説明

電子ドラム

【課題】電子ドラムの構造等を工夫してハウリングの低減を可能にすること
可能な電子ドラムを実現すること。
【解決手段】トップケース2上面の打撃面領域に、その周囲に溝部10を形成しながらヘッドボード11を載置可能で開口部3を有する載置部9をトップケース11に一体的に設け、更に載置部9に複数個の弾力性を有するクッション部材8を介してヘッドボード11を搭置し、打撃面となるヘッドラバー12をヘッドボード11に装着する。そして、圧電素子14はヘッドボード11の下面に装着され開口部3から突出されるので、電子ドラム筺体に内蔵されるスピーカの放音振動が生じても、この振動が圧電素子14に伝わりにくくなりハウリングが低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筺体にスピーカおよび圧電素子を内蔵し筺体上面に打撃面を有する電子ドラムの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラムヘッド部の打撃面に対する手やスティック等による打撃に対する振動を圧電素子で衝撃波信号として検出し、この検出した衝撃波信号に基づいた信号処理を施して放音する各種の構造の電子ドラムが提案されてきた。例えば、ドラムヘッド部の打撃面と反対の面にミュート部材を密着して設け、打撃面を平面視して、このミュート部材が存在しない領域である弾性体不存在領域内で、かつ、ドラムヘッド部の打撃面と反対の面に密着して圧電素子(振動ピックアップ)を設けたものが提案されていた。この電子ドラムによれば、打撃面の弾性体不存在領域を打撃すると打撃音が高周波成分を含む一方、この弾性体不存在領域以外の領域である弾性体存在領域を打撃すると高周波成分が少なくなり、リアリティのある演奏を楽しむことが可能となる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−217623号公報(第5−6頁、第5図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の電子ドラムにあっては、スピーカが内蔵されていると、このスピーカの放音による振動がマイクロフォン(圧電素子)に伝わってしまいハウリングループが形成されてハウリングをおこす場合があった。
【0005】
本発明は、かかる従来の課題を解決するためになされたもので、電子ドラムの構造等を工夫してハウリングの低減を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、上面が円形状に開放されており、スピーカ(50)を内蔵するボトムケース(1)に対して、この開放面を閉塞する平面形状が円形状のトップケース(2)を装着し、前記トップケース(2)の上面の一部が打撃面(12)とされた電子ドラムにおいて、
前記トップケース(2)上面の打撃面(12)領域に、その周囲に溝部(10)を形成しながらヘッドボード(11)を載置可能で開口部(3)を有する載置部(9)を前記トップケース(2)に一体的に設け、
前記載置部(9)に複数個の弾力性を有するクッション部材(8)を介して搭載するヘッドボード(11)と、
このヘッドボード(11)に装着して前記打撃面となるヘッドラバー(12)と、
前記ヘッドボード(11)の下面に装着され前記開口部(3)から突出される圧電素子(14)と、を備えたことを特徴とするようにした。
【0007】
この構成によれば、トップケース上面の打撃面領域に、その周囲に溝部を形成しながらヘッドボードを載置可能で開口部を有する載置部を前記トップケースに一体的に設け、更に載置部に複数個の弾力性を有するクッション部材を介してヘッドボードを搭置し、打撃面となるヘッドラバーをヘッドボードに装着する。そして、圧電素子がヘッドボードの下面に装着され開口部から突出されるので、電子ドラム筺体に内蔵されるスピーカの放音振動が生じても、この振動が圧電素子に伝わりにくくなりハウリングが低減される。
【0008】
より具体的には、前記トップケース(2)上面の打撃面領域の形状を略半円状とし、溝部(10)がその周囲に形成される載置部(9)の平面形状がこの打撃面領域よりも面積の小さな略半円状とし、更に、ヘッドボード(11)をその平面形状が載置部(9)に搭載される略半円状としてヘッドボード(11)にヘッドラバー(12)を装着してトップケース(2)上面の打撃面領域を閉塞する構成とすることができる。また、クッション材(8)は直方体形状の部材であり、その下面側は前記載置部(9)と接着されていると共に、その上面側は前記ヘッドボード(11)の下面側に接着されるようにすれば良い。
【0009】
そして、上述した電子ドラムにおいて、トップケース(2)裏側における、開口部(3)から見えるヘッドボード(11)の一部に重り部材(13)を設けた構成とすれば、ヘッドボードの固有振動周波数を低減することができ、この結果、ケース筺体が有する固有振動周波数との差を作り出すことができ、一層ハウリングが抑制可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハウリングの低減を可能にした電子ドラムを実現することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】信号処理系の構成図である。
【図2】信号処理系の動作の説明図である。
【図3】衝撃波信号の波形の説明図である。
【図4】信号処理系の動作の模式的な説明図である。
【図5】電子ドラム200の外観の説明図である。
【図6】電子ドラム200を構成するボトムケース1の外観の説明図である。
【図7】電子ドラム200を構成するトップケース2の平面図である。
【図8】トップケース2の組立を示す模式的な説明図である。
【図9】トップケース2の組立後の裏面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施の形態について図面を参照しつつ説明する。以下、始めに、電子ドラムに内蔵される「信号処理系」について説明し、その後、特徴的な構造について説明することによって本発明の理解の容易化に努める。
【0013】
(信号処理系)
図1は本発明の実施形態である電子ドラム200の信号処理系の構成図である。この信号処理系は、図3に示すように打撃面としてのヘッドラバー12(以下、単に「打撃面」とも記す)を打撃した際に打撃面の振動振幅に応じた振幅信号を出力する圧電素子14が出力する衝撃波信号(Su)をアナログデジタル変換するA/D変換器15と、このアナログデジタル変換されたデジタル信号を入力する共振系信号処理部20と、このデジタル信号を入力するPCM系信号処理部30と、共振系信号処理部20からの出力信号を増幅するゲイン60と、PCM系信号処理部30からの出力信号を増幅するゲイン62と、両ゲイン60、62からの出力信号を混合するミキサー65(混合手段)と、混合されたミキシング信号をデジタルアナログ変換するD/A変換器40と、このデジタルアナログ変換されたアナログ信号を電子ドラム音として放音するためのスピーカ50とを備えている。また、メモリ70には予め実際の打楽器音等をPCM方式で録音した信号(例えば電子ドラム残響音等)が記録されており、PCM系信号処理部30は、所定時にメモリ70から録音信号を読み出して再生出力するように構成されている。更に、ゲイン60、ゲイン62は、不図示の操作子でゲイン量を個別に調整可能になっている。
【0014】
(信号処理系の動作)
次に信号処理系の動作を説明する。今、打撃面がドラムスティック又は手等により打撃され振動ピックアップ15が衝撃波信号(Su)を検出した場合、この衝撃波信号(Su)はA/D変換器15でアナログデジタル変換されて、両信号処理部20、30に供給される。共振系信号処理部20は、衝撃波信号(Su)に対するノイズ除去処理を行い、例えば共振周波数に合致した周波数の信号及びこの共振周波数の倍音信号を出力する。すると、これがゲイン60によって増幅されてミキサー65に入力される。PCM信号処理部30からの信号もミキサー65に入力されると、両者は混合されこの混合信号がD/A変換器40でデジタルアナログ変換され、電子ドラムの楽音信号がスピーカ50から放音されることになる。
【0015】
次に、図2を参照して、PCM系信号処理部30が衝撃波信号(Su)を受信してから出力するまでの動作を説明する。先ず、ステップS200において、衝撃波信号のエンベロープ信号を生成する。次に、ステップS210において、生成されたエンベロープ信号が予め設定した或る閾値(th)を超えたか否かを判定する。この或る閾値(th)を超えたものが存在すると判定した場合にのみ(ステップS210のYes)、ステップS220に移行して、そのピークを検出したか否かを判定する一方、これ以外の場合(ステップS210のNo)には処理を終える。
【0016】
ステップS220において、ピークを検出した場合(ステップS220のYes)にはステップS230に移行し、これ以外の場合(ステップS220のNo)には処理を終える。そして、ステップS230では、PCMトリガを生成し、PCM信号の再生機能を起動させる。これに応じて、メモリ70の記録信号を再生してゲイン62へ出力され、ゲイン62はPCM信号を増幅しミキサー65に供給する。以上のように、十分な時間を取ってより正確なアタックレベルを検出した後に、PCM方式で録音された残響音を再生出力することができる。
【0017】
図4は以上の処理の流れを模式的に説明した図面である。符号Aで示すように衝撃波信号(Su)が生成供給されると、符号Bで示すように共振系信号が生成されると共に、符号Cで示すようにPCM系信号も生成され、この両者は符号Dに示すように混合され、これが電子ドラムの楽音信号として放音されることになる。なお、符号Cで示す信号波形において、PCM方式で録音したシエル等の残響信号は、PCMトリガが生成されてから所定時間Tの無音状態が経過した後に音信号が出現するようになっている。かくして、共振系信号とPCM系信号を混合することにより、信号処理系の動作によってもリアリティのある演奏音を放音することが可能となる。
【0018】
(構造)
図5は電子ドラム200の外観図、図6は電子ドラム200の筺体を構成すし下側ケースとなるボトムケース1の外観図、図7は電子ドラム200の筺体を構成し上側ケースとなるトップケース1の平面図、図8はトップケース2の組立状態を模式的に示す説明図である。図6に示すように、この電子ドラム200は、上面が円形状に開放されている略円筒状体であるボトムケース1と、この開放面を閉塞する平面形状が円形で全体が蓋状となっているトップケース2とを有し、トップケース2をボトムケース1に装着して構成される。そして、トップケース2上面の略半分の平面視略半円状(完全な半円状でなくても良い)の領域は、電子ドラム200上面の打撃面となるヘッドラバー12が装着される一方、この打撃面以外の領域には、ボトムケース1に内蔵されるスピーカ50からの音を放音するための多数の放音孔4が形成されていると共に、各種の操作を行う8個の操作子6、所要の情報を表示する表示部5および音量を調整するための音量つまみが設けられている。
【0019】
また、図6に示すようにボトムケース1には、スピーカ50と、図1を参照して説明した信号処理回路100が内蔵されている。そして、このスピーカ50に対応するトップケース2上の位置に多数の放音孔4が形成されている。なお、後に説明する圧電素子14から延びる配線等は理解容易化のため不図示である。
【0020】
次に、特に図7、図8を参照してトップケース2の構造について説明する。図7に示すようにトップケース2の略半円状のヘッドボード載置部9の周囲には溝部9が形成されているとともに、ヘッドボード載置部9の中央部には平面視長方形状の開口部3が形成されている。この時、溝部10がその周囲に形成される載置部9の平面形状がこの打撃面の領域よりも面積の小さな略半円状となっている。なお、開口部3において、図8に示すように組み立てられた時に存在することとなる圧電素子14を点線の丸印で表現している。なお、ヘッドラバー12を装着しない状態では、ヘッドボード載置部9の上面は、溝部10を形成することによって、スピーカ用の放音孔4が形成された面よりも低くなっている。
【0021】
さて、図8に示すようにトップケース2のヘッドボード載置部9に複数個の弾力性のあるクッション材8を接着する。図8の例では8個のクッション材8を設けているが、最低3個設ければヘッドボード11を受け止めることができる。クッション材8は薄肉の直方体形状の部材であり、その下面側はクッション材載置部9と接着されていると共に、その上面側はヘッドボード11の下面側に接着される。
【0022】
ヘッドボード11は、その平面形状がヘッドボード載置部9に搭載される略半円状(完全な半円形状でなくとも良い)であり、その下面には縦長の円筒状の圧電素子14の上面が接着されている。このようにして、ヘッドボード11は複数のクッション材8を介してトップケース2に装着され、この時、ヘッドボード11の下面に接着された圧電素子14の下面は開口部3を介して突出する。そして、最後に、ヘッドボード11に平面形状が略半円状のヘッドラバーを接着してトップケース2上面の打撃面領域を閉塞する。かくして、ヘッドラバー12上面と、スピーカ用の放音孔4が形成された面とが同一面となって、ドラム演奏に違和感を生じさせなくなる。
【0023】
以上のように、本発明の実施形態の電子ドラム200は、トップケース2上面の打撃面領域に、その周囲に溝部10を形成しながらヘッドボード11を載置可能で長方形状の開口部3を有するヘッドボード載置部9をトップケースに2一体的に設け、更にヘッドボード載置部9に複数個の弾力性を有するクッション部材8を介してヘッドボード11を搭置し、打撃面となるヘッドラバー12をヘッドボード11に接着されており、更にまた、圧電素子14がヘッドボード2の下面に装着され開口部3から突出されるので、電子ドラム筺体に内蔵されるスピーカの放音振動が生じても、この振動が圧電素子に伝わりにくくなりハウリングが低減される。
【0024】
図9はトップケース9の裏面図である。図8を参照して説明したように組み立てれば、長方形状の開口部3からは円筒状の圧電素子14の下面が突出されると共に、圧電素子14の上面を接着したヘッドボード12の下面が開口部3を介して臨んでいる。つまり、開口部3からはヘッドボード12の下面の一部を見ることができる。そして、開口部3から見えるヘッドボード12の下面の圧電素子14が存在しない場所に適当な形状の重り部材13を接着する。図9の例は、平面視「コの字型」で肉厚の重り部材13をヘッドボード12の下面に装着しているが、重り部材の形状はこれに限られない。例えば単なる直方体状の形状の部材等でも良い。
【0025】
このように、ヘッドボード12の下面の圧電素子14が存在しない場所に適当な形状の重り部材13を設けることによって、ヘッドボード2の重量を重くして固有振動周波数を低減することができ、この結果、ケース筺体が有する固有振動周波数との差を作り出すことができ、両者の共振現象の発生を防ぐことができ一層ハウリングが抑制可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上説明してきたように、本発明は電子ドラムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 ボトムケース
2 トップケース
3 開口部
4 放音孔
5 表示部
6 操作子
7 音量つまみ
8 クッション材
9 ヘッドボート載置部
10 溝部
12 ヘッドラバー
13 重り部材
14 圧電素子
50 スピーカ
100 信号処理回路
200 電子ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が円形状に開放されておりスピーカを内蔵するボトムケースに対して、この開放面を閉塞する平面形状が円形状のトップケースを装着し、前記トップケースの上面の一部が打撃面とされた電子ドラムにおいて、
前記トップケース上面の打撃面領域に、その周囲に溝部を形成しながらヘッドボードを載置可能で開口部を有する載置部を前記トップケースに一体的に設け、
前記載置部に複数個の弾力性を有するクッション部材を介して搭載するヘッドボードと、
このヘッドボードに装着して前記打撃面となるヘッドラバーと、
前記ヘッドボードの下面に装着され前記開口部から突出される圧電素子と、を備えたことを特徴とする電子ドラム。
【請求項2】
請求項1に記載の電子ドラムにおいて、
前記トップケース上面の打撃面領域はその形状が略半円状であり、
前記溝部がその周囲に形成される前記載置部の平面形状がこの打撃面領域よりも面積の小さな略半円状あることを特徴とする電子ドラム。
【請求項3】
請求項2に記載の電子ドラムにおいて、
前記ヘッドボードはその平面形状が前記載置部に搭載される略半円状であり、
前記ヘッドボードに前記ヘッドラバーを装着して前記トップケース上面の前記打撃面領域を閉塞することを特徴とする電子ドラム。
【請求項4】
請求項1、2および3の内のいずれか一項に記載の電子ドラムにおいて、
前記クッション材は直方体形状の部材であり、その下面側は前記載置部と接着されていると共に、その上面側は前記ヘッドボードの下面側に接着されていることを特徴とする電子ドラム。
【請求項5】
請求項1、2,3および4の内のいずれか一項に記載の電子ドラムにおいて、
前記トップケース裏側における、前記開口部から見える前記ヘッドボードの一部に重り部材を設けたことを特徴とする電子ドラム。
【請求項6】
請求項2、3、4および5の内のいずれか一項に記載の電子ドラムにおいて、
前記トップケース上面の打撃面領域以外の領域には、前記ボトムケースに内蔵されたスピーカからの音を放音するための放音孔が複数形成されていることを特徴とする電子ドラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−173426(P2012−173426A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33775(P2011−33775)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000130329)株式会社コルグ (111)
【Fターム(参考)】