電動車椅子の走行制御方法
【課題】障害物検知センサより障害物を検知して電動車椅子を走行停止させる機能させている電動車椅子において、障害物への衝突抑制制御を行いつつ、障害物の近傍迂回や離合、すれ違い、室内の壁際へ車体を収めるとなどの難しい操作を容易行える電動車椅子を提供する。
【解決手段】障害物を検知して走行禁止判定となり走行が一旦停止した後に、再度操作手段を停止以前と同じ方向に操作された場合は、注意喚起のため警報を発報ながら走行を許可する、さらに障害物の存在が判っている条件下では、自動的に速度を最低速に抑える制限を設けると共に、走行速度に応じて障害物検知の感度を変更する事によって、衝突の危険性を最小限押さえながら、すり抜けや狭所へ電動車椅子を収めると言った緻密な操作が容易となる。
【解決手段】障害物を検知して走行禁止判定となり走行が一旦停止した後に、再度操作手段を停止以前と同じ方向に操作された場合は、注意喚起のため警報を発報ながら走行を許可する、さらに障害物の存在が判っている条件下では、自動的に速度を最低速に抑える制限を設けると共に、走行速度に応じて障害物検知の感度を変更する事によって、衝突の危険性を最小限押さえながら、すり抜けや狭所へ電動車椅子を収めると言った緻密な操作が容易となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動車椅子、特に障害物検知センサにより障害物を検知して電動車椅子を走行停止させる機能を有する電動車椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動車椅子の走行方向を乗員が指示するためのジョイスティックなどの走行方向指示手段を備え、前記走行方向指示手段を乗員が操作することにより、簡単な操作だけで、電動モータなどが駆動されて前記指示走行方向に容易に走行することができる電動車椅子は知られている。
【0003】
この種の電動車椅子において、特開2003−324218号公報には、障害物を検知する非接触式の障害物検知センサを車椅子本体に設けて、前記障害物検知センサにて障害物を検知した場合に、検知された前記障害物が存在する方向以外の方向への走行が指示された場合は前記障害物が存在する方向以外の方向に走行することを許可し、前記障害物が存在する方向への走行が指示された場合には、その方向への走行を禁止する制御手段を有する構成が開示されている。
【0004】
この構成によれば、障害物検知センサの検知動作機能を一旦解除して、電動モータの給電動作を再開させた後、その状態で電動車椅子を障害物がない方向へ動作再開させると言った手間の増加を招かずに、常に障害物を検出し、衝突を警戒しながら電動車椅子を動作させる事ができる。
【0005】
しかしながら、上記特開2003−324218号公報に示されているような構成では、障害物との衝突を回避するために、障害物検知センサに所定の検出範囲(電動車椅子本体から障害物までの距離1〜1.5m程度)をあらかじめ調整し設定しなければならないため、当該距離以内の障害物の近傍を走行する場合は、やはり障害物検知センサはじめ障害物検出のための機能を一旦解除しなければならない。
【0006】
このことにより、採用する障害物検出センサの特性(横方向の検出範囲)によっては、例えば信号機・標識のポールなど縦長の障害物に対して反応して、そのまま障害物の近傍方向に進行しても、迂回が可能な障害物であっても、一意にその方向への進行が禁止されてしまうため、一旦後退して、障害物との位置、向きの関係を調整しながら操縦し再度接近進行させなければならない。
【0007】
また、電車内などで、他の乗客の迷惑とならないように客室の壁際隅に車椅子を移動させようとした場合、当該障害物検出センサによる走行禁止制御が機能して、壁際隅に車椅子を持ち込めず、障害物検知センサの検知動作機能を一旦解除して幅寄せ操作を行わざるを得ないため、障害物検知機能解除の手間と障害物検知機能解除による壁への接触の危険性が発生する。
【0008】
さらに、前方のみならず、後方側方と言った他の動作可能な方向へも障害物検知および障害物検出方向への動作禁止制御を拡張する場合、電車や施設内部と言った複数の障害物が混在する環境下においては、複数の方向に障害物を検知してしまい、結局どの方向へも動作できなくなる恐れがある。
と言った問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−324218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、障害物検知センサより障害物を検知して電動車椅子を走行停止させる機能させている電動車椅子において、障害物への衝突抑制制御を行いつつ、障害物の近傍迂回や離合、すれ違い、室内の壁際へ車体を収めると言った操作を容易に行えるようにする事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、障害物センサの障害物検知結果と操縦者の操作する操作手段の出力結果を元に総合的に走行可否を判断する走行許可判断手段および、霜害物が近傍にある中での動作である事を乗員に注意喚起する警告発報判断手段を有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の走行許可判断手段は、障害物検知センサからの障害物の有無の情報を走行許可判断手段へ入力し、障害物が検知されている場合は、警報発報手段へ発報を指示するとともにモータ駆動手段へ動作停止指示して、当該電動車椅子を一旦動作停止させ障害物への衝突を回避させる。
【0013】
その後、走行許可判断手段は、操作手段からの操作指示が一旦解除されるのを待ち、操作指示が解除されている間は、警報発報手段への発報指示も停止して、次の操作指示を待つ。
【0014】
次に走行許可判断手段は、上記動作停止後に操作指示が解除され警報発報も止んだ状態で、再度操作手段から障害物を検知中の方向を含む走行指示を受け付けた場合は、再度警報発報指示を警報発生手段へ送りつつ、走行許可(指示)をモータ駆動手段へ発し、走行を許可する。
【0015】
上述のような構成を採る事によって、障害物を検知した場合、一旦停止して衝突を回避する事ができ、再度障害物を検知した方向を含めて操作指示が行われた場合は、乗員への注意喚起を行いつつ動作を許可する事によって、障害物検知手段の解除等、特段の操作手順を踏まずとも、障害物近傍への走行を行う事ができるため、壁際へ電動車椅子を収める、余地幅の少ない場所を注意して通過する事が容易にできるという利点がある。
【0016】
さらに、障害物が検知されている方向に対しても制限付きながら動作が許可となるため、障害物検知センサを多方向に向けて設置し、同時に複数の方向に障害物を検知してしまう事によって、動作できる方向が失われる懸念も回避できる。
【0017】
また、上記警報は、ランプとブザーによる発報を想定しているが、操作手段からの操作指示がある場合に限定して発報を行うため、人混み等で一時的に行き場を失った場合も、乗員が、操作手段から手を離せば、発報が停止し周囲への煩わしさを軽減させる事ができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかる電動車椅子の側面断面図である。
【図2】図2は同電動車椅子の部分切欠正面図である。
【図3】図3は同電動車椅子の動作制御用コントローラの内部ブロック構成図である。
【図4】図4a、図4bは同電動車椅子の操作手段2の内部構造の一例を示す図である。
【図5】図5は、請求項1の電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の障害物有無判断手段の処理内容を示すフローチャートである。
【図6】図6は、同電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の走行許可判断手段の処理内容を示すフローチャートである。
【図7】図7は、同電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の走行許可判断手段が走行禁止判定時に行う処理を示すフローチャートである。
【図8】図8は、同電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の走行許可判断手段が走行許可判定時に行う処理を示すフローチャートである。
【図9】図9は、請求項1の電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の走行許可判断手段が走行制限判定時に行う処理を示すフローチャートである。
【図10】図10は、請求項2の同電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の走行許可判断手段が走行制限判定時に行う処理を示すフローチャートである。
【図11】図11は、請求項3の電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の障害物有無判断手段の処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図9を用いて説明する。ここで、図1は本発明の実施の形態にかかる電動車椅子の側面断面図、図2は同電動車椅子の部分切欠正面図、図3は同電動車椅子の動作制御用コントローラの内部ブロック図である。
【0020】
図1の様に本発明にかかる電動車椅子1は、乗員が電動車椅子を操作するための操作手段2、前部駆動輪5、駆動モータ4、動作制御コントローラ6、バッテリ7、後輪9および、これら全ての構成品を保持し車椅子を形成するフレーム8で構成されている。
【0021】
乗員は当該電動車椅子1の座面1aに着座し、操作手段2を操作して、電動車椅子を意図した方向へ走行指示するものとする。操作手段2は、一般にジョイスティックと呼ばれるレバー状の操作スイッチで、当該レバーを目的とする方向へ倒す事によって乗員の走行方向指示を受け付け、その方向と押し込み量を動作制御コントローラへ伝達する。動作制御コントローラ6は、この走行方向指示とそのときレバーを押し込まれた量を基に左右の駆動モータ4を動作させる速度を決定し、モータ4を駆動する。
【0022】
当該モータ4としては、DCブラシモータ等が採用され、PWM制御、つまりモータの電極に対して所望の極性で、短時間に断続的に電源をON/OFF(通電・非通電)を繰り返すことによって、その回転方向と回転速度の高低を制御できるものとする。
【0023】
よって、例えば、操作手段2のレバーを前進方向にレバーの可動範囲一杯に押し込まれた場合は、動作制御コントローラ6は、電動車いす1を前方向へ最大速度で移動させるために必要な左右のモータ4の通電ON時間を決定する。また、操作手段2のレバーを斜め右前方向にレバーの可動範囲未満で押し込まれた場合は、動作制御コントローラ6は、電動車いす1を斜め右前方へ最大速度以下でレバーの押し込み量に相当する速度で移動させるために必要な左右のモータ4の通電ON時間を決定しモータ駆動手段13に伝達する。
【0024】
他の移動方向についても同様で操作手段2のレバーの操作方向と操作量を基に、動作制御コントローラ6は、左右のモータ4の駆動速度を個別に決定して、電動車いす1を乗員の意図する方向への操縦することを可能としている。
【0025】
ここでは、まず前方の障害物への衝突回避を目的として、障害物検知センサ2を電動車椅子1の前面に配置する構成としたが、前方だけでなく、後方や側方に向けた障害物センサを設置して、これらの方向に対しても同時に衝突回避制御を行っても良い。
【実施例1】
【0026】
まず、動作制御コントローラ6(以下コントローラ)の内部ブロックを示す図3を使って、本発明の実施例を説明する。
操作手段2の乗員の操作内容(操作方向と量)を表す出力信号は、コントローラに入力され、操作手段の出力信号仕様がアナログの場合は、A/D変換器を介して、シリアル通信等のデジタル伝送の場合は、そのまま、コントローラ内部のCPU11内部の操作内容判断手段11aに入力されその解析が行われる。
【0027】
次に、障害物検知センサ3は、赤外線や超音波、レーザー光、電磁波を利用した非接触で前方障害物までの距離に比したアナログ電圧出力、または距離のデジタルデータをシリアル通信で出力するセンサで、上記同様に、当該センサの出力信号は、アナログの場合は、A/D変換器を介して、通信の場合は、障害物までの距離データをCPU11内の障害物検出手段11bに入力され、障害物検出手段11bは、かくして得られた障害物までの距離を元に当該センサの監視方向に対して、衝突が懸念される障害物が存在するかどうかを判断する。
【0028】
上記の判断は、電動車椅子の最高速度Sと最高速度運航時の停止時間Tに所定の余裕時間Taddを加味した時間(T+Tadd)から算出される、閾値停止距離(RefD=(T+Tadd)×S)以内の距離に障害物があるかどうかによって、障害物有無判断フローチャート図5によって判断が下される。ここで、RefDは、電動車椅子1の設計時に検討調整した固定値を用いる事とする。
【0029】
障害物有無判断はフローチャート図5に示すように、まずS1-1ステップで、現在の障害物センサの計測結果Dを入力し、S1-2ステップにおいて、CPU11内の不揮発メモリ領域に格納したRefDを読み出し、S1-3ステップで両者の大小関係を比較する。この比較の結果D≦RefDの場合は、センサが検知している障害物が電動車椅子1の衝突危険距離内にあるため、S1-4ステップに進んで障害物有りの判断を発報する。一方、D>RefDの場合は、衝突危険距離内に障害物が存在しないと言う事であるため、S1-5ステップに進んで、障害物なしの判定結果を出す。当該判定は、CPU11が電動車椅子1駆動中は、その動作制御プログラムを1巡回させる毎に1回実行され、常にその時々の障害物の有無の判定結果を更新しながら電動車椅子11を駆動、走行させる。
【0030】
障害物検出センサ3の出力に基づく、障害物検出手段11bの障害物有無判断フローチャート図5の判断の結果、障害物無しとなった場合は、当該電動車椅子は操作手段2の操作内容に即してモータ4を駆動して動作を継続する。一方、障害物有りとなった場合は、当該電動車椅子は操作手段2の操作内容に関係なくモータ4の駆動を停止する。
【0031】
ここで、電動車椅子1の操縦方法と操作手段2について図1、図4を用いて説明する。操作手段2は図4bのように乗員がつかんで操作するレバー2aとレバーの操作量を検出する基板2bおよびこれらを保持形成するカバー部材(図示せず)によって構成されており、図1の電動車椅子1の肘掛け部前端に、レバーの操作方向と電動車椅子の向きが一致するように設置されている。
【0032】
乗員は、操作手段2のレバー2aの上端部2A近傍を握って、電動車椅子1を走行させたい方向へレバー上端2Aを押し込む事によって電動車椅子を操縦する。また、押し込まれた方向への移動速度は、当該レバー2aの押し込み量によって決定される物とし、当該レバーは、乗員が意図した方向へ押し込む為の力を加える事をやめた場合、内蔵したスプリング機構(図示せず)によって中立位置に自動的に戻る構造となっている。
【0033】
レバー2aの押し込み方向と押し込み量の判別例を図4aに示す。この図は、レバー上端2Aと基板2bの位置関係で図示した。実際の操作手段2b内部のスイッチ接点の構造によっては基板2b上の領域分けの意味合いが方向的に前後と左右が逆となる場合があるが、当該操作手段2の構成、構造等は、本発明の特徴とはしていないので、詳しい電気、機構系の説明は省略する。
【0034】
上記図4bのレバー2a操作の判別例は、前進、後退と言った最も利用頻度の高い直進動作指示には、大きめの領域をさいて、乗員がその動作を継続させたいと考えているときに、レバーの状態を一定に保持しようと苦労しないで良いように配慮するとともに、直進判定領域の外側には、レバーを操作する向きが旋回の急峻さに比例する領域を配し、体の不自由な乗員にも容易に操作できるよう配慮しているが、あくまで一例であって、採用する操作手段の構造や特化する利用シーンによっては、適宜検討変更が行われる物とする。
【0035】
かくして、操作手段2に対して行われた乗員の操作内容は、コントローラ6に入力され、必要に応じてA/D変換が行われた後に、CPU11内操作内容判定手段11aに入力され、操作手段2を乗員がどのように操作中であるかを元に、操作内容判定手段11aでは、移動方向と移動速度に対する乗員の要求を判定する。当該判定結果は、ブロック図3後段の走行許可判断手段11cとモータ速度決定手段11dに送られ、障害物が検出されていない一般的な利用シーンにおいては、動作許可禁止判断手段11cは、常に動作許可の判定を下すため、操作内容判定手段11aの内容に即して、左右の駆動輪の回転速度がモータ速度決定手段11dによって決定され、その結果を基に最終的にはモータ駆動手段13によってモータが駆動され、電動車椅子1が走行する。
【0036】
最後に、図3の走行許可判断手段11cについて図6〜図9フローチャートを使って説明する。当該走行許可判断手段11cは、障害物センサ3の監視領域と障害物検出手段11bの障害物有無と、操作内容判定手段11aの乗員操作内容の判定結果を元に、電動車椅子1を乗員の操作指示通りに走行を許可するかどうかを判定する。
【0037】
フローチャート図6のように、走行許可判定手段11cでは、まず前処理として、S2-1〜S2-4ステップで障害物検出手段11bの障害物検出結果Rを受け取る、次に操作内容判定手段11aの判定結果として、最新の動作要求方向newSdと要求移動速度newSsを受領する。次にCPU11内の不揮発メモリに保持した前回判定時の操作内容判定手段11aの結果読み出し、それぞれoldSd、oldSsとする。最後にあらかじめ保持された障害物検知センサの監視方向Kを不揮発メモリから読み出す。このうち、操作内容判定手段11aの判定内容に対してS2-5ステップで検査を行う。まず、操作手段2が現在未操作と判定された場合は、s2-6ステップへ遷移し、その操作状態(未操作)を不揮発メモリに保存して、走行許可判定としそれに伴う処理を行い、当該判定を1回終了する。
【0038】
次に、操作手段2がいずれかの方向へ操作されている場合は、上記前処理で取得した情報を元に走行許可判定を開始する。まず、S2-7ステップで、障害物が検知されているかどうかを検定し、障害物なしの場合は、S2-12ステップへ進み走行許可判定とそれに伴う後段への出力を行って、当該判定を1回終了する。
【0039】
ここで、S2-12ステップの走行許可時の処理は、フローチャート図8に別記した様に、操作内容判定手段11aから受領した要求された操作内容(方向、速度)をそのまま、後段のモータ速度決定手段11dへ渡し、警告発報手段12に対して、ランプブザーの発報停止を伝達する。これによって、障害物検知センサが障害物を検知していない場合は、旧来通り走行する事ができる。当然ながら、操作手段2未操作の場合は、モータ4は停止して、電動車椅子1はその場に止まる事となる。
【0040】
障害物有無判定のステップS2-7へ戻り、障害物有りの場合は、S2-8ステップで現在の走行要求方向が障害物検知センサの監視範囲と一致するかどうかを判定する。監視範囲と走行要求方向が一致していない、つまり近傍に障害物があるが、障害物と衝突する方向への走行ではない場合、S2-11ステップに進み走行制限判定とし、それに伴う後段への処理を行い当該判定処理は1回終了する。
【0041】
また、再度S2-8ステップの判定に戻り、現在の走行要求方向と障害物検知センサの監視方向が一致している場合についての説明を続ける。この場合、s2-9ステップに進み、前回までの判定で当該電動車椅子は、一旦障害物検知のために自動停止し、その後乗員が操作手段2の操作を一旦止めて、操作内容判定手段の出力が操作手段2未操作となった経緯があるかどうかを検査する。そして、前回の当該判定までに、操縦操作が一時止められた場合も上記同様に、S2-11ステップへ進み、走行制限判定とそれに伴う処理を実行する。
【0042】
ここで、S2-11ステップの走行制限時の処理は、フローチャート図9に別記した様に、操作内容判定手段11aから受領した要求された操作内容(方向、速度)はそのままで、後段のモータ速度決定手段11dへ渡すが、併せて、警告発報手段12に対しては、ランプ、ブザーの発報を伝達する。これによって、障害物が近傍に存在する場合は、ランプ、ブザーで乗員に注意喚起しながら走行させる事ができる。
【0043】
最後に、S2-9ステップに戻り、前回までの判定で当該電動車椅子は、一旦障害物検知のために自動停止し、その後乗員が操作手段2の操作を一旦止めて、操作内容判定手段の出力が未操作となった経緯があるかどうかを検査した結果、前回の当該判定までに、操縦操作は止められることなく操作手段2が以前と同じ内容で操作が継続されていた場合は、S2-10の走行禁止判定とし、当該判定に伴う後段への処理を実施する。
【0044】
S2-10ステップの走行禁止判定時の処理は、フローチャート図7に別記したように、モータ速度決定手段11dに対して動作停止を伝送し、警報発報手段12に対して、ランプ、ブザーの発報を指示するものである。これによって、電動車椅子1を乗員所望の方向へ動作させている際に、障害物検知センサ3が障害物を検知した場合は、電動車椅子は操作手段2を一旦未操作にして、別な障害物のない方向などへ操作し直すまで一旦停止し、ランプ、ブザーによって障害物の存在を警報することとなる。
【0045】
当該、走行許可判定判断の処理は、他のブロックの処理と同様に、コントローラ6への電源投入後からCPU11内の制御プログラム処理1巡回に1回実施され、乗員の操作に対して遅滞なく処理を実行するものとする。
【実施例2】
【0046】
次に請求項2の場合は、請求項1の実施例に対して、走行許可判定手段の判定結果が、走行制限となった場合の動作のみ異なる。そこで、図6のS2-11ステップの走行制限時の処理についてだけ、フローチャート図10に別記し説明を行う、操作内容判定手段11aから受領した要求された操作内容(方向、速度)のうち動作方向はそのままで、動作速度の指定はその指定内容に関係なく最低速度を指定して、後段のモータ速度決定手段11dへ渡し、警告発報手段12に対しては、ランプ、ブザーの発報を伝達する。これによって、障害物が近傍に存在する場合も、ランプ、ブザーにて乗員に注意喚起しつつ、最低速度でゆっくりと障害物への衝突を警戒しながら電動車椅子1を走行させる事ができる。
【実施例3】
【0047】
請求項3の場合は、請求項1および2に対して、障害物検知手段の判定のみ異なるため、図11のフローチャートを用いて、他の実施例との相違点のみ説明を行う。図11のステップS7-2に示すように請求項3の発明では、判定用閾値を不揮発メモリから読み出すステップS7-3に先立って、速度センサから現在の電動車椅子の速度
v を取得する。速度センサは、図1中に示すように、電動車椅子1の車輪5の中心軸に取り付けられており、車輪5の回転速度を計測し、当該センサの出力は、コントローラ6に必要に応じてA/D変換を介して入力され、障害物検知手段11bに入力される。
【0048】
不揮発メモリ上にはこの速度 v 毎に最適な判定用閾値RefDが格納されており、図11のステップS7-3に示すように、v をインデックスとして、判定用閾値RefDvを読み出すようにしている。このことにより、電動車椅子が低速で走行している場合には、高速で走行している場合に比して、走行禁止判定から実際に停止させるまでの時間距離を短く設定する事が可能となり、電動車椅子1は、障害物のより近傍まで容易に接近できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
高齢者や障害者が利用する電動車椅子、シニアカーなどの移動手段およびパーソナルモビリティーカーに適用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 電動車椅子本体
2 操作手段
3 障害物検出センサ
4 駆動モータ
5 駆動輪
6 コントローラ
7 バッテリ
8 フレーム
9 A/D変換器
10 CPU
12 警報発報手段
13 モータ制御手段
14 警告ランプ
15 警報ブザー
15 速度センサ
【技術分野】
【0001】
本発明は電動車椅子、特に障害物検知センサにより障害物を検知して電動車椅子を走行停止させる機能を有する電動車椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動車椅子の走行方向を乗員が指示するためのジョイスティックなどの走行方向指示手段を備え、前記走行方向指示手段を乗員が操作することにより、簡単な操作だけで、電動モータなどが駆動されて前記指示走行方向に容易に走行することができる電動車椅子は知られている。
【0003】
この種の電動車椅子において、特開2003−324218号公報には、障害物を検知する非接触式の障害物検知センサを車椅子本体に設けて、前記障害物検知センサにて障害物を検知した場合に、検知された前記障害物が存在する方向以外の方向への走行が指示された場合は前記障害物が存在する方向以外の方向に走行することを許可し、前記障害物が存在する方向への走行が指示された場合には、その方向への走行を禁止する制御手段を有する構成が開示されている。
【0004】
この構成によれば、障害物検知センサの検知動作機能を一旦解除して、電動モータの給電動作を再開させた後、その状態で電動車椅子を障害物がない方向へ動作再開させると言った手間の増加を招かずに、常に障害物を検出し、衝突を警戒しながら電動車椅子を動作させる事ができる。
【0005】
しかしながら、上記特開2003−324218号公報に示されているような構成では、障害物との衝突を回避するために、障害物検知センサに所定の検出範囲(電動車椅子本体から障害物までの距離1〜1.5m程度)をあらかじめ調整し設定しなければならないため、当該距離以内の障害物の近傍を走行する場合は、やはり障害物検知センサはじめ障害物検出のための機能を一旦解除しなければならない。
【0006】
このことにより、採用する障害物検出センサの特性(横方向の検出範囲)によっては、例えば信号機・標識のポールなど縦長の障害物に対して反応して、そのまま障害物の近傍方向に進行しても、迂回が可能な障害物であっても、一意にその方向への進行が禁止されてしまうため、一旦後退して、障害物との位置、向きの関係を調整しながら操縦し再度接近進行させなければならない。
【0007】
また、電車内などで、他の乗客の迷惑とならないように客室の壁際隅に車椅子を移動させようとした場合、当該障害物検出センサによる走行禁止制御が機能して、壁際隅に車椅子を持ち込めず、障害物検知センサの検知動作機能を一旦解除して幅寄せ操作を行わざるを得ないため、障害物検知機能解除の手間と障害物検知機能解除による壁への接触の危険性が発生する。
【0008】
さらに、前方のみならず、後方側方と言った他の動作可能な方向へも障害物検知および障害物検出方向への動作禁止制御を拡張する場合、電車や施設内部と言った複数の障害物が混在する環境下においては、複数の方向に障害物を検知してしまい、結局どの方向へも動作できなくなる恐れがある。
と言った問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−324218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、障害物検知センサより障害物を検知して電動車椅子を走行停止させる機能させている電動車椅子において、障害物への衝突抑制制御を行いつつ、障害物の近傍迂回や離合、すれ違い、室内の壁際へ車体を収めると言った操作を容易に行えるようにする事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、障害物センサの障害物検知結果と操縦者の操作する操作手段の出力結果を元に総合的に走行可否を判断する走行許可判断手段および、霜害物が近傍にある中での動作である事を乗員に注意喚起する警告発報判断手段を有することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の走行許可判断手段は、障害物検知センサからの障害物の有無の情報を走行許可判断手段へ入力し、障害物が検知されている場合は、警報発報手段へ発報を指示するとともにモータ駆動手段へ動作停止指示して、当該電動車椅子を一旦動作停止させ障害物への衝突を回避させる。
【0013】
その後、走行許可判断手段は、操作手段からの操作指示が一旦解除されるのを待ち、操作指示が解除されている間は、警報発報手段への発報指示も停止して、次の操作指示を待つ。
【0014】
次に走行許可判断手段は、上記動作停止後に操作指示が解除され警報発報も止んだ状態で、再度操作手段から障害物を検知中の方向を含む走行指示を受け付けた場合は、再度警報発報指示を警報発生手段へ送りつつ、走行許可(指示)をモータ駆動手段へ発し、走行を許可する。
【0015】
上述のような構成を採る事によって、障害物を検知した場合、一旦停止して衝突を回避する事ができ、再度障害物を検知した方向を含めて操作指示が行われた場合は、乗員への注意喚起を行いつつ動作を許可する事によって、障害物検知手段の解除等、特段の操作手順を踏まずとも、障害物近傍への走行を行う事ができるため、壁際へ電動車椅子を収める、余地幅の少ない場所を注意して通過する事が容易にできるという利点がある。
【0016】
さらに、障害物が検知されている方向に対しても制限付きながら動作が許可となるため、障害物検知センサを多方向に向けて設置し、同時に複数の方向に障害物を検知してしまう事によって、動作できる方向が失われる懸念も回避できる。
【0017】
また、上記警報は、ランプとブザーによる発報を想定しているが、操作手段からの操作指示がある場合に限定して発報を行うため、人混み等で一時的に行き場を失った場合も、乗員が、操作手段から手を離せば、発報が停止し周囲への煩わしさを軽減させる事ができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかる電動車椅子の側面断面図である。
【図2】図2は同電動車椅子の部分切欠正面図である。
【図3】図3は同電動車椅子の動作制御用コントローラの内部ブロック構成図である。
【図4】図4a、図4bは同電動車椅子の操作手段2の内部構造の一例を示す図である。
【図5】図5は、請求項1の電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の障害物有無判断手段の処理内容を示すフローチャートである。
【図6】図6は、同電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の走行許可判断手段の処理内容を示すフローチャートである。
【図7】図7は、同電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の走行許可判断手段が走行禁止判定時に行う処理を示すフローチャートである。
【図8】図8は、同電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の走行許可判断手段が走行許可判定時に行う処理を示すフローチャートである。
【図9】図9は、請求項1の電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の走行許可判断手段が走行制限判定時に行う処理を示すフローチャートである。
【図10】図10は、請求項2の同電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の走行許可判断手段が走行制限判定時に行う処理を示すフローチャートである。
【図11】図11は、請求項3の電動車椅子の動作制御用コントローラの内部の障害物有無判断手段の処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図9を用いて説明する。ここで、図1は本発明の実施の形態にかかる電動車椅子の側面断面図、図2は同電動車椅子の部分切欠正面図、図3は同電動車椅子の動作制御用コントローラの内部ブロック図である。
【0020】
図1の様に本発明にかかる電動車椅子1は、乗員が電動車椅子を操作するための操作手段2、前部駆動輪5、駆動モータ4、動作制御コントローラ6、バッテリ7、後輪9および、これら全ての構成品を保持し車椅子を形成するフレーム8で構成されている。
【0021】
乗員は当該電動車椅子1の座面1aに着座し、操作手段2を操作して、電動車椅子を意図した方向へ走行指示するものとする。操作手段2は、一般にジョイスティックと呼ばれるレバー状の操作スイッチで、当該レバーを目的とする方向へ倒す事によって乗員の走行方向指示を受け付け、その方向と押し込み量を動作制御コントローラへ伝達する。動作制御コントローラ6は、この走行方向指示とそのときレバーを押し込まれた量を基に左右の駆動モータ4を動作させる速度を決定し、モータ4を駆動する。
【0022】
当該モータ4としては、DCブラシモータ等が採用され、PWM制御、つまりモータの電極に対して所望の極性で、短時間に断続的に電源をON/OFF(通電・非通電)を繰り返すことによって、その回転方向と回転速度の高低を制御できるものとする。
【0023】
よって、例えば、操作手段2のレバーを前進方向にレバーの可動範囲一杯に押し込まれた場合は、動作制御コントローラ6は、電動車いす1を前方向へ最大速度で移動させるために必要な左右のモータ4の通電ON時間を決定する。また、操作手段2のレバーを斜め右前方向にレバーの可動範囲未満で押し込まれた場合は、動作制御コントローラ6は、電動車いす1を斜め右前方へ最大速度以下でレバーの押し込み量に相当する速度で移動させるために必要な左右のモータ4の通電ON時間を決定しモータ駆動手段13に伝達する。
【0024】
他の移動方向についても同様で操作手段2のレバーの操作方向と操作量を基に、動作制御コントローラ6は、左右のモータ4の駆動速度を個別に決定して、電動車いす1を乗員の意図する方向への操縦することを可能としている。
【0025】
ここでは、まず前方の障害物への衝突回避を目的として、障害物検知センサ2を電動車椅子1の前面に配置する構成としたが、前方だけでなく、後方や側方に向けた障害物センサを設置して、これらの方向に対しても同時に衝突回避制御を行っても良い。
【実施例1】
【0026】
まず、動作制御コントローラ6(以下コントローラ)の内部ブロックを示す図3を使って、本発明の実施例を説明する。
操作手段2の乗員の操作内容(操作方向と量)を表す出力信号は、コントローラに入力され、操作手段の出力信号仕様がアナログの場合は、A/D変換器を介して、シリアル通信等のデジタル伝送の場合は、そのまま、コントローラ内部のCPU11内部の操作内容判断手段11aに入力されその解析が行われる。
【0027】
次に、障害物検知センサ3は、赤外線や超音波、レーザー光、電磁波を利用した非接触で前方障害物までの距離に比したアナログ電圧出力、または距離のデジタルデータをシリアル通信で出力するセンサで、上記同様に、当該センサの出力信号は、アナログの場合は、A/D変換器を介して、通信の場合は、障害物までの距離データをCPU11内の障害物検出手段11bに入力され、障害物検出手段11bは、かくして得られた障害物までの距離を元に当該センサの監視方向に対して、衝突が懸念される障害物が存在するかどうかを判断する。
【0028】
上記の判断は、電動車椅子の最高速度Sと最高速度運航時の停止時間Tに所定の余裕時間Taddを加味した時間(T+Tadd)から算出される、閾値停止距離(RefD=(T+Tadd)×S)以内の距離に障害物があるかどうかによって、障害物有無判断フローチャート図5によって判断が下される。ここで、RefDは、電動車椅子1の設計時に検討調整した固定値を用いる事とする。
【0029】
障害物有無判断はフローチャート図5に示すように、まずS1-1ステップで、現在の障害物センサの計測結果Dを入力し、S1-2ステップにおいて、CPU11内の不揮発メモリ領域に格納したRefDを読み出し、S1-3ステップで両者の大小関係を比較する。この比較の結果D≦RefDの場合は、センサが検知している障害物が電動車椅子1の衝突危険距離内にあるため、S1-4ステップに進んで障害物有りの判断を発報する。一方、D>RefDの場合は、衝突危険距離内に障害物が存在しないと言う事であるため、S1-5ステップに進んで、障害物なしの判定結果を出す。当該判定は、CPU11が電動車椅子1駆動中は、その動作制御プログラムを1巡回させる毎に1回実行され、常にその時々の障害物の有無の判定結果を更新しながら電動車椅子11を駆動、走行させる。
【0030】
障害物検出センサ3の出力に基づく、障害物検出手段11bの障害物有無判断フローチャート図5の判断の結果、障害物無しとなった場合は、当該電動車椅子は操作手段2の操作内容に即してモータ4を駆動して動作を継続する。一方、障害物有りとなった場合は、当該電動車椅子は操作手段2の操作内容に関係なくモータ4の駆動を停止する。
【0031】
ここで、電動車椅子1の操縦方法と操作手段2について図1、図4を用いて説明する。操作手段2は図4bのように乗員がつかんで操作するレバー2aとレバーの操作量を検出する基板2bおよびこれらを保持形成するカバー部材(図示せず)によって構成されており、図1の電動車椅子1の肘掛け部前端に、レバーの操作方向と電動車椅子の向きが一致するように設置されている。
【0032】
乗員は、操作手段2のレバー2aの上端部2A近傍を握って、電動車椅子1を走行させたい方向へレバー上端2Aを押し込む事によって電動車椅子を操縦する。また、押し込まれた方向への移動速度は、当該レバー2aの押し込み量によって決定される物とし、当該レバーは、乗員が意図した方向へ押し込む為の力を加える事をやめた場合、内蔵したスプリング機構(図示せず)によって中立位置に自動的に戻る構造となっている。
【0033】
レバー2aの押し込み方向と押し込み量の判別例を図4aに示す。この図は、レバー上端2Aと基板2bの位置関係で図示した。実際の操作手段2b内部のスイッチ接点の構造によっては基板2b上の領域分けの意味合いが方向的に前後と左右が逆となる場合があるが、当該操作手段2の構成、構造等は、本発明の特徴とはしていないので、詳しい電気、機構系の説明は省略する。
【0034】
上記図4bのレバー2a操作の判別例は、前進、後退と言った最も利用頻度の高い直進動作指示には、大きめの領域をさいて、乗員がその動作を継続させたいと考えているときに、レバーの状態を一定に保持しようと苦労しないで良いように配慮するとともに、直進判定領域の外側には、レバーを操作する向きが旋回の急峻さに比例する領域を配し、体の不自由な乗員にも容易に操作できるよう配慮しているが、あくまで一例であって、採用する操作手段の構造や特化する利用シーンによっては、適宜検討変更が行われる物とする。
【0035】
かくして、操作手段2に対して行われた乗員の操作内容は、コントローラ6に入力され、必要に応じてA/D変換が行われた後に、CPU11内操作内容判定手段11aに入力され、操作手段2を乗員がどのように操作中であるかを元に、操作内容判定手段11aでは、移動方向と移動速度に対する乗員の要求を判定する。当該判定結果は、ブロック図3後段の走行許可判断手段11cとモータ速度決定手段11dに送られ、障害物が検出されていない一般的な利用シーンにおいては、動作許可禁止判断手段11cは、常に動作許可の判定を下すため、操作内容判定手段11aの内容に即して、左右の駆動輪の回転速度がモータ速度決定手段11dによって決定され、その結果を基に最終的にはモータ駆動手段13によってモータが駆動され、電動車椅子1が走行する。
【0036】
最後に、図3の走行許可判断手段11cについて図6〜図9フローチャートを使って説明する。当該走行許可判断手段11cは、障害物センサ3の監視領域と障害物検出手段11bの障害物有無と、操作内容判定手段11aの乗員操作内容の判定結果を元に、電動車椅子1を乗員の操作指示通りに走行を許可するかどうかを判定する。
【0037】
フローチャート図6のように、走行許可判定手段11cでは、まず前処理として、S2-1〜S2-4ステップで障害物検出手段11bの障害物検出結果Rを受け取る、次に操作内容判定手段11aの判定結果として、最新の動作要求方向newSdと要求移動速度newSsを受領する。次にCPU11内の不揮発メモリに保持した前回判定時の操作内容判定手段11aの結果読み出し、それぞれoldSd、oldSsとする。最後にあらかじめ保持された障害物検知センサの監視方向Kを不揮発メモリから読み出す。このうち、操作内容判定手段11aの判定内容に対してS2-5ステップで検査を行う。まず、操作手段2が現在未操作と判定された場合は、s2-6ステップへ遷移し、その操作状態(未操作)を不揮発メモリに保存して、走行許可判定としそれに伴う処理を行い、当該判定を1回終了する。
【0038】
次に、操作手段2がいずれかの方向へ操作されている場合は、上記前処理で取得した情報を元に走行許可判定を開始する。まず、S2-7ステップで、障害物が検知されているかどうかを検定し、障害物なしの場合は、S2-12ステップへ進み走行許可判定とそれに伴う後段への出力を行って、当該判定を1回終了する。
【0039】
ここで、S2-12ステップの走行許可時の処理は、フローチャート図8に別記した様に、操作内容判定手段11aから受領した要求された操作内容(方向、速度)をそのまま、後段のモータ速度決定手段11dへ渡し、警告発報手段12に対して、ランプブザーの発報停止を伝達する。これによって、障害物検知センサが障害物を検知していない場合は、旧来通り走行する事ができる。当然ながら、操作手段2未操作の場合は、モータ4は停止して、電動車椅子1はその場に止まる事となる。
【0040】
障害物有無判定のステップS2-7へ戻り、障害物有りの場合は、S2-8ステップで現在の走行要求方向が障害物検知センサの監視範囲と一致するかどうかを判定する。監視範囲と走行要求方向が一致していない、つまり近傍に障害物があるが、障害物と衝突する方向への走行ではない場合、S2-11ステップに進み走行制限判定とし、それに伴う後段への処理を行い当該判定処理は1回終了する。
【0041】
また、再度S2-8ステップの判定に戻り、現在の走行要求方向と障害物検知センサの監視方向が一致している場合についての説明を続ける。この場合、s2-9ステップに進み、前回までの判定で当該電動車椅子は、一旦障害物検知のために自動停止し、その後乗員が操作手段2の操作を一旦止めて、操作内容判定手段の出力が操作手段2未操作となった経緯があるかどうかを検査する。そして、前回の当該判定までに、操縦操作が一時止められた場合も上記同様に、S2-11ステップへ進み、走行制限判定とそれに伴う処理を実行する。
【0042】
ここで、S2-11ステップの走行制限時の処理は、フローチャート図9に別記した様に、操作内容判定手段11aから受領した要求された操作内容(方向、速度)はそのままで、後段のモータ速度決定手段11dへ渡すが、併せて、警告発報手段12に対しては、ランプ、ブザーの発報を伝達する。これによって、障害物が近傍に存在する場合は、ランプ、ブザーで乗員に注意喚起しながら走行させる事ができる。
【0043】
最後に、S2-9ステップに戻り、前回までの判定で当該電動車椅子は、一旦障害物検知のために自動停止し、その後乗員が操作手段2の操作を一旦止めて、操作内容判定手段の出力が未操作となった経緯があるかどうかを検査した結果、前回の当該判定までに、操縦操作は止められることなく操作手段2が以前と同じ内容で操作が継続されていた場合は、S2-10の走行禁止判定とし、当該判定に伴う後段への処理を実施する。
【0044】
S2-10ステップの走行禁止判定時の処理は、フローチャート図7に別記したように、モータ速度決定手段11dに対して動作停止を伝送し、警報発報手段12に対して、ランプ、ブザーの発報を指示するものである。これによって、電動車椅子1を乗員所望の方向へ動作させている際に、障害物検知センサ3が障害物を検知した場合は、電動車椅子は操作手段2を一旦未操作にして、別な障害物のない方向などへ操作し直すまで一旦停止し、ランプ、ブザーによって障害物の存在を警報することとなる。
【0045】
当該、走行許可判定判断の処理は、他のブロックの処理と同様に、コントローラ6への電源投入後からCPU11内の制御プログラム処理1巡回に1回実施され、乗員の操作に対して遅滞なく処理を実行するものとする。
【実施例2】
【0046】
次に請求項2の場合は、請求項1の実施例に対して、走行許可判定手段の判定結果が、走行制限となった場合の動作のみ異なる。そこで、図6のS2-11ステップの走行制限時の処理についてだけ、フローチャート図10に別記し説明を行う、操作内容判定手段11aから受領した要求された操作内容(方向、速度)のうち動作方向はそのままで、動作速度の指定はその指定内容に関係なく最低速度を指定して、後段のモータ速度決定手段11dへ渡し、警告発報手段12に対しては、ランプ、ブザーの発報を伝達する。これによって、障害物が近傍に存在する場合も、ランプ、ブザーにて乗員に注意喚起しつつ、最低速度でゆっくりと障害物への衝突を警戒しながら電動車椅子1を走行させる事ができる。
【実施例3】
【0047】
請求項3の場合は、請求項1および2に対して、障害物検知手段の判定のみ異なるため、図11のフローチャートを用いて、他の実施例との相違点のみ説明を行う。図11のステップS7-2に示すように請求項3の発明では、判定用閾値を不揮発メモリから読み出すステップS7-3に先立って、速度センサから現在の電動車椅子の速度
v を取得する。速度センサは、図1中に示すように、電動車椅子1の車輪5の中心軸に取り付けられており、車輪5の回転速度を計測し、当該センサの出力は、コントローラ6に必要に応じてA/D変換を介して入力され、障害物検知手段11bに入力される。
【0048】
不揮発メモリ上にはこの速度 v 毎に最適な判定用閾値RefDが格納されており、図11のステップS7-3に示すように、v をインデックスとして、判定用閾値RefDvを読み出すようにしている。このことにより、電動車椅子が低速で走行している場合には、高速で走行している場合に比して、走行禁止判定から実際に停止させるまでの時間距離を短く設定する事が可能となり、電動車椅子1は、障害物のより近傍まで容易に接近できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
高齢者や障害者が利用する電動車椅子、シニアカーなどの移動手段およびパーソナルモビリティーカーに適用できる。
【符号の説明】
【0050】
1 電動車椅子本体
2 操作手段
3 障害物検出センサ
4 駆動モータ
5 駆動輪
6 コントローラ
7 バッテリ
8 フレーム
9 A/D変換器
10 CPU
12 警報発報手段
13 モータ制御手段
14 警告ランプ
15 警報ブザー
15 速度センサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行方向を複数の方向の中から選択して指示する走行方向指示手段とその方向への移動速度を指定する事のできる移動速度選択手段から成る操作手段と、周囲の障害物を検知する障害物検知センサと当該センサが計測する障害物までの距離と、当該車椅子の最高速度と最高速度走行時の停止時間から導出される基準値との比較に結果を基に障害物の有無を判断する障害物検出手段を有し、走行中に前記障害物検出手段により走行指示方向に障害物有りと判断された際に、走行を禁止する電動車椅子において、走行方向指示の操作状態と障害物を検知した方向の関係で走行を許可するか禁止するかを判断する判断手段と障害物検出を警告する警報手段を有し、走行中に障害物が検知され禁止判断手段によって当該方向への走行が禁止された場合においても、操作手段を再度操作された場合は、警報を発報しながら動作を許可する事を特徴とする電動車椅子。
【請求項2】
障害物センサが障害物を検知している状況下でその方向への操作を許可する場合は、移動速度選択手段の選択内容にかかわらず、最低速度で動作を許可する事を特徴とする請求項1の記載の電動車椅子。
【請求項3】
障害物検出手段が障害物有りと判定を下す所定の基準値が、当該車椅子の走行能力としての最高速度ではなく、直前に走行していた速度から導出される事を特徴とする請求項1ないし2記載の電動車椅子。
【請求項1】
走行方向を複数の方向の中から選択して指示する走行方向指示手段とその方向への移動速度を指定する事のできる移動速度選択手段から成る操作手段と、周囲の障害物を検知する障害物検知センサと当該センサが計測する障害物までの距離と、当該車椅子の最高速度と最高速度走行時の停止時間から導出される基準値との比較に結果を基に障害物の有無を判断する障害物検出手段を有し、走行中に前記障害物検出手段により走行指示方向に障害物有りと判断された際に、走行を禁止する電動車椅子において、走行方向指示の操作状態と障害物を検知した方向の関係で走行を許可するか禁止するかを判断する判断手段と障害物検出を警告する警報手段を有し、走行中に障害物が検知され禁止判断手段によって当該方向への走行が禁止された場合においても、操作手段を再度操作された場合は、警報を発報しながら動作を許可する事を特徴とする電動車椅子。
【請求項2】
障害物センサが障害物を検知している状況下でその方向への操作を許可する場合は、移動速度選択手段の選択内容にかかわらず、最低速度で動作を許可する事を特徴とする請求項1の記載の電動車椅子。
【請求項3】
障害物検出手段が障害物有りと判定を下す所定の基準値が、当該車椅子の走行能力としての最高速度ではなく、直前に走行していた速度から導出される事を特徴とする請求項1ないし2記載の電動車椅子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−177205(P2011−177205A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41537(P2010−41537)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(710001030)有限会社クエストエンジニアリング (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(710001030)有限会社クエストエンジニアリング (4)
【Fターム(参考)】
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