説明

電動車及びその走行システム

【課題】電動車に大規模な蓄電装置や発電装置を搭載することなく、集電子及び電車線の磨耗を有効に抑制しながら、当該電動車の良好な走行を可能にする。
【解決手段】電動車4の集電子6を電車線1に対して接離可能にするとともに、この集電子6からの集電電力とは別に走行のための給電を行う車上給電ユニット10を搭載する。そして、走行区間や運転状況等に応じて、電動車4の走行状態を、集電子6からの集電なしに車上給電ユニット10からの供給電力を利用して走行する第1の走行状態と、少なくとも前記集電子6からの集電電力を利用して走行する第2の走行状態とに切換えるようにし、第1の走行状態では集電子6を電車線1から離間させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般鉄道、市内電車、新交通その他の各種交通システムに適用し得るものであり、架線その他の給電線からなる電車線から取り込んだ電力を利用して予め定められた軌道上を走行する電動車及びその走行システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前記のような電動車走行システムとして、特許文献1に開示されるものが知られている。ここに記載される電動車は、給電用の架線に対して摺接する集電部材を備え、当該集電部材から取り込んだ電力を利用して走行するように構成されている。
【特許文献1】特開平7−7805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記のように電動車が電車線から集電して走行を行うシステムでは、その走行のための動力源である電力を確保するために、電動車に設けられた集電子を電車線に常時摺接させながら走行する必要がある。従って、これら集電子及び電車線の磨耗は避けられず、その保守点検に要する作業及び費用の削減が大きな課題となっている。
【0004】
なお、前記特許文献1には、電動車に設けられた集電部材(集電子)を電車線に対して接離可能とし、トンネル突入時等のように集電装置に大きな変動揚力が作用する区間は前記集電部材を電車線から離間させる制御を行うシステムが開示されているが、このシステムにおいても前記集電部材が前記電車線から離間するのはごく一時的であり、基本的には当該集電部材を当該電車線に常時接触させて走行するものであることに変わりはなく、集電部材及び電車線の磨耗抑制は期待できない。
【0005】
また、前記集電子に関する課題を解決するための手段として、電動車に蓄電装置または発電装置を搭載することにより、電車線からの集電を行わずして走行することを可能にしたシステムも提唱されているが、このような架線レス走行システムでは前記蓄電装置や発電装置として非常に規模が大きなものを電動車に搭載しなければならず、その分積載重量や乗車定員の制限が厳しくなり、また大幅なコスト高も免れ得ないという不都合がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、電動車に大規模な蓄電装置や発電装置を搭載することなく、集電子及び電車線の磨耗を有効に抑制しながら、当該電動車の良好な走行を可能にする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、予め設置された軌道上を走行し、かつ、その軌道に沿って配線された電車線からの給電を受けてその電力により走行する電動車であって、走行中に前記電車線と接触して当該電車線から集電する集電位置と当該電車線から離間する非集電位置とに切換可能な集電子と、この集電子の位置を前記集電位置と前記非集電位置との間で切換える集電子切換手段と、前記集電子により集電される電力とは別に走行のための給電を行う車上給電手段と、電動車の走行状態を、前記集電子による集電は行わずに前記車上給電手段により供給される電力を利用して走行する第1の走行状態と少なくとも前記集電子から集電される電力を利用して走行する第2の走行状態とに切換える走行制御手段とを備え、この走行制御手段は、前記第1の走行状態では前記集電子を前記非集電位置に切換えさせ、前記第2の走行状態では前記集電子を前記集電状態に切換えさせるものである。
【0008】
この構成によれば、電動車の現在位置や運転状況等に応じてその走行状態を第1の走行状態と第2の走行状態とに切換えることにより、集電子及び電車線の磨耗を有効に抑制しながら、しかも電動車に大規模な蓄電装置や発電装置を搭載することなく、当該電動車の良好な走行を実現することができる。つまり、前記電動車の走行状態を第1の走行状態すなわち非集電走行状態であって車上給電手段からの電力供給により走行する状態にし、この状態で前記集電子と電車線とを離間させることにより、これらが常時摺接する従来システムに比べて当該集電子及び電車線の磨耗進行を有効に抑制することができるとともに、適当な時期に電動車の走行状態を第2の走行状態すなわち少なくとも集電子から取り込む電力を利用して走行する状態に切換えることにより、車上給電手段の負荷を減らしてその小型化、軽量化を図ることができる。
【0009】
具体的な制御内容としては、例えば、走行に必要な電力が一定未満の走行区間では電動車の走行状態を前記第1の走行状態にして集電子及び電車線の磨耗抑制を図る一方、走行に必要な電力が一定以上の走行区間では電動車の走行状態を前記第2の走行状態に切換えて車上給電手段の負荷軽減を図るといったものが有効である。
【0010】
また、電動車の発進時はその加速のために大きな電力を要するために走行状態を前記第2の走行状態にし、電動車の走行速度が所定の速度に到達して必要電力が低下した状態で前記第1の走行状態に切換えるようにしてもよい。
【0011】
また、前記走行制御手段は、前記電動車の運行を管理する運行管理装置とデータ通信を行い、かつ、前記運行管理装置から送られる走行指令に基づいて電動車の走行状態を制御するものであってもよい。
【0012】
この電動車によれば、当該電動車と、この電動車の軌道に沿って配線される電車線と、前記電動車の運行を管理する運行管理装置とを備え、この運行管理装置と前記電動車の走行制御手段とがデータ通信を行うように構成されるとともに、前記走行制御手段は前記運行管理装置から送られる走行指令に基づいて電動車の走行状態を制御する電動車走行システムを構築することができる。
【0013】
このシステムによれば、電動車とは別に設置された運行管理装置からの制御指令によって電動車の走行状態を遠隔制御することにより、システム全体を配慮した統括的な電動車走行制御を実現することが可能になる。
【0014】
例えば、路線区間の景観向上等を目的として前記電車線が間欠的に配線される場合であっても、前記運行管理装置が前記電車線が配線されている区間を記憶し、その区間以外の区間では前記電動車の走行状態を前記第1の走行状態(非集電走行状態)にさせる旨の走行指令を当該電動車の走行制御手段に送信する構成とすれば、電車線が連続していないにもかかわらず全軌道にわたって電動車を良好に走行させることが可能になる。
【0015】
また、前記電車線に異常が発生したときに前記運行管理装置が当該電動車の走行状態を前記第1の走行状態にさせる旨の走行指令を当該電動車の走行制御手段に送信する構成とすることにより、異常をきたした電車線が電動車側の電力系統に悪影響を及ぼすのを未然に回避するといったことも可能になる。
【0016】
本発明は、必ずしも前記運行管理装置を要するものではない。例えば、前記電動車において、前記走行制御手段が、その走行領域のうち少なくとも前記電車線が存在しない区間では電動車の走行状態を前記第1の走行状態にするものとしてもよい。
【0017】
例えば、その電動車に前記電車線の始端位置及び終端位置を検出する電車線検出手段を備え、少なくとも前記電車線の終端位置から次の電車線の始端位置までの区間では電動車の走行状態を前記第1の走行状態にするように前記走行制御手段を構成すれば、前記運行管理装置からの制御指令に頼ることなく、電動車自身が電車線の有無に基づいて走行状態の切換判断を行うことが可能になる。すなわち、この電動車は、その軌道上に沿って間欠的に配線された電車線とともに良好な走行システムを構築することができる。
【0018】
また、電動車がその電動車自体の現在位置を検出する位置検出手段を備えるとともに、前記走行制御手段が、前記第1の走行状態で走行すべき区間及び前記第2の走行状態で走行すべき区間を記憶しており、その記憶した区間と前記位置検出手段により検出される現在位置とに基づいて電動車の走行状態を切換える(例えば少なくとも前記電車線が存在しない区間では電動車の走行状態を前記第1の走行状態にする)ようにしても、電動車が独自に走行状態の切換判断を行うことが可能になる。
【0019】
ここで、前記位置検出手段としては、GPS衛星と通信してその電動車自身の現在位置に関するデータを取り込むものが、好適である。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、電動車に大規模な蓄電装置や発電装置を搭載することなく、集電子及び電車線の磨耗を有効に抑制しながら、当該電動車の良好な走行を実現できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の第1の実施の形態を図1に基づいて説明する。
【0022】
図示の電動車走行システムは、予め設置された軌道に沿って走行する電動車4と、その給電のための電車線1と、運行管理装置2とを備えている。
【0023】
前記電車線1は、前記電動車4の軌道に沿って配線されている。運行管理装置2は、信号送受信器3を介して後述のように電動車4と相互にデータ送受信できるよう施設されている。
【0024】
電動車4は、図略の走行装置の他、車上走行制御装置5、集電子6、アクチュエータ7、集電側遮断器8、車上給電側遮断器9、及び車上給電ユニット10を備えている。
【0025】
前記集電子6は、前記電車線1に対して接触する集電位置と、当該電車線1から離間する非集電位置とに切換可能であり、前記集電位置で前記電車線1と摺接することにより当該電車線1から走行のための電力を取り込む。
【0026】
アクチュエータ7は、前記集電子6に接続され、前記車上走行制御装置5から入力される切換指令信号により前記集電子6の位置を前記集電位置と前記非集電位置とに切換える。このアクチュエータ7は、例えばソレノイドやモータにより構成することが可能である。
【0027】
集電側遮断器8は、前記集電子6と図略の走行装置及び前記車上給電ユニット10との間に介在し、前記車上走行制御装置5からの切換指令信号により、前記集電子6と前記走行装置及び車上給電ユニット10とを電気的に接続する状態と遮断する状態とに切換えられる。同様に、車上給電側遮断器9は、車上給電ユニット10と前記集電側遮断器8及び走行装置との間に介在し、前記車上走行制御装置5からの切換指令信号により、前記車上給電ユニット10と前記集電側遮断器8及び走行装置とを電気的に接続する状態と遮断する状態とに切換えられる。
【0028】
車上給電ユニット10は、充放電制御装置11及び蓄電ユニット12からなる蓄電部を備え、前記集電子6による集電系統とは別に前記走行装置に対して電力を供給する機能を有する。なお、この車上給電ユニット10は、図1に二点鎖線で示されるような発電制御装置13及び発電装置14からなる発電部を備えるものであってもよく、あるいは前記蓄電部及び発電部の双方を具備するものであってもよい。
【0029】
前記車上走行制御装置5は、運行管理装置2と通信を行い、この運行管理装置2から送信される制御指令に基づいて、電動車4の走行制御を実行する。
【0030】
具体的に、前記車上走行制御装置5は、電動車走行路部全長にわたって布設された通信線(ループ線)と、前記電動車4側に搭載された図略の車上信号送受信器とを介して、前記運行管理装置2との間で信号を相互に伝達するように構成されるとともに、その運行管理装置2から送信される制御指令に基づき、前記アクチュエータ7及び遮断器8,9に切換指令信号を出力することによって電動車4の走行状態を第1の走行状態と第2の走行状態との間で切換える動作を行う。
【0031】
ここで、第1の走行状態とは、前記集電子6による集電は行わずに前記車上給電ユニット10により供給される電力を利用して走行する状態を意味する。この走行状態は、集電側遮断器8を開いて車上給電側遮断器9を閉じることにより実現される。また、この第1の走行状態では、集電子6による集電は不要であるため、アクチュエータ7の作動によって集電子6を非集電位置すなわち電車線1から離間する位置に切換えることにより、当該集電子6及び電車線1の磨耗の進行を阻止することができる。
【0032】
これに対して第2の走行状態とは、前記集電子6から集電される電力を利用して走行する状態を意味する。この第2の走行状態は、例えば、アクチュエータ7の作動によって集電子6を集電位置すなわち電車線1に接触する位置に切換えるとともに、集電側遮断器8を閉じることにより実現される。この第2の走行状態において、車上給電側遮断器9の開閉は特に問わないが、同遮断器9を閉じておいて集電した電力の一部を蓄電ユニット12に蓄電することにより、将来的に第1の走行状態による走行を可能にする程度の電力を蓄えるようにしてもよい。
【0033】
運行管理装置2は、信号送受信器3を通じて前記車上走行制御装置5とデータの送受信を行うことにより、電動車4の遠隔走行制御を実行する。
【0034】
この実施の形態に係る運行管理システムは、前記電動車4及び運行管理装置2に加え、停留場手前から列車進行方向に沿って停車位置まで列車下部の軌道に複数設置された列車位置検出器(以降、「地上子」と言う)及び関連付帯設備を含んでおり、前記運行管理装置2は、図略の信号機及び電動車4と相互に情報交換を行うことにより、1)電動車4が信号停止しているか否か、2)信号停止しているときの電動車4と信号機との相対位置関係、3)電車線1の異常(例えば通電異常)の有無、といった情報について認識をしている。
【0035】
運行管理装置2は、電動車4が停止すべき停留場に近接すると前記地上子により電動車停止目標位置と現在位置との距離を認識し、電動車4に減速信号を発し所定位置への停止誘導を行う。さらに、停止位置にある地上子によって正常な位置に電動車4が停止したことを認識し、その認識に基づき、停留場における乗客案内放送開始→ホームドア開→電動車4のドア開→所定時間停止後のドア閉→列車発進の各指令を順次発する機能も有している。
【0036】
このように、運行管理装置2は、その機能の一部として前記の電動車制御機能をもつが、さらに、諸種の管理制御プログラム及びデータの入力あるいは車輌部・軌道部その他に状態検知センサーを付加することによって、運行管理装置2により広範な機能をもたせることが可能となる。
【0037】
そして、この実施の形態に係る電動車走行システムの特徴として、前記運行管理装置2は、前記電動車4の走行位置や走行状態に応じて当該電動車4の車上走行制御装置5に制御指令を出力し、この電動車4の走行状態を前記第1の走行状態と第2の走行状態との間で適正に切換える重要な役割を担う。その制御の好適例としては、次のようなものが挙げられる。
【0038】
制御例1:走行に必要な電力が一定未満の走行区間では電動車4の走行状態を前記第1の走行状態にし、走行に必要な電力が一定以上の走行区間では電動車4の走行状態を前記第2の走行状態に切換える。
【0039】
例えば、電動車4の発進時は加速のために大電力を要するので前記第2の走行状態にし、電動車4の走行速度が所定の速度に到達してほぼ安定した段階で走行状態を前記第1の走行状態に切換えるようにする。つまり、電動車4の集電動作は、原則として停留場付近での停止及び発進直後の状態でのみ行う。ただし、走行路途上で信号停止が生じたときも同様の動作を行うことが望ましい。
【0040】
また、駅間距離が大きい場合や上り勾配が続く区間での走行時、走行以外の電気的負荷(例えば夜間時の点灯や夏季の空調による負荷)が大きい時に第2の走行状態に切換えるようにしても、車上給電ユニット10の負荷を短時間で有効に軽減することが可能になる。このような制御は、例えば路線線形に応じた集電動作論理に基づいて予めプログラミングしておくことにより、実現することが可能である。
【0041】
制御例2:電車線1が全走行領域に配線されているのではなく一部の領域のみに間欠的に配線されている場合、運行管理装置2に前記電車線1の配線区間を記憶させ、少なくともその配線区間以外の区間では前記電動車4の走行状態を前記第1の走行状態に切換えさせるようにする。このように、本システムでは必要に応じて特定区間で電車線1を省略することが可能であり、これにより、例えば市内電車では、景観の向上や市内道路の整備障害の回避といった利点を得ることが可能になる。
【0042】
すなわち、本発明では、軌道全線に電車線1が設置された既設の路線に対して直ちに適用することも可能であるし、これから新設される路線については電車線1の設置範囲を限定して建設し運行することも可能になる。
【0043】
制御例3:少なくとも電車線1に断線や短絡といった通電異常が発生したときに電動車4の走行状態を前記第1の走行状態にさせる。このようにして電車線1の異常時に当該電車線1と電動車4とを電気的に遮断することにより、異常をきたした電車線1が電動車4の電力系統に悪影響を与えるのを回避することができ、当該電動車4の安全性をより高めることが可能になる。
【0044】
そして、前記制御例1〜3のいずれにおいても、第1の走行状態では集電子6と電車線1との摺接がなくなるため、両者が実質上常時接触する従来の電動車走行システムに比して、前記集電子6及び電車線1の磨耗進行は有効に抑止される。しかも、必要に応じて集電子6からの集電も行うことにより、車上給電ユニット10の定格を小さく設定することができ、当該ユニット10の大型化、大重量化に伴う不都合(積載重量・乗車定員の制限増大や大幅なコストアップ)を回避することができる。
【0045】
なお、前記制御例1〜3は必ずしも相互独立したものではなく、これらの制御例を組合わせて実施することも可能である。
【0046】
具体的に、前記第1の走行状態と第2の走行状態との間の切換は、例えば図2及び図3に示すような制御動作によって実行することが可能である。
【0047】
図2は、前記第1の走行状態から第2の走行状態に切換えるための制御動作例を示したものである。この例では、車上走行制御装置5に集電動作指令が入力され(ステップS11でYES)、かつ、電動車4の運転状態が予め設定された全ての集電切換条件を充足する場合(ステップS12でYES)にのみ、第1の走行状態から第2の走行状態への切換がなされる。
【0048】
ここで、前記「集電動作指令」は、電動車の走行システムを判断する制御装置、例えば前記運行管理装置2が、電動車4の運行に関する諸条件を勘案して発するものである。この集電動作指令としては、例えば、イ)電動車4が停留場に接近していることを地上子等により検知して集電を実行すべき地点であると判断したときに発せられるものや、ロ)車外から車上電源装置の能力不足を検知したときに電動車4の減速指令とともに発せられるもの、等が挙げられる。
【0049】
また、前記「集電切換条件」としては、集電が実行可能となるためのシステム上の条件、例えば、a)電動車4が電車線1の設置区間内にあることや、b)電車線1に正常な電圧が印加されていることの他、集電状態に切換えるのに「好ましい」と考えられる条件、例えば、c)電動車4の車速が所定速度以下であること、d)電動車4の走行負荷が一定値以上であること、e)車上供給電力が不足していること、等を付加するようにしてもよい。また、c)のように車速を条件とする場合、そのしきい値は電動車4の走行区間や位置によって適宜変化させるようにしてもよい。
【0050】
前記のように、集電動作指令の入力を確認し(ステップS11でYES)、かつ、全ての集電切換条件の充足を確認すると(ステップS12でYES)、第1の走行状態から第2の走行状態への切換動作として、集電子6の位置をそれまでの非集電位置から集電位置に切換えた後(ステップS13)、集電側遮断器8を閉じて(ステップS14)、集電電力による電動車4の運行をする(ステップS15)。このとき、車上給電側遮断器9は閉じておいて集電した電力の一部を車上給電ユニット10の蓄電ユニット12に蓄える充電制御を開始し(ステップS16)、当該充電が完了した時点で(ステップS17でYES)、前記車上給電側遮断器9を開いて充電制御を終了する(ステップS18)。
【0051】
なお、前記車上給電ユニット10が発電装置14を含む場合、同装置14の待機制御を併せて行うのが好ましい(ステップS19)。この待機制御は、前記発電装置14を停止もしくはアイドル運転させるものであり、同装置14の消費燃料節減を目的とする。
【0052】
一方、前記第2の走行状態において、図3に示すように、運行管理装置2(または電動車内の選択スイッチ等)から非集電動作指令が入力され(ステップS21でYES)、もしくは、前記「集電切換条件」のうちのいずれかの条件を充足しない状態(例えば電動車4が電車線1の設置区間外に逸脱した状態)になると(ステップS22でYES)、逆に第2の走行状態から第1の走行状態への切換を行うようにする。
【0053】
具体的には、集電側遮断器8を開き(ステップS23)、かつ、車上給電側遮断器9を閉じて給電制御を開始することにより(ステップS24)、車上給電ユニット10からの供給電力による電動車4の運行をする(ステップS25)。一方、集電子6の位置については、前記集電側遮断器8を開いた後に、それまでの集電位置から非集電位置に切換えるようにする(ステップS26)。
【0054】
つまり、この図3に示す例では、第2の走行状態から第1の走行状態に切換えるための条件(ステップS21,S22)を、第1の走行状態から第2の走行状態に切換えるための条件(図2のステップS11,S12)を裏返した条件としているのであるが、前者の条件と後者の条件は必ずしも完全に対応したものでなくてもよい。例えば、第1の走行状態から第2の走行状態への切換は車速が一定速度以下であることを条件とする一方、第2の走行状態から第1の走行状態への切換は電動車4の車上所有電力が一定以上であることを条件とするようにしてもよい。また、「非集電動作指令」信号の発信においても、例えば電動車4が車上電力のみで走行可能な条件を勘案して実際のシステムに対応するようにすればよい。
【0055】
次に、本発明の第2の実施の形態を図4に基づいて説明する。
【0056】
前記第1の実施の形態では、運行管理装置2が電動車4の現在位置を認識し、これに基づいて電動車4に集電/非集電切換の制御指令を送るようにしているが、例えば電動車4の車上走行制御装置5が電車線1の配線区間を記憶するようにし、かつ、当該電動車4にその電動車4自体の現在位置を検出する位置検出手段を搭載するようにすれば、前記運行管理装置2からの指令がなくても電動車4側で集電/非集電の判断すなわち第1の走行状態と第2の走行状態との切換の判断を行うことが可能になる。
【0057】
そこで、この第2の実施の形態では、前記電動車4側に、前記位置検出手段として、GPS(地球方位観測システム)衛星16と通信してその電動車自身の現在位置に関するデータを取り込む信号送受信器3′が搭載される一方、車上走行制御装置5に、その電動車4の運行路線と路線上の電車線1の配線区間を記憶するメモリが組み込まれている。そして、車上走行制御装置5は、前記GPS衛星16から送信されるデータに基づいて認識し得る電動車4自体の現在位置が電車線1の配線区間内にあるときには、電動車4の走行状態を第2の走行状態すなわち少なくとも集電子6から取り込まれる電力を利用して走行する状態に切換え、逆に前記現在位置が前記配線区間から逸脱しているときには、電動車4の走行状態を第1の走行状態すなわち車上給電ユニット10からの給電のみによって走行する状態に切換えるように構成されている。
【0058】
すなわち、この実施の形態では、車上走行制御装置5がGPS信号と自己が記憶する電車線配線区間とに基づいて前述の制御例2を実行するものとなっている。ただし、この場合でも、実際の走行制御内容は前記制御例2に限るものではなく、第1の走行状態で走行すべき区間と第2の走行状態で走行すべき区間とを車上走行制御装置5に記憶させておけば、前記制御例1や制御例3、あるいはその他の制御も実行することが可能になる。
【0059】
また、制御例2の実行については、必ずしも前記GPSのような自己位置検出システムを用いなくてもよく、例えば前記電車線1の始端位置及び終端位置を検出する電車線検出手段を備え、少なくとも前記電車線1の終端位置から次の電車線1の始端位置までの区間では電動車の走行状態を前記第1の走行状態にするように車上走行制御装置5を構成してもよい。
【0060】
その具体例を第3の実施の形態として図5に示す。図示の電車線1は、電動車4の軌道に沿って間欠的に配線されており、各電車線1(セグメント)の始端近傍及び終端近傍にそれぞれ始端部発信機17及び終端部発信機18が設けられている。
【0061】
一方、電動車4には前記発信機17,18と協働する車上受信機20が設置され、この車上受信機20が前記始端部発信機17または終端部発信機18からの信号を受信することにより、電動車4が各電車線1の始端位置及び終端位置にあることがそれぞれ検出できるようになっている。
【0062】
なお、前記発信機17,18及び受信機20の方式は特に問わず、無線式、光学式、磁気式、ICタグ方式、その他各種のものが適用可能である。また、電車線1の始端位置及び終端位置に相当する位置を軌道側から検出するようにしてもよい。
【0063】
このような構成においても、前記電車線1の終端位置から次の電車線1の始端位置までの区間すなわち非配線区間では電動車4を第1の走行状態とし、それ以外の区間すなわち配線区間では電気的負荷の大小等に応じて電動車4を第1の走行状態と第2の走行状態とに適宜切換えるように車上走行制御装置5を構成すれば、前記図1に示した運行管理装置2からの制御指令に頼ることなく電動車4が独立して自己の適正な走行制御を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電動車及びその走行システムを示す構成図である。
【図2】前記電動車を第1の走行状態から第2の走行状態に切換えるための制御動作の例を示すフローチャートである。
【図3】前記電動車を第2の走行状態から第1の走行状態に切換えるための制御動作の例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る電動車及びその走行システムを示す構成図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る電車線検出手段を示す構成図である。
【符号の説明】
【0065】
1 電車線
2 運行管理装置
3 信号送受信器
3′ 信号送受信器(位置検出手段)
4 電動車
5 車上走行制御装置
6 集電子
7 アクチュエータ(集電子切換手段)
8 集電側遮断器
9 車上給電側遮断器
10 車上給電ユニット
16 GPS衛星
17 始端部発信機
18 終端部発信機
20 車上受信機(電車線検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設置された軌道上を走行し、かつ、その軌道に沿って配線された電車線からの給電を受けてその電力により走行する電動車であって、走行中に前記電車線と接触して当該電車線から集電する集電位置と当該電車線から離間する非集電位置とに切換可能な集電子と、この集電子の位置を前記集電位置と前記非集電位置との間で切換える集電子切換手段と、前記集電子により集電される電力とは別に走行のための給電を行う車上給電手段と、電動車の走行状態を、前記集電子による集電は行わずに前記車上給電手段により供給される電力を利用して走行する第1の走行状態と少なくとも前記集電子から集電される電力を利用して走行する第2の走行状態とに切換える走行制御手段とを備え、この走行制御手段は、前記第1の走行状態では前記集電子を前記非集電位置に切換えさせ、前記第2の走行状態では前記集電子を前記集電位置に切換えさせるものであることを特徴とする電動車。
【請求項2】
請求項1記載の電動車において、前記走行制御手段は、走行に必要な電力が一定未満の走行区間では電動車の走行状態を前記第1の走行状態にし、走行に必要な電力が一定以上の走行区間では電動車の走行状態を前記第2の走行状態に切換えることを特徴とする電動車。
【請求項3】
請求項1または2記載の電動車において、前記走行制御手段は、電動車の発進時はその走行状態を前記第2の走行状態にし、電動車の走行速度が所定の速度に到達した後にその走行状態を前記第1の走行状態に切換えることを特徴とする電動車。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電動車において、前記走行制御手段は、前記電動車の運行を管理する運行管理装置とデータ通信を行い、かつ、前記運行管理装置から送られる走行指令に基づいて電動車の走行状態を制御するものであることを特徴とする電動車。
【請求項5】
請求項4記載の電動車と、この電動車の軌道に沿って配線される電車線と、前記電動車の運行を管理する運行管理装置とを備え、この運行管理装置と前記電動車の走行制御手段とがデータ通信を行うように構成されるとともに、前記走行制御手段は前記運行管理装置から送られる走行指令に基づいて電動車の走行状態を制御することを特徴とする電動車走行システム。
【請求項6】
請求項5記載の電動車走行システムにおいて、前記電車線が間欠的に配線されるとともに、前記運行管理装置は前記電車線が配線されている区間を記憶しており、その区間以外の区間では前記電動車の走行状態を前記第1の走行状態にさせる旨の走行指令を当該電動車の走行制御手段に送信することを特徴とする電動車走行システム。
【請求項7】
請求項5または6記載の電動車走行システムにおいて、前記運行管理装置は前記電車線に異常が発生したときに当該電動車の走行状態を前記第1の走行状態にさせる旨の走行指令を当該電動車の走行制御手段に送信することを特徴とする電動車走行システム。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の電動車において、前記走行制御手段は、その走行領域のうち少なくとも前記電車線が存在しない区間では電動車の走行状態を前記第1の走行状態にすることを特徴とする電動車。
【請求項9】
請求項8記載の電動車において、前記電車線の始端位置及び終端位置を検出する電車線検出手段を備え、前記走行制御手段は、少なくとも前記電車線の終端位置から次の電車線の始端位置までの区間では電動車の走行状態を前記第1の走行状態にすることを特徴とする電動車。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれかに記載の電動車において、その電動車自体の現在位置を検出する位置検出手段を備え、前記走行制御手段は、前記第1の走行状態で走行すべき区間及び前記第2の走行状態で走行すべき区間を記憶するとともに、その記憶した区間と前記位置検出手段により検出される現在位置とに基づいて電動車の走行状態を切換えることを特徴とする電動車。
【請求項11】
請求項10記載の電動車において、前記走行制御手段は、その走行領域のうち少なくとも前記電車線が存在しない区間では電動車の走行状態を前記第1の走行状態にすることを特徴とする電動車。
【請求項12】
請求項10または11記載の電動車において、前記位置検出手段は、GPS衛星と通信してその電動車自身の現在位置に関するデータを取り込むものであることを特徴とする電動車。
【請求項13】
請求項8〜11のいずれかに記載の電動車と、この電動車の軌道に沿って間欠的に配線される電車線とを備えたことを特徴とする電動車走行システム。
【請求項14】
請求項12記載の電動車と、この電動車の軌道に沿って間欠的に配線される電車線と、前記電動車の位置検出手段にその電動車自身の現在位置に関するデータを送信するGPS衛星とを備えたことを特徴とする電動車走行システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−296182(P2006−296182A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292635(P2005−292635)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】