説明

電動パワーステアリング装置

【課題】 駆動歯車と従動歯車のバックラッシュを除去するための予圧手段を有してなる電動パワーステアリング装置において、駆動歯車の軸受を所定の予圧方向へ安定的に付勢すること。
【解決手段】 ウォームギヤ21の軸受23Aを所定の予圧方向へ付勢する予圧手段30を有してなる電動パワーステアリング装置10において、予圧手段30が、ウォームギヤ21の軸受23Aを保持する軸受ケース40の外周に被ガイド部101を設け、この軸受ケース40の被ガイド部101に接して該軸受ケース40の動きを該軸受23Aの所定の予圧方向へ案内するガイド面102をギヤハウジング11の側に設けてなり、相対して平行をなす2つの平面状ガイド面102をギヤハウジング11の側に備えるとともに、それらの各ガイド面102に接する軸受ケース40の各被ガイド部101が上記予圧方向に沿って相隣る2個の凸部101Aからなるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置では、ステアリング軸にトーションバーを介して連結されるピニオン軸をギヤハウジングに枢支し、ピニオン軸に噛合うラック軸をギヤハウジングに直線動可能に支持し、電動モータの駆動軸に連結されるウォームギヤをギヤハウジングに枢支し、ピニオン軸の中間部に固定されてウォームギヤに噛合うウォームホイールをギヤハウジングに枢支している。電動モータは、運転者がステアリング軸に加えた操舵トルクに応じた操舵アシストトルクを、ウォームギヤとウォームホイールの噛合い、ピニオン軸とラック軸の噛合いを介してラック軸に付与するものである。
【0003】
このような電動パワーステアリング装置では、組立時に、ウォームギヤ等の部品の寸法誤差に影響されることなくウォームギヤとウォームホイールの軸間距離を簡易に設定するととともに、組立後に、ウォームギヤとウォームホイールの噛合いが経時変化したときに、それらの軸間距離を簡易に調整し、それらのバックラッシュを除去することが必要とされる。
【0004】
特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置では、ウォームギヤとウォームホイールとの噛合い部に予圧を加えるように、ウォームギヤの先端軸部を支持する軸受を所定の予圧方向へ付勢する予圧手段を有している。予圧手段の付勢力により、ウォームギヤとウォームホイールの軸間距離を調整し、それらのバックラッシュを除去するものである。
【0005】
特許文献1に記載の予圧手段は、軸受を収容して該軸受が所定の予圧方向へ移動するように案内するガイド面を備えたガイドケースをギヤハウジングの嵌合孔に嵌合するものである。一方、ギヤハウジングに設けた保持孔に、調整ねじを螺着するとともに、調整ねじによりバックアップされるコイルばねを挿入する。そして、このコイルばねにより押圧される押付体がガイドケースに設けた孔に挿通され、ガイドケース内の軸受を所定の予圧方向へ付勢するようになっている。尚、調整ねじはゆるめ止めのためのロックナットが螺着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3646205
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置は、ガイドケースの軸受収容孔の内周に相対して平行をなす2つの平面状ガイド面を備え、軸受の外輪の外周円弧面をそれらの平面状ガイド面に直に当接させ、該軸受を所定の予圧方向へ案内させようとしている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置では、軸受の外輪の両側の各1個の各外周円弧面からなる1点だけがガイドケースの両側の各平面状ガイド面に接して案内される。従って、軸受の外輪がガイドケースに対して自軸まわりで回転でき、軸受の振れ回りや異音を生じ、軸受を所定の予圧方向へ安定的に付勢できない。
【0009】
また、軸受の外輪の外周円弧面とガイド面との隙間を小さくして異音の発生を抑えようとするとき、軸受の外輪の片側1個の外周円弧面とガイド面との面圧が過大になる。これにより、軸受の外輪の外周円弧面とガイド面との摩擦が過大になり、ばねのばね力により軸受をガイドケースに対して軽快に移動させて案内することができない。
【0010】
本発明の課題は、駆動歯車と従動歯車のバックラッシュを除去するための予圧手段を有してなる電動パワーステアリング装置において、駆動歯車の軸受を所定の予圧方向へ安定的に付勢することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、電動モータにより駆動される駆動歯車をギヤハウジングに枢支するとともに、駆動歯車に噛合う従動歯車を操舵軸に固定し、駆動歯車と従動歯車との噛合い部に予圧を加えるばねを備え、駆動歯車の軸受を所定の予圧方向へ付勢する予圧手段を有してなる電動パワーステアリング装置において、予圧手段が、駆動歯車の軸受を保持する軸受ケースの外周に被ガイド部を設け、この軸受ケースの被ガイド部に接して該軸受ケースの動きを該軸受の所定の予圧方向へ案内するガイド面をギヤハウジングの側に設けてなり、相対して平行をなす2つの平面状ガイド面をギヤハウジングの側に備えるとともに、それらの各ガイド面に接する軸受ケースの各被ガイド部が上記予圧方向に沿って相隣る2個の凸部からなるようにしたものである。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記予圧手段が、駆動歯車の軸受を収容する軸受収容孔を備え、外周に被ガイド部が設けられてなる軸受ケースを有するとともに、軸受ケースを収容するガイド孔を備え、軸受ケースの被ガイド部に接して該軸受ケースが該軸受の所定の予圧方向へ移動するように案内するガイド面をガイド孔の内周に備えてなるガイドケースを有し、軸受ケースを収容したガイドケースが、ギヤハウジングに設けた取付部に取付けられてなり、ガイドケースのガイド孔の内周に、相対して平行をなす2つの平面状ガイド面を備え、ガイドケースの各ガイド面に接する軸受ケースの各被ガイド部が、上記軸受の予圧方向に沿って相隣る2個の凸部からなるようにしたものである。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明において更に、前記軸受ケースがプラスチックからなり、ガイドケースが金属からなるようにしたものである。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに係る発明において更に、前記凸部が円柱面状をなすようにしたものである。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1〜3のいずれかに係る発明において更に、前記凸部が球面状をなすようにしたものである。
【発明の効果】
【0016】
(請求項1)
(a)予圧手段が、駆動歯車の軸受を保持する軸受ケースの外周に被ガイド部を設け、この軸受ケースの被ガイド部に接して該軸受ケースの動きを該軸受の所定の予圧方向へ案内するガイド面をギヤハウジングの側に設けてなり、相対して平行をなす2つの平面状ガイド面をギヤハウジングの側に備えるとともに、それらの各ガイド面に接する軸受ケースの各被ガイド部が上記予圧方向に沿って相隣る2個の凸部からなる。
【0017】
軸受ケースの両側の各2個の凸部(各被ガイド部)からなる2点がギヤハウジングの側に設けた両側の各平面状ガイド面に接して案内されるから、軸受ケースはギヤハウジングに対して自軸まわりで回り止めされ、駆動歯車の軸受を振れ回りや異音なく所定の予圧方向へ安定的に付勢されるものになる。
【0018】
また、ギヤハウジングの側に設けた平面状ガイド面に軸受ケースの凸部(被ガイド部)を接しさせて案内するものであり、被ガイド部とガイド面との隙間を小さくして異音の発生を抑える。同時に、軸受ケースの被ガイド部となる凸部を片側2個にして、被ガイド部とガイド面との間の面圧が過大になることを抑えることにより、被ガイド部とガイド面の摩擦を小さくし、ばねのばね力により軸受ケースをギヤハウジングに対して軽快に移動させて案内できるものにする。
【0019】
(請求項2)
(b)前記予圧手段が、駆動歯車の軸受を収容する軸受収容孔を備え、外周に被ガイド部が設けられてなる軸受ケースを有するとともに、軸受ケースを収容するガイド孔を備え、軸受ケースの被ガイド部に接して該軸受ケースが該軸受の所定の予圧方向へ移動するように案内するガイド面をガイド孔の内周に備えてなるガイドケースを有し、軸受ケースを収容したガイドケースが、ギヤハウジングに設けた取付部に取付けられてなり、ガイドケースのガイド孔の内周に、相対して平行をなす2つの平面状ガイド面を備え、ガイドケースの各ガイド面に接する軸受ケースの各被ガイド部が、上記軸受の予圧方向に沿って相隣る2個の凸部からなる。
【0020】
軸受ケースの両側の各2個の凸部(各被ガイド部)からなる2点がガイドケースの両側の各平面状ガイド面に接して案内されるから、軸受ケースはガイドケースに対して自軸まわりで回り止めされ、駆動歯車の軸受を振れ回りや異音なく所定の予圧方向へ安定的に付勢されるものになる。
【0021】
また、ガイドケースの平面状ガイド面に軸受ケースの凸部(被ガイド部)を接しさせて案内するものであり、被ガイド部とガイド面との隙間を小さくして異音の発生を抑える。同時に、軸受ケースの被ガイド部となる凸部を片側2個にして、被ガイド部とガイド面との間の面圧が過大になることを抑えることにより、被ガイド部とガイド面の摩擦を小さくし、ばねのばね力により軸受ケースをガイドケースに対して軽快に移動させて案内できるものにする。
【0022】
(請求項3)
(c)前記軸受ケースがプラスチックからなり、ガイドケースが金属からなる。これにより、ガイドケースのガイド面に対する軸受ケースの被ガイド部の摺動性を向上できる。
【0023】
(請求項4)
(d)上述(a)、(b)の凸部は円柱面状をなすものとすることができる。
【0024】
(請求項5)
(e)上述(a)、(b)の凸部は球面状をなすものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は電動パワーステアリング装置を示す縦断面図である。
【図2】図2は図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】図3はウォームギヤの支持構造を示す断面図である。
【図4】図4はウォームギヤの継手構造を示し、(A)は小組状態を示す斜視図、(B)は構成部品を示す斜視図である。
【図5】図5はギヤハウジングと予圧手段を示す斜視図である。
【図6】図6は予圧手段を示し、(A)は小組状態を示す正面図、(B)は構成部品を示す斜視図である。
【図7】図7は予圧手段の組込状態を示す断面図である。
【図8】図8は軸受ケースを示し、(A)は斜視図、(B)は正面図、(C)は側面図である。
【図9】図9は軸受ケースを示し、(A)〜(C)はそれらの変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
電動パワーステアリング装置10は、図1、図2に示す如く、不図示のブラケットにより車体に固定されるギヤハウジング11を有する。そして、ステアリングホイール(不図示)が結合される入力軸12にトーションバー13を介して出力軸14(操舵軸)を連結している。ギヤハウジング11内には、トーションバー13のねじれに応じた入力軸12と出力軸14の相対回転変位量によって運転者がステアリングホイールに加えた操舵トルクを検出するトルクセンサ15が内蔵されている。入力軸12と出力軸14は、軸受12A、14A、14Bを介してギヤハウジング11に枢支される。
【0027】
ギヤハウジング11には、出力軸14のピニオンに噛合うラックを備えたラック軸16が左右直線動可能に支持されている。尚、ギヤハウジング11内でラック軸16の一端を挟んで出力軸14のピニオンと相対する部分には、キャップ17により背面支持されるばね18によりラック軸16に押圧されるラックガイド19が内蔵されている。
【0028】
電動モータ20がギヤハウジング11に固定される。電動モータ20に接続されて駆動されるウォームギヤ21(駆動歯車)の両端の軸部22、23が、図3に示す如く、出力軸14の軸と交差、本実施例では直交するように、軸受22A、23Aを介してギヤハウジング11に枢支される。電動モータ20の駆動軸20Aにはカップリング24が圧入され、図4に示す如く、ウォームギヤ21の軸部22にはカップリング25が圧入され、カップリング24とカップリング25がエチレンプロピレンゴム等からなるゴム継手26により連結される。ゴム継手26はゴム弾性を有し、環状中空芯26Aの外周に放射状をなす突起部26Bを備える。カップリング24の羽根部24Aとカップリング25の羽根部25Aがゴム継手26の周方向で相隣る各突起部26Bの対向間隙に順に嵌合され、電動モータ20の回転力がゴム継手26を介してウォームギヤ21に伝達される。
【0029】
このとき、図3に示す如く、ウォームギヤ21の軸部22のための軸受22Aの外輪はギヤハウジング11に螺着されるベアリングナット27によりギヤハウジング11の段差孔に固定され、軸受22Aの内輪はウォームギヤ21の軸部22に設けたフランジ22Fと軸部22に圧入されたカップリング25により挟持される。これにより、ウォームギヤ21は軸方向へのガタなくギヤハウジング11に支持される。また、ウォームギヤ21はゴム継手26の弾性により、軸受22Aの幅方向中央近傍位置を中心として若干揺動できる。ウォームギヤ21のこの揺動はゴム継手26の弾性変形により吸収される。また、ゴム継手26の中空芯26Aの中空部に装填されたばね、本実施例では圧縮コイルばね28が、カップリング24の端面とウォームギヤ21の軸部22の端面との間に圧縮状態で装填され、ウォームギヤ21の軸方向に生じ得る振動を吸収する。
【0030】
電動モータ20により駆動されるウォームギヤ21に噛合うウォームホイール29(従動歯車)が出力軸14の中間部に固定されている。電動モータ20はトルクセンサ15が検出した操舵トルクに応じて駆動され、この電動モータ20のトルクがウォームギヤ21とウォームホイール29の噛合い部を介して出力軸14に伝達され、ひいてはラック軸16に操舵アシスト力になって付与され、運転者がステアリングホイールに加えた操舵トルクをアシストする。
【0031】
しかるに、電動パワーステアリング装置10にあっては、ウォームギヤ21とウォームホイール29の噛合い部のバックラッシュを除去するため、ウォームギヤ21とウォームホイール29の噛合い部に予圧を加える予圧手段30を有する。予圧手段30は、ウォームギヤ21の軸部23に設けた軸受23Aを所定の予圧方向へ付勢する。
【0032】
予圧手段30は、図5、図6に示す如く、軸受ケース40とガイドケース50とばね60とを有する。本実施例では、予圧手段30が更にバンプストッパラバー70も有する。
【0033】
軸受ケース40は、図6、図7に示す如く、概ね円筒体41からなるものにされ、円筒体41の外周の周方向の1ヵ所から半径方向外方に短円筒突部42が突出されている。軸受ケース40は、ウォームギヤ21の軸部23のための軸受23Aを圧入状態で収容する丸孔状の軸受収容孔43を円筒体41の内周に備える。また、軸受ケース40は、軸受23Aを付勢するためのばね、本実施例ではコイルばね60を収容する丸孔状のばね収容孔44を上記軸受収容孔43の周方向の1ヵ所に交差させるように、突部42に備える。軸受収容孔43は円筒体41の軸方向に貫通形成され、ばね収容孔44は円筒体41の半径方向に合致する突部42の軸方向に貫通形成される。
【0034】
軸受ケース40の軸受収容孔43は、軸方向でウォームギヤ21とウォームホイール29との噛合い部から遠い側に小内径の環状段差部45を備え、環状段差部45を備えていない大内径の側に軸受23Aの外輪を装填する。軸受23Aの外輪の一端が環状段差部45の段差端面に当接する。軸受23Aの内輪は、ウォームギヤ21の軸部23の小径端に設けた段差端面と、軸部23の小径端部に係着した止め輪81とに挟み止めされる。
【0035】
軸受ケース40の突部42に備えたばね収容孔44は、本実施例では、ばね60とともにバンプストッパラバー70も装填する。即ち、筒状のバンプストッパラバー70におけるフランジ71の直下部である小外径部がばね収容孔44に装填される。バンプストッパラバー70の小外径部の先端面が軸受23Aの外輪の外周面に当接するとともに、バンプストッパラバー70のフランジ71が軸受ケース40の突部42に備えたばね収容孔44まわりの端面が形成する受面46と、ガイドケース50の後述するガイド孔53の内周の凹部54に設けた受面55との間で保持可能にされる。これにより、バンプストッパラバー70は軸受23Aの外輪の外周面とガイドケース50の内周の受面55との間で挟圧され、車輪側からの衝撃的逆入力を弾発的に吸収可能にする。
【0036】
このとき、ばね60は軸受ケース40のばね収容孔44に収容されたバンプストッパラバー70の中空部に挿入され、ばね60は軸受23Aの外輪の外周面とガイドケース50の内周の受面55との間で挟圧され、軸受23Aを所定の予圧方向へ付勢可能にする。
【0037】
尚、軸受ケース40において、軸受収容孔43のばね収容孔44が開口する部分は環状段差部45の欠落部とされ、環状段差部45がばね60及びバンプストッパラバー70と軸受23Aの外輪の外周面との当接の支障になることを回避している。
【0038】
軸受ケース40は、突部42、ばね収容孔44の中心軸に合致する円筒体41の直径線を挟む両側の外周に、被ガイド部101が設けられる。被ガイド部101の具体的形状については後述する。
【0039】
ガイドケース50は、図6に示す如く、概ね円筒体51からなるものとされ、円筒体51の外周の周方向の1ヵ所に張出突部52が設けられている。ガイドケース50は、軸受ケース40を収容するガイド孔53を円筒体51の内周に備える。ガイドケース50は、ガイド孔53を概ね四角孔状にし、ガイド孔53の内周の相対する2面にガイド面102を形成する。ガイドケース50のガイド面102は、軸受ケース40の被ガイド部101が中間嵌めされて接し、該軸受ケース40が軸受23Aの所定の予圧方向へ移動するように、該軸受ケース40を案内する。
【0040】
ガイドケース50は、突部52の内面側であり、ガイド孔53の内周のガイド面102が形成されない他の2面のうちの1面に凹部54を形成し、軸受ケース40の突部42及びバンプストッパラバー70のフランジ71がこの凹部54に装填される。凹部54はばね60とバンプストッパラバー70を支持する受面55を備えるものとされている。
【0041】
予圧手段30は、軸受ケース40を含油ポリアセタール樹脂等のプラスチックからなる無給油ブッシュとし、ガイドケース50を鉄系焼結合金等の金属からなるものにしている。
【0042】
予圧手段30は、ガイドケース50のガイド孔53に備えたガイド面102を、相対して平行をなす2つの平面状ガイド面102としている。そして、ガイドケース50の各ガイド面102に中間嵌めされて接する軸受ケース40の各被ガイド部101を、ウォームギヤ21の軸受23Aに与えるべき予圧方向に沿って相隣る2個の凸部101Aからなるものにしている。本実施例の凸部101Aは、図8、図9(A)に示す如く、軸受ケース40における円筒体41の外周上で、円筒体41の軸方向に沿う該円筒体41の全幅に渡って延在される円柱面状をなす。凸部101Aは、円筒体41の外周に設けた凹所にテフロン(登録商標)ピンの円弧の一部を埋め込み、このテフロン(登録商標)ピンの残余の円弧により形成されるものでも良い。
【0043】
尚、軸受ケース40の両側の外周に設けられる各被ガイド部101となる凸部101Aは、図9(B)に示す如くに円筒体41の幅方向の中央だけに設けられる短円柱面状でも良く、図9(C)に示す如くに円筒体41の幅方向の中央に設けられる球面状でも良い。
【0044】
予圧手段30は、ばね60及びバンプストッパラバー70が上述の如くに収容された軸受ケース40をガイドケース50に収容したものを、図5、図6に示す如くの小組体31とする。そして、この小組体31の状態にあるガイドケース50をギヤハウジング11に設けてある孔状取付部90に装填する。ギヤハウジング11の取付部90は、その孔面の周方向の一部に、ガイドケース50のための凹状位置決め部91を設けている。他方、ガイドケース50の前述の突部52をギヤハウジング11の凹状位置決め部91に係合する被位置決め部としている。ガイドケース50の突部52をギヤハウジング11の凹状位置決め部91に係合させ、ギヤハウジング11の取付部90に対するガイドケース50の取付位置を位置決めすることにより、ガイドケース50のガイド面102による軸受ケース40の被ガイド部101の案内方向がウォームギヤ21の軸受23Aの所定の予圧方向に設定されるようにするものである。
【0045】
小組体31のガイドケース50がギヤハウジング11の取付部90に装填された状態で、蓋板92がボルト93により取付部90の開口を閉じる。このとき、ギヤハウジング11の取付部90とガイドケース50との間には、ガイドケース50を径方向に押圧してガイドケース50のギヤハウジング11に対する径方向位置を定める径方向押圧手段94と、ガイドケース50を軸方向に押圧してガイドケース50のギヤハウジング11に対する軸方向位置を定める軸方向押圧手段95とを有する。
【0046】
本実施例では、径方向押圧手段94と軸方向押圧手段95は、Oリングからなるものとされている。径方向押圧手段94は、図7に示す如く、ガイドケース50の円筒体51の一端側の外周に設けた小径段差部に装填され、ギヤハウジング11の取付部90の奥側の小径孔部の内周に径方向圧縮状態で挿着される。軸方向押圧手段95は、図7に示す如く、ガイドケース50の円筒体51の他端側の端面と蓋板92とに挟まれ、軸方向圧縮状態で挿填される。
【0047】
従って、電動パワーステアリング装置10においてウォームギヤ21を組込む場合には、前述の予圧手段30の小組体31をギヤハウジング11の取付部90に装填する。このとき、小組体31のガイドケース50が備える突部52をギヤハウジング11の取付部90の凹状位置決め部91に係合し、ガイドケース50のガイド面102による軸受ケース40の被ガイド部101の案内方向がウォームギヤ21の軸受23Aの所定の予圧方向に設定される。また、ギヤハウジング11に対するガイドケース50の径方向の取付位置が径方向押圧手段94により規定される。
【0048】
そして、軸受22A、カップリング25が軸部22に挿着されたウォームギヤ21がギヤハウジング11に挿入され、ウォームギヤ21の軸部23が予圧手段30の小組体31に組込済の軸受23Aに挿入され、軸部23の小径端部に前述の止め輪81が係着される。また、ギヤハウジング11に螺着される前述のベアリングナット27により、ウォームギヤ21の軸部22に挿着されている軸受22Aがギヤハウジング11の段差孔に固定される。ウォームギヤ21は軸受22Aの軸方向中央近傍位置を中心として若干揺動できる。ギヤハウジング11の取付部90の開口が蓋板92により閉じられ、ギヤハウジング11に対するガイドケース50の軸方向の取付位置が軸方向押圧手段95により規定される。
【0049】
こうして、予圧手段30の小組体31に収容されているばね60がウォームギヤ21の軸受23Aを所定の予圧方向へ付勢し、ウォームギヤ21はばね60のばね力により軸受22Aの軸方向中央近傍位置を中心として揺動し、ウォームギヤ21とウォームホイール29の噛合い部に予圧を加えることができ、噛合い部のバックラッシュをなくすものになる。しかも、予圧手段30は軸受ケース40の被ガイド部101(凸部101A)とガイドケース50のガイド面102の存在により、ウォームギヤ21の軸受23Aを正しく所定の予圧方向へ移動させるから、ウォームギヤ21はウォームホイール29の軸長方向に関して適正な噛合位置を保持することができるとともに、噛合反力の変動によるウォームギヤ21のラジアル方向への移動をスムースに行なわせることができる。
【0050】
従って、電動パワーステアリング装置10によれば、以下の作用効果を奏する。
(a)予圧手段30が、軸受ケース40とガイドケース50を有する。軸受ケース40は、ウォームギヤ21の軸受23Aを収容する軸受収容孔43を備え、軸受23Aを付勢するためのばね60を収容するばね収容孔44を上記軸受収容孔43に交差させて備え、外周に被ガイド部101が設けられる。ガイドケース50は、軸受ケース40を収容するガイド孔53を備え、軸受ケース40の被ガイド部101に接して該軸受ケース40が該軸受23Aの所定の予圧方向へ移動するように案内するガイド面102をガイド孔53の内周に備える。そして、軸受23A及びばね60が収容された軸受ケース40を収容したガイドケース50が、ギヤハウジング11に設けた取付部90に取付けられる。
【0051】
即ち、予圧手段30は、軸受23Aとばね60が収容された軸受ケース40をガイドケース50に収容した小組体31の状態に予めまとめられ、この小組体31の状態のガイドケース50をギヤハウジング11の取付部90に取付けることにより組立て完了になり、組立性を向上できる。
【0052】
また、ばね60が軸受ケース40のばね収容孔44に収容されることにより、ばね60を脱落のおそれなく安定的に組込んだ小組体31を形成できる。また、このばね60が軸受23Aを直に接して付勢するものとすることにより、予圧手段30の全体構造を小径小型化しながら、大寸法のばね60を収容できるし、ばね60が軸受ケース40を介して軸受23Aを押圧しない分だけ軸受ケース40の変形を抑えてその耐久性を向上できる。
【0053】
(b)前記軸受ケース40がプラスチックからなり、ガイドケース50が金属からなる。これにより、ガイドケース50のガイド面102に対する軸受ケース40の被ガイド部101の摺動性を向上できる。
【0054】
(c)前記ギヤハウジング11の取付部90にガイドケース50のための凹状位置決め部91を設け、ガイドケース50に設けた突部52(被位置決め部)を上記凹状位置決め部91に係合させ、ギヤハウジング11の取付部90に対するガイドケース50の取付位置を位置決めすることにより、ガイドケース50による軸受ケース40の案内方向が前記軸受23Aの所定の予圧方向に設定される。これにより、ギヤハウジング11に対する予圧手段30の組立方向を簡易に設定しながら、ウォームギヤ21の軸受23Aを所定の予圧方向へ付勢できる。
【0055】
(d)前記ガイドケース50のガイド孔53の内周に、相対して平行をなす2つの平面状ガイド面102を備え、ガイドケース50の各ガイド面102に接する軸受ケース40の各被ガイド部101が、前記軸受23Aの予圧方向に沿って相隣る2個の凸部101Aからなるものにされる。軸受ケース40の両側の各2個の凸部101A(各被ガイド部101)からなる2点がガイドケース50の両側の各平面状ガイド面102に接して案内されるから、軸受ケース40はガイドケース50に対して自軸まわりで回り止めされ、ウォームギヤ21の軸受23Aを振れ回りや異音なく所定の予圧方向へ安定的に付勢されるものになる。
【0056】
また、ガイドケース50の平面状ガイド面102に軸受ケース40の凸部101A(被ガイド部101)を接しさせて案内するものであり、被ガイド部101とガイド面102との隙間を小さくして異音の発生を抑える。同時に、軸受ケース40の被ガイド部101となる凸部101Aを片側2個にして、被ガイド部101とガイド面102との間の面圧が過大になることを抑えることにより、被ガイド部101とガイド面102の摩擦を小さくし、ばね60のばね力により軸受ケース40をガイドケース50に対して軽快に移動させて案内できるものにする。
【0057】
(e)前記軸受ケース40のばね収容孔44に筒状のバンプストッパラバー70が装填され、バンプストッパラバー70は軸受ケース40のばね収容孔44まわりに設けた受面46とガイドケース50の内周に設けた受面55との間で保持可能にされる。車輪の縁石衝突等に起因する逆入力たる操舵反力が、衝撃的にウォームホイール29に及び、ウォームホイール29に噛合うウォームギヤ21をラジアル方向に変位させようとするとき、その変位をバンプストッパラバー70が弾発的に吸収し、衝撃緩和できる。
【0058】
このとき、バンプストッパラバー70の内径部にばね60を収容することにより、予圧手段30の全体構造を小径小型化できる。
【0059】
(f)上述(e)のバンプストッパラバー70の内径部に収容されるばね60がコイルばねであるとき、コイルばねを用いる予圧手段30の全体構造を小径小型化できる。
【0060】
(g)前記ギヤハウジング11の取付部90とガイドケース50との間に、ガイドケース50を径方向に押圧して該ガイドケース50の径方向位置を定める径方向押圧手段94と、ガイドケース50を軸方向に押圧して該ガイドケース50の軸方向位置を定める軸方向押圧手段95とを有する。これにより、ガイドケース50をギヤハウジング11の取付部90に簡易にガタなく取付けできる。
【0061】
(h)上述(g)の径方向押圧手段94と軸方向押圧手段95がOリングからなるものとすることにより、ガイドケース50の取付構造を一層簡易化できる。
【0062】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、駆動歯車(ウォームギヤ)の軸受は転がり軸受に限らず、滑り軸受でも良い。
【0063】
また、駆動歯車をウォームギヤ、従動歯車をウォームホイールとするものに限らず、駆動歯車をハイポイドピニオンとし、従動歯車をハイポイドホイールとするものでも良い。また、駆動歯車と従動歯車にベベルギヤを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、電動モータにより駆動される駆動歯車をギヤハウジングに枢支するとともに、駆動歯車に噛合う従動歯車を操舵軸に固定し、駆動歯車と従動歯車との噛合い部に予圧を加えるばねを備え、駆動歯車の軸受を所定の予圧方向へ付勢する予圧手段を有してなる電動パワーステアリング装置において、予圧手段が、駆動歯車の軸受を保持する軸受ケースの外周に被ガイド部を設け、この軸受ケースの被ガイド部に接して該軸受ケースの動きを該軸受の所定の予圧方向へ案内するガイド面をギヤハウジングの側に設けてなり、相対して平行をなす2つの平面状ガイド面をギヤハウジングの側に備えるとともに、それらの各ガイド面に接する軸受ケースの各被ガイド部が上記予圧方向に沿って相隣る2個の凸部からなる。これにより、駆動歯車と従動歯車のバックラッシュを除去するための予圧手段を有してなる電動パワーステアリング装置において、駆動歯車の軸受を所定の予圧方向へ安定的に付勢することができる。
【符号の説明】
【0065】
10 電動パワーステアリング装置
11 ギヤハウジング
12 入力軸
14 出力軸(操舵軸)
20 電動モータ
21 ウォームギヤ(駆動歯車)
23A 軸受
29 ウォームホイール(従動歯車)
30 予圧手段
40 軸受ケース
43 軸受収容孔
50 ガイドケース
53 ガイド孔
60 ばね
90 取付部
101 被ガイド部
101A 凸部
102 ガイド面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータにより駆動される駆動歯車をギヤハウジングに枢支するとともに、駆動歯車に噛合う従動歯車を操舵軸に固定し、駆動歯車と従動歯車との噛合い部に予圧を加えるばねを備え、駆動歯車の軸受を所定の予圧方向へ付勢する予圧手段を有してなる電動パワーステアリング装置において、
予圧手段が、
駆動歯車の軸受を保持する軸受ケースの外周に被ガイド部を設け、この軸受ケースの被ガイド部に接して該軸受ケースの動きを該軸受の所定の予圧方向へ案内するガイド面をギヤハウジングの側に設けてなり、
相対して平行をなす2つの平面状ガイド面をギヤハウジングの側に備えるとともに、それらの各ガイド面に接する軸受ケースの各被ガイド部が上記予圧方向に沿って相隣る2個の凸部からなることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記予圧手段が、
駆動歯車の軸受を収容する軸受収容孔を備え、外周に被ガイド部が設けられてなる軸受ケースを有するとともに、
軸受ケースを収容するガイド孔を備え、軸受ケースの被ガイド部に接して該軸受ケースが該軸受の所定の予圧方向へ移動するように案内するガイド面をガイド孔の内周に備えてなるガイドケースを有し、
軸受ケースを収容したガイドケースが、ギヤハウジングに設けた取付部に取付けられてなり、
ガイドケースのガイド孔の内周に、相対して平行をなす2つの平面状ガイド面を備え、
ガイドケースの各ガイド面に接する軸受ケースの各被ガイド部が、上記軸受の予圧方向に沿って相隣る2個の凸部からなる請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記軸受ケースがプラスチックからなり、ガイドケースが金属からなる請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記凸部が円柱面状をなす請求項1〜3のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記凸部が球面状をなす請求項1〜3のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−71681(P2013−71681A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213367(P2011−213367)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】