説明

電動オイルポンプの制御装置

【課題】電動オイルポンプの暖機運転の適正化を図る。
【解決手段】エンジンで駆動される機械式オイルポンプに対して並列に配設された電動オイルポンプの暖機指令に応答して、電動オイルポンプを所定の目標電流で電流フィードバック制御する。そして、電動オイルポンプのモータ回転数が制御切換回転数N1に達した状態が所定時間t1持続したら、電動オイルポンプを所定の目標回転数で回転フィードバック制御し、モータ回転数が暖機完了回転数N2に達した状態が所定時間t3持続したら、電動オイルポンプの暖機運転を終了する。なお、回転フィードバック制御を所定時間t2継続しても、モータ回転数が暖機完了回転数N2に達しない場合には、暖機運転を最初からやり直す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動オイルポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機などは、エンジン駆動の機械式オイルポンプから供給されるオイルを使用し、各要素の動作及び可動部の冷却・潤滑などが行われている。ここで、停車時にエンジンを停止するアイドルストップ機能を車両に搭載すると、エンジン停止中に自動変速機などに供給されるオイルの油圧が低下し、例えば、自動変速機がニュートラルに変速されたり、自動変速機の冷却が不十分となるおそれがある。このため、特開2007−320353号公報(特許文献1)に記載されるように、機械式オイルポンプと並列に電動オイルポンプを配設し、エンジン停止中におけるオイルの供給を可能とした技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−320353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、オイルの温度(油温)が低い冷機状態においては、オイルの粘性が大きいために、電動オイルポンプを起動するとモータに過大な負荷が作用してしまうおそれがある。そこで、自動変速機などにおける油温が所定温度まで上昇した場合に、電動オイルポンプの起動を許可することが考えられるが、電動オイルポンプの起動前にはポンプ部にオイルの流れがないことから、ポンプ部の油温が所定温度まで上昇していない場合がある。このため、電動オイルポンプの起動を許可する前に、電動オイルポンプを所定時間作動させることで、ポンプ部のオイルを入れ換える「暖機運転」を行うとよい。
【0005】
しかしながら、油温上昇が遅い場合には、暖機運転を所定時間行っても、電動オイルポンプのポンプ部の油温が所定温度まで上昇せず、暖機運転が不十分のまま起動が許可されてしまうおそれがあった。また、油温上昇が早い場合には、暖機運転を所定時間行わなくても、電動オイルポンプのポンプ部の油温が所定温度まで上昇し、暖機運転に要する電力を無駄に消費してしまうおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は以上のような従来技術の問題点に鑑み、暖機運転の適正化を図った、電動オイルポンプの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
エンジンで駆動される機械式オイルポンプに対して並列に配設された電動オイルポンプの暖機指令に応答して、電動オイルポンプを回転負荷に応じて作動させる暖機運転を開始する。そして、電動オイルポンプの回転数が第1の目標回転数に達した場合に、暖機運転を終了する。
【発明の効果】
【0008】
暖機運転の適正化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】油圧式変速機構のシステム図である。
【図2】電動オイルポンプを制御するための制御ブロック図である。
【図3】モータ操作量演算部の詳細図である。
【図4】電動オイルポンプの制御内容を示すフローチャートである。
【図5】電動オイルポンプの制御内容を示すフローチャートである。
【図6】電動オイルポンプの暖機運転の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、本実施形態に係る油圧式変速機構の一例を示す。
車両に搭載されたエンジン10の出力軸12には、トルクコンバータ14及び前後進切換機構16を介して、無段変速機18が接続されている。
【0011】
前後進切換機構16は、例えば、エンジン10の出力軸12と連結したリングギア、ピニオン及びピニオンキャリア、変速機入力軸20と連結したサンギアを有する遊星歯車機構と、変速機ケースをピニオンキャリアに固定する後退ブレーキと、変速機入力軸20とピニオンキャリアとを連結する前進クラッチと、を含んで構成される。そして、前後進切換機構16は、無段変速機18と共通の作動油を用いた後退ブレーキ及び前進クラッチの切り換えにより、車両の前進と後退とを切り換える。
【0012】
無段変速機18は、プライマリプーリ22及びセカンダリプーリ24と、これらのプーリ間に掛け渡したベルト26と、を有する。プライマリプーリ22の回転は、ベルト26を介してセカンダリプーリ24へと伝達され、セカンダリプーリ24の回転は、駆動輪へと伝達されて、車両が走行する。
【0013】
無段変速機18は、プライマリプーリ22の可動円錐板、及び、セカンダリプーリ24の可動円錐板を軸方向に移動させて、ベルト26との接触位置半径を変えることにより、プライマリプーリ22とセカンダリプーリ24との間の回転比、つまり変速比を連続的に変えることができる。
【0014】
前後進切換機構16及び無段変速機18を備えた変速機構28では、調圧機構30が、作動油としてのオイルを変速機構28の各部の目標圧に調圧し、調圧後のオイルを前後進切換機構16と無段変速機18(プライマリプーリ22及びセカンダリプーリ24)とに夫々供給することで、車両の前進・後退の切り換えと変速比の変更とを行う。また、調圧機構30は、調圧後のオイルを冷却・潤滑系32にも供給する。
【0015】
調圧機構30にオイルを供給するオイルポンプとして、エンジン10で駆動される機械式オイルポンプ34と、機械式オイルポンプ34をバイパスする通路に配設された電動オイルポンプ36と、が並列して備えられている。
【0016】
機械式オイルポンプ34及び電動オイルポンプ36は、オイルパン38のオイルを吸い上げて調圧機構30に供給する。そして、調圧機構30から前後進切換機構16,無段変速機18及び冷却・潤滑系32へと供給されたオイルは、オイルパン38に戻されて循環する。
【0017】
なお、機械式オイルポンプ34及び電動オイルポンプ36から変速機構28へのオイル供給は、プーリ・クラッチ・ブレーキなどの作動油としての供給、冷却用としての供給、潤滑用としての供給のうちの少なくとも1つであればよく、また、作動油,冷却,潤滑のうちの複数を兼ねることもできる。
【0018】
変速機構28の冷却・潤滑系32へのオイル供給を、調圧機構30を介さずに行う構成であってもよく、また、前後進切換機構16,無段変速機18,冷却・潤滑系32などの各部に対するオイルの供給流量を制御する構成であって、調圧機構30を備えない変速機構28であってもよい。
【0019】
電動オイルポンプ36は、ブラシレスモータなどの各種のモータ40により回転駆動される。電動オイルポンプ36では、モータ40への通電を制御することで、オイルの吐出量・吐出圧が制御される。電動オイルポンプ36の出口通路には、機械式オイルポンプ34から吐出されるオイルの逆流を阻止する逆止弁42が配設されている。
【0020】
変速機構28の調圧機構30を制御するために、コンピュータを内蔵した変速機制御装置44が設けられている。変速機制御装置44は、車両の運転状態を示す各種のセンサ出力信号を入力し、これらのセンサ出力信号に基づいて変速制御内容を決定し、この変速制御内容に応じた制御信号を調圧機構30へと出力する。ここで、車両の運転状態を検出するために、例えば、オイルパン38の油温を検出する油温センサ46が設けられている。
【0021】
また、電動オイルポンプ36のモータ40を制御するために、コンピュータを内蔵したオイルポンプ制御装置48が設けられている。オイルポンプ制御装置48は、モータ40への通電を制御することで、電動オイルポンプ36の吐出量・吐出圧を制御する。ここで、オイルポンプ制御装置48は、変速機制御装置44から各種指令などを受けるべく、例えば、CAN(Controller Area Network)などの車載ネットワーク50を介して、変速機制御装置44と接続されている。
【0022】
機械式オイルポンプ34はエンジン10で駆動されるため、例えば、アイドルストップ機能によりエンジン10が一時停止した場合、機械式オイルポンプ34も停止し、変速機構28へのオイル供給が途絶えてしまう。そこで、アイドルストップ機能によりエンジン10が一時停止した場合、電動オイルポンプ36によって変速機構28へのオイル供給を行う。
【0023】
なお、エンジン10の運転中であっても、機械式オイルポンプ34による冷却用オイル又は潤滑用オイルの供給不足を補うために、電動オイルポンプ36を作動させる場合もあり、電動オイルポンプ36の作動要求の発生を、エンジン10の一時停止中に限定するものではない。また、機械式オイルポンプ34と電動オイルポンプ36とが相互に独立した供給路にオイルを供給する構成であってもよく、更に、変速機制御装置44、エンジン10を制御するエンジン制御装置などが、電動オイルポンプ36を制御する構成であってもよい。
【0024】
図2は、電動オイルポンプ36を制御するための制御ブロックを示す。
変速機制御装置44には、暖機指令部44Aと、作動指令部44Bと、目標操作量演算部44Cと、が備えられている。
【0025】
暖機指令部44Aは、例えば、油温センサ46により検出された油温に基づいて電動オイルポンプ36の暖機運転を行うべきか否かを判定し、その判定結果に応じてオイルポンプ制御装置48に対して暖機指令を出力する。なお、暖機指令は、後述する暖機運転完了フラグがセットされていない場合のみ出力される。
【0026】
作動指令部44Bは、例えば、暖機運転完了フラグがセットされた状態において、アイドルストップ機能によりエンジン10が一時停止した場合、変速機構28へのオイル供給を確保するために、電動オイルポンプ36の作動指令を目標操作量演算部44Cに出力する。
【0027】
目標操作量演算部44Cは、作動指令部44Bから作動指令があったことを契機として、電動オイルポンプ36を回転駆動するモータ40の目標操作量(目標回転数、目標電流)を演算する。具体的には、目標操作量演算部44Cは、車両の各種センサからの出力信号(車速,ブレーキ作動,アクセル開度,シフト位置,油温,エンジン回転数,バッテリ電圧など)に応じて、電動オイルポンプ36を回転駆動するモータ40の目標操作量を演算する。そして、目標操作量演算部44Cは、演算した目標操作量をオイルポンプ制御装置48へと出力する。
【0028】
オイルポンプ制御装置48には、暖機制御部48Aと、目標電流演算部48Bと、目標回転数演算部48Cと、電源電流演算部48Dと、電流フィードバック(F/B)制御部48Eと、モータ操作量演算部48Fと、モータ回転数演算部48Gと、回転フィードバック制御部48Hと、が備えられている。
【0029】
暖機制御部48Aは、変速機制御装置44の暖機指令部44Aから暖機指令があったことを契機として、目標電流演算部48Bに暖機運転の目標電流を演算することを指示すると共に、目標回転数演算部48Cに暖機運転の目標回転数を演算することを指示する。
【0030】
目標電流演算部48Bは、暖機制御部48Aから指示があったことを契機として、モータ40を電流フィードバック制御するための目標電流を演算する。ここで、目標電流は、例えば、電動オイルポンプ36のモータ40を長時間作動させても、その駆動回路52などに熱影響がない電流値をとる。なお、目標電流演算部48Bは、変速機制御装置44の目標操作量演算部44Cから目標操作量が出力されている場合、その目標操作量に応じた目標電流とする。
【0031】
目標回転数演算部48Cは、暖機制御部48Aから指示があったことを契機として、モータ40を回転フィードバック制御するための目標回転数を演算する。ここで、目標回転数は、例えば、電動オイルポンプ36を定格で運転するときの回転数をとる。なお、目標回転数演算部48Cは、変速機制御装置44の目標操作量演算部44Cから目標操作量が出力されている場合、その目標操作量に応じた目標回転数とする。
【0032】
電源電流演算部48Dは、例えば、モータ40に併設された電流計からの出力信号に基づいて、モータ40に実際に印加された電源電流(実電流)を演算する。
電流フィードバック制御部48Eは、目標電流演算部48Bにより演算された目標電流と電源電流演算部48Dにより演算された実電流との偏差(電流偏差)を演算し、この電流偏差に応じた信号をモータ操作量演算部48Fに出力する。
【0033】
モータ操作量演算部48Fは、電流フィードバック制御部48E又は回転フィードバック制御部48Hから出力された信号に基づいて、モータ40を目標電流又は目標回転数で作動させるための操作量を演算し、駆動回路52を介してモータ40を制御する。モータ操作量演算部48Fは、図3で詳細に示すように、電流偏差に応じた信号と制御変数(α)とを乗算した値と、後述する回転偏差に応じた信号と制御変数(1−α)とを乗算した値と、を加算したモータ操作量を演算する。ここで、制御変数αは、電流フィードバック制御を行う場合に「1」、回転フィードバック制御を行う場合に「0」をとる。
【0034】
モータ回転数演算部48Gは、例えば、モータ40に併設されたホール素子からの出力信号に基づいて、モータ40の実際の回転数(実回転数)を演算する。
回転フィードバック制御部48Hは、目標回転数演算部48Cにより演算された目標回転数とモータ回転数演算部48Gにより演算された実回転数との偏差(回転偏差)を演算し、この回転偏差に応じた信号をモータ操作量演算部48Fに出力する。
【0035】
図4及び図5は、オイルポンプ制御装置48が、所定時間Δtごとに繰り返し実行する、電動オイルポンプ36の制御内容を示す。
ステップ1(図では「S1」と略記する。以下同様。)では、変速機制御装置44の暖機指令部44Aから暖機指令を受け付けたか否かを判定する。そして、暖機指令を受け付けたならば処理をステップ2へと進める一方(Yes)、暖機指令を受け付けていなければ処理をステップ21へと進める(No)。
【0036】
ステップ2では、暖機指令を受け付けていない状態から暖機指令を受け付けた状態に変化したか否か、要するに、暖機指令を受け付けた直後であるか否かを判定する。そして、暖機指令を受け付けた状態に変化したと判定すれば処理をステップ3へと進める一方(Yes)、暖機指令を受け付けた状態に変化していないと判定すれば処理をステップ4へと進める(No)。
【0037】
ステップ3では、制御変数αを1(電流フィードバック制御)に設定する。
ステップ4では、制御変数αが1であるか否か、要するに、電流フィードバック制御中であるか否かを判定する。そして、制御変数αが1(電流フィードバック制御中)であると判定すれば処理をステップ5へと進める一方(Yes)、制御変数αが0(回転フィードバック制御中)であると判定すれば処理をステップ13へと進める(No)。
【0038】
ステップ5では、制御変数αが0から1へと変化したか否か、要するに、電流フィードバック制御を開始するか否かを判定する。そして、制御変数αが0から1へと変化したと判定すれば処理をステップ6へと進める一方(Yes)、制御変数αが0から1へと変化しないと判定すれば処理をステップ7へと進める(No)。
【0039】
ステップ6では、電流フィードバック制御における初期値、例えば、PID制御のための積分値をリセット(初期化)する。
ステップ7では、電流フィードバック制御における目標電流を設定する。
【0040】
ステップ8では、モータ40のモータ回転数が制御切換回転数N1(第1の目標回転数)に達しているか否かを判定する。ここで、制御切換回転数N1は、電流フィードバック制御から回転フィードバック制御へと切り換えるタイミングを規定する閾値であって、例えば、電動オイルポンプ36の性能を保証できる最低の油温において、目標電流で電動オイルポンプ36を駆動させた場合の定常回転数である。そして、モータ回転数が制御切換回転数N1に達していると判定すれば処理をステップ9へと進める一方(Yes)、モータ回転数が制御切換回転数N1に達していないと判定すれば処理をステップ12へと進める(No)。
【0041】
ステップ9では、タイマ1をカウントアップする。ここで、図4及び図5に示すフローチャートは、所定時間Δtごとに繰り返し実行されているので、タイマ1のカウント値と所定時間Δtとを乗算することで、時間を計時することができる(以下同様)。
【0042】
ステップ10では、タイマ1が所定時間t1経過したか否かを判定する。ここで、タイマ1は、電流フィードバック制御において、モータ回転数が制御切換回転数N1に達した状態の持続時間を計時するためのタイマであって、例えば、コンピュータに内蔵された計時機構からなる。また、所定時間t1は、例えば、ノイズ重畳などによる誤判定を抑制可能な値をとる。そして、タイマ1が所定時間t1経過したと判定すれば処理をステップ11へと進める一方(Yes)、タイマ1が所定時間t1経過していないと判定すれば処理を終了させる(No)。
【0043】
ステップ11では、電流フィードバック制御から回転フィードバック制御への切り換えを行うための処理を実行する。具体的には、制御変数αを0に設定し、タイマ1及びタイマ2をクリアし、タイマ2をカウントアップし、暖機運転における目標回転数(第2の目標回転数)を設定し、回転フィードバック制御における初期値(例えば、PID制御における積分値)をリセットし、目標電流を0に設定する。
【0044】
ステップ8においてモータ回転数が制御切換回転数N1に達していないと判定された後のステップ12では、タイマ1をクリアした後、処理を終了させる。
ステップ4において制御変数αが0であると判定された後のステップ13では、タイマ2が所定時間t2以内であるか否かを判定する。ここで、タイマ2は、回転フィードバック制御の持続時間を計時するためのタイマであって、例えば、コンピュータに内蔵された計時機構からなる。また、所定時間t2は、例えば、通常であればモータ回転数が暖機完了回転数N1に達するであろうと考えられる値をとる。そして、タイマ2が所定時間t2以内であると判定すれば処理をステップ14へと進める一方(Yes)、タイマ2が所定時間t2を超えていると判定すれば処理をステップ19へと進める(No)。
【0045】
ステップ14では、モータ40のモータ回転数が暖機完了回転数N2に達しているか否かを判定する。ここで、暖機完了回転数N2は、暖機運転が完了したか否かを判定するための閾値であって、例えば、電動オイルポンプ36の性能を保証できる最低の油温において、オイル供給対象である変速機構28の要求流量を満足する回転数である。そして、モータ回転数が暖機完了回転数N2に達していると判定すれば処理をステップ15へと進める一方(Yes)、モータ回転数が暖機完了回転数N2に達していないと判定すれば処理をステップ18へと進める(No)。
【0046】
ステップ15では、タイマ3をカウントアップする。
ステップ16では、タイマ3が所定時間t3経過したか否かを判定する。ここで、タイマ3は、回転フィードバック制御において、モータ回転数が暖機完了回転数N2に達した状態の持続時間を計時するためのタイマであって、例えば、コンピュータに内蔵された計時機構からなる。また、所定時間t3は、例えば、電動オイルポンプ36を試運転する適当な値をとる。そして、タイマ3が所定時間t3経過したと判定すれば処理をステップ17へと進める一方(Yes)、タイマ3が所定時間t3経過していないと判定すれば処理を終了させる(No)。
【0047】
ステップ17では、暖機運転を完了するための処理を実行する。具体的には、暖機運転完了フラグをセットし、タイマ2及びタイマ3をクリアする。ここで、暖機運転完了フラグをセットすることで、電動オイルポンプ36の起動及びアイドルストップ機能の作動が許可されることとなる。
【0048】
ステップ18では、タイマ3をクリアする。
ステップ13においてタイマ2が所定時間t2を超えていると判定された後のステップ19では、暖機運転を最初からやり直すべく、制御変数αを1(電流フィードバック制御)に設定する。
【0049】
ステップ20では、タイマ1〜タイマ3を夫々クリアする。
ステップ1において暖機指令を受け付けていないと判定された後のステップ21では、暖機運転ではない通常運転を行うべく、制御変数αを0(回転フィードバック制御)に設定する。
【0050】
ステップ22では、変速機制御装置44の目標操作量演算部44Cから送信された目標操作量に基づいて、モータ40のモータ回転数が目標回転数に近づくように、回転フィードバック制御を行う。そして、処理をステップ20へと進める。
【0051】
かかるオイルポンプ制御装置48によれば、変速機制御装置44から暖機指令があったことを契機として、図6に示すように、目標電流に基づいてモータ40の電流フィードバック制御が開始される。ここで、モータ40を電流フィードバック制御することで、オイルの粘性が大きい状態であっても、モータ40に過度な電流が流れることがなく、熱影響を抑制することができる。そして、モータ40の電流フィードバック制御により、電動オイルポンプ36のオイルの入れ換えが進むと、オイルの粘性が小さくなってモータ回転数が徐々に上昇する。モータ回転数が制御切換回転数N1を超えた状態が所定時間t1持続すると、オイルの入れ換えが完了したと判断して、電流フィードバック制御から回転フィードバック制御へと移行する。
【0052】
回転フィードバック制御では、モータ40のモータ回転数が目標回転数に近づくように、モータ40の電源電流が増減制御される。そして、モータ40のモータ回転数が暖機完了回転数N2を超えた状態が所定時間t3持続すると、電動オイルポンプ36を支障なく起動できると判断して、電動オイルポンプ36の暖機運転を終了させる。
【0053】
従って、暖機運転の完了時期を、時間ではなく、実際のモータ回転数に応じて判定するようにしたから、暖機運転が不十分のまま電動オイルポンプ36の起動が許可されたり、長時間に亘る暖機運転による電力消費などを抑制することができる。このため、暖機運転の適正化を図ることができる。
【0054】
また、電流フィードバック制御から回転フィードバック制御へと移行した後、所定時間t2経過してもモータ40のモータ回転数が暖機完了回転数N2へと達しなければ、何らかの問題が生じた可能性があると判断し、電動オイルポンプ36の暖機運転が最初からやり直される。この場合、やり直し回数をカウントし、このカウント値が所定値に達した場合に、電動オイルポンプ36,モータ40及びその回路などに故障が発生したと判定するようにしてもよい。
【0055】
一方、電動オイルポンプ36の暖機運転が完了した通常制御時においては、オイル供給対象である変速機構28の運転状態に応じた目標回転数に基づいて、モータ40が回転フィードバック制御される。このため、変速機構28の運転状態に応じたオイルが供給され、変速機構28を支障なく作動させることができる。なお、通常制御時では、油圧系である前後進切換機構16及び無段変速機18へのオイル供給を優先する場合には、負荷に対しトルク制御を行う「電流フィードバック制御」、冷却・潤滑系32へのオイル供給を優先する場合には、流量制御を行う「回転フィードバック制御」を行えばよい。また、油圧系へ適用する場合、ポンプ吐出部の油圧が設定値以上となったら油圧を低下させるリリーフバルブが存在するシステムでは、「回転フィードバック制御」を行うようにしてもよい。
【0056】
なお、電動オイルポンプ36を暖機運転すべきか否かは、オイルポンプ制御装置48の暖機制御部48Aが、例えば、油温センサ46により検出された油温に基づいて判定するようにしてもよい。この場合、変速機制御装置44は、暖機指令部44Aを備える必要がない。
【0057】
電流フィードバック制御から回転フィードバック制御へ切り換えるとき、電流フィードバック制御と回転フィードバック制御との割合を、ゲインとして機能する制御変数αで変更するようにしてもよい。この場合、制御変数αは、例えば、油温又はモータ回転数に応じた制御値(0以上1以下の実数値)が設定されたテーブル(マップ)を参照して決定することができる。さらに、電流フィードバック制御から回転フィードバック制御への切換点では、モータ40の操作量が大きく変化しないように、滑らかに変化させるとよい。
【0058】
そして、電流フィードバック制御における目標電流は、回転フィードバック制御への切り換えが完全に終了した時点、要するに、制御変数αが0になった場合に、目標電流=0とする。また、回転フィードバック制御への切り換え直後では、例えば、PID制御のための積分値の初期値を、現在のモータ回転数から求めるようにしてもよい。
【0059】
ここで、「暖機運転」及び「通常運転」について定義する。
極低温などで作動油としてのオイルの粘性が過大となり、モータ負荷が大きくなる場合、電動オイルポンプ36から性能保証の流量を吐出できない可能性がある。このため、このような可能性があるときにオイル供給をする場合は、性能保証の流量を吐出可能であるかの作動チェックを行なうのが、ここでいうところの「暖機運転」である。
【0060】
基本的には、イグニッションスイッチがONとなった後、車両の各種センサからの出力信号(車速,ブレーキ作動,アクセル開度,シフト位置,油温,エンジン回転数,バッテリ電圧など)に応じて上位の制御装置から暖機運転指令が送信され、オイルポンプ制御装置48が暖機運転指令を受信した場合に暖機運転を実施する。暖機運転実施後、暖機運転が正常終了した場合にその旨を上位の制御装置に送信し、上位の制御装置が暖機運転の正常終了を認識した場合に通常運転指令を出力する。一方、「通常運転」とは、電動オイルポンプ36から性能保証の流量を吐出可能な運転状態であって、上位の制御装置の指令に応じた回転又は電流となるような回転フィードバック制御又は電流フィードバック制御を行うことが可能な運転状態である。
【0061】
なお、上位の制御装置から暖機運転指令が送信される契機としては、上記条件に限らず、例えば、油温が車両の各種センサからの出力信号に応じた所定値以下になった場合、油温が固定値である所定値以下になった場合などを適用してもよい。
【0062】
ここで、暖機運転を行っても通常運転に移行できる見込みが少ない極低温時や、油温の変化度合が小さく、暖機運転の効果が小さい場合、アイドルストップ車やハイブリッド車で、油温の熱源であるエンジンが停止制御されている間などは、暖機運転を行わないこととしてもよい。
【0063】
しかしながら、暖機運転中は電動オイルポンプ36からのオイル供給流量が制限されてしまうため、例えば、冷却システムのフェール(失陥)などで最大性能で電動オイルポンプ36を駆動する場合、強制的に暖機運転を終了し、通常運転へと移行してもよい。
【0064】
また、イグニッションスイッチがONとなったときに初期油温が極低温でなければ、モータ負荷が大きくないので、性能保証流量を吐出可能である。この場合には、暖機運転を行わずに、通常運転としてもよい。
【0065】
さらに、暖機運転の終了後に、走行風などの影響で局所的にオイルの温度が低下し、負荷がモータ40の性能より大きくなる箇所が存在する場合には、通常運転を中止して暖機運転を再度行ってもよい。
【0066】
本発明に係る電動オイルポンプの制御装置は、以上説明した変速機構28に限らず、オイルを作動油とする各種油圧機器、オイルにより冷却・潤滑を行う各種油圧機器にも適用可能であることはいうまでもない。
ここで、前記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
【0067】
(イ)前記電動オイルポンプの暖機運転が終了した場合に、前記電動オイルポンプをオイル供給対象の状態に応じて作動させる通常制御に移行することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置。
このようにすれば、電動オイルポンプの暖機運転が終了したことを契機として、電動オイルポンプの通常制御へと移行することかできる。
【0068】
(ロ)前記電動オイルポンプの暖機運転が終了した場合に、前記電動オイルポンプの起動を許可することを特徴とする請求項1〜請求項3及び(イ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置。
このようにすれば、電動オイルポンプの暖機運転が終了したことを契機として、例えば、アイドルストップ機能によるエンジンの一時停止中に、外部からの起動指示に応答して電動オイルポンプを起動させることができる。
【0069】
(ハ)前記電動オイルポンプの暖機状態を推定する推定手段を更に備え、前記電動オイルポンプの暖機指令は、前記推定手段により暖機状態でないと推定された場合に発行されることを特徴とする請求項1〜請求項3、(イ)及び(ロ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置。
このようにすれば、電動オイルポンプが暖機状態でなくなった場合、その暖機運転を開始することができる。
【0070】
(ニ)前記電流フィードバック制御における目標電流、及び、前記回転フィードバック制御における目標回転数は、前記電動オイルポンプの特性、電源の特性、駆動回路の特性の少なくとも1つに基づいて設定されることを特徴とする請求項1〜請求項3、(イ)、(ロ)及び(ハ)のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置。
このようにすれば、実際の電動オイルポンプの特性に適合した目標電流及び目標回転数が設定されるので、電動オイルポンプの暖機運転の精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0071】
10 エンジン
34 機械式オイルポンプ
36 電動オイルポンプ
40 モータ
44 変速機制御装置
44A 暖機指令部
44B 作動指令部
44C 目標操作量演算部
48 オイルポンプ制御装置
48A 暖機制御部
48B 目標電流演算部
48C 目標回転数演算部
48D 電源電流演算部
48E 電流フィードバック制御部
48F モータ操作量演算部
48G モータ回転数演算部
48H 回転フィードバック制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンで駆動される機械式オイルポンプに対して並列に配設された電動オイルポンプの制御装置であって、
前記電動オイルポンプの暖機指令に応答して、前記電動オイルポンプを回転負荷に応じて作動させる暖機運転を開始し、前記電動オイルポンプの回転数が第1の目標回転数に達した場合に、暖機運転を終了することを特徴とする電動オイルポンプの制御装置。
【請求項2】
前記電動オイルポンプの回転数が第1の目標回転数に達した後、前記電動オイルポンプの回転数が第2の目標回転数となるように更に制御し、この制御状態が所定時間継続された場合に、暖機運転を終了することを特徴とする請求項1に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項3】
前記電動オイルポンプを回転負荷に応じて作動させる暖機運転は、前記電動オイルポンプを所定の目標電流で作動させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動オイルポンプの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−68234(P2013−68234A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205339(P2011−205339)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】