説明

電動パワーステアリング装置

【課題】操舵感の低下を抑制することが可能な電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】アシスト機構20は、軸方向Xにおいて最も右方XA側に配置されたボール73と外側スライド溝71の右端部71Aおよび内側スライド溝72の右端部72Aとの間に形成された隙間EAの範囲内、および軸方向Xにおいて最も左方XB側に配置されたボール73と外側スライド溝71の左端部71Bおよび内側スライド溝72の左端部72Bとの間に形成された隙間EBの範囲内における従動プーリー52およびボールねじ機構40の軸方向Xにおける相対移動を許容する第1すべり機構70を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力軸を有する電動モーターと、出力軸の回転により転舵シャフトを軸方向に並進させる駆動機構とを有し、駆動機構は、転舵シャフトのねじ部分に噛み合わされる出力回転部材と、出力軸の回転を出力回転部材に伝達する入力回転部材とを有する電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の電動パワーステアリング装置は、電動モーターの回転運動を直線運動に変換してラックシャフトに伝達するボールねじ機構と、電動モーターの出力軸と一体に回転する駆動プーリーと、ボールねじ機構と一体に回転する従動プーリーと、駆動プーリーの回転を従動プーリーに伝達するベルトとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−88463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記電動パワーステアリング装置のラックシャフトは、電動モーターの回転が停止している状態においてステアリングホイールが操舵されたとき、ステアリングホイールに入力された操舵トルクにより軸方向に並進する。ボールねじ機構は、ラックシャフトから伝達される力により回転する。従動プーリーは、ボールねじ機構とともに回転する。駆動プーリーは、ベルトを介して伝達される従動プーリーのトルクにより回転する。電動モーターの出力軸は、駆動プーリーとともに回転する。一方、電動モーターのローターおよびステーターは、これらの部品の間に作用する磁力により互いに引き合う状態にある。
【0005】
このため、出力軸は、ローターおよびステーターの間に作用する磁力に抗して回転する。このとき、出力軸に作用する抵抗は、従動プーリー等を介してステアリングホイールに作用する。このため、ステアリングホイールに入力されるトルクにより電動モーターが回転するとき、操舵感が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、操舵感の低下を抑制することが可能な電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1の手段は、請求項1に記載の発明すなわち、出力軸を有する電動モーターと、前記出力軸の回転により転舵シャフトを軸方向に並進させる駆動機構とを有し、前記駆動機構は、前記転舵シャフトのねじ部分に噛み合わされる出力回転部材と、前記出力軸の回転を前記出力回転部材に伝達する入力回転部材とを有する電動パワーステアリング装置において、前記駆動機構は、前記軸方向の第1移動範囲における前記入力回転部材および前記出力回転部材の相対移動を許容する第1すべり構造を有することを要旨とする。
【0008】
転舵シャフトは、電動モーターの回転が停止している状態においてステアリングホイールが操舵されたとき、ステアリングホイールに入力された操舵トルクにより軸方向に並進する。転舵シャフトの並進力は、転舵シャフトのねじ部分を介して出力回転部材に伝達される。このため出力回転部材は、第1すべり構造の作用により入力回転部材に対して軸方向に移動する。そして、入力回転部材に対する出力回転部材の位置が第1移動範囲内の限界に達したとき、入力回転部材に対する出力回転部材の移動が規制される。そして、入力回転部材および出力回転部材の相対移動が規制されるとき、転舵シャフトからねじ部分を介して出力回転部材に伝達される力のうち、出力回転部材を回転させる力として作用する成分が大きくなる。
【0009】
すなわち、電動モーターの回転停止時においてステアリングホイールに同じ大きさの操舵トルクが入力されることを前提としたとき、出力回転部材および入力回転部材の相対移動が許容される状態において出力回転部材を回転させる力は、出力回転部材および入力回転部材の相対移動が規制される状態において出力回転部材を回転させる力よりも小さい。
【0010】
このため、電動モーターの回転停止時においてステアリングホイールが操舵されたとき、出力回転部材から電動モーターの出力軸に伝達される力が小さくなる。このため、出力回転部材に作用する抵抗が小さくなる。すなわち、操舵感の低下が抑制される。
【0011】
(2)第2の手段は、請求項2に記載の発明すなわち、請求項1において、前記第1すべり構造は、前記入力回転部材に形成される溝A1と、前記出力回転部材に形成される溝A2と、前記溝A1および前記溝A2にまたがり配置される第1低摩擦部材とを有し、前記第1低摩擦部材は、前記入力回転部材および前記出力回転部材に対して前記軸方向に相対移動することを要旨とする。
【0012】
入力回転部材および出力回転部材は、それぞれ第1低摩擦部材に接触した状態において第1低摩擦部材に対して軸方向に移動する。このため、入力回転部材および出力回転部材が直接的に接触した状態において相対移動する構成と比較して、入力回転部材および出力回転部材が相対移動するときの摩擦が小さくなる。
【0013】
(3)第3の手段は、請求項3に記載の発明すなわち、請求項1または2において、前記第1すべり構造は、前記出力回転部材の一方の端面と隙間A3を介して対向する第1弾性部材と、前記出力回転部材の他方の端面と隙間A4を介して対向する第2弾性部材とを有することを要旨とする。
【0014】
出力回転部材は、入力回転部材に対する軸方向の移動量が大きいとき、電動パワーステアリング装置を構成する他の部品(例えば、出力回転部材および入力回転部材を収容するハウジング)と接触するおそれがある。一方、第1すべり構造は、第1弾性部材および第2弾性部材を有する。このため、入力回転部材に対する出力回転部材の移動量が大きいとき、出力回転部材が第1弾性部材または第2弾性部材に接触する。このため、出力回転部材と上記他の部品とが互いに接触することが抑制される。
【0015】
また、第1すべり構造は隙間A3および隙間A4を有するため、出力回転部材が隙間A3または隙間A4の範囲において入力回転部材に対して軸方向に移動するとき、出力回転部材と第1弾性部材または第2弾性部材とが接触しない。このため、隙間A3および隙間A4が形成されていない構成と比較して、出力回転部材の軸方向の移動に対する抵抗が小さくなる。
【0016】
(4)第4の手段は、請求項4に記載の発明すなわち、出力軸を有する電動モーターと、前記出力軸の回転により転舵シャフトを軸方向に並進させる駆動機構とを有し、前記駆動機構は、前記転舵シャフトのねじ部分に噛み合わされる出力回転部材と、前記出力軸の回転を前記出力回転部材に伝達する入力回転部材とを有する電動パワーステアリング装置において、前記駆動機構は、前記軸方向の第2移動範囲における前記入力回転部材および前記出力軸の相対移動を許容する第2すべり構造を有することを要旨とする。
【0017】
転舵シャフトは、電動モーターの回転が停止している状態においてステアリングホイールが操舵されたとき、ステアリングホイールに入力された操舵トルクにより軸方向に並進する。転舵シャフトの並進力は、転舵シャフトのねじ部分を介して出力回転部材および入力回転部材に伝達される。このため入力回転部材は、第2すべり構造の作用により出力軸に対して軸方向に移動する。そして、出力軸に対する入力回転部材の位置が第2移動範囲内の限界に達したとき、出力軸に対する入力回転部材の移動が規制される。そして、入力回転部材および出力軸の相対移動が規制されるとき、転舵シャフトからねじ部分を介して出力回転部材に伝達される力のうち、出力回転部材を回転させる力として作用する成分が大きくなる。入力回転部材は、出力回転部材の回転にともない回転する。出力軸は、入力回転部材の回転にともない回転する。
【0018】
すなわち、電動モーターの回転停止時においてステアリングホイールに同じ大きさの操舵トルクが入力されることを前提としたとき、
入力回転部材および出力軸の相対移動が許容される状態において出力回転部材を回転させる力は、入力回転部材および出力軸の相対移動が規制される状態において出力回転部材を回転させる力よりも小さい。
【0019】
このため、電動モーターの回転停止時においてステアリングホイールが操舵されたとき、出力回転部材から電動モーターの出力軸に伝達される力が小さくなる。このため、出力回転部材に作用する抵抗が小さくなる。すなわち、操舵感の低下が抑制される。
【0020】
(5)第5の手段は、請求項5に記載の発明すなわち、請求項4において、前記第2すべり構造は、前記入力回転部材に形成される溝B1と、前記出力軸に形成される溝B2と、前記溝B1および前記溝B2にまたがり配置される第2低摩擦部材とを有し、前記第2低摩擦部材は、前記入力回転部材および前記出力軸に対して前記軸方向に相対移動することを要旨とする。
【0021】
入力回転部材および出力軸は、それぞれ第2低摩擦部材に接触した状態において第2低摩擦部材に対して軸方向に移動する。このため、入力回転部材および出力軸が直接的に接触した状態において相対移動する構成と比較して、入力回転部材および出力軸が相対移動するときの摩擦が小さくなる。
【0022】
(6)第6の手段は、請求項6に記載の発明すなわち、請求項4または5において、前記第2すべり構造は、前記入力回転部材の一方の端面と隙間B3を介して対向する第3弾性部材と、前記入力回転部材の他方の端面と隙間B4を介して対向する第4弾性部材とを有することを要旨とする。
【0023】
入力回転部材は、出力軸に対する軸方向の移動量が大きいとき、電動パワーステアリング装置を構成する他の部品(例えば、入力回転部材および出力軸を収容するハウジング)と接触するおそれがある。一方、第2すべり構造は、第3弾性部材および第4弾性部材を有する。このため、出力軸に対する入力回転部材の移動量が大きいとき、入力回転部材が第3弾性部材または第4弾性部材に接触する。このため、入力回転部材と上記他の部品とが互いに接触することが抑制される。
【0024】
また、第2すべり構造は隙間B3および隙間B4を有するため、入力回転部材が隙間B3または隙間B4の範囲において出力軸に対して軸方向に移動するとき、入力回転部材と第3弾性部材または第4弾性部材とが接触しない。このため、隙間B3および隙間B4が形成されていない構成と比較して、入力回転部材の軸方向の移動に対する抵抗が小さくなる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、操舵感の低下を抑制することが可能な電動パワーステアリング装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態の電動パワーステアリング装置について、その全体構成を示す構成図。
【図2】第1実施形態の電動パワーステアリング装置について、電動モーターの回転中心軸に沿う平面におけるアシスト機構およびその周囲の部品の断面構造を示す断面図。
【図3】第1実施形態の電動パワーステアリング装置について、図2のA−A平面における変換機構およびその周囲の部品の断面構造を示す断面図。
【図4】本発明の第2実施形態の電動パワーステアリング装置について、電動モーターの回転中心軸に沿う平面におけるアシスト機構およびその周囲の部品の断面構造を示す断面図。
【図5】第2実施形態の電動パワーステアリング装置について、図4のB−B平面における変換機構およびその周囲の部品の断面構造を示す断面図。
【図6】本発明のその他の実施形態としての電動パワーステアリング装置について、(a)は駆動プーリーの軸方向の断面構造を示す断面図、(b)は図6(a)のC−C平面における駆動プーリーの断面構造を示す断面図。
【図7】本発明のその他の実施形態としての電動パワーステアリング装置について、(a)は駆動プーリーの軸方向の断面構造を示す断面図、(b)は図7(a)のD−D平面における駆動プーリーの断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施形態)
図1を参照して、電動パワーステアリング装置1の全体の構成について説明する。
電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール2の回転を車輪3に伝達する操舵角伝達機構10と、ステアリングホイール2の操舵を補助するアシスト機構20と、電動パワーステアリング装置1の各部品を収容するハウジング90とを有する。
【0028】
操舵角伝達機構10は、ステアリングホイール2に連結されたステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11に連結されたラックアンドピニオン機構12と、車輪3の転舵角を変化させる転舵シャフト13とを有する。
【0029】
アシスト機構20は、電動モーター30と、電動モーター30の駆動力を転舵シャフト13に伝達するボールねじ機構40と、出力軸31の回転をボールねじ機構40に伝達する減速機構50と、従動プーリー52およびボールねじ機構40の軸方向Xにおける相対移動を許容する第1すべり機構70(図2参照)とを有する。
【0030】
ハウジング90は、操舵角伝達機構10の一部およびアシスト機構20の一部を収容する。転舵シャフト13の右端部13Aおよび左端部13Bは、ハウジング90の外部に配置される。電動モーター30は、ハウジング90の外部に配置される。電動モーター30の出力軸31は、ハウジング90の内部に配置される。出力軸31は、転舵シャフト13に対して平行に配置される。
【0031】
減速機構50は、駆動プーリー51と、従動プーリー52と、ベルト53とを有する。駆動プーリー51は、外周面に斜歯56を有する。従動プーリー52は、外周面に斜歯57を有する。ベルト53は、内周面に斜歯58を有する。
【0032】
なお、ボールねじ機構40および減速機構50は「駆動機構」に相当する。また、ボールねじナット41は「出力回転部材」に相当する。また、駆動プーリー51および従動プーリー52ならびにベルト53は「入力回転部材」に相当する。
【0033】
ここで、電動パワーステアリング装置1についての各方向を以下のように定義する。
(A)転舵シャフト13の軸方向と平行な方向を「軸方向X」とする。
(B)軸方向Xにおいて転舵シャフト13の左端部13Bから右端部13Aに向かう方向と平行な方向を「右方XA」とし、右端部13Aから左端部13Bに向かう方向と平行な方向を「左方XB」とする。
【0034】
電動パワーステアリング装置1の動作について説明する。
運転者は、車輪3の転舵角を変更するとき、ステアリングホイール2に操舵トルクを入力する。ステアリングシャフト11は、ステアリングホイール2の回転にともない回転する。ラックアンドピニオン機構12は、ステアリングシャフト11の回転運動を軸方向Xの直線運動に変換して転舵シャフト13に伝達する。アシスト機構20は、ステアリングホイール2に入力された操舵トルクの大きさに応じた電流を電動モーター30に供給する。電動モーター30は、電流の供給を受けて出力軸31を回転させる。出力軸31の回転は、減速機構50を介してボールねじ機構40に伝達される。ボールねじ機構40は、出力軸31の回転運動を軸方向Xの直線運動に変換して転舵シャフト13に伝達する。転舵シャフト13は、ラックアンドピニオン機構12の動作およびボールねじ機構40の動作にともない軸方向Xに並進する。車輪3の転舵角は、軸方向Xにおける転舵シャフト13の並進に応じて変化する。
【0035】
図2を参照して、アシスト機構20の詳細な構成について説明する。
ハウジング90は、第1分割ハウジング91と、第2分割ハウジング92と、第3分割ハウジング93とを有する。
【0036】
ハウジング90は、第1分割ハウジング91と第2分割ハウジング92との結合により形成される第1収容部96と、第1分割ハウジング91と第2分割ハウジング92との結合、および第2分割ハウジング92と第3分割ハウジング93との結合により形成される第2収容部97とを有する。
【0037】
電動モーター30の一部は、第2収容部97に収容されている。ボールねじ機構40は、第1収容部96に収容されている。減速機構50は、第1収容部96および第2収容部97に収容されている。第1すべり機構70は、第1収容部96に収容されている。出力軸31の端部は、第2収容部97内に配置されている。駆動プーリー51は、第2収容部97内に配置されている。従動プーリー52は、第1収容部96内に配置されている。ベルト53は、第1収容部96および第2収容部97にまたがり配置されている。ベルト53は、第1収容部96と第2収容部97とを互いに連通する開口部(図示略)を通過している。
【0038】
ボールねじ機構40は、転舵シャフト13と同軸を有するボールねじナット41と、複数のボール42とを有する。ボールねじナット41は、転舵シャフト13の外周面に形成されたねじ軸13Cの一部分を取り囲む。
【0039】
ボールねじナット41は、内周面に形成された螺旋溝41Cと、外周面に形成された従動プーリー52と、螺旋溝41Cと転舵シャフト13のねじ軸13Cとの間に位置するボール42とを有する。
【0040】
従動プーリー52は、第1軸受61により回転可能に支持されている。第1軸受61の内輪61Aは、第1保持部材62により保持されている。第1保持部材62は、従動プーリー52に対する第1軸受61の右方XAへの移動を規制する。
【0041】
第1軸受61の外輪61Bは、支持部材63により支持されている。支持部材63は、ゴム材料により形成されている。第1軸受61および支持部材63は、第2保持部材64により第2分割ハウジング92部分の第1収容部96内に保持されている。
【0042】
第1すべり機構70は、外側スライド溝71と、内側スライド溝72と、複数のボール73と、左方緩衝部材74と、右方緩衝部材75とを有する。第1すべり機構70は、従動プーリー52およびボールねじナット41の径方向R1に形成され、かつ従動プーリー52およびボールねじナット41の周方向T1の4箇所に配置されている(図3参照)。
【0043】
外側スライド溝71は、従動プーリー52の内周面に形成されている。内側スライド溝72は、ボールねじナット41の外周面に形成されている。外側スライド溝71および内側スライド溝72は、同じ形状を有する。外側スライド溝71の軸方向Xの寸法および内側スライド溝72の軸方向Xの寸法は、同じ大きさを有する。
【0044】
複数のボール73は、外側スライド溝71および内側スライド溝72にまたがり配置されている。各ボール73は、軸方向Xにおいて等間隔で配置されている。また、外側スライド溝71の底面および内側スライド溝72の底面のそれぞれに接触している。また、ボールねじナット41および従動プーリー52に対して軸方向Xに相対移動することが許容されている。また、従動プーリー52およびボールねじナット41の径方向R1への相対移動を規制し、かつ従動プーリー52およびボールねじナット41の周方向T1への相対回転を規制する(図3参照)。
【0045】
第1すべり機構70は、最も右方XA側のボール73と外側スライド溝71の右端部71Aとの間に隙間EAを有する。また、最も右方XA側のボール73と内側スライド溝72の右端部72Aとの間に隙間EAを有する。また、最も左方XB側のボール73と外側スライド溝71の左端部71Bとの間に隙間EBを有する。また、最も左方XB側のボール73と内側スライド溝72の左端部72Bとの間に隙間EBを有する。
【0046】
各ボール73は、隙間EAの大きさに応じた範囲において、従動プーリー52およびボールねじナット41に対して右方XAに移動することが許容される。また、隙間EBの大きさに応じた範囲において、従動プーリー52およびボールねじナット41に対して左方XBに移動することが許容される。
【0047】
このため、ボールねじナット41は隙間EAの大きさに応じた範囲において、従動プーリー52に対して右方XAに移動することが許容される。また、隙間EBの大きさに応じた範囲おいて、従動プーリー52に対して左方XBに移動することが許容される。
【0048】
左方緩衝部材74は、ボールねじナット41の左端面41Bと対向する第1分割ハウジング91の内壁部分に固定されている。右方緩衝部材75は、ボールねじナット41の右端面41Aと対向する第2分割ハウジング92の内壁部分に固定されている。左方緩衝部材74は、左端面41Bと隙間FBを介して対向する。右方緩衝部材75は、右端面41Aと隙間FAを介して対向する。左方緩衝部材74と右方緩衝部材75との間の軸方向Xの距離の寸法は、ボールねじナット41の軸方向Xの寸法よりも大きい寸法を有する。
【0049】
ここで、外側スライド溝71の右端部71Aおよび内側スライド溝72の右端部72Aが軸方向Xにおいて同じ位置にあり、かつ、外側スライド溝71の左端部71Bおよび内側スライド溝72の左端部72Bが軸方向Xにおいて同じ位置にあるとき、ボールねじナット41および従動プーリー52の相対位置を第1基準位置と定義する。
【0050】
ボールねじナット41および従動プーリー52の相対位置が第1基準位置のとき、隙間EAの軸方向Xの寸法および隙間FAの軸方向Xの寸法は、同じ大きさを有する。隙間EBの軸方向Xの寸法および隙間FBの軸方向Xの寸法は、同じ大きさを有する。
【0051】
駆動プーリー51は、出力軸31の端部に形成されている。出力軸31は、第2軸受65により回転可能に支持されている。第2軸受65は、第2収容部97に隣接する第3分割ハウジング93の内部に形成されている。
【0052】
なお、第1すべり機構70は「第1すべり構造」に相当する。また、外側スライド溝71は「溝A1」に相当する。また、内側スライド溝72は「溝A2」に相当する。また、ボール73は「第1低摩擦部材」に相当する。また、左方緩衝部材74および右方緩衝部材75の一方は「第1弾性部材」に相当する。また、左方緩衝部材74および右方緩衝部材75の他方は「第2弾性部材」に相当する。また、ボールねじナット41の右端面41Aおよび左端面41Bの一方は「出力回転部材の一方の端面」に相当する。また、ボールねじナット41の右端面41Aおよび左端面41Bの他方は「出力回転部材の他方の端面」に相当する。また、隙間EAの軸方向Xの寸法および隙間EBの軸方向Xの寸法は「第1移動範囲」に相当する。また、隙間FAおよび隙間FBの一方は「隙間A3」に相当する。また、隙間FAおよび隙間FBの他方は「隙間A4」に相当する。また、転舵シャフト13のねじ軸13Cは「転舵シャフトのねじ部分」に相当する。
【0053】
図2を参照して、アシスト機構20の動作について説明する。
電動モーター30が駆動したとき、出力軸31とともに駆動プーリー51が回転する。駆動プーリー51の回転は、ベルト53を介して従動プーリー52、ボール73、ボールねじナット41の順に伝達される。ボールねじナット41は電動モーター30の駆動力により回転する。
【0054】
このとき、ボール42は螺旋溝41Cとねじ軸13Cとの間を螺旋運動するとともに無限循環運動する。このため、ボールねじ機構40では、従動プーリー52の回転力が転舵シャフト13を軸方向Xに移動させる力、すなわち、ステアリングホイール2の操作を補助する力(以下、「アシスト力」と記載)に変換される。ボールねじ機構40は、電動モーター30の回転力に基づくアシスト力を転舵シャフト13に付与する。その結果、運転者がステアリングホイール2を操舵したとき、転舵シャフト13の軸方向Xへの移動が、アシスト機構20によって補助される。
【0055】
図2を参照して、第1すべり機構70の動作について説明する。
電動モーター30の回転が停止している状態において転舵シャフト13が右方XAに並進したとき、転舵シャフト13の軸方向の並進力は、ボールねじナット41の螺旋溝41Cと転舵シャフト13のねじ軸13Cとの間に配置されている複数のボール42を介して、ボールねじナット41に伝達される。よって、ボールねじナット41は、従動プーリー52に対して右方XAに移動する。このとき、各ボール73は、右方XAに回転しながら従動プーリー52およびボールねじナット41に対して相対移動する。
【0056】
軸方向Xにおいて最も右方XA側に配置されたボール73が、外側スライド溝71の右端部71Aおよび内側スライド溝72の右端部72Aに接触したとき、従動プーリー52に対するボールねじナット41の位置が隙間EAの範囲内の右方XA側の限界に達する。このとき、従動プーリー52に対するボールねじナット41の右方XAへの移動が規制される。そして、従動プーリー52およびボールねじナット41の相対移動が規制されるとき、転舵シャフト13からボール42を介してボールねじナット41に伝達される力のうち、ボールねじナット41を回転させる力として作用する成分が大きくなる。ボールねじナット41に入力されたトルクは、ボール73を介して従動プーリー52に伝達される。その結果、従動プーリー52は、ボールねじ機構40とともに回転する。
【0057】
電動モーター30の回転が停止している状態において転舵シャフト13が左方XBに並進したとき、転舵シャフト13の軸方向の並進力は、複数のボール42を介して、ボールねじナット41に伝達される。ボールねじナット41は、従動プーリー52に対して左方XBに移動する。このとき、各ボール73は、左方XBに回転しながら従動プーリー52およびボールねじナット41に対して相対移動する。
【0058】
軸方向Xにおいて最も左方XB側に配置されたボール73が、外側スライド溝71の左端部71Bおよび内側スライド溝72の左端部72Bに接触したとき、従動プーリー52に対するボールねじナット41の位置が隙間EBの範囲内の左方XB側の限界に達する。このとき、従動プーリー52に対するボールねじナット41の左方XBへの移動が規制される。そして、従動プーリー52およびボールねじナット41の相対移動が規制されるとき、転舵シャフト13からボール42を介してボールねじナット41に伝達される力のうち、ボールねじナット41を回転させる力として作用する成分が大きくなる。ボールねじナット41に入力されたトルクは、ボール73を介して従動プーリー52に伝達される。その結果、従動プーリー52は、ボールねじ機構40とともに回転する。
【0059】
本実施形態の電動パワーステアリング装置1は以下の効果を奏する。
(1)アシスト機構20は、軸方向Xにおいて最も右方XA側に配置されたボール73と外側スライド溝71の右端部71Aおよび内側スライド溝72の右端部72Aとの間に形成された隙間EAの範囲内、および軸方向Xにおいて最も左方XB側に配置されたボール73と外側スライド溝71の左端部71Bおよび内側スライド溝72の左端部72Bとの間に形成された隙間EBの範囲内における従動プーリー52およびボールねじ機構40の軸方向Xにおける相対移動を許容する第1すべり機構70を有する。
【0060】
この構成によれば、電動モーター30の回転が停止している状態においてステアリングホイール2が操舵されたとき、ボールねじナット41から電動モーター30の出力軸31に伝達される力が小さくなる。このため、ボールねじナット41に作用する抵抗が小さくなる。したがって、操舵感の低下が抑制される。
【0061】
(2)第1すべり機構70は、従動プーリー52に形成された外側スライド溝71と、ボールねじナット41に形成された内側スライド溝72と、外側スライド溝71および内側スライド溝72にまたがり配置されるボール73とを有し、ボール73は、従動プーリー52およびボールねじナット41に対して軸方向Xに相対移動する。
【0062】
この構成によれば、ボール73は、従動プーリー52およびボールねじナット41が軸方向Xに相対移動するとき、従動プーリー52およびボールねじナット41のそれぞれに対して軸方向Xに相対移動する。このため、従動プーリー52およびボールねじナット41の軸方向Xの相対移動が滑らかになる。
【0063】
(3)第1すべり機構70は、ボールねじナット41の左端面41Bと隙間FBを介して対向する左方緩衝部材74と、ボールねじナット41の右端面41Aと隙間FAを介して対向する右方緩衝部材75とを有する。
【0064】
この構成によれば、第1分割ハウジング91の内壁面に対するボールねじナット41の移動量が隙間FBの隙間量以上となるとき、ボールねじナット41の左端面41Bが左方緩衝部材74に接触する。同様に、第2分割ハウジング92の内壁面に対するボールねじナット41の移動量が隙間FAの隙間量以上となるとき、ボールねじナット41の右端面41Aが右方緩衝部材75に接触する。このため、ボールねじナット41およびハウジング90の内部の接触に起因して異音が生じることが抑制される。
【0065】
(第2実施形態)
図4に示される本実施形態の電動パワーステアリング装置1は、図2に示される第1実施形態の電動パワーステアリング装置1との主要な相違点として、次の相違点を有する。すなわち、第1実施形態の電動パワーステアリング装置1は、第1収容部96に第1すべり機構70を有する。一方、本実施形態の第1実施形態の電動パワーステアリング装置1は、第1すべり機構70に代えて、駆動プーリー51および出力軸31の軸方向Xにおける相対移動を許容する第2すべり機構80を第2収容部97に有する。以下では、第1実施形態の電動パワーステアリング装置1と異なる点の詳細を説明し、第1実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその説明の一部または全部を省略する。
【0066】
図4に示されるように、第2すべり機構80は、外側スライド溝81と、内側スライド溝82と、複数のボール83と、左方緩衝部材84と、右方緩衝部材85とを有する。第1すべり機構70は、従動プーリー52およびボールねじナット41の径方向R1に形成され、かつ従動プーリー52およびボールねじナット41の周方向T1の4箇所に配置されている(図5参照)。
【0067】
外側スライド溝81は、駆動プーリー51の内周面に形成されている。内側スライド溝82は、出力軸31の外周面に形成されている。外側スライド溝81および内側スライド溝82は、同じ形状を有する。外側スライド溝81の軸方向Xの寸法および内側スライド溝82の軸方向Xの寸法は、同じ大きさを有する。
【0068】
複数のボール83は、外側スライド溝81および内側スライド溝82にまたがり配置されている。各ボール83は、軸方向Xにおいて等間隔で配置されている。また、外側スライド溝81の底面および内側スライド溝82の底面のそれぞれに接触している。また、駆動プーリー51および出力軸31に対して軸方向Xに相対移動することが許容されている。また、駆動プーリー51および出力軸31の径方向R2への相対移動を規制し、かつ駆動プーリー51および出力軸31の周方向T2への相対回転を規制する(図5参照)。
【0069】
第2すべり機構80は、最も右方XA側のボール83と外側スライド溝81の右端部81Aとの間に隙間GAを有する。また、最も右方XA側のボール83と内側スライド溝82の右端部82Aとの間に隙間GAを有する。また、最も左方XB側のボール83と外側スライド溝81の左端部81Bとの間に隙間GBを有する。また、最も左方XB側のボール83と内側スライド溝82の左端部82Bとの間に隙間GBを有する。
【0070】
各ボール83は、隙間GAの大きさに応じた範囲において、駆動プーリー51および出力軸31に対して右方XAに移動することが許容される。また、隙間GBの大きさに応じた範囲において、駆動プーリー51および出力軸31に対して左方XBに移動することが許容される。
【0071】
このため、駆動プーリー51は隙間GAの大きさに応じた範囲において、出力軸31に対して右方XAに移動することが許容される。また、隙間GBの大きさに応じた範囲おいて、出力軸31に対して左方XBに移動することが許容される。
【0072】
左方緩衝部材84は、駆動プーリー51の左端面51Bと対向する第1分割ハウジング91の内壁部分に固定されている。右方緩衝部材85は、駆動プーリー51の右端面51Aと対向する第3分割ハウジング93の外壁部分に固定されている。左方緩衝部材84は、左端面51Bと隙間HBを介して対向する。右方緩衝部材85は、右端面51Aと隙間HAを介して対向する。左方緩衝部材84と右方緩衝部材85との間の軸方向Xの距離の寸法は、出力軸31の軸方向Xの寸法よりも大きい寸法を有する。
【0073】
ここで、外側スライド溝81の右端部81Aおよび内側スライド溝82の右端部82Aが軸方向Xにおいて同じ位置にあり、かつ、外側スライド溝81の左端部81Bおよび内側スライド溝82の左端部82Bが軸方向Xにおいて同じ位置にあるとき、駆動プーリー51および出力軸31の相対位置を第2基準位置と定義する。
【0074】
駆動プーリー51および出力軸31の相対位置が第2基準位置のとき、隙間GAの軸方向Xの寸法および隙間GAの軸方向Xの寸法は、同じ大きさを有する。隙間GBの軸方向Xの寸法および隙間GBの軸方向Xの寸法は、同じ大きさを有する。
【0075】
なお、第2すべり機構80は「第2すべり構造」に相当する。また、外側スライド溝81は「溝B1」に相当する。また、内側スライド溝82は「溝B2」に相当する。また、ボール83は「第2低摩擦部材」に相当する。また、左方緩衝部材84および右方緩衝部材85の一方は「第3弾性部材」に相当する。また、左方緩衝部材84および右方緩衝部材85の他方は「第4弾性部材」に相当する。また、駆動プーリー51の右端面51Aおよび左端面51Bの一方は「入力回転部材の一方の端面」に相当する。また、駆動プーリー51の右端面51Aおよび左端面51Bの他方は「入力回転部材の他方の端面」に相当する。また、隙間GAの軸方向Xの寸法および隙間GBの軸方向Xの寸法は「第2移動範囲」に相当する。また、隙間HAおよび隙間HBの一方は「隙間B3」に相当する。また、隙間HAおよび隙間HBの他方は「隙間B4」に相当する。
【0076】
図4を参照して、第2すべり機構80の動作について説明する。
電動モーター30の回転が停止している状態において転舵シャフト13が右方XAに並進したとき、ボールねじナット41の螺旋溝41Cと転舵シャフト13のねじ軸13Cとの間に配置されている複数のボール42が螺旋運動する。ボール42の回転方向の力は、ボールねじナット41に伝達される。ボールねじナット41は、複数のボール42を介して転舵シャフト13を中心軸として回転する。従動プーリー52は、ボールねじナット41とともに回転する。従動プーリー52の回転は、ベルト53を介して駆動プーリー51に伝達される。このとき、駆動プーリー51の斜歯56とベルト53の斜歯58との噛合面には、右方XAに向かうスラスト力が作用する。このため、駆動プーリー51は、出力軸31に対して右方XAに移動する。このとき、各ボール83は、右方XAに回転しながら駆動プーリー51および出力軸31に対して相対移動する。
【0077】
軸方向Xにおいて最も右方XA側に配置されたボール83が、外側スライド溝81の右端部81Aおよび内側スライド溝82の右端部82Aに接触したとき、出力軸31に対する駆動プーリー51の位置が隙間GAの範囲内の右方XA側の限界に達する。このとき、出力軸31に対する駆動プーリー51の右方XAへの移動が規制される。そして、駆動プーリー51および出力軸31の相対移動が規制されるとき、転舵シャフト13からボール42を介してボールねじナット41に伝達される力のうち、ボールねじナット41を回転させる力として作用する成分が大きくなる。ボールねじナット41に入力されたトルクは、ボール73を介して従動プーリー52に伝達される。従動プーリー52に入力されたトルクは、ベルト53を介して駆動プーリー51に伝達される。従動プーリー52に入力されたトルクは、出力軸31に伝達される。その結果、出力軸31は、駆動プーリー51とともに回転する。
【0078】
電動モーター30の回転が停止している状態において転舵シャフト13が左方XBに並進したとき、複数のボール42が螺旋運動する。ボール42の回転方向の力は、ボールねじナット41に伝達される。ボールねじナット41は、複数のボール42を介して転舵シャフト13を中心軸として回転する。従動プーリー52は、ボールねじナット41とともに回転する。従動プーリー52の回転は、ベルト53を介して駆動プーリー51に伝達される。このとき、駆動プーリー51の斜歯56とベルト53の斜歯58との噛合面には、左方XBに向かうスラスト力が作用する。このため、駆動プーリー51は、出力軸31に対して左方XBに移動する。このとき、各ボール83は、左方XBに回転しながら駆動プーリー51および出力軸31に対して相対移動する。
【0079】
軸方向Xにおいて最も左方XB側に配置されたボール83が、外側スライド溝81の左端部81Bおよび内側スライド溝82の左端部82Bに接触したとき、出力軸31に対する駆動プーリー51の位置が隙間GBの範囲内の左方XB側の限界に達する。このとき、出力軸31に対する駆動プーリー51の左方XBへの移動が規制される。そして、駆動プーリー51および出力軸31の相対移動が規制されるとき、転舵シャフト13からボール42を介してボールねじナット41に伝達される力のうち、ボールねじナット41を回転させる力として作用する成分が大きくなる。ボールねじナット41に入力されたトルクは、ボール73を介して従動プーリー52に伝達される。従動プーリー52に入力されたトルクは、ベルト53を介して駆動プーリー51に伝達される。従動プーリー52に入力されたトルクは、出力軸31に伝達される。その結果、出力軸31は、駆動プーリー51とともに回転する。
【0080】
本実施形態の電動パワーステアリング装置1は以下の効果を奏する。
(1)アシスト機構20は、軸方向Xにおいて最も右方XA側に配置されたボール83と外側スライド溝81の右端部81Aおよび内側スライド溝82の右端部82Aとの間に形成された隙間GAの範囲内、および軸方向Xにおいて最も左方XB側に配置されたボール83と外側スライド溝81の左端部81Bおよび内側スライド溝72の左端部82Bとの間に形成された隙間GBの範囲内における駆動プーリー51および出力軸31の軸方向Xにおける相対移動を許容する第2すべり機構80を有する。
【0081】
この構成によれば、電動モーター30の回転が停止している状態においてステアリングホイール2が操舵されたとき、ボールねじナット41から電動モーター30の出力軸31に伝達される力が小さくなる。このため、ボールねじナット41に作用する抵抗が小さくなる。このため、操舵感の低下が抑制される。
【0082】
(2)第2すべり機構80は、駆動プーリー51に形成された外側スライド溝81と、出力軸31に形成された内側スライド溝82と、外側スライド溝81および内側スライド溝82にまたがり配置されるボール83とを有し、ボール83は、駆動プーリー51および出力軸31に対して軸方向Xに相対移動する。
【0083】
この構成によれば、ボール83は、駆動プーリー51および出力軸31が軸方向Xに相対移動するとき、駆動プーリー51および出力軸31のそれぞれに対して軸方向Xに相対移動する。このため、駆動プーリー51および出力軸31の軸方向Xの相対移動が滑らかになる。
【0084】
(3)第2すべり機構80は、駆動プーリー51の左端面51Bと隙間HBを介して対向する左方緩衝部材84と、駆動プーリー51の右端面51Aと隙間HAを介して対向する右方緩衝部材85とを有する。
【0085】
この構成によれば、第1分割ハウジング91の内壁面に対する駆動プーリー51の移動量が隙間HBの隙間量以上となるとき、駆動プーリー51の左端面51Bが左方緩衝部材84に接触する。同様に、第3分割ハウジング93の内壁面に対する駆動プーリー51の移動量が隙間HAの隙間量以上となるとき、駆動プーリー51の右端面51Aが左方緩衝部材84に接触する。このため、駆動プーリー51およびハウジング90の内部の接触に起因して異音が生じることが抑制される。
【0086】
(4)電動モーター30の出力軸31と駆動プーリー51とはボール83を介してトルク伝達可能に連結される。この構成によれば、電動モーターの出力軸と駆動プーリーとがセレーション嵌合によりトルク伝達可能に連結された電動パワーステアリング装置と比較して、出力軸31と駆動プーリー51との連結部分のクリアランスを小さく設計でき、ラトル音を抑制できる。
【0087】
(その他の実施形態)
本発明は、第1および第2実施形態以外の実施形態を含む。以下、本発明のその他の実施形態としての上記実施形態の変形例を示す。なお、以下の各変形例は、互いに組み合わせることもできる。
【0088】
・第1実施形態の電動パワーステアリング装置1(図2)は、第1すべり機構70を有する。第2実施形態の電動パワーステアリング装置1(図4)は、第2すべり80を有する。一方、変形例の電動パワーステアリング装置は、第1すべり機構70および第2すべり80を有する。
【0089】
・第2実施形態の第2すべり機構80(図4)は、駆動プーリー51の内周面に形成された外側スライド溝81と、出力軸31の外周面に形成された内側スライド溝82と、軸方向Xに回転移動可能な状態で外側スライド溝81内および内側スライド溝82内に接触する複数のボール83とを含む。一方、変形例の第2すべり機構(図6)は、駆動プーリー51の内周面に形成された嵌合部L1と、出力軸31の外周面に形成された嵌合部L2とを含む。嵌合部L1および嵌合部L2は、駆動プーリー51および出力軸31の軸方向Xにおける相対移動が可能な状態で互いに嵌め合わされる関係を有する。なお、この変形例を「変形例M1」とする。
【0090】
図6(b)に示すように、変形例M1の第2すべり機構は、駆動プーリー51および出力軸31の径方向R2に形成され、かつ周方向T2の4箇所に形成されている。嵌合部L1は、駆動プーリー51および出力軸31の径方向R2への相対移動を禁止した状態で、嵌合部L2と嵌合している。また、嵌合部L1は、駆動プーリー51および出力軸31の周方向T2への相対回転を禁止した状態で、嵌合部L2と嵌合している。
【0091】
・第1実施形態の第1すべり機構70(図2)は、従動プーリー52の内周面に形成された外側スライド溝71と、ボールねじナット41の外周面に形成された内側スライド溝72と、軸方向Xに回転移動可能な状態で外側スライド溝71内および内側スライド溝72内に接触する複数のボール73とを含む。一方、変形例の第1すべり機構は、変形例M1と同じ構造かつ同形状の2つの嵌合部を含む。2つの嵌合部は、従動プーリー52およびボールねじナット41の軸方向Xにおける相対移動が可能な状態で互いに嵌め合わされる関係を有する。
【0092】
・第2実施形態の変形例の第2すべり機構(図7)は、駆動プーリー51の内周面に形成された嵌合部L3と、出力軸31の外周面に形成された嵌合部L4と、ブッシュL5とを含む。ブッシュL5は、駆動プーリー51および出力軸31に対して軸方向Xに相対移動可能な状態で、嵌合部L3および嵌合部L4と嵌合している。なお、この変形例を「変形例M2」とする。
【0093】
図7(b)に示すように、変形例M2の第2すべり機構は、駆動プーリー51および出力軸31の径方向R2に形成され、かつ周方向T2の4箇所に形成されている。ブッシュL5は、駆動プーリー51および出力軸31の径方向R2への相対移動を規制した状態で嵌合部L3および嵌合部L4と嵌合している。ブッシュL5は、駆動プーリー51および出力軸31の周方向T2への相対回転を禁止した状態で、嵌合部L3および嵌合部L4と嵌合している。
【0094】
・第1実施形態の変形例の第1すべり機構は、変形例M2と同じ構造かつ同形状の2つの嵌合部および1つのブッシュを含む。ブッシュは、駆動プーリー51および出力軸31に対して軸方向Xに相対移動可能な状態で2つの嵌合部に嵌め合わされる関係を有する。
【0095】
・第1実施形態の変形例の第1すべり機構は、複数のボール73に代えて、複数のころを有する。同様に、第2実施形態の変形例の第2すべり機構は、複数のボール83に代えて、複数のころを有する。
【0096】
・第1実施形態の変形例の駆動プーリー51は、斜歯56に代えて平歯を有する。また、従動プーリー52は、斜歯57に代えて平歯を有する。また、ベルト53は、斜歯58に代えて平歯を有する。同様に、第2実施形態の変形例の駆動プーリー51は、斜歯56に代えて平歯を有する。また、従動プーリー52は、斜歯57に代えて平歯を有する。また、ベルト53は、斜歯58に代えて平歯を有する。
【0097】
(第1および第2実施形態の記載に基づく付記事項)
上記実施形態に記載の事項を上位概念化した事項を以下に記載する。
(付記事項1)請求項1において、前記第1すべり構造は、前記入力回転部材に形成された嵌合部分J1と、前記出力回転部材に形成された嵌合部分J2とを有し、前記嵌合部分J1および前記嵌合部分J2は、前記入力回転部材および前記出力回転部材の軸方向における相対移動が可能な状態で互いに嵌め合わされる関係を有する。
【0098】
(付記事項2)請求項4において、前記第2すべり構造は、前記入力回転部材に形成された嵌合部分K1と、前記出力軸に形成された嵌合部分K2とを有し、前記嵌合部分K1および前記嵌合部分K2は、前記入力回転部材および前記出力軸の軸方向における相対移動が可能な状態で互いに嵌め合わされる関係を有する。
【符号の説明】
【0099】
1…電動パワーステアリング装置、2…ステアリングホイール、3…車輪、10…操舵角伝達機構、11…ステアリングシャフト、12…ラックアンドピニオン機構、13…転舵シャフト、13A…右端部、13B…左端部、13C…ねじ軸、20…アシスト機構、30…電動モーター、31…出力軸、40…ボールねじ機構、41…ボールねじナット、41A…右端面、41B…左端面、41C…螺旋溝、42…ボール、50…減速機構、51…駆動プーリー、51A…右端面、51B…左端面、52…従動プーリー、53…ベルト、56…斜歯、57…斜歯、58…斜歯、61…第1軸受、61A…内輪、61B…外輪、62…第1保持部材、63…支持部材、64…第2保持部材、65…第2軸受、70…第1すべり機構、71…外側スライド溝、71A…右端部、71B…左端部、72…内側スライド溝、72A…右端部、72B…左端部、73…ボール、74…左方緩衝部材、75…右方緩衝部材、80…第2すべり機構、81…外側スライド溝、81A…右端部、81B…左端部、82…内側スライド溝、82A…右端部、82B…左端部、83…ボール、84…左方緩衝部材、85…右方緩衝部材、90…ハウジング、91…第1分割ハウジング、92…第2分割ハウジング、93…第3分割ハウジング、96…第1収容部、97…第2収容部、X…軸方向、XA…右方、XB…左方、EA…隙間、EB…隙間、FA…隙間、FB…隙間、GA…隙間、GB…隙間、HA…隙間、HB…隙間、L1…嵌合部、L2…嵌合部、L3…嵌合部、L4…嵌合部、L5…ブッシュ、R1…径方向、R2…径方向、T1…周方向、T2…周方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸を有する電動モーターと、前記出力軸の回転により転舵シャフトを軸方向に並進させる駆動機構とを有し、前記駆動機構は、前記転舵シャフトのねじ部分に噛み合わされる出力回転部材と、前記出力軸の回転を前記出力回転部材に伝達する入力回転部材とを有する電動パワーステアリング装置において、
前記駆動機構は、前記軸方向の第1移動範囲における前記入力回転部材および前記出力回転部材の相対移動を許容する第1すべり構造を有する。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1すべり構造は、前記入力回転部材に形成される溝A1と、前記出力回転部材に形成される溝A2と、前記溝A1および前記溝A2にまたがり配置される第1低摩擦部材とを有し、
前記第1低摩擦部材は、前記入力回転部材および前記出力回転部材に対して前記軸方向に相対移動する。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1すべり構造は、前記出力回転部材の一方の端面と隙間A3を介して対向する第1弾性部材と、前記出力回転部材の他方の端面と隙間A4を介して対向する第2弾性部材とを有する。
【請求項4】
出力軸を有する電動モーターと、前記出力軸の回転により転舵シャフトを軸方向に並進させる駆動機構とを有し、前記駆動機構は、前記転舵シャフトのねじ部分に噛み合わされる出力回転部材と、前記出力軸の回転を前記出力回転部材に伝達する入力回転部材とを有する電動パワーステアリング装置において、
前記駆動機構は、前記軸方向の第2移動範囲における前記入力回転部材および前記出力軸の相対移動を許容する第2すべり構造を有する。
【請求項5】
請求項4において、
前記第2すべり構造は、前記入力回転部材に形成される溝B1と、前記出力軸に形成される溝B2と、前記溝B1および前記溝B2にまたがり配置される第2低摩擦部材とを有し、
前記第2低摩擦部材は、前記入力回転部材および前記出力軸に対して前記軸方向に相対移動する。
【請求項6】
請求項4または5において、
前記第2すべり構造は、前記入力回転部材の一方の端面と隙間B3を介して対向する第3弾性部材と、前記入力回転部材の他方の端面と隙間B4を介して対向する第4弾性部材とを有する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−111986(P2013−111986A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256697(P2011−256697)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】