説明

電子写真装置用の無端ベルト

【課題】 過酷な環境下におかれても、ビードが無端ベルト本体から容易に剥離せず、安定した走行が得られる電子写真装置用の無端ベルトを提供する。
【解決手段】 無端ベルト本体2にビード3を接合している剪断接着強度をH(N/m)とするとき、ビード3は、その引張弾性率Y(Pa)、ビード3単体を70℃、90%RHの環境で72時間熱エージングしたときのビード3の長手方向の寸法変化率の絶対値をF(%)、ビード3の短手方向の断面積をS(m)とした場合のH、Y、F、Sの関係が1800≦H/(Y×F×S)である構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真方式を利用した、複写機やプリンタ、ファクシミリ等の電子写真装置に使用される無端ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の蛇行防止用のガイド(ビード)31を備えたシームレスベルト(無端ベルト)30は、例えば、図6及び図7に示すような、可撓性でエンドレスに形成されたシームレスベルト30の内周面一側部の周方向に沿って、略帯状のガイド31を芯材である樹脂フィルム32の両面に設けた粘着層33により接着している。そのガイド31の両端部31a,31bを隙間35を介して突き合わせ、その、ガイド31の両端部31a,31b間に可撓性の片面あて板34を架設してガイド31の両端部31a,31bをつないでいる。そして、シームレスベルト30は一対のローラ40,40間に巻架され、ガイド31は、一対のローラ40,40の一側部に設けられたそれぞれの嵌合溝41,41に嵌合され、中間転写ベルト等として利用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
以上のように構成された従来のシームレスベルト30は、一対のローラ40,40の回転に伴い循環し、この際、ガイド31には、嵌合溝41,41の内外周差により剪断応力が否応なく作用するが、ガイド31の非端部においては作用と反作用とが相殺されることにより特に悪影響を受けることがない。したがって、例えシームレスベルト30からガイド31の端部31a,31bが剥がれても、ガイド31の端部31a,31bが自由に揺れ動くのを規制するので、ガイド31がローラ40,40から外れたり、蛇行するのを有効に規制していた。
【特許文献1】特開2003−131458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電子写真方式を利用した、複写機やプリンタ、ファクシミリ等の電子写真装置の使用環境によれば、転写装置付近では約70℃にも達する高温環境になるため、上記のように構成された従来の無端ベルトにおいても、そのような劣悪な環境に対する対応としては十分とはいえず、このため、無端ベルトの内周面側部に接合されたビードがローラに沿って屈曲する部分で剥がれが生じる問題が少なからず発生していた。
【0005】
そこで、この発明は、例えば70℃、90%RHのような過酷な環境下に長時間おかれても、ビードが無端ベルト本体から容易に剥離せず、しかも装置停止などすることのない安定した走行が得られる電子写真装置に好適な無端ベルトを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、請求項1に記載の発明においては、可撓性を有する無端ベルト本体内周面の周方向に沿って少なくとも一本の蛇行防止用のビードが形成された無端ベルトにおいて、無端ベルト本体にビードを接合している剪断接着強度をH(N/m)とするとき、ビードは、その引張弾性率Y(Pa)、ビード単体を70℃、90%RHの環境で72時間熱エージングしたときのビードの長手方向の寸法変化率の絶対値をF(%)、ビードの短手方向の断面積をS(m)とした場合のH、Y、F、Sの関係が1800≦H/(Y×F×S)であることを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載の発明においては、請求項1に記載の構成に加えて、ビードがエラストマ材料のビード本体と、該ビード本体を無端ベルト本体へ接着するためのフィルム材料からなる接着層とで構成されており、無端ベルト本体を70℃、90%RHの環境で72時間熱エージングしたときの無端ベルト本体の周方向の寸法変化率と、ビード単体を70℃、90%RHの環境で72時間熱エージングしたときの接着前のビード単体の長手方向の寸法変化率との差の絶対値が0.5%以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、剪断接着強度をH(N/m)、ビードの引張弾性率Y(Pa)、ビードの長手方向の寸法変化率の絶対値をF(%)、ビードの短手方向の断面積をS(m)としたときのH、Y、F、Sの関係を1800≦H/(Y×F×S)となるようにしているので、70℃、90%RHの過酷な環境下に長時間おかれても、無端ベルト本体からビードが容易に剥離することを防止することができるから、電子写真装置が停止することがなく、安定した運転が得られるため、電子写真装置に好適な無端ベルトを提供することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、接着前のビード単体の長手方向の寸法変化率との差の絶対値を0.5%以下としているので、請求項1に記載の発明の効果に加え、無端ベルト本体とビードの接着面のたわみがなくなり、無端ベルトが波打つことなく、一対のローラにセットしたときにも、より安定した走行を行うことができ、ビードの剥離や、無端ベルトの波打ちが生ずるのをより確実に防止することができる。これにより、電子写真装置の安定した運転により好適な無端ベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態に係る無端ベルト1について図1乃至図5により説明する。
【0011】
この発明に係る電子写真装置用の無端ベルト1は、図1乃至図3に示したように、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を材料として、遠心成形や押出成形或いは射出成形等の成形法によってエンドレスに形成された無端ベルト本体2の内周面の一側部寄りで、この周方向(回転方向)に沿って接着剤6を介してビード3が取り付けられて無端ベルト1が形成されている。そして、電子写真方式を利用した、複写機やプリンタ、ファクシミリ等の電子写真装置の一対のローラ10,10間に巻架される。
【0012】
そして、ビード3は一対のローラ10,10のそれぞれのビード嵌合溝11,11に嵌入されて無端ベルト1が走行され、このビード3により無端ベルト1の蛇行やズレが防止される。
【0013】
この発明の実施の形態においては、無端ベルト本体2の内周面の一側部寄りの周方向に沿って一本のビード3が取り付けられて無端ベルト1が形成されているが、ビード3の取付位置は側部に限定されることはなく、中央部、他任意の位置に形成することは自由であり、また、ビード3も一本に限定されることなく二本でも、三本でも自由である。
【0014】
無端ベルト本体2に用いる樹脂材料としては、PET、PBT、PEN等のポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、アラミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、エポキシ樹脂、架橋型ポリエステル樹脂、メラミン樹脂等があげられる。
【0015】
無端ベルト本体2は、ある程度の導電性が要求される場合があり、この場合には、導電性付与剤が適宜添加される。このような導電性付与剤としては、金属や合金からなる針状、球状、板状、不定形等の粉末、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボン粉末、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛粉末、セラミック粉末、表面が金属メッキされた各種粒子等があげられる。この導電性付与剤の形状は球状或いは不定形をなし、その大きさは0.01〜10μm程度が好ましい。
【0016】
導電性付与剤の添加量は、導電性の程度によるものの、おおよそ5〜25容量%の範囲が好ましい。これは、5容量%未満では導電性物質同士の距離が大きいので導電性が発現せず、25容量%を超えると、無端ベルト1の機械的強度に悪影響を及ぼすおそれがあるからである。
【0017】
導電性付与剤は、具体的には、ミキシングロール、加圧式ニーダ、押出機、三本ロール、ホモジナイザ、ボールミル、又はピーズミル等を用いる公知の分散方法により樹脂材料に分散される。なお、この実施の形態においては、導電性付与剤を添加したものを示すが、これ以外にも可塑剤、着色剤、耐電防止剤、老化防止剤、酸化防止剤、補強性フィラー、反応助剤、反応抑制剤等の各種の添加剤を必要に応じて適宜添加することが可能である。
【0018】
また、ビード3は、図3に示したように、寸法安定性を持ったフィルム材5と、柔軟性、耐摩耗性、耐屈曲性をもったエラストマ材料4の複合体が好ましい。無端ベルト本体2にビード3を取り付けるには、上層のエラストマ4と下層のフィルム材5とで形成されたビード3のフィルム材5と無端ベルト本体2との間を接着剤6により接着される。
【0019】
なお、この発明の実施の形態では、ビード3をエラストマ材料4とフィルム材5とで形成したが、エラストマ材料4のみで形成することもできる。
【0020】
エラストマ4材料としては、柔軟性・耐摩耗性をもったオレフィン系エラストマ、ポリウレタン系エラストマ、塩ビ系エラストマ、スチレン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、シンジオタクチック1・2PB系エラストマ、塩素系エチレンコポリマー架橋ポリマーアロイ、塩素化ポリエチレン、エステル・ハロゲン系ポリマーアロイ型エラストマ、NBR、ABS、イソプロピレンゴム、フッ素系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、EPDM、クロロプレンゴム(CR)、SBR、フッ素ゴム(FPM)、シリコンゴム等があげられる。
【0021】
フィルム材5としては、寸法安定性を持ったPET、PBT、PEN等のポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、アラミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、エポキシ樹脂、架橋型ポリエステル樹脂、メラミン樹脂等があげられる。
【0022】
接着剤6としては、硬化後にゴム状弾性体となる、1液、無溶剤、常温速硬化型の粘接着剤で、加工性が容易であると共に、複合応力に対し歪みが少ない弾性接着剤が好適であるが、これに限定されるものではない。。
【0023】
次に、ビード3が無端ベルト本体2から剥離するメカニズムについて説明する。
【0024】
ビード3が無端ベルト本体2より剥離するメカニズムについて原因を鋭意検討した結果、ビード3内部に発生した伸長或いは収縮の応力がビード3と無端ベルト本体2とを接合している接着剤6の接着力を上回るためであると考えられる。ビード3の内部に応力が発生する原因としては、図示していないが電子写真装置等内の転写装置付近で約70℃の高温にさらされることにより発生するビード3の熱収縮である。
【0025】
そして、この熱収縮によるビード3内部の応力は、ビード3の引張弾性率Y(Pa)と該ビード3の断面積S(m)と該ビード3の寸法変化率F(%)の積で表すことができる。また、ビード3の熱収縮による寸法変化は接着剤6に剪断応力として伝えられることになる。
【0026】
よって、ビード3の熱による寸法変化が無端ベルト本体2とビード3の接合面に剪断応力を生じさせ、その応力がビード3と無端ベルト本体2を接合している接着剤6の剪断接着力H(N/m)を上回ったときにビード3が剥離することを突き止めた。すなわち、ビード3の熱による寸法変化率F、引張弾性率Y、ビード3の厚み及び接着剤6の剪断接着強度Hを適宜選択することにより、電子写真装置等中の転写装置付近の70℃に達する高温環境下でもビード3の無端ベルト本体2からの剥離を防止できることを突き止めた。
【0027】
つまり、蛇行防止用のビード3が形成された無端ベルト1において、ビード3を無端ベルト本体2から剥離させないためには、無端ベルト本体2にビード3を接合している剪断接着強度をH(N/m)、ビード3の引張弾性率Y(Pa)、ビード3単体を70℃、90%RHの環境で72時間熱エージングしたときのビード3の長手方向の寸法変化率の絶対値をF(%)、ビード3の短手方向の断面積をS(m)とするとき、H、Y、F、Sの関係が1800≦H/(Y×F×S)とすることによりビード3が無端ベルト本体2から剥離しなことを確かめた。
【0028】
さらに、無端ベルト本体2を70℃、90%RHの環境で72時間熱エージングしたときの無端ベルト本体2の周方向の寸法変化率と、エラストマ材料4とフィルム材5とで構成されたビード3単体を70℃、90%RHの環境で72時間熱エージングしたときの接着前のビード3単体の長手方向の寸法変化率の差の絶対値を0.5%以下とすることにより、無端ベルト本体2とビード3との接着面のたわみがなくなり、無端ベルト1が波打つのを防止することができる。したがって、無端ベルト1を一対のローラ10,10にセットしたときにローラの外周に密着した状態で走行できるので、より安定した運転を行うことができる。
【0029】
以下に、実施例について説明するが、実施例中での「寸法変化率測定方法」、「長手方向の寸法測定方法」及び「引張弾性率の測定方法」について、先に説明する。
[寸法変化率測定方法]
【0030】
ビード3の寸法変化率の測定方法は、まず、23℃、50%RHの環境に3時間置したビード3の長手方向の長さを測定しA(mm)とする。その後、ビード3を90%RHの環境に72時間投入したのち、23℃、50%RHの環境で72時間靜置した後、ビード3の長手方向の長さを測定し、その長さをB(mm)とする。このときのビード3の長手方向の寸法変化率をX(%)とし、X=100×(B−A)/Aとする。
[長手方向の寸法測定方法]
【0031】
ビード3の長手方向の寸法測定方法は、定板上にビード3を置き、平坦なガラス板を該ビード3上に載せて、一直線状になるようにして、3次元形状測定器((株)ミツトヨ製、型式BH506)で全長を測定する。
[引張弾性率の測定方法]
【0032】
ビード3の引張弾性率の測定方法は、後述するビード3作製方法により作成した。具体的には、ビード3原反をJIS K7127タイプ2試験片の抜き型により打ち抜いてビード3の試験片を作製した。また、試験片厚みT(mm)はマイクロメータにて測定しておく。次いで、打ち抜いたビード3の試験片を(株)オリエンテック製引張試験機(テンシロン、型式RTM−100)にチャック間距離40mmで取り付け、試験速度50mm/分にて引張試験を行う。そのときの荷重曲線の最大傾斜J(N/mm)をチャートから読み取り、Y=(J×K)/(L×T)の式により引張弾性率Yを測定する。ただし、Y=引張弾性率(Pa)、J=荷重曲線最大荷重×10−3(N/m)、K=チャック間距離40×10−3(m)、L=試験片幅6×10−3(m)、T=試験片厚み×10−3(m)とする。
【0033】
以下、この発明に係る無端ベルト1の実施例を比較例と共に説明する。
【実施例1】
【0034】
まず、無端ベルト本体2の基材を作製すべく、ポリアミドイミド溶液からなる流動性の材料を用意した。この材料の調整に際しては、トリメリット酸無水物と4,4’−ジアミノジフェニルメタンとの当量をジメチルアセトアミドに融解し、加熱反応して固形分濃度(実質的全閉環のポリアミドイミド)28質量%の芳香族ポリアミドイミド溶液を得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度15質量%、固形分の比重1.2のポリアミドイミド溶液を調整した。これを1000rpmの速度で回転する金型内周に190g注入した。金型は、内径226mm、外径246mm、長さ400mmの大きさとし、金型内面はポリッシングにより鏡面研磨されている。そして金型両端の開口部にはリング状の蓋(内径170mm、外径250mm)をそれぞれ嵌合して材料漏れを防止した。こうして、金型に材料を注入したら、1000rpmの速度でレベリングして遠心成形し、熱風乾燥機で雰囲気温度を80℃に保ち、この状態を30分間保持して金型を停止させるとともに、200℃にて90分間オーブンに投入してから金型を取り出した。金型を取り出したら、金型を放置して室温で冷却し、金型とベルト基材の熱膨張差を利用してベルト基材を脱型した。そして、ベルト基材の両端部をそれぞれカットして240mm幅とし、厚さ100μmの無端ベルト本体2を作製した。
【0035】
次に、ビード3の基材を作製するべく、幅1000mm、厚さ100μmのPETフィルム(東レ(株)製、ルミラーS10#100)をフィルム成形機にセットし、冷却ロールと、巻き取りロールの間の張力を165.4Nに調整し、120℃に加熱溶融させた熱可塑性ウレタン樹脂(日本ミラクトラン(株)製、E180)をTダイを用いて厚み0.9mmに吐出しラミネートさせた。これをビード3の原反とした。このビード3の原反からMD方向の長さ707mm、TD方向5mmのビード3をトムソン刃を用いてビード3を切り出した。
【0036】
このビード3のPET面にコロナ放電処理を行った後に、注射器を用いて弾性接着剤(セメダイン(株)製、スーパーX No.8008)を塗布し、無端ベルト本体2の内周面の一方の側縁に接着剤6の幅が4.0mm、接着剤6厚みが0.12mmとなるように加圧接合し、室温にて72時間静置して無端ベルト1を作製した。この際に、ビード3の対向する継ぎ目間隔を3mmとした。
【実施例2】
【0037】
次に、上記の無端ベルト本体2の作製方法において、オーブン投入条件を220℃、120分としてベルト本体を作製した。次いで、ビード3の作製方法において張力を96.1Nとしてビード3の原反を作成し、トムソン刃を用いてビード3を切り出した後、PET面のコロナ放電処理を行わずに弾性接着剤を塗布し、ベルト本体内周部に接合して実施例2の無端ベルト1を作製した。
【実施例3】
【0038】
次に、上記の無端ベルト本体2の作製方法において、オーブン投入条件を200℃、90分としてベルト本体を作製した。次いで、上記ビード3の作製方法において、エラストマ材料4としてクロロプレンゴムを使用し、張力を165.4Nとしてビード3原反を作製し、トムソン刃を用いてビード3を切り出した後、PET面にコロナ放電処理を行った後に弾性接着剤を塗布し、ベルト本体内周部に接合して実施例3の無端ベルト1を作製した。
【実施例4】
【0039】
次に、上記の無端ベルト本体2の作製方法において、オーブン投入条件を200℃、90分としてベルト本体を作製した。次いで、上記のビード3の作製方法において、PETフィルムの代わりに紙を使用し、張力を165.4Nとしてビード3の原反を作製した。このビード3の原反から紙を静かに剥がし取り、クロロプレンゴム層を取り出した。このクロロプレンゴム層をトムソン刃を用いてビード3を切り出した後、コロナ放電処理を行った後に弾性接着剤を塗布し、ベルト本体内周部に接合して実施例4の無端ベルト1を作製した。
【実施例5】
【0040】
次に、上記の無端ベルト本体2の作製方法において、オーブン投入条件を200℃、90分としてベルト本体を作製した。次いで、上記のビード3の作製方法において、エラストマ材料4としてクロロプレンゴムを使用し、張力を250.0Nとしてビード3の原反を作製し、トムソン刃を用いてビード3を切り出した後、PET面にコロナ放電処理を行った後に芯材のない両面感圧接着剤を貼り付け、ベルト本体内周部に接合して実施例5の無端ベルト1を作製した。
[比較例1]
【0041】
また、上記の無端ベルト本体2の作製方法において、オーブン投入条件を200℃、90分としてベルト本体を作製した。次いで、上記のビード3の作製方法において、エラストマ材料4としてクロロプレンゴムを使用し、張力を250.0Nとしてビード3の原反を作製し、トムソン刃を用いてビード3を切り出した後、弾性接着剤を塗布し、ベルト本体内周部に接合して比較例1の無端ベルト1を作製した。
[比較例2]
【0042】
さらに、上記の無端ベルト本体2の作製方法において、オーブン投入条件を200℃、90分としてベルト本体を作製した。次いで、上記のビード3の作製方法において、張力を250.0Nとしてビード3の原反を作製し、トムソン刃を用いてビード3を切り出した後、弾性接着剤を塗布し、ベルト本体内周部に接合して比較例2の無端ベルト1を作製した。
【0043】
実施例と比較例との評価を下記のような条件で行い、その結果を表1に示した。
[評価方法]
【0044】
従来から、無端ベルト本体2及びビード3のヤング率を問題にしている無端ベルトはあったが、無端ベルト本体2とビード3との接着の度合いを見るのは接着力のみで判定していた。しかし、この発明のような、ビード3の長手方向の寸法変化率の絶対値F(%)、ビード3の短手方向の断面積S(m)及び無端ベルト本体2にビード3を接合している剪断接着強度H(N/m)の関係式によって接着の度合いを判定する方法はなかった。
【0045】
まず、実施例1乃至5と、比較例1及び2の無端ベルト1について、無端ベルト本体2とビード3の接着剥離を確認するため、それぞれの実施例及び比較例により作製された無端ベルト1を図4に示した試験装置Tに組み込み、無端ベルト1を矢印Aで示す水平方向に6kg張力で張った状態で70℃、90%RHの環境で72時間放置した。その後室温に冷ました後に、ベルトの周長を周長測定機により測定した。また、このとき、ビード3を剥がす前にノギスと目視により、無端ベルト本体2からビード3の浮いている高さを測定した。ビード3長さは無端ベルト本体2に接合する前のビード3の長さ寸法と、試験後に無端ベルト本体2から静かに剥がし取ったビード3の長さ寸法を測定し寸法変化率を求めた。
【0046】
また、目視により、ビード3の接着面の状態が試験前と変化しなかったものを好ましい(◎)とし、ビード3の接着面にうねりを生じているが剥離のないものを(○)とし、ビード3の接着面に微少な剥離を生じているが実用上の問題はないものを(△)とし、ビード3の接着面が無端ベルト本体2から完全に剥離して使用不可となったものを不良(×)と判定した。
【0047】
次に、実施例1乃至5と、比較例1及び2の無端ベルト1について、図5に示したベルト耐久試験機Eに無端ベルト1を矢印Aで示す方向に6kg張力で張った状態で、一対の金属ローラ20,20に巻架して、モーターユニット21を介して金属ローラ20,20の軸を駆動させることにより無端ベルト1を回転させ続けて耐久試験を行った。性能の検討に際しては、10,000回転までは1,000回転毎に、10,000回転からは10,000回転毎にそれぞれの状態を確認し、ビード3の摩耗状態を観察しながら200,000回転までの耐久性を確認した。その結果、200,000回転でもビード3の摩耗が実用上問題ないものを特に好ましい(◎)とし、100,000回転でも実用上問題ないものを好ましい(○)とし、60,000回転でも実用上問題ないものを使用可(△)とし、60,000回転以下で耐久性などの問題が確認された無端ベルト1を不良(×)と判断した。
【0048】
表1に示した結果より、無端ベルト1におけるH、Y、F、Sの関係式が1800≦H/(Y×F×S)で示される場合、無端ベルト1に接着された蛇行防止用のビード3が浮くことがないことが確認された。また、ビード3の構成をエラストマ材料4であるウレタンと、フィルム材5であるPETとして、ベルト本体とビード3の収縮率の差の絶対値を0.5%以下とした場合には、ビード3の接合面にうねりを生ずることがなく、安定してスムースに回転する無端ベルト1とすることができた。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の実施の形態に係る無端ベルトの使用状態を示す斜視図である。
【図2】同実施の形態に係る無端ベルトを示す一部を破断した斜視図である。
【図3】同実施の形態に係る無端ベルト本体とビードの接着状態を示す要部断面図である。
【図4】無端ベルト試験装置の概略図である。
【図5】無端ベルト耐久試験機の概略図である。
【図6】従来例のガイド付きシームレスベルトの使用状態を示す斜視説明図である。
【図7】同従来例のガイド付きシームレスベルトの実施の形態を示す要部断面側面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 無端ベルト
2 無端ベルト本体
3 ビード
4 エラストマ材料
5 樹脂フィルム材
6 接着剤
10 ローラ
11 ビード嵌合溝
T 無端ベルト試験装置
E 無端ベルト耐久試験機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する無端ベルト本体内周面の周方向に沿って少なくとも一本の蛇行防止用のビードが形成された無端ベルトにおいて、前記無端ベルト本体に前記ビードを接合している剪断接着強度をH(N/m)とするとき、前記ビードは、その引張弾性率Y(Pa)、ビード単体を70℃、90%RHの環境で72時間熱エージングしたときの前記ビードの長手方向の寸法変化率の絶対値をF(%)、前記ビードの短手方向の断面積をS(m)とした場合のH、Y、F、Sの関係が1800≦H/(Y×F×S)であることを特徴とする電子写真装置用の無端ベルト。
【請求項2】
前記ビードがエラストマ材料のビード本体と、該ビード本体を前記無端ベルト本体へ接着するためのフィルム材料からなる接着層とで構成されており、前記無端ベルト本体を70℃、90%RHの環境で72時間熱エージングしたときの前記無端ベルト本体の周方向の寸法変化率と、前記ビード単体を70℃、90%RHの環境で72時間熱エージングしたときの接着前の前記ビード単体の長手方向の寸法変化率との差の絶対値が0.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真装置用の無端ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−227031(P2006−227031A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37023(P2005−37023)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】