説明

電力平準化装置及び方法

【課題】蓄電設備を備えることなく、エネルギー蓄積のための設置スペースが少なく、メンテナンスの必要性が少ない電力平準化装置及び方法を提供する。
【解決手段】駆動モータ21で駆動するフライホィール22を有する機械装置20を用いた電力系統の電力平準化装置10であって、電力系統30から電力を受電する受電装置12と、電力を駆動モータ21に適した直流又は交流に変換する電力変換装置14と、電力変換装置14を制御する速度指令装置16とを備える。電力系統の電力が不足する時に、速度指令装置16により駆動モータ21への電力供給を停止し、電力系統の電力が不足しない時に、速度指令装置16によりフライホィール22の回転速度を常用速度まで加速する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動モータで駆動するフライホィールを有する機械装置を用いた電力系統の電力平準化装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能な自然エネルギーを利用して発電する発電設備(例えば風力発電や太陽光発電)が注目されている。しかし、これらの自然エネルギー発電は、天候や気象の変化により発電量が急変するという性質を有している。
そのため、自然エネルギーを利用する発電設備に蓄電設備(例えば蓄電池や電気二重層キャパシタ)を付加し、発電量が急変したときにそれを補償し、発電量を平準化することが開示されている(例えば特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3981690号公報、「総括風力発電システム」
【特許文献2】特開2008−21152号公報、「電気機器運転制御方法及びシステム」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力系統の電力を平準化させるために蓄電設備(例えば蓄電池や電気二重層キャパシタ)を備えると、設置スペースや費用が増大する。また、蓄電設備は経年劣化するので、保守や交換も必要である問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、蓄電設備を備えることなく、電力系統の電力を平準化することができ、かつエネルギー蓄積のための設置スペースが少なく、メンテナンスの必要性が少ない電力平準化装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、駆動モータで駆動するフライホィールを有する機械装置を用いた電力系統の電力平準化装置であって、
電力系統から電力を受電する受電装置と、
前記電力を前記駆動モータに適した直流又は交流に変換する電力変換装置と、
前記電力変換装置を制御する速度指令装置とを備え、
電力系統の電力が不足する時に、前記速度指令装置により、前記駆動モータへの電力供給を停止し、
電力系統の電力が不足しない時に、前記速度指令装置により、前記フライホィールの回転速度を常用速度まで加速する、ことを特徴とする電力平準化装置が提供される。
【0007】
本発明の実施形態によれば、前記駆動モータは、発電可能なモータジェネレータであり、
前記受電装置と電力変換装置は、前記駆動モータから電力系統へ電力回生が可能であり、
電力系統の電力が不足する時に、前記速度指令装置により、フライホィールの運動エネルギーを電気エネルギーに変換して電力系統へ電力を供給する。
【0008】
また本発明によれば、駆動モータで駆動するフライホィールを有する機械装置を用いた電力系統の電力平準化方法であって、
受電装置により電力系統から電力を受電し、
電力変換装置により前記電力を前記駆動モータに適した直流又は交流に変換し、
速度指令装置により前記電力変換装置を制御し、
電力系統の電力が不足する時に、前記速度指令装置により、前記駆動モータへの電力供給を停止し、
電力系統の電力が不足しない時に、前記速度指令装置により、前記フライホィールの回転速度を常用速度まで加速する、ことを特徴とする電力平準化方法が提供される。
【0009】
本発明の実施形態によれば、前記駆動モータは、発電可能なモータジェネレータであり、
前記受電装置と電力変換装置は、前記駆動モータから電力系統へ電力回生が可能であり、
電力系統の電力が不足する時に、前記速度指令装置により、フライホィールの運動エネルギーを電気エネルギーに変換して電力系統へ電力を供給する。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明の装置及び方法によれば、駆動モータで駆動するフライホィールを有する機械装置を用いており、前記電力変換装置を制御する速度指令装置を備えるので、電力系統の電力が不足しない時に、前記速度指令装置により、前記フライホィールの回転速度を常用速度まで加速することによりフライホィールにエネルギーを蓄積することができ、電力系統の電力が不足する時に、前記速度指令装置により、前記駆動モータへの電力供給を停止することにより、電力不足時の電力系統の負荷を軽減することができる。
【0011】
従って、蓄電設備を備えることなく、電力系統の電力を平準化することができる。
また、蓄電設備を備えず、フライホィールにエネルギーを蓄積するので、エネルギー蓄積のための設置スペースが少なく、メンテナンスの必要性が少ない。

【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による電力平準化装置の第1実施形態図である。
【図2】本発明による電力平準化装置の第2実施形態図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明による電力平準化装置の第1実施形態図である。この図において、本発明の電力平準化装置10は、駆動モータ21で駆動するフライホィール22を有する機械装置20を用いた電力平準化装置である。
【0014】
機械装置20は、この例では機械プレスであり、駆動モータ21、フライホィール22、クラッチ23、スライド駆動機構24、スライド25及びクラッチ接続指令器26を有する。
【0015】
なお、本発明において、機械装置20は、機械プレスに限定されず、駆動モータ21で駆動するフライホィール22を有する機械装置であればよい。
以下、機械装置20が機械プレスである場合を説明する。
【0016】
駆動モータ21は、この例では発電可能なモータジェネレータである。
【0017】
フライホィール22は、駆動モータ21と機械的に連結されており、駆動モータ21とフライホィール22は一定の回転数比で回転する。
この例では、駆動モータ21とフライホィール22の間は、プーリにかけたベルトにより連結されている。
駆動モータ21が力行中は駆動モータ21からフライホィール22へ動力が伝達され、駆動モータ21が回生中はフライホィール22から駆動モータ21へ動力が伝達される。
【0018】
クラッチ23は、フライホィール22からスライド駆動機構24への動力の伝達(接続)/非伝達(非接続)を切り替える。クラッチ23は、例えば、空気もしくは油で冷却される多板式クラッチである。
【0019】
スライド駆動機構24は、回転運動をスライド25の上下動に変換する。スライド駆動機構24は、例えば、クランク式、クランクレス式、エキセン式、リンク式などである。
スライド駆動機構24に回転運動を減速させるためのギア式の減速器を組み込んでもよい。
【0020】
スライド25の下面には上金型(図示せず)が固定されており、スライド25が下降すると、下金型(図示せず)との間でプレス成形が行われる。
【0021】
クラッチ接続指令器26は、機械プレス20のクラッチ23へクラッチ接続指令4,5(接続指令又は切断指令)を出力し、機械プレス20のスライド動作を指令する。
【0022】
上述した構成により、フライホィール22の回転がクラッチ23を介してスライド駆動機構24に伝わり、上下方向の直線運動に変換される。クラッチ23が接続されている間、フライホィール22が回転するとそれにつれてスライド25が上下動する。クラッチ23が非接続の間、スライド25はブレーキ(図示せず)により制動・停止される。
【0023】
図1において、本発明の電力平準化装置10は、受電装置12、電力変換装置14及び速度指令装置16を備える。
【0024】
受電装置12は、電圧変換や絶縁のためのトランス、高調波低減や力率改善のためのフィルタ、などから構成され、電力系統30から電力を受電する。
また、この例で、受電装置12は、電力系統30への電力回生が可能な双方向の動作可能なものとなっている。
【0025】
電力系統30には、好ましくは、風力発電装置や太陽電池発電装置(図示せず)が接続されている。また。この例で、電力系統30は3相交流である。
しかし、本発明はこれに限定されず、その他の発電設備に接続された電力系統であってもよく、単相交流でも直流でもよい。
【0026】
電力変換装置14は、受電装置12を介して受電した電力を駆動モータ21に適した直流又は交流に変換する。また、この例で、電力変換装置14は、駆動モータ21から電力系統へ電力回生が可能になっている。
駆動モータ21と電力変換装置14の実現手段としては、例えば以下のような組み合わせがある。
A 駆動モータは、交流誘導電動機もしくは交流同期電動機であり、電力変換装置は交流を直流に変換する回生可能なコンバータと、直流を交流に変換する回生可能なインバータとから構成され、両者が直流バスで電気的に接続されている。
B 駆動モータは交流誘導電動機もしくは交流同期電動機であり、電力変換装置は交流を交流に変換する回生可能なマトリクスコンバータである。
C 駆動モータは直流電動機であり、電力変換装置はサイリスタレオナード方式である。
【0027】
A,Bにおいて、回生可能なコンバータ、回生可能なインバータは、例えば、IGBTやパワーMOSFETやGTOなどの電力制御半導体素子をPWM変調することにより実現される。高調波を低減するため多レベルのコンバータ・インバータを用いてもよい。
【0028】
速度指令装置16は、電力変換装置14を制御する。
速度指令装置16は、電力が不足する時に、駆動モータ21への電力供給を停止し、フライホィール22の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して電力系統30へ電力を供給するようになっている。
また、速度指令装置16は、電力が不足しない時に、フライホィール22の回転速度を常用速度まで加速するようになっている。
【0029】
速度指令装置16は、この例において、電力指令発生器60からの回生指令信号1のオン/オフに応じて、以下のようにモータ速度指令値2を生成する。ここで、以下の2つの値は、パラメータである。
常用速度:プレス成形に適したモータ速度
最低速度:プレス成形が可能な最低のモータ速度
なお、常用速度は最低速度より高速とする。
【0030】
速度指令装置16による制御内容は、以下のケース1、2A,2Bによる。
【0031】
(ケース1):回生指令信号1がオフのとき
モータ速度指令値2がすでに常用速度であれば、常用速度のままとする。
モータ速度指令値2が常用速度より低い場合、常用速度まで一定レートで上げていく。
【0032】
(ケース2A):回生指令信号1がオン、かつ、モータ速度指令値が最低速度より高いとき
モータ速度指令値2を最低速度まで下げていく。ここで、速度低下のレートは、所望の回生電力が得られるレートとする。
【0033】
すなわち、速度指令装置16は、回生指令信号1が入力(オン)されているときは、駆動モータ21から回生が行われるよう、現在のモータ速度から減速させるような(モータが回転方向と逆方向のトルクを発生するような)速度指令を出力する。また、フライホィール22が一定速で回転している状態であれば減速するような速度指令を出力し、プレス成形中でフライホィール22が自然に減速している場合には、自然な減速よりもさらに減速するような速度指令を出力する。
モータ速度が最低速度より高いので、機械装置20(本実施例では機械プレス)の動作が可能である。すなわち、クラッチ23を接続し、フライホィール22の回転をスライド駆動機構24に伝えることにより、フライホィール22の回転につれてスライド25が上下動し、プレス成形を行うことが可能である。
【0034】
(ケース2B):回生指令信号1がオン、かつ、モータ速度指令値2が最低速度まで低下しているとき
モータ速度指令値2を最低速度のままとする。
【0035】
図1において、40は電力系統状態データサーバ、50は通信回線、60は電力指令発生器である。
【0036】
電力系統状態データサーバ40は、電力系統30の状態を示す各種データを格納しており、電力系統30の電力の過不足状態がわかるようになっている。
【0037】
通信回線50は、例えばインターネット網であり、これを介して電力指令発生器60が電力系統状態データサーバ40へ継続的ないし断続的にアクセスしてデータを取得する。
【0038】
電力指令発生器60は、電力データサーバ40から取得したデータにもとづき、電力系統30の電力が不足しているかどうかを判定する。
例えば、売買電価格データが格納されている場合、需要家から電力系統への売電価格があるしきい値よりも高くなったら、電力系統の電力が不足していると判定する。
電力系統の電力が不足していれば速度指令装置16への回生指令信号1をオンとし、電力が不足していなければ回生指令信号1をオフとする。
【0039】
以下、本発明による電力平準化装置の動作を説明する。
A.電力系統30で電力が不足しているとき
A1.フライホィール22の回転速度が最低速度より高い場合
フライホィール22の回転速度を下げることにより、機械エネルギーを電気エネルギーに変換し、電力系統へ電力を回生(供給)する。
【0040】
A2.フライホィール22の回転速度が最低速度まで下がっている場合
フライホィール22の回転速度をそのままとすることにより、電力系統30への電力回生はできないが、電力系統30からの受電量を小さくする。
【0041】
B.電力系統で電力が不足していないとき
フライホィール22の回転速度を常用速度まで高める。フライホィール22を加速するため、電力系統30からの受電量は大きくなるが、電力系統30には発電装置(図示せず)から十分に電力が供給されている。
【0042】
図2は、本発明による電力平準化装置の第2実施形態図である。
上述した第1実施形態の構成を複数台並べてもよいが、図2に示すように、電力指令発生器60、受電装置12を一つとしてもよい。
駆動モータと電力変換装置の実現手段は、複数台の機械装置20で同じであってもよいし、異なっていてもよい。
またこの場合、常用速度、最低速度は、機械装置1台ごとに異なってもよい。
【0043】
上述した本発明の装置及び方法によれば、駆動モータ21で駆動するフライホィール22を有する機械装置20を用いており、電力変換装置14を制御する速度指令装置16を備えるので、電力系統の電力が不足しない時に、速度指令装置16により、フライホィール22の回転速度を常用速度まで加速することによりフライホィール22にエネルギーを蓄積することができる。また、電力系統の電力が不足する時に、速度指令装置16により、駆動モータ21への電力供給を停止することにより、電力不足時の電力系統30の負荷を軽減することができる。
【0044】
従って、蓄電設備を備えることなく、電力系統の電力を平準化することができる。
また、蓄電設備を備えず、フライホィール22にエネルギーを蓄積するので、エネルギー蓄積のための設置スペースが少なく、メンテナンスの必要性が少ない。
【0045】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0046】
1 回生指令信号、2 モータ速度指令値、
4 接続指令、5 切断指令、
10 電力平準化装置、12 受電装置、
14 電力変換装置、16 速度指令装置、
20 機械装置(機械プレス)、
21 駆動モータ(モータジェネレータ)、
22 フライホィール、23 クラッチ、
24 スライド駆動機構、25 スライド、
26 クラッチ接続指令器、
30 電力系統、
40 電力系統状態データサーバ、
50 通信回線、
60 電力指令発生器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータで駆動するフライホィールを有する機械装置を用いた電力系統の電力平準化装置であって、
電力系統から電力を受電する受電装置と、
前記電力を前記駆動モータに適した直流又は交流に変換する電力変換装置と、
前記電力変換装置を制御する速度指令装置とを備え、
電力系統の電力が不足する時に、前記速度指令装置により、前記駆動モータへの電力供給を停止し、
電力系統の電力が不足しない時に、前記速度指令装置により、前記フライホィールの回転速度を常用速度まで加速する、ことを特徴とする電力平準化装置。
【請求項2】
前記駆動モータは、発電可能なモータジェネレータであり、
前記受電装置と電力変換装置は、前記駆動モータから電力系統へ電力回生が可能であり、
電力系統の電力が不足する時に、前記速度指令装置により、フライホィールの運動エネルギーを電気エネルギーに変換して電力系統へ電力を供給する、ことを特徴とする請求項1に記載の電力平準化装置。
【請求項3】
駆動モータで駆動するフライホィールを有する機械装置を用いた電力系統の電力平準化方法であって、
受電装置により電力系統から電力を受電し、
電力変換装置により前記電力を前記駆動モータに適した直流又は交流に変換し、
速度指令装置により前記電力変換装置を制御し、
電力系統の電力が不足する時に、前記速度指令装置により、前記駆動モータへの電力供給を停止し、
電力系統の電力が不足しない時に、前記速度指令装置により、前記フライホィールの回転速度を常用速度まで加速する、ことを特徴とする電力平準化方法。
【請求項4】
前記駆動モータは、発電可能なモータジェネレータであり、
前記受電装置と電力変換装置は、前記駆動モータから電力系統へ電力回生が可能であり、
電力系統の電力が不足する時に、前記速度指令装置により、フライホィールの運動エネルギーを電気エネルギーに変換して電力系統へ電力を供給する、ことを特徴とする請求項3に記載の電力平準化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−5274(P2012−5274A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138919(P2010−138919)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】