説明

電動機

【課題】 部品点数の低減化や組付性の向上を図ることができるばかりか、安定してブラシを押圧することができてブラシ作動音の発生を抑制することができる電動機を得る。
【解決手段】 電動機10では、各ブラシ34、36を付勢するブラシスプリング50が、コイル部52とこのコイル部52の両端からそれぞれ一体に延出して形成された一対の延出部54、56とを備えた単一の部品として構成されている。この単一の部品とされたブラシスプリング50の一対の延出部54、56によって、各ブラシ34、36がそれぞれ整流子24へ向けて押圧される。したがって、ブラシ圧を生じさせるためのブラシスプリング50が簡単な構造となり、部品点数の低減化や組付性の向上を図ることができる。またさらに、単一構成のブラシスプリング50によって複数のブラシ34、36をそれぞれ付勢(押圧)するため、各ブラシ34、36を安定して押圧することができる。このため、ブラシ34、36の作動音の発生を抑制することができ、ブラシ寿命を延ばすことが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電装品として好適な電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両のワイパ装置等を駆動するための電動機(DCモータ)は、整流子とこの整流子の周面に摺接される一対のブラシを有している(一例として、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、図5には、従来の直流モータ70におけるブラシ72及びブラシ74の周辺構造が示されている。
【0004】
この図5に示すように、中央部分に整流子76が挿通配置されたインシュレータプレート78(エンドブラケット)の所定位置には、一対のブラシケース部80、82が配設されている。ブラシケース部80、82は中空角柱形状を成しており、その内部に角柱状のブラシ72、74がそれぞれ保持されている。また、ブラシケース部80、82の近傍には、それぞれゼンマイバネ状のブラシスプリング88、90が配置されている。各ブラシスプリング88、90の内端はインシュレータプレート78に係止されており、また、ブラシスプリング88、90の外端はブラシ72、74の後端面に当接している。これにより、各ブラシスプリング88、90は、それぞれブラシ72、74を整流子76側へ押圧している。
【0005】
ここで、前述の如く従来の直流モータ70では、一対のブラシ72、74にそれぞれ対応してブラシスプリング88、90が設けられた構成であったため、当該ブラシスプリング88、90が各ブラシ72、74の数だけ必要になり、部品点数の低減化や組付性の向上を阻害する原因であった。また、各ブラシ72、74毎に別々のブラシスプリング88、90を設けた構成であるため、各ブラシスプリング88、90による各ブラシ72、74への付勢力(押圧力)にバラツキが生じやすく、各ブラシ72、74毎のブラシ圧に差が生じて作動音が大きくなる原因であった。
【特許文献1】特開2002−165413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、部品点数の低減化や組付性の向上を図ることができるばかりか、安定してブラシを押圧することができてブラシ作動音の発生を抑制することができる電動機を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明の電動機は、モータ回転軸に固定された整流子と、前記整流子の周面に摺接される複数のブラシと、前記各ブラシを前記整流子の軸線に対して直交する方向へ移動可能にそれぞれ保持するブラシケース部と、前記ブラシケース部を支持するケースと、前記ケースに保持された支持部に支持され前記ブラシケース部に保持された前記各ブラシを前記整流子側へ付勢する付勢手段と、を有する電動機において、前記付勢手段は、前記各ブラシケース部の間で前記ケースに支持された本体部と、前記本体部を中心に前記各ブラシケース部に向けてそれぞれ一体的に延出して形成され前記各ブラシに当接してそれぞれを押圧する延出部と、を備えている、ことを特徴としている。
【0008】
請求項1記載の電動機では、各ブラシを付勢する付勢手段が、本体部とこの本体部に一体的に形成された延出部とを備えた単一の部品として構成されている。この単一の部品とされた付勢手段の延出部によって、各ブラシがそれぞれ整流子へ向けて押圧される。
【0009】
したがって、ブラシ圧を生じさせるための付勢手段が簡単な構造となり、部品点数の低減化や組付性の向上を図ることができる。またさらに、単一構成の付勢手段によって複数のブラシをそれぞれ付勢(押圧)するため、各ブラシを安定して押圧することができる。このため、ブラシの作動音の発生を抑制することができ、ブラシ寿命を延ばすことが可能になる。
【0010】
請求項2に係る発明の電動機は、請求項1記載の電動機において、前記各延出部の間の少なくとも1箇所に非導電部が設けられている、ことを特徴としている。
【0011】
請求項2記載の電動機では、各延出部の間、すなわち各ブラシの間が非導電部によって電気的に非導通とされる。したがって、異なる極のブラシに対して、ばね特性(付勢力特性)が安定している導電性金属部材を使用することが可能となり、各ブラシを安定して押圧することができる。したがって、各ブラシ毎のブラシ圧に差が生じ難くなり、ブラシ作動音の低減に寄与する。
【0012】
請求項3に係る発明の電動機は、請求項1または請求項2記載の電動機において、前記各延出部の前記各ブラシとの当接部分は、前記整流子軸方向の高さ寸法がそれぞれほぼ同一に設定されている、ことを特徴としている。
【0013】
請求項3記載の電動機では、各延出部の各ブラシとの当接部分、すなわち各ブラシへの押圧位置をほぼ同じに設定しているため、押圧力を安定させることができる。したがって、各ブラシ毎のブラシ圧に差が生じ難くなり、ブラシ作動音の低減に寄与する。
【0014】
請求項4に係る発明の電動機は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の電動機において、前記付勢手段は、線材が前記整流子軸方向に沿った軸芯を有するコイル状に複数回巻回され前記本体部としてのコイル部を有すると共に前記コイル部の両端から前記延出部がそれぞれ延出して形成された単一のコイルバネとされており、前記各延出部の前記各ブラシとの当接部分の前記整流子軸方向の高さが、前記コイル部の該軸方向高さのほぼ中間位置に設定されている、ことを特徴としている。
【0015】
請求項4記載の電動機では、各延出部の各ブラシとの当接部分の高さを、コイル部の軸方向高さのほぼ中間位置に設定しているため、コイル部から延出される各延出部をそれぞれほぼ同一の長さに形成することができる。したがって、押圧力を安定させることができ、ブラシ作動音の低減に寄与する。
【0016】
請求項5に係る発明の電動機は、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の電動機において、前記付勢手段は、前記整流子の周方向における前記ブラシケース部の互いの配置角度が狭い部分に配置されている、ことを特徴としている。
【0017】
請求項5記載の電動機では、付勢手段の延出部の長さを短くすることができる。このため、付勢手段の小型化、搭載性(組付性)の向上、及び押圧力の安定化に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図4には本発明の実施の形態に係る電動機10の全体構成が断面図にて示されている。
【0019】
電動機10は、有底円筒状に形成され装置外枠とされるモータヨーク12を備えている。このモータヨーク12の内周面には界磁磁石14(固定子)が固着されており、また、モータヨーク12内にはアーマチャ16(回転子)が配置されている。アーマチャ16のアーマチャシャフト18(回転軸)は、前後それぞれが軸受20、22によって支持されており、さらに、このアーマチャシャフト18には円筒状の整流子24が取り付けられている。このため、アーマチャシャフト18が回転すると、整流子24も一体で回転するようになっている。
【0020】
ここで、図1には、整流子24の周辺部分の構成が、アーマチャシャフト18の軸方向(すなわち、整流子24の軸方向)に視た正面図にて示されている。
【0021】
当該部位においては、モータヨーク12の開口部分に当該開口を塞ぐように樹脂製のエンドブラケット26が設けられている。このエンドブラケット26には、整流子24に対応して一対のブラシケース部30及びブラシケース部32が一体成形もしくは別体物として設けられている。
【0022】
各ブラシケース部30、32は、中空角柱形状に形成されており、整流子24の軸線に対して直交する方向を長手方向として配置されている。このブラシケース部30、32内には、当該ブラシケース部30、32の長手方向(即ち、整流子24の周面に対して接近及び離間する方向であると共に整流子24の半径方向でもある)に沿って摺動可能にブラシ34、36がそれぞれ収容されている。
【0023】
ブラシ34、36は角柱状に形成されており、その側面とブラシケース部30、32の内壁面との間には僅かなクリアランスが設定されている。また、ブラシ34、36の前端面は、整流子24の周面に密着するように円弧面状に形成されている。また、各ブラシ34、36の側面にはそれぞれピッグテール38、40の一端部が接続されていおり、このピッグテール38、40の他端部は、給電用の接続線42、44に接続されている。
【0024】
また、各ブラシケース部30、32の間には、すなわち、整流子24の周方向における各ブラシケース部30、32の互いの配置角度が狭い部分には、スプリング係止用の突起46が設けられている。この突起46は、整流子24(アーマチャシャフト18)の軸方向に沿って、エンドブラケット26に一体的に立設されている。さらに、この突起46には、「付勢手段」としてのブラシスプリング50が取り付けられている。
【0025】
図2(A)、図2(B)、及び図3に示す如く、このブラシスプリング50はコイルスプリングの一種として構成されており、突起46に係止される「本体部」としてのコイル部52と、このコイル部52の両端からそれぞれ一体に延出して形成された一対の延出部54、延出部56とによって構成されている。すなわち、ブラシスプリング50は、線材がコイル状に複数回巻回されてコイル部52が形成されており、しかもこのコイル部52の両端から延出部54、延出部56がそれぞれ一体に延出して形成されており、全体として単一のコイルスプリングとして構成されている。
【0026】
このブラシスプリング50は、コイル部52が突起46に嵌入して係止されると共に、延出部54、56がそれぞれブラシ34、36に当接してそれぞれを押圧している。この場合、前述の如く突起46は、整流子24の周方向における各ブラシケース部30、32の互いの配置角度が狭い部分に設けられているため、この突起46に係止されたブラシスプリング50も、同様に、整流子24の周方向における各ブラシケース部30、32の互いの配置角度が狭い部分に設けられた構成となっている。
【0027】
またここで、このブラシスプリング50においては、各延出部54、56の各ブラシ34、36との当接部分は、整流子24軸方向の高さ寸法がそれぞれほぼ同一に設定されている。またしかも、各延出部54、56の各ブラシ34、36との当接部分の整流子24軸方向の高さが、コイル部52の該軸方向高さのほぼ中間位置に設定されている。
【0028】
またさらに、ブラシスプリング50の一方の延出部56の先端部分には、「非導電部」としての絶縁コーティング58が施されている。なお、この絶縁コーティング58を他方の延出部54にも設ける構成としてもよく、各延出部54、56の間の少なくとも1箇所に「非導電部」が設けられた構成であればよい。
【0029】
次に本実施の形態の作用を説明する。
【0030】
上記構成の電動機10では、アーマチャ16(アーマチャシャフト18)が回転されると、これに伴って整流子24も同方向へ回転される。一方、ブラシケース部30、32内には整流子24の軸線に対して直交する方向へ移動可能にブラシ34、36が保持されており、当該ブラシ34、36はブラシスプリング50の延出部54及び延出部56によって整流子24側へ付勢されているため、整流子24の周面上をブラシ34、36が摺接する。これにより、整流作用が成される。
【0031】
ここで、この電動機10では、各ブラシ34、36を付勢する付勢手段としてのブラシスプリング50が、コイル部52とこのコイル部52の両端からそれぞれ一体に延出して形成された一対の延出部54、56とを備えた単一の部品として構成されている。この単一の部品とされたブラシスプリング50の一対の延出部54、56によって、各ブラシ34、36がそれぞれ整流子24へ向けて押圧される。
【0032】
したがって、ブラシ圧を生じさせるためのブラシスプリング50が簡単な構造となり、部品点数の低減化や組付性の向上を図ることができる。またさらに、単一構成のブラシスプリング50によって複数のブラシ34、36をそれぞれ付勢(押圧)するため、各ブラシ34、36を安定して押圧することができる。このため、ブラシ34、36の作動音の発生を抑制することができ、ブラシ寿命を延ばすことが可能になる。
【0033】
また、このブラシスプリング50は、各延出部54、56の各ブラシ34、36との当接部分、すなわち各ブラシ34、36への押圧位置をほぼ同じに設定しているため、押圧力を安定させることができる。したがって、各ブラシ34、36毎のブラシ圧に差が生じ難くなり、これによってもブラシ作動音が低減する。
【0034】
またしかも、このブラシスプリング50は、各延出部54、56の各ブラシ34、36との当接部分の高さを、コイル部52の軸方向高さのほぼ中間位置に設定しているため、コイル部52から延出される各延出部54、56をそれぞれほぼ同一の長さに形成することができる。したがって、押圧力を安定させることができ、これによってもブラシ作動音の低減に寄与する。
【0035】
さらに、ブラシスプリング50の一方の延出部56の先端部分には絶縁コーティング58が施されているため、各ブラシ34、36の間が当該絶縁コーティング58(非導電部)によって電気的に非導通とされる。したがって、異なる極のブラシ34、36に対して、ばね特性(付勢力特性)が安定している導電性金属部材を使用することが可能となり、各ブラシ34、36を安定して押圧することができる。したがって、各ブラシ34、36毎のブラシ圧に差が生じ難くなり、ブラシ作動音の低減に寄与する。
【0036】
また、ブラシスプリング50は、整流子24の周方向における各ブラシケース部30、32の互いの配置角度が狭い部分に配置されているため、各延出部54、56の長さを短くすることができる。このため、このブラシスプリング50の小型化、搭載性(組付性)の向上、及び押圧力の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係る電動機のブラシスプリング及びその周辺部分の構成を示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電動機のブラシスプリングの構成を示し、(A)は平面図であり、(B)は正面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る電動機のブラシスプリングの構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る電動機の全体構成を示す断面図である。
【図5】従来の直流モータのブラシスプリング及びその周辺部分の構成を示す図1に対応した正面図である。
【符号の説明】
【0038】
10・・・電動機、12・・・モータヨーク、14・・・界磁磁石、16・・・アーマチャ、18・・・アーマチャシャフト(モータ回転軸)、24・・・整流子、30・・・ブラシケース部、32・・・ブラシケース部、34・・・ブラシ、36・・・ブラシ、50・・・ブラシスプリング(付勢手段)、52・・・コイル部(本体部)、54・・・延出部、56・・・延出部、58・・・絶縁コーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ回転軸に固定された整流子と、前記整流子の周面に摺接される複数のブラシと、前記各ブラシを前記整流子の軸線に対して直交する方向へ移動可能にそれぞれ保持するブラシケース部と、前記ブラシケース部を支持するケースと、前記ケースに保持された支持部に支持され前記ブラシケース部に保持された前記各ブラシを前記整流子側へ付勢する付勢手段と、を有する電動機において、
前記付勢手段は、前記各ブラシケース部の間で前記ケースに支持された本体部と、前記本体部を中心に前記各ブラシケース部に向けてそれぞれ一体的に延出して形成され前記各ブラシに当接してそれぞれを押圧する延出部と、を備えている、
ことを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記各延出部の間の少なくとも1箇所に非導電部が設けられている、ことを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項3】
前記各延出部の前記各ブラシとの当接部分は、前記整流子軸方向の高さ寸法がそれぞれほぼ同一に設定されている、ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の電動機。
【請求項4】
前記付勢手段は、線材が前記整流子軸方向に沿った軸芯を有するコイル状に複数回巻回され前記本体部としてのコイル部を有すると共に前記コイル部の両端から前記延出部がそれぞれ延出して形成された単一のコイルバネとされており、
前記各延出部の前記各ブラシとの当接部分の前記整流子軸方向の高さが、前記コイル部の該軸方向高さのほぼ中間位置に設定されている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の電動機。
【請求項5】
前記付勢手段は、前記整流子の周方向における前記ブラシケース部の互いの配置角度が狭い部分に配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の電動機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−94647(P2006−94647A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277727(P2004−277727)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】