説明

電力合成増幅器

【課題】 誤差増幅器から出力される歪成分の信号を全て無駄なく有効利用して、電力効率を向上させることができ、広帯域の信号に適用可能な電力合成増幅器を提供する。
【解決手段】 入力信号を3分配する分配器1と、位相及び振幅を調整した第1の分配信号を増幅する第1の増幅器4と、第2の分配信号と第1の増幅器4の出力とを逆位相で合成して歪成分を出力する分配合成器6と、歪成分を増幅する第2の増幅器9と、第2の増幅器9の出力と第3の分配信号とを合成する第1の合成器11と、第1の合成器11の出力を増幅する第3の増幅器14と、分配合成器6から出力される第1の増幅器4の出力信号と、第3の増幅器14の出力信号について、歪成分を逆相で合成して相殺し、信号成分を同相で合成して増幅器出力とする第2の合成器16とを備え、分配器1と、分配合成器6と、第1及び第2の合成器とをウィルキンソンカプラで構成した電力増幅器としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力合成増幅器に係り、特に広帯域の信号に適用可能であり、良好な歪補償を行うと共に電力効率を向上させることができる電力合成増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明:図5]
携帯電話システムの基地局に用いられる増幅器には、非常に大きな出力電力が要求されるため、所望の電力を得るために複数の増幅器を並列に接続して出力を合成する合成形電力増幅器を用いる必要がある。
【0003】
従来の電力合成増幅器について図5を用いて説明する。図5は、従来の電力合成増幅器の構成を示す回路図である。
図5に示すように、従来の電力合成増幅器は、分配器210と、増幅器220a,220bと、サーキュレータ240a,240bと、合成器230と、終端器250a,250bを備えている。
分配器210は、入力端子から入力された信号を分配する。
増幅器220a,220bは、分配された信号を増幅する。
合成器230は、サーキュレータ240a,240bからの信号を合成して、出力端子に出力する。
終端器250は入力された信号を接地する。
【0004】
そして、上記構成の従来の電力合成増幅器では、入力端子から入力された信号は、分配器210で2つに分配され、それぞれ、増幅器220a、220bで増幅されて、サーキュレータ240a、240bを介して合成器230に入力され、合成器230で両系統が合成されて出力端子に出力される。
【0005】
増幅器220には、個体毎に位相及び振幅の特性にばらつきがあるため、そのベクトルの差分の電力が合成器230によって反射され、サーキュレータ240を通過して、終端器250で吸収される。この終端器250で吸収される電力が損失となる。
そこで、従来の電力合成増幅器では、効率的に電力を増幅するために、増幅器220a,220bの位相及び振幅を予め同位相かつ同振幅になるように調整して設置していた。
しかし、図5に示した従来の電力合成増幅器では、各々の増幅器の非線形歪がそのまま合成されるため、線形性を確保できない。
【0006】
また、高速データ通信を実現するため、互いに直交する複数のキャリアを用いるOFDM(直交周波数多重変調方式:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)が広く採用されるようになっており、電力合成増幅器も一層の広帯域化が望まれている。
【0007】
[関連技術]
電力合成増幅器に関する先行技術としては、特開2010−50609号公報(出願人:株式会社日立国際電気、特許文献1)がある。
特許文献1には、入力信号を3分配し、第1の分配信号を第1の増幅器で増幅し、位相を調整した第2の分配信号と合成することで歪成分を取り出し、歪成分と位相を調整した第3の分配信号とを合成して第2の主増幅器で増幅し、第1の増幅器の出力と第2の増幅器の出力とを合成して出力を得る歪補償増幅回路が記載されており、これにより、良好な線形性を保ち電力効率を向上させることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−50609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の電力合成増幅器では、広帯域の信号に適用すると歪補償性能が劣化してしまうという問題点があった。
【0010】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、広帯域の信号に対して良好な歪補償を行うことができ、高効率の電力合成増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、電力合成増幅器において、入力信号を3つに分配して第1,第2,第3の分配信号を出力する分配器と、第1の分配信号について、第1の可変位相器で位相が調整され、第1の可変減衰器で振幅が調整された信号を増幅する第1の増幅器と、第1の増幅器の出力信号を2つに分配し、分配された一方の出力と、第1の遅延器で遅延された第2の分配信号とを合成して第1の増幅器における歪成分を抽出する分配合成器と、歪成分について、第2の可変位相器で位相が調整され、第2の可変減衰器で振幅が調整された信号を増幅する第2の増幅器と、第2の増幅器の出力信号と、第2の遅延器で遅延された第3の分配信号とを合成する第1の合成器と、第1の合成器の出力信号について、第3の可変位相器で位相が調整され、第3の可変減衰器で振幅が調整された信号を増幅する第3の増幅器と、分配合成器で分配された第1の増幅器の他方の出力について第3の遅延器で遅延された信号と、第3の増幅器の出力信号とを合成する第2の合成器とを備え、分配器を1入力3出力のウィルキンソンカプラで構成し、分配合成器を2入力2出力のウィルキンソンカプラで構成し、第1及び第2の合成器を2入力1出力のウィルキンソンカプラで構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、入力信号を3つに分配して第1,第2,第3の分配信号を出力する分配器と、第1の分配信号について、第1の可変位相器で位相が調整され、第1の可変減衰器で振幅が調整された信号を増幅する第1の増幅器と、第1の増幅器の出力信号を2つに分配し、分配された一方の出力と、第1の遅延器で遅延された第2の分配信号とを合成して第1の増幅器における歪成分を抽出する分配合成器と、歪成分について、第2の可変位相器で位相が調整され、第2の可変減衰器で振幅が調整された信号を増幅する第2の増幅器と、第2の増幅器の出力信号と、第2の遅延器で遅延された第3の分配信号とを合成する第1の合成器と、第1の合成器の出力信号について、第3の可変位相器で位相が調整され、第3の可変減衰器で振幅が調整された信号を増幅する第3の増幅器と、分配合成器で分配された第1の増幅器の他方の出力について第3の遅延器で遅延された信号と、第3の増幅器の出力信号とを合成する第2の合成器とを備え、分配器を1入力3出力のウィルキンソンカプラで構成し、分配合成器を2入力2出力のウィルキンソンカプラで構成し、第1及び第2の合成器を2入力1出力のウィルキンソンカプラで構成した電力合成増幅器としているので、第3の増幅器で、歪成分だけでなく信号成分も増幅し、第3の増幅器における信号エネルギーを無駄なく使用して、電力効率を向上させることができ、更にウィルキンソンカプラを用いることで歪補償性能を劣化させることなく広帯域の信号に適用することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る電力合成増幅器の構成ブロック図である。
【図2】(a)はハイブリッドカプラの模式説明図であり、(b)は3段2分配のウィルキンソンカプラの回路図であり、(c)はハイブリッドカプラとウィルキンソンカプラの伝送特性を比較する説明図である。
【図3】本増幅器で用いられるウィルキンソンカプラの構成例を示す説明図である。
【図4】(a)〜(e)は、本増幅器における信号合成をベクトルで表した説明図である。
【図5】従来の電力合成増幅器の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の実施の形態に係る電力合成増幅器は、分配器によって入力信号を3分配し、分配された信号の内、第1の信号を第1の増幅器で増幅し、分配合成器で、第1の増幅器で増幅された信号と分配器で分配された第2の信号とを位相を調整して合成して歪成分信号を抽出し、第1の合成器で、分配合成器で抽出された第1の増幅器の歪成分信号と、分配器で分配された第3の分配信号とを位相を調整して合成し、第1の合成器の出力信号を第2の増幅器で増幅し、第2の合成器で、歪成分を含む第1の増幅器の出力信号と、歪成分を含む第2の増幅器の出力信号とを位相を調整して合成して、歪成分を相殺して増幅器出力とすると共に、分配器と、分配合成器と、第1の合成器と、第2の合成器とをウィルキンソンカプラで構成した電力合成増幅器としており、第2の増幅器において歪成分だけでなく信号成分も増幅することで、第2の増幅器に入力される信号を無駄なく利用することができ、更にウィルキンソンカプラを用いて広帯域の信号にも歪補償性能の劣化なく適用可能として、線形性が良好で電力効率が高い電力合成増幅器を実現することができるものである。
【0015】
[実施の形態の電力合成増幅器の構成:図1]
図1は、本発明の実施の形態に係る電力合成増幅器の構成ブロック図である。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る電力合成増幅器(本増幅器)は、分配器1と、可変位相器2と、可変減衰器3と、第1の増幅器4と、遅延線5と、分配合成器6と、可変位相器7と、可変減衰器8と、第2の増幅器9と、遅延線10と、合成器11と、可変位相器12と、可変減衰器13と、第3の増幅器14と、遅延線15と、合成器16とを備えている。
【0016】
尚、可変位相器2,7,12は、それぞれ、請求項に記載した第1,第2,第3の可変位相器に相当し、可変減衰器3,8,13は、それぞれ第1,第2,第3の可変減衰器に相当する。
また、遅延線5,10,15は、それぞれ、請求項に記載した第1,第2,第3の遅延器に相当する。
更に、合成器11は、請求項に記載した第1の合成器に相当し、合成器16は、請求項に記載した第2の合成器に相当している。
【0017】
本増幅器の特徴部分について説明する。
分配器1は、入力される多周波信号を3つに分岐して出力する。分配器1は、第1の分配信号を可変位相器2に出力し、第2の分配信号を遅延線5に出力し、第3の分配信号を遅延線10に出力する。
可変位相器2は、入力信号の位相をシフトさせ、可変減衰器3は、振幅を減衰する。可変位相器2及び可変減衰器3はベクトル調整器を構成しており、制御部(図示省略)からの指示によって調整量が制御される。
【0018】
第1の増幅器4は、入力される高周波信号を増幅する。
遅延線5は、分配器1からの信号を遅延して、第1の増幅器4から出力される信号と同期させて分配合成器6に出力する。
分配合成器6は、第1の増幅器4から出力された歪成分を含む増幅された信号をそのまま遅延線15に出力すると共に、第1の増幅器4からの歪成分を含む入力信号と遅延線5からの歪成分を含まない信号とを逆位相で合成して、歪成分信号を可変位相器7に出力する。
可変位相器2、可変減衰器3、第1の増幅器4、遅延線5、分配合成器6によって歪抽出ループが形成されている。
【0019】
可変位相器7は、歪成分信号の位相をシフトさせ、可変減衰器8は、振幅を減衰する。
第2の増幅器9は、ベクトル調整された歪成分信号を増幅する誤差増幅器である。
合成器11は、遅延線10から入力される歪成分を含まない入力信号と、第2の増幅器9から入力される増幅された歪成分とを位相を調整して合成して、可変位相器12に出力する。すなわち、合成器11からの出力信号は、第1の増幅器4からの歪成分だけでなく、信号成分が含まれたものとなっている。
【0020】
可変位相器12は、入力された合成信号の位相を調整し、可変減衰器13は振幅を調整する。
第3の増幅器14は、可変減衰器13からの合成信号を増幅する。つまり、第3の増幅器14は歪成分のみを増幅するのではなく、信号成分も増幅するものである。
【0021】
合成器16は、分配合成器6から出力される第1の増幅器4の出力信号と、第3の増幅器14から出力される、歪成分と信号成分とを含む出力信号とを合成して、端子jから歪が含まれない増幅器出力を出力する。
【0022】
そして、本増幅器の特徴として、分配器1と、分配合成器6と、合成器11と、合成16とはウィルキンソンカプラで構成されている。また、分配合成器6と、合成器11と、合成16のポート毎の伝送特性は同じとなっている。
ウィルキンソンカプラの伝送特性については後で説明する。
【0023】
[本増幅器における動作]
次に、本増幅器における動作について図1を用いて説明する。
図1に示すように、分配器1の端子aに入力された信号は、端子b、c、kに3分配される。
端子bに分配された分配信号(第1の分配信号)は、可変位相器2,可変減衰器3で位相と振幅を調整され、第1の増幅器4で増幅されると共に歪成分が発生する。歪成分を含む増幅された出力信号は、端子dから分配合成器6に入力され、分配される。
そして、分配合成器6の端子fからはほとんど損失なく第1の増幅器4の出力が得られ、端子fから遅延線15に出力されて遅延され、合成器16の端子hに入力される。
【0024】
また、分配器1で端子cに分配された信号(第2の分配信号)は、遅延線5で遅延されて、端子eから分配合成器6に入力される。
そして、分配合成器6で、分配された第1の増幅器4の出力信号と、端子eからの遅延された第2の分配信号とが逆位相で合成され、歪成分信号が抽出される。
【0025】
分配合成器6で抽出された歪成分は、端子gから出力され、可変位相器7,可変減衰器8で位相と振幅を調整されて、合成器11の端子mに入力される。
また、分配器1で端子kに分配された分配信号(第3の分配信号)は、遅延線10によって遅延され、合成器11の端子lに入力される。
【0026】
そして、合成器11では、端子lからの入力信号の第3の分配信号と、端子mからの第1の増幅器4の歪成分信号が合成されて、合成信号が端子nから出力される。
合成信号は、可変位相器12,可変減衰器13で位相と振幅を調整されて、第3の増幅器14で増幅され、端子iから合成器16に入力される。
【0027】
そして、合成器16で、端子hからの第1の増幅器4の出力信号(歪成分を含む)と、端子iからの合成信号(第3の分配信号と第1の増幅器4の歪成分信号の合成信号)とを合成して、端子jから増幅器出力を得る。合成器16での合成によって歪成分が相殺され、端子jからは、第1の主増幅器4の信号成分出力と、第3の増幅器19の信号成分出力とを加算した信号が得られるものである。
この信号合成については図4を用いて後述する。
【0028】
[ウィルキンソンカプラの特性:図2]
ここで、ウィルキンソンカプラの特性について図2を用いて説明する。図2(a)はハイブリッドカプラの模式説明図であり、(b)は3段2分配のウィルキンソンカプラの回路図であり、(c)は、ハイブリッドカプラとウィルキンソンカプラの伝送特性を比較する説明図である。
ハイブリッドカプラは、図2(a)に示すように、異なるインピーダンスを備えたλ/4伝送線路によって形成され、端子1(Port1)から入力された信号は、端子2(Port2),端子3(Port 3)には減衰して出力されるが端子4(Port4)へは出力されない。
また、図2(b)に示すように、ウィルキンソンカプラは並列に接続されたインピーダンスの等しい2本のλ/4伝送線路とそれらを接続する抵抗とで構成される。3段2分配のウィルキンソンカプラは、1入力2出力で、端子1(Port1)から入力された信号は2つに分配され、減衰して、端子2(Port 3)及び端子3(Port 4)に出力される。
【0029】
そして、図2(c)に示すように、図2(a)に示したハイブリッドカプラにおいては、Port1から入力されてPort2に出力される場合(S21)と、Port1から入力されてPort3に出力される場合(S31)とでは、伝送特性が異なっている。これは、上述したように、Port1からPort2への経路と、Port1からPort3への経路とで、インピーダンスの異なる伝送線路を通過するためである。
【0030】
そのため、出力ポート毎に特性の異なるハイブリッドカプラを分配合成器6、合成器11、合成器16に適用し、S21とS31の特性に差が現れる程度の歪成分を含む広帯域信号を入力した場合、歪補償性能が劣化してしまう。
【0031】
つまり、図1に示した合成器16に入力される2系統の信号の伝送特性に差があった場合、その分だけ歪がキャンセルされず、歪補償性能が劣化する。
具体的には、図1に示した分配合成器6の端子dからfの周波数特性と、合成器16の端子hから端子jの周波数特性とを加算した伝送特性と、合成分配器6の端子dからgの周波数特性と、合成器11の端子mからnの周波数特性と、合成器16の端子iからjの周波数特性とを加算した伝送特性とが異なる場合には、歪が十分キャンセルされず良好な歪補償が行われないことになる。
【0032】
これに対して、図2(b)に示したウィルキンソンカプラでは、Port1からPort2への経路と、Port1からPort3への経路で、同じ特性の伝送線路を通過するため、S21とS31は同じ特性となり、図2(c)に示すようにグラフが重なっている。
【0033】
従って、図1の分配器1と、分配合成器6と、合成器11と、合成器16とにウィルキンソンカプラを用いた場合には、ポート毎の周波数特性が同じになるため、広帯域信号でも歪補償性能が劣化せず、ハイブリッドカプラに比べて広帯域の信号に適用可能となる。また、ウィルキンソンカプラを多段に構成すると一層広帯域となることが知られている。
本増幅器では、このことを利用して広帯域の信号に適用可能で高効率且つ歪補償性能が良好な増幅器を実現するものである。
【0034】
[ウィルキンソンカプラの構成例:図3]
次に、本増幅器で用いられるウィルキンソンカプラの構成例について図3を用いて説明する。図3は、本増幅器で用いられるウィルキンソンカプラの構成例を示す説明図である。
図3(a)は、分配器1に適用されるウィルキンソンカプラの構成例であり、(b)は、合成器11の例であり、(c)は、分配合成器6の例であり、(d)は、合成器16の例である。
(a)〜(d)は、いずれも、並列に接続されたλ/4の伝送線路と伝送線路間を接続する抵抗とを備えたウィルキンソンカプラであり、各カプラの端子a〜jは、図1に示した端子に対応している。
そして、(a)に示すように、分配器1は1入力3出力、(b)に示すように、合成器11は2入力1出力、(c)に示すように、分配合成器6は2入力2出力、(d)に示すように、合成器16は2入力1出力として構成される。
【0035】
これらのウィルキンソンカプラはいずれも1段構成となっているが、必要な帯域に応じて適宜多段に構成することが可能である。すなわち、図2(b)に示したように、並列に接続される1組のλ/4線路とそれらを接続する抵抗から成る構成を直列に接続して多段とすることが考えられる。多段構成のウィルキンソンカプラを用いることにより、一層の広帯域化を図ることが可能となる。
特に、分配合成器6、合成器11、合成器16に用いられる、図3(b)、(c)、(d)のウィルキンソンカプラを多段に構成することで一層良好な歪補償性能が得られるものである。
【0036】
[本増幅器における信号合成の例:図4]
次に、本増幅器における信号合成の例について図1及び図4を用いて説明する。図4(a)〜(e)は、本増幅器における信号合成をベクトルで表した説明図である。
図4(a)は、第1の増幅器4から出力される信号をベクトルで表したものであり、第1の増幅器4の端子fからの出力信号には、信号成分110と、歪成分120とが含まれる。尚、歪成分は3次歪のみを示している。これらの信号は、可変移相器2及び可変減衰器3で位相及び振幅が調整されており、また、図1に示したように、分配合成器6を介してほとんど損失なく合成器16の端子hに入力される。
【0037】
図4(b)は、分配合成器6の端子gからの出力信号をベクトルで表したものであり、端子eから入力される信号成分140と、第1の増幅器4からの歪成分150が含まれる。信号成分130は、可変位相器2により、端子eからの信号成分140と逆位相になるよう調整されており、信号成分140と相殺される。これにより、分配合成器6の端子gからは、歪成分150のみが出力される。
【0038】
図4(c)は、合成器11の端子nからの出力信号をベクトルで表したものであり、端子lからの遅延された信号成分160と、端子mから入力される歪成分150が含まれる。ここで、歪成分150は、合成分配器6で抽出された第1の増幅器4の歪成分が、可変位相器7,可変減衰器8で位相及び振幅を調整され、第2の増幅器9で増幅されたものである。
【0039】
図4(d)は、合成器16の端子iに入力される入力信号であり、合成器11の端子mからの歪成分と、端子lからの信号成分が含まれる。これらの信号は、可変位相器12及び可変減衰器13で位相と振幅を調整され、第3の増幅器14で増幅され、端子m歪成分150と、端子l信号成分160として端子iに入力される。
ここで、可変位相器12及び可変減衰器13では、歪成分が(a)に示した端子fからの出力信号とは、逆位相、同振幅となり、信号成分が同相加算されるよう調整されている。
【0040】
図4(e)は、合成器16の端子jからの出力信号を示しており、合成器16では、(a)に示した端子fの出力信号(端子hからの入力信号)と、(d)に示した端子iからの入力信号が合成される。
これにより、端子fの歪成分120と、端子mの歪成分150とが相殺され、端子fの信号成分110と、端子lの信号成分160が合成されて歪のない増幅信号が合成器16の端子jから出力される。
【0041】
尚、図示は省略するが、制御部が、可変位相器7,可変減衰器8,可変位相器12,可変減衰器13を調整して、合成器16の出力における歪が最も小さくなるよう制御するものである。
また、各合成器の結合度は、合成器16の出力が最大となるよう予め設計されている。
【0042】
[実施の形態の効果]
本発明の実施の形態に係る電力合成増幅器によれば、入力信号を3分配する分配器1と、位相及び振幅を調整された第1の分配信号を増幅して、増幅された信号成分110と歪成分120とを出力する第1の増幅器4と、第2の分配信号と第1の増幅器4の出力とを逆位相で合成して第1の増幅器4の歪成分150を出力する分配合成器6と、歪成分150と遅延線10を介して入力された第3の分配信号160とを合成する第1の合成器11と、位相及び振幅を調整された第1の合成器11の出力を増幅する第3の増幅器14と、分配合成器6及び遅延線20を介して入力された第1の増幅器4の出力と、第3の増幅器14の出力とを合成して増幅器出力として出力する第2の合成器16とを備えた歪補償増幅回路としているので、第3の増幅器14において、第1の増幅器4の歪補償用の誤差成分を増幅するだけでなく、信号成分も合わせて増幅することができ、また、誤差成分は損失なく除去することができ、第3の増幅器14のへの入力信号のエネルギーを無駄なく利用でき、従来のフィードフォワード歪補償増幅回路に比べて電力効率を大幅に向上させることができる効果がある。
【0043】
また、本増幅器によれば、分配器1と、分配合成器6と、第1の合成器11と、第2の合成器16とを広帯域カプラであるウィルキンソンカプラで構成しているので、広帯域の信号に適用可能で良好な歪補償特性を備えた高効率の電力増幅器を実現することができる効果がある。
更に、ウィルキンソンカプラを適宜多段構成とすることにより、一層歪補償特性を良好にして、広帯域の信号に適用可能とし、所望の帯域に合わせて構成することができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、フィードフォワード歪補償増幅回路において、広帯域の信号に適用可能であり、良好な歪補償を行うと共に電力効率を向上させることができる電力合成増幅器に適している。
【符号の説明】
【0045】
1…分配器、 2,7,12…可変位相器、 3,8,13…可変減衰器、 4…第1の増幅器、 5,10,15…遅延線、 6…分配合成器、 9…第2の増幅器、 11,16…合成器、 14…第3の増幅器、 210…分配器、 220…増幅器、 230…合成器、 240…サーキュレータ、 250…終端器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を3つに分配して第1,第2,第3の分配信号を出力する分配器と、
前記第1の分配信号について、第1の可変位相器で位相が調整され、第1の可変減衰器で振幅が調整された信号を増幅する第1の増幅器と、
前記第1の増幅器の出力信号を2つに分配し、分配された一方の出力と、第1の遅延器で遅延された前記第2の分配信号とを合成して前記第1の増幅器における歪成分を抽出する分配合成器と、
前記歪成分について、第2の可変位相器で位相が調整され、第2の可変減衰器で振幅が調整された信号を増幅する第2の増幅器と、
前記第2の増幅器の出力信号と、第2の遅延器で遅延された前記第3の分配信号とを合成する第1の合成器と、
前記第1の合成器の出力信号について、第3の可変位相器で位相が調整され、第3の可変減衰器で振幅が調整された信号を増幅する第3の増幅器と、
前記分配合成器で分配された前記第1の増幅器の他方の出力について第3の遅延器で遅延された信号と、前記第3の増幅器の出力信号とを合成する第2の合成器とを備え、
前記分配器を1入力3出力のウィルキンソンカプラで構成し、前記分配合成器を2入力2出力のウィルキンソンカプラで構成し、前記第1及び第2の合成器を2入力1出力のウィルキンソンカプラで構成したことを特徴とする電力合成増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−54852(P2012−54852A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197377(P2010−197377)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】