説明

電力伝達用絶縁回路および電力変換装置

【課題】入力側および出力側間を絶縁しながら電力を伝達する回路において、電力効率の向上を図ることが可能な電力伝達用絶縁回路および電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力伝達用絶縁回路101は、スイッチZ1およびZ2を含み、スイッチZ1の第1端およびスイッチZ2の第1端において受けた電力を第1の蓄電素子C1に供給するための入力スイッチ部21と、スイッチZ3およびZ4を含み、第1の蓄電素子C1に蓄えられた電力を第2の蓄電素子C2に供給するための出力スイッチ部22とを備える。スイッチZ1ないしスイッチZ4は、NチャネルMOSトランジスタを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力伝達用絶縁回路および電力変換装置に関し、特に、入力側および出力側間を絶縁しながら電力を伝達する電力伝達用絶縁回路および電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭の交流電力を用いて電気自動車(EV:Electric Vehicle)およびプラグイン方式のハイブリッドカー(HV:Hybrid Vehicle)等の駆動用の主電池を充電するための電力変換装置が開発されている。
【0003】
このようなEV等の主電池への充電を目的とするものではないが、交流電力を直流電力に変換する電源装置用絶縁回路の一例が、たとえば、特許第3595329号公報(特許文献1)に記載されている。すなわち、この電源装置用絶縁回路は、交流電圧を直流電圧に変換する整流回路と、上記整流回路から供給される直流電流に残存する脈流成分を低減する第1のコンデンサーと、上記第1のコンデンサーから供給される直流電流のプラス側およびマイナス側を同時に開閉する第1のスイッチ回路と、上記第1のスイッチ回路から供給される電流を蓄積する第2のコンデンサーと、上記第2のコンデンサーから供給される直流電流のプラス側およびマイナス側を同時に開閉する第2のスイッチ回路と、上記第2のスイッチ回路から供給される電流を保持するとともに負荷側に放出する第3のコンデンサーとを備える。また、ONとなる時間がOFFとなる時間よりも短く設定された方形波によって構成されるコントロール信号φ1、および上記コントロール信号φ1と相補的にONするとともにON時間がOFF時間よりも短く設定されたコントロール信号φ2を生成するゲートコントロール回路を備える。上記コントロール信号φ1により上記第1のスイッチ回路の開閉を行い、上記コントロール信号φ2により上記第2のスイッチ回路の開閉を行う。
【0004】
また、上記第1のスイッチ回路のプラス側のスイッチでは、少なくとも1個の阻止ダイオードのカソード端子と少なくとも1個のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)のソース端子が接続される。そして、上記スイッチは、上記第1のコンデンサーと上記第2のコンデンサーのプラス側の各端子間に設けられる。上記スイッチの上記MOSFETのドレイン端子が上記第2のコンデンサーのプラス側の端子に接続され、上記阻止ダイオードのアノード端子が上記第1のコンデンサーのプラス側の端子に接続される。
【0005】
上記第2のスイッチ回路のプラス側のスイッチでは、少なくとも1個の阻止ダイオードのカソード端子と少なくとも1個のMOSFETのソース端子が接続される。そして、上記スイッチは、上記第2のコンデンサーと上記第3のコンデンサーのプラス側の各端子間に設けられる。上記スイッチの上記MOSFETのドレインが上記第3のコンデンサーのプラス側の端子に接続され、上記阻止ダイオードのアノード端子を上記第2のコンデンサーのプラス側の端子に接続される。
【0006】
このような構成により、大きな容積を占める電源トランスを使用することなく交流電圧を直流電圧に変換し、かつ交流電源側と負荷側とを電気的に絶縁することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3595329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の電源装置用絶縁回路では、当該回路における電流の向きを考慮すると、スイッチ回路のプラス側におけるMOSFETにはPチャネルMOSFETが使用されている。このため、スイッチ回路のプラス側におけるスイッチのオン抵抗が大きいことで導通損失が大きくなり、また、スイッチング速度が遅いことでスイッチング損失が大きくなることから、電力効率が低下してしまう。
【0009】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、その目的は、入力側および出力側間を絶縁しながら電力を伝達する回路において、電力効率の向上を図ることが可能な電力伝達用絶縁回路および電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる電力伝達用絶縁回路は、第1端および第2端を有する第1の蓄電素子と、第1端および第2端を有する第2の蓄電素子と、第1端、および上記第1の蓄電素子の第1端と電気的に接続された第2端を有する第1のスイッチ、ならびに第1端、および上記第1の蓄電素子の第2端と電気的に接続された第2端を有する第2のスイッチを含み、上記第1のスイッチの第1端および上記第2のスイッチの第1端において受けた電力を上記第1の蓄電素子に供給するための入力スイッチ部と、上記第1の蓄電素子の第1端と上記第2の蓄電素子の第1端との間に接続された第3のスイッチおよび上記第1の蓄電素子の第2端と上記第2の蓄電素子の第2端との間に接続された第4のスイッチを含み、上記第1の蓄電素子に蓄えられた電力を上記第2の蓄電素子に供給するための出力スイッチ部とを備え、上記第1のスイッチないし上記第4のスイッチは、NチャネルMOSトランジスタを含む。
【0011】
このように、PチャネルMOSトランジスタと比べて電子移動度および正孔移動度の高いNチャネルMOSトランジスタを使用する構成により、特許文献1に記載の電源装置用絶縁回路と比べて高い電力効率を実現することが可能となる。さらに、特許文献1に記載の電源装置用絶縁回路と異なり、第1のスイッチへのゲート制御信号および第2のスイッチへのゲート制御信号を共通化し、また、第3のスイッチへのゲート制御信号および第4のスイッチへのゲート制御信号を共通化することができるため、小型化および処理の簡易化を図ることができる。
【0012】
好ましくは、上記入力スイッチ部は、さらに、上記第1のスイッチの第1端に接続された第1のダイオードと、上記第2のスイッチの第1端に接続された第2のダイオードとを含み、上記出力スイッチ部は、さらに、上記第3のスイッチと上記第2の蓄電素子の第1端との間に接続された第3のダイオードと、上記第4のスイッチと上記第2の蓄電素子の第2端との間に接続された第4のダイオードとを含む。
【0013】
このような構成により、第1のスイッチないし第4のスイッチを、1つのハーフブリッジモジュールで実現することが可能となる。
【0014】
より好ましくは、上記第1のスイッチないし上記第4のスイッチは、1つのハーフブリッジモジュールに含まれる。
【0015】
このような構成により、大容量の回路を製造する場合などに、MOSトランジスタを一般的なハーフブリッジのモジュールで構成することができるため、低コスト化、小型化、配線の容易化および組み立て工程の簡略化が可能となる。
【0016】
好ましくは、上記第1のスイッチないし上記第4のスイッチは、NチャネルIGBTを含む。
【0017】
電力伝達用絶縁回路においてMOSトランジスタの代わりにIGBTを用いることにより、電力伝達用絶縁回路の導通損失をさらに低減することができる。
【0018】
好ましくは、上記電力伝達用絶縁回路は、さらに、上記第1のスイッチの第1端と上記第2のスイッチの第1端との間に接続された第3の蓄電素子を備える。
【0019】
このような構成により、電力伝達用絶縁回路への入力電流のリップルを防ぎ、回路動作の安定化を図ることができる。
【0020】
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる電力変換装置は、交流電力を直流電力に変換して負荷に供給するための電力変換装置であって、受けた交流電力を整流するための整流部と、上記整流部および上記負荷間を絶縁しながら、上記整流部によって整流された電力を上記負荷に伝達するための電力伝達用絶縁回路とを備え、上記電力伝達用絶縁回路は、第1端および第2端を有する第1の蓄電素子と、第1端および第2端を有する第2の蓄電素子と、上記整流部によって整流された電力を受ける第1端、および上記第1の蓄電素子の第1端と電気的に接続された第2端を有する第1のスイッチ、ならびに上記整流部によって整流された電力を受ける第1端、および上記第1の蓄電素子の第2端と電気的に接続された第2端を有する第2のスイッチを含み、上記整流部によって整流された電力を上記第1の蓄電素子に供給するための入力スイッチ部と、上記第1の蓄電素子の第1端と上記第2の蓄電素子の第1端との間に接続された第3のスイッチおよび上記第1の蓄電素子の第2端と上記第2の蓄電素子の第2端との間に接続された第4のスイッチを含み、上記第1の蓄電素子に蓄えられた電力を上記第2の蓄電素子に供給するための出力スイッチ部とを備え、上記第1のスイッチないし上記第4のスイッチは、NチャネルMOSトランジスタを含む。
【0021】
このように、PチャネルMOSトランジスタと比べて電子移動度および正孔移動度の高いNチャネルMOSトランジスタを使用する構成により、特許文献1に記載の電源装置用絶縁回路と比べて高い電力効率を実現することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、入力側および出力側間を絶縁しながら電力を伝達する回路において、電力効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路によるスイッチング動作を示す図である。
【図3】各材料における電子移動度および正孔移動度を示す図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る電力変換装置の構成を示す図である。
【図5】スイッチング素子の耐電圧とオン抵抗の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0025】
[構成および基本動作]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電力変換装置の構成を示す図である。
【0026】
図1を参照して、電力変換装置201は、電力伝達用絶縁回路101と、整流部102とを備える。電力伝達用絶縁回路101は、キャパシタC0〜C2と、入力スイッチ部21と、出力スイッチ部22と、制御部14とを含む。入力スイッチ部21は、スイッチZ1,Z2と、ダイオードD1,D2とを含む。出力スイッチ部22は、スイッチZ3,Z4と、ダイオードD3,D4とを含む。
【0027】
電力伝達用絶縁回路101において、スイッチZ1〜Z4は、たとえばNチャネルMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタである。また、スイッチZ1およびZ3は、1つのハーフブリッジモジュールMJ1に含まれている。また、スイッチZ2およびZ4は、1つのハーフブリッジモジュールMJ2に含まれている。また、スイッチZ1〜Z4の材料は、たとえばSiC(炭化ケイ素:Silicon Carbide)である。
【0028】
ここでは、スイッチZ1の第1端および第2端がそれぞれスイッチZ1のドレインおよびソースに相当し、スイッチZ2の第1端および第2端がそれぞれスイッチZ2のソースおよびドレインに相当し、スイッチZ3の第1端および第2端がそれぞれスイッチZ3のドレインおよびソースに相当し、スイッチZ4の第1端および第2端がそれぞれスイッチZ4のソースおよびドレインに相当する。
【0029】
ダイオードD1〜D4は、電力伝達用絶縁回路101における電流の逆流を防ぐために設けられている。また、ダイオードD1〜D4の材料は、たとえばSiCである。
【0030】
スイッチZ1は、ダイオードD1を介してキャパシタC0の第1端T11と電気的に接続された第1端、およびキャパシタC1の第1端T13と電気的に接続された第2端を有する。スイッチZ2は、ダイオードD2を介してキャパシタC0の第2端T12と電気的に接続された第1端、およびキャパシタC1の第2端T14と電気的に接続された第2端を有する。スイッチZ3は、キャパシタC1の第1端T13と電気的に接続された第1端、およびダイオードD3を介してキャパシタC2の第1端T15と電気的に接続された第2端を有する。スイッチZ4は、キャパシタC1の第2端T14と電気的に接続された第1端、およびダイオードD4を介してキャパシタC2の第2端T16と電気的に接続された第2端を有する。
【0031】
ダイオードD1は、キャパシタC0の第1端T11とスイッチZ1の第1端との間に接続されている。ダイオードD2は、キャパシタC0の第2端T12とスイッチZ2の第1端との間に接続されている。ダイオードD3は、キャパシタC2の第1端T15とスイッチZ3の第2端との間に接続されている。ダイオードD4は、キャパシタC2の第2端T16とスイッチZ4の第2端との間に接続されている。
【0032】
より詳細には、ダイオードD1は、キャパシタC0の第1端T11に電気的に接続されたアノードと、スイッチZ1のドレインに電気的に接続されたカソードとを有する。ダイオードD2は、スイッチZ2のソースに電気的に接続されたアノードと、キャパシタC0の第2端T12に電気的に接続されたカソードとを有する。ダイオードD3は、スイッチZ3のソースに電気的に接続されたアノードと、キャパシタC2の第1端T15に電気的に接続されたカソードとを有する。ダイオードD4は、キャパシタC2の第2端T16に電気的に接続されたアノードと、スイッチZ4のドレインに電気的に接続されたカソードとを有する。
【0033】
スイッチZ1は、ダイオードD1のカソードに電気的に接続されたドレインと、キャパシタC1の第1端T13に電気的に接続されたソースと、制御部14からのゲート制御信号G1を受けるゲートとを有する。スイッチZ2は、キャパシタC1の第2端T14に電気的に接続されたドレインと、ダイオードD2のアノードに電気的に接続されたソースと、制御部14からのゲート制御信号G2を受けるゲートとを有する。スイッチZ3は、キャパシタC1の第1端T13に電気的に接続されたドレインと、ダイオードD3のアノードに電気的に接続されたソースと、制御部14からのゲート制御信号G3を受けるゲートとを有する。スイッチZ4は、ダイオードD4のカソードに電気的に接続されたドレインと、キャパシタC1の第2端T14に電気的に接続されたソースと、制御部14からのゲート制御信号G4を受けるゲートとを有する。
【0034】
電力変換装置201は、交流電源202から供給された交流電力を直流電力に変換して負荷203に供給する。負荷203は、たとえば、EVおよびプラグイン方式のHV等の駆動用の主電池である。
【0035】
整流部102は、たとえば、ダイオードブリッジを含み、交流電源202から受けた交流電力を全波整流して電力伝達用絶縁回路101へ出力する。
【0036】
電力伝達用絶縁回路101において、キャパシタC0は、整流部102によって整流された電力を蓄える。入力スイッチ部21は、スイッチZ1の第1端およびスイッチZ2の第1端において受けた電力すなわちキャパシタC0に蓄えられた電力をキャパシタC1に供給する。出力スイッチ部22は、キャパシタC1に蓄えられた電力をキャパシタC2に供給する。キャパシタC2に蓄えられた電力は、放電されて負荷203に供給される。
【0037】
制御部14は、ゲート駆動信号G1〜G4をスイッチZ1〜Z4に出力することにより、スイッチZ1〜Z4のオンおよびオフを切り替える。電力伝達用絶縁回路101は、制御部14のスイッチ制御により、整流部102および負荷203間を絶縁しながら、キャパシタC0に蓄えられた電力を負荷203に伝達する。
【0038】
[動作]
次に、本発明の第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路が電力伝達を行う際の動作について図面を用いて説明する。
【0039】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路によるスイッチング動作を示す図である。
【0040】
図2を参照して、まず、制御部14は、期間T1において、スイッチZ1をオンし、スイッチZ2をオンし、スイッチZ3をオフし、スイッチZ4をオフする。これにより、キャパシタC0に蓄えられた電荷が放電され、放電された電荷がキャパシタC1に蓄えられる。スイッチZ3およびZ4がオフされていることにより、整流部102および負荷203間の絶縁が確保される。
【0041】
次に、制御部14は、期間T2において、スイッチZ1〜Z4をオフする。これにより、電力伝達用絶縁回路101の入力側および出力側間の絶縁を確保するためのデッドタイムが設けられる。すなわち、入力スイッチ部21における各スイッチおよび出力スイッチ部22における各スイッチを介して電力伝達用絶縁回路101の入力側および出力側間、すなわち整流部102および負荷203間が短絡することを防ぐことができる。
【0042】
次に、制御部14は、期間T3において、スイッチZ1をオフし、スイッチZ2をオフし、スイッチZ3をオンし、スイッチZ4をオンする。これにより、キャパシタC1に蓄えられた電荷が放電され、放電された電荷がキャパシタC2に蓄えられる。スイッチZ1およびZ2がオフされていることにより、整流部102および負荷203間の絶縁が確保される。
【0043】
次に、制御部14は、期間T4において、スイッチZ1〜Z4をオフする。これにより、期間T2と同様に、電力伝達用絶縁回路101の入力側および出力側間の絶縁を確保するためのデッドタイムが設けられる。
【0044】
ここで、期間T1〜T4において、キャパシタC1は整流部102からの電力により充電されており、また、キャパシタC2に蓄えられた電力は放電されて負荷203に供給されている。また、期間T2およびT4においては、キャパシタC1における電荷の移動はない。
【0045】
そして、制御部14は、これら期間T1、期間T2、期間T3および期間T4をこの順番で繰り返すことにより、電力伝達用絶縁回路101の入力側および出力側間を絶縁しながら、整流部102と協働して、交流電源202からの交流電力を直流電力に変換して負荷203に供給する。
【0046】
ところで、特許文献1に記載の電源装置用絶縁回路では、当該回路における電流の向きを考慮すると、スイッチ回路のプラス側におけるMOSFETにはPチャネルMOSFETが使用されている。このため、スイッチ回路のプラス側におけるスイッチのオン抵抗が大きいことで導通損失が大きくなり、また、スイッチング速度が遅いことでスイッチング損失が大きくなることから、電力効率が低下してしまうという問題点があった。
【0047】
ここで、NチャネルMOSFETとPチャネルMOSFETの比較を行う。図3は、各材料における電子移動度および正孔移動度を示す図である。図3の出典は、荒井和雄,吉田貞史 共編,「SiC素子の基礎と応用」,(オーム社,2003),p.14.である。
【0048】
NチャネルMOSFETの主要なキャリアは電子であり、PチャネルMOSFETの主要なキャリアは正孔である。一般に、電子の移動度は、正孔の移動度に比べて速い。
【0049】
図3を参照して、Siの場合には、電子移動度は正孔移動度の約3.3倍である。また、4H−SiCの場合には、電子移動度は正孔移動度の約8.3倍であり、GaNの場合には約2.3倍である。
【0050】
したがって、同一チップ面積および同一チャネル密度のデバイスで比較した場合、PチャネルMOSFETはNチャネルMOSFETに比べてオン抵抗が大きいために導通損失が大きくなり、また、スイッチング速度が遅いためにスイッチング損失が大きくなる。したがって、パワーデバイスとしてはNチャネルMOSFETの方が優れていると言える。実際、次世代パワーデバイスとして研究開発が進められているSiC−MOSFETの例では、近年主要な研究機関からの報告はいずれもNチャネルMOSFETに関するものであり、PチャネルMOSFETに関する報告例は見られない。
【0051】
本発明の第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路では、スイッチZ1ないしスイッチZ4は、NチャネルMOSトランジスタである。すなわち、プラス側およびマイナス側の両方において、NチャネルMOSFETをスイッチング素子として使用する。このような構成により、特許文献1に記載の電源装置用絶縁回路と比べて高い電力効率を実現することが可能となる。さらに、特許文献1に記載の電源装置用絶縁回路と異なり、スイッチZ1へのゲート制御信号G1およびスイッチZ2へのゲート制御信号G2を共通化し、また、スイッチZ3へのゲート制御信号G3およびスイッチZ4へのゲート制御信号G4を共通化することができるため、小型化および処理の簡易化を図ることができる。
【0052】
また、本発明の第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路では、入力スイッチ部21は、スイッチZ1の第1端に接続されたダイオードD1と、スイッチZ2の第1端に接続されたダイオードD2とを含む。また、出力スイッチ部22は、スイッチZ3とキャパシタC2の第1端T15との間に接続されたダイオードD3と、スイッチZ4とキャパシタC2の第2端T16との間に接続されたダイオードD4とを含む。
【0053】
このような構成により、スイッチZ1およびスイッチZ3を、1つのハーフブリッジモジュールMJ1で実現し、また、スイッチZ2およびスイッチZ4を、1つのハーフブリッジモジュールMJ2で実現することが可能となる。すなわち、大容量の回路を製造する場合などに、MOSFETを一般的なハーフブリッジのモジュールで構成することができるため、低コスト化、小型化、配線の容易化および組み立て工程の簡略化が可能となる。
【0054】
また、本発明の第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路では、スイッチであるNチャネルMOSFETの材料はSiCである。このように、スイッチをSiC−MOSFET化することにより、電力伝達用絶縁回路101の導通損失およびスイッチング損失のさらなる低減を図ることができる。
【0055】
また、本発明の第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路では、ダイオードD1〜D4の材料はSiCである。このように、逆阻止ダイオードをSiC化することにより、電力伝達用絶縁回路の導通損失のさらなる低減を図ることができる。
【0056】
なお、本発明の第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路では、スイッチZ1〜スイッチZ4はNチャネルMOSトランジスタであるとしたが、これに限定するものではない。スイッチZ1〜Z4は、NチャネルMOSトランジスタに加えて他の素子を含む構成であってもよい。
【0057】
また、電力伝達用絶縁回路101は、キャパシタC0を備えない構成であってもよい。ただし、キャパシタC0を設けることにより、電力伝達用絶縁回路101への入力電流のリップルを防ぎ、回路動作の安定化を図るという効果が得られる。また、整流部102において、整流された電力を蓄えるためのキャパシタが設けられる場合にも、電力伝達用絶縁回路101においてキャパシタC0を設けない構成が可能となる。
【0058】
また、本発明の第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路は、キャパシタC0〜C2を備える構成であるとしたが、キャパシタに限らず、コイル(インダクタ)等の他の蓄電素子を備える構成であってもよい。
【0059】
また、本発明の第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路では、スイッチZ1およびZ3が1つのハーフブリッジモジュールMJ1に含まれ、また、スイッチZ2およびZ4が1つのハーフブリッジモジュールMJ2に含まれる構成であるとしたが、これに限定するものではない。スイッチZ1およびZ3の組、ならびにスイッチZ2およびZ4の組の一方の組が1つのハーフブリッジモジュールに含まれる構成であってもよい。
【0060】
次に、本発明の他の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0061】
<第2の実施の形態>
本実施の形態は、第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路と比べてスイッチング素子の種類を変更した電力伝達用絶縁回路に関する。以下で説明する内容以外は第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路と同様である。
【0062】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る電力変換装置の構成を示す図である。
【0063】
図4を参照して、電力変換装置211は、電力伝達用絶縁回路111と、整流部102とを備える。電力伝達用絶縁回路111は、キャパシタC0〜C2と、入力スイッチ部31と、出力スイッチ部32と、制御部14とを含む。入力スイッチ部31は、スイッチZ11,Z12と、ダイオードD1,D2とを含む。出力スイッチ部32は、スイッチZ13,Z14と、ダイオードD3,D4とを含む。
【0064】
電力伝達用絶縁回路111において、スイッチZ11〜Z14は、たとえばNチャネルIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。また、スイッチZ11およびZ13は、1つのハーフブリッジモジュールMJ11に含まれている。また、スイッチZ12およびZ14は、1つのハーフブリッジモジュールMJ12に含まれている。また、スイッチZ11〜Z14の材料は、たとえばSiC(炭化ケイ素:Silicon Carbide)である。
【0065】
ダイオードD1〜D4は、電力伝達用絶縁回路111における電流の逆流を防ぐために設けられている。また、ダイオードD1〜D4の材料は、たとえばSiCである。
【0066】
スイッチZ11は、ダイオードD1を介してキャパシタC0の第1端T11と電気的に接続された第1端、およびキャパシタC1の第1端T13と電気的に接続された第2端を有する。スイッチZ12は、ダイオードD2を介してキャパシタC0の第2端T12と電気的に接続された第1端、およびキャパシタC1の第2端T14と電気的に接続された第2端を有する。スイッチZ13は、キャパシタC1の第1端T13と電気的に接続された第1端、およびダイオードD3を介してキャパシタC2の第1端T15と電気的に接続された第2端を有する。スイッチZ14は、キャパシタC1の第2端T14と電気的に接続された第1端、およびダイオードD4を介してキャパシタC2の第2端T16と電気的に接続された第2端を有する。
【0067】
ダイオードD1は、キャパシタC0の第1端T11とスイッチZ11の第1端との間に接続されている。ダイオードD2は、キャパシタC0の第2端T12とスイッチZ12の第1端との間に接続されている。ダイオードD3は、キャパシタC2の第1端T15とスイッチZ13の第2端との間に接続されている。ダイオードD4は、キャパシタC2の第2端T16とスイッチZ14の第2端との間に接続されている。
【0068】
より詳細には、ダイオードD1は、キャパシタC0の第1端T11に電気的に接続されたアノードと、スイッチZ11のコレクタに電気的に接続されたカソードとを有する。ダイオードD2は、スイッチZ12のエミッタに電気的に接続されたアノードと、キャパシタC0の第2端T12に電気的に接続されたカソードとを有する。ダイオードD3は、スイッチZ13のエミッタに電気的に接続されたアノードと、キャパシタC2の第1端T15に電気的に接続されたカソードとを有する。ダイオードD4は、キャパシタC2の第2端T16に電気的に接続されたアノードと、スイッチZ14のコレクタに電気的に接続されたカソードとを有する。
【0069】
スイッチZ11は、ダイオードD1のカソードに電気的に接続されたコレクタと、キャパシタC1の第1端T13に電気的に接続されたエミッタと、制御部14からのゲート制御信号G1を受けるゲートとを有する。スイッチZ12は、キャパシタC1の第2端T14に電気的に接続されたコレクタと、ダイオードD2のアノードに電気的に接続されたエミッタと、制御部14からのゲート制御信号G2を受けるゲートとを有する。スイッチZ13は、キャパシタC1の第1端T13に電気的に接続されたコレクタと、ダイオードD3のアノードに電気的に接続されたエミッタと、制御部14からのゲート制御信号G3を受けるゲートとを有する。スイッチZ14は、ダイオードD4のカソードに電気的に接続されたコレクタと、キャパシタC1の第2端T14に電気的に接続されたエミッタと、制御部14からのゲート制御信号G4を受けるゲートとを有する。
【0070】
すなわち、スイッチZ11の第1端および第2端がそれぞれスイッチZ11のコレクタおよびエミッタに相当し、スイッチZ12の第1端および第2端がそれぞれスイッチZ12のエミッタおよびコレクタに相当し、スイッチZ13の第1端および第2端がそれぞれスイッチZ13のコレクタおよびエミッタに相当し、スイッチZ14の第1端および第2端がそれぞれスイッチZ14のエミッタおよびコレクタに相当する。
【0071】
電力変換装置211は、交流電源202から供給された交流電力を直流電力に変換して負荷203に供給する。負荷203は、たとえば、EVおよびプラグイン方式のHV等の駆動用の主電池である。
【0072】
整流部102は、たとえば、ダイオードブリッジを含み、交流電源202から受けた交流電力を全波整流して電力伝達用絶縁回路111へ出力する。
【0073】
電力伝達用絶縁回路111において、キャパシタC0は、整流部102によって整流された電力を蓄える。入力スイッチ部31は、スイッチZ11の第1端およびスイッチZ12の第1端において受けた電力すなわちキャパシタC0に蓄えられた電力をキャパシタC1に供給する。出力スイッチ部32は、キャパシタC1に蓄えられた電力をキャパシタC2に供給する。キャパシタC2に蓄えられた電力は、放電されて負荷203に供給される。
【0074】
制御部14は、ゲート駆動信号G1〜G4をスイッチZ11〜Z14に出力することにより、スイッチZ11〜Z14のオンおよびオフを切り替える。電力伝達用絶縁回路111は、制御部14のスイッチ制御により、キャパシタC0および負荷203間を絶縁しながら、キャパシタC0に蓄えられた電力を負荷203に伝達する。
【0075】
本発明の第2の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路では、スイッチZ11ないしスイッチZ14は、NチャネルIGBTを含む。すなわち、プラス側およびマイナス側の両方において、NチャネルIGBTをスイッチング素子として使用する。
【0076】
図5は、スイッチング素子の耐電圧とオン抵抗の関係を示す図である。図5の出典は、荒井和雄,吉田貞史 共編,「SiC素子の基礎と応用」,(オーム社,2003),p.29.である。
【0077】
図5を参照して、Siデバイス同士の比較では、耐圧600V以上においてMOSFETよりもIGBTのオン抵抗の方が低いことが分かる。したがって、電力伝達用絶縁回路に必要なデバイスの耐圧が600V以上である場合において、電力伝達用絶縁回路においてMOSFETの代わりにIGBTを用いることにより、本発明の第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路と比べて、電力伝達用絶縁回路の導通損失をさらに低減することができる。
【0078】
したがって、本発明の第2の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路では、入力側および出力側間を絶縁しながら電力を伝達する回路において、電力効率の向上を図ることができる。
【0079】
また、本発明の第2の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路では、入力スイッチ部31は、キャパシタC0の第1端T11とスイッチZ11の第1端との間に接続されたダイオードD1と、キャパシタC0の第2端T12とスイッチZ12の第1端との間に接続されたダイオードD2とを含む。また、出力スイッチ部32は、スイッチZ13の第2端とキャパシタC2の第1端T15との間に接続されたダイオードD3と、スイッチZ14の第2端とキャパシタC2の第2端T16との間に接続されたダイオードD4とを含む。
【0080】
このような構成により、スイッチZ11およびスイッチZ13を、1つのハーフブリッジモジュールMJ11で実現し、また、スイッチZ12およびスイッチZ14を、1つのハーフブリッジモジュールMJ12で実現することが可能となる。すなわち、大容量の回路を製造する場合などに、IGBTを一般的なハーフブリッジのモジュールで構成することができるため、低コスト化、小型化、配線の容易化および組み立て工程の簡略化が可能となる。
【0081】
その他の構成および動作は第1の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路と同様であるため、ここでは詳細な説明を繰り返さない。
【0082】
なお、本発明の第2の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路では、スイッチZ11〜スイッチZ14はNチャネルIGBTであるとしたが、これに限定するものではない。スイッチZ11〜Z14は、NチャネルIGBTに加えて他の素子を含む構成であってもよい。
【0083】
また、本発明の第2の実施の形態に係る電力伝達用絶縁回路では、スイッチZ11およびZ13が1つのハーフブリッジモジュールMJ11に含まれ、また、スイッチZ12およびZ14が1つのハーフブリッジモジュールMJ12に含まれる構成であるとしたが、これに限定するものではない。スイッチZ11およびZ13の組、ならびにスイッチZ12およびZ14の組の一方の組が1つのハーフブリッジモジュールに含まれる構成であってもよい。
【0084】
上記実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
14 制御部
21,31 入力スイッチ部
22,32 出力スイッチ部
101,111 電力伝達用絶縁回路
102 整流部
201,211 電力変換装置
202 交流電源
203 負荷
C0〜C2 キャパシタ
D1,D2,D3,D4 ダイオード
MJ1,MJ2,MJ11,MJ12 ハーフブリッジモジュール
Z1,Z2,Z3,Z4,Z11,Z12,Z13,Z14 スイッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端および第2端を有する第1の蓄電素子と、
第1端および第2端を有する第2の蓄電素子と、
第1端、および前記第1の蓄電素子の第1端と電気的に接続された第2端を有する第1のスイッチ、ならびに第1端、および前記第1の蓄電素子の第2端と電気的に接続された第2端を有する第2のスイッチを含み、前記第1のスイッチの第1端および前記第2のスイッチの第1端において受けた電力を前記第1の蓄電素子に供給するための入力スイッチ部と、
前記第1の蓄電素子の第1端と前記第2の蓄電素子の第1端との間に接続された第3のスイッチおよび前記第1の蓄電素子の第2端と前記第2の蓄電素子の第2端との間に接続された第4のスイッチを含み、前記第1の蓄電素子に蓄えられた電力を前記第2の蓄電素子に供給するための出力スイッチ部とを備え、
前記第1のスイッチないし前記第4のスイッチは、NチャネルMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタを含む、電力伝達用絶縁回路。
【請求項2】
前記入力スイッチ部は、さらに、
前記第1のスイッチの第1端に接続された第1のダイオードと、
前記第2のスイッチの第1端に接続された第2のダイオードとを含み、
前記出力スイッチ部は、さらに、
前記第3のスイッチと前記第2の蓄電素子の第1端との間に接続された第3のダイオードと、
前記第4のスイッチと前記第2の蓄電素子の第2端との間に接続された第4のダイオードとを含む、請求項1に記載の電力伝達用絶縁回路。
【請求項3】
前記第1のスイッチおよび前記第3のスイッチの組、ならびに前記第2のスイッチおよび前記第4のスイッチの組の少なくとも一方の組は、1つのハーフブリッジモジュールに含まれる、請求項2に記載の電力伝達用絶縁回路。
【請求項4】
前記第1のスイッチないし前記第4のスイッチは、NチャネルIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の電力伝達用絶縁回路。
【請求項5】
前記電力伝達用絶縁回路は、さらに、
前記第1のスイッチの第1端と前記第2のスイッチの第1端との間に接続された第3の蓄電素子を備える、請求項1から4のいずれか1項に記載の電力伝達用絶縁回路。
【請求項6】
交流電力を直流電力に変換して負荷に供給するための電力変換装置であって、
受けた交流電力を整流するための整流部と、
前記整流部および前記負荷間を絶縁しながら、前記整流部によって整流された電力を前記負荷に伝達するための電力伝達用絶縁回路とを備え、
前記電力伝達用絶縁回路は、
第1端および第2端を有する第1の蓄電素子と、
第1端および第2端を有する第2の蓄電素子と、
前記整流部によって整流された電力を受ける第1端、および前記第1の蓄電素子の第1端と電気的に接続された第2端を有する第1のスイッチ、ならびに前記整流部によって整流された電力を受ける第1端、および前記第1の蓄電素子の第2端と電気的に接続された第2端を有する第2のスイッチを含み、前記整流部によって整流された電力を前記第1の蓄電素子に供給するための入力スイッチ部と、
前記第1の蓄電素子の第1端と前記第2の蓄電素子の第1端との間に接続された第3のスイッチおよび前記第1の蓄電素子の第2端と前記第2の蓄電素子の第2端との間に接続された第4のスイッチを含み、前記第1の蓄電素子に蓄えられた電力を前記第2の蓄電素子に供給するための出力スイッチ部とを備え、
前記第1のスイッチないし前記第4のスイッチは、NチャネルMOSトランジスタを含む、電力変換装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−223668(P2011−223668A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87597(P2010−87597)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】