説明

電力制御システム、無線方式管理装置、及び電力制御方法

【課題】複数の無線通信システムにおいて周波数を共用する場合に、優先度の高い無線通信システムへの干渉を抑えながら、優先度の低い無線通信システムに属する無線局の通信可能範囲を拡大する。
【解決手段】無線方式管理装置7は、基地局1及び端末局2の送信電力値を取得するとともに、基地局3から送信電力値と、基地局1からの受信電力値及び端末局2からの受信電力値を受信し、これらの値に基づいて、基地局3から基地局1、端末局2への干渉電力を算出する。基地局1への干渉電力のほうが大きい場合は、基地局3における送信電力を、最大許容干渉量と基地局1における送信電力値とを加算し、基地局3における基地局1からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力制御システム、無線方式管理装置、及び電力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数利用効率を向上する方法の一つに複数の無線通信システムによる周波数共用があり、モニタ局などを利用して互いに干渉しないように、送信電力を制御する方法などが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図2は、従来の周波数共用における送信電力制御の構成を示した図である。複数の無線通信システムによる周波数共用を行う場合、優先度の低い2次利用者は、優先度の高い1次利用者に対して干渉を与えないように送信電力を制御しながら同じ周波数で通信を行う。同図において、1次利用者である基地局91及び2次利用者である基地局93の周囲に配置された複数のモニタ局95−1〜95−nは、基地局91(1次利用者)の送信信号を受信し、受信電力値を基地局93(2次利用者)に送信する。このとき、基地局93の通信エリア内にあるモニタ局95−1、95−2、95−nは直接基地局93(2次利用者)に受信電力値を送信する。一方、基地局93の通信エリア外のモニタ局95−3、95−n−1は、マルチホップ通信を利用し、それぞれモニタ局95−2、95−nを介して基地局93に受信電力値を送信する。基地局93は、最小受信電力のモニタ局95−i(iは1からnのいずれか)における当該基地局93からの無線信号の受信レベルが許容干渉レベル以下となるように送信電力を制御して端末局94(2次利用者)と通信を行う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y. Yu et al., “Interference information based power control cognitive radio with multi-hop cooperative sensing,” IEICE Trans. Commun., Vol.E91-B, No.1, pp.70-76, Jan. 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図3に示すように、2つの無線通信システム間の干渉は、基地局と端末局の位置関係によって与干渉局と被干渉局が異なる。同図では、基地局91(1次利用者)と端末局92(1次利用者)とが通信し、基地局93(2次利用者)と端末局94(2次利用者)とが通信している。図3(a)では、基地局91が与干渉局、基地局93が被干渉局である。図3(b)では、端末局92が与干渉局、端末局94が被干渉局である。図3(c)では、端末局92が与干渉局、基地局93が被干渉局である。
【0006】
このため、1次利用者および2次利用者の基地局や端末局の位置関係、伝搬損失および周波数共用を行なう時間などを把握して、基地局と端末局のどちらが与干渉源および被干渉源になるのかを特定しないと送信電力制御による干渉回避が困難になる。
また、図2では1次利用者の端末局の受信電力を推定せずに送信電力制御を行うため、許容干渉レベルが最小受信電力を基準に決定されている。よって、1次利用者の受信局の受信電力が最小受信電力よりも大きい場合でも、2次利用者に対して許容される送信電力が過小に設定されてしまい、2次利用者のサービス範囲が狭くなってしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、複数の無線通信システムにおいて周波数を共用する場合に、優先度の高い無線通信システムへの干渉を抑えながら、優先度の低い無線通信システムに属する無線局の通信可能範囲を拡大することができる電力制御システム、無線方式管理装置、及び電力制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、第1の無線局および第2の無線局を含んで構成される高優先度の無線通信システムと、第3の無線局を含んで構成される低優先度の無線通信システムと、無線方式管理装置とを有する電力制御システムであって、前記無線方式管理装置は、前記第1の無線局及び前記第2の無線局の送信電力値を取得するとともに、前記第3の無線局から送信電力値と、前記第1の無線局からの受信電力値及び前記第2の無線局からの受信電力値を受信する電力値受信部と、前記第3の無線局の送信電力値と前記第1の無線局の送信電力値との差に、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を加算することにより、当該第3の無線局から前記第1の無線局への第1の干渉電力値を算出するとともに、前記第3の無線局の送信電力値と前記第2の無線局の送信電力値との差に、前記第2の無線局における前記第3の無線局からの受信電力値を加算することにより、当該第3の無線局から前記第2の無線局への第2の干渉電力値を算出する干渉量算出部と、前記第1の干渉電力値が前記第2の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力を、最大許容干渉量と前記第1の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御し、前記第2の干渉電力値が前記第1の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力を、最大許容干渉量と前記第2の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第2の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御する制御部と、を備える、ことを特徴とする電力制御システムである。
【0009】
また、本発明は、上述する電力制御システムであって、前記制御部は、前記第1の干渉電力値が前記第2の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力値が、最大許容干渉量と前記第2の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第2の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように、第2の無線局と同期して無線信号を送信するよう制御し、前記第2の干渉電力値が前記第1の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力が、最大許容干渉量と前記第1の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように、前記第1の無線局と同期して無線信号を送信するよう制御する、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上述する電力制御システムであって、前記制御部は、前記第1の無線局と前記第2の無線局の間に設置されたモニタ局の受信電力値に基づいて、前記最大許容干渉量を算出する、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、第1の無線局および第2の無線局を含んで構成される高優先度の無線通信システムと、第3の無線局を含んで構成される低優先度の無線通信システムと、無線方式管理装置とを有する電力制御システムの前記無線方式管理装置であって、前記第1の無線局及び前記第2の無線局の送信電力値を取得するとともに、前記第3の無線局から送信電力値と、前記第1の無線局からの受信電力値及び前記第2の無線局からの受信電力値を受信する電力値受信部と、前記第3の無線局の送信電力値と前記第1の無線局の送信電力値との差に、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を加算することにより、当該第3の無線局から前記第1の無線局への第1の干渉電力値を算出するとともに、前記第3の無線局の送信電力値と前記第2の無線局の送信電力値との差に、前記第2の無線局における前記第3の無線局からの受信電力値を加算することにより、当該第3の無線局から前記第2の無線局への第2の干渉電力値を算出する干渉量算出部と、前記第1の干渉電力値が前記第2の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力を、最大許容干渉量と前記第1の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御し、前記第2の干渉電力値が前記第1の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力を、最大許容干渉量と前記第2の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第2の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御する制御部と、を備えることを特徴とする無線方式管理装置である。
【0012】
また、本発明は、第1の無線局および第2の無線局を含んで構成される高優先度の無線通信システムと、第3の無線局を含んで構成される低優先度の無線通信システムと、無線方式管理装置とを有する電力制御システムが実行する電力制御方法であって、前記無線方式管理装置が、前記第1の無線局及び前記第2の無線局の送信電力値を取得するとともに、前記第3の無線局から送信電力値と、前記第1の無線局からの受信電力値及び前記第2の無線局からの受信電力値を受信する電力値受信ステップと、前記第3の無線局の送信電力値と前記第1の無線局の送信電力値との差に、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を加算することにより、当該第3の無線局から前記第1の無線局への第1の干渉電力値を算出するとともに、前記第3の無線局の送信電力値と前記第2の無線局の送信電力値との差に、前記第2の無線局における前記第3の無線局からの受信電力値を加算することにより、当該第3の無線局から前記第2の無線局への第2の干渉電力値を算出する干渉量算出ステップと、前記第1の干渉電力値が前記第2の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力を、最大許容干渉量と前記第1の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御し、前記第2の干渉電力値が前記第1の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力を、最大許容干渉量と前記第2の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第2の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御する制御ステップと、を有することを特徴とする電力制御方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数の無線通信システムにおいて周波数を共用する場合に、優先度の高い無線通信システムへの干渉を抑えながら、優先度の低い無線通信システムに属する無線局の通信可能範囲を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態による電力制御システムの構成を示すブロック図である。
【図2】従来の周波数共用における送信電力制御の構成を示す図である。
【図3】従来の周波数共用におけるシステム間干渉を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の一実施形態による電力制御システムの構成図である。同図に示す電力制御システムでは、二つの無線通信システムが同一周波数帯を用いて通信しており、一方が1次利用者(高優先度)の無線通信システムであり、他方が2次利用者(低優先度)の無線通信システムである。1次利用者の無線通信システムでは、基地局1(1次利用者)と端末局2(1次利用者)の2つの無線局が通信し、2次利用者の無線通信システムでは、基地局3(2次利用者)と端末局4(2次利用者)の2つの無線局が通信している。1次利用者は周波数利用の優先度が高いため、2次利用者の無線信号が1次利用者の干渉とならないように送信電力を制限する必要がある。
【0017】
データベース9には、1次利用者の無線通信システムの最大許容干渉量、最小受信電力、干渉マージン、接続方式、送信タイミング、多重方式などの無線諸元が登録されている。さらに、データベース9には、基地局1、端末局2、及びモニタ局5−1〜5−n(以下、総称して「モニタ局5」とも記載する。)の各局の位置情報が登録されている。
【0018】
モニタ局5−1〜5−nは、基地局1と端末局2の2ヶ所を結ぶ直線の周辺に設置され、それぞれ、信号処理装置6と光ファイバ11−1〜11−nにより接続されている。モニタ局5は、基地局1からの受信電力値、ならびに端末局2からの受信電力値を測定し、信号処理装置6を介して無線方式管理装置7に通知する。
【0019】
信号処理装置6は、基地局3と光ファイバ10で接続されており、モニタ局5−1〜5−nと光ファイバ11−1〜11−nにより接続されている。信号処理装置6は、無線方式管理装置7と基地局3やモニタ局5との間のデータを中継する。
【0020】
無線方式管理装置7は、インターネットなどを利用したコアネットワーク8を介してデータベース9と接続されている。無線方式管理装置7は電力値受信部71、干渉量算出部72、及び制御部73を備える。電力値受信部71は、基地局1及び端末局2の送信電力値を受信するとともに、基地局3から送信電力値と、基地局1及び端末局2のそれぞれから受信する無線信号の受信電力値とを受信する。また、電力値受信部71は、モニタ局5における基地局1からの受信電力値、ならびに端末局2からの受信電力値を受信する。干渉量算出部72は、電力値受信部71が受信した送信電力値及び受信電力値に基づいて干渉量を算出する。制御部73は、干渉量算出部72が算出した干渉量や、データベース9から読み出した各無線局の位置情報に基づいて、基地局3の送信電力を制御する。
【0021】
なお、基地局1、端末局2、及び複数の各モニタ局5の各局は、各局それぞれが内部に備えるGPS(Global positioning system)などにより位置情報を検出する。各局が検出した位置情報は、データベース9に登録される。例えば、基地局1及び基地局3は、直接、あるいは、他の装置を介してデータベース9に接続され、基地局1は、自局の位置情報及び端末局2から受信した位置情報をデータベース9に登録し、基地局3は、自局の位置情報をデータベース9に登録する。
【0022】
次に、電力制御システムの動作について説明する。
無線方式管理装置7の電力値受信部71は、データベース9から基地局1と端末局2の送信タイミングを取得し、信号処理装置6を介して基地局3に通知する。
【0023】
基地局3は、基地局1の送信タイミングにおいて無線信号の電力を測定することにより、自局における基地局1からの送信に対する受信電力Prb2−b1(受信電力値)を測定する。同様に、基地局3は、端末局2の送信タイミングにおいて無線信号の電力を測定することにより、自局における端末局2からの送信に対する受信電力Prb2−s1(受信電力値)を測定する。基地局3は、自局の送信電力Ptb2(送信電力値)と、測定した受信電力Prb2−b1、Prb2−s1を信号処理装置6を介してリアルタイムに無線方式管理装置7へ通知する。無線方式管理装置7の電力値受信部71は、通知された受信電力Prb2−b1、Prb2−s1を受信する。
【0024】
また、基地局1は自局の送信電力Ptb1(送信電力値)を、端末局2は、自局の送信電力Pts1(送信電力値)を、リアルタイムに無線方式管理装置7へ通知する。例えば、基地局1は、信号処理装置6を介してあるいは無線方式管理装置7に直接接続され、基地局1は、自局の送信電力Ptb1及び端末局2から受信した送信電力Pts1を無線方式管理装置7に通知する。無線方式管理装置7の電力値受信部71は、通知された送信電力Ptb1及び送信電力Pts1を受信する。
【0025】
無線方式管理装置7の干渉量算出部72は、電力値受信部71が基地局1の送信タイミングで取得した、基地局3における基地局1からの送信に対する受信電力Prb2−b1、基地局3の送信電力Ptb2、及び基地局1の送信電力Ptb1を用いて、以下の式(1)により基地局3から基地局1への与干渉量Ib2−b1を算出する。
【0026】
(Ib2−b1)=(Ptb2)−(Ptb1)+(Prb2−b1) …(1)
【0027】
同様に、無線方式管理装置7の干渉量算出部72は、電力値受信部71が端末局2の送信タイミングで取得した、基地局3における端末局2からの送信に対する受信電力Prb2−s1、基地局3の送信電力Ptb2、及び端末局2の送信電力Pts1を用いて、以下の式(2)により基地局3から端末局2への与干渉量Ib2−s1を算出する。
【0028】
(Ib2−s1)=(Ptb2)−(Pts1)+(Prb2−s1) …(2)
【0029】
[制御方法A:全てに対して干渉を与えない場合]
無線方式管理装置7の制御部73は、1次利用者の無線通信システムに属する各局への与干渉量を比較し、最も大きな値を選択する。ここでは、端末局2への与干渉量Ib2−s1が大きいとする。無線方式管理装置7の制御部73は、1次利用者である無線通信システムの最大許容干渉量Imax1をデータベース9から読み出すと、以下の式(3)を満たすように、基地局3の送信電力を制御する。
【0030】
(Ptb2)<(Imax1)+(Pts1)−(Prb2−s1) …(3)
【0031】
例えば、無線方式管理装置7の制御部73は、式(3)が満たされていない場合、電力値受信部71がリアルタイム受信した送信電力Ptb2、送信電力Pts1、及び受信電力Prb2−s1が上記の式(3)を満たすまで、基地局3に送信電力を下げるように定期的に指示を出力する。基地局3は、無線方式管理装置7から指示を受ける度に、送信電力を所定電力量だけ低下させ、無線信号を端末局4に送信する。これにより、基地局3は、1次利用者の基地局1ならびに端末局2の両方に干渉を与えることなく無線信号を送信できようになる。
【0032】
なお、基地局1への与干渉量Ib2−b1が最も大きい場合、無線方式管理装置7は、以下の式(4)を満たすように、基地局3の送信電力を制御する。
【0033】
(Ptb2)<(Imax1)+(Ptb1)−(Prb2−b1) …(4)
【0034】
例えば、無線方式管理装置7の制御部73は、式(4)が満たされていない場合、電力値受信部71がリアルタイムに受信した送信電力Ptb2、送信電力Ptb1、及び受信電力Prb2−b1が上記の式(4)を満たすまで、基地局3に送信電力を下げるように定期的に指示を出力する。基地局3は、無線方式管理装置7から指示を受ける度に、送信電力を所定電力量だけ低下させ、無線信号を端末局4に送信する。
【0035】
[制御方法B:送信タイミングを選択する場合]
無線方式管理装置7の制御部73は、制御方法Aと同様に、1次利用者の無線通信システムに属する各無線局への与干渉量を比較し、最も大きな値を選択する。ここでは、端末局2への与干渉量Ib2−s1が大きいとする。
このとき、端末局2における無線信号の送信に同期して、基地局3が無線信号を送信すれば、端末局2には干渉を与えない。そこで、まず、無線方式管理装置7の制御部73は、1次利用者である無線通信システムの最大許容干渉量Imax1をデータベース9から読み出す。そして、制御部73は、以下の式(5)を満たすように、端末局2における無線信号の送信に同期して基地局3が無線信号を送信する際の送信電力を制御する。
【0036】
(Ptb2)<(Imax1)+(Ptb1)−(Prb2−b1) …(5)
【0037】
例えば、無線方式管理装置7の制御部73は、式(5)が満たされていない場合、電力値受信部71が受信した送信電力Ptb2、送信電力Ptb1、及び受信電力Prb2−b1が上記の式(5)を満たすまで、基地局3に送信電力を下げるように指示する。基地局3は、無線方式管理装置7から指示を受ける度に、送信電力を所定電力量だけ低下させ、端末局2における無線信号の送信に同期して無線信号を端末局4に送信する。
【0038】
これにより制御方法Aと比較して、基地局3は、(Ptb1)−(Pts1)+(Prb2−s1)−(Prb2−b1)だけ大きな送信電力で通信できる。
【0039】
なお、基地局1への与干渉量Ib2−s1が最も大きい場合、無線方式管理装置7の制御部73は、以下の式(6)を満たすように、基地局1における無線信号の送信に同期して基地局3が無線信号を送信する際の送信電力を制御する。
【0040】
(Ptb2)<(Imax1)+(Pts1)−(Prb2−s1) …(6)
【0041】
例えば、無線方式管理装置7の制御部73は、式(6)が満たされていない場合、電力値受信部71が受信した送信電力Ptb2、送信電力Pts1、及び受信電力Prb2−s1が上記の式(6)を満たすまで、基地局3に送信電力を下げるように指示する。基地局3は、無線方式管理装置7から指示を受ける度に、送信電力を所定電力量だけ低下させ、基地局1における無線信号の送信に同期して無線信号を端末局4に送信する。
【0042】
[制御方法C:モニタ局を利用して最大許容干渉量を求める]
制御方法Aおよび制御方法Bで用いた最大許容干渉量Imax1は、通常の場合、最小受信電力、干渉マージンおよび雑音マージンから算出された固定値であり、一般的に1次利用者の基地局1のサービスエリアの端における受信電力を想定して定められる。換言すると、最小受信電力での受信は、サービスエリア端に位置する場合や、遮蔽物により伝搬損失が増加する場合などに限られ、それ以外での受信電力は最小受信電力よりも大きくなると考えられる。また、受信電力の増加に伴い、最大許容干渉量も増加する。したがって、1次利用者の基地局1と端末局2との位置関係に応じて最小受信電力を定めることにより、2次利用者の基地局3の送信電力を高くすることができる。
【0043】
そこで、基地局1と端末局2の2ヶ所を結ぶ直線周辺に位置するモニタ局5は、基地局1ならびに端末局2の送信に同期して受信電力を測定し、信号処理装置6を介して無線方式管理装置7に通知する。
なお、モニタ局5は、基地局1と端末局2との間で送受信される無線信号を受信し、受信した無線信号の受信状態を示す無線データを信号処理装置6に通知し、信号処理装置6が、受信した無線データから受信電力を取得して無線方式管理装置7に通知してもよい。
【0044】
無線方式管理装置7の制御部73は、データベース9から基地局1、端末局2および各モニタ局5の位置情報を取得する。
制御部73は、基地局1からの各モニタ局5の距離と、基地局1の送信タイミングにおいて得られたこれらモニタ局5における電力量との関係に基づいて、アンテナ高による補正などを含めた伝搬損失の回帰式を求める。制御部73は、この求めた回帰式と、基地局1と端末局2との距離とから、端末局2における基地局1からの受信電力を推定する。
【0045】
同様に、制御部73は、端末局2からの各モニタ局5の距離と、端末局2の送信タイミングにおいて得られたこれらモニタ局5における電力量との関係に基づいて、アンテナ高による補正などを含めた伝搬損失の回帰式を求める。制御部73は、この求めた回帰式と、基地局1と端末局2との距離とから、基地局1における端末局2からの受信電力を推定する。
【0046】
次に、制御部73は、基地局1、端末局2のそれぞれについて推定した受信電力からそれぞれの最大許容干渉量Imax1b、Imax1sを推定する。例えば、基地局1について推定した受信電力と、基地局1から取得した雑音電力との比からSIRを求め、求めたSIRと、基地局1が使用する伝送方式(変調方式等)を想定したときに必要となる所要SIRとの差から最大許容干渉量Imax1bを推定する。同様に、端末局2について推定した受信電力と、端末局2から取得した雑音電力との比からSIRを求め、求めたSIRと、端末局2が使用する伝送方式(変調方式等)を想定したときに必要となる所要SIRとの差から最大許容干渉量Imax1sを推定する。
【0047】
無線方式管理装置7の制御部73は、推定した最大許容干渉量を用いて、端末局2へ干渉を与えない基地局3の最大送信電力Ptb2−s1を、以下の式(7)により算出する。
【0048】
(Ptb2−s1)=(Imax1s)−(Prb2−s1) …(7)
【0049】
また、無線方式管理装置7の制御部73は、推定した最大許容干渉量を用いて、基地局1へ干渉を与えない基地局3の最大送信電力Ptb2−b1を、以下の式(8)により算出する。
【0050】
(Ptb2−b1)=(Imax1b)−(Prb2−b1) …(8)
【0051】
無線方式管理装置7の制御部73は、算出した最大送信電力Ptb2−s1及び最大送信電力Ptb2−b1を基地局3に通知する。
【0052】
基地局3は、最大送信電力Ptb2−s1及び最大送信電力Ptb2−b1のいずれか小さいほうに送信電力を設定して送信する。この場合、端末局2ならびに基地局1のどちらにも与干渉とならない。
【0053】
また、基地局3は、最大送信電力Ptb2−s1のほうが最大送信電力Ptb2−b1よりも小さい場合、端末局2の送信タイミングに同期して無線信号を送信することにより、最大送信電力Ptb2−b1に送信電力を設定することができる。
同様に、基地局3は、最大送信電力Ptb2−b1のほうが最大送信電力Ptb2−s1よりも小さい場合、基地局1の送信タイミングに同期して無線信号を送信することにより、最大送信電力Ptb2−s1に送信電力を設定することができる。
【0054】
なお、上記実施形態では、基地局1、端末局2から送信電力を受信しているが、基地局1、端末局2の送信電力が一定である場合には、データベース9に予め送信電力Ptb1、送信電力Pts1を記憶しておき、無線方式管理装置7の電力値受信部71は、データベース9からこれらの値を読み出してもよい。
【0055】
また、モニタ局5は、受信機能のみを持つ無線機器に限定するものではなく、無線LAN(Local Area Network)のアクセスポイントなどの無線基地局でも良い。この無線基地局は、無線方式管理装置7に光ファイバ11ならびに信号処理装置6を介して、あるいは、コアネットワーク8を介して接続され、通信時間以外の待機時間においてのみ、上述したモニタ局5として動作する。
【0056】
また、上記においては、基地局3の送信電力を制御する場合について説明したが、同様にして端末局4の送信電力を制御することもできる。但し、端末局4は、無線局3を介して無線方式管理装置7と通信する。
【0057】
コグニティブ無線のように従来の方法によって無線通信システム間で周波数を共用する場合には、モニタ局を設置し、複数の無線通信システム間で干渉が生じないように送信電力制御を行っていた。しかし、この方法では、それぞれのシステムにおける基地局と端末局の間の位置関係によって、干渉局と被干渉局が一定でないため、精度よく送信電力制御ができないという問題があった。また、1次利用者の端末局の受信電力を推定せずに行う方法では、許容干渉レベルが最小受信電力を基準に設定されるため、2次利用者の送信電力が過剰に低くなるという問題があった。
【0058】
そこで本実施形態では、2次利用者の基地局における1次利用者の各局の受信電力に基づいて与干渉電力を推定し、2次利用者の基地局の送信電力を制御する。具体的には、2次利用者の基地局は、1次利用者の基地局および端末局の送信タイミングをデータベースから取得し、そのときの受信電力に基づいてそれぞれの無線局からの受信電力を取得する。無線方式管理装置は、それぞれの無線局と2次利用者の基地局の送信電力の差に、2次利用者の基地局が取得した受信電力を加算することによって与干渉電力を算出する。この与干渉電力が、予め決められた最大許容干渉レベル、1次利用者の無線局の送信電力、及び2次利用者の基地局における1次利用者の無線局からの受信電力に基づいて得られる許容される干渉レベルを超えている場合、無線方式管理装置は、2次利用者の基地局の送信電力を低下させる。
【0059】
このような構成にすることで、2次利用者の基地局は、1次利用者の基地局および端末局のいずれの無線局に対しても最大許容干渉レベルを超えないように送信を行いながら、1次利用者の無線通信システムと同一の周波数を使用することが可能となる。このとき、実際に1次利用者の無線局に与えている干渉電力に従って、2次利用者の基地局に対して許容される干渉レベルを決定するため、2次利用者の基地局が無線通信できる範囲(サービスエリア)を従来よりも拡大することができる。
【0060】
なお、2次利用者の基地局は、1次利用者の無線局のうち、被干渉電力の大きい無線局の送信タイミングと同期して、他方の無線局の最大許容干渉レベルより低くなるような送信電力で送信を行うことも可能である。この場合には、送信電力を高くすることができるため、2次利用者のサービスエリアがさらに拡大する効果がある。
【0061】
また、最大許容干渉レベルを、1次利用者の無線局の近くにおいたモニタ局が受信する当該1次利用者の無線局からの受信電力に基づいて算出することもできる。この場合は、1次利用者の最大許容干渉レベルとして最小となる固定値を用いずに、1次利用者の基地局と端末局の位置関係に基づいた最適な値を用いることができるため、2次利用者の送信電力を高くすることができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、無線方式管理装置7の電力値受信部71、干渉量算出部72、制御部73は、専用のハードウェア(例えば、ワイヤードロジック等)により実現されてもよく、電力値受信部71、干渉量算出部72、制御部73がメモリおよびCPU(中央処理装置)により構成され、各部の機能を実現するためのプログラムをメモリからロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
【0063】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0064】
1 基地局(第1の無線局)
2 端末局(第2の無線局)
3 基地局(第3の無線局)
4 端末局(第3の無線局)
5−1〜5−n モニタ局
6 信号処理装置
7 無線方式管理装置
8 コアネットワーク
9 データベース
10、11−1〜11−n 光ファイバ
71 電力値受信部
72 干渉量算出部
73 制御部
91、93 基地局
92、94 端末局
95−1〜95−n モニタ局

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の無線局および第2の無線局を含んで構成される高優先度の無線通信システムと、第3の無線局を含んで構成される低優先度の無線通信システムと、無線方式管理装置とを有する電力制御システムであって、
前記無線方式管理装置は、
前記第1の無線局及び前記第2の無線局の送信電力値を取得するとともに、前記第3の無線局から送信電力値と、前記第1の無線局からの受信電力値及び前記第2の無線局からの受信電力値を受信する電力値受信部と、
前記第3の無線局の送信電力値と前記第1の無線局の送信電力値との差に、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を加算することにより、当該第3の無線局から前記第1の無線局への第1の干渉電力値を算出するとともに、前記第3の無線局の送信電力値と前記第2の無線局の送信電力値との差に、前記第2の無線局における前記第3の無線局からの受信電力値を加算することにより、当該第3の無線局から前記第2の無線局への第2の干渉電力値を算出する干渉量算出部と、
前記第1の干渉電力値が前記第2の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力を、最大許容干渉量と前記第1の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御し、前記第2の干渉電力値が前記第1の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力を、最大許容干渉量と前記第2の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第2の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御する制御部と、
を備える、
ことを特徴とする電力制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の干渉電力値が前記第2の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力値が、最大許容干渉量と前記第2の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第2の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように、第2の無線局と同期して無線信号を送信するよう制御し、前記第2の干渉電力値が前記第1の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力が、最大許容干渉量と前記第1の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように、前記第1の無線局と同期して無線信号を送信するよう制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電力制御システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1の無線局と前記第2の無線局の間に設置されたモニタ局の受信電力値に基づいて、前記最大許容干渉量を算出する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電力制御システム。
【請求項4】
第1の無線局および第2の無線局を含んで構成される高優先度の無線通信システムと、第3の無線局を含んで構成される低優先度の無線通信システムと、無線方式管理装置とを有する電力制御システムの前記無線方式管理装置であって、
前記第1の無線局及び前記第2の無線局の送信電力値を取得するとともに、前記第3の無線局から送信電力値と、前記第1の無線局からの受信電力値及び前記第2の無線局からの受信電力値を受信する電力値受信部と、
前記第3の無線局の送信電力値と前記第1の無線局の送信電力値との差に、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を加算することにより、当該第3の無線局から前記第1の無線局への第1の干渉電力値を算出するとともに、前記第3の無線局の送信電力値と前記第2の無線局の送信電力値との差に、前記第2の無線局における前記第3の無線局からの受信電力値を加算することにより、当該第3の無線局から前記第2の無線局への第2の干渉電力値を算出する干渉量算出部と、
前記第1の干渉電力値が前記第2の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力を、最大許容干渉量と前記第1の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御し、前記第2の干渉電力値が前記第1の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力を、最大許容干渉量と前記第2の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第2の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御する制御部と、
を備えることを特徴とする無線方式管理装置。
【請求項5】
第1の無線局および第2の無線局を含んで構成される高優先度の無線通信システムと、第3の無線局を含んで構成される低優先度の無線通信システムと、無線方式管理装置とを有する電力制御システムが実行する電力制御方法であって、
前記無線方式管理装置が、
前記第1の無線局及び前記第2の無線局の送信電力値を取得するとともに、前記第3の無線局から送信電力値と、前記第1の無線局からの受信電力値及び前記第2の無線局からの受信電力値を受信する電力値受信ステップと、
前記第3の無線局の送信電力値と前記第1の無線局の送信電力値との差に、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を加算することにより、当該第3の無線局から前記第1の無線局への第1の干渉電力値を算出するとともに、前記第3の無線局の送信電力値と前記第2の無線局の送信電力値との差に、前記第2の無線局における前記第3の無線局からの受信電力値を加算することにより、当該第3の無線局から前記第2の無線局への第2の干渉電力値を算出する干渉量算出ステップと、
前記第1の干渉電力値が前記第2の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力を、最大許容干渉量と前記第1の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第1の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御し、前記第2の干渉電力値が前記第1の干渉電力値より大きい場合は、前記第3の無線局における送信電力を、最大許容干渉量と前記第2の無線局における送信電力値とを加算した値から、前記第3の無線局における前記第2の無線局からの受信電力値を減算した値よりも小さくなるように制御する制御ステップと、
を有することを特徴とする電力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−98856(P2013−98856A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241363(P2011−241363)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】