説明

電動車輪構造

【課題】簡素な構造で車輪内部のトルク伝達部分の動作環境を清浄化可能な機構を具備した電動車輪を提供すること。
【解決手段】偏芯配置型回転電機13を装備する電動車輪において、回転電機13の回転軸と車輪軸支持部17とが貫通する孔をもち、車輪のホイール2を略閉鎖する保護カバー8を設け、この保護カバー8とホイール2とで区画形成されるホイール室にベルト式トルク伝導機構を内蔵する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの車輪を一つの回転電機で駆動する電動車輪に関し、特に車輪軸と回転電機軸とが偏芯している偏芯配置型電動車輪に関する。
【0002】
本発明は、自動車の他、電動車椅子や走行ロボットなどの種々の車輪走行体に適用可能である。また、すべての車輪を個別に電動駆動する形式の電動車輪を有する走行体にも、前後輪のどちらか一対のみを電動駆動する電動車輪を有する走行体にも適用可能である。電動車輪は、内燃機関駆動の発電機、バッテリ及び燃料電池のいずれかにより給電されることができる。
【背景技術】
【0003】
少なくとも左右一対の車輪をそれぞれ異なる回転電機により駆動する電動車輪が提案されている。このように電動車輪は、左右一対の車輪を一個の回転電機により駆動するのに比べてディファレンシャルギヤや長い車軸を必要とせず、車両重量や回転慣性質量の低減や構造の簡素化を実現できるとともに車室を広くできる利点を有している。
【0004】
電動車輪の一形式として、下記の特許文献1は、車輪駆動モータの回転軸を車輪の回転軸から偏芯した偏芯配置型電動車輪を提案している。この方式によれば、車輪駆動用の回転電機の配置自由度を増大することができる。
【特許文献1】特開2004−90822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1の偏芯配置型回転電機を装備する偏芯配置型電動車輪では、電動駆動すべき車輪軸に対して異なる位置の回転電機軸からトルクを伝達するためギヤ機構を車輪に内蔵させる必要があった。自動車などの車輪において、このギヤ機構は、砂塵、汚水などの過酷な環境で動作する必要があり、摩耗、トルク伝達損失の増大、騒音の増大などの欠点を内包していた。
【0006】
この種の問題は電動車輪全般において存在するものであるが、偏芯配置型電動車輪では特に、回転電機軸部と車輪軸部とが一致しないためにそれらとの干渉を抑止しつつギヤ機構の防塵を実現することを考えると簡単な問題ではなかった。当然、大型で複雑な構造をもつシール機構や摩擦が大きいシール機構の採用も他の理由により難しい。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、簡素な構造で車輪内部のトルク伝達部分の動作環境を清浄化可能な機構を具備した電動車輪を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決する本発明の偏芯配置型電動車輪は、車体から略車体左右方向外側へ突出する車輪軸支部に回転自在に支持されて前記車輪軸支持部から軸方向外側へ突出する車輪軸部を有する車輪と、前記車輪の車輪軸部に対して偏芯配置された回転電機軸部を有して前記車輪軸支持部又はこの車輪軸支持部に固定された部材に支持される車輪駆動用の回転電機と、前記回転電機軸部から前記車輪軸部へ減速増倍トルクを伝達するトルク伝達機構とを備え、前記車輪は、車体側に向けて開口する開口部を有して前記車輪軸部に支持される略有底円筒形状のホイールを有し、前記回転電機の回転電機軸部は、前記ホイールの周壁部の内周面に近接しつつ前記ホイールの内部へ前記車輪軸部と平行に突入する先端部を有する電動車輪であって、
前記車輪軸支持部が貫通する中央孔部と、前記ホイールの周壁部の内周面に所定の隙間を隔てて近接配設される外周縁と、前記回転電機の回転電機軸部の少なくとも先端部分が前記ホイールの内部に突入させるための孔部又は溝部とを有する保護カバーを有し、この保護カバーは、前記車輪軸支持部に支持されて前記中央孔部の周縁から略径方向外側に延設されて前記開口を略閉鎖することにより、前記トルク伝達機構を前記ホイール内に略密閉するホイール室を区画形成することを特徴としている。
【0009】
すなわち、この発明の偏芯配置型電動車輪は、車輪軸部を回転自在に支持する車輪軸支持部に嵌着されてホイールの内周面に近接配置される外周縁をもつ保護カバーによりホイール内のトルク伝達機構を閉鎖するとともに、この保護カバーの外周部に回転電機の軸がホイール室側へ貫通する孔又は溝部を設けた点をその特徴している。ただし、この溝部の縁は、保護カバーの外周縁に連なっている。このようにすれば、簡素な構成によりホイールとの摩擦発熱を生じることなくホイール内部のトルク伝達機構を異物から防護することができるため、異物によりトルク伝達機構のトルク伝達効率が低下したり、発熱したり騒音を発生したりするのを防止することができる。
【0010】
好適な態様において、所定方向に開口する空気取り入れ口と、この空気取り入れ口から取り入れた空気を前記ホイール室に導入するダクト部とを有し、前記車輪軸支持部又はこの車輪軸支持部に固定された部材に固定される空気取り入れ装置を有する。このようにすれば、ブレーキ装置やトルク伝達機構を良好に冷却することができ、また、ホイール室に空気流を形成してブレーキ粉を外部に排出することができる。
【0011】
好適な態様において、前記ホイールの周壁部の内周面と前記ホイールの外周縁との間の前記隙間は、前記ホイール室から外部に空気を排出する排出孔をなす。このようにすれば、地面に近いこの隙間からの異物や水分がホイール室へ侵入するのを良好に抑止することができる。
【0012】
好適な態様において、前記回転電機は、前記ホイール室外に開口する吸気口と、前記ホイール室に開口する排気口と、前記吸気口から吸入された空気を前記排気口側へ付勢するファンとを有する。このようにすれば、回転電機がホイール室内に簡単な構成により給気することができるため、ホイール室を正圧に保持することができ、地面に近いホイールと保護カバーとの間の隙間からの異物や水分の侵入を抑止することができる。なお、回転電機を冷却した空気流をホイール室に導入してもよい。この場合にはホイール室冷却空気流を回転電機冷却空気流とは独立に形成する設置する場合に比べてエネルギー効率を間然することができる。
【0013】
好適な態様において、前記回転電機は、前記ホイール室に開口する吸気口と、前記ホイール室外に開口する排気口と、前記吸気口から吸入されて前記回転電機の内部を冷却した空気を前記排気口に送風するファンとを有する。このようにすれば、簡単な構成にてホイール室内に空気流を形成できるとともに、ホイール室冷却空気流を回転電機冷却空気流とは独立に形成する場合に比べてエネルギー効率も向上することができる。
【0014】
好適な態様において、前記空気取り入れ口は、車体の前方方向へ開口している。このようにすれば、冷却空気流形成電力を減らすことができる。
【0015】
好適な態様において、前記空気取り入れ口又は前記ダクトは、前記吸入空気に含まれる異物を前記ホイール室に導入される空気から排除する異物排除装置を有する。異物排除装置としては、フィルタや公知のサイクロン型セパレータの他、空気流を急激に曲げることにより慣性質量が大きい異物を空気流から分離する公知の装置(空気流路急変型異物排除装置)を採用することができる。このようにすれば、ホイール室への導入空気流を通じてホイール室に異物が侵入するのを防止することができる。
【0016】
好適な態様において、前記空気取り入れ装置は、樹脂成形により前記保護カバーと一体に形成されている。このようにすれば、空気取り入れ装置を簡単、低コストに実現することができる。
【0017】
好適な態様において、前記空気取り入れ装置は、前記車輪軸支持部が固定される鋼管製のトレーリングアームの孔を前記ダクトとして用いる。このようにすれば、ダクト形成、固定の手間を省略することができる。
【0018】
好適な態様において、前記保護カバーは、前記車輪軸支持部が固定されるトレーリングアーム又はこのトレーリングアームに固定された支持部材に締結される。このようにすれば、保護カバーに必要な剛性、強度を簡単に得ることができるため、保護カバーを軽量化することができる。
【0019】
好適な態様において、前記保護カバーの外周縁は、前記ホイールの周壁部の内周面に対面する円筒状に形成されている。このようにすれば、空気排出経路を確保しつつこの部位からの異物侵入を低減することができる。なお、保護カバーのこの円筒状部分とホイールの内周面とをラビリンス構造とすれば更に効果を増進することができる。
【0020】
好適な態様において、前記トルク伝達機構は、前記車輪軸部に固定された径大な回転体と、前記回転体の外周部に設けられた従動スプロケット又は従動プーリと、前記従動スプロケットと軸方向同位置にて前記回転電機軸部の先端部に装着された駆動スプロケット又は駆動プーリと、前記両スプロケット又は両プーリに巻装された伝導ベルトとを有する。このようなベルト伝動型のトルク伝達機構は、相対的に広いトルク伝導面を確保することができるとともにギヤ噛合音をなくすことができ、異物が介在してもベルトが異物の形に合わせて変形可能なためこのような異物存在環境にて良好にホイールに減速増倍トルクを伝達することができる。
【0021】
好適な態様において、前記トルク伝達機構の回転体は、前記ホイール室内に収容されたブレーキ装置の回転体により兼用される。このようにすれば、トルク伝達機構に必要なホイール側の径大な回転体を省略することができるので製造、組み付けコストを低減し、車輪の慣性質量を低減することができる。
【0022】
好適な態様において、前記保護カバーは、前記回転電機軸部貫通用の孔部又は溝部の周囲に略軸方向へ延設されて前記回転電機のハウジングの周壁に密着する筒部を有する。このようにすれば、回転電機のハウジングと保護カバーとの間からの異物侵入を阻止できるとともに、保護カバーの剛性を向上することができる。
【0023】
好適な態様において、前記保護カバーは、前記回転電機を前記車輪軸支持部に支持するための回転電機支持部材を兼ねる。このようにすれば、回転電機支持部材を省略することができる。
【0024】
(その他の態様)
回転電機は、好適には同心円の周方向に所定角度離れて、複数配置されることができる。回転電機は車輪駆動と回生制動とを行うことができる。ブレーキ装置の回転体としてのブレーキドラムの外周面にフランジ部を設け、このフランジ部に従動スプロケット又は従動プーリを固定することができる。更に、このフランジ部分の外周縁をホイールの内周面に更に近接させることにより、ホイール室の内部の軸方向外側にブレーキ室を区画形成することができ、このブレーキ室への異物侵入を抑止することができる。ホイール室内の空気は、回転電機の回転軸に対して垂直面の後端より吐き出すことができる。このように構成することで通風ガイドなどを用いることなく容易に回転電機へ外気を導入でき冷却ができる。空気取り入れポートの開口部中心位置はタイヤの回転軸水平高さよりも上方に配置されることができる。このように構成することでタイヤによる水や泥などの跳ね上げによる開口部への異物の侵入をしにくくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明を自動車に適用した好適な実施形態を図面を参照して以下に説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想を他の公知技術又はそれと必要機能が共通するその他の技術を組み合わせて構成できることはもちろんである。
【実施例】
【0026】
(電動車輪の構成)
実施例1に採用した電動車輪の構造を図1、図2を参照して説明する。図1はこの実施例の電動車輪の軸方向断面図、図2はこの電動車輪を軸方向内側からみた正面図である。
【0027】
(全体構造)
この電動車輪は、通常の車両用車輪と同様に、タイヤ1、ホイール2、トレーリングアーム3、減衰ダンパ4、ブレーキドラム5、アクスルベアリングユニット6を有している。車体に支持されて下方へ突出する減衰ダンパ4の下端部には、トレーリングアーム3が支持されている。トレーリングアーム3の前端部外側には、ブレーキドラム5内蔵のホイール2が固定されている。ブレーキドラム5にはアクスルベアリングユニット6が内蔵されている。ホイール2にはタイヤ1が嵌着されている。タイヤ1、ホイール2、トレーリングアーム3、減衰ダンパ4については従来と同一形状、配置であるため説明を省略する。その他の構成要素の形状、配置を以下に説明する。
【0028】
(車輪軸支持機構)
まず、ホイール2及びブレーキドラム5を回転自在に支持する車輪軸支持機構について説明する。
【0029】
アクスルベアリングユニット6は、軸受け61、回転部62、固定部63、ハブ板64を有している。回転部62は軸方向外側のハブ板64に固定されているか一体に形成されている。ハブ板64には、複数のハブボルト65で後述するブレーキドラム5のディスク部とホイール2のディスク部とが締結固定されている。
【0030】
アクスルベアリングユニット6の固定部63は、軸受け61を介してアクスルベアリングユニット6の回転部62を回転自在に支持するフランジ状部材であり、ハブ板64の軸方向内側にてハブ板64に対面して配置されている。
【0031】
アクスルベアリングユニット6の固定部63は、ブレーキドラム5の開口を閉鎖する円盤状部材であるブレーキカバー7と後述する保護カバー8とともに、車体(図示せず)のトレーリングアーム3に溶接固定されてトレーリングアーム3の軸方向外側にて垂直方向に延設される支持プレート16に複数のボルト(図2参照)9にて締結固定されている。
【0032】
支持プレート16は、後述する保護カバー8を挟んでブレーキカバー7の軸方向内側に配置される部材であって、支持プレート16の軸心部分には軸方向外側に突出する車輪軸支持部17が固定されている。
【0033】
車輪軸支持部17は、保護カバーの中心孔を貫通してブレーキカバー7に当接している。なお、ブレーキカバー7と車輪軸支持部17とを一体に形成してもよい。
【0034】
従って、この車輪軸支持部17は、ブレーキカバー7、アクスルベアリングユニット6の固定部63を通じて、アクスルベアリングユニット6の回転部(本発明で言う車輪軸部)62を軸受け61を介して回転自在に支持している。
【0035】
なお、支持プレート16、車輪軸支持部17及びブレーキカバー7は、トレーリングアーム3に固定されてアクスルベアリングユニット6の固定部63を固定する車輪軸支持機構であって、車輪軸支持部17は、この車輪軸支持機構のもっとも径小で、かつ、支持プレート16とブレーキカバー7とを軸方向に保護カバー8を介することなく結合するための部材であることがわかる。この車輪軸支持機構は、減衰ダンパ4の下部によりトレーリングアーム3に固定されコイルスプリング(図示せず)とともに車体から吊り下げられている。
【0036】
(トルク伝達機構)
ブレーキドラム5は、内部にアクスルベアリングユニット6を収容して軸方向内側に向けて開口する有底円筒部材であって、その周壁部の外周面から径方向外側へ突出するフランジ部51を有している。
【0037】
11は、ブレーキドラム5の軸方向内側に位置して車軸と同心配置された円筒状の従動スプロケットであり、この従動スプロケット11のブレーキドラム5側の端面(外側端面)は、フランジ部51の内側端面に形成された段差面に嵌着されてフランジ部51の複数の周方向所定位置にて複数のボルト52で締結固定されてタイヤとともに回転する。すなわち、径大なブレーキドラム5の外周面に従動スプロケット11を固定することにより、従動スプロケット11の必要重量を節約している。
【0038】
回転電機13は、ホイール2の周壁部の軸方向内側に向いた外周縁に近接して配置されており、回転電機13の軸(回転電機軸部)はアクスルベアリングユニット6の回転部(車輪軸部)62と平行となっている。回転電機13の軸先端部には駆動スプロケット15が嵌着固定されている。駆動スプロケット15と従動スプロケット11とはコグベルト14を介してトルク授受可能に連結されている。
【0039】
すなわち、この実施例では、ホイール2内にベルト式トルク伝達機構を内蔵することにより、偏芯配置型回転電機から減速増倍トルクをブレーキドラム5に伝達する機構を採用している。ベルト式トルク伝達機構は、ベルトが柔軟性に富むため、泥水や異物の噛み込んでも、ギヤ伝達機構に比べてトルク伝達に問題を生じたり、騒音が増大したりする問題を減らすことができる。これは、ベルトタイプのトルク伝達面は、ギヤ噛合タイプのトルク伝達面に比べて、スプロケット又はプーリとベルトとの接触面積が大きいためである。これに対して、ギヤ噛合タイプのトルク伝達方式ではトルク伝達は小さいトルク伝達面(2つのギヤの接触領域)でのみトルク伝達を行うため、わずかの異物の夾雑により噛合が不調となってしまったり、ギヤ面の異常摩耗が生じたりする。また、潤滑の心配もない。
【0040】
また、この実施例では、ブレーキドラム5の外周部からブレーキカバー7などの車輪軸支持機構の径方向外側に位置して軸方向内側へ従動スプロケット11を配置するため、ホイール2の軸方向寸法を増大することなく、かつ、回転電機13の回転軸を軸方向外側に長く延長することなく、ベルト式トルク伝達を行うことができる。
【0041】
(ホイール室略密閉機構)
次にこの実施例の重要な特徴点の一つをなすホイール内部のトルク伝達機構を外部からの異物から保護する保護カバー8について説明する。
【0042】
保護カバー8は、ホイール2の開口を略閉鎖することによりホイール2の内部に上記したベルト式トルク伝達機構を略密閉するホイール室を区画形成する略輪板状の樹脂成形部材である。保護カバー8は、車輪軸支持部17がが貫通する中央孔部81と、ホイール2の周壁部の内周面に所定の隙間を隔てて近接配設されて軸方向に延設される外周筒部82と、保護カバー8の外周縁の一部を径方向内側に凹設させた溝筒部(図2参照)83とを有している。溝筒部83は、軸方向に延設される部分円筒面をもつ壁部を有しており、この溝筒部83に回転電機13の周壁部が密着嵌入され、これにより、回転電機13が保護カバー8に支持されている。回転電機13のこの周壁部は、保護カバー8とともにホイール2の内部のホイール室を略閉鎖する部材を兼ねている。保護カバー8と回転電機13との締結には、回転電機13の周壁部から周方向所定位置にて径方向外側に締結用プレートを張り出させ、この締結用プレートに保護カバー8の締結部を必要数のボルト84で締結すればよい。保護カバー8は、図2に示すように、回転電機13が設置されるホイール2の軸心よりもなるべく上方の位置にて、駆動スプロケット15を収容するべく軸方向内側に膨らんでいる。その他の部位では、従動スプロケット11などが収容可能な形状であればよい。
【0043】
この実施例では、保護カバー8の中央孔部81は車輪軸支持部17の外周面に密着している。これにより、ホイール2内のホイール室は、ホイール2の周壁部の内周面と保護カバー8の外周筒部82との間の隙間を通じてのみ外部と連通することになり、ホイール2の回転に支障を与えることなく、略密閉されることになる。ただし、保護カバー8の中央孔部81を車輪軸支持部17が貫通することは必須であるが、保護カバー8の中央孔部81の内周縁を他の車輪軸支持部材に密着させてもよい。あるいは、保護カバー8を車輪軸支持部17と一体に形成してもよい。これにより、簡素な構成によりホイール2との摩擦発熱を生じることなくホイール2内部のトルク伝達機構を異物から防護することができるため、異物によりトルク伝達機構のトルク伝達効率が低下したり、発熱したり騒音を発生したりするのを防止することができる。
【0044】
(空気取り入れ装置)
次に、空気取り入れ装置について図2、図3を参照して説明する。
【0045】
空気取り入れ装置は、車両前方に開口する空気取り入れ口110と、この空気取り入れ口から取り入れた空気をホイール室に導入するダクト部111とを有する樹脂ダクトからなり、保護カバー8と一体に成形されている。ダクト部111には空気取り入れ口110の直後に位置して空気清浄化用のフィルタ112を着脱自在に収容している。
【0046】
ホイール室内の空気流れを説明する。回転電機13の内部には回転子に固定されたモータ冷却用のファンを有している。回転電機13のハウジングの前端面にはホイール2に開口する吸気口が形成され、後端面にはホイール室外に開口する排気口が形成されている。この実施例では、回転電機13の前端面から回転電機13内に取り込まれた空気は回転電機13の後端面から外部に排出される。
【0047】
ファンが回転すると、ホイール室内の空気は、回転電機13の内部に吸引され、回転電機13の内部を冷却してホイール室外に排出される。ホイール室内は負圧となるため、ホイール2の周壁部の内周面と保護カバー8の外周筒部82との間の隙間を通じて外部からホイール室内に空気が導入される。この隙間は狭いためにベルト式トルク伝達機構でさえ回転に支障をきたすような大きな異物はホイール室内に吸い込まれることはない。すなわち、この実施例では、回転電機13の強制冷却機構をホイール室内の冷却空気流形成機構として共用するため、ホイール室冷却機構を簡素化することができ、ブレーキ粉も外部に排出することができる。その他、この実施例では、空気取り入れ口110を車体の前方方向へ開口したので、冷却空気流形成電力を減らすことができる。
【0048】
(変形態様)
フィルタ112は図4に示すようにメッシュ状フィルタであるが、空気流に随伴する大質量の異物をこの空気流から分離するための公知のサイクロン型セパレータや、空気流を急激に曲げることにより慣性質量が大きい異物を空気流から分離する公知の空気流路急変型異物排除装置を採用してもよい。
【0049】
(変形態様)
上記実施例では、回転電機13のファンによりホイール室内を負圧とすることによりホイール室内に冷却空気流を形成したが、逆に回転電機13のファンから出た空気をホイール室に吹き込んでもよい。この場合には、ホイール室内に吹き込まれた空気はホイール2と保護カバー8との間の隙間から外部に排出されることになる。このようにすれば、この隙間から外部に排出される空気流が、この隙間を通じてのホイール室内への異物や液体の侵入を阻止するため一層良好である。回転電機13からホイール室への空気流れは、ファンが形成した空気流を分流してホイール室に導入してもよく、あるいは、回転電機13を冷却した空気流をホイール室に導入してもよい。
【0050】
(変形態様)
その他、車輪軸支持機構が固定される鋼管製のトレーリングアーム3の孔をダクト部111の代わりに用いることもできる。
【0051】
(変形態様)
その他、図5に示すように、回転電機13を車輪軸を中心とする同心円状に追加の回転電機131を必要個数配置してもよい。
【0052】
(その他の態様)
回転電機は、好適には同心円の周方向に所定角度離れて、複数配置されることができる。回転電機は車輪駆動と回生制動とを行うことができる。ブレーキ装置の回転体としてのブレーキドラムの外周面にフランジ部を設け、このフランジ部に従動スプロケット又は従動プーリを固定することができる。更に、このフランジ部分の外周縁をホイールの内周面に更に近接させることにより、ホイール室の内部の軸方向外側にブレーキ室を区画形成することができ、このブレーキ室への異物侵入を抑止することができる。ホイール室内の空気は、回転電機の回転軸に対して垂直面の後端より吐き出すことができる。このように構成することで通風ガイドなどを用いることなく容易に回転電機へ外気を導入でき冷却ができる。空気取り入れポートの開口部中心位置はタイヤの回転軸水平高さよりも上方に配置されることができる。このように構成することでタイヤによる水や泥などの跳ね上げによる開口部への異物の侵入をしにくくすることができる。
【0053】
(車両実装)
次に、この電動車輪を車両に実装した例を図6を参照して説明する。
【0054】
車両はエンジン22で前輪を駆動し、回転電機13を備えたタイヤは後輪になる。回転電機13を制御するインバータを2基内蔵したコントローラ20が車載蓄電池21より電力を供給し電動モードで制御する。蓄電池21はエンジン22からベルト24を介して駆動されるオルタネータ23の発電電力電で充電される。回転電機13は車両が発進する際には電動モードで作動して発進をアシストし、減速期間には発電モードで作動して減速エネルギーを電力に変換して蓄電池21に蓄える。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】この実施例の電動車輪の軸方向断面図である。
【図2】図1の電動車輪の軸方向にみた正面図である。
【図3】空気取り入れ用のダクトを示す模式図である。
【図4】フィルタを示す正面図である。
【図5】複数の偏芯配置型回転電機を用いた変形態様を示す正面図である。
【図6】この実施例の電動車輪を用いた車両の駆動系構成図である。
【符号の説明】
【0056】
1 タイヤ
2 ホイール
3 トレーリングアーム
4 減衰ダンパ
5 ブレーキドラム
6 アクスルベアリングユニット
7 ブレーキカバー
8 保護カバー
11 従動スプロケット
13 回転電機
14 コグベルト
15 駆動スプロケット
16 支持プレート
17 車輪軸支持部
20 コントローラ
21 蓄電池
22 エンジン
23 オルタネータ
24 ベルト
51 フランジ部
52 ボルト
62 回転部
63 固定部
64 ハブ板
65 ハブボルト
81 中央孔部
82 外周筒部
83 溝筒部
84 ボルト
110 空気取り入れ口
111 ダクト部
112 フィルタ
131 回転電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体から略車体左右方向外側へ突出する車輪軸支部に回転自在に支持されて前記車輪軸支持部から軸方向外側へ突出する車輪軸部を有する車輪と、
前記車輪の車輪軸部に対して偏芯配置された回転電機軸部を有して前記車輪軸支持部又はこの車輪軸支持部に固定された部材に支持される車輪駆動用の回転電機と、
前記回転電機軸部から前記車輪軸部へ減速増倍トルクを伝達するトルク伝達機構と、
を備え、
前記車輪は、車体側に向けて開口する開口部を有して前記車輪軸部に支持される略有底円筒形状のホイールを有し、
前記回転電機の回転電機軸部は、前記ホイールの周壁部の内周面に近接しつつ前記ホイールの内部へ前記車輪軸部と平行に突入する先端部を有する電動車輪であって、
前記車輪軸支持部が貫通する中央孔部と、前記ホイールの周壁部の内周面に所定の隙間を隔てて近接配設される外周縁と、前記回転電機の回転電機軸部の少なくとも先端部分が前記ホイールの内部に突入させるための孔部又は溝部とを有する保護カバーを有し、
この保護カバーは、前記車輪軸支持部に支持されて前記中央孔部の周縁から略径方向外側に延設されて前記開口を略閉鎖することにより、前記トルク伝達機構を前記ホイール内に略密閉するホイール室を区画形成することを特徴とする電動車輪。
【請求項2】
請求項1記載の電動車輪において、
所定方向に開口する空気取り入れ口と、この空気取り入れ口から取り入れた空気を前記ホイール室に導入するダクトとを有し、前記車輪軸支持部又はこの車輪軸支持部に固定された部材に固定される空気取り入れ装置を有することを特徴とする電動車輪。
【請求項3】
請求項2記載の電動車輪において、
前記ホイールの周壁部の内周面と前記ホイールの外周縁との間の前記隙間は、
前記ホイール室から外部に空気を排出する排出孔をなすことを特徴とする電動車輪。
【請求項4】
請求項3記載の電動車輪において、
前記回転電機は、
前記ホイール室外に開口する吸気口と、前記ホイール室に開口する排気口と、前記吸気口から吸入された空気を前記排気口側へ付勢するファンとを有することを特徴とする電動車輪。
【請求項5】
請求項2記載の電動車輪において、
前記回転電機は、
前記ホイール室に開口する吸気口と、前記ホイール室外に開口する排気口と、前記吸気口から吸入されて前記回転電機の内部を冷却した空気を前記排気口に送風するファンとを有することを特徴とする電動車輪。
【請求項6】
請求項2記載の電動車輪において、
前記空気取り入れ口は、
車体の前方方向へ開口していることを特徴とする電動車輪。
【請求項7】
請求項2記載の電動車輪において、
前記空気取り入れ口又は前記ダクトは、
前記吸入空気に含まれる異物を前記ホイール室に導入される空気から排除する異物排除装置を有することを特徴とする電動車輪。
【請求項8】
請求項2記載の電動車輪において、
前記空気取り入れ装置は、
樹脂成形により前記保護カバーと一体に形成されていることを特徴とする電動車輪。
【請求項9】
請求項2記載の電動車輪において、
前記空気取り入れ装置は、
前記車輪軸支持部が固定される鋼管製のトレーリングアームの孔を前記ダクトとして用いることを特徴とする電動車輪。
【請求項10】
請求項1又は9記載の電動車輪において、
前記保護カバーは、
前記車輪軸支持部が固定されるトレーリングアーム又はこのトレーリングアームに固定された支持部材に締結されることを特徴とする電動車輪。
【請求項11】
請求項1記載の電動車輪において、
前記保護カバーの外周縁は、
前記ホイールの周壁部の内周面に対面する円筒状に形成されていることを特徴とする電動車輪。
【請求項12】
請求項1記載の電動車輪において、
前記トルク伝達機構は、
前記車輪軸部に固定された径大な回転体と、
前記回転体の外周部に設けられた従動スプロケット又は従動プーリと、
前記従動スプロケットと軸方向同位置にて前記回転電機軸部の先端部に装着された駆動スプロケット又は駆動プーリと、
前記両スプロケット又は両プーリに巻装された伝導ベルトと、
を有することを特徴とする電動車輪。
【請求項13】
請求項12記載の電動車輪において、
前記トルク伝達機構の回転体は、
前記ホイール室内に収容されたブレーキ装置の回転体により兼用されることを特徴とする電動車輪。
【請求項14】
請求項1記載の電動車輪において、
前記保護カバーは、
前記回転電機軸部貫通用の孔部又は溝部の周囲に略軸方向へ延設されて前記回転電機の周壁に密着する筒部を有することを特徴とする電動車輪。
【請求項15】
請求項15載の電動車輪において、
前記保護カバーは、
前記回転電機を前記車輪軸支持部に支持するための回転電機支持部材を兼ねることを特徴とする電動車輪。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−182273(P2006−182273A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380028(P2004−380028)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】