電圧印加下における電子分光測定装置
【課題】印下電圧を連続的に変化させて各層間に生じるポテンシャル差を調査することができる装置を提供する。
【解決手段】電子分光測定装置は、真空チャンバー内に配置した多層構造を有する試料の上層に電気的に接続する第一端子と、前記試料の下層に電気的に接続する第二端子と、前記チャンバー外に配置した変圧式電圧印下器と、前記両端子と変圧印可器の出力端子とを前記チャンバーの隔壁を貫通して接続する配線とにより構成された電圧印可装置を有することを特徴とする。
【解決手段】電子分光測定装置は、真空チャンバー内に配置した多層構造を有する試料の上層に電気的に接続する第一端子と、前記試料の下層に電気的に接続する第二端子と、前記チャンバー外に配置した変圧式電圧印下器と、前記両端子と変圧印可器の出力端子とを前記チャンバーの隔壁を貫通して接続する配線とにより構成された電圧印可装置を有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造を有する電子デバイスの各層中の電子のポテンシャルを調べるために使用する電圧印加下における電子分光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多層構造を有する電子デバイスの各層中の電子のポテンシャルを調べるに当たり、従来の装置では、図1の従来例に示すように、試料の下面をアースに接続して測定するようになっていた。
電圧印加下の測定例としては、非特許文献1の251ページに「Pt/InPのPt層をグランドに、InPが電気的にコンタクトしているサンプルプレートをポテンショスタットに接続してXPS測定をした」と記述されているが、それを可能にする方法について具体的記述は無い。また、電圧を印加する方法が限られるため、フラットバンド電圧やショットキーバリア高さなど、デバイス動作時の電気特性と関連させる計測法となっていない。
このような従来方法では、印下電圧を連続的に変化させて各層間に生じるポテンシャル差を調査することは困難であった。
【非特許文献1】Solid Stake Communications, Vol.92, No.3, pp.249−254, 1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこのような実情に鑑み、印下電圧を連続的に変化させて各層間に生じるポテンシャル差を調査することができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1の電子分光測定装置は、真空チャンバー内に配置した多層構造を有する試料の上層に電気的に接続する第一端子と、前記試料の下層に電気的に接続する第二端子と、前記チャンバー外に配置した変圧式電圧印下器と、前記両端子と変圧印可器の出力端子とを前記チャンバーの隔壁を貫通して接続する配線とにより構成された電圧印可装置を有することを特徴とする。
【0005】
発明2は、発明1の電子分光測定装置において、その電圧印可装置には、前記配線の途中には、端子との接続をON−OFFするスイッチが設けてあることを特徴とする。
【0006】
発明3は、発明1又は2の電子分光測定装置において、その電圧印可装置には、前記変圧印可器の出力端子の何れか一方をアースに接続する切り替えスイッチが設けてあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
前記発明1により、多層構造の上下に電圧を印加したことによる各層の電子ポテンシャルへの影響が電圧の関数として計測できるようになった。
【0008】
前記発明2により、多層構造の上下に流れる漏れ電流の影響や計測上の問題を、電圧印加下の各層中の電子ポテンシャルと分離して計測できるようになった。
【0009】
前記発明3により、電圧印加下の電子ポテンシャルが、電極を接続しない状態で試料に蓄積されていた電荷によりどのように影響されているかがわかるようになった。
【0010】
以上のことをまとめると、試料の上下から電気的に接続する端子を設けることで、試料の上下層に連続的に可変な電圧を印加した測定が、試料一般に可能となった。また、接続端子との接続をON−OFFするスイッチを設けたことで、電圧印加の方法として4通りの方法が可能になり、試料本来のポテンシャルによる測定結果と電圧印加回路を設けたことに由来する影響を分離することが可能になった。
具体的には、MOS構造、MIM構造など、非オーミックコンタクトを持つ界面構造を有する試料の上下に、連続的に可変な電圧を印加した状態で、電子スペクトルの取得が可能である。この電子スペクトルから、非オーミックコンタクトの起こっている界面を特定することができる。また、ショットキーバリア高さ、フラットバンド電圧などを電子分光的に求めることができ、直接デバイスの電気特性測定結果と比較することができる。
図2に、MOS構造を例に、電極間の電位が異なる2つの状態(V=0とV=V)におけるM、O、Siそれぞれからの光電子結合エネルギーEM、EO、ESiの違いからどのようなことが言えるかを示してある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
【実施例1】
【0012】
本発明を実施するための電圧印可装置の詳細を図13を参照して説明する。
非オーミックコンタクトを持つ界面構造を有する試料(S)の上部に電極(1)、下部に電極(2)をつけ、電線(L1)及び(L2)を通して真空容器外に電極端子を取り出す。それぞれの電線はオンオフスイッチ(3)及び(4)を介して可変式の定電圧発生器(5)に接続し、(3)または(4)のいずれかはスイッチ(6)を介してアースに接続するようになっている。スイッチ(3)、(4)、(6)のオンオフにより、下記の実施例に示すように様々な電圧印加状態を実現する。
前記電線(L1)(L2)は真空容器の隔壁(H)を貫通するものであるから、密封手段を採用してあるのは当然であり、その具体的な内容は公知であるから省略する。
【0013】
なお、オンオフスイッチ3及び4にかわり、図14のようにロータリースイッチ(8)を設け、真反対の2面と一面の3面に通電部(A)(A‘)(B)を設け、電線(L1)(L2)には、それぞれ前記通電部(A)(A‘)(B)に接触できる端子(3a)(3b)(4a)(4b)を設けて、ロータリースイッチ(8)の回転により、電線(L1)(L2)の通電状態を4通りに変更できるようにするのも可能である。
また、下部電極は、試料に直接取り付けるのではなく、試料ステージに取り付け、試料下面と試料ステージとが通電状態になるように設置することも同様な効果を発揮させることが出来る。
【0014】
前記電圧可変式の定電圧発生器(5)は、電源と電圧調整構造が一体化されたものを例示したが、これがそれぞれ別体化され直列配置することも何ら問題なく採用可能である。
【0015】
上記構成以外の電子分光測定装置の構成は従来と同様なので詳しい説明は省略する。
また、上記構成は従来周知の何れの電子分光測定装置に対しても問題なく適用できるものである。
【実施例2】
【0016】
本実施例は、前記実施例1で示した装置を用いて行った測定例を示す。
図2は、p型SiをSとする理想MOS構造に電圧を印加したとき(V=V)と印加しないとき(V=0)のM、Sのバンドエネルギー図である。
V=0(MとSの双方がアースポテンシャルになっている)では、Mの仕事関数φm(MのフェルミレベルEFと真空レベルEVACとの差)とSの電子親和力EAの大きさが異なるのでSの伝導帯Ecと価電子帯Evが界面でバンドベンディングする。このときのM、O、S各層の内殻電子の結合エネルギーをEM(0)、EO(0)、Esi(0)とする。次に、V=Vで内殻電子の結合エネルギーを測定したところ、それぞれ、EM(V)、EO(V)、Esi(V)とする。このとき、EM(V)=EM(0)+Vとなっている。すべての界面がオーミックコンタクトなら、EO(V)=EO(0)+V、Esi(V)=Esi(0)+Vとなるはずだが、実際にはそうならない。EO(V)−EO(0)−Vの値から、M−O界面(界面1)に蓄積された電荷によるポテンシャル変化の量、Esi(V)−Esi(0)−(EO(V)−EO(0))の値からO−S界面(界面2)に蓄積された電荷によるポテンシャル変化の量を求めることができる。また、バンドベンディングがゼロになる印加電圧(フラットバンド電圧)の時に、上記の関係式により界面1および界面2に蓄積された電荷を求めることにより、フラットバンド電圧が決まるメカニズムがわかる。
【0017】
図3のような構造を持つ試料に、図に示したように上下に電極を接続し、上下電極に図4に示すような電気的状況下でX線光電子分光(XPS)測定を行った。その結果、印加した電圧に応じてXPSスペクトルがシフトした。図5に示したのは、Pt4f7/2のピークのシフトする様子である。
図5より、Siに印加した電圧によってPtのピークがシフトしていることから、回路全体に漏れ電流が発生していて、漏れ電流による電圧降下があることがわかる。また、印加した電圧よりもシフト量が少ないことから、Si−HfOxを経てPtに至るまでの間に電圧降下の要因があることがわかる。
【実施例3】
【0018】
本実施例は、前記実施例1で示した装置を用いて行った測定例を示す。
図3のような構造を持つ試料に、図に示したように上下に電極を接続し、上下電極に図6に示すような電気的状況下でX線光電子分光(XPS)測定を行った。その結果、印加した電圧に応じてXPSスペクトルがシフトした。図7に示したのは、Pt4f7/2のピークのシフトする様子である。
図7より、Siに印加した電圧によってPtのピークがシフトしており、そのシフト量が印加した電圧と同じであることから、漏れ電流がなければ(回路として上部を開いているので、電流が流れない)、Si−HfOxを経てPtに至るまでの間に電圧降下は起こっていないことがわかる。
【実施例4】
【0019】
本実施例は、前記実施例1で示した装置を用いて行った測定例を示す。
図3のような構造を持つ試料に、図に示したように上下に電極を接続し、上下電極に図8に示すような電気的状況下でX線光電子分光(XPS)測定を行った。その結果、印加した電圧に応じてXPSスペクトルがシフトした。図9に示したのは、Pt4f7/2のピークのシフトする様子である。
図9より、上部金属に印加した電圧よりもPtのピークのシフト量が少ないことから、回路全体に漏れ電流が発生していて、漏れ電流による電圧降下があることがわかる。
【実施例5】
【0020】
本実施例は、前記実施例1で示した装置を用いて行った測定例を示す。
図3のような構造を持つ試料に、図に示したように上下に電極を接続し、上下電極に図10に示すような電気的状況下でX線光電子分光(XPS)測定を行った。その結果、印加した電圧に応じてXPSスペクトルがシフトした。図11に示したのは、Pt4f7/2のピークのシフトする様子である。
図11より、上部金属に印加した電圧によってPtのピークがシフトしており、そのシフト量が印加した電圧と同じであることから、漏れ電流がなければ(回路として下部を開いているので、電流が流れない)、電圧降下は起こっていないことがわかる。
【実施例6】
【0021】
本実施例は、前記実施例1で示した装置を用いて行った測定例を示す。
図3のような構造を持ち、上部の金属層が前期の例よりも薄い試料に、図に示したように上下に電極を接続し、上下電極に図8に示すような電気的状況下でX線光電子分光(XPS)測定を行った。その結果、印加した電圧に応じてXPSスペクトルがシフトした。図12に示したのは、Pt4f7/2とHf4f7/2のピークのシフトする様子である。
図12より、上部金属に印加した電圧が同じ時に、PtとHfのピークのシフト量を比較することで、電圧降下の起こっている場所を特定することができる。ピークのシフト量の違いは、PtとHfO2との間に形成されている電気二重層による電位に相当する(図2を参照)。
【実施例7】
【0022】
前記以外の適用例を説明する。
実施例ではAlKαX線による光電子スペクトルを測定しているが、電子の相対的電位が反映される手法であることが、本技術の要件なので、オージェ電子スペクトル、紫外線励起や他の特性X線、放射光など様々なエネルギーの光源による光電子スペクトル測定など、電子分光スペクトルの種類を問わずに適用できる。
【実施例8】
【0023】
前記以外の適用例を説明する。
実施例では図13に示した配線を用いているが、スイッチ3、4の機能を一体化した図14に示すロータリースイッチを用いた配線も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
MOS構造において、フラットバンド電圧を調整するために改善すべき箇所がわかる(M−O界面か、O−S界面かなど)。
MOSデバイスで問題が生じている場合に、その原因を特定するに役立つ(それが電圧印加により誘起される問題かどうか、電圧印加に対して可逆的現象なのかなど)。
MIM構造において、トンネル電子を引き出すために必要な電圧や、トンネル電子のエネルギー分布が予測できる。
MOS、MIM構造のブレークダウン電圧が予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来と本発明の配線を比較して示した模式図
【図2】p型SiをSとする理想MOS構造に電圧を印加したとき(V=V)と印加しないとき(V=0)のM、Sのバンドエネルギー図。
【図3】各実施例で使用した試料の層構造を示す模式図
【図4】実施例2の電圧印加の配線図
【図5】実施例2の電圧印加下のXPSスペクトル(Pt4f7/2)グラフ
【図6】実施例3の電圧印加の配線図
【図7】実施例3の電圧印加下のXPSスペクトル(Pt4f7/2)グラフ
【図8】実施例4の電圧印加の配線図
【図9】実施例4の電圧印加下のXPSスペクトル(Pt4f7/2)グラフ
【図10】実施例5の電圧印加の配線図
【図11】実施例5の電圧印加下のXPSスペクトル(Pt4f7/2)グラフ
【図12】実施例6の電圧印加下のXPSスペクトル(Pt4f7/2、およびHf4f7/2)グラフ
【図13】実施例1の可変電圧印下装置の構造を示す配線図
【図14】実施例1の可変電圧印下装置の構造の変更例を示す配線図
【符号の説明】
【0026】
(1)上部電極
(2)下部電極
(3)(4)(6)オンオフスイッチ
(L1)(L2)電線
(H)真空容器の隔壁
(8)ロータリースイッチ
(A)(A‘)(B)通電部
(3a)(3b)電線(L1)の端子
(4a)(4b))電線(L2)の端子
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造を有する電子デバイスの各層中の電子のポテンシャルを調べるために使用する電圧印加下における電子分光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多層構造を有する電子デバイスの各層中の電子のポテンシャルを調べるに当たり、従来の装置では、図1の従来例に示すように、試料の下面をアースに接続して測定するようになっていた。
電圧印加下の測定例としては、非特許文献1の251ページに「Pt/InPのPt層をグランドに、InPが電気的にコンタクトしているサンプルプレートをポテンショスタットに接続してXPS測定をした」と記述されているが、それを可能にする方法について具体的記述は無い。また、電圧を印加する方法が限られるため、フラットバンド電圧やショットキーバリア高さなど、デバイス動作時の電気特性と関連させる計測法となっていない。
このような従来方法では、印下電圧を連続的に変化させて各層間に生じるポテンシャル差を調査することは困難であった。
【非特許文献1】Solid Stake Communications, Vol.92, No.3, pp.249−254, 1994
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこのような実情に鑑み、印下電圧を連続的に変化させて各層間に生じるポテンシャル差を調査することができる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1の電子分光測定装置は、真空チャンバー内に配置した多層構造を有する試料の上層に電気的に接続する第一端子と、前記試料の下層に電気的に接続する第二端子と、前記チャンバー外に配置した変圧式電圧印下器と、前記両端子と変圧印可器の出力端子とを前記チャンバーの隔壁を貫通して接続する配線とにより構成された電圧印可装置を有することを特徴とする。
【0005】
発明2は、発明1の電子分光測定装置において、その電圧印可装置には、前記配線の途中には、端子との接続をON−OFFするスイッチが設けてあることを特徴とする。
【0006】
発明3は、発明1又は2の電子分光測定装置において、その電圧印可装置には、前記変圧印可器の出力端子の何れか一方をアースに接続する切り替えスイッチが設けてあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
前記発明1により、多層構造の上下に電圧を印加したことによる各層の電子ポテンシャルへの影響が電圧の関数として計測できるようになった。
【0008】
前記発明2により、多層構造の上下に流れる漏れ電流の影響や計測上の問題を、電圧印加下の各層中の電子ポテンシャルと分離して計測できるようになった。
【0009】
前記発明3により、電圧印加下の電子ポテンシャルが、電極を接続しない状態で試料に蓄積されていた電荷によりどのように影響されているかがわかるようになった。
【0010】
以上のことをまとめると、試料の上下から電気的に接続する端子を設けることで、試料の上下層に連続的に可変な電圧を印加した測定が、試料一般に可能となった。また、接続端子との接続をON−OFFするスイッチを設けたことで、電圧印加の方法として4通りの方法が可能になり、試料本来のポテンシャルによる測定結果と電圧印加回路を設けたことに由来する影響を分離することが可能になった。
具体的には、MOS構造、MIM構造など、非オーミックコンタクトを持つ界面構造を有する試料の上下に、連続的に可変な電圧を印加した状態で、電子スペクトルの取得が可能である。この電子スペクトルから、非オーミックコンタクトの起こっている界面を特定することができる。また、ショットキーバリア高さ、フラットバンド電圧などを電子分光的に求めることができ、直接デバイスの電気特性測定結果と比較することができる。
図2に、MOS構造を例に、電極間の電位が異なる2つの状態(V=0とV=V)におけるM、O、Siそれぞれからの光電子結合エネルギーEM、EO、ESiの違いからどのようなことが言えるかを示してある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
【実施例1】
【0012】
本発明を実施するための電圧印可装置の詳細を図13を参照して説明する。
非オーミックコンタクトを持つ界面構造を有する試料(S)の上部に電極(1)、下部に電極(2)をつけ、電線(L1)及び(L2)を通して真空容器外に電極端子を取り出す。それぞれの電線はオンオフスイッチ(3)及び(4)を介して可変式の定電圧発生器(5)に接続し、(3)または(4)のいずれかはスイッチ(6)を介してアースに接続するようになっている。スイッチ(3)、(4)、(6)のオンオフにより、下記の実施例に示すように様々な電圧印加状態を実現する。
前記電線(L1)(L2)は真空容器の隔壁(H)を貫通するものであるから、密封手段を採用してあるのは当然であり、その具体的な内容は公知であるから省略する。
【0013】
なお、オンオフスイッチ3及び4にかわり、図14のようにロータリースイッチ(8)を設け、真反対の2面と一面の3面に通電部(A)(A‘)(B)を設け、電線(L1)(L2)には、それぞれ前記通電部(A)(A‘)(B)に接触できる端子(3a)(3b)(4a)(4b)を設けて、ロータリースイッチ(8)の回転により、電線(L1)(L2)の通電状態を4通りに変更できるようにするのも可能である。
また、下部電極は、試料に直接取り付けるのではなく、試料ステージに取り付け、試料下面と試料ステージとが通電状態になるように設置することも同様な効果を発揮させることが出来る。
【0014】
前記電圧可変式の定電圧発生器(5)は、電源と電圧調整構造が一体化されたものを例示したが、これがそれぞれ別体化され直列配置することも何ら問題なく採用可能である。
【0015】
上記構成以外の電子分光測定装置の構成は従来と同様なので詳しい説明は省略する。
また、上記構成は従来周知の何れの電子分光測定装置に対しても問題なく適用できるものである。
【実施例2】
【0016】
本実施例は、前記実施例1で示した装置を用いて行った測定例を示す。
図2は、p型SiをSとする理想MOS構造に電圧を印加したとき(V=V)と印加しないとき(V=0)のM、Sのバンドエネルギー図である。
V=0(MとSの双方がアースポテンシャルになっている)では、Mの仕事関数φm(MのフェルミレベルEFと真空レベルEVACとの差)とSの電子親和力EAの大きさが異なるのでSの伝導帯Ecと価電子帯Evが界面でバンドベンディングする。このときのM、O、S各層の内殻電子の結合エネルギーをEM(0)、EO(0)、Esi(0)とする。次に、V=Vで内殻電子の結合エネルギーを測定したところ、それぞれ、EM(V)、EO(V)、Esi(V)とする。このとき、EM(V)=EM(0)+Vとなっている。すべての界面がオーミックコンタクトなら、EO(V)=EO(0)+V、Esi(V)=Esi(0)+Vとなるはずだが、実際にはそうならない。EO(V)−EO(0)−Vの値から、M−O界面(界面1)に蓄積された電荷によるポテンシャル変化の量、Esi(V)−Esi(0)−(EO(V)−EO(0))の値からO−S界面(界面2)に蓄積された電荷によるポテンシャル変化の量を求めることができる。また、バンドベンディングがゼロになる印加電圧(フラットバンド電圧)の時に、上記の関係式により界面1および界面2に蓄積された電荷を求めることにより、フラットバンド電圧が決まるメカニズムがわかる。
【0017】
図3のような構造を持つ試料に、図に示したように上下に電極を接続し、上下電極に図4に示すような電気的状況下でX線光電子分光(XPS)測定を行った。その結果、印加した電圧に応じてXPSスペクトルがシフトした。図5に示したのは、Pt4f7/2のピークのシフトする様子である。
図5より、Siに印加した電圧によってPtのピークがシフトしていることから、回路全体に漏れ電流が発生していて、漏れ電流による電圧降下があることがわかる。また、印加した電圧よりもシフト量が少ないことから、Si−HfOxを経てPtに至るまでの間に電圧降下の要因があることがわかる。
【実施例3】
【0018】
本実施例は、前記実施例1で示した装置を用いて行った測定例を示す。
図3のような構造を持つ試料に、図に示したように上下に電極を接続し、上下電極に図6に示すような電気的状況下でX線光電子分光(XPS)測定を行った。その結果、印加した電圧に応じてXPSスペクトルがシフトした。図7に示したのは、Pt4f7/2のピークのシフトする様子である。
図7より、Siに印加した電圧によってPtのピークがシフトしており、そのシフト量が印加した電圧と同じであることから、漏れ電流がなければ(回路として上部を開いているので、電流が流れない)、Si−HfOxを経てPtに至るまでの間に電圧降下は起こっていないことがわかる。
【実施例4】
【0019】
本実施例は、前記実施例1で示した装置を用いて行った測定例を示す。
図3のような構造を持つ試料に、図に示したように上下に電極を接続し、上下電極に図8に示すような電気的状況下でX線光電子分光(XPS)測定を行った。その結果、印加した電圧に応じてXPSスペクトルがシフトした。図9に示したのは、Pt4f7/2のピークのシフトする様子である。
図9より、上部金属に印加した電圧よりもPtのピークのシフト量が少ないことから、回路全体に漏れ電流が発生していて、漏れ電流による電圧降下があることがわかる。
【実施例5】
【0020】
本実施例は、前記実施例1で示した装置を用いて行った測定例を示す。
図3のような構造を持つ試料に、図に示したように上下に電極を接続し、上下電極に図10に示すような電気的状況下でX線光電子分光(XPS)測定を行った。その結果、印加した電圧に応じてXPSスペクトルがシフトした。図11に示したのは、Pt4f7/2のピークのシフトする様子である。
図11より、上部金属に印加した電圧によってPtのピークがシフトしており、そのシフト量が印加した電圧と同じであることから、漏れ電流がなければ(回路として下部を開いているので、電流が流れない)、電圧降下は起こっていないことがわかる。
【実施例6】
【0021】
本実施例は、前記実施例1で示した装置を用いて行った測定例を示す。
図3のような構造を持ち、上部の金属層が前期の例よりも薄い試料に、図に示したように上下に電極を接続し、上下電極に図8に示すような電気的状況下でX線光電子分光(XPS)測定を行った。その結果、印加した電圧に応じてXPSスペクトルがシフトした。図12に示したのは、Pt4f7/2とHf4f7/2のピークのシフトする様子である。
図12より、上部金属に印加した電圧が同じ時に、PtとHfのピークのシフト量を比較することで、電圧降下の起こっている場所を特定することができる。ピークのシフト量の違いは、PtとHfO2との間に形成されている電気二重層による電位に相当する(図2を参照)。
【実施例7】
【0022】
前記以外の適用例を説明する。
実施例ではAlKαX線による光電子スペクトルを測定しているが、電子の相対的電位が反映される手法であることが、本技術の要件なので、オージェ電子スペクトル、紫外線励起や他の特性X線、放射光など様々なエネルギーの光源による光電子スペクトル測定など、電子分光スペクトルの種類を問わずに適用できる。
【実施例8】
【0023】
前記以外の適用例を説明する。
実施例では図13に示した配線を用いているが、スイッチ3、4の機能を一体化した図14に示すロータリースイッチを用いた配線も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
MOS構造において、フラットバンド電圧を調整するために改善すべき箇所がわかる(M−O界面か、O−S界面かなど)。
MOSデバイスで問題が生じている場合に、その原因を特定するに役立つ(それが電圧印加により誘起される問題かどうか、電圧印加に対して可逆的現象なのかなど)。
MIM構造において、トンネル電子を引き出すために必要な電圧や、トンネル電子のエネルギー分布が予測できる。
MOS、MIM構造のブレークダウン電圧が予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来と本発明の配線を比較して示した模式図
【図2】p型SiをSとする理想MOS構造に電圧を印加したとき(V=V)と印加しないとき(V=0)のM、Sのバンドエネルギー図。
【図3】各実施例で使用した試料の層構造を示す模式図
【図4】実施例2の電圧印加の配線図
【図5】実施例2の電圧印加下のXPSスペクトル(Pt4f7/2)グラフ
【図6】実施例3の電圧印加の配線図
【図7】実施例3の電圧印加下のXPSスペクトル(Pt4f7/2)グラフ
【図8】実施例4の電圧印加の配線図
【図9】実施例4の電圧印加下のXPSスペクトル(Pt4f7/2)グラフ
【図10】実施例5の電圧印加の配線図
【図11】実施例5の電圧印加下のXPSスペクトル(Pt4f7/2)グラフ
【図12】実施例6の電圧印加下のXPSスペクトル(Pt4f7/2、およびHf4f7/2)グラフ
【図13】実施例1の可変電圧印下装置の構造を示す配線図
【図14】実施例1の可変電圧印下装置の構造の変更例を示す配線図
【符号の説明】
【0026】
(1)上部電極
(2)下部電極
(3)(4)(6)オンオフスイッチ
(L1)(L2)電線
(H)真空容器の隔壁
(8)ロータリースイッチ
(A)(A‘)(B)通電部
(3a)(3b)電線(L1)の端子
(4a)(4b))電線(L2)の端子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧印加下における電子分光測定装置であって、真空チャンバー内に配置した多層構造を有する試料の上層に電気的に接続する第一端子と、前記試料の下層に電気的に接続する第二端子と、前記チャンバー外に配置した可変式定電圧発生器と、前記両端子と可変式定電圧発生器の出力端子とを前記チャンバーの隔壁を貫通して接続する配線とにより構成された電圧印可装置を有することを特徴とする電子分光測定装置
【請求項2】
請求項1に記載の電子分光測定装置において、その電圧印可装置には、前記配線の途中には、端子との接続をON−OFFするスイッチが設けてあることを特徴とする電子分光測定装置
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子分光測定装置において、その電圧印可装置には、前記変圧印可器の出力端子の何れか一方をアースに接続する切り替えスイッチが設けてあることを特徴とする電子分光測定装置
【請求項1】
電圧印加下における電子分光測定装置であって、真空チャンバー内に配置した多層構造を有する試料の上層に電気的に接続する第一端子と、前記試料の下層に電気的に接続する第二端子と、前記チャンバー外に配置した可変式定電圧発生器と、前記両端子と可変式定電圧発生器の出力端子とを前記チャンバーの隔壁を貫通して接続する配線とにより構成された電圧印可装置を有することを特徴とする電子分光測定装置
【請求項2】
請求項1に記載の電子分光測定装置において、その電圧印可装置には、前記配線の途中には、端子との接続をON−OFFするスイッチが設けてあることを特徴とする電子分光測定装置
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子分光測定装置において、その電圧印可装置には、前記変圧印可器の出力端子の何れか一方をアースに接続する切り替えスイッチが設けてあることを特徴とする電子分光測定装置
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−111800(P2008−111800A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−296406(P2006−296406)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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