説明

電子制御カップリング装置

【課題】低温状態におけるメインクラッチの係合を防止することが可能な電子制御カップリング装置を提供する。
【解決手段】電子制御カップリング装置は、メインクラッチ50を押圧可能なメインクラッチ側カム部材20と、メインクラッチ側カム部材20に対向し、パイロットクラッチ20PCに係合するパイロットクラッチ側カム部材31と、所定の温度以下において、メインクラッチ側カム部材20によるメインクラッチの押圧を、出力シャフト50に係合することで制限するバイメタル22とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子制御カップリング装置に関し、より特定的には、車両に搭載される電子制御カップリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子制御カップリング装置は、たとえば特開2008−275015号公報(特許文献1)、実開平6−14561号公報(特許文献2)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−275015号公報
【特許文献2】実開平6−14561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、低温時の過大なトルクの伝達を防ぐために、低温時に変形してカム部材の軸方向の移動を制限するバイメタルを設けることが開示されている。メインクラッチを押圧するカム部材とアーマチャに係止部を設け、バイメタルを係止部の間に配置して係合させている。
【0005】
特許文献2では、低温時に延びる形状記憶材からなるスプリングをハブとカムの部材の間に設けて、低温時のカム部材の移動を規制している。
【0006】
従来の技術では、低温時に、必ずしも十分にカムの移動を制限することができないという問題があった。
【0007】
そこで、この発明は上述のような問題点を解決するためになされたものであり、電子制御カップリング装置において、低温時のメインクラッチの不要な動作を防ぐことが可能な電子制御カップリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に従った電子制御カップリング装置は、メインクラッチを押圧可能なメインクラッチ側カム部材と、メインメインクラッチ側カム部材に対向し、パイロットクラッチに係合するパイロットクラッチ側カム部材と、所定の温度以下において、メインクラッチ側カム部材によるメインクラッチの押圧を、出力シャフトに係合することで制限するバイメタルとを備える。
【0009】
このように構成された電子制御カップリング装置では、バイメタルが出力シャフトに係合することでメインクラッチ側カム部材の動きを制限することができるため、確実に低温時にメインクラッチ側カム部材の動作を制限することができる。
【0010】
好ましくは、バイメタルは出力シャフトの溝に係合することでメインクラッチ側カム部材の動きを制限する。溝の係合面は曲面でバイメタルの変形量に応じて溝とバイメタルの接触面積が変化する。この場合、バイメタルによる制御量を連続的に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に従った電子制御カップリング装置の一部分の断面図である。
【図2】図1中のIIで囲んだメインクラッチ側カム部材とパイロットクラッチ側カム部材とを拡大して示す断面図である。
【図3】図2中のIIIで囲んだメインクラッチ側カム部材の一部分を拡大して示す断面図である。
【図4】低温時におけるバイメタルの動作を説明するためのバイメタルと出力シャフトとの係合部分を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態2に従った電子制御カップリング装置におけるメインクラッチ側カム部材と出力シャフトとを拡大して示す図である。
【図6】この発明の実施の形態2に従った電子制御カップリング装置におけるバイメタルと出力シャフトとの係合状態を説明するための図である。
【図7】図6中のVIIで囲んだバイメタルと出力シャフトとを拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施の形態では同一または相当する部分については同一の参照符号を付し、その説明については繰返さない。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1に従った電子制御カップリング装置の一部分の断面図である。図2は、図1中のIIで囲んだメインクラッチ側カム部材とパイロットクラッチ側カム部材とを拡大して示す断面図である。図1および図2を参照して、電子制御カップリング装置は、出力シャフト10と、出力シャフト10の外周部に設けられたメインクラッチ50と、メインクラッチ50に係合するアウターケース60と、メインクラッチ50を押圧して摩擦係合させることが可能なメインクラッチ側カム部材20と、メインクラッチ側カム部材20に対向してパイロットクラッチ20PCに係合するパイロットクラッチ側カム部材31と、メインクラッチ側カム部材20とパイロットクラッチ側カム部材31との間に設けられるカムボール32とを備える。
【0014】
パイロットクラッチ20PCは、ソレノイド40により駆動される。すなわち、ソレノイド40に電流が流されると、ソレノイド40の磁力の作用により、パイロットクラッチ20PCを構成する内周側部材と外周側部材とが係合する。パイロットクラッチ20PCの外周側部材がアウターケース60に係合しており、パイロットクラッチ20PCの内周側部材がパイロットクラッチ側カム部材31に係合している。パイロットクラッチ20PCを構成する内周側部材および外周側部材が摩擦当接することで、アウターケース60の回転がパイロットクラッチ側カム部材31に伝えられる。パイロットクラッチ側カム部材31とメインクラッチ側カム部材20との間にカムボール32が設けられており、パイロットクラッチ側カム部材31とメインクラッチ側カム部材20との間に回転差が生じると、カムボール32の作用により、メインクラッチ側カム部材20がメインクラッチ50へ近づく方向に動く。メインクラッチ側カム部材20は出力シャフト10の外周側に設けられており、軸方向に移動することが可能である。パイロットクラッチ側カム部材31が軸方向に移動しない。
【0015】
メインクラッチ50は、内周側部材と外周側部材とを有し、外周側部材はアウターケース60と係合しており、内周側部材は出力シャフト10と係合している。メインクラッチ側カム部材20に押圧されることで、内周側部材と外周側部材とが摩擦係合する。これにより、アウターケース60の回転が出力シャフト10に伝えられる。
【0016】
アウターケース60はトランスミッションに接続されており、車両の走行時には常に回転している。メインクラッチ50の内周側部材と外周側部材とが係合していない状態では、アウターケース60の回転が出力シャフト10に伝達されない。このような形式の電子制御カップリング装置は、たとえば車両においてプロペラシャフトに用いられる。通常の走行状態では、メインクラッチ50を係合させない。これにより、出力シャフト10に接続される後輪側の作動装置に動力を伝達しない。その結果、エンジンの駆動力は前輪にのみ伝達されることになり、後輪と接続される作動装置およびプロペラシャフトを回転させないことで燃費の向上を図ることができる。
【0017】
後輪を駆動させる必要がある状態、たとえば前輪においてスリップが発生している状態が検知されると、ソレノイド40に電流が流される。これにより、パイロットクラッチ20PCを構成する内周側部材と外周側部材とが係合する。その結果、アウターケース60の回転がパイロットクラッチ20PCを経由してパイロットクラッチ側カム部材31に伝えられる。この状態においてメインクラッチ側カム部材20が回転していない。パイロットクラッチ側カム部材31が回転するとカムの作用によりカムボール32がメインクラッチ側カム部材20をメインクラッチ50へ近づく方向へ移動させる。その結果、メインクラッチ側カム部材20がメインクラッチ50を構成する内周側部材と外周側部材とを係合させる。これにより、アウターケース60の回転がメインクラッチ50を通じて出力シャフト10へ伝達される。出力シャフト10はプロペラシャフトおよび後輪側の作動装置に接続されている。そのため、出力シャフト10が回転すると、後輪も回転する。これにより、前輪がスリップしている状態において後輪へ動力を伝達することができ、安定した走行を実現できる。
【0018】
そしてスリップ状態が解消すれば、ソレノイド40への電流の供給を停止する。これにより、パイロットクラッチ20PCの係合が解除する。その結果、パイロットクラッチ側カム部材31の回転が止まるため、カムボール32によるメインクラッチ側カム部材20の押圧が停止する。これにより、メインクラッチ側カム部材20がメインクラッチ50から離れる。メインクラッチ50を構成する内周側部材と外周側部材とが当接しなくなるため、メインクラッチ50における摩擦係合が解除する。そのため、アウターケース60の回転が出力シャフト10へ伝わらず、プロペラシャフトおよび作動装置の回転を停止させる。
【0019】
以上のように、ソレノイド40に電流を流すか否かでメインクラッチ50の摩擦係合が決定される。
【0020】
パイロットクラッチ20PCおよびメインクラッチ50はオイルで潤滑および冷却されている。極めて低温の状態では、パイロットクラッチ20PC付近に存在するオイルの粘度が高くなる。そのため、本来係合していない状態のパイロットクラッチ20PCの内周側部材と外周側部材とがオイルによって係合する可能性がある。この場合には、ソレノイド40に電流を流さないにも拘らず、パイロットクラッチ20PCを構成する内周側部材と外周側部材とが係合する。その結果、アウターケース60の回転がパイロットクラッチ側カム部材31に伝えられる場合がある。そして、パイロットクラッチ側カム部材31が回転し、カムボール32により、メインクラッチ側カム部材20がメインクラッチ50を構成する内周側部材と外周側部材とを摩擦係合させる。これにより、アウターケース60の回転がメインクラッチ50を通じて出力シャフト10へ伝達される。
【0021】
図3は、図2中のIIIで囲んだメインクラッチ側カム部材の一部分を拡大して示す断面図である。図3で示すように、メインクラッチ側カム部材20の内周側端部には凹部21が設けられており、凹部21にはバイメタル22が嵌め合わせられている。出力シャフト10の外周面には溝11が設けられている。図3では、所定の温度以上におけるバイメタル22の動作を示している。所定の温度以上では、バイメタル22は殆ど変形せず、凹部21内に収まっている。その結果、メインクラッチ側カム部材20の矢印30で示す方向の動き(メインクラッチ側カム部材20がメインクラッチ50を押圧する動き)を妨げることがない。
【0022】
図4は、低温時におけるバイメタルの動作を説明するためのバイメタルと出力シャフトとの係合部分を示す図である。図4で示すように、低温時には、バイメタル22が変形することでバイメタル22が溝11に係合する。これにより、メインクラッチ側カム部材20の矢印30で示す方向の移動を制限する。すなわち、上述のように、極めて温度が低い場合には、パイロットクラッチが係合してメインクラッチ側カム部材20がメインクラッチ50を押圧する方向へ移動しようとするが、バイメタル22が出力シャフト10の溝11に係合することで、このメインクラッチ側カム部材20の動きを規制することができる。バイメタル22の一方端が出力シャフト10の溝11に係合し、バイメタル22の他方端がメインクラッチ側カム部材20の凹部21に係合している。
【0023】
実施の形態1に従った電子制御カップリング装置は、メインクラッチ50を押圧可能なメインクラッチ側カム部材20と、メインクラッチ側カム部材20に対向し、パイロットクラッチ20PCに係合するパイロットクラッチ側カム部材31と、所定の温度以下において、メインクラッチ側カム部材20によるメインクラッチ50の押圧を、出力シャフト10に係合することで制限するバイメタル22とを備える。
【0024】
このような機構を採用することで、低温時にメインクラッチ側カム部材20の動きを制限することができ、メインクラッチ50でのトルク伝達を制限することができ、低温時にカップリングトルクの増大を防ぐことが可能となる。
【0025】
すなわち、一定温度以下の低温となった時点でメインクラッチ側カム部材20の動きを制限している。
【0026】
(実施の形態2)
図5は、この発明の実施の形態2に従った電子制御カップリング装置におけるメインクラッチ側カム部材と出力シャフトとを拡大して示す図である。図6は、この発明の実施の形態2に従った電子制御カップリング装置におけるバイメタルと出力シャフトとの係合状態を説明するための図である。図7は、図6中のVIIで囲んだバイメタルと出力シャフトとを拡大して示す断面図である。図5から図7を参照して、実施の形態2では、溝11において、バイメタル22との当接面が曲面形状である点で、実施の形態1に従った電子制御カップリング装置と異なる。すなわち、連続的に曲面12の傾きが変化することで、バイメタル22との接触箇所を変化させ、これにより、バイメタル22の制限力を変化させている。すなわち、図7において、バイメタル22の傾きが最も小さい場合には、バイメタル22が変形量が小さい状態であり、この状態では、バイメタル22によるメインクラッチ側カム部材20の移動の制限量は小さい。これに対し、バイメタル22の変形が最も大きくなった場合には、溝11によるバイメタル22の移動の制限力が大きくなり、メインクラッチ側カム部材20の移動が制限される。このように、溝11を曲面形状とすることで、低温時においても、温度差によってカム制限力を調整可能な構成とすることができる。
【0027】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明は、車両の分野で用いることができる。
【符号の説明】
【0029】
10 出力シャフト、11 溝、12 曲面、20PC パイロットクラッチ、20 メインクラッチ側カム部材、21 凹部、22 バイメタル、31 パイロットクラッチ側カム部材、32 カムボール、40 ソレノイド、50 メインクラッチ、60 アウターケース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインクラッチを押圧可能なメインクラッチ側カム部材と、メインクラッチ側カム部材に対向し、パイロットクラッチに係合するパイロットクラッチ側カム部材と、所定の温度以下において、メインクラッチ側カム部材によるメインクラッチの押圧を出力シャフトに係合することで制限するバイメタルとを備えた、電子制御カップリング装置。
【請求項2】
前記バイメタルは出力シャフトの溝に係合することでメインクラッチ側カム部材の動きを制限し、その溝は曲面でバイメタルの変形量に応じて溝とバイメタルとの接触面積が変化する、請求項1に記載の電子制御カップリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−185522(P2010−185522A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30087(P2009−30087)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】