説明

電力貯蔵装置が備える蓄電池の放電方法

【課題】昼の電気料金と夜の電気料金との差額によるメリットを最大限に得ることが出来るとともに、電力貯蔵装置の運転とセルの出力電圧のバラツキ補正とを両立することが出来て、さらにSOCの精度が良い状態で電力貯蔵装置を運転し続けることが出来る放電方法を提供する。
【解決手段】本発明の実施形態に係る放電方法は、蓄電池を放電させて上記負荷に電力を供給することによって、上記蓄電池の充電容量に対する現在の充電量の比率を下げる比率低減工程と、上記比率低減工程の後、上記電力系統から供給される電力によって上記蓄電池を充電する充電工程とを含み、上記比率低減工程において、上記比率を、上記充電工程が開始されるまでに、放電用に設定された下限の上記比率である下限比率に近づける。上記蓄電池の比率は、上記蓄電池の出力電圧を、上記蓄電池の使用下限電圧VLに近づけることにより下げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統に接続されて電力を貯蔵する電力貯蔵装置が備える蓄電池の放電方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
〔契約電力を超えた場合の、該契約電力に対する超過分の電力供給方法〕
電力会社の電力系統から、家庭や工場などの負荷に電力を供給する場合、電力会社と負荷側との契約において、予め契約電力が定められている。契約電力Poとは、電力会社と負荷との契約において負荷側が使用できる最大の電力である。負荷において契約電力を超えて電力が使用されると、負荷側から電力会社へ契約超過金を支払う必要が生じたり、契約において負荷側から電力会社へ支払う料金が高くなったりする。
【0003】
ここで、家庭や工場などの需要家は、負荷において契約電力を超えて電力が消費されても、該契約電力に対する超過分の電力を供給できるように、電力系統と負荷との間に、電力貯蔵装置を設けている。電力貯蔵装置は、蓄電池(バッテリー)を備えており、電力系統から蓄電池に電力を供給することにより、蓄電池を充電する(蓄電池に電荷を蓄える)ことが可能である。そして、蓄電池は、例えば負荷において契約電力を超えて電力が消費された時に、充電により蓄えた電荷を放電する。これに伴い、負荷に電力が供給される。家庭や工場などの需要家は、このようにして、契約電力を超えて電力が消費される事態に対応している。
【0004】
負荷の消費電力が契約電力を超えた場合の、該契約電力に対する超過分の電力供給方法には、幾つかの方法が有るが、ここでは例として、ピークカット動作を用いる方法と、ピークシフト動作を用いる方法とを説明する。
【0005】
ピークカット動作では、電力系統から供給する電力の上限を定めておく。この上限は、例えば契約電力とする。
【0006】
そして、負荷において、上記上限を超えて電力が消費された場合は、電力系統が契約電力を負荷に供給する。また、これとともに、電力貯蔵装置の蓄電池が、充電により蓄えた電荷を放電することに伴って、負荷の消費電力における契約電力からの超過分が、負荷に供給される。これにより、契約電力を超えて電力が消費される事態に対応することが出来、電力系統から供給される電力が契約電力を超えないようにすることが出来る。
【0007】
一方、ピークシフト動作では、夜間に蓄電池に充電(蓄電)した電力を、予め設定された一定の電力で昼間に放電する。ここで述べた一定の電力は、契約電力とは無関係である。
【0008】
まず、負荷の消費電力が、契約電力を超えない第1の時間帯について考える。このような第1の時間帯では、電力系統から負荷へ、通常の電力供給を行う。
【0009】
次に、負荷の消費電力が、契約電力を超えることが予想される第2の時間帯について考える。このような第2の時間帯では、家庭や工場などの需要家は、電力系統とともに蓄電池を用いる。これにより、負荷へ電力が供給される。第2の時間帯では、電力系統から負荷へ供給される電力がどのような値であっても、上記蓄電池から上記一定の電力が放電される。
【0010】
但し、蓄電池の放電により、負荷へ供給される電力が負荷の消費電力を越えてしまうと、蓄電池から電力系統への逆潮流が発生する。よって、実際には、逆潮流が発生しないように、上記一定の電力を制限する場合もある。
【0011】
上述したピークシフト動作において重要な点は、第2の時間帯の中で、負荷の消費電力が契約電力を超えない時間帯があったとしても、蓄電池から負荷へ供給する電力が、上記一定の電力のまま変わらない、という点である。
【0012】
上述したようなピークカット動作を行うものとして、特許文献1では、ピークカット動作を行うとともに、負荷平準化動作を行う電力貯蔵装置が開示されている。負荷平準化動作とは、電力料金が昼間より安い夜間に蓄電池の充電を行い、電力消費が大きい昼間に、充電済の蓄電池から負荷に放電する動作である。
【0013】
〔セルの出力電圧におけるバラツキの補正〕
上述した蓄電池は、複数のセルから構成されており、各々のセルから電力を供給することにより、蓄電池からの電力供給が行われている。
【0014】
この時、各々のセルで充電及び放電を個別に繰り返すうちに、セルの出力電圧が、各々のセルで異なってしまうことがある。即ち、セルの出力電圧にバラツキが生じることがある。
【0015】
セルの出力電圧にバラツキが生じると、各セルの寿命にバラツキが生じたり、蓄電池の回路に負担がかかったりすることとなる。なお、負荷への電力供給時は、全てのセルの電圧が供給されるので、セルの出力電圧にバラツキが生じても、負荷への電力供給の正確性に対しては影響が及ばない。
【0016】
そこで、セルの出力電圧のバラツキを補正するものとして、特許文献2では、蓄電池を構成する全てのセルを、過充電を行った後に、さらに小さい電流で所定時間の充電を行うことが開示されている。このような充電を行うことにより、全てのセルが、均一に過充電された状態となって(即ち、均等充電された状態となって)、セルの出力電圧のバラツキが補正される。
【0017】
なお、上述した過充電とは、十分に電荷が蓄えられた状態である満充電を超えて、電荷を蓄えようとすることである。
【0018】
〔SOCの補正〕
一般に、SOC(state of charge:充電状態)と呼ばれる相対的な充電レベルは、蓄電池の充電容量に対する充電残量の比率として定義される。
【0019】
SOCは、例えば、クーロンカウンタで計測することが可能である。クーロンカウンタでは、蓄電池に流れ込む電流(蓄電池に入力される電流)と、蓄電池から流れ出す電流(蓄電池から出力される電流)とを積算するクーロンカウント処理が行われる。
【0020】
しかし、蓄電池に入力される電流及び蓄電池から出力される電流における、測定誤差または演算誤差等が原因となって、クーロンカウンタ等で計測した充電状態と、蓄電池における実際の充電状態との間に、誤差が生じることがある。
【0021】
そこで、従来の電力貯蔵装置では、定期的に、または、蓄電池の充電及び放電を制御する制御系から要求があった場合に、蓄電池の完全放電を行う(蓄電池の充電残量をゼロにする)。そして、この完全放電における電荷量を元にして、SOCの補正を行うことが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2002−271994号公報(2002年9月20日公開)
【特許文献2】特開2004−273295号公報(2004年9月30日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
第1に、上記〔契約電力を超えた場合の、超過分の電力供給方法〕において、特許文献1の電力貯蔵装置では、ピークカット動作及び負荷平準化動作を行うことが開示されていることを述べた。しかしながら、特許文献1の電力貯蔵装置には、以下に示す問題点がある。
【0024】
負荷が消費する電力量は、1日毎に変化する。特許文献1の電力貯蔵装置は、負荷が消費する電力量が少ない日の場合、夜間の充電が開始される時刻までに、蓄電池の出力電圧が使用下限電圧に達するように蓄電池を放電できないという問題点を有している。
【0025】
ここで、使用下限電圧とは、蓄電池が安全に放電することが出来る電圧の下限である。
【0026】
上記問題点を有していることにより、特許文献1の電力貯蔵装置は、蓄電池の出力電圧が使用下限電圧に達するように蓄電池を放電する場合と比べて、夜間の充電量が減少する。よって、昼の電気料金と夜の電気料金との差額によるメリット(昼間より電力料金が安い夜間に充電することにより電力料金が安くなるというメリット)を十分に得ることが出来ない。
【0027】
第2に、上記〔セル電圧のバラツキの補正〕において、特許文献2に係る発明では、セルの出力電圧のバラツキを補正するために、蓄電池を過充電することを述べた。しかし、過充電とは、上述したように満充電からさらに電荷を蓄えることであるので、蓄電池の破損などが生じる可能性があり、安全性の点で問題がある。
【0028】
また、特許文献2に係る発明における、セルの出力電圧のバラツキを補正するための時間は、蓄電池の容量によるが、通常、1日程度の時間を要する。このため、バラツキの補正を行う日には、電力貯蔵装置を運転することが出来ない(蓄電池の放電に基づいて負荷へ電力を供給することが出来ない)。
【0029】
さらに、特許文献2に係る発明における、セルの出力電圧のバラツキの補正において、補正を行うための回路をセル毎に設けることが考えられるが、セルの数が多くなるほど補正のための回路の数も多くなり、製造コスト・運用コストが増大するという問題が生じる。
【0030】
第3に、〔SOCの補正〕において述べた従来の電力貯蔵装置では、定期的に、または、蓄電池の充電及び放電を制御する制御系から要求があった場合にだけ、蓄電池の完全放電によるSOCの補正を行う。このため、SOCの補正の頻度が、必要な頻度よりも低い場合に、SOCの精度が悪い状態で(計測したSOCに誤差が生じている状態で)電力貯蔵装置が運転されてしまい、信頼性の点で問題がある。また、〔SOCの補正〕において述べた従来の電力貯蔵装置では、SOCの補正を行うための特別な日を設ける必要があり、この日には電力貯蔵装置を運転することができないという問題が生じる。
【0031】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、昼の電気料金と夜の電気料金との差額によるメリットを最大限に得ることが出来る、電力貯蔵装置が備える蓄電池の放電方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の放電方法は、上記課題を解決するために、負荷に電力を供給する電力系統に接続され、上記負荷に供給する電力を貯蔵する電力貯蔵装置が備える蓄電池の放電方法であって、上記蓄電池を放電させて上記負荷に電力を供給することによって、上記蓄電池の充電容量に対する現在の充電量の比率を下げる比率低減工程と、上記比率低減工程の後、上記電力系統から供給される電力によって上記蓄電池を充電する充電工程とを含み、上記比率低減工程において、上記比率を、上記充電工程が開始されるまでに、放電用に設定された下限の上記比率である下限比率に近づけることを特徴とする。
【0033】
上記放電方法によれば、上記蓄電池を放電させて上記負荷に電力を供給することによって、上記充電工程が開始されるまでに、上記比率を上記下限比率に近づける比率低減工程を含む。
【0034】
これにより、上記蓄電池の比率が、従来の蓄電池の比率よりも、放電用に設定された下限の上記比率である上記下限比率により近付くとともに、上記蓄電池に電荷が残らなくなる。
【0035】
従って、上記蓄電池は、夜間の充電量が、従来の電力貯蔵装置の蓄電池よりも多くなるので、昼の電気料金と夜の電気料金との差額によるメリット(昼間より電力料金が安い夜間に充電することにより電力料金が安くなるというメリット)を最大限に得ることが出来る。また、上記蓄電池は、従来の電力貯蔵装置の蓄電池よりも利用効率が向上する。さらに、電力料金が昼間より安い夜間に蓄電池の充電を行い、電力消費が夜間より大きい昼間に、充電済の蓄電池から負荷に放電する動作である負荷平準化動作の効果も、従来の電力貯蔵装置より高くなる。
【0036】
上記放電方法では、上記比率低減工程にて、上記電力系統から上記負荷へ供給する上限の電力である上限電力を越える電力を必要とする場合、上記上限電力からの超過分の電力を上記蓄電池から上記負荷に供給する動作を行なう時間帯の最終時刻、または、上記負荷の消費電力が上記上限電力を超えることが予想される時間帯の最終時刻から、上記充電工程にて上記蓄電池の充電が開始される時刻までの間、上記蓄電池を放電させて上記負荷に電力を供給することによって、上記比率を下げてもよい。
【0037】
これにより、上記比率を上記下限比率に近づけることが出来る。
【0038】
上記放電方法では、上記比率低減工程にて上記蓄電池を放電する際、上記蓄電池の寿命に影響しない程度、かつ一定の電流である低電流で、上記蓄電池を放電してもよい。
【0039】
上記放電方法では、最初から最後まで上記低電流で放電する。放電時の電流をより大きくすると、上記蓄電池の寿命がより短くなるという特性を考慮すると、上記比率低減工程は、上記蓄電池の寿命に対する影響が最も小さいというメリットを有している。
【0040】
上記放電方法では、上記比率低減工程にて、上記蓄電池の出力電圧が所定の閾値電圧より大きいとき、上記蓄電池の寿命に影響しない程度、かつ一定の電流である低電流より高い一定の電流で、上記蓄電池を放電するとともに、上記蓄電池の出力電圧が上記閾値電圧以下のとき、上記低電流で上記蓄電池を放電してもよい。
【0041】
上記放電方法では、上記蓄電池の出力電圧が上記閾値電圧以下になるまでは、放電における電流が上記低電流よりも高い。従って、上記比率低減工程が完了するまでの時間をより短くすることが出来るというメリットを有している。
【0042】
上記放電方法では、上記比率低減工程にて、上記蓄電池の出力電圧が所定の閾値電圧より大きいとき、上記蓄電池から上記電力系統に電力が逆流しない大きさの電力で、上記蓄電池を放電するとともに、上記蓄電池の出力電圧が上記閾値電圧以下のとき、上記蓄電池の寿命に影響しない程度、かつ一定の電流である低電流で、上記蓄電池を放電してもよい。
【0043】
上記放電方法では、上記電力系統に電力が逆流しない大きさの電力で放電する。従って、上記比率低減工程が完了するまでの時間を最も短くすることが出来るというメリットを有している。
【0044】
上記放電方法では、上記低電流は、公称容量値の容量を有する蓄電池を少なくとも連続して5時間放電可能な一定の電流であってもよい。これにより、上記比率低減工程において、上記低電流により、上記蓄電池を少なくとも連続して5時間放電することが出来る。
【0045】
上記いずれかの放電方法では、上記比率低減工程の前に、充電された上記蓄電池を放電させることによって、電力料金が昼間より安い夜間に上記蓄電池の充電を行い、電力消費が大きい昼間に、充電済の上記蓄電池から上記負荷に放電することにより上記負荷の平準化を行う負荷平準化工程をさらに含んでもよい。
【0046】
また、上記いずれかの放電方法では、上記負荷平準化工程は、上記電力系統から上記負荷へ供給する上限の電力である上限電力を越える電力を必要とする場合、上記電力系統から上記上限電力を上記負荷へ供給するとともに、上記上限電力からの超過分の電力を上記蓄電池から上記負荷に供給するピークカット工程、および上記負荷の消費電力が上記上限電力を超えることが予想される時間帯において、上記電力系統から上記電力を上記負荷へ供給するとともに、予め設定された一定の電力を上記蓄電池から上記負荷に供給するピークシフト工程の少なくともいずれかを含んでもよい。
【0047】
これにより、従来の電力貯蔵装置を用いる場合よりも高い負荷平準化効果を得ることが出来る。
【0048】
上記いずれかの放電方法では、上記負荷は、上記電力系統において停電または瞬低が生じたときに電力の供給を必要とする最重要負荷、および、上記電力系統において停電が生じたときに電力の供給を必要としない重要負荷を含むものであって、上記電力系統の出力は上記最重要負荷に接続されており、上記電力系統において停電または瞬低が生じていないとき上記電力系統の出力を上記重要負荷に接続させるとともに、上記電力系統において停電が生じたとき、上記電力系統の出力を上記重要負荷に接続しない制御を行なう切替工程をさらに含んでもよい。
【0049】
これにより、上記電力系統において、上記停電または上記瞬時の電圧低下が生じた場合に、上記最重要負荷に電力を供給し続けることと、停電が生じた場合に上記重要負荷に電力を供給しないようにすることとが出来る。
【0050】
上記いずれかの放電方法では、上記蓄電池は複数のセルから構成されており、上記比率低減工程において、上記セル間の出力電圧の差を低減することが出来るので、上記蓄電池を構成する複数のセルの出力電圧におけるバラツキを補正することが出来る。
【0051】
本発明の、セルの出力電圧におけるバラツキの補正では、従来の手法のように、十分に電荷が蓄えられた状態である満充電を超えて、電荷を蓄えようとする過充電を行う必要がない。このため、過充電により上記蓄電池が破損することがないので、安全性の点で従来の手法より有利である。
【0052】
また、本発明では、セルの出力電圧におけるバラツキは、毎日行う上記比率低減放電により補正することが出来る。このため、従来の手法のように、セルの出力電圧のバラツキを補正するための日を設けなくてもよく、上記電力貯蔵装置の運転とセルの出力電圧のバラツキ補正とを両立することが出来る。
【0053】
さらに、上記電力貯蔵装置では、充電及び放電を行うための最低限の構成で、セルの出力電圧におけるバラツキを補正することが出来る。このため、従来の手法のように、セルの出力電圧のバラツキを補正するための回路をセル毎に設ける必要が無い。従って、従来の手法よりも、製造コスト・運用コストを低減することが出来る。
【0054】
上記いずれかの放電方法では、上記比率を計測する計測装置にて計測された上記比率を、上記比率低減工程にて放電した電荷量に応じて補正する比率補正工程をさらに含んでもよい。
【0055】
上記比率補正工程により、上記比率を補正することが出来る。そして、上記比率補正工程を毎日行うことにより、上記比率の補正を毎日行うことが出来る。
【0056】
よって、従来の電力貯蔵装置のように、比率の補正を行うための特別な日を設ける必要がなく、比率の精度が良い状態で(高水準の比率を維持して)上記電力貯蔵装置を運転し続けることが出来る。即ち、上記電力貯蔵装置では、比率の補正(メンテナンス)を、毎日、かつ、上記電力貯蔵装置の運転を停止することなく行うことが出来る。このため、上記電力貯蔵装置は、信頼性の観点と設備保全の観点とにおいて、従来の電力貯蔵装置よりもメリットを有している。
【0057】
また、比率を、毎日精度よく表示する(または把握する)ことが出来るため、上述した負荷平準化動作を確実に行うことが出来る。これとともに、負荷平準化動作及び比率の補正を、一連の作業として行うことが出来る。
【0058】
以上のように、本発明の放電方法によれば、昼の電気料金と夜の電気料金との差額によるメリットを最大限に得ることが出来るとともに、電力貯蔵装置の運転とセルの出力電圧のバラツキ補正とを両立することが出来て、さらに比率の精度が良い状態で電力貯蔵装置を運転し続けることが出来る。
【発明の効果】
【0059】
本発明の放電方法は、以上のように、蓄電池を放電させて上記負荷に電力を供給することによって、上記蓄電池の充電容量に対する現在の充電量の比率を下げる比率低減工程と、上記比率低減工程の後、上記電力系統から供給される電力によって上記蓄電池を充電する充電工程とを含み、上記比率低減工程において、上記比率を、上記充電工程が開始されるまでに、放電用に設定された下限の上記比率である下限比率に近づける方法である。
【0060】
それゆえ、昼の電気料金と夜の電気料金との差額によるメリットを最大限に得ることが出来る、電力貯蔵装置が備える蓄電池の放電方法を提供するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態において提案する、3つのSOC低減放電を示すグラフであり、(a)は、第1のSOC低減放電を示すグラフであり、(b)は、第2のSOC低減放電を示すグラフであり、(c)は、第3のSOC低減放電を示すグラフである。
【図2】本発明の実施形態に係る電力貯蔵装置を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る電力貯蔵装置の運転において、ピークカット動作を用いる時を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態に係る電力貯蔵装置の運転において、ピークシフト動作を用いる時のグラフである。
【図5】セルの出力電圧におけるバラツキの補正時の、電流とセルの出力電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本発明の一実施形態について図1〜図5に基づいて説明すれば、以下の通りである。まずは本実施形態に係る電力貯蔵装置1について、図2を用いて説明する。なお、本実施形態にかかる蓄電池6の放電方法は、後述する負荷に電力を供給する電力系統2に接続され、上記負荷に供給する電力を貯蔵する電力貯蔵装置1が備える蓄電池6の放電方法である。
【0063】
〔電力貯蔵装置1〕
図2は、本実施形態に係る電力貯蔵装置1を示すブロック図である。電力貯蔵装置1は、三相の電力系統2に接続されて電力を貯蔵する電力貯蔵装置であって、高速SW(スイッチング)回路3、二巻線変圧器4、電力変換器5、蓄電池(バッテリー)6、スイッチ9、及びスイッチ制御回路10を備えている。また、図2には、電力貯蔵装置1に加えて、商用の電力系統2、最重要負荷7、及び重要負荷8が示されている。最重要負荷7、及び重要負荷8の定義については後述する。
【0064】
図2において、電力系統2の出力は、高速SW回路3の一端に接続されている。高速SW回路3の他端は、二巻線変圧器4の一端、最重要負荷7の入力端、及びスイッチ9の一端に接続されている。スイッチ9の他端は、重要負荷8の入力端に接続されている。二巻線変圧器4の他端は、電力変換器5の一端に接続されている。電力変換器5の他端は、蓄電池6に接続されている。そして、スイッチ制御回路10から出力されるスイッチ制御信号Scは、スイッチ9の制御入力端に入力される。
【0065】
電力系統2は、高速SW回路3を介して、最重要負荷7及び重要負荷8に交流電力Pを供給することが出来る。最重要負荷7及び重要負荷8に供給する交流電力Pは、後述する契約電力Po(上限電力)以下の範囲内で、任意に調整することが出来る。
【0066】
高速SW回路3は、電力会社の電力系統2側において事故が発生した場合に、電力系統2と、最重要負荷7及び重要負荷8との間を開放する。
【0067】
蓄電池6は、以下に示す充電により直流電力P2を蓄えることが出来る(充電工程)。充電では、まず、電力系統2から出力された交流電力Pが、高速SW回路3を介して、二巻線変圧器4に入力される。二巻線変圧器4では、交流電力Pの電圧が変換され、電圧が変換された交流電力P1が、二巻線変圧器4から電力変換器5に入力される。電力変換器5では、電圧が変換された交流電力P1が直流電力P2に変換される。そして、電力変換器5から蓄電池6へ直流電力P2が供給されることにより、蓄電池6の充電が行われる。
【0068】
また、二巻線変圧器4、電力変換器5、及び蓄電池6により、上記充電によって蓄電池6に蓄えられた直流電力P2’に基づいて、放電が行われる、即ち、最重要負荷7及び重要負荷8に交流電力P’が供給される。放電は、必要に応じて行われるが、何時行われるかについては後述する。
【0069】
放電は、以下に示す過程により行われる。まず、スイッチ制御回路10から出力されるスイッチ制御信号Scにより開閉が制御されるスイッチ9は、通常時は閉じられている。通常時とは、停電や瞬低が生じていない時である。これとともに、蓄電池6に蓄えられている直流電力P2’が、電力変換器5へ出力される。電力変換器5では、入力された直流電力P2’が交流電力P1’へ変換されて、交流電力P1’が二巻線変圧器4へ出力される。二巻線変圧器4では、交流電力P1’の電圧変換が行われるとともに、電圧が変換された交流電力P’が、最重要負荷7及び重要負荷8に供給される。このようにして、蓄電池6の放電が行われる。
【0070】
〔最重要負荷7及び重要負荷8〕
ここで、図2の最重要負荷7及び重要負荷8について、以下に説明する。図2の電力系統2において、停電または瞬低(瞬時の電圧低下)が起こることがある。この場合、最重要負荷7及び重要負荷8へ、交流電力Pが正常に供給されなくなる。
【0071】
最重要負荷7は、停電または瞬低が生じても電力が供給され続ける必要がある負荷である。そのため、電力系統2において停電または瞬低が生じた場合は、蓄電池6から最重要負荷7へ放電する。これにより、最重要負荷7は電力が供給され続ける。
【0072】
一方、重要負荷8は、停電が生じた際に、電力が供給され続ける必要のない負荷である(なお、重要負荷8は、瞬低が生じた際は、電力が供給され続ける必要がある)。そのため、スイッチ制御回路10は、電力系統2において停電または瞬低が生じた場合は、スイッチ9へスイッチ制御信号Scを送ることにより、スイッチ9を開放する。これにより、電力系統2において、停電または瞬低が生じた場合に、最重要負荷7に電力を供給し続けることと、停電が生じた場合に重要負荷8に電力を供給しないようにすることとが出来る(切替工程)。
【0073】
上述したように、電力貯蔵装置1では、放電が行われる。ここで、放電の例として、ピークカット動作を用いる方法と、ピークシフト動作を用いる方法とを説明する。
【0074】
〔ピークカット動作〕
図3は、電力貯蔵装置1の運転(運用)において、ピークカット動作を用いる時を示すグラフである。図3、及び、後述する図1、図4の横軸は、時間tである。ピークカット動作について、以下に説明する。
【0075】
なお、以下の説明において、単に「負荷」と記載している場合は、特別に記載の無い限り、最重要負荷7及び重要負荷8を含む負荷20を示すものとする。
【0076】
ピークカット動作では、電力系統2から供給する交流電力Pの上限を定めておく。この上限は、例えば契約電力Poとする。
【0077】
契約電力Poとは、電力会社と負荷との契約において負荷側が使用できる最大の電力である。負荷において契約電力Poを超えて電力が使用されると、負荷側から電力会社へ契約超過金を支払う必要が生じたり、契約において電力会社へ支払う料金が高くなったりする。
【0078】
図3において、時刻t1から時刻t2(最終時刻)までの間に、最重要負荷7及び重要負荷8が、契約電力Poを超えて電力を消費した場合を考える。この場合は、電力系統2が、最重要負荷7及び重要負荷8へ、契約電力Poを供給する。これとともに、電力貯蔵装置1の蓄電池6が放電することにより、負荷の消費電力PLにおける契約電力Poからの超過分としての交流電力P’が負荷に供給される(ピークカット工程)。これにより、負荷において、契約電力Poを超えて電力が消費される事態に対応することが出来、電力貯蔵装置1の蓄電池6が放電することにより、電力系統2から供給される交流電力Pが契約電力Poを超えないようにすることが出来る。
【0079】
図3のグラフでは、時刻t6から時刻t7までの間と、時刻t8から時刻t2までの間とにおいて、ピークカット動作が行われている。
【0080】
〔ピークシフト動作〕
図4は、電力貯蔵装置1の運転において、ピークシフト動作を用いる時のグラフである。ピークシフト動作について、以下に説明する。
【0081】
ピークシフト動作では、夜間に蓄電池6に充電(蓄電)した電力を、予め設定された一定の電力で昼間に放電する。ここで述べた一定の電力は、契約電力Poとは無関係である。
【0082】
まず、負荷の消費電力が、契約電力Poを超えない第1の時間帯について考える。図4では、第1の時間帯は、時刻t0から時刻t3までの間と、時刻t4(最終時刻)以降の時間である。このような第1の時間帯では、電力系統2から負荷へ交流電力Pを供給する。
【0083】
次に、負荷の消費電力が、契約電力Poを超えることが予想される第2の時間帯について考える。図4では、ピークシフト動作を行う第2の時間帯は、時刻t3から時刻t4までの間である。
【0084】
このような第2の時間帯では、家庭や工場などの需要家は、電力系統2とともに蓄電池6を用いる。これにより、負荷へ電力が供給される。具体的には、蓄電池6から電力変換器5へ直流電力P2’が供給されることに伴い、上記一定の電力が負荷へ供給される(ピークシフト工程)。第2の時間帯では、電力系統2から負荷へ供給される電力がどのような値であっても、蓄電池6から上記一定の電力が放電される。
【0085】
但し、蓄電池6の放電により、負荷へ供給される電力が負荷の消費電力を越えてしまうと、蓄電池6から電力系統2への逆潮流が発生する(蓄電池6から電力系統2に電力が逆流する)。よって、実際には、逆潮流が発生しないように、上記一定の電力を制限する場合もある。
【0086】
上述したピークシフト動作において重要な点は、第2の時間帯の中で、負荷の消費電力が契約電力Poを超えない時間帯があったとしても、蓄電池6から負荷へ供給する電力が、上記一定の電力のまま変わらない、という点である。
【0087】
以上のように、本実施形態に係る電力貯蔵装置1を用いる構成(図2の構成)では、時刻t1から時刻t2までの間にピークカット動作を行うか、時刻t3から時刻t4までの間にピークシフト動作を行うことにより、負荷の消費電力が契約電力Poを超える事態に対応できる。
【0088】
なお、上記第2の時間帯において、負荷の消費電力が、ピークシフト動作による電力(電力系統2の供給電力と上記一定の電力との和の電力)を超えることも想定される。このような場合は、ピークシフト動作を行うとともに、ピークカット動作を行うことにより対応する。
【0089】
また、図2の構成において、蓄電池6は充電されるが、充電は、昼間よりも電力料金が安い夜間の時間帯である夜間充電時間帯に行われる。図3では、時刻t0から時刻t1までの間と、蓄電池6への充電が開始される夜間の時刻である夜間充電開始時刻t5以降が夜間充電時間帯を示す。図4では、第1の時間帯が夜間充電時間帯である(時刻t0から時刻t3までの間と、時刻t4以降の時間が夜間充電時間帯である)。
【0090】
〔SOC低減放電〕
図1は、本実施形態において提案する、3つのSOC低減放電を示すグラフである。図1(a)は、第1のSOC低減放電を示すグラフであり、図1(b)は、第2のSOC低減放電を示すグラフであり、図1(c)は、第3のSOC低減放電を示すグラフである。
【0091】
また、図1において、I6は蓄電池6の出力電流を示し、V6は蓄電池6の出力電圧を示す。使用下限電圧VL(下限電圧)及び閾値電圧Vthについては後述する。
【0092】
まず、SOC低減放電について説明する。SOC低減放電は、蓄電池6のSOC(比率)を下げる放電である(比率低減工程)。SOC低減放電によって、蓄電池6の出力電圧が蓄電池6の使用下限電圧VLに近付けられることにより、蓄電池6のSOCは下げられる(放電用に設定された下限のSOCである下限SOC(下限比率)に近づけられる)。使用下限電圧VLとは、蓄電池6が安全に放電することが出来る電圧の下限である。
【0093】
〔発明が解決しようとする課題〕の欄にて述べたように、負荷が消費する電力量は、1日毎に変化する。そして、従来の電力貯蔵装置は、負荷が消費する電力量が少ない日の場合、夜間の充電が開始される時刻までに、蓄電池の出力電圧が使用下限電圧に達するように蓄電池を放電できないという問題点を有していた。
【0094】
そこで、本実施形態に係る電力貯蔵装置1では、ピークカット時間帯が終了する時刻t2(または、ピークシフト動作を行う第2の時間帯が終了する時刻t4)から、夜間充電開始時刻t5までの放電時間帯に、SOC低減放電を行う。これにより、蓄電池6の出力電圧が、従来の蓄電池の出力電圧よりも、使用下限電圧VLにより近付くとともに、蓄電池6に電荷が残らなくなる。
【0095】
従って、電力貯蔵装置1の蓄電池6は、夜間の充電量が、従来の電力貯蔵装置の蓄電池よりも多くなるので、昼の電気料金と夜の電気料金との差額によるメリット(昼間より電力料金が安い夜間に充電することにより電力料金が安くなるというメリット)を最大限に得ることが出来る。また、電力貯蔵装置1の蓄電池6は、従来の電力貯蔵装置の蓄電池よりも利用効率が向上する。さらに、電力料金が昼間より安い夜間に蓄電池の充電を行い、電力消費が夜間より大きい昼間に、充電済の蓄電池から負荷に放電する動作である負荷平準化動作(負荷平準化工程)の効果(負荷平準化効果)も、従来の電力貯蔵装置より高くなる。
【0096】
なお、1日において、ピークカット動作を1度も行わない場合(負荷の消費電力PLが、契約電力Poを1度も超えない場合)においても、SOC低減放電を行う時間は変わらない(上述したように、ピークカット時間帯が終了する時刻t2から、夜間充電開始時刻t5までの間である)。
【0097】
また、SOC低減放電を開始して、夜間充電開始時刻t5になるまでに、負荷の消費電力PLが契約電力Poを超えたとしても、SOC低減放電を継続する。この場合、負荷の消費電力PLが契約電力Poを超えない場合よりも、SOC低減放電の終了時刻が早まる。そして、SOC低減放電を行う時間帯は、ピークカット時間帯ではないので、SOC低減放電時に負荷の消費電力PLが契約電力Poを超えたとしても、ピークカット動作は行わない。
【0098】
さらに、図1(a)〜図1(c)は全て、ピークカット動作を行う場合のSOC低減放電を示しているが、ピークシフト動作についても同様である。即ち、本実施形態に係る電力貯蔵装置1では、ピークシフト動作を行う時間帯が終了する時刻t4から、夜間充電開始時刻t5までの間に、SOC低減放電を行う。そして、SOC低減放電時に負荷の消費電力PLが契約電力Poを超えたとしても、ピークシフト動作は行わずに、SOC低減放電を継続する。
【0099】
ここで、上記メリットが最大限得られるのは、夜間充電開始時刻t5までに、蓄電池6の出力電圧が使用下限電圧VLに達する場合であるが、「SOC低減放電」の開始時刻(図1では時刻t2)が遅ければ、夜間の充電開始時に使用下限電圧VLに達しない可能性がある。「SOC低減放電」の開始時刻は、タイムテーブルなどで予め定められているが、上記開始時刻は、前日の電力消費の傾向などを考慮して変更されてもよい。こうすることで、「SOC低減放電」の開始時刻が早くなって、夜間充電開始時刻t5までに、蓄電池6の出力電圧が使用下限電圧VLに達することが出来る。従って、上記メリットが最大限得られる。この場合は、「SOC低減放電」を「SOC下限到達放電」と称することとする。
【0100】
ここで、図1(a)〜図1(c)に示す3つのSOC低減放電、即ち、第1のSOC低減放電〜第3のSOC低減放電のそれぞれについて説明する。
【0101】
〔第1のSOC低減放電〕
図1(a)の第1のSOC低減放電について、以下に説明する。第1のSOC低減放電では、ピークカット時間帯が終了する時刻t2から、夜間充電開始時刻t5までの間に、一定の低電流で放電を行う(即ち、当該低電流に応じた低電力を放電する)。これにより、夜間充電開始時刻t5までに、蓄電池6の出力電圧を使用下限電圧VLに近づけることが出来る(可能であれば使用下限電圧VLに到達させる)。
【0102】
上記説明における低電流とは、蓄電池6の寿命に対する影響が極めて小さい範囲の電流(蓄電池の寿命に影響しない程度、かつ一定の電流)であり、蓄電池6の性能に応じて異なる。上記低電流を電池の技術分野における「C」を用いて表現すると、例えば0〜0.2Cの電流であるが、上記低電流が蓄電池6の性能に応じて異なるので、上記低電流が0〜0.2Cの範囲に限定されないことは明らかである。
【0103】
上記「C」について説明すると、1Cの電流とは、公称容量値の容量を有するセルを放電して、ちょうど1時間で放電終了となる一定の電流である。数値を用いて例示すると、2.2Ah(アンペアアワー)の公称容量値の蓄電池6では1C=2.2A(アンペア)となる。
【0104】
また、0.2Cの電流は、蓄電池6の特性及び蓄電池6の性能にほとんど影響を与えない程度の電流であり、公称容量値の容量を有する蓄電池6が5時間で放電終了となる一定の電流(公称容量値の容量を有する蓄電池を少なくとも連続して5時間放電可能な一定の低電流)である。1Cの電流と同様に数値を用いて例示すると、2.2Ah(アンペアアワー)の公称容量値の蓄電池6では、0.2C=0.44A(アンペア)となる。
【0105】
第1のSOC低減放電は、最初から最後まで低電流で放電する。このため、SOC低減放電が完了するまでの時間は、後述する第2及び第3のSOC低減放電よりも長くなる。しかしながら、放電時の電流をより大きくすると、蓄電池6の寿命がより短くなるという特性を考慮すると、第1のSOC低減放電は、蓄電池6の寿命に対する影響が最も小さいというメリットを有している。
【0106】
〔第2のSOC低減放電〕
図1(b)の第2のSOC低減放電について、以下に説明する。第2のSOC低減放電では、蓄電池6の出力電圧V6が、所定の閾値電圧Vth以下になるまでは、上記低電流よりも高く一定の電流で放電する。そして、蓄電池6の出力電圧V6が閾値電圧Vth以下になると、上記低電流で放電する。
【0107】
第2のSOC低減放電は、蓄電池6の出力電圧V6が所定の閾値電圧Vth以下になるまでは、放電における電流が上記低電流よりも高い。従って、出力電圧低減が完了するまでの時間を、第1のSOC低減放電よりも短くすることが出来るというメリットを有している。
【0108】
〔第3のSOC低減放電〕
図1(c)の第3のSOC低減放電について、以下に説明する。第3のSOC低減放電では、蓄電池6の出力電圧V6が、所定の閾値電圧Vth以下になるまでは、放電可能最大電力で放電する。ここで述べた放電可能最大電力とは、逆潮流が発生しない範囲の電力であり、負荷の消費電力以下の電力である。また、逆潮流とは、負荷への供給電力が、負荷の消費電力を超過することにより、蓄電池6から電力系統2へ電力が逆に戻されることである。そして、蓄電池6の出力電圧V6が閾値電圧Vth以下になると、上記低電流で放電する。
【0109】
第3のSOC低減放電では、上記放電可能最大電力で放電する。従って、SOC低減放電が完了するまでの時間を、3つのSOC低減放電(第1のSOC低減放電〜第3のSOC低減放電)の中で最も短くすることが出来るというメリットを有している。
【0110】
図2の電力貯蔵装置1では、第1〜第3のSOC低減放電の内のいずれか1つを行うが、例えば、SOC低減放電を開始するときの、蓄電池6の充電量が多ければ、第2のSOC低減放電または第3のSOC低減放電を行うとより好ましい。また、蓄電池6の寿命に対する影響をできるだけ小さくしたければ、第1のSOC低減放電を行うとよい。
【0111】
〔セルの出力電圧におけるバラツキの補正〕
図2に示す蓄電池6は、複数のセルから構成されており、各々のセルから電力を供給することにより、蓄電池6からの電力供給(放電)が行われている。
【0112】
この時、各々のセルで充電及び放電を個別に繰り返すうちに、セルの出力電圧が、各々のセルで異なってしまうことがある(即ち、セルの出力電圧にバラツキが生じることがある)。
【0113】
セルの出力電圧にバラツキが生じると、各セルの寿命にバラツキが生じたり、蓄電池6の回路に負担がかかったりすることとなる。なお、負荷への電力供給時は、全てのセルの電圧が供給されるので、セルの出力電圧にバラツキが生じても、負荷への電力供給の正確性に対しては影響が及ばない。
【0114】
しかし、本実施形態に係る電力貯蔵装置1では、第1〜第3のSOC低減放電の内のいずれか1つを行う。これにより、夜間充電開始時刻t5までの間に、蓄電池6の出力電圧が、従来の蓄電池の出力電圧よりも、使用下限電圧VLにより近付くので、SOC低減放電を行うことにより、上記セル間の出力電圧の差を低減することが出来る、即ち、蓄電池6を構成する複数のセルの出力電圧におけるバラツキを補正することが出来る。
【0115】
セルの出力電圧におけるバラツキを補正する時の電流は、上記低電流より低くする必要はなく、例えば上記低電流と等しくてもよい。これにより、蓄電池6の出力電圧が、確実に使用下限電圧VLに達するので、セルの出力電圧も確実に補正される。
【0116】
本実施形態において提案する、セルの出力電圧におけるバラツキの補正では、従来の手法のように、十分に電荷が蓄えられた状態である満充電を超えて、電荷を蓄えようとする過充電を行う必要がない。このため、過充電により蓄電池6が破損することがないので、安全性の点で従来の手法より有利である。
【0117】
また、セルの出力電圧におけるバラツキは、毎日行うSOC低減放電の終了後に行うことが出来る。このため、従来の手法のように、セルの出力電圧のバラツキを補正するための日を設けなくてもよく、電力貯蔵装置1の運転とセルの出力電圧のバラツキ補正とを両立することが出来る。
【0118】
さらに、電力貯蔵装置1では、充電及び放電を行うための最低限の構成で、セルの出力電圧におけるバラツキを補正することが出来る。このため、従来の手法のように、セルの出力電圧のバラツキを補正するための回路をセル毎に設ける必要が無い。従って、従来の手法よりも、製造コスト・運用コストを低減することが出来る。
【0119】
図5は、セルの出力電圧におけるバラツキの補正時の、電流とセルの出力電圧との関係を示すグラフである。上記電流は、放電する時に蓄電池6が出力する電流I6である。
【0120】
図5のグラフは、蓄電池6が4つのセルから構成されている場合のグラフである。電流I6がより大きい時刻t9においては、4つのセルの出力電圧(4つのセル電圧V1〜V4)は、2.90Vから2.97Vの範囲内にある。これに対して、電流I6がより小さい時刻t10においては、4つのセル電圧V1〜V4は、2.90Vから2.92Vの範囲内にある。
【0121】
このように、放電する時に蓄電池6が出力する電流I6をより小さくすることにより、放電量を小さくして放電の微調整を行うことが出来るので、セル電圧におけるバラツキをより小さくすることが出来る。
【0122】
〔SOCの補正〕
一般に、SOCと呼ばれる相対的な充電レベルは、蓄電池の充電容量に対する充電残量(現在の充電量)の比率として定義される。
【0123】
SOCは、蓄電池6に接続された計測装置21(例えば、クーロンカウンタ)で計測することが可能である。クーロンカウンタでは、蓄電池に流れ込む電流(蓄電池に入力される電流)と、蓄電池から流れ出す電流(蓄電池から出力される電流)とを積算するクーロンカウント処理が行われる。
【0124】
ここで、蓄電池6に入力される電流及び蓄電池6から出力される電流における、測定誤差または演算誤差等が原因となって、クーロンカウンタ等で計測した充電状態と、蓄電池における実際の充電状態との間に、誤差が生じる(SOCの精度が悪くなる)ことがあった。SOCの精度が悪くなると、蓄電池の充電・放電の制御の精度が悪化する。
【0125】
このため、従来の電力貯蔵装置では、定期的に、または、蓄電池の充電及び放電を制御する制御系から要求があった場合に、蓄電池の完全放電を行う(蓄電池の充電残量をゼロにする)。そして、この完全放電における電荷量を元にして、SOCの補正を行っていた。
【0126】
なお、上述したようにSOCを補正する従来の電力貯蔵装置では、通常運転時にいつ使用下限電圧に達するかが把握できない。
【0127】
これに対して、本実施形態に係る電力貯蔵装置1では、第1〜第3のSOC低減放電の内のいずれか1つを、毎日行うことが出来る。そして、SOC低減放電における放電量に基づいて、SOCの補正を毎日行うことが出来る(比率補正工程)。
【0128】
よって、従来の電力貯蔵装置のように、SOCの補正を行うための特別な日を設ける必要がなく、SOCの精度が良い状態で(高水準のSOCを維持して)電力貯蔵装置1を運転し続けることが出来る。即ち、本実施形態に係る電力貯蔵装置1では、SOCの補正(メンテナンス)を、毎日、かつ、電力貯蔵装置1の運転を停止することなく行うことが出来る。このため、電力貯蔵装置1は、信頼性の観点と設備保全の観点とにおいて、従来の電力貯蔵装置よりもメリットを有している。
【0129】
また、SOCを、毎日精度よく表示する(または把握する)ことが出来るため、上述した負荷平準化動作を安心して行うことが出来る。これとともに、負荷平準化動作及びSOCの補正を、一連の作業として行うことが出来る。
【0130】
なお、SOCを補正するときの電流は、上記低電流より低くする必要はなく、例えば上記低電流と等しくてもよい。これにより、蓄電池6の出力電圧が、確実に使用下限電圧VLに達するので、使用下限電圧VLに達するまでの放電量が正確に把握できて、SOCも確実に補正される。
【0131】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の放電方法は、昼の電気料金と夜の電気料金との差額によるメリットを最大限に得ることが出来るとともに、電力貯蔵装置の運転とセルの出力電圧のバラツキ補正とを両立することが出来て、さらにSOCの精度が良い状態で電力貯蔵装置を運転し続けることが出来るので、消費電力が契約電力を越える負荷に好適に用いることが出来る。
【符号の説明】
【0133】
1 電力貯蔵装置
2 電力系統
3 高速SW回路
4 二巻線変圧器
5 電力変換器
6 蓄電池
7 最重要負荷
8 重要負荷
9 スイッチ
20 負荷
21 計測装置
10 スイッチ制御回路
I6 電流
P 交流電力
P’ 交流電力
P1 交流電力
P1’ 交流電力
P2 直流電力
PL 消費電力
Po 契約電力(上限電力)
Sc スイッチ制御信号
V1〜V4 セル電圧
V6 出力電圧
VL 使用下限電圧(下限電圧)
Vth 閾値電圧
t 時間
t0,t1,t3,t6〜t10 時刻
t2 時刻
t4 時刻
t5 夜間充電開始時刻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に電力を供給する電力系統に接続され、上記負荷に供給する電力を貯蔵する電力貯蔵装置が備える蓄電池の放電方法であって、
上記蓄電池を放電させて上記負荷に電力を供給することによって、上記蓄電池の充電容量に対する現在の充電量の比率を下げる比率低減工程と、
上記比率低減工程の後、上記電力系統から供給される電力によって上記蓄電池を充電する充電工程とを含み、
上記比率低減工程において、上記比率を、上記充電工程が開始されるまでに、放電用に設定された下限の上記比率である下限比率に近づけることを特徴とする放電方法。
【請求項2】
上記比率低減工程にて、
上記電力系統から上記負荷へ供給する上限の電力である上限電力を越える電力を必要とする場合、上記上限電力からの超過分の電力を上記蓄電池から上記負荷に供給する動作を行なう時間帯の最終時刻、または、上記負荷の消費電力が上記上限電力を超えることが予想される時間帯の最終時刻から、上記充電工程にて上記蓄電池の充電が開始される時刻までの間、上記蓄電池を放電させて上記負荷に電力を供給することによって、上記比率を下げることを特徴とする請求項1に記載の放電方法。
【請求項3】
上記比率低減工程にて上記蓄電池を放電する際、上記蓄電池の寿命に影響しない程度、かつ一定の電流である低電流で、上記蓄電池を放電することを特徴とする請求項2に記載の放電方法。
【請求項4】
上記比率低減工程にて、
上記蓄電池の出力電圧が所定の閾値電圧より大きいとき、上記蓄電池の寿命に影響しない程度、かつ一定の電流である低電流より高い一定の電流で、上記蓄電池を放電するとともに、
上記蓄電池の出力電圧が上記閾値電圧以下のとき、上記低電流で上記蓄電池を放電することを特徴とする請求項2に記載の放電方法。
【請求項5】
上記比率低減工程にて、
上記蓄電池の出力電圧が所定の閾値電圧より大きいとき、上記蓄電池から上記電力系統に電力が逆流しない大きさの電力で、上記蓄電池を放電するとともに、
上記蓄電池の出力電圧が上記閾値電圧以下のとき、上記蓄電池の寿命に影響しない程度、かつ一定の電流である低電流で、上記蓄電池を放電することを特徴とする請求項2に記載の放電方法。
【請求項6】
上記低電流は、公称容量値の容量を有する蓄電池を少なくとも連続して5時間放電可能な一定の電流であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の放電方法。
【請求項7】
上記比率低減工程の前に、充電された上記蓄電池を放電させることによって、電力料金が昼間より安い夜間に上記蓄電池の充電を行い、電力消費が大きい昼間に、充電済の上記蓄電池から上記負荷に放電することにより上記負荷の平準化を行う負荷平準化工程をさらに含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の放電方法。
【請求項8】
上記負荷平準化工程は、
上記電力系統から上記負荷へ供給する上限の電力である上限電力を越える電力を必要とする場合、上記電力系統から上記上限電力を上記負荷へ供給するとともに、上記上限電力からの超過分の電力を上記蓄電池から上記負荷に供給するピークカット工程、および
上記負荷の消費電力が上記上限電力を超えることが予想される時間帯において、上記電力系統から上記電力を上記負荷へ供給するとともに、予め設定された一定の電力を上記蓄電池から上記負荷に供給するピークシフト工程の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項7に記載の放電方法。
【請求項9】
上記負荷は、上記電力系統において停電または瞬低が生じたときに電力の供給を必要とする最重要負荷、および、上記電力系統において停電が生じたときに電力の供給を必要としない重要負荷を含むものであって、
上記電力系統の出力は上記最重要負荷に接続されており、
上記電力系統において停電または瞬低が生じていないとき上記電力系統の出力を上記重要負荷に接続させるとともに、上記電力系統において停電が生じたとき、上記電力系統の出力を上記重要負荷に接続しない制御を行なう切替工程をさらに含むことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の放電方法。
【請求項10】
上記蓄電池は複数のセルから構成されており、
上記比率低減工程において、上記セル間の出力電圧の差を低減することが出来ることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の放電方法。
【請求項11】
上記比率を計測する計測装置にて計測された上記比率を、上記比率低減工程にて放電した電荷量に応じて補正する比率補正工程をさらに含むことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の放電方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−147600(P2012−147600A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4950(P2011−4950)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】