説明

電子励起によるX線分析装置

【課題】 電子励起によるX線分析において、所望の分析感度に対する最適な分析条件を簡単かつ精度良く与える。
【解決手段】 装置の加速電圧に対して、X線分光器感度のデータ、照射電流と電子線径との関係データ、X線発生領域の広がりDxのデータを予めデータベース18に準備する。分析対象元素と所望のX線強度を入力装置19から入力すると、指定された特性X線種に応じてデータベース18から必要なデータが読み込まれ、計算手段17cにより所望のX線強度に対応する加速電圧と照射電流Ipxが求められ、計算手段dによってIpxに対応する最小電子線径Dpxが求められ、計算手段17eによってDpxとX線発生領域の広がりDxの加算値(Dpx+Dx)が求められ、決定手段17fによって(Dpx+Dx)の最小値を与える加速電圧と照射電流の組み合わせが求められる。これにより、所望の分析感度に対する最適分析条件が精度良く簡易に決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)、分析電子顕微鏡など、電子励起によるX線分析を行う装置に関わり、特に、X線分析時に最適な分析条件を簡単に与えるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)、分析電子顕微鏡等の電子励起によるX線分析を行う装置は、加速され細く絞った電子線を試料に照射し、試料表面の微小領域から放出される特性X線を検出して、マイクロアナリシスを行うことができる。分析領域の大きさは、試料に照射される電子線の加速電圧、試料の組成、分析に用いる特性X線種等に依存する。照射電子線の加速電圧を小さくすると、試料表面に照射され試料中に拡散する電子の拡散領域が小さくなるので、X線発生領域も小さくなるため、より微小な領域を分析することができる。
【0003】
電子線照射によるX線発生領域を推定するには、モンテカルロシミュレーションソフトを使う方法、Castaingによって与えられたX線発生領域を推定する計算式などがある。細く絞られた電子線が試料内で拡散しながらX線を発生させるため、電子線の中心に近い部分ほど発生するX線の割合が高くなっている。そのため、分析の空間分解能を求める場合、何れの方法でX線発生領域を推定する場合でも、全発生X線領域の大きさそのものを使用すると大きく見積もりすぎてしまう。こうした事情は、特許文献1の特開2004−163135号公報中の段落番号(0006)において言及されており、Castaingによって与えられたX線発生領域を推定する計算式から直接計算される大きさの30%を「実効的」X線発生領域とする例が示されている。
【0004】
しかし、加速電圧が分析に用いる特性X線の臨界励起電圧(最低励起電圧とも呼ぶ)以下になると特性X線を発生させることはできない。また、加速電圧が臨界励起電圧以上でも、試料中における特性X線の発生強度は、加速電圧から臨界励起電圧を差し引いた値のおよそ1.7乗に比例するので、加速電圧が臨界励起電圧に近づくにつれて、X線発生領域が小さくなると同時に、特性X線強度も急速に減少する。
【0005】
一方、発生する特性X線の強度は、試料に照射する電子線の強度に比例する。従って、加速電圧を小さくすることによるX線強度の低下を補うためには、電子線の強度を増加させれば良い。しかし、電子線の強度を増加させると、それだけ電子線を細く絞ることが困難となり電子線径が増大するので、X線分析における横方向の空間分解能を低下させてしまう。電子線強度の増加によって電子線径が増大する傾向は、加速電圧が小さくなるほど顕著に表れる。こうした事情は、特開2004−163135号公報中の図6において示されている。
【0006】
すなわち、試料の組成と分析に用いる特性X線種が同じであれば、加速電圧を小さくすることにより、X線発生領域が小さくなる効果と、照射電流を上げることにより電子線径が増大してX線発生領域が横に広がる効果との兼ね合いで、最も横方向の空間分解能が高い分析を可能とする条件が決まることになる。こうした事情は、特開2004−163135号公報中の図9において示されている。
【0007】
従って、目的とする分析の最適条件を求めるためには、加速電圧と照射電流とによって決まる最小電子線径および加速電圧に対するX線発生領域の大きさを知る必要がある。特開2004−163135号公報では、加速電圧と照射電流とによって決まる最小電子線径および加速電圧に対するX線発生領域の大きさを与える手段と、与えられた分析条件において、加速電圧と照射電流とによって決まる最小電子線径および加速電圧に対するX線発生領域の大きさを加算した値の最小値を求める技術が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−163135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特開2004−163135号公報で開示されている技術によれば、分析目的、特性X線種の感度等に応じた必要照射電流と所望する空間分解能とから最適な加速電圧を求めることが可能である。また、所望の電子線径を選択した場合、加速電圧をどの値に選定すると、どの程度の分析領域の大きさになるかを直ちに知ることができるので、目的に合った加速電圧を簡易に選択することが可能である。
【0010】
しかしながら、分析目的、特性X線種の感度等に応じた必要照射電流は、分析に用いる特性X線を検出するためのX線分光器(分光素子)の感度に依存している。ある元素の分析に用いる特性X線種は、その元素の原子番号によっても異なるが、一般的にKα線、Lα線、Mα線など複数存在する。前述したように、特性X線の強度は加速電圧と共に変化するが、Kα線、Lα線、Mα線はそれぞれ臨界励起電圧が異なるので、加速電圧の変化に伴う特性X線の強度の変化も一様ではない。さらに、同じKα線でも元素が異なると、分析条件を同一にしてもX線強度は異なる。また、同じ元素のKα線でも、X線分光器に装着されている分光素子の種類、検出器の種類が異なれば、検出されるX線強度も異なる。
【0011】
特開2004−163135号公報に加持されている技術では、分析に用いるX線分光器の感度との関係は考慮されていない。従って、分析目的、特性X線種の感度等に応じた必要照射電流を決めるためには、分析に用いるX線分光器の感度を加速電圧毎に知っておく必要がある。しかし、分析の熟練者でも上記の如く複雑なデータを全て記憶しておくことは困難であり、経験と勘に頼るか、分析前に試行錯誤による予備測定を行ってみるなどをしなければならなかった。予備測定を行わなければならないことは、分析に不慣れな操作者にはもとより、熟練者にとっても煩わしく手間のかかることである。
【0012】
本発明は、上記の問題を解決し、分析に用いる特性X線種について所望のX線強度を与えることにより、最適な加速電圧と照射電流を知ることができるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の問題を解決するため、本発明は、
細く絞られた電子線を試料表面に照射し、試料から発生した特性X線を分光、検出して分析を行うX線分析装置であって、
特性X線種毎に加速電圧Vをパラメータとして照射電流Ipと特性X線強度Pxとの関係を表す第1のデータと、加速電圧Vをパラメータとして照射電流Ipと最小電子線径Dpとの関係を表す第2のデータと、特性X線種に応じた加速電圧Vと実効的X線発生領域Dxとの関係を表す第3のデータを記憶する記憶手段と、分析に用いる特性X線種を指定する手段と、指定した特性X線種の所望X線強度を指定する手段と、前記所望X線強度と前記第1のデータと前記第2のデータとに基づいて各加速電圧に応じた最小電子線径Dpxを求める計算手段と、前記最小電子線径Dpxと指定された特性X線種についての前記第3のデータDxとを加速電圧Vを揃えて加算した加算値(Dpx+Dx)を求める計算手段と、前記加算値(Dpx+Dx)の最小値を与える加速電圧と照射電流を求める演算手段とから構成される、
前記指定された特性X線種と前記所望X線強度のもとで最小の空間分解能を与える最適な加速電圧と照射電流の組み合わせを決定する決定手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記最適な加速電圧と照射電流の組み合わせを決定する決定手段で決定された加速電圧と照射電流を表示する手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
また本発明は、前記最適な加速電圧と照射電流の組み合わせを決定する手段で決定された加速電圧と照射電流を、分析に用いる加速電圧と照射電流として設定する設定手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
また本発明は、前記第3のデータは、少なくとも分析試料の平均原子番号、平均原子量、平均密度に関する情報および指定された特性X線種の臨界励起電圧の情報に基づいて、所定の計算により求められることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、前記第3のデータを求める所定の計算の少なくともひとつは、電子線と物質との相互作用に関するモンテカルロシミュレーション法を用いる、ことを特徴とする。
【0018】
また本発明は、前記分析に用いる特性X線種について加速電圧Vをパラメータとして照射電流Ipと特性X線強度Pxとの関係を表す第1のデータと、前記分析に用いる特性X線種の所望X線強度を表す直線と、前記第1のデータと前記所望X線強度を表す直線との交点に対応する照射電流Ipxの値をひとつの画面上に表示する手段を備えたことを特徴とする。
【0019】
また本発明は、前記加速電圧Vをパラメータとして照射電流Ipと最小電子線径Dpとの関係を表す第2のデータと、前記第1のデータと前記所望X線強度を表す直線との交点に対応する照射電流Ipxに対応した最小電子線径Dpxの組み合わせを示す座標位置と、最小電子線径Dpxの値をひとつの画面上に表示する手段を備えたことを特徴とする。
【0020】
また本発明は、請求項6において、さらに、特性X線種に応じた加速電圧Vと実効的X線発生領域Dxとの関係を表す第3のデータを備え、前記最小電子線径Dpxと指定された特性X線種における前記第3のデータDxとを加速電圧Vを揃えて加算して得られる加算値(Dpx+Dx)の加速電圧に対する関係を表示する手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、前記所望X線強度と前記第1のデータと前記第2のデータとに基づいて各加速電圧に応じた最小電子線径Dpxを求める手段と、前記最小電子線径Dpxと指定された特性X線種についての前記第3のデータDxとを加速電圧Vを揃えて加算した加算値(Dpx+Dx)を求める手段と、前記加算値(Dpx+Dx)の最小値を与える加速電圧と照射電流を求める演算手段を備えることにより、
所望の特性X線強度が得られる条件を満たす最小の空間分解能を与える最適な加速電圧と照射電流の組み合わせを簡易に求めることができるので、
分析に用いるX線分光器の感度を加速電圧毎に知らなくても、分析前に試行錯誤による予備測定をすること無しに、最適な測定条件で微小領域の分析を行うことができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1に、EPMAを例に取り本発明に関わる装置の概略構成例を示す。
図1において、電子銃1から放射された電子線2は、電子銃1の直下に配置されている陽極(図示しない)との間の電位差により加速され、集束レンズ3、対物レンズ4により細く絞られて分析試料6に照射される。電子線2は、偏向コイル5により分析試料6上を走査したり、照射位置を変えたりすることができる。電子銃1、集束レンズ3、対物レンズ4、偏向コイル5は電子線発生制御回路15により制御される。また、試料ステージ13を試料ステージ制御装置14で制御し、分析試料6上の観察、分析位置を変えることができる。電子線照射により分析試料6から発生したX線は分光素子7で分光され、X線検出器9で検出された検出信号がX線信号処理装置10に送られる。分析試料6から発生した二次電子、反射電子等の電子は電子検出器11により検出され、検出信号が電子線信号処理装置12に送られる。システム制御装置16は、制御演算処理装置(CPU)17からの指示に従い、EPMAのシステムを制御し各種検出信号を収集する。CPU17には、X線分光器の構成データ・分光素子の感度データ・電子光学系の性能データ・X線発生領域を計算するのに必要な情報が格納されているデータベース18、液晶ディスプレイなどの表示装置18、マウス・キーボードなどの入力装置が接続されている。CPU17はEPMA装置全体を管理し、システム制御装置16から送られてくるデータ処理などを行う。
【0023】
データベース18には以下のようなデータが格納されている。
(1)分析に使用可能な特性X線種と各特性X線種の臨界励起電圧、X線分光器の分光結晶構成に関する情報。
(2)分析に使用可能な特性X線種毎に加速電圧Vをパラメータとして照射電流Ipと特性X線強度Pxとの関係を表す第1のデータ(分光素子の感度データ)。
(3)加速電圧Vをパラメータとして照射電流Ipと最小電子線径Dpとの関係を表す第2のデータ(EPMAの電子光学系の性能データ)。
(4)特性X線種に応じた加速電圧Vと実効的X線発生領域Dxとの関係を表す第3のデータ。
(5)上記第3のデータを、少なくとも分析試料の平均原子番号、平均原子量、平均密度に関する情報および指定された特性X線種の臨界励起電圧に基づいて求めるための計算式。
【0024】
上記(5)の中で第3のデータを求める計算式としてはモンテカルロシミュレーションソフトを使う方法、Castaingによって与えられたX線発生領域を推定する計算式等が含まれる。データベース18に格納されている実効的X線発生領域Dxは、特許文献1の特開2004−163135号公報に示されている、「実効的」X線発生領域と同じ考え方に基づくデータである。図5は、加速電圧30kV,20kV,10kVについて、モンテカルロシミュレーションソフトで求めたある元素の電子線の広がりと、Castaingによって与えられたX線発生領域を推定する計算式から求めた実効的X線発生領域の横幅(2本の縦線の間隔)を重ねて表示した図である。モンテカルロシミュレーションソフトで求めた電子線の広がりにおいても、まばらな部分を除く最外側の幅の30%程度と、Castaingによって与えられたX線発生領域を推定する計算式から求めた実効的X線発生領域の横幅がほぼ同じ大きさであることが分かる。なお、X線発生領域は電子線の広がりより小さい(試料中で減速された電子線のエネルギーが臨界励起電圧とゼロの間では特性X線が発生しないため)が、その差は図5の例では無視できる程度に僅かである。
【0025】
図6に、本発明を実施するEPMAの部分構成図を示す。図6において、CPU17内には、入力装置19から入力された分析対象元素、試料情報、分析目的情報等に基づいて分析に用いる特性X線種と所望X線強度を指定する指定手段17bと、データベース18から必要なデータを読み込むデータ読込手段17aと、特性X線種の所望X線強度と第1のデータとから加速電圧Vに応じて所望X線強度を得るのに必要な照射電流Ipxを求める必要電流計算手段17c、Ipxと第2のデータから加速電圧Vに応じた最小電子線径Dpxを求める最小電子線径計算手段17d、Dpxと第3のデータから加算値(Dpx+Dx)求める加算値計算手段17e、加速電圧Vと加算値(Dpx+Dx)との関係から(Dpx+Dx)の最小値を与える加速電圧と照射電流の組み合わせを決定する条件決定手段17f、所望の特性X線強度が得られる条件を満たす最小の空間分解能を与える加速電圧と照射電流を表示し、必要に応じてEPMAの分析に用いる条件として設定する表示・設定手段17gが設けられている。すなわち、各手段17a〜17fとデータベース18とから、分析に用いる特性X線種の所望特性X線強度が得られる条件を満たす最小の空間分解能を与える最適な加速電圧と照射電流の組み合わせを決定する手段が構成されている。
【0026】
次に図8のフローチャートに基づいて、本発明の実施手順例について説明する。
ステップS1:先ず操作者は試料を構成する元素、分析対象元素、所望のX線強度を入力装置19から指定手段17bに入力する。所望のX線強度は直接数値を入力するようになっていても良いし、分析の目的に応じて、例えば「X線カウント数の統計変動による誤差0.2%」のように入力しても良い。例えば所望のX線強度が「1秒間のX線カウント数の統計変動による誤差が0.1%」のように入力された場合は、計数時間=t秒、X線強度=Ncpsとおくと、
1/√(t×N)=0.002、t=1秒
を満たすN=250000cpsが所望X線強度となる。
【0027】
ステップS2:指定手段17bによって、分析に用いる特性X線種と分光素子が指定される。この指定に基づいて、読込手段17aは、データベース18から分析に使用可能な特性X線種の情報、X線分光器の構成データ等を読み込む。
【0028】
ステップS3:読込手段17aによって、データベース18に格納されている第1のデータからを分析に用いる特性X線種と分光素子の性能データを読み込み、計算手段17cによって、必要照射電流Ipxを求める。図2は、Ipxを求める方法の概念を説明するグラフである。データベース18から読み込まれた分析に用いる特性X線種の分光素子感度データが、横軸に照射電流Ip(nA)、縦軸にX線強度Px(cps)がとられたグラフに加速電圧をパラメータとした直線で表されている。所望X線強度を表す直線が加速電圧VをパラメータとしてX線強度Pxと照射電流Ipとの関係を表す直線と交わる点(グラフ中に黒丸で示されている)の照射電流がIpxとなる。また、図2に示す例では、グラフ中の左上に、計算で求められた加速電圧毎の必要照射電流値Ipxの値が示されている。
【0029】
ステップS4:読込手段17aによって、データベース18に格納されている第2のデータを読み込み、計算手段17dによって最小電子線径Dpxを求める。
図3は、Dpxを求める方法の概念を説明するグラフである。データベース18から読み込まれた第2のデータ(EPMAの電子光学系の性能データ)が、横軸に照射電流Ip(nA)、縦軸に最小電子線径Dp(nm)がとられた両対数グラフに、加速電圧をパラメータとして曲線で表されている。
加速電圧をパラメータとして照射電流Ipと最小電子線径Dpの関係を表す曲線上のIpxに対応する点(図3のグラフ中に黒丸で示されている)が最小電子線径Dpxとなる。また、図3に示す例では、グラフ中の左上に、計算で求められた加速電圧毎の最小電子線径Dpxの値が示されている。
【0030】
ステップS5:読込手段17aによって、データベース18に格納されている第3のデータから、分析に用いる特性X線種に応じた試料中の実効的X線発生領域Dxのデータ(図4のグラフ中にDxで示される曲線)を読み込むか、またはDxを計算するのに必要な所定の計算式とパラメータを読み込み、実効的X線発生領域Dxを計算する。
【0031】
ステップS6:計算手段17eによって、ステップS4で求められたDpxとステップS5で求められた実効的X線発生領域Dxとを加速電圧Vを揃えて加算した加算値(Dpx+Dx)を求める。図4は、横軸に加速電圧V(kV)、縦軸に横方向の広がり(nm)をとり、ステップS4で求められたDpx、ステップS5で求められたDx、ステップ6で求められた(Dpx+Dx)をひとつのグラフ上に表した例である。また参考のため、Dxの計算に用いた特性X線種の臨界励起電圧の位置も示してある。これまでに説明した手順中で、加速電圧をパラメータとしたデータの読込、計算などは全て、分析に用いる特性X線種の臨界励起電圧より大きい加速電圧の範囲で行えば充分であることは言うまでも無い。
【0032】
ステップS7:決定手段17fによって、ステップS6で求めた加算値(Dpx+Dx)と加速電圧Vとの関係を表すデータにおいて、(Dpx+Dx)の最小値を与える加速電圧を求める。図4には、(Dpx+Dx)の最小値を与える加速電圧が8.6kVと求まった例をグラフ中に表示した例である。このときの加速電圧に応じた照射電流Ipxの値を、図8に示されている加速電圧Vと必要照射電流Ipxの関係を表す曲線から求める。図8には、加速電圧が8.6kVに対して必要照射電流が114nAと求められた例をグラフ中に表示した例である。上記の加速電圧と照射電流の組み合わせの求め方として、関数による区間近似または数値計算またはそれらの組み合わせなどによる演算が可能であるが、本発明においてその方法は特に限定しない。
【0033】
ステップS8:表示・設定手段17gによって、ステップS7で決定した加速電圧と照射電流の組み合わせを表示装置20に表示する。
【0034】
ステップS9:操作者は、ステップS7で決定した加速電圧と照射電流の分析条件にEPMAを設定するか否かを判断し、入力装置19から選択を行う。操作者が「分析条件にEPMAを設定する」を選択した場合は、ステップ10へ進み、否であれば終了する。
【0035】
ステップS10:表示・設定手段17gはシステム制御装置16を介して、EPMAをステップ7で決定した加速電圧と照射電流の組み合わせに設定し、分析が行われる。
【0036】
以上、本発明の構成及び実施手順について説明したが、本発明は上述の例に限定されるわけではなく、以下のような様々な変形も本発明の技術範囲に属する。
【0037】
例えば、上記フローのステップS1において、操作者が試料を構成する元素を入力したが、定性分析またはスタンダードレス定量分析(標準試料を用いない簡易定量分析)等の結果から自動的に設定されるようになっていても良い。
【0038】
また例えば、上記フローでは、ステップS1において所望のX線強度または所望のX線強度を決める条件を入力するようにしたが、別の方法として、ステップS3において図2のグラフを表示装置20に表示しておいて、入力装置19を用いて所望X線強度のラインを例えばマウスでドラッグして決めるようにしても良い。
この場合、上記フローのように始めにステップS1で所望X線強度または所望X線強度を決める条件を入力しておいて、ステップS3で修正するようになっていても良い。或いは、ステップS1で所望X線強度または所望X線強度を決める条件の入力は省略し、ステップS3のみで決めるようになっていても良い。
【0039】
また例えば、上記フローでは、ステップS2において、指定手段17bによって分析に用いる特性X線種と分光素子が指定されるようになっているが、操作者が特性X線種と分光素子を直接指定するが修正するようになっていても良い。
【0040】
また例えば、上記フローでは、ステップS3からステップS7まで各手段によって自動的に最適条件が求められるようになっているが、ステップ毎に各手段により得られた結果を、例えば図2、図3、図4に示すようなグラフを表示装置20に表示するようになっていても良い。
【0041】
また例えば、上記フローでは、ステップS9において操作者がEPMAの設定に関する判断を行うようにしているが、操作者が判断を行うことなく自動的にステップ7で決定した加速電圧と照射電流の分析条件にEPMAを設定するようにしても良い。
【0042】
また例えば、上記フローでは、分析対象元素または特性X線種をひとつとしているが、複数の分析対象元素または特性X線種について最適な加速電圧と照射電流を求めるようになっていても良い。ただし、異なる複数の最適な条件の組み合わせが求まる場合があるので、例えば、予め優先的に考慮する分析対象元素の順番を決めておく、または最小電子線径Dpxが最も小さい組み合わせを選ぶなどの選択条件を加えておけば良い。
【0043】
以上述べたように、本発明によれば、所望の分析感度に対して最も高い空間分解能を与える加速電圧と照射電流の組み合わせを簡単且つ精度良く知ることができるので、EPMA分析に不慣れな初心者のみならず熟練者にとっても面倒な試行錯誤による予備測定をすること無しに、最適な分析条件でのEPMA分析を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】EPMAを例に取った本発明を実施する装置全体の概略構成例。
【図2】加速電圧Vをパラメータとして照射電流Ipと特性X線強度Pxとの関係を表す第1のデータと所望X線強度のグラフ。
【図3】加速電圧Vをパラメータとして照射電流Ipと最小電子線径Dpとの関係を表す第2のデータと最小電子線径Dpxのグラフ。
【図4】加速電圧Vに対する最小電子線径Dpx、X線発生領域Dx、加算値(Dpx+Dx)の関係を表すグラフ。
【図5】モンテカルロシミュレーションソフトで求めたある元素の電子線の広がりと、計算式から求めた実効的X線発生領域の横幅を示す図。
【図6】EPMAを例に取った本発明を実施する装置の部分構成例。
【図7】EPMAを例に取った本発明の実施手順を説明するためのフロー図。
【図8】加速電圧Vに対する必要照射電流Ipxの関係を表すグラフ。
【符号の説明】
【0045】
1 電子銃 2 電子線
3 集束レンズ 4 対物レンズ
5 偏向コイル 6 分析試料
7 分光素子 8 X線分光器制御装置
9 X線検出器 10 X線信号処理装置
11 電子検出器 12 電子信号処理装置
13 試料ステージ 14 試料ステージ制御装置
15 電子線発生制御回路 16 システム制御装置
17 制御演算処理装置(CPU)
17a データ読込手段
17b 特性X線種・所望X線強度指定手段
17c 必要照射電流(Ipx)計算手段
17d 最小電子線径(Dpx)計算手段
17e 加算値(Dpx+Dx)計算手段
17f (Dpx+Dx)の最小値を与える条件決定手段
17g 最適な分析条件の表示・設定手段
18 データベース 19 表示装置
20 入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細く絞られた電子線を試料表面に照射し、試料から発生した特性X線を分光、検出して分析を行うX線分析装置であって、
特性X線種毎に加速電圧Vをパラメータとして照射電流Ipと特性X線強度Pxとの関係を表す第1のデータと、加速電圧Vをパラメータとして照射電流Ipと最小電子線径Dpとの関係を表す第2のデータと、特性X線種に応じた加速電圧Vと実効的X線発生領域Dxとの関係を表す第3のデータを記憶する記憶手段と、分析に用いる特性X線種を指定する手段と、指定した特性X線種の所望X線強度を指定する手段と、前記所望X線強度と前記第1のデータと前記第2のデータとに基づいて各加速電圧に応じた最小電子線径Dpxを求める計算手段と、前記最小電子線径Dpxと指定された特性X線種についての前記第3のデータDxとを加速電圧Vを揃えて加算した加算値(Dpx+Dx)を求める計算手段と、前記加算値(Dpx+Dx)の最小値を与える加速電圧と照射電流を求める演算手段とから構成される、
前記指定された特性X線種と前記所望X線強度のもとで最小の空間分解能を与える最適な加速電圧と照射電流の組み合わせを決定する決定手段を備えた、ことを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
前記最適な加速電圧と照射電流の組み合わせを決定する決定手段で決定された加速電圧と照射電流を表示する手段を備えた、ことを特徴とする請求項1に記載のX線分析装置。
【請求項3】
前記最適な加速電圧と照射電流の組み合わせを決定する手段で決定された加速電圧と照射電流を、分析に用いる加速電圧と照射電流として設定する設定手段を備えた、ことを特徴とする請求項1または2に記載のX線分析装置。
【請求項4】
前記第3のデータは、少なくとも分析試料の平均原子番号、平均原子量、平均密度に関する情報および指定された特性X線種の臨界励起電圧の情報に基づいて、所定の計算により求められる、ことを特徴とする請求項1、2または3に記載のX線分析装置。
【請求項5】
前記第3のデータを求める所定の計算の少なくともひとつは、電子線と物質との相互作用に関するモンテカルロシミュレーション法を用いる、ことを特徴とする請求項1、2、3または4に記載のX線分析装置。
【請求項6】
前記分析に用いる特性X線種について加速電圧Vをパラメータとして照射電流Ipと特性X線強度Pxとの関係を表す第1のデータと、前記分析に用いる特性X線種の所望X線強度を表す直線と、前記第1のデータと前記所望X線強度を表す直線との交点に対応する照射電流Ipxの値をひとつの画面上に表示する手段を備えた、ことを特徴とする請求項1に記載のX線分析装置。
【請求項7】
前記加速電圧Vをパラメータとして照射電流Ipと最小電子線径Dpとの関係を表す第2のデータと、前記第1のデータと前記所望X線強度を表す直線との交点に対応する照射電流Ipxに対応した最小電子線径Dpxの組み合わせを示す座標位置と、最小電子線径Dpxの値をひとつの画面上に表示する手段を備えた、ことを特徴とする請求項1又は6に記載のX線分析装置。
【請求項8】
請求項6において、さらに、特性X線種に応じた加速電圧Vと実効的X線発生領域Dxとの関係を表す第3のデータを備え、前記最小電子線径Dpxと指定された特性X線種における前記第3のデータDxとを加速電圧Vを揃えて加算して得られる加算値(Dpx+Dx)の加速電圧に対する関係を表示する手段を備えた、ことを特徴とする請求項6または7に記載のX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−275756(P2006−275756A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95029(P2005−95029)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】