説明

電動圧縮機

【課題】 冷媒の吐出温度を上昇させずに、電動モータの固定子を冷却する。
【解決手段】 冷媒を圧縮する圧縮機3と、圧縮機3を駆動する電動モータ5とを備え、電動モータ5の固定子7側から放出される熱を吸収し移動させる熱吸収部9と、熱吸収部9が吸収した熱を外部へ放出する熱放出部11とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に「電動気体圧縮機」が記載されている。
【0003】
この電動気体圧縮機(電動圧縮機)は、冷媒を圧縮する圧縮機とこれを駆動する電動モータから構成されており、冷媒を電動モータの固定子に当てて冷却する機能を備えている。
【特許文献1】特開2005−344657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、冷媒で電動モータを冷却すると、冷媒の吐出温度がそれだけ上昇するという問題が生じる。
【0005】
そこで、この発明は、冷媒の吐出温度を上昇させずに、電動モータの固定子を冷却することができる電動圧縮機の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の電動圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮機と、前記圧縮機を駆動する電動モータとを備え、前記電動モータの固定子側から放出される熱を吸収し移動させる熱吸収部と、前記熱吸収部が吸収した熱を外部へ放出する熱放出部とを備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載された電動圧縮機であって、前記熱吸収部が、前記固定子を収容するモータケーシングに前記固定子に対向して設けられた溝内に配置されていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載された電動圧縮機であって、前記熱吸収部が、前記固定子の間に形成されている周方向隙間内に前記固定子に対向して配置されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載された電動圧縮機あって、前記熱吸収部が、U字管であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載された電動圧縮機あって、前記熱吸収部が、直管であることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれかに記載された電動圧縮機であって、前記熱放出部の大径部に外部への熱放出を促進する放熱フィンが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の電動圧縮機は、熱吸収部によって固定子の熱を吸収し熱放出部から外部へ放出するので、冷媒を電動モータの冷却に用いたことによって冷媒の吐出温度が上昇している従来の問題を回避しながら、電動モータを冷却することができ、圧縮機の性能を高く維持できる。
【0013】
請求項2に記載の電動圧縮機は、固定子のケーシングに、固定子に対向して設けられた溝に熱吸収部を配置したことにより、電動モータ(固定子)を効率よく冷却できる上に、電動モータを大径化する必要がないから、低コストで容易に実施できる。
【0014】
なお、上記の溝は、固定子と同数設ける必要はなく、固定子に対向して(軸方向に)設ければよい。
【0015】
請求項3に記載の電動圧縮機は、熱吸収部を、各固定子の間に形成されている周方向隙間内に、固定子に対向して配置したことにより、熱の吸収効率と電動モータ(固定子)の冷却効率がさらに向上する。
【0016】
また、固定子のケーシングの追加加工が不要であるから、実施コストをさらに低減できる。
【0017】
請求項4に記載の電動圧縮機は、熱吸収部がU字管形状であるから、1個の熱吸収部にそれだけ多量の揮発性液体を収容して、固定子を効果的に冷却することができる。
【0018】
請求項5に記載の電動圧縮機は、熱吸収部が直管形状であるから、狭いスペースにそれだけ多数の熱吸収部を配置して、固定子を効果的に冷却することができる。
【0019】
従って、例えば、熱吸収部を固定子の間の周方向隙間に配置することにより、配置スペース上の変更を電動モータに加えずに、低コストで、固定子(電動モータ)を効率よく冷却することができる。
【0020】
請求項6に記載の電動圧縮機は、熱放出部の大径部に放熱フィンを設けたので、熱放出部の表面積拡大に伴って熱が効果的に放出され、電動モータ(固定子)の冷却効率が大きく向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<第1実施形態>
図1と図2を参照しながら第1実施形態の電動圧縮機1を説明する。図1は電動圧縮機1の縦断面図であり、図2は電動圧縮機1の分解斜視図である。
【0022】
電動圧縮機1は、冷媒を圧縮する圧縮機3と、圧縮機3を駆動する電動モータ5とを備え、電動モータ5の固定子7側から放出される熱を吸収し移動させるヒートパイプ9(熱吸収部)と、ヒートパイプ9が吸収した熱を外部へ放出するヒートシンク11(熱放出部)とを備え、
ヒートパイプ9が、固定子7を収容するリアハウジング13(モータケーシング)に、固定子7に対向して設けられた溝15内に配置されており、
ヒートパイプ9が、U字管であり、
ヒートシンク11の大径部51に、外部への熱放出を促進する放熱フィン17が設けられていることを特徴とする。
【0023】
次に、電動圧縮機1の構造を説明する。
【0024】
電動圧縮機1は、車両用空調装置の冷却システムに用いられており、電動圧縮機1によって断熱圧縮された高温高圧の冷媒ガスは、コンデンサ(凝縮器)で液化し、膨張弁で絞り膨張し、エバポレータ(蒸発器)で熱交換し、冷風を作り出しながら加熱されて気化し、電動圧縮機1に戻って断熱圧縮される。
【0025】
圧縮機3はフロントハウジング19に収容されており、フロントブロック21、シリンダブロック23、リアブロック25、ロータ軸27、ロータ29、複数枚のベーン31などから構成されている。各ブロック21,23,25はボルトによってフロントハウジング19に固定され、ロータ軸27の左端部と中央部はフロントブロック21とリアブロック25によって回転自在に支持されている。シリンダブロック23には内周が略楕円形断面のシリンダ室33が形成されており、ロータ軸27及びロータ29はこの楕円に対して同心に配置されている。ロータ29はロータ軸27と一体に形成されており、各ベーン31はロータ29に周方向等間隔に設けられたベーン溝35によって移動自在に支持されている。
【0026】
シリンダ室33の内壁とロータ29の外周面と各ベーン31との間には複数の圧縮室が形成されており、電動モータ5により圧縮機3が駆動されロータ29が回転すると、各ベーン31は、遠心力と、ベーン溝35の底部に供給される背圧(オイル圧)を受けて径方向外側に移動し頂部をシリンダ室33の内壁に接触させる。各圧縮室の容積はロータ29の回転とベーン31の径方向移動に伴って変化し、この容積変化によって冷媒の吸入行程と圧縮行程と吐出行程を繰り返し、吸入行程では冷媒を吸入し、吐出行程では圧縮行程で圧縮された冷媒を吐出する。
【0027】
電動モータ5は、固定子7、磁性材料で作られたロータ37、モータ軸39などから構成されている。固定子7は強磁性体のコア41にコイル43を巻線して作られており、リアハウジング13の内周に9箇の固定子7が周方向等間隔に配置されている。ロータ37はモータ軸39上に固定されており、モータ軸39の左端部は、圧縮機3のロータ軸27の右端部外周にスプライン連結され、ロータ軸27と共に、ボールベアリング45によってリアブロック25に支持され、右端部はボールベアリング49によってリアハウジング13に支持されている。
【0028】
電動モータ5の回転はモータ軸39からロータ軸27(ロータ29)に伝達されて圧縮機3を駆動し、吐出された冷媒は、オイルセパレータでオイルを分離した後、吐出口から吐出され、コンデンサ側に送られる。
【0029】
ヒートパイプ9は、U字型に形成された密閉管であり、内部には揮発性の液体が封入されており、U字の2箇所の端部をヒートシンク11に植え込まれ、屈曲部側をリアハウジング13の溝15の底部側にして溝15に挿入されている。溝15は周方向等間隔の6箇所に固定子7に対向して(軸方向に)設けられている。6本のヒートパイプ9に封入された液体は、電動モータ5の固定子7側から放出された熱を吸収し気体になって固定子7を冷却すると共に、ヒートシンク11側へ移動し、ヒートシンク11を介して熱を外部へ放出し、再び液体になって、毛細管現象によって固定子7側に移動する。
【0030】
また、ヒートシンク11の最大径部51には、その軸方向両側に熱の外部放出を促進する多数の放熱フィン17が設けられており、ヒートシンク11の表面積拡大に伴って熱を効果的に放出し、固定子7の冷却効果を大きく高めている。
【0031】
次に、電動圧縮機1の効果を説明する。
【0032】
電動圧縮機1は、ヒートパイプ9によって固定子7の熱を吸収しヒートシンク11から外部へ放出するので、冷媒を電動モータの冷却に用いたことにより冷媒の吐出温度が上昇している従来の問題を回避しながら、電動モータ5(固定子7)を冷却することができ、圧縮機3の性能を高く維持できる。
【0033】
また、リアハウジング13に、固定子7に対向して設けた溝15内にヒートパイプ9を配置したので、電動モータ5を効率よく冷却できる上に、電動モータ5を大径化する必要がないから、低コストで容易に実施できる。
【0034】
また、ヒートパイプ9がU字管であり、1本のヒートパイプ9に多量の揮発性液体を収容することが可能であるから、固定子7をそれだけ効率よく冷却できる。
【0035】
また、放熱フィン17をヒートシンク11の最大径部51に設けたから、ヒートシンク11の表面積拡大に伴う効果的な熱放出機能によって、電動モータ5の冷却効率が大きく向上している。
【0036】
<第2実施形態>
図3と図4を参照しながら第2実施形態の電動圧縮機101を説明する。図3は電動圧縮機101の縦断面図であり、図4は電動圧縮機101の分解斜視図である。なお、下の説明において、電動圧縮機1(第1実施形態)と同一の機能部及び機能部材には同一の符号を付しており、重複する説明文は省略するが、必要に応じて第1実施形態の説明文及び図1と図2とを参照するものとする。
【0037】
電動圧縮機101は、冷媒を圧縮する圧縮機3と、圧縮機3を駆動する電動モータ5とを備え、電動モータ5の固定子7から放出される熱を吸収し移動させるヒートパイプ103(熱吸収部)と、ヒートパイプ103が吸収した熱を外部へ放出するヒートシンク11(熱放出部)とを備え、
ヒートパイプ103が、固定子7の間に形成された周方向の隙間内に配置されており、
ヒートパイプ103が、直管であり、
ヒートシンク11の大径部51に、外部への熱放出を促進する放熱フィン17が設けられていることを特徴とする。
【0038】
次に、電動圧縮機101の構造を説明する。
【0039】
ヒートパイプ103は、密閉された直管であり、内部に揮発性の液体が封入されている。ヒートパイプ103は9本用いられており、それぞれの基部側はヒートシンク11に植え込まれ、先端部側は各固定子7の間に形成された周方向の隙間内に挿入されている。各ヒートパイプ103の液体は、各固定子7から放出された熱を吸収し気体になって固定子7を冷却すると共に、ヒートシンク11側へ移動し、ヒートシンク11を介して熱を外部へ放出し、再び液体になって、毛細管現象によって固定子7側に移動する。
【0040】
次に、電動圧縮機101の効果を説明する。
【0041】
電動圧縮機101は、ヒートパイプ103によって固定子7の熱を吸収しヒートシンク11から外部へ放出するので、冷媒を電動モータの冷却に用いたことにより冷媒の吐出温度が上昇している従来の問題を回避しながら、電動モータ5(固定子7)を冷却することができ、圧縮機3の性能を高く維持できる。
【0042】
また、各ヒートパイプ103を固定子7の間に配置したので、熱の吸収効率と電動モータ5の冷却効率がさらに向上している。
【0043】
また、リアハウジング13の追加加工が不要であり、実施コストがさらに低減される。
【0044】
また、ヒートパイプ103が直管形状であるから、狭いスペースにそれだけ多数のヒートパイプ103を配置して、固定子7を効果的に冷却することができ、上記のように、ヒートパイプ103を固定子7の間に直接配置することにより、配置スペース上の変更を電動モータ5(リアハウジング13)に加えずに、低コストで、電動モータ5を効率よく冷却するすることができる。
【0045】
また、放熱フィン17をヒートシンク11の最大径部51に設けたから、ヒートシンク11の表面積拡大に伴う効果的な熱放出機能によって、電動モータ5の冷却効率が大きく向上している。
【0046】
[本発明の範囲に含まれる他の態様]
なお、本発明は上述した実施形態のみに限定解釈されるものではなく、本発明の技術的な範囲内で様々な変更が可能である。
【0047】
圧縮機の冷媒を電動モータの冷却に利用しない本発明では、電動モータに駆動される圧縮機の形式は限定されず、ベーン形圧縮機以外の形式の圧縮機でもよい。
【0048】
また、上記の実施形態では、ヒートシンク11をハウジング13と別体にて形成したが、ヒートシンクをハウジングと一体とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】電動圧縮機1の縦断面図である。
【図2】電動圧縮機1の分解斜視図である。
【図3】電動圧縮機101の縦断面図である。
【図4】電動圧縮機101の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0050】
1 電動圧縮機
3 圧縮機
5 電動モータ
7 固定子
9 ヒートパイプ(熱吸収部)
11 ヒートシンク(熱放出部)
13 リアハウジング(モータケーシング)
15 ヒートパイプ9を収容する溝
17 放熱フィン
51 ヒートシンクの大径部
101 電動圧縮機
103 ヒートパイプ(熱吸収部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機(3)と、前記圧縮機(3)を駆動する電動モータ(5)とを備え、
前記電動モータ(5)の固定子(7)側から放出される熱を吸収し移動させる熱吸収部(9、103)と、前記熱吸収部(9、103)が吸収した熱を外部へ放出する熱放出部(11)とを備えたことを特徴とする電動圧縮機(1,101)。
【請求項2】
請求項1に記載された電動圧縮機(1)であって、
前記熱吸収部(9、103)が、前記固定子(7)を収容するモータケーシング(13)に前記固定子(7)に対向して設けられた溝(15)内に配置されていることを特徴とする電動圧縮機(1)。
【請求項3】
請求項1に記載された電動圧縮機(101)であって、
前記熱吸収部(9、103)が、前記固定子(7)の間に形成されている周方向隙間内に前記固定子(7)に沿って配置されていることを特徴とする電動圧縮機(101)。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載された電動圧縮機(1,101)であって、
前記熱吸収部(9)が、U字管であることを特徴とする電動圧縮機(1、101)。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載された電動圧縮機(1,101)であって、
前記熱吸収部(103)が、直管であることを特徴とする電動圧縮機(1,101)。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載された電動圧縮機(1,101)であって、
前記熱放出部(11)の大径部(51)に外部への熱放出を促進する放熱フィン(17)が設けられていることを特徴とする電動圧縮機(1,101)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−138677(P2009−138677A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317474(P2007−317474)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】