電動パワーステアリング装置
【課題】ボールねじの循環部の外径を大きくすることなく、耐久性を確保することができる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】電動モータと、操舵機構とタイロッドとの間に連結されたラック軸3と、前記電動モータからの動力を前記ラック軸3に伝達する動力伝達機構と、を有し、前記動力伝達機構は、前記ラック軸3に対して連結又は一体化され且つ雄ねじ溝を備えたねじ軸9と、該ねじ軸の周囲に配置され且つ雌ねじ溝を備えたナットと、前記雄ねじ溝と前記雌ねじ溝との間に転動可能な複数の転動体を有するボールねじ機構からなる電動パワーステアリング装置であって、前記ラック軸3のストロークエンド内の少なくとも一方において、前記ナットの荷重支持力減少領域LAが前記ラック軸3と当該ラック軸に接続されたタイロッドの成す平面で定義されるラック軸円周方向の位相位置φp,φp′以外の領域に位置するように設定した。
【解決手段】電動モータと、操舵機構とタイロッドとの間に連結されたラック軸3と、前記電動モータからの動力を前記ラック軸3に伝達する動力伝達機構と、を有し、前記動力伝達機構は、前記ラック軸3に対して連結又は一体化され且つ雄ねじ溝を備えたねじ軸9と、該ねじ軸の周囲に配置され且つ雌ねじ溝を備えたナットと、前記雄ねじ溝と前記雌ねじ溝との間に転動可能な複数の転動体を有するボールねじ機構からなる電動パワーステアリング装置であって、前記ラック軸3のストロークエンド内の少なくとも一方において、前記ナットの荷重支持力減少領域LAが前記ラック軸3と当該ラック軸に接続されたタイロッドの成す平面で定義されるラック軸円周方向の位相位置φp,φp′以外の領域に位置するように設定した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵ギヤ機構のラック軸に装着する電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のラックピニオン式ステアリング装置では、ステアリングホイールを操舵したときの操舵回転力がピニオン軸に伝達され、このピニオン軸に螺合するラック軸で直線運動に変換されて、ラック軸の両端に連結されたタイロッドを介して転舵輪に伝達され、この転舵輪が転舵される。
一般的に、タイロッドはラック軸に対して角度を持って取り付けられるため、操舵反力として、ラック軸にアキシアル荷重の他に、ラジアル荷重、モーメント荷重が負荷される。
【0003】
ラック軸にラック部と直列にボールねじ溝を形成して、このボールねじ溝にボールを介してボールねじナットを螺合させ、このボールねじナットを電動モータによって回転駆動するボールねじアシストタイプの電動パワーステアリング装置の場合、前述したラジアル荷重、モーメント荷重がボールねじに負荷されるため、効率や耐久性の低下が課題となる。
【0004】
この課題を解決するために、従来、操舵により回転するピニオンに噛み合うラックと一体のスクリューシャフトに、ラックハウジングにより支持される回転筒が転動体を介してねじ合わされ、回転筒はモータにより駆動され、ラックをピニオンとのかみ合い位置において支持するラック支持部材と、スクリューシャフトの移動範囲に配置されるとともにスクリューシャフトの外周を支持可能な支持体との間に、転動体の全体が配置され、前記スクリューシャフトの外周における螺旋状の軌道溝の開口縁との接触による支持体の磨耗を抑制し、スクリューシャフトのがたつきによる伝達効率低下を防止できるように、その軌道溝の開口縁は面取り部とされ、前記ラックに路面側から作用する負荷をその支持体と前記ラック支持部材とにより受けるようにした車両のステアリング機構が配置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、他の従来例として、スピンドルのボールねじ駆動装置において、スピンドルナットが、内周面上に、螺旋に沿って配置され、ボールのための耐荷重チャンネルを画定しているボール溝と前記スピンドルナットの外周面に配置された、前記ボールのためのリターンチャネルを備えた外部デフレクターとを備えており、前記外部デフレクターが2つのボール用開口部を備えており、これら2つのボール用開口部のそれぞれは、前記耐荷重チャネルの一端に接続され、前記ボールを前記耐荷重チャネルの一端から前記耐荷重チャネルの他端へと偏向しており、前記外部デフレクターを、前記2つのボール用開口部の一方から前記2つのボール用開口部の他方まで、少なくとも前記スピンドルナットの回転軸周りの略完全な一巻きに渡って伸ばしたボールねじ駆動装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第37827648号公報
【特許文献1】特開2005−326009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来例にあっては、ボールねじ外周と支持体との間の摩擦による損失が発生し、また、凹凸状のねじ外周との摺動によって、支持体の磨耗が発生し、ボールねじの機能損失につがるという未解決の課題がある。
また、上記特許文献2に記載された従来例にあっては、ボールねじの循環部による負荷容量変動を解消することができるが、ボールをナットの略一周循環させるため、外径が大きくなるという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、ボールねじの循環部の外径を大きくすることなく耐久性を確保することができる電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決するために、本発明の一の形態に係る電動パワーステアリング装置は、操舵機構とタイロッドとの間に連結されたラック軸と、前記電動モータからの動力を前記ラック軸に伝達する動力伝達機構と、を有し、前記動力伝達機構は、前記ラック軸に対して連結又は一体化され且つ雄ねじ溝を備えたねじ軸と、該ねじ軸の周囲に配置され且つ雌ねじ溝を備えたナットと、前記雄ねじ溝と前記雌ねじ溝との間に形成された転動路内を転動可能な複数の転動体を有するボールねじ機構からなる電動パワーステアリング装置であって、前記ラック軸のストロークエンド内の少なくとも一方において、前記ナットの荷重支持力減少領域が前記ラック軸と当該ラック軸に接続されたタイロッドの成す平面で定義されるラック軸円周方向の位相以外の領域に位置するように設定したことを特徴としている。
【0009】
また、本発明の他の形態に係る電動パワーステアリング装置は、前記荷重支持力減少領域は、荷重を受ける負荷圏のボール数が最小となる領域であることを特徴としている。
さらに、本発明の他の形態に係る電動パワーステアリング装置は、前記荷重支持力減少領域は、前記ボールねじに入力されるラジアル荷重に対して、当該ラジアル荷重を受ける負荷圏のボール数が最小となる領域であることを特徴としている。
また、本発明の他の形態に係る電動パワーステアリング装置は、前記荷重支持力減少領域は、前記ボールねじに入力されるモーメント荷重に対して、当該モーメント荷重を受ける負荷圏のボール数が最小となる領域であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラック軸に対して連結又は一体化され且つ雄ねじ溝を備えたねじ軸と、このねじ軸に転動体を介して螺合するボールねじナットとを有する動力伝達機構を備え、ラック軸のストロークエンドの少なくとも一方において、前記ナットの荷重支持力減少領域が前記ラック軸と当該ラック軸に接続されたタイロッドの成す平面で定義されるラック軸円周方向の位相以外の領域に位置するように設定したので、ボールねじ内で発生する接触面圧を低減し、ボールねじの長寿命化を図ることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置の第1の実施形態を示す正面図である。
【図2】ラック軸を示す正面図である。
【図3】電動パワーステアリング装置の要部を示す拡大断面図である。
【図4】ラック側ストロークエンドの操舵反力を示す説明図である。
【図5】ボールねじ側ストロークエンドの操舵反力を示す説明図である。
【図6】ボールねじナットの循環方式としてコマ方式を採用した場合におけるラジアル荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置にある状態の説明図である。
【図7】ボールねじナットの循環方式としてコマ方式を採用した場合におけるモーメント荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置にある状態の説明図である。
【図8】ボールねじナットの循環方式としてコマ方式を採用した場合におけるラジアル荷重入力時及びモーメント荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置外にある状態の説明図である。
【図9】ボールねじナットの循環方式としてチューブ方式を採用した場合におけるラジアル荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷圏にある状態の説明図である。
【図10】ボールねじナットの循環方式としてチューブ方式を採用した場合におけるモーメント荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置にある状態の説明図である。
【図11】ボールねじナットの循環方式としてチューブ方式を採用した場合におけるラジアル荷重入力時及びモーメント荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置外にある状態の説明図である。
【図12】ボールねじナットの循環方式としてエンドデフレクタ方式を採用した場合におけるラジアル荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置にある状態の説明図である。
【図13】ボールねじナットの循環方式としてエンドデフレクタ方式を採用した場合におけるモーメント荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置にある状態の説明図である。
【図14】ボールねじナットの循環方式としてエンドデフレクタ方式を採用した場合におけるラジアル荷重入力時及びモーメント荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置外にある状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る電動パワーステアリング装置の主要部を示す正面図であり、図2は、ラック軸を示す正面図である。
図中、1は操舵ギヤ機構であって、この操舵ギヤ機構1は、ピニオン機構2とラック機構3とを備えている。
【0013】
ピニオン機構2はピニオンハウジング4に回転自在に支持されたピニオン軸5を備えており、ラック機構3はラックハウジング6に摺動可能に支持されたラック軸7を備えている。ピニオン軸5とラック軸7は噛合しており、ピニオン軸5に伝達される回転力が、ピニオン機構2によって、ラック軸7の直動運動に変換される。
ラック軸7は、図2に示すように、ピニオン軸5が噛合するラック部8と、このラック部8の右方に一体に形成されたボールねじ溝9aを形成したボールねじ部9とを備えている。
【0014】
そして、ラック軸7の右端側に電動パワーステアリング装置10が配置されている。この電動パワーステアリング装置10は、ボールねじ機構11と、操舵補助用電動モータ12と、ボールねじ機構11と電動モータ12との間を連結する減速機構13とで構成されている。
ボールねじ機構11は、図3に示すように、ラック軸7のボールねじ溝9aに転動体としてのボール14を介して螺合するボールねじナット15を備えている。このボールねじナット15は、ラックハウジング6の右端部に形成された軸受収容部16に収容された転がり軸受17によって回転自在に支持されている。この転がり軸受17は、ボールねじナット15と一体に形成された内輪17aと、この内輪17aにボール17bを介して連結され軸受収容部16に固定支持された外輪17cとで構成されている。
【0015】
また、操舵補助用電動モータ12は、ラックハウジング6の軸受収容部16の半径方向外方に一体に形成されたモータ支持部18のピニオン機構2側に固定支持され、その回転軸12aがモータ支持部18に形成された貫通孔18aを通じて反対側に突出されている。
さらに、減速機構13は、操舵補助用電動モータ12の回転軸12aの先端に取付けられた小径プーリ19と、前述したボールねじナット15の半径方向外方に、ボールねじナット15と一体回転可能に支持された大径プーリ20と、小径プーリ19及び大径プーリ20との間に巻装されたタイミングベルト21とで構成されている。
【0016】
そして、小径プーリ19と、大径プーリ20、及びボールねじ部9を覆うようにカバー22が軸受収容部16及びモータ支持部18に例えばボルト締めされている。
この電動パワーステアリング装置10では、操舵補助用電動モータ12の回転軸12aを図3の左方から見て時計方向に回転駆動することにより、小径プーリ19及び大径プーリ20がタイミングベルト21によってそれぞれ時計方向に回転駆動され、これに応じてボールねじナット15が時計方向に回転駆動されるので、ボールねじ部9すなわちラック軸7が左方に移動され、逆に操舵補助用電動モータ12の回転軸12aを左方から見て反時計方向に回転駆動することによりラック軸7が右方に移動される。
【0017】
そして、ラック軸7のラック部8の左端部及びボールねじ部9の右端部が図1で鎖線図示のようにそれぞれタイロッド30を介して転舵輪に連結され、これら転舵輪が必要以上の転舵角となることを防止するためにエンドストッパ(図示せず)が設けられている。
このため、前述したように操舵補助用電動モータ12の回転軸12aを左方から見て時計方向に回転駆動することにより、図4に示すように、ラック軸7を左方にラック側ストロークエンドまで移動させる場合を考える。このときには、転舵輪(図示せず)から入力される操舵反力は、タイロッド30及びラック軸7の成す平面上に発生する。ここで、ラック部8の左端側では転舵輪を押しながら転舵するため圧縮反力F1が発生し、ボールねじ溝9の右端側では転舵輪を引張りながら転舵するための引張反力F2となる。
【0018】
この図4に示すラック側ストロークエンドでは、ボールねじ部9と引張反力F2の荷重点との長さは最短になる。圧縮反力F1の分力として入力される、モーメント荷重及びラジアル荷重については、ピニオン機構2とラック機構3との噛み合いにより支持されるため、ボールねじ部9に入力されるモーメント荷重及びラジアル荷重については引張反力F2によるものが支配的となる。
【0019】
逆に、操舵補助用電動モータ12の回転軸12aを左方から見て反時計方向に回転駆動することにより、図5に示すように、ラック軸7を右方にボールねじ側ストロークエンドまで移動させる場合を考える。このときにも、転舵輪(図示せず)から入力される操舵反力は、タイロッド30及びラック軸7の成す平面上に発生する。ここで、ラック部8の左端側では転舵輪を引張りながら転舵するための引張反力F1が発生し、ボールねじ部9の右端側では転舵輪を押しながら転舵するため圧縮反力F2となる。
したがって、左転舵及び右転舵で発生する操舵反力の向きが逆方向となる。そして、ラック部側ストロークエンド及びボールねじ部側ストロークエンドでは操舵反力が大きくなり、タイロッド角が大きくなる。そのため、その分力としてのボールねじ部9に入力されるラジアル荷重は両ストロークエンドで最大となる。
【0020】
一方、モーメント荷重については、図5に示すボールねじ部側ストロークエンドで、ボールねじ部9と操舵反力F2の荷重点との長さが最大となることにより、ボールねじ部9に入力されるモーメント荷重が最大となる。
一方、ボールねじ機構11のボール循環路が形成されている領域では、荷重を支持するボール数が少なくなる荷重支持力減少領域LAとなる。このため、荷重支持力減少領域LAが、ラック軸側ストロークエンド及びボールねじ側ストロークエンドにおいて、図8(a)〜(d)に示す、路面反力F1及びF2が作用するラック軸3とタイロッド30との成す平面で定義されるラック軸円周方向の負荷作用位相位置φpに位置しないように、荷重支持力減少領域LA以外の領域が負荷作用位相位置Ppに存在するようにボールねじナット15の円周方向の位相位置を調整する。
【0021】
すなわち、前述したボールねじ機構11を、ボールねじナット15の循環方式として、ボール循環部が1巻きに1箇所存在するコマ方式(デフレクタ方式)を採用したボールねじナット15では、配列するボール数が4列である場合に、図6(a)に示すように、ボール循環路を左側から順次BR1、BR2、BR3及びBR4としたとき、ボール循環路BR1が図6(b)で見て約135°〜約225°の範囲内に存在し、ボール循環路BR2が約225°〜約315°の範囲内に存在し、ボール循環路BR3が約315〜約45°の範囲内に存在し、ボール循環路BR4が約45°〜約135°の範囲内に存在するものとする。この場合には、ボールねじ部9に下方から上方にラジアル荷重Frが作用したしたときに、ラジアル荷重Frが作用する負荷作用位相位置φpは、図6(b)に示すように、ボールねじ溝9の中心を通る約90°の位置となる。このため、この負荷作用位相位置φpに存在するボール数は、図6(a)に示す上方の方形枠で囲んだ3列であり、全体の4.5列に比較して負荷を支持するボール数が最小となる。
【0022】
同様に、ボールねじ側ストロークエンドに達してボールねじ部9に図7(a)に示すように前述した図5の操舵反力F1及びF2が作用する場合には、その負荷位相位置は、図7(b)に示すように、右端側では上述したラジアル荷重Frの場合と同様の負荷位相位置φpとなるが、左端側では、180°異なる負荷位相位置φp′となる。このため、この負荷位相位置φpの荷重を受けるボール数は、図7(a)に示すように上方の方形枠で囲んだ2列となり、負荷位相位置φp′の荷重を受けるボール数は下方の方形枠で囲んだ1列のみとなる。
【0023】
しかしながら、図8(a)〜(d)に示すように、荷重支持力減少領域LAを円周方向に例えば図6(b)で見て時計方向に例えば約135°移動させて、負荷作用位相位置φp及びφp′から外し、荷重支持力減少領域LA以外の領域を負荷作用位相位置φp及びφp′に存在させると、ラジアル荷重Frに対しては図8(e)に示すように、上方側の4列のボールがラジアル荷重Frを受けることになり、ボールねじ機構11内で発生する接触面圧が減少する。同様に、モーメント荷重F1,F2に対しては図8(f)に示すように、左端側では下方側における左側の方形枠で囲んだ2列がモーメント荷重F1の負荷作用位相位置φp′に存在して負荷を受け、右端側では上方側における右側の方形枠で囲んだ2列がモーメント荷重F2の負荷作用位相位置φpに存在して負荷を受けることになり、同様にボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減することができる。
【0024】
したがって、ストロークエンドで荷重支持力減少領域LAがラジアル荷重Fr及びモーメント荷重F1,F2の負荷作用位相位置φp及びφp′から外れるようにボールねじ溝9の円周方向の位相管理を行う。
このためには、基準面を基準に加工する場合、ねじ溝を基準に加工する場合、ラック部を基準に加工する場合の3つの加工方法を適用することができる。
【0025】
(基準面を基準に加工する場合)
ラック部8及びボールねじ溝9を形成していないブランクに基準面(例えば軸端に切欠、突起、穴など)を設け、この基準面を基準にねじ溝の加工を実施する。ねじ溝加工工程の後に、同じく前記基準面に位相出しをした上で、ラック部8の加工を行う、このとき、加工の順番はどちらが先でも構わない。ここで、ねじ溝の形成は転造、切削、研削などの加工方法を適用することができ、ラック部8の形成は、鍛造、切削、研削などの加工方向を適用することができる。
【0026】
(ねじ溝を基準に加工する場合)
前記ブランクに先にねじ溝を加工し、ねじ溝を基準にラック部8の加工を行う、例えば、非接触測定機でねじ溝の形状を測定し、管理する方法や、ねじ溝に嵌合する突起を有したクランプ治具で、ねじ部8をクランプする方法などが考えられる。なお、ねじ溝の加工方法及びラック部8の加工方法は基準面を基準に加工する場合と同様である。
【0027】
(ラック部を基準に加工する場合)
前記ブランクに先にラック部8を加工し、ラック部8(例えばラック歯先面など)を基準にねじ溝の加工を行う。
なお、ラック部8を先に加工した場合、ラック部8の加工に伴うひずみが、ボールねじ溝9の精度に影響を与える場合があり、ねじ溝を先に加工した場合と比べねじ軸部の精度が劣る。そのため、精度を要する場合には、ねじ溝の加工を先に行う方が好ましい。
【0028】
このように、上記第1の実施形態においては、ボールねじナット15の循環方式としてコマ方式を採用し、1巻きに1箇所のボール循環路を有する場合に、ボール循環路が存在する負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAを両端のストロークエンドで、ラジアル荷重及びモーメント荷重の負荷作用位相位置φp,φp′から外れるように設定したので、特殊な構造を採用することなく、荷重が最大となるストロークエンドでのボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減し、ボールねじ機構11の長寿命化を図ることができる。
【0029】
なお、上記第1の実施形態では、ボール循環路BR4を荷重作用位相位置φaから約135°ずらした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、各ボール循環路BR1〜BR4に相当する荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′から外れるように位相調整をすればよいものである。また、配列するボールの巻き数も任意に設定することができる。
【0030】
次に、本発明の第2の実施形態を図9〜図11について説明する。
この第2の実施形態では、ボールねじナットの循環方式としてチューブ方式を採用したものである。
すなわち、第2の実施形態では、図9に示すように、ボールねじナット15の循環方式として、U字状に曲げられたチューブで最前列から最後列までボールを戻るチューブ方式を採用している。
【0031】
このチューブ方式では、図9(a)及び(b)に示すように、両端のストロークエンドで、チューブ31が上方に位置する場合には、下方から上方に向かうラジアル荷重Frがラック軸7に負荷されたときに、負荷作用位相位置φpは図9(b)に示すように、上方の約90°の位置となり、この負荷作用位相位置φpにチューブ31が位置することにより、このチューブ31に繋がれたボール掬い取り戻し部のボールが負荷作用位相位置φpには存在しないことになり、ラジアル荷重Frを受けるボールは上方の方形枠で囲んだ2列のみとなり、負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φpに存在することになる。
【0032】
同様に、図10(a)及び(b)に示すように、モーメント荷重F1及びF2を受ける場合には、前述した第1の実施形態と同様に、左端側では下方に負荷作用位相位置φp′が形成され、右端側では上方に負荷作用位相位置φpが形成される。このため、これら負荷作用位相位置φp及びφp′内に存在するボールは、図10(a)に示すようにそれぞれ方形枠で囲んだ上方の一列及び下方の一列であり、負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′に存在することになる。
【0033】
これらに対して、本実施形態では、両端のストロークエンドで、図11(a)及び(b)に示すように、負荷圏のボール数が少ない荷重支持力減少領域を円周方向に例えば約90°ずらした位相位置としている。この場合には、負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′から外れることになり、ラジアル荷重Frに対しては、図11(a)に示すように、上側の方形枠で囲んだ3列のボールでラジアル荷重を受けることができ、ボールねじ機構11内の接触面圧を減少させることができる。同様に、モーメント荷重F1及びF2に対しては、図11(b)に示すように、左端側では下部の方形枠で囲んだ2列でモーメント荷重F1を受け、右端側では上部の方形枠で囲んだ2列でモーメント荷重F2を受けることができ、ボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減することができる。
【0034】
したがって、第2の実施形態でも、チューブ方式を採用した場合に、両ストロークエンドにおいて、負荷を支持するボール数が少なくなる荷重支持力減少領域LAを負荷作用位相位置φp,φp′から外して、それ以外の領域を負荷作用位相位置φp及びφp′とするようにボールねじ溝9の位相調整を行っているので、特殊な構造を採用することなく、ラジアル荷重及びモーメント荷重の双方に対して荷重を受けるボール数を増加させることができ、ボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減して、ボールねじ機構11の長寿命化を図ることができる。
【0035】
なお、上記第2の実施形態では、ボール循環路BR4を荷重作用位相位置φaから約90°ずらした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ボール循環路31に相当する荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′から外れるように位相調整をすればよいものである。
【0036】
次に、本発明の第3の実施形態を図12〜図14について説明する。
この第3の実施形態では、ボールねじナットの循環方式としてエンドデフレクタ方式を採用したものである。
すなわち、第3の実施形態では、図12に示すように、ボールねじナット15の両端に組込まれルエンドデフレクタにボールを救い上げ及び戻し機能を設けたエンドデフレクタ方式の循環方式を採用している。
【0037】
このエンドデフレクタ方式では、図12(a)及び(b)に示すように、両端のストロークエンドで、ボールねじナット15のボール循環路32が上方に位置してエンドデフレクタでたとえばボール掬い取り戻し位置が例えば約135°でボール戻し位置が約90°となる場合には、下方から上方に向かうラジアル荷重Frがラック軸7に負荷されたときに、負荷作用位相位置φpは、図12(b)に示すように、上方の約90°の位置となり、この負荷作用位相位置φpにボール救い位置、ボール循環路32、ボール戻し位置が位置する場合には、このボール循環路に繋がれたボール掬い取り部及びボール戻し部のボールが負荷作用位相位置φpには存在しないことになり、ラジアル荷重Frを受けるボールは上方の方形枠で囲まれた2列のみとなり、負荷作用位相位置φpのボール数が少ない荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φpに存在することになる。
【0038】
同様に、図13(a)及び(b)に示すように、モーメント荷重F1及びF2を受ける場合には、前述した第2の実施形態と同様に、右端側では上方に負荷作用位相位置φpが形成され、左端側では下方に負荷作用位相位置φp′が形成される。このため、これら負荷作用位相位置φp及びφp′内に存在するボール14は、図13(a)に示すようにそれぞれ方形枠で囲まれた上方の一例及び下方の一例であり、負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′に存在することになる。
【0039】
これらに対して、本実施形態では、両端のストロークエンドで、図14(a)及び(b)に示すように、負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAを円周方向に例えば約90°ずらした位相位置としている。この場合には、負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′から外れることになり、ラジアル荷重Frに対しては、図14(a)に示すように、上側の3列のボールでラジアル荷重Frを受けることができ、ボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減させることができる。同様に、モーメント荷重F1,F2に対しては、図14(b)に示すように、右端側では上部の方形枠で囲まれた2列でモーメント荷重F2を受け、左端側では下方の2列でモーメント荷重F1を受けることができ、ボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減させることができる。
【0040】
したがって、第3の実施形態でも、エンドデフレクタ方式を採用した場合に、両ストロークエンドにおいて、負荷を支持するボール数が少なくなる荷重支持力減少領域LAを負荷作用位相位置φp及びφp′から外して、それ以外の領域を負荷作用位相位置φpとするようにボールねじ溝9の位相調整を行っているので、特殊な構造を採用することなく、ラジアル荷重及びモーメント荷重の双方に対して荷重を受けるボール数を増加させることができ、ボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減して、ボールねじ機構11の長寿命化を図ることができる。
【0041】
なお、上記第3の実施形態では、ボール循環路32を荷重作用位相位置φpから約90°ずらした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、各ボール循環路BR1〜BR4に相当する荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′から外れるように位相調整をすればよいものである。
【0042】
また、上記第1〜第3の実施形態においては、循環方式がコマ方式、チューブ方式及びエンドデフレクタ方式の何れかである場合について説明したが、ボールねじナット15の両端に設けたエンドキャップにボールを掬い上げ戻し機能を持たせたエンドキャップ方式についても負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAを負荷作用位相位置φp及びφp′から外して他の領域を負荷作用位相位置φp及びφp′に配置することにより、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0043】
また、上記第1〜第3の実施形態においては、ラック部側ストロークエンド及びボールねじ部側ストロークエンドの双方において、ボールねじナットの荷重支持力減少領域を負荷圏から外すようにした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、何れか一方のストロークエンドのみでボールねじナットの荷重支持力減少領域を負荷圏から外すようにしてもよい。この場合、図5に示すボールねじ部側ストロークエンドでボールねじナットの荷重支持力減少領域を負荷圏から外すようにすることが好ましい。
【0044】
また、上記第1〜第3の実施形態においては、ラック軸7にボールねじ部9を一体に形成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ラック軸7及びボールねじ部9を別部材として同軸に配置し、両者を連結部材で連結するようにした電動パワーステアリング装置にも適用することができる。
また、上記実施形態においては、減速機構13を小径プーリ19、大径プーリ20及びタイミングベルト21で構成した場合について説明したが、タイミングベルト21に代えて通常のベルトを適用することもでき、さらに減速ギヤを適用することもでき、任意の減速機構を採用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…操舵ギヤ機構、2…ピニオン機構、3…ラック機構、5…ピニオン軸、7…ラック軸、8…ラック部、9…ボールねじ溝、10…電動パワーステアリング装置、11…ボールねじ機構、12…操舵補助用電動モータ、13…減速機構、14…ボール、15…ボールねじナット、17…転がり軸受、19…小径プーリ、20…大径プーリ、21…タイミングベルト、30…タイロッド、31…チューブ、32…ボール循環路
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵ギヤ機構のラック軸に装着する電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のラックピニオン式ステアリング装置では、ステアリングホイールを操舵したときの操舵回転力がピニオン軸に伝達され、このピニオン軸に螺合するラック軸で直線運動に変換されて、ラック軸の両端に連結されたタイロッドを介して転舵輪に伝達され、この転舵輪が転舵される。
一般的に、タイロッドはラック軸に対して角度を持って取り付けられるため、操舵反力として、ラック軸にアキシアル荷重の他に、ラジアル荷重、モーメント荷重が負荷される。
【0003】
ラック軸にラック部と直列にボールねじ溝を形成して、このボールねじ溝にボールを介してボールねじナットを螺合させ、このボールねじナットを電動モータによって回転駆動するボールねじアシストタイプの電動パワーステアリング装置の場合、前述したラジアル荷重、モーメント荷重がボールねじに負荷されるため、効率や耐久性の低下が課題となる。
【0004】
この課題を解決するために、従来、操舵により回転するピニオンに噛み合うラックと一体のスクリューシャフトに、ラックハウジングにより支持される回転筒が転動体を介してねじ合わされ、回転筒はモータにより駆動され、ラックをピニオンとのかみ合い位置において支持するラック支持部材と、スクリューシャフトの移動範囲に配置されるとともにスクリューシャフトの外周を支持可能な支持体との間に、転動体の全体が配置され、前記スクリューシャフトの外周における螺旋状の軌道溝の開口縁との接触による支持体の磨耗を抑制し、スクリューシャフトのがたつきによる伝達効率低下を防止できるように、その軌道溝の開口縁は面取り部とされ、前記ラックに路面側から作用する負荷をその支持体と前記ラック支持部材とにより受けるようにした車両のステアリング機構が配置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、他の従来例として、スピンドルのボールねじ駆動装置において、スピンドルナットが、内周面上に、螺旋に沿って配置され、ボールのための耐荷重チャンネルを画定しているボール溝と前記スピンドルナットの外周面に配置された、前記ボールのためのリターンチャネルを備えた外部デフレクターとを備えており、前記外部デフレクターが2つのボール用開口部を備えており、これら2つのボール用開口部のそれぞれは、前記耐荷重チャネルの一端に接続され、前記ボールを前記耐荷重チャネルの一端から前記耐荷重チャネルの他端へと偏向しており、前記外部デフレクターを、前記2つのボール用開口部の一方から前記2つのボール用開口部の他方まで、少なくとも前記スピンドルナットの回転軸周りの略完全な一巻きに渡って伸ばしたボールねじ駆動装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第37827648号公報
【特許文献1】特開2005−326009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の従来例にあっては、ボールねじ外周と支持体との間の摩擦による損失が発生し、また、凹凸状のねじ外周との摺動によって、支持体の磨耗が発生し、ボールねじの機能損失につがるという未解決の課題がある。
また、上記特許文献2に記載された従来例にあっては、ボールねじの循環部による負荷容量変動を解消することができるが、ボールをナットの略一周循環させるため、外径が大きくなるという未解決の課題がある。
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、ボールねじの循環部の外径を大きくすることなく耐久性を確保することができる電動パワーステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を解決するために、本発明の一の形態に係る電動パワーステアリング装置は、操舵機構とタイロッドとの間に連結されたラック軸と、前記電動モータからの動力を前記ラック軸に伝達する動力伝達機構と、を有し、前記動力伝達機構は、前記ラック軸に対して連結又は一体化され且つ雄ねじ溝を備えたねじ軸と、該ねじ軸の周囲に配置され且つ雌ねじ溝を備えたナットと、前記雄ねじ溝と前記雌ねじ溝との間に形成された転動路内を転動可能な複数の転動体を有するボールねじ機構からなる電動パワーステアリング装置であって、前記ラック軸のストロークエンド内の少なくとも一方において、前記ナットの荷重支持力減少領域が前記ラック軸と当該ラック軸に接続されたタイロッドの成す平面で定義されるラック軸円周方向の位相以外の領域に位置するように設定したことを特徴としている。
【0009】
また、本発明の他の形態に係る電動パワーステアリング装置は、前記荷重支持力減少領域は、荷重を受ける負荷圏のボール数が最小となる領域であることを特徴としている。
さらに、本発明の他の形態に係る電動パワーステアリング装置は、前記荷重支持力減少領域は、前記ボールねじに入力されるラジアル荷重に対して、当該ラジアル荷重を受ける負荷圏のボール数が最小となる領域であることを特徴としている。
また、本発明の他の形態に係る電動パワーステアリング装置は、前記荷重支持力減少領域は、前記ボールねじに入力されるモーメント荷重に対して、当該モーメント荷重を受ける負荷圏のボール数が最小となる領域であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラック軸に対して連結又は一体化され且つ雄ねじ溝を備えたねじ軸と、このねじ軸に転動体を介して螺合するボールねじナットとを有する動力伝達機構を備え、ラック軸のストロークエンドの少なくとも一方において、前記ナットの荷重支持力減少領域が前記ラック軸と当該ラック軸に接続されたタイロッドの成す平面で定義されるラック軸円周方向の位相以外の領域に位置するように設定したので、ボールねじ内で発生する接触面圧を低減し、ボールねじの長寿命化を図ることができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置の第1の実施形態を示す正面図である。
【図2】ラック軸を示す正面図である。
【図3】電動パワーステアリング装置の要部を示す拡大断面図である。
【図4】ラック側ストロークエンドの操舵反力を示す説明図である。
【図5】ボールねじ側ストロークエンドの操舵反力を示す説明図である。
【図6】ボールねじナットの循環方式としてコマ方式を採用した場合におけるラジアル荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置にある状態の説明図である。
【図7】ボールねじナットの循環方式としてコマ方式を採用した場合におけるモーメント荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置にある状態の説明図である。
【図8】ボールねじナットの循環方式としてコマ方式を採用した場合におけるラジアル荷重入力時及びモーメント荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置外にある状態の説明図である。
【図9】ボールねじナットの循環方式としてチューブ方式を採用した場合におけるラジアル荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷圏にある状態の説明図である。
【図10】ボールねじナットの循環方式としてチューブ方式を採用した場合におけるモーメント荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置にある状態の説明図である。
【図11】ボールねじナットの循環方式としてチューブ方式を採用した場合におけるラジアル荷重入力時及びモーメント荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置外にある状態の説明図である。
【図12】ボールねじナットの循環方式としてエンドデフレクタ方式を採用した場合におけるラジアル荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置にある状態の説明図である。
【図13】ボールねじナットの循環方式としてエンドデフレクタ方式を採用した場合におけるモーメント荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置にある状態の説明図である。
【図14】ボールねじナットの循環方式としてエンドデフレクタ方式を採用した場合におけるラジアル荷重入力時及びモーメント荷重入力時の荷重支持力減少領域が負荷作用位相位置外にある状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る電動パワーステアリング装置の主要部を示す正面図であり、図2は、ラック軸を示す正面図である。
図中、1は操舵ギヤ機構であって、この操舵ギヤ機構1は、ピニオン機構2とラック機構3とを備えている。
【0013】
ピニオン機構2はピニオンハウジング4に回転自在に支持されたピニオン軸5を備えており、ラック機構3はラックハウジング6に摺動可能に支持されたラック軸7を備えている。ピニオン軸5とラック軸7は噛合しており、ピニオン軸5に伝達される回転力が、ピニオン機構2によって、ラック軸7の直動運動に変換される。
ラック軸7は、図2に示すように、ピニオン軸5が噛合するラック部8と、このラック部8の右方に一体に形成されたボールねじ溝9aを形成したボールねじ部9とを備えている。
【0014】
そして、ラック軸7の右端側に電動パワーステアリング装置10が配置されている。この電動パワーステアリング装置10は、ボールねじ機構11と、操舵補助用電動モータ12と、ボールねじ機構11と電動モータ12との間を連結する減速機構13とで構成されている。
ボールねじ機構11は、図3に示すように、ラック軸7のボールねじ溝9aに転動体としてのボール14を介して螺合するボールねじナット15を備えている。このボールねじナット15は、ラックハウジング6の右端部に形成された軸受収容部16に収容された転がり軸受17によって回転自在に支持されている。この転がり軸受17は、ボールねじナット15と一体に形成された内輪17aと、この内輪17aにボール17bを介して連結され軸受収容部16に固定支持された外輪17cとで構成されている。
【0015】
また、操舵補助用電動モータ12は、ラックハウジング6の軸受収容部16の半径方向外方に一体に形成されたモータ支持部18のピニオン機構2側に固定支持され、その回転軸12aがモータ支持部18に形成された貫通孔18aを通じて反対側に突出されている。
さらに、減速機構13は、操舵補助用電動モータ12の回転軸12aの先端に取付けられた小径プーリ19と、前述したボールねじナット15の半径方向外方に、ボールねじナット15と一体回転可能に支持された大径プーリ20と、小径プーリ19及び大径プーリ20との間に巻装されたタイミングベルト21とで構成されている。
【0016】
そして、小径プーリ19と、大径プーリ20、及びボールねじ部9を覆うようにカバー22が軸受収容部16及びモータ支持部18に例えばボルト締めされている。
この電動パワーステアリング装置10では、操舵補助用電動モータ12の回転軸12aを図3の左方から見て時計方向に回転駆動することにより、小径プーリ19及び大径プーリ20がタイミングベルト21によってそれぞれ時計方向に回転駆動され、これに応じてボールねじナット15が時計方向に回転駆動されるので、ボールねじ部9すなわちラック軸7が左方に移動され、逆に操舵補助用電動モータ12の回転軸12aを左方から見て反時計方向に回転駆動することによりラック軸7が右方に移動される。
【0017】
そして、ラック軸7のラック部8の左端部及びボールねじ部9の右端部が図1で鎖線図示のようにそれぞれタイロッド30を介して転舵輪に連結され、これら転舵輪が必要以上の転舵角となることを防止するためにエンドストッパ(図示せず)が設けられている。
このため、前述したように操舵補助用電動モータ12の回転軸12aを左方から見て時計方向に回転駆動することにより、図4に示すように、ラック軸7を左方にラック側ストロークエンドまで移動させる場合を考える。このときには、転舵輪(図示せず)から入力される操舵反力は、タイロッド30及びラック軸7の成す平面上に発生する。ここで、ラック部8の左端側では転舵輪を押しながら転舵するため圧縮反力F1が発生し、ボールねじ溝9の右端側では転舵輪を引張りながら転舵するための引張反力F2となる。
【0018】
この図4に示すラック側ストロークエンドでは、ボールねじ部9と引張反力F2の荷重点との長さは最短になる。圧縮反力F1の分力として入力される、モーメント荷重及びラジアル荷重については、ピニオン機構2とラック機構3との噛み合いにより支持されるため、ボールねじ部9に入力されるモーメント荷重及びラジアル荷重については引張反力F2によるものが支配的となる。
【0019】
逆に、操舵補助用電動モータ12の回転軸12aを左方から見て反時計方向に回転駆動することにより、図5に示すように、ラック軸7を右方にボールねじ側ストロークエンドまで移動させる場合を考える。このときにも、転舵輪(図示せず)から入力される操舵反力は、タイロッド30及びラック軸7の成す平面上に発生する。ここで、ラック部8の左端側では転舵輪を引張りながら転舵するための引張反力F1が発生し、ボールねじ部9の右端側では転舵輪を押しながら転舵するため圧縮反力F2となる。
したがって、左転舵及び右転舵で発生する操舵反力の向きが逆方向となる。そして、ラック部側ストロークエンド及びボールねじ部側ストロークエンドでは操舵反力が大きくなり、タイロッド角が大きくなる。そのため、その分力としてのボールねじ部9に入力されるラジアル荷重は両ストロークエンドで最大となる。
【0020】
一方、モーメント荷重については、図5に示すボールねじ部側ストロークエンドで、ボールねじ部9と操舵反力F2の荷重点との長さが最大となることにより、ボールねじ部9に入力されるモーメント荷重が最大となる。
一方、ボールねじ機構11のボール循環路が形成されている領域では、荷重を支持するボール数が少なくなる荷重支持力減少領域LAとなる。このため、荷重支持力減少領域LAが、ラック軸側ストロークエンド及びボールねじ側ストロークエンドにおいて、図8(a)〜(d)に示す、路面反力F1及びF2が作用するラック軸3とタイロッド30との成す平面で定義されるラック軸円周方向の負荷作用位相位置φpに位置しないように、荷重支持力減少領域LA以外の領域が負荷作用位相位置Ppに存在するようにボールねじナット15の円周方向の位相位置を調整する。
【0021】
すなわち、前述したボールねじ機構11を、ボールねじナット15の循環方式として、ボール循環部が1巻きに1箇所存在するコマ方式(デフレクタ方式)を採用したボールねじナット15では、配列するボール数が4列である場合に、図6(a)に示すように、ボール循環路を左側から順次BR1、BR2、BR3及びBR4としたとき、ボール循環路BR1が図6(b)で見て約135°〜約225°の範囲内に存在し、ボール循環路BR2が約225°〜約315°の範囲内に存在し、ボール循環路BR3が約315〜約45°の範囲内に存在し、ボール循環路BR4が約45°〜約135°の範囲内に存在するものとする。この場合には、ボールねじ部9に下方から上方にラジアル荷重Frが作用したしたときに、ラジアル荷重Frが作用する負荷作用位相位置φpは、図6(b)に示すように、ボールねじ溝9の中心を通る約90°の位置となる。このため、この負荷作用位相位置φpに存在するボール数は、図6(a)に示す上方の方形枠で囲んだ3列であり、全体の4.5列に比較して負荷を支持するボール数が最小となる。
【0022】
同様に、ボールねじ側ストロークエンドに達してボールねじ部9に図7(a)に示すように前述した図5の操舵反力F1及びF2が作用する場合には、その負荷位相位置は、図7(b)に示すように、右端側では上述したラジアル荷重Frの場合と同様の負荷位相位置φpとなるが、左端側では、180°異なる負荷位相位置φp′となる。このため、この負荷位相位置φpの荷重を受けるボール数は、図7(a)に示すように上方の方形枠で囲んだ2列となり、負荷位相位置φp′の荷重を受けるボール数は下方の方形枠で囲んだ1列のみとなる。
【0023】
しかしながら、図8(a)〜(d)に示すように、荷重支持力減少領域LAを円周方向に例えば図6(b)で見て時計方向に例えば約135°移動させて、負荷作用位相位置φp及びφp′から外し、荷重支持力減少領域LA以外の領域を負荷作用位相位置φp及びφp′に存在させると、ラジアル荷重Frに対しては図8(e)に示すように、上方側の4列のボールがラジアル荷重Frを受けることになり、ボールねじ機構11内で発生する接触面圧が減少する。同様に、モーメント荷重F1,F2に対しては図8(f)に示すように、左端側では下方側における左側の方形枠で囲んだ2列がモーメント荷重F1の負荷作用位相位置φp′に存在して負荷を受け、右端側では上方側における右側の方形枠で囲んだ2列がモーメント荷重F2の負荷作用位相位置φpに存在して負荷を受けることになり、同様にボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減することができる。
【0024】
したがって、ストロークエンドで荷重支持力減少領域LAがラジアル荷重Fr及びモーメント荷重F1,F2の負荷作用位相位置φp及びφp′から外れるようにボールねじ溝9の円周方向の位相管理を行う。
このためには、基準面を基準に加工する場合、ねじ溝を基準に加工する場合、ラック部を基準に加工する場合の3つの加工方法を適用することができる。
【0025】
(基準面を基準に加工する場合)
ラック部8及びボールねじ溝9を形成していないブランクに基準面(例えば軸端に切欠、突起、穴など)を設け、この基準面を基準にねじ溝の加工を実施する。ねじ溝加工工程の後に、同じく前記基準面に位相出しをした上で、ラック部8の加工を行う、このとき、加工の順番はどちらが先でも構わない。ここで、ねじ溝の形成は転造、切削、研削などの加工方法を適用することができ、ラック部8の形成は、鍛造、切削、研削などの加工方向を適用することができる。
【0026】
(ねじ溝を基準に加工する場合)
前記ブランクに先にねじ溝を加工し、ねじ溝を基準にラック部8の加工を行う、例えば、非接触測定機でねじ溝の形状を測定し、管理する方法や、ねじ溝に嵌合する突起を有したクランプ治具で、ねじ部8をクランプする方法などが考えられる。なお、ねじ溝の加工方法及びラック部8の加工方法は基準面を基準に加工する場合と同様である。
【0027】
(ラック部を基準に加工する場合)
前記ブランクに先にラック部8を加工し、ラック部8(例えばラック歯先面など)を基準にねじ溝の加工を行う。
なお、ラック部8を先に加工した場合、ラック部8の加工に伴うひずみが、ボールねじ溝9の精度に影響を与える場合があり、ねじ溝を先に加工した場合と比べねじ軸部の精度が劣る。そのため、精度を要する場合には、ねじ溝の加工を先に行う方が好ましい。
【0028】
このように、上記第1の実施形態においては、ボールねじナット15の循環方式としてコマ方式を採用し、1巻きに1箇所のボール循環路を有する場合に、ボール循環路が存在する負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAを両端のストロークエンドで、ラジアル荷重及びモーメント荷重の負荷作用位相位置φp,φp′から外れるように設定したので、特殊な構造を採用することなく、荷重が最大となるストロークエンドでのボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減し、ボールねじ機構11の長寿命化を図ることができる。
【0029】
なお、上記第1の実施形態では、ボール循環路BR4を荷重作用位相位置φaから約135°ずらした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、各ボール循環路BR1〜BR4に相当する荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′から外れるように位相調整をすればよいものである。また、配列するボールの巻き数も任意に設定することができる。
【0030】
次に、本発明の第2の実施形態を図9〜図11について説明する。
この第2の実施形態では、ボールねじナットの循環方式としてチューブ方式を採用したものである。
すなわち、第2の実施形態では、図9に示すように、ボールねじナット15の循環方式として、U字状に曲げられたチューブで最前列から最後列までボールを戻るチューブ方式を採用している。
【0031】
このチューブ方式では、図9(a)及び(b)に示すように、両端のストロークエンドで、チューブ31が上方に位置する場合には、下方から上方に向かうラジアル荷重Frがラック軸7に負荷されたときに、負荷作用位相位置φpは図9(b)に示すように、上方の約90°の位置となり、この負荷作用位相位置φpにチューブ31が位置することにより、このチューブ31に繋がれたボール掬い取り戻し部のボールが負荷作用位相位置φpには存在しないことになり、ラジアル荷重Frを受けるボールは上方の方形枠で囲んだ2列のみとなり、負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φpに存在することになる。
【0032】
同様に、図10(a)及び(b)に示すように、モーメント荷重F1及びF2を受ける場合には、前述した第1の実施形態と同様に、左端側では下方に負荷作用位相位置φp′が形成され、右端側では上方に負荷作用位相位置φpが形成される。このため、これら負荷作用位相位置φp及びφp′内に存在するボールは、図10(a)に示すようにそれぞれ方形枠で囲んだ上方の一列及び下方の一列であり、負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′に存在することになる。
【0033】
これらに対して、本実施形態では、両端のストロークエンドで、図11(a)及び(b)に示すように、負荷圏のボール数が少ない荷重支持力減少領域を円周方向に例えば約90°ずらした位相位置としている。この場合には、負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′から外れることになり、ラジアル荷重Frに対しては、図11(a)に示すように、上側の方形枠で囲んだ3列のボールでラジアル荷重を受けることができ、ボールねじ機構11内の接触面圧を減少させることができる。同様に、モーメント荷重F1及びF2に対しては、図11(b)に示すように、左端側では下部の方形枠で囲んだ2列でモーメント荷重F1を受け、右端側では上部の方形枠で囲んだ2列でモーメント荷重F2を受けることができ、ボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減することができる。
【0034】
したがって、第2の実施形態でも、チューブ方式を採用した場合に、両ストロークエンドにおいて、負荷を支持するボール数が少なくなる荷重支持力減少領域LAを負荷作用位相位置φp,φp′から外して、それ以外の領域を負荷作用位相位置φp及びφp′とするようにボールねじ溝9の位相調整を行っているので、特殊な構造を採用することなく、ラジアル荷重及びモーメント荷重の双方に対して荷重を受けるボール数を増加させることができ、ボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減して、ボールねじ機構11の長寿命化を図ることができる。
【0035】
なお、上記第2の実施形態では、ボール循環路BR4を荷重作用位相位置φaから約90°ずらした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ボール循環路31に相当する荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′から外れるように位相調整をすればよいものである。
【0036】
次に、本発明の第3の実施形態を図12〜図14について説明する。
この第3の実施形態では、ボールねじナットの循環方式としてエンドデフレクタ方式を採用したものである。
すなわち、第3の実施形態では、図12に示すように、ボールねじナット15の両端に組込まれルエンドデフレクタにボールを救い上げ及び戻し機能を設けたエンドデフレクタ方式の循環方式を採用している。
【0037】
このエンドデフレクタ方式では、図12(a)及び(b)に示すように、両端のストロークエンドで、ボールねじナット15のボール循環路32が上方に位置してエンドデフレクタでたとえばボール掬い取り戻し位置が例えば約135°でボール戻し位置が約90°となる場合には、下方から上方に向かうラジアル荷重Frがラック軸7に負荷されたときに、負荷作用位相位置φpは、図12(b)に示すように、上方の約90°の位置となり、この負荷作用位相位置φpにボール救い位置、ボール循環路32、ボール戻し位置が位置する場合には、このボール循環路に繋がれたボール掬い取り部及びボール戻し部のボールが負荷作用位相位置φpには存在しないことになり、ラジアル荷重Frを受けるボールは上方の方形枠で囲まれた2列のみとなり、負荷作用位相位置φpのボール数が少ない荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φpに存在することになる。
【0038】
同様に、図13(a)及び(b)に示すように、モーメント荷重F1及びF2を受ける場合には、前述した第2の実施形態と同様に、右端側では上方に負荷作用位相位置φpが形成され、左端側では下方に負荷作用位相位置φp′が形成される。このため、これら負荷作用位相位置φp及びφp′内に存在するボール14は、図13(a)に示すようにそれぞれ方形枠で囲まれた上方の一例及び下方の一例であり、負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′に存在することになる。
【0039】
これらに対して、本実施形態では、両端のストロークエンドで、図14(a)及び(b)に示すように、負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAを円周方向に例えば約90°ずらした位相位置としている。この場合には、負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′から外れることになり、ラジアル荷重Frに対しては、図14(a)に示すように、上側の3列のボールでラジアル荷重Frを受けることができ、ボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減させることができる。同様に、モーメント荷重F1,F2に対しては、図14(b)に示すように、右端側では上部の方形枠で囲まれた2列でモーメント荷重F2を受け、左端側では下方の2列でモーメント荷重F1を受けることができ、ボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減させることができる。
【0040】
したがって、第3の実施形態でも、エンドデフレクタ方式を採用した場合に、両ストロークエンドにおいて、負荷を支持するボール数が少なくなる荷重支持力減少領域LAを負荷作用位相位置φp及びφp′から外して、それ以外の領域を負荷作用位相位置φpとするようにボールねじ溝9の位相調整を行っているので、特殊な構造を採用することなく、ラジアル荷重及びモーメント荷重の双方に対して荷重を受けるボール数を増加させることができ、ボールねじ機構11内で発生する接触面圧を低減して、ボールねじ機構11の長寿命化を図ることができる。
【0041】
なお、上記第3の実施形態では、ボール循環路32を荷重作用位相位置φpから約90°ずらした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、各ボール循環路BR1〜BR4に相当する荷重支持力減少領域LAが負荷作用位相位置φp及びφp′から外れるように位相調整をすればよいものである。
【0042】
また、上記第1〜第3の実施形態においては、循環方式がコマ方式、チューブ方式及びエンドデフレクタ方式の何れかである場合について説明したが、ボールねじナット15の両端に設けたエンドキャップにボールを掬い上げ戻し機能を持たせたエンドキャップ方式についても負荷を支持するボール数が少ない荷重支持力減少領域LAを負荷作用位相位置φp及びφp′から外して他の領域を負荷作用位相位置φp及びφp′に配置することにより、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0043】
また、上記第1〜第3の実施形態においては、ラック部側ストロークエンド及びボールねじ部側ストロークエンドの双方において、ボールねじナットの荷重支持力減少領域を負荷圏から外すようにした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、何れか一方のストロークエンドのみでボールねじナットの荷重支持力減少領域を負荷圏から外すようにしてもよい。この場合、図5に示すボールねじ部側ストロークエンドでボールねじナットの荷重支持力減少領域を負荷圏から外すようにすることが好ましい。
【0044】
また、上記第1〜第3の実施形態においては、ラック軸7にボールねじ部9を一体に形成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ラック軸7及びボールねじ部9を別部材として同軸に配置し、両者を連結部材で連結するようにした電動パワーステアリング装置にも適用することができる。
また、上記実施形態においては、減速機構13を小径プーリ19、大径プーリ20及びタイミングベルト21で構成した場合について説明したが、タイミングベルト21に代えて通常のベルトを適用することもでき、さらに減速ギヤを適用することもでき、任意の減速機構を採用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…操舵ギヤ機構、2…ピニオン機構、3…ラック機構、5…ピニオン軸、7…ラック軸、8…ラック部、9…ボールねじ溝、10…電動パワーステアリング装置、11…ボールねじ機構、12…操舵補助用電動モータ、13…減速機構、14…ボール、15…ボールねじナット、17…転がり軸受、19…小径プーリ、20…大径プーリ、21…タイミングベルト、30…タイロッド、31…チューブ、32…ボール循環路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、
操舵機構とタイロッドとの間に連結されたラック軸と、
前記電動モータからの動力を前記ラック軸に伝達する動力伝達機構と、を有し、
前記動力伝達機構は、前記ラック軸に対して連結され又は一体化され且つ雄ねじ溝を備えたねじ軸と、
該ねじ軸の周囲に配置され且つ雌ねじ溝を備えたナットと、前記雄ねじ溝と前記雌ねじ溝との間に形成された転動路内を転動可能な複数の転動体を有するボールねじ機構からなる電動パワーステアリング装置であって、
前記ラック軸のストロークエンド内の少なくとも一方において、前記ナットの荷重支持力減少領域が前記ラック軸と当該ラック軸に接続されたタイロッドの成す平面で定義されるラック軸円周方向の位相以外の領域に位置するように設定した
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置
【請求項2】
前記荷重支持力減少領域は、荷重を受ける負荷圏のボール数が最小となる領域であることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記荷重支持力減少領域は、前記ボールねじに入力されるラジアル荷重に対して、当該ラジアル荷重を受ける負荷圏のボール数が最小となる領域であることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記荷重支持力減少領域は、前記ボールねじに入力されるモーメント荷重に対して、当該モーメント荷重を受ける負荷圏のボール数が最小となる領域であることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
電動モータと、
操舵機構とタイロッドとの間に連結されたラック軸と、
前記電動モータからの動力を前記ラック軸に伝達する動力伝達機構と、を有し、
前記動力伝達機構は、前記ラック軸に対して連結され又は一体化され且つ雄ねじ溝を備えたねじ軸と、
該ねじ軸の周囲に配置され且つ雌ねじ溝を備えたナットと、前記雄ねじ溝と前記雌ねじ溝との間に形成された転動路内を転動可能な複数の転動体を有するボールねじ機構からなる電動パワーステアリング装置であって、
前記ラック軸のストロークエンド内の少なくとも一方において、前記ナットの荷重支持力減少領域が前記ラック軸と当該ラック軸に接続されたタイロッドの成す平面で定義されるラック軸円周方向の位相以外の領域に位置するように設定した
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置
【請求項2】
前記荷重支持力減少領域は、荷重を受ける負荷圏のボール数が最小となる領域であることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記荷重支持力減少領域は、前記ボールねじに入力されるラジアル荷重に対して、当該ラジアル荷重を受ける負荷圏のボール数が最小となる領域であることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記荷重支持力減少領域は、前記ボールねじに入力されるモーメント荷重に対して、当該モーメント荷重を受ける負荷圏のボール数が最小となる領域であることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−228953(P2012−228953A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98332(P2011−98332)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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