準時間データベースから混合標準時間を取得・演算し,測定値から求めた立ち上がり時間と比較する。測定値から求めた立ち上がり時間が妥当であれば検体試料と試薬溶液の混合・攪拌が正常に行われたと判断し,妥当な範囲を逸脱していた場合,検体試料と試薬溶液の混合・攪拌が正常に行われなかったと判断し,該当の検体試料について再測定を行う。測定値から求めた立ち上がり時間が妥当であるか判定する方法の一例としては,混合標準時間データベースの値の1.2倍とするなど係数を掛け算し閾値とする方法がある。
【0025】
図13は、異常検出の別の一例を示す図である。図に示されたフローチャートにより,検体試料と試薬溶液との混合,もしくは試薬2溶液の分注によって生じる信号の変化に攪拌の異常によって生じるゆらぎが発生していないかを検証し,混合・攪拌が正しく行われたかを判定する。まず,測定値のデータ配列に対し,ノイズ低減を目的としてローパスフィルタの処理を施す。次に,図12のフローチャートにより検出した立ち上がり時間以降の測定値から極大値・極小値を検出し,時刻と併せて極大値・極小値データ配列として記録する。検体試料,試薬溶液の量比・粘性を元にゆらぎデータベースから許容できる差分・傾きを取得し,極大値・極小値データ配列について一つずつ許容値以内であるかを判定していく。配列の最後まで許容値以内であると判定されれば混合・攪拌が正しく行われたと判定し,解析を終了する。一つでも許容値上回るデータが見つかった場合,混合・攪拌が正しく行われていなかったと判断し,該当の検体試料について再測定を行う。
【0026】
図14は、逆演算の一例を示す図である。測定に用いている化学反応の反応速度が混合時間に比べて十分速ければ,測定された生データを用いて図12,13で示したような異常検出を行うことができる。しかし,化学反応の反応速度が混合時間と同程度かそれ以下である場合,混合・攪拌の不良による立ち上がり時間の遅延やゆらぎはなまってしまい生データからは異常検出を行うことが困難となってしまう。そこで,生データは溶液の混合の関数と反応の関数の畳み込み演算から求まる関数であると考え,生データから混合の関数を求める逆演算を行う。その方法を図14に従い説明する。まず,理想的な混合の関数と反応の関数の畳み込み演算により求まる理想反応関数の各パラメータを,生データへのフィッティングにより求める。フィッティングについては、例えば最小二乗などのフィッティングを用いることができる。決定されたパラメータから求まる反応の関数を伝達関数G(s)とする。伝達関数G(s)から逆伝達関数G-1(s)を求める。求め方の一例として,逆行列を用いる方法がある。求まった逆伝達関数G-1(s)を生データに対して畳み込み演算を施すことで,混合の関数が求まる。求まった混合の関数についてなら,図12,13で示したような異常判定を行うことができる。
【0027】
図15は,本発明の電位差計測装置に使用する測定電極の構造例を示す図である。本実施例では,電極材料として金を使用して,酸化物質としてフェロセン誘導体を金電極表面に固定してある。フェロセン誘導体1502は,末端にチオール基を有するアルカンチオール1503を介して,金とチオールの結合により金電極1501に固定化した。金電極表面へのフェロセン誘導体の固定化は,以下の手順で行った。最初,固定化に使用する金電極を1N硝酸,純水,エタノールの順番で洗浄し,金電極表面を窒素パージした。次に,フェロセン誘導体溶液(11−フェロセニル―1−ウンデカンチオール,濃度:0.5mM,溶媒:エタノール)に1時間浸漬した。固定化終了後,エタノール及び純水で洗浄し,使用するまで支持塩を含む水溶液もしくはバッファー溶液中で保存した。
【0028】
図16は,電位差計測装置の他の実施例を示すブロック図である。本実施例の測定装置は,電位差測定用電極1601,参照電極1602,測定容器1603,制御装置1604,データ処理装置1605,データ表示装置1606,検体試料を測定容器1603に分注する検体試料用分注器1607,試薬溶液を測定容器1603に分注する試薬溶液分注器1608,分注された検体試料と試薬溶液を攪拌する攪拌素子1609から構成される。制御装置1604は,電位差測定装置1610を用いた電位差測定用電極1601と参照電極1602の間の電位測定と,電位差測定用電極1601,参照電極1602,検体試料用分注器1607,試薬溶液分注器1608,攪拌素子1609の移動および動作制御を行う。データ処理装置1605は演算装置1611,一時記憶装置1612,不揮発性記憶装置1613を有し,電位差測定装置1610で取得した信号を演算し検体試料中の測定対象物濃度を求めたり,異常判定を行ったり,フィッティングを行ったり,逆畳み込み演算を行ったりする。電位差測定用電極1601は,測定容器1603の底に接して設置してある。また,電位差測定用電極1601は,材料として金を使用して,金表面にはアルカンチオールを介してフェロセン誘導体1614が固定してある。本実施例では,酸化還元物質としては,フェロセン誘導体を使用したが,ピリジン,ピリミジン等を使用しても良い。参照電極1602は,測定容器1603中の溶液に接触した電位差測定用電極1601の表面で起こる平衡反応あるいは化学反応に基づく電位変化を安定に測定するために,基準となる電位を与える。通常は参照電極としては,飽和塩化カリウムを内部溶液に使用している銀・塩化銀電極,あるいは甘こう(カロメル)電極が用いられるが,測定する試料溶液の組成が一定の場合には,疑似電極として銀・塩化銀電極のみを使用しても問題はない。測定容器1603は,角セルのような角を有する容器では分注された検体試料と試薬溶液の攪拌混合がやり難いので,曲線を有する容器,例えば円筒形の容器が望ましい。検体試料用分注器1607,および試薬溶液分注器1608は,シリンジポンプまたはペリスタポンプ(チューブポンプ)を使用することができる。ここでは、攪拌素子1609は先端のへらが回転するものを用いた。
【0029】
図17は,FETセンサを用いた電位差計測装置に使用する分析素子の構造の一例を示す図である。図17(a),(b)は,各々断面構造及び平面構造を表わしている。絶縁ゲート電界効果トランジスタ1701は,シリコン基板の表面にソース1702,ドレイン1703,及びゲート絶縁物1704を形成し,金電極1705を設けてある。金電極1705と絶縁ゲート電界効果トランジスタのゲート1706を導電性配線1707で接続してある。好ましくは,絶縁ゲート電界効果トランジスタは,シリコン酸化物を絶縁膜として用いる金属酸化物半導体(Metal-oxide semiconductor)電界効果トランジスタ(FET)であるが,薄膜トランジスタ(TFT)を用いても問題はない。本構造を採用することにより,金電極1705上にアルカンチオオールを介して容易に酸化還元物質を固定化することができる。ここで使用する絶縁ゲート電界効果トランジスタは,SiO2(厚さ;17.5nm)を用いた絶縁層を有するデプレション型FETであり,金電極を400μm×400μmの大きさで作製してある。通常の測定は,水溶液を使用するため,本素子は溶液中で動作しなければならない。溶液中で測定する場合には,電気化学反応を起こし難い−0.5〜0.5Vの電極電位範囲で動作することが必要である。そのため,本実施例ではデプレション型nチャネルFETの作製条件,すなわち閾値電圧(Vt)調整用イオン打ち込み条件を調整し,FETの閾値電圧を−0.5V付近に設定してある。なお,金電極に代えて,銀等の他の貴金属からなる電極を用いてもよい。FETセンサを測定電極として使用する場合には,参照電極に電圧を印加する必要があるが,金電極表面への外部変動による影響を低減するために,好ましくは交流成分を印加することが望ましい。その際,直流成分に1KHz以上の交流電圧を重畳することで,金電極の表面電位の安定化が期待できる。また,FETセンサは光に応答するため,測定容器は不透明の材質のものを用いるか,あるいは測定容器そのものを遮光すると良い。
【0030】
図18,19,20は本発明による測定手法を用いて行った測定結果の一例を示す図である。図16で示した装置を用いて,図4で示すフローに従い,ウマ血清中のグルコース濃度の測定を行った。まず,測定容器中に検体試料30μLを注入した。次に,測定容器中に試薬溶液300μLを注入した。試薬溶液の組成は,(表1)のようにした。
【0031】
【表1】

【0032】

試薬溶液の分注と同期して,攪拌棒による攪拌と電圧計による電位差計測を開始した。電位差計測は1秒間隔で,300秒間行った。その結果,図18(a)に示す電位差の時間変化を得た。次に,データ処理装置を用いて,電位差から測定用液中のフェロシアン濃度を求めた。具体的には,ネルンストの式
【0033】
【数1】

【0034】

を解いた。その結果,図18(b)に示すフェロシアン濃度の時間変化を得た。フェロシアンは,
【0035】
【数2】

【0036】

(ここで,NAD:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(酸化型),NADH: ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型))
の反応により生成されるため,反応効率が100%の場合はグルコース1モルからフェロシアン2モルが生成される。この反応系において反応効率を別途求めたところ90%であった。グルコースの分子量180,希釈倍率11倍をもとに,生成フェロシアン濃度[mM]を検体中グルコース濃度[mg/dL]に変換し,反応効率を掛け,図18(c)を得た。以上の過程を経て,検体中グルコース濃度は112mg/dLであると測定された。続いて,図14のフローに従い,入力関数を求めた。まず,伝達関数 以下のように定義した。
【0037】
【数3】

【0038】

図18(c)の反応曲線について,G(t)を用いてフィッティングを行い,
【0039】
【数4】

【0040】

を得た。その結果を図19(a)に示す。G(t)の逆関数G-1(t)を数値解析的に求め,図18(c)の反応曲線に演算を施したところ,図19(b)を得た。これは,実際はG(t)のように進行した酵素反応が一瞬で終了したと仮定したときの反応曲線であり,すなわち,酵素反応以外の溶液の混合の様子を表していて,ここでは入力関数と呼ぶ。図19(b)について,図12のフローに従い,立ち上がり時間を求めたところ,最大値121mg/dLに対して,反応開始4秒目にして112mg/dLとその90%を超える値となっていることから,立ち上がり時間が4秒と求まった。同様の実験を,攪拌を比較的穏やかに行ったところ,図20に示す別の実験結果を得た。図20(a)を見ても反応曲線の立ち上がりが若干遅れていることが見て取れる。これを,図14のフローに従い解析を行い,図20(b)に示す入力関数を得た。同様に立ち上がり時間を求めたところ17秒と求まり,攪拌を穏やかに行ったことによる立ち上がりの遅れを定量的に求めることができた。この例では1秒間隔でデータの取得を行ったため1秒単位で解析を行うことができたが,反応溶液と電極は常に接触しているため測定間隔をより短くすることも可能であり,その場合より高い時間分解能で攪拌の程度を解析することができる。また,図19(b)と図20(b)を比較すると,図20(b)には比較的大きなオーバーシュートが観測される。これは,溶液が均一に混合されるまでの過程で生じたゆらぎであると考えられ,図13のフローに従って解析を行う。図19(b)と図20(b)は攪拌の状態が異なるために,ゆらぎの程度に差が生じたが,これが同一の条件で行っているのに生じる場合は混合・攪拌に何らかの異常が生じていることが疑われる。図13のフローに従ってこれを検出することで,異常を検出することができる。
【0041】
図21は本発明による測定手法を用いて行った測定結果の一例を示す図である。図16で示した装置を用いて,図6で示すフローに従い,ウマ血清中のグルコース濃度の測定を行った。まず,測定容器中に検体試料30μLを注入した。次に,測定容器中に試薬1溶液270μLを注入した。その300秒後に測定容器中に試薬2溶液60μLを注入した。それぞれの組成は,(表2)のようにした。
【0042】
【表2】

【0043】

試薬1溶液の分注と同期して,攪拌棒による攪拌と電圧計による電位差計測を開始した。電位差計測は1秒間隔で,587秒間行った。その結果,図21(a)に示す電位差の時間変化を得た。次に,データ処理装置を用いて,試薬2溶液を注入した300秒後の電位差測定値について,図18(b),図19(b)を求めた場合と同様に,ネルンストの式を用いて電位差から測定用液中のフェロシアン濃度を求めた。別途求めた反応効率90%,グルコースの分子量180,希釈倍率12倍をもとに,生成フェロシアン濃度[mM]を検体中グルコース濃度[mg/dL]に変換し,図21(b)を得た。図21(b)は試薬2溶液注入の時点を0秒として表示した。図19(b),図20(b)から図19(c),図20(c)を得たときと同様にして,図21(b)について,反応曲線のフィッティングと逆演算を行い,酵素反応が一瞬で終了したと仮定したときの反応曲線(図21(c))を得た。このときの立ち上がり時間は1秒以下であった。このように,試薬を2つ用いる場合にも,試薬2溶液注入の時点を反応開始の時点として解析を行うことで,溶液の混合に要する時間を求めることができる。検体を後から注入する場合も,検体の注入により反応が開始するならば,溶液の混合に要する時間を求めることができる。
【符号の説明】
【0044】
101 電位差測定用電極
102 参照電極
103 攪拌装置
104 測定容器
105 制御装置
106 データ処理装置
107 データ表示装置
108 検体試料分注装置
109 試薬溶液分注装置
110 洗浄装置
111 電位測定装置
112 演算装置
113 一時記憶装置
114 不揮発性記憶装置
301 測定容器
302 検体試料用分注装置
303 検体試料
304 電位差測定用電極
305 参照電極
306 攪拌素子
307 試薬溶液分注装置
308 洗浄装置
401〜407 フローチャートでの動作
601〜610 フローチャートでの動作
801〜809 フローチャートでの動作
1501 金電極
1502 フェロセン誘導体
1503 アルカンチオール
1601 電位差測定用電極
1602 参照電極
1603 測定容器
1604 制御装置
1605 データ処理装置
1606 データ表示装置
1607 検体試料用分注器
1608 試薬溶液分注器
1609 攪拌素子
1610 電位差測定装置
1611 演算装置
1612 一時記憶装置
1613 不揮発性記憶装置
1614 フェロセン誘導体
1701 電界効果トランジスタ
1702 ソース
1703 ドレイン
1704 ゲート絶縁物
1706 ゲート
1707 導電性配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物を含有する試料溶液を測定容器に分注する第1の分注工程と,
測定対象物と反応する第1の試薬を含む第1の反応溶液を前記測定容器に分注する第2の分注工程と,
前記測定容器中に分注された前記第1の反応溶液を撹拌する撹拌工程と,
前記測定容器中に配置された測定電極の界面電位を測定する複数の測定工程とを有し,
前記測定工程のうち少なくとも1つは前記第2の分注に同期して開始され,
前記攪拌工程は前記第2の分注に同期して開始することを特徴とする電位差測定方法。
【請求項2】
前記撹拌工程は,前記測定容器中に分注された前記試料溶液と前記第1の反応溶液との混合溶液を撹拌する工程であることを特徴とする請求項1に記載の電位差測定方法。
【請求項3】
前記測定工程のうち少なくとも1つは前記撹拌工程を伴わないことを特徴とする請求項2に記載の電位差測定方法。
【請求項4】
前記撹拌工程を続けながら,前記第2の分注工程後に,前記測定対象物と反応する第2の試薬を含む第2の反応溶液を前記測定容器に分注する第3の分注工程を有し,
前記測定工程のうち少なくとも1つは前記第3の分注に同期して開始されることを特徴とする請求項1に記載の電位差測定方法。
【請求項5】
前記第2の分注工程後に,前記測定対象物と反応する第2の試薬を含む第2の反応溶液を前記測定容器に分注する第3の分注工程と,
前記測定容器中に分注された前記第2の反応溶液を撹拌する第2の撹拌工程とを有し,
前記測定工程のうち少なくとも1つは前記第3の分注に同期して開始され,
前記測定工程のうち少なくとも1つは前記撹拌工程も前記第2の攪拌工程も伴わず,
前記第2の攪拌工程は前記第3の分注に同期して開始することを特徴とする請求項1に記載の電位差測定方法。
【請求項6】
前記第2の分注工程後に前記第1の分注工程を有し,
前記測定工程のうち少なくとも1つは前記第1の分注に同期して開始されることを特徴とする請求項1に記載の電位差測定方法。
【請求項7】
前記測定容器中に分注された試料溶液を撹拌する第2の撹拌工程を有し,
前記測定工程のうち少なくとも1つは前記撹拌工程も前記第2の攪拌工程も伴わず,
前記第2の撹拌工程を前記第1の分注工程に同期して開始することを特徴とする請求項6に記載の電位差測定方法。
【請求項8】
前記攪拌工程は前記第2の分注ではなく前記第1の分注に同期して開始することを特徴とする請求項6に記載の電位差測定方法。
【請求項9】
前記測定工程のうち少なくとも1つは前記撹拌工程を伴わないことを特徴とする請求項6に記載の電位差測定方法。
【請求項10】
前記第1の反応溶液もしくは第2の反応溶液によって生じる反応は,酵素反応または酸化還元反応であることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載の電位差測定方法。
【請求項11】
請求項1乃至10いずれかに記載の電位差測定方法であって,前記測定工程により得られた電位差の時系列データにおいて,前記データの立ち上がりにおける一定時間のデータを標準データと比較し,比較結果を出力する工程を有することを特徴とする電位差測定方法。
【請求項12】
請求項1乃至10いずれかに記載の電位差測定方法であって,前記測定工程により得られた電位差の時系列データにおいて,前記データの極大値と極小値との差異を,標準データと比較し,比較結果を出力する工程を有することを特徴とする電位差測定方法。
【請求項13】
請求項1乃至10いずれかに記載の電位差測定方法であって,前記測定工程により得られた電位差の時系列データにおいて,前記時系列データから伝達関数を導き,前記伝達関数の逆関数を導き,前記逆関数と前記時系列データとの演算により入力関数を求める工程を有することを特徴とする電位差測定方法。
【請求項14】
請求項13に記載の電位差測定方法であって,前記入力関数において,前記入力関数の立ち上がりにおける一定時間のデータを標準データと比較し,比較結果を出力する工程を有することを特徴とする電位差測定方法。
【請求項15】
請求項13に記載の電位差測定方法であって,前記入力関数において,前記入力関数の極大値と極小値との差異を,標準データと比較し,比較結果を出力する工程を有することを特徴とする電位差測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−286423(P2010−286423A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141796(P2009−141796)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】