説明

電動機のステータ

【課題】温度検出素子の交換を容易とする電動機のステータを提供する。
【解決手段】突極集中巻きステータ10は、ステータコア11と、ステータコア11に巻回されるコイル13と、を備え、さらにコイル13の温度を検出する感温部71を有するサーミスタ70と、コイルの一部と感温部71とを覆うカバー部材80と、を備える。カバー部材80の内部は、突出部84により、サーミスタ70が収容されるサーミスタ収容部81と、コイル13の一部が収容されるコイル収容部82と、サーミスタ収容部81とコイル収容部82との間に位置する絶縁空間86と、に仕切られている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度検出素子を備えた電動機のステータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図11に示すように、測温素子152(感温部)を備える測温センサ151(温度検出素子)が、電動機のステータコイルのコイルエンド122bから離間して配置されており、コイルエンド122bから引き出された引出導体122cの温度を測温センサ151が検出することで固定子コイルの温度を検出することが行なわれている(例えば、特許文献1)。これにより、コイルエンド122bを染み渡ることで固定子コイルを冷却する冷却媒体である油140が測温センサ151を冷却してしまうことが起こりにくくなり、油140による測温センサ151の温度検出精度低下を防止できる。また、測温センサ151は、引出導体122cの少なくとも一部と共に断熱体156に覆われている。これにより、油140が測温センサ151の方に移動した場合でも、油140が測温センサ151に直接接触して測温センサ151を冷却することを断熱体156により防止できるため、油140による測温センサ151の温度検出精度低下をより防止できる。
【0003】
この特許文献1に記載の電動機のステータでは、引出導体122cと測温素子152との絶縁を確保するため、断熱体156の内部の空間に樹脂等の素子保護絶縁層153を充填している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−30288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電動機のステータでは、測温素子152の周囲に素子保護絶縁層153が形成されているため、測温素子152のみを取り外すことが難しく、測温素子152を交換する際には、測温素子152と共に断熱体156及び引出導体122cも交換が必要となり、交換処理が煩雑になると共に交換に要するコストが高くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、温度検出素子の交換を容易とする電動機のステータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、
ステータコア(例えば、後述の実施形態におけるステータコア11)と、
前記ステータコアに巻回されるコイル(例えば、後述の実施形態におけるコイル13)と、を備えた電動機のステータ(例えば、後述の実施形態における突極集中巻きステータ10)であって、
前記ステータは、前記コイルの温度を検出する感温部(例えば、後述の実施形態における感温部71)を有する温度検出素子(例えば、後述の実施形態におけるサーミスタ70)と、前記コイルの一部と前記感温部とを覆うカバー部材(例えば、後述の実施形態におけるカバー部材80)と、を備え、
前記カバー部材の内部は、仕切り部(例えば、後述の実施形態における突出部84、84a、84b)により、前記温度検出素子が収容される温度検出素子収容部(例えば、後述の実施形態におけるサーミスタ収容部81)と、前記コイルの一部が収容されるコイル収容部(例えば、後述の実施形態におけるコイル収容部82)と、前記温度検出素子収容部と前記コイル収容部との間に位置する絶縁空間(例えば、後述の実施形態における絶縁空間86)と、に仕切られていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1の構成に加えて、
前記仕切り部は、前記カバー部材の内側において突出する突出部(例えば、後述の実施形態における突出部84、84a、84b)であり、
前記コイルの一部と前記温度検出素子の端部との少なくとも一方が前記突出部に当接することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2の構成に加えて、
前記カバー部材は、前記コイルの一部が挿入されるコイル挿入孔(例えば、後述の実施形態におけるコイル挿入孔82a)と、前記温度検出素子が挿入される温度検出素子挿入孔(例えば、後述の実施形態におけるサーミスタ挿入孔81a)とを別々に備えることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項の構成に加えて、
前記温度検出素子は前記カバー部材に弾性固定されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1から4のいずれか1項の構成に加えて、
前記ステータコアは、周方向に所定の間隔で配置され放射状に突出する複数のティース(例えば、後述の実施形態におけるティース11b)を有し、
前記コイルは、周方向に隣り合う前記ティースにおいて互いに異相となるように前記ティースに突極集中巻きで巻回される複数のコイル(例えば、後述の実施形態におけるコイル13)からなり、
前記複数のコイルは、それぞれ前記ステータの軸方向一端側に位置する第1巻き端(例えば、後述の実施形態における第1巻き端41)と第2巻き端(例えば、後述の実施形態における第2巻き端42)とを有し、
前記第1巻き端と前記第2巻き端の少なくとも一方が異相となるコイルを周方向に跨いで延びており、
周方向に隣り合う同相のコイルの一方の前記第1巻き端の端部(例えば、後述の実施形態における端部41a)と、他方の前記第2巻き端の端部(例えば、後述の実施形態における端部42a)とが接合されて接合部(例えば、後述の実施形態における接合部14a)をなし、
前記コイル収容部に、前記複数個のコイルのうち1つのコイルの接合部(例えば、後述の実施形態における感温用接合部55)が収容されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、コイルの一部および温度検出素子の感温部がカバー部材で覆われており、コイルの一部および温度検出素子の感温部が周囲空間から隔離されているので、感温部が周囲空間あるいは冷却油の温度に影響を受けるのを抑制することができ、感温部においてより精度良くコイルの温度を検出することができる。
さらに、仕切り部により温度検出素子収容部と、コイル収容部と、温度検出素子収容部とコイル収容部との間に位置する絶縁空間とに仕切られているので、温度検出素子の周囲に絶縁材を充填することなくコイルと温度検出素子とを絶縁することができ、温度検出素子の取付けおよび取外しが容易となる。したがって、温度検出素子の故障した際においても、コイルを取り外すことなく温度検出素子のみを取り外して交換することができる。
【0013】
請求項2の発明によれば、コイルと温度検出素子の端部との少なくとも一方が突出部に当接することにより、コイル及び/又は温度検出素子が位置決めされるため、コイル及び/又は温度検出素子の位置のばらつきを抑制することができ、感温部においてより精度良くコイルの温度を検出することができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、温度検出素子のカバー部材に対する固定および取外しをさらに容易に行なうことができる。
【0015】
請求項4の発明によれば、温度検出素子のカバー部材に対する固定および取外しをさらに容易に行なうことができる。
【0016】
請求項5の発明によれば、カバー部材により接合部の接合を保護しつつ、より精度よくコイルの温度を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のステータを備えた電動機の縦断面図である。
【図2】図1のステータがハウジングに収容された状態を示す斜視図である。
【図3】図1におけるステータの正面図である。
【図4】ステータコアの正面図である。
【図5】インシュレータの斜視図である。
【図6】(a)はインシュレータに巻線が巻回された第1のコイルの斜視図であり、(b)はインシュレータに巻線が巻回された第2のコイルの斜視図である。
【図7】コイル巻線の接合部を示す拡大斜視図である。
【図8】図1の部分拡大図である。
【図9】図8におけるサーミスタ近傍の断面図である。
【図10】変形例に係るカバー部材を用いたサーミスタ近傍の断面図である。
【図11】特許文献1に記載の測温センサ近傍の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づいて説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【0019】
図1は本発明の電動機の縦断面図であり、図2は図1のステータがハウジングに収容された状態を示す斜視図である。図1及び図2に示すように、本実施形態の電動機は、3相8極対の外転型電動機1であり、軸心Oを中心として、モータハウジング2にボルト3により固定されたステータ10と、ステータ10の径方向外側に僅かな隙間を介して配置される円環状のロータ6とを備える。
【0020】
ロータ6は、電磁鋼板が積層されてなるロータコア6aに磁石6bが埋め込まれてなり、略円環形状を有する。ロータ6は、縁付円盤状のアーム部材5の縁部内周面5aに固定されており、モータハウジング2に内嵌する玉軸受7、7によって回転自在に支持された回転軸8に一体回転可能に固定されている。ロータ6は、ステータ10に発生させる回転磁界によって回転駆動される。回転軸8とステータ10の間には、回転軸8の磁極位置を検出するレゾルバ9が配設されている。
【0021】
ステータ10は、図3および図4に示すように、ステータコア11と、複数(本実施形態では24個)のコイル13(13u、13v、13w)とを備える。ステータコア11は、複数の電磁鋼板がステータ10の軸方向、即ち、図4において紙面と垂直方向に積層されて構成され、円環部11aから半径方向外側に向かって放射状に突出形成され、周方向に並ぶ複数(24個)のティース11bを有し、全体として略円環形状を有する。ステータコア11の円環部11aの内周側には、ボルト穴17をそれぞれ有する複数(本実施形態では6個)の凸部11cが形成されている。このボルト穴17に挿通されるボルト3によりステータ10がモータハウジング2に固定される(図1及び図2参照)。
【0022】
コイル13は、所定本数の導線からなる巻線(本実施形態では、2本の導線からなる束線(パラ巻線)であり、以下束線と呼ぶ。)14を、絶縁特性を有する合成樹脂などで形成されたインシュレータ12を介してステータコア11のそれぞれのティース11bの周囲に突極集中巻きによって巻回することで形成される。
【0023】
コイル13は、それぞれ8個ずつのU相、V相及びW相の3相のコイルからなり、U相コイル13u、V相コイル13v、及びW相コイル13wが、時計方向にこの順で配置されてティース11bに巻回されている。即ち、他相のコイル13(例えば、V相コイル13v、及びW相コイル13w)を挟んで配置される同相のコイル13(例えば、U相コイル13u)同士は、他相のコイル13を跨いで配索される渡り部14Tにより接続されている。
【0024】
図5に示すように、インシュレータ12は、束線14が巻回される胴部24と、該胴部24の径方向両端部に設けられた外周側鍔部25及び内周側鍔部26と、を有する。胴部24は、ステータ10の軸方向に向いて対向する壁20,21及びステータ10の周方向に向いて対向する壁22、23によって、径方向に貫通する角穴24aを有して断面矩形の筒状に形成される。角穴24aの大きさは、ステータコア11のティース11bより僅かに大きく、ティース11bが挿通可能である。壁22、23には、束線14を巻回する際、束線14を位置決めするための複数の凹溝27が、角穴24aの軸芯に対して直交する方向に設けられている。
【0025】
外周側鍔部25の壁20側の端部には、周方向に離間して一対の略U字型の溝28、29が形成されている。また、内周側鍔部26の軸方向一端側部分(壁20側)は、軸方向から見て、周方向中間部から周方向両端面に向かって徐々に肉厚に形成されている。内周側鍔部26の周方向両端面と径方向外側面との隅部には、軸方向一端側に突出する略三角柱状の内側巻線支持部31、32が設けられている。また、内周側鍔部26の軸方向一端側部分には、周方向中間部から周方向両端面に向かうにつれて径方向内側に傾斜する傾斜面33、34が形成されており、この傾斜面33、34は、内側巻線支持部31、32の傾斜面31a、32aと対向して溝部35、36を形成する。
【0026】
さらに、内周側鍔部26の軸方向一端側部分と、壁20との境界部分には、周方向他端面側(図5において右側端面)から周方向一端面側(図5において左側端面)へと壁20に沿って最初に巻回される束線14を案内する、壁20に対して傾斜した案内部37が形成されており、また、案内部37には、溝部35から胴部24へ向かう束線14を軸方向に案内する段部37aが形成される。
【0027】
コイル13は、インシュレータ12の胴部24の周囲に束線14が複数回に亘って巻回されて形成される。なお、本実施形態ではインシュレータ12への巻き方が異なる2種類のコイル13を有する。コイル13は、図6(a)及び(b)に示すように、インシュレータ12の胴部24に巻回されたコイル13の第1巻き端41が、胴部24の径方向外側寄りに位置し、第2巻き端42が胴部24の径方向内側から異相となるコイル13を跨いで径方向外側に延びる。第1のコイル13は、図6(a)に示すように、第1巻き端41が、図中左側の溝29に挿入され、その端部41aが外周側鍔部25から径方向外側に僅かに突出するようにその長さが設定される。また、第1のコイル13は、第2巻き端42が、傾斜面33に軸方向に並ぶようにして溝部35を斜め右下方に通過し内側巻線支持部31に係止される。この内側巻線支持部31から先は、図3に示すように径方向外側に延びてその端部42aが周方向に隣り合う同相のコイル13の第1巻き端41の端部41aに溝29の径方向外側において接合されるため、異相となるコイル13を跨ぐ渡り部14T分に加えて端部42aが外周側鍔部25から径方向外側に僅かに突出するようにその長さが設定される。
【0028】
また、図6(b)に示すように、第2のコイル13は、第1巻き端41が、図中右側の溝28に挿入され、その端部41aが外周側鍔部25から径方向外側に僅かに突出するようにその長さが設定される。また、第2のコイル13は、第2巻き端42が、内側巻線支持部32に巻き掛けられて傾斜面34に軸方向に並ぶようにして溝部36を斜め左下方に延びる。この内側巻線支持部32から先は、図3に示すように径方向外側に延びてその端部42aが周方向に隣り合う同相のコイル13の第1巻き端41の端部41aに溝28の径方向外側において接合されるため、異相となるコイル13を跨ぐ渡り部14T分に加えて端部42aが外周側鍔部25から径方向外側に僅かに突出するようにその長さが設定される。
【0029】
図3に戻り、各相8個ずつのコイル13(U相、V相及びW相コイル13u、13v、13w)は、それぞれステータコア11の半周分に相当する4個ずつ、2つのコイル群18(18u、18v、18w)に分けられている。即ち、ステータ10に対して左方向回りに形成されるコイル群18(図3中、境界線Pの左側に位置するコイル群)のコイル13は、第1のコイル13から構成され、ステータ10に対して右回りに形成されるコイル群18(図3中、境界線Pの右側に位置するコイル群)のコイル13は、第2のコイル13から構成されている。
【0030】
但し、図3に示す実施形態においては、ステータ10に対して右回りに形成されるコイル群18の第2のコイル13の内、後述する中性点に接続される3個のコイル13(13u、13v、13w)は、中性点との接続を容易にするため、第1巻き端41が、溝29に挿入されてその端部41aが上方に導出している。仮にこの3個のコイル13を第3のコイル13と称する。なお、ステータ10に対して右回りに形成されるコイル群18の全てのコイル13を、第2のコイル13で構成するようにしてもよい。この場合、中性点との接続が僅かに異なる。
【0031】
図3において、図中上方で、境界線Pの両側に最も近接して配置された同相の一対のコイル13から導出される束線14、具体的には、ステータ10に対して左回りに形成されるU相コイル群18uの第1のU相コイル13u、及びステータ10に対して右回りに形成されるU相コイル群18uの第2のU相コイル13uの、それぞれの第2巻き端42の端部42aが、U相接続端子15uに接続されている。
【0032】
同様に、図中上方で、境界線Pの両側に最も近接して配置された一対のV相コイル13vの第2巻き端42の端部42aがV相接続端子15vに接続され、一対のW相コイル13wの第2巻き端42の端部42aがW相接続端子15wに接続されている。
【0033】
また、左方向回りに形成されるコイル群18と右方向回りに形成されるコイル群18とが出会う位置、即ち、各相の接続端子15(U相、V相及びW相接続端子15u、15v、15w)の反対側で、境界線Pを挟んで両側に配置された各相一対、6個のコイル13の第1巻き端41の端部41aは、隣り合うコイル13の端部41a同士が、それぞれ接続線40によって接続されて、中性点を構成する。
【0034】
更に、左方向回りに形成されるコイル群18の各第1のコイル13の第2巻き端42は、インシュレータ12の溝部35を通って隣り合うコイル13の溝部36に挿入されて係止され、その端部42aが、周方向に隣り合う同相コイルの外周側鍔部25の径方向外側に延びる第1巻き端41の端部41aに接合されている。
【0035】
また、右方向回りに形成されるコイル群18のコイル13も同様に、各第2のコイル13の第2巻き端42は、インシュレータ12の溝部36を通って隣り合うコイル13の溝部35に挿入されて係止され、その端部42aが、周方向に隣り合う同相コイルの外周側鍔部25の径方向外側に延びる第1巻き端41の端部41aに接合されている。図7も参照して、第1巻き端41の端部41aと第2巻き端42の端部42aの接合部14aは、1つのコイル13の接合部14aを除いた残りのコイル13の接合部14aが、絶縁キャップ50によって覆われている。
【0036】
ここで、複数のコイル13のうち1つのコイル13の接合部14aが、温度検出素子としてのサーミスタ70の感温部71の近傍に配置されている。なお、以下の説明において、このサーミスタ70の感温部71の近傍に配置されたコイル13の接合部14aを、感温用接合部55と呼ぶ。
【0037】
感温用接合部55とサーミスタ70の感温部71とは、図9に示すように、カバー部材80により覆われており、感温用接合部55とサーミスタ70の感温部71とが周囲空間から隔離されている。従って、冷却オイル等の影響により温度検出精度の低下が防止される。
【0038】
カバー部材80は、例えばゴム等の絶縁材からなる絶縁性の円筒状部材であり、長手方向一端側がサーミスタ収容部81をなし、長手方向他端側が感温用接合部55を収容するコイル収容部82をなしている。即ち、長手方向一端側にサーミスタ収容部81のサーミスタ挿入孔81aが形成され、長手方向他端側にコイル収容部82のコイル挿入孔82aが形成されている。また、カバー部材80には、長手方向略中央部に内周壁83から内側に突出した1つの突出部84が形成される。突出部84の略中央部には、連通孔85が形成され、サーミスタ収容部81とコイル収容部82とは、連通孔85を介して連通している。また、突出部84の長手方向一端側はカバー部材80の中心軸に対し直交する水平面をなし、長手方向他端側は、連通孔85から離れるに従って、次第に拡径する湾曲面をなしている。従って、サーミスタ収容部81に収容されるサーミスタ70の下端は水平面で位置決めされるとともに、コイル収容部82に収容される感温用接合部55は湾曲面より一端側への移動が規制される。これにより、サーミスタ収容部81とサーミスタ収容部81との間に絶縁空間86が確保される。即ち、カバー部材80の内部は、突出部84により、サーミスタ収容部81と、コイル収容部82と、絶縁空間86とに仕切られている。
【0039】
このように構成されたカバー部材80のコイル収容部82に感温用接合部55を収容する。この際、感温用接合部55は接着剤によりカバー部材80に固定され、絶縁空間86は、接着剤溜りとなる。接着剤は、連通孔85を超えてサーミスタ収容部81に流出しないようにその量が設定される。カバー部材80の長手方向他端側は、接着剤とカバー部材80の接触面積を増やすために複数の段部87が形成される。なお、この段部87により、外観上、カバー部材80の一端側と他端側を区別可能となっている。
【0040】
一方、カバー部材80のサーミスタ収容部81にサーミスタ70の感温部71を収容する。この際、サーミスタ70の感温部71は、接着剤を用いずに、カバー部材80の弾性力により弾性固定される。従って、例えばサーミスタ70の故障等によりサーミスタ70を交換する際に、サーミスタ70のみをカバー部材80から取り外して交換することができる。
【0041】
なお、カバー部材80の形状は、サーミスタ収容部81と、コイル収容部82と、絶縁空間86とに仕切られている限り、特に限定されるものではない。例えば、図10に示すように、長手方向略中央部に内周壁83から内側に突出した2つの突出部84a、84bが形成されていてもよい。突出部84a、84bの略中央部には、連通孔85a、85bが形成され、サーミスタ収容部81とサーミスタ収容部81とは、連通孔85a、85bを介して連通している。また、それぞれの突出部84a、84bの長手方向両端側はカバー部材80の中心軸に対し直交する水平面をなし、サーミスタ収容部81に収容されるサーミスタ70の下端は水平面で位置決めされるとともに、コイル収容部82に収容される感温用接合部55の上端も水平面で位置決めされる。これにより、サーミスタ収容部81とサーミスタ収容部81との間の、2つの突出部84a、84b間に絶縁空間86が確保される。
【0042】
次に、ステータ10の製作手順について説明する。まず、24個のそれぞれのインシュレータ12に束線14を巻回して独立したコイル13を作成する。24個のコイル13の内、ステータ10に対して左回りに形成される12個のコイル13は、先に説明した第1のコイル13の巻き方で巻回し、ステータ10に対して右回りに形成されるコイルの内、9個のコイル13は、第2のコイル13の巻き方で巻回し、中性点に接続される3個のコイル13は、第1巻き端41から延びる束線14の端部41aが溝29に挿通する第3のコイル13の巻き方で巻回する。
【0043】
次いで、第1のコイル13が巻回された12個のインシュレータ12を、ステータコア11上に想定した境界線P(図3参照)の左側のティース11bに左回りに順次装着する。そして、第2のコイル13が巻回された9個のインシュレータ12を、ステータコア11上に想定した境界線Pの右側のティース11bに、右回りに順次装着し、更に、第3のコイル13が巻回された残り3個のインシュレータ12を、第2のコイル13に続けて右回りに順次装着する。各コイル13は、互いに独立してインシュレータ12に巻回されているので、ティース11bへの挿入が容易であり、生産性が高い。
【0044】
続いて、渡り部14Tを成形しながら配索する。具体的には、図3を参照して、ステータ10に対して左方向回りに形成される第1のコイル13の第2巻き端42を、隣り合うインシュレータ12の溝部36に挿通して成形し、更に、端部42aを周方向に隣り合う同相コイルのインシュレータ12の左側の溝29に挿入する。これにより、渡り部14Tが成形される。また、同相コイル(例えば、U相コイル13u)の一方のコイル13の第1巻き端41の端部41aと、他方のコイル13の第2巻き端42の端部42aとが、溝29中で揃えられる。
【0045】
同様に、ステータ10に対して右方向回りに形成される第2のコイル13の第2巻き端42を、隣り合うコイル13の溝部35に挿通して成形し、更に、端部42aを周方向に隣り合う同相コイルのインシュレータ12の右側の溝28に挿入する。これにより、渡り部14Tが成形される。また、同相コイル(例えば、U相コイル13u)の一方のコイル13の第1巻き端41の端部41aと、他方のコイル13の第2巻き端42の端部42aとが、溝28中で揃えられる。
【0046】
更に、各相の接続端子15の反対側に配置される6個のコイル13、即ち、中性点に接続される3個ずつの第1及び第3のコイル13のそれぞれの第1巻き端41の端部41aの内、隣り合うコイル13の端部41a間に、この端部41a同士を接続するように、略コの字型に成形した接続線40を配置する。
【0047】
次いで、溝28、29中で揃えられた束線14の端部41a、42a、及び接続線40を、例えば、超音波溶接装置を用いて超音波を印加して接合する。なお、束線14の溶着される部分の絶縁被膜は、接合に先だって剥離される。
【0048】
そして、ステータ10をハウジング2にボルト3で固定する。更に、境界線P(図3参照)の両側に最も近接して配置された同相の一対のコイル13の第2巻き端42の端部42aに、各相の接続端子15(15u、15v、15w)を接合する。
【0049】
次に、サーミスタ70の近傍に配置されたコイル13以外の残りのコイル13の接合部14aを絶縁キャップ50で覆う。そして、サーミスタ70の近傍に配置されたコイル13の接合部14a、即ち感温用接合部55に接着剤を塗布してカバー部材80のコイル収容部82に収容して、カバー部材80を装着する。続いて、カバー部材80のサーミスタ収容部81にサーミスタ70の感温部71を装着する。この際、サーミスタ70を、ハウジング2にボルト3で固定されたステー51に、クリップ52で支持させる。
【0050】
上記したように、本実施形態の電動機の突極集中巻きステータ10によれば、コイルの一部である感温用接合部55とサーミスタ70の感温部71がカバー部材80で覆われており、感温用接合部55とサーミスタ70の感温部71が周囲空間から隔離されているので、感温部71が周囲空間あるいは冷却油の温度に影響を受けるのを抑制することができ、感温部71においてより精度良くコイルの温度を検出することができる。
【0051】
さらに、突出部84、84a、84bによりサーミスタ収容部81と、コイル収容部82と、サーミスタ収容部81とコイル収容部82との間に位置する絶縁空間86とに仕切られているので、サーミスタ70の周囲に絶縁材を充填することなくコイル13とサーミスタ70とを絶縁することができ、サーミスタ70の取付けおよび取外しが容易となる。したがって、サーミスタ70が故障した際においても、コイル13を取り外すことなくサーミスタ70のみを取り外して交換することができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、コイル13とサーミスタ70の端部との少なくとも一方が突出部84、84a、84bに当接することにより、コイル13及び/又はサーミスタ70が位置決めされるため、コイル13及び/又はサーミスタ70の位置のばらつきを抑制することができ、感温部71においてより精度良くコイル13の温度を検出することができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、カバー部材80は、感温用接合部55が挿入されるコイル挿入孔82aと、サーミスタ70が挿入されるサーミスタ挿入孔81aとを別々に備えるので、サーミスタ収容部81の位置やサーミスタ70のカバー部材80への挿入方向を、ステータ10を構成する部品の配置に応じて任意に設定でき、サーミスタ70のカバー部材80に対する固定および取外しをさらに容易に行なうことができる。なお、カバー部材80の同じ側にサーミスタ挿入孔81aとコイル挿入孔82aを形成してもよく、サーミスタ挿入孔81aとコイル挿入孔82aとを1つの孔として、内部でサーミスタ収容部81とコイル収容部82とに分かれていてもよい。
【0054】
また、本実施形態によれば、サーミスタ70はカバー部材80に弾性固定されているので、サーミスタ70のカバー部材80に対する固定および取外しをさらに容易に行なうことができる。
【0055】
また、本実施形態によれば、コイル収容部82に感温用接合部55が収容されるので、カバー部材80により感温用接合部55の接合を保護しつつ、より精度よくコイル13の温度を検出することができる。また、カバー部材80は絶縁材によって形成されているので、感温用接合部55を周囲空間と絶縁することができる。
【0056】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。上記説明では、外転型電動機の突極集中巻きステータについて説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、複数のティースがステータコアの円環部から径方向内側に突出して形成される内転型電動機のステータ、分割コアからなるステータなど、他の形式のステータにも同様に適用することができる。また、インシュレータ12の代わりに絶縁紙などを介在させてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 電動機
10 ステータ(突極集中巻きステータ)
11 ステータコア
11b ティース
12 インシュレータ
13 コイル
14 束線(巻線)
14a 接合部
41 第1巻き端
41a 端部
42 第2巻き端
42a 端部
55 感温用接合部
70 サーミスタ(温度検出素子)
71 感温部
80 カバー部材
81 サーミスタ収容部
81a サーミスタ挿入孔
82 コイル収容部
82a コイル挿入孔
84、84a、84b 突出部(仕切り部)
86 絶縁空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアと、
前記ステータコアに巻回されるコイルと、を備えた電動機のステータであって、
前記ステータは、前記コイルの温度を検出する感温部を有する温度検出素子と、前記コイルの一部と前記感温部とを覆うカバー部材と、を備え、
前記カバー部材の内部は、仕切り部により、前記温度検出素子が収容される温度検出素子収容部と、前記コイルの一部が収容されるコイル収容部と、前記温度検出素子収容部と前記コイル収容部との間に位置する絶縁空間と、に仕切られていることを特徴とする電動機のステータ。
【請求項2】
前記仕切り部は、前記カバー部材の内側において突出する突出部であり、
前記コイルの一部と前記温度検出素子の端部との少なくとも一方が前記突出部に当接することを特徴とする請求項1に記載の電動機のステータ。
【請求項3】
前記カバー部材は、前記コイルの一部が挿入されるコイル挿入孔と、前記温度検出素子が挿入される温度検出素子挿入孔とを別々に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動機のステータ。
【請求項4】
前記温度検出素子は前記カバー部材に弾性固定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電動機のステータ。
【請求項5】
前記ステータコアは、周方向に所定の間隔で配置され放射状に突出する複数のティースを有し、
前記コイルは、周方向に隣り合う前記ティースにおいて互いに異相となるように前記ティースに突極集中巻きで巻回される複数のコイルからなり、
前記複数のコイルは、それぞれ前記ステータの軸方向一端側に位置する第1巻き端と第2巻き端とを有し、
前記第1巻き端と前記第2巻き端の少なくとも一方が異相となるコイルを周方向に跨いで延びており、
周方向に隣り合う同相のコイルの一方の前記第1巻き端の端部と、他方の前記第2巻き端の端部とが接合されて接合部をなし、
前記コイル収容部に、前記複数個のコイルのうち1つのコイルの前記接合部が収容されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電動機のステータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−244703(P2012−244703A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110653(P2011−110653)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】