説明

電子回路、電子回路を備えた電子装置及び電子装置のパルス検出方法

【課題】回路が簡単で安定性が高い二乗検出回路。
【解決手段】入力端子101と、入力端子101から入力された信号から平衡信号と不平衡信号とを出力する平衡−不平衡変換器102と、ゲート端子に平衡信号が接続され、ソース端子が接地された第1の電界効果型トランジスタ103と、ゲート端子に不平衡信号が接続され、ソース端子が接地された第2の電界効果型トランジスタ104と、第1の電界効果型トランジスタ103のドレイン端子と第2の電界効果型トランジスタ104のドレイン端子とを相互に接続しドレイン電流を出力する出力端子112と、を含む電流出力部120と、電流出力部120の出力線113と接続され、電流出力部120から出力されるドレイン電流を加算した加算電流を出力する電流加算部121と、を含む電子回路1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路、電子回路を備えた電子装置、特にUWB(Ultra Wide Band)信号を受信する電子装置及び電子装置のパルス検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
受信された信号の包絡線を検出しベースバンド信号を復調する回路は、古くから使用されており、様々な回路が考え出されている。包絡線は、尖頭値を結んだものであり交流成分の絶対値を平滑化して得られる。また、信号を二乗し平滑化して包絡線検出に替える方法も古くからあり、「二乗検波」などと呼ばれている。例えば特許文献1には、信号の二乗値を得る二乗検出回路とそれを使った振幅検波の方法が記載されている。
【0003】
また、UWB信号、特に搬送波を用いないIR(Impulse Radio)によるUWB通信(以下「UWB−IR」通信と言う)においても包絡線検出を使った受信機があり、例えば特許文献2または特許文献3においてその有効性が記載されている。これらの特許文献2または特許文献3では、整流回路と積分回路が用いられているが、これは信号の交流成分の絶対値を平滑化して包絡線を求めるものである。以降、変調された搬送波(経時的に振幅が変化する高周波の信号)についてその包絡線を検出する作用を「包絡線検出」と呼ぶことにする。また、UWB−IR受信機において二乗検波を用いた例は見当たらない。
【0004】
【特許文献1】特開平4−170807号公報
【特許文献2】特開2004−320083号公報
【特許文献3】特開2005−252740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の特許文献1の二乗検出回路では、バイポーラトランジスタを使うものであり大規模な集積化に適するMOSトランジスタを用いるものでない。また二乗特性は、コレクタ電流に比較して信号の電流変化が十分小さい小信号が入力された場合のみに近似的に得られるのであって、大きな信号では誤差が伴うという課題がある。大きな信号を扱おうとすると、必然的に消費電力が大きくなる。さらに、回路の動作速度はあまり速くなく、UWB−IRの信号のような素子の性能限界程度に高い周波数の信号を扱う場合には適さない。また、複数の信号の二乗和を得る機能もなく、周波数変換によってベースバンドまで落とし復調を行う場合には、高い精度の位相同期が必要となる。
【0006】
また、よく知られているように電界効果型トランジスタのドレイン電流は、その動作域が飽和領域にあるとき、ゲート電圧と閾値電圧の差の二乗に比例する。つまり、ドレイン電流Idとゲート電圧Vgの関係は、閾値電圧をVt、βを定数とすると、
Id=(1/2)β(Vg−Vt)2 ・・・(式1)
となる。
【0007】
従って、電界効果型トランジスタの(式1)の関係を用いて信号の二乗値を得ることは可能である。すなわち、入力信号viをVbでバイアスしてVb=Vtとなるように調整すれば、
Id=(1/2)β(Vb+vi−Vt)2=(1/2)vi2 ・・・(式2)
となり、入力信号の二乗値を得ることができる。
【0008】
しかしながら、この場合、Vb=Vtとなるように安定にバイアスすることが困難である。Vb≠Vtの場合は、
Id=(1/2)vi2+vi(Vb−Vt)+(1/2)(Vb−Vt)2 ・・・(式3)
となり、(式3)のvi(Vb−Vt)および(1/2)(Vb−Vt)2が誤差となる。(1/2)(Vb−Vt)2は直流成分であるので容易にコンデンサによって排除することが可能であるが、vi(Vb−Vt)は取り除くことが困難である。
【0009】
また、Vtは、テーリングなどと呼ばれる(式1)に従わない微小電流の存在などによって、温度や電源電圧の変動に対しても変化する。さらに、Vb=Vtとなるバイアス点では、Idがきわめて微小の動作領域であり入力信号が微少である場合、動作は極めて不安定となる。
【0010】
また、特許文献2または特許文献3のいずれも、UWB−IR通信についての原理的な提案が開示されているに留まり、現実の実施に当たって克服することが不可避である種々の課題や、それらの解決策についてはなんら開示されていない。
【0011】
従来の技術における問題点は、UWB−IR通信に適用されるような高周波信号(急峻で瞬時的なパルス)に対して有効に機能する包絡線検出回路が実現できなかった点である。
【0012】
特許文献2には、演算増幅回路とPN接合ダイオードによる包絡線検出回路を使った回路例が例示されている。しかしながら、PN接合ダイオードを使用する回路は、UWBのアナログフロントエンドのワンチップ化において多用されるCMOS半導体プロセスによりオンチップ化することが困難であり、IRに用いられるような極めて細いパルスを全波整流してその包絡線を検出することは現実には不可能に近い。
【0013】
UWBでは、素子性能の限界に及ぶ高周波が用いられるのに対し、演算増幅回路の動作可能最高速度は素子性能の限界周波数の数分の一程度であり、動作速度が絶対的に不足するためである。さらに、この種の従来の全波整流回路では、入力信号が受信機で受信される信号レベルに比較し十分に大きくないと良好に動作しない。アンテナから得られる受信信号を前置低雑音増幅回路で増幅して得られる波高値数mV程度の信号を良好に検出することは不可能に近く、前置増幅の増幅度を上げるなどの対策が必要であるが、これも周波数が高いことやシステムの複雑さや消費電力の増大等々の困難を伴う。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0015】
[適用例1]
ゲート端子に平衡信号の一方が接続され、ソース端子が接地された第1の電界効果型トランジスタと、ゲート端子に前記平衡信号の他の一方が接続され、ソース端子が接地された第2の電界効果型トランジスタと、前記第1の電界効果型トランジスタのドレイン端子と前記第2の電界効果型トランジスタのドレイン端子とを相互に接続しドレイン電流を出力する出力端子と、を含んで構成されるn個(nは1以上の整数)の電流出力部と、前記n個の電流出力部のn個の前記出力端子と接続され、前記n個の電流出力部から出力される前記ドレイン電流の総和に比例する信号を出力する電流加算部と、を含む、ことを特徴とする電子回路。
【0016】
この構成によれば、電界効果型トランジスタの二乗特性によってゲートに入力された信号の二乗に比例した信号を取り出すことができる。電子回路は電界効果型トランジスタで構成され、PN接合を用いないために通常のCMOS半導体プロセスによるオンチップ化が可能である。回路構成も極めてシンプルであり、さらに、MOSトランジスタの限界周波数程度の高周波高速動作が可能であり、IR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。また、システム一体化が容易な二乗回路が実現できる。
【0017】
[適用例2]
上記に記載の電子回路において、前記電子回路は、前記n個の電流出力部の前記出力端子と前記電流加算部との間に接続され、ゲート端子が第1のバイアス電圧を介して接地されたm個(mは1以上n以下の整数)の第3の電界効果型トランジスタを含むことを特徴とする電子回路。
【0018】
この構成によれば、第3の電界効果型トランジスタにより出力値を増幅するカスコード段を含むため、出力インピーダンスを高くすることが可能となり、大きな負荷インピーダンスで高利得の回路が実現できる。また、カスコード段によって出力側と入力側を遮蔽しミラー効果を少なくすることができ、より高い周波数での動作を可能とする。
【0019】
[適用例3]
ソース端子に平衡信号の一方が接続され、ゲート端子が第2のバイアス電圧を介して接地された第1の電界効果型トランジスタと、ソース端子に前記不平衡信号の他の一方が接続され、ゲート端子が前記第2のバイアス電圧を介して接地された第2の電界効果型トランジスタと、前記第1の電界効果型トランジスタのドレイン端子と前記第2の電界効果型トランジスタのドレイン端子とを相互に接続しドレイン電流を出力する出力端子と、を含んで構成されるn個(nは1以上の整数)の電流出力部と、前記n個の電流出力部のn個の前記出力端子と接続され、前記n個の電流出力部から出力される前記ドレイン電流の総和に比例する信号を出力する電流加算部と、を含む、ことを特徴とする電子回路。
【0020】
この構成によれば、電界効果型トランジスタによるゲート接地回路の二乗特性によって、ソースに入力された信号の二乗に比例した信号を取り出すことができる。ゲート接地回路は、入力インピーダンスが低く、出力インピーダンスが高い良好な周波数特性を有する増幅回路を構成できる。電子回路は、電界効果型のトランジスタで構成され、PN接合を用いないために、通常のCMOS半導体プロセスによるオンチップ化が可能である。回路構成も極めてシンプルであり、さらに、MOSトランジスタの限界周波数程度の高周波高速動作が可能であり、IR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。また、システム一体化が容易な二乗回路が実現できる。
【0021】
[適用例4]
上記に記載の電子回路において、前記電子回路は、前記n個の電流出力部の前記出力端子と前記電流加算部との間に接続され、ゲート端子が第1のバイアス電圧を介して接地されたm個(mは1以上n以下の整数)の第3の電界効果型トランジスタを含むことを特徴とする電子回路。
【0022】
この構成によれば、第3の電界効果型トランジスタにより出力値を増幅するカスコード段を含むため、出力インピーダンスを高くすることが可能となり、大きな負荷インピーダンスで高利得の回路が実現できる。
【0023】
[適用例5]
上記に記載の電子回路を備えて構成されることを特徴とする電子装置。
【0024】
この構成によれば、電子回路によって簡単に信号の二乗値を検出することができる。また、二乗検波を用いる受信装置などの簡単かつ低電力の電子装置を実現できる。
【0025】
[適用例6]
上記に記載の電子装置において、前記電子装置は、供給されたUWB信号が担うパルスを検出する信号処理部を備えることを特徴とする電子装置。
【0026】
この構成によれば、電子回路によって簡単に信号の二乗値を検出することができる。特に、UWB信号が担うパルスを検出する受信装置で簡単かつ低電力の電子装置を実現できる。
【0027】
[適用例7]
上記に記載の電子装置において、前記電子装置は、互いに直交する第1の信号及び第2の信号を発生するテンプレート信号発生部と、前記第1の信号と受信信号とを乗算した第1の乗算信号を出力する第1の乗算器と、前記第2の信号と前記受信信号とを乗算した第2の乗算信号を出力する第2の乗算器と、前記第1の乗算信号から高周波成分を取り除いた第1の低域通過濾波信号を出力する第1の低域通過濾波器と、前記第2の乗算信号から高周波成分を取り除いた第2の低域通過濾波信号を出力する第2の低域通過濾波器と、を含んで構成されることを特徴とする電子装置。
【0028】
この構成によれば、直交する2つのテンプレート信号(第1の信号及び第2の信号)と受信信号を乗算し、高周波成分を取り除き高域を遮断することによって、それぞれのテンプレートと受信信号の相関値が得られる。これらの相関値の二乗の和は、受信信号の絶対値の二乗となるので、受信信号の絶対値を知ることができる。この場合、受信信号の搬送波との正確な同期は必要でない。上記の電子回路によって相関値の二乗の和が容易に求められるので、正確な搬送波との同期なしで信号の振幅を求めることができ、二乗検波の受信装置を簡易に構成できる。
【0029】
[適用例8]
互いに直交する第1の信号及び第2の信号を発生するテンプレート信号発生部と、前記第1の信号と受信信号とを乗算した第1の乗算信号を出力する第1の乗算器と、前記第2の信号と前記受信信号とを乗算した第2の乗算信号を出力する第2の乗算器と、前記第1の乗算信号から高周波成分を取り除いた第1の低域通過濾波信号を出力する第1の低域通過濾波器と、前記第2の乗算信号から高周波成分を取り除いた第2の低域通過濾波信号を出力する第2の低域通過濾波器と、上記に記載の電子回路と、を含む電子装置のパルス検出方法であって、前記第1の低域通過濾波信号と前記第2の低域通過濾波信号とを前記電子回路により二乗和出力しパルスを検出する、ことを特徴とする電子装置のパルス検出方法。
【0030】
この構成によれば、直交する2つのテンプレート信号(第1の信号及び第2の信号)と受信信号を乗算し、高周波成分を取り除き高域を遮断することによって、それぞれのテンプレートと受信信号の相関値が得られる。これらの相関値の二乗の和は、受信信号の絶対値の二乗となるので、受信信号の絶対値を知ることができる。この場合、受信信号の搬送波との正確な同期は必要でない。上記の電子回路によって相関値の二乗の和が容易に求められるので、正確な搬送波との同期なしで信号の振幅を求めることができ、パルス検出ができる。
【0031】
[適用例9]
上記に記載の電子装置のパルス検出方法において、供給されたUWB信号が担うパルスを検出することを特徴とする電子装置のパルス検出方法。
【0032】
この構成によれば、UWB−IRにおいてはその信号の占有周波数帯が極めて広いため、テンプレート信号の周波数精度も高くなくてよい。また、搬送波の正確な位相同期も周波数同期も不要で、容易にUWB−IRのパルス検出ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、電子回路の実施形態について図面に従って説明する。
【0034】
(第1実施形態)
<電子回路の構成>
先ず、第1実施形態に係る電子回路の構成について、図1を参照して説明する。図1は、第1実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図である。
【0035】
図1に示すように、電子回路1は、n=1個の電流出力部120と電流加算部121とから構成されている。電流出力部120は、平衡−不平衡変換器(バラン、BALUN:Balance-Unbalance transformer)102と、第1の電界効果型トランジスタであるNMOSトランジスタ103と、第2の電界効果型トランジスタであるNMOSトランジスタ104と、コンデンサ105,106と、抵抗107,108と、バイアス電源109と、から構成されている。
【0036】
入力端子101に入力された不平衡信号は、バラン102に入力され、2つの平衡信号に分離されて出力される。平衡信号の一方は、コンデンサ105を介してNMOSトランジスタ103のゲート端子に印加され、平衡信号の他の一方は、コンデンサ106を介してNMOSトランジスタ104のゲート端子に印加される。NMOSトランジスタ103のゲート端子は、抵抗107を介してバイアス電源109に接続され、NMOSトランジスタ104のゲート端子は、抵抗108を介してバイアス電源109に接続されている。NMOSトランジスタ103,104の各々のソース端子は接地され、各々のドレイン端子は出力線113に接続されている。なお、NMOSトランジスタ103,104は、電源およびバイアス電源の極性を逆にしてPMOSトランジスタで構成してもよい。
【0037】
電流加算部121は、出力線113と電源電圧線111との間に接続された抵抗110で構成され、電流出力部120で生成された出力線113に流れるドレイン電流を抵抗110に流すことにより電圧に変換し出力端子112から出力する。電源電圧線111に印加される電源電圧をVDDとする。電流加算部121では複数(n個)の電流出力部120の電流の加算値を電圧に変換し出力することができる。例としてn=2の場合は第5実施形態で詳述する。
【0038】
NMOSトランジスタ103,104のチャネル幅W、チャネル長L、トランジスタのキャリアの移動度μ、単位面積あたりのゲート容量C、ソースドレイン間印加電圧Vd、ソースゲート間印加電圧Vg、閾値電圧Vtとし、NMOSトランジスタ103,104に流れるドレイン電流Idは、Vd≧Vg−Vtの場合、
Id=(1/2)μC(W/L)(Vg−Vt)2 ・・・(式4)
となり、Vd≦Vg−Vtの場合、
Id=(1/2)μC(W/L)Vd{2(Vg−Vt)−Vd} ・・・(式5)
となる。
【0039】
PMOSトランジスタとNMOSトランジスタとではキャリア移動度が異なるため、同じサイズのトランジスタでは、同じ印加電圧に対して流せるドレイン電流はNMOSトランジスタの方が多いのが普通である。W/Lを調整することにより、PMOSトランジスタとNMOSトランジスタとのバランスを取ることが可能である。印加電圧に対して流せるドレイン電流の能力は、β=μC(W/L)で決まる。
【0040】
バイアス電源109のバイアス電圧をVbとし、バラン102によって変換され、コンデンサ105を通過しNMOSトランジスタ103のゲート端子に印加される電圧を+vi、コンデンサ106を通過しNMOSトランジスタ104のゲート端子に印加される電圧を−viとする。バイアス電圧Vbに対して電源電圧VDDを十分高く設定すれば、NMOSトランジスタ103,104は、Vd≧Vg−Vtにて動作させることができ、(式4)が適用できる。以下、(式4)の適用範囲でNMOSトランジスタ103,104が作動するように電源電圧VDD、バイアス電圧Vbが設定されているものとする。
【0041】
NMOSトランジスタ103のドレイン電流をId1、NMOSトランジスタ104のドレイン電流をId2とすると、
Id1=(1/2)β(Vb+vi−Vt)2 ・・・(式6)
Id2=(1/2)β(Vb−vi−Vt)2 ・・・(式7)
が成り立つ。
【0042】
従って、抵抗110に流れる電流I0は、
I0=Id1+Id2=β{vi2+(Vb−Vt)2} ・・・(式8)
となる。
【0043】
(式8)右辺の(Vb−Vt)2は直流成分であり、変化分のみを取り出せば入力信号viの二乗値が取り出せる。(式1)に従う従来の技術では、誤差として直流成分のほかにvi(Vb−Vt)が残ったが、(式8)に従う電子回路1の場合は、このような排除できない誤差を含まない。従って、バイアス電圧Vbは、従来例のように正確に閾値電圧Vtに一致させる必要がない。(Vb−Vt)2の直流成分は、コンデンサにより簡単に排除できる。バイアス電圧Vbをどのように選んでも、誤差項として簡単に排除できる直流成分しか残らないので、NMOSトランジスタ103,104が安定に動作する領域に設定することが可能である。特に、雑音特性などを気にする場合は、ショットノイズなどのドレイン電流に依存するノイズをバイアス電圧Vbを調整することにより低減することができる。
【0044】
以上に述べた本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0045】
本実施形態の入力信号の二乗値を求める電子回路1では、電界効果型トランジスタによって構成できるため、半導体プロセスによるオンチップ化が可能であるという特徴があり、特に、電界効果型トランジスタの限界周波数程度の高周波高速動作が可能なので、IR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。これによって、システム一体化が容易な受信機の復調回路やパルス検出回路が実現できる。
【0046】
振幅が等しく互いに逆極性の入力信号を得るために、本実施形態ではバラン102を用いているが、これに限定されない。平衡型のアンテナから得られる信号や、差動増幅器から得られる出力信号は、上記条件を満たすのでバラン102を省略できる。また、差動増幅器出力の動作レベルによって出力信号が適当な直流値によって偏移されている場合は、コンデンサ105,106、抵抗107,108、バイアス電源109を省略することも可能である。
【0047】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る電子回路の構成について、図2を参照して説明する。図2は、第2実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図である。
【0048】
図2に示すように、電子回路2は、電流出力部120の出力線113と抵抗110の間に、ゲート端子が第1のバイアス電圧を供給するバイアス電源202を介して接地されたm=1個の第3の電界効果型トランジスタであるNMOSトランジスタ201で構成されたゲート接地増幅部122を接続して構成されている。
【0049】
NMOSトランジスタ201の作用によってNMOSトランジスタ103,104のドレイン電流の和は、NMOSトランジスタ103,104のドレイン出力抵抗による分流を減じてゲインをブーストする。出力インピーダンスはより高くなり、抵抗110や負荷変動が大きくなってもNMOSトランジスタ103,104のドレイン電流の和をより正確に取り出せるようになる。
この電子回路2では、NMOSトランジスタ201によるカスケード接続をすることによって、微弱な信号でも増幅しつつ信号の二乗値の検出が可能となる。さらに、使用される素子は、いずれも半導体プロセスによるオンチップ化が可能であり、素子の限界周波数程度の高周波高速動作も可能なので、IR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。これによってシステム一体化が容易なパルス検出回路が実現できる。
【0050】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る電子回路の構成について、図3を参照して説明する。図3は、第3実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図である。
【0051】
図3に示すように、電子回路3は、n=1個の電流出力部320と電流加算部321とから構成されている。電流出力部320は、バラン302と、NMOSトランジスタ303,304と、コンデンサ305,306と、抵抗307,308と、バイアス電源309と、から構成されている。
【0052】
入力端子301に入力された不平衡信号は、バラン302に入力され、2つの平衡信号に分離されて出力される。平衡信号の一方は、コンデンサ305を介してNMOSトランジスタ303のソース端子に印加され、平衡信号の他の一方は、コンデンサ306を介してNMOSトランジスタ304のソース端子に印加される。NMOSトランジスタ303のゲート端子及びNMOSトランジスタ304のゲート端子には、バイアス電源309が接続されている。NMOSトランジスタ303のソース端子は抵抗307を介して接地され、NMOSトランジスタ304のソース端子は抵抗308を介して接地されている。NMOSトランジスタ303,304の各々のドレイン端子は、出力線313に接続されている。なお、NMOSトランジスタ303,304は、電源およびバイアス電源の極性を逆にしてPMOSトランジスタで構成してもよい。
【0053】
電流加算部321は、出力線313と電源電圧線311との間に接続された抵抗310で構成され、電流出力部320で生成された出力線313に流れるドレイン電流を抵抗310に流すことにより電圧に変換し出力端子312から出力する。電源電圧線311に印加される電源電圧をVDDとする。電流加算部321では複数(n個)の電流出力部320の電流の加算値を電圧に変換し出力することができる。例としてn=2の場合は第6実施形態で詳述する。
【0054】
バイアス電源309のバイアス電圧をVbとする。また、バラン302によって変換され、コンデンサ305を通過しNMOSトランジスタ303のソース端子に印加される電圧を+vi、コンデンサ306を通過しNMOSトランジスタ304のソース端子に印加される電圧を−viとする。バイアス電圧Vbに対して電源電圧VDDを十分高く設定すれば、NMOSトランジスタ303,304はVd≧Vg−Vtにて動作させることができ、(式4)が適用できる。以下、(式4)の適用範囲でNMOSトランジスタ303,304が作動するように電源圧VDD、バイアス電圧Vbが設定されているものとする。
【0055】
NMOSトランジスタ303のドレイン電流をId1、NMOSトランジスタ304のドレイン電流をId2とすると
Id1=(1/2)β(Vb−vi−Vt)2・・・(式9)
Id2=(1/2)β(Vb+vi−Vt)2・・・(式10)
が成り立つ。
【0056】
従って、抵抗310に流れる電流I0は、
I0=Id1+Id2=β{vi2+(Vb−Vt)2}・・・(式11)
となる。
【0057】
(式11)右辺の(Vb−Vt)2は直流成分であり、変化分のみを取り出せば入力信号viの二乗値が取り出せる。(式1)に従う従来の技術では、誤差として直流成分のほかにvi(Vb−Vt)が残ったが、(式11)に従う本第3実施形態の場合は、このような排除できない誤差を含まない。従って、バイアス電圧Vbは、従来例のように正確に閾値電圧Vtに一致させる必要がない。(Vb−Vt)2の直流成分は、コンデンサにより簡単に排除できる。バイアス電圧Vbをどのように選んでも、誤差項としては簡単に排除できる直流成分しか残らないので、NMOSトランジスタ303,304が安定に動作する領域に設定することが可能である。特に、雑音特性などを気にする場合は、ショットノイズなどのドレイン電流に依存するノイズをバイアス電圧Vbを調整することにより低減することができる。
【0058】
本第3実施形態の電子回路3は、ゲート接地型増幅回路をワイヤードオア接続したものと見ることができる。ゲート接地型増幅回路の特徴である低入力インピーダンス特性は、入力回路の整合設計を容易にする。
【0059】
本第3実施形態による信号の二乗値を求める電子回路3は、電界効果型トランジスタによって構成できるため半導体プロセスによるオンチップ化が可能であるという特徴があり、特に、電界効果型トランジスタの限界周波数程度の高周波高速動作が可能なので、IR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。これによってシステム一体化が容易な受信機の復調回路やパルス検出回路が実現できる。
【0060】
振幅が等しく互いに逆極性の入力信号を得るために、本第3実施形態ではバラン302を用いているが、これに限定されない。平衡型のアンテナから得られる信号や、差動増幅器から得られる出力信号は上記条件を満たすのでバラン302を省略できる。また、平衡型アンテナの出力信号のように直流成分が含まれない場合は、コンデンサ305,306、抵抗307,308を省略することも可能である。
【0061】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る電子回路の構成について、図4を参照して説明する。図4は、第4実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図である。
【0062】
図4に示すように、電子回路4は、電流出力部320の出力線313と抵抗310の間に、ゲート端子が第2のバイアス電圧を供給するバイアス電源402を介して接地されたm=1個の第3の電界効果型トランジスタであるNMOSトランジスタ401で構成されたゲート接地増幅部322を接続して構成されている。
【0063】
NMOSトランジスタ401の作用によってNMOSトランジスタ303,304のドレイン電流の和は、NMOSトランジスタ303,304のドレイン出力抵抗による分流を減じてゲインをブーストする。出力インピーダンスはより高くなり、抵抗310や負荷変動が大きくなってもNMOSトランジスタ303,304のドレイン電流の和をより正確に取り出せるようになる。
【0064】
この電子回路4では、NMOSトランジスタ401によるカスケード接続をすることによって、微弱な信号でも増幅しつつ信号の二乗値の検出が可能となる。さらに、使用される素子は、いずれも半導体プロセスによるオンチップ化が可能であり、素子の限界周波数程度の高周波高速動作も可能なので、IR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。これによってシステム一体化が容易なパルス検出回路が実現できる。
【0065】
(第5実施形態)
次に、第5実施形態に係る電子回路の構成について、図5を参照して説明する。図5は、第5実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図である。第5実施形態では、図1の電流出力部120をn=2個並列に電流加算部121に接続した二乗和回路の場合を示す。
【0066】
図5に示すように、電子回路5は、図1の電流出力部120である電流出力部522,523と、電流加算部521と、から構成されている。電流出力部522,523は、各々、入力端子524,525を有し、各出力線513,514が並列に接続されている。電流加算部521は、出力線513と電源電圧線511との間に接続された抵抗510で構成され、電流出力部522,523で生成された出力線513,514に流れるドレイン電流を加算し抵抗510によって電圧信号に変換し出力端子515から出力する。
【0067】
抵抗510の抵抗値は、2つの電流出力部522,523を並列に接続したと考え、個別の回路の場合の半分の抵抗値としてもよいし、個別の回路のときの抵抗値と同一の値をとってもよい。後者の同一抵抗値に設定した場合は、(式11)における直流項β(Vb−Vt)2による電圧降下分が倍になる。また前者の場合は、電圧降下分の増加はないが、目的とするβvi2の項を電圧に変換して取り出そうとするとその振幅値は半分になってしまう。両者を勘案して、抵抗510の値を第3の適当な値に設定することも可能である。また、電流の変化分のみを取り出すために抵抗の代わりにインダクタンスを用いることもできる。インダクタンスを用いると、直流項β(Vb−Vt)2による電圧降下は除去することができる。
【0068】
入力端子524に入力される信号をvi1、入力端子525に入力される信号をvi2とし、バラン102による振幅の損失分を無視すると抵抗510に流れる電流I0は、電流出力部522の電流I01と電流出力部523による電流I02の合計となるので(式11)を参照して、
I0=I01+I02=β{vi12+(Vb−Vt)2}+β{vi22+(Vb−Vt)2}=β(vi12+vi22)+2β(Vb−Vt)2 ・・・(式12)
となる。
【0069】
(式12)の右辺第1項は、vi12とvi22の和でありこれが目的の出力となる。また、(式12)の右辺第2項は、直流成分でありコンデンサによって容易に遮断できる。
本実施形態では電流出力部をn=2個持つ場合を例示したが、nがそれ以上の整数であってもよい。各電流出力部からのn本の出力線を並列に接続し電流加算部521にて電流の挿話を取り抵抗510によって電圧信号に変換して出力端子515より出力する。この場合はn個の信号の二乗の和を出力信号として得ることができる。
【0070】
バイアス電圧Vbをどのように選んでも、誤差項としては簡単に排除できる直流成分しか残らないので、NMOSトランジスタ103,104が安定に動作する領域に設定することが可能である。特に、雑音特性などを気にする場合は、ショットノイズなどのドレイン電流に依存するノイズをバイアス電圧Vbを調整することにより低減することができる。
【0071】
本第5実施形態の電子回路5は、ソース接地型の第1実施形態の電子回路1をワイヤードオア接続したものである。
【0072】
本第5実施形態による信号の二乗値を求める電子回路5は、電界効果型トランジスタによって構成できるため、半導体プロセスによるオンチップ化が可能であり、特に、電界効果型トランジスタの限界周波数程度の高周波高速動作が可能なので、IR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。これによって、システム一体化が容易な受信機の復調回路やパルス検出回路が実現できる。
【0073】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態に係る電子回路の構成について、図6を参照して説明する。図6は、第6実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図である。第6実施形態では、図3の電流出力部320をn=2個並列に電流加算部321に接続した二乗和回路の場合を示す。
【0074】
図6に示すように、電子回路6は、図3の電流出力部320である電流出力部622,623と、電流加算部621と、から構成されている。電流出力部622,623は、各々、入力端子624,625を有し、各出力線613,614が並列に接続されている。電流加算部621は、出力線613と電源電圧線611との間に接続された抵抗610で構成され、電流出力部622,623で生成された出力線613,614に流れるドレイン電流を加算し抵抗610によって電圧信号に変換し出力端子615から出力する。
【0075】
抵抗610の抵抗値は、2つの電流出力部622,623を並列に接続したと考え、個別の回路の場合の半分の抵抗値としてもよいし、個別の回路のときの抵抗値と同一の値をとってもよい。後者の同一の抵抗値に設定した場合は、(式11)における直流項β(Vb−Vt)2による電圧降下分が倍になる。また前者の場合は、電圧降下分の増加はないが、目的とするβvi2の項を電圧に変換して取り出そうとするとその振幅値は半分になってしまう。両者を勘案して、抵抗610の値を第3の適当な値に設定することも可能である。また、電流の変化分のみを取り出すために抵抗の代わりにインダクタンスを用いることもできる。インダクタンスを用いると、直流項β(Vb−Vt)2による電圧降下は除去することができる。
【0076】
入力端子624に入力される信号をvi1、入力端子625に入力される信号をvi2とし、バラン302による振幅の損失分を無視すると抵抗610に流れる電流I0は、電流出力部622の電流I01と電流出力部623による電流I02の合計となるので(式11)を参照して、
I0=I01+I02=β{vi12+(Vb−Vt)2}+β{vi22+(Vb−Vt)2}=β(vi12+vi22)+2β(Vb−Vt)2 ・・・(式13)
となる。
【0077】
(式13)の右辺第1項は、vi12とvi22の和でありこれが目的の出力となる。また、(式13)の右辺第2項は、直流成分でありコンデンサによって容易に遮断できる。
本実施形態では電流出力部をn=2個持つ場合を例示したが、nがそれ以上の整数であってもよい。各電流出力部からのn本の出力線を並列に接続し電流加算部621にて電流の挿話を取り抵抗610によって電圧信号に変換して出力端子615より出力する。この場合はn個の信号の二乗の和を出力信号として得ることができる。
【0078】
バイアス電圧Vbをどのように選んでも、誤差項としては簡単に排除できる直流成分しか残らないので、NMOSトランジスタ303,304が安定に動作する領域に設定することが可能である。特に、雑音特性などを気にする場合は、ショットノイズなどのドレイン電流に依存するノイズをバイアス電圧Vbを調整することにより低減することができる。
【0079】
本第6実施形態の電子回路6は、ソース接地型の第3実施形態の電子回路3をワイヤードオア接続したものである。第3実施形態と同様に、ソース接地型増幅回路の特徴である低入力インピーダンス特性は、入力回路の整合設計を容易にする。
【0080】
本第6実施形態による信号の二乗値を求める電子回路6は、電界効果型トランジスタによって構成できるため、半導体プロセスによるオンチップ化が可能であるという特徴があり、特に、電界効果型トランジスタの限界周波数程度の高周波高速動作が可能なので、IR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。これによって、システム一体化が容易な受信機の復調回路やパルス検出回路が実現できる。
【0081】
(第7実施形態)
次に、第7実施形態に係る電子回路の構成について、図7を参照して説明する。図7は、第7実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図である。第7実施形態では、図1の電流出力部120をn=2個並列に接続し該電流出力部の出力電流を加算した後、m=1個のゲート接地増幅部122(図2)を介して電流加算部121に接続した二乗和回路の場合を示す。
【0082】
図7に示すように、電子回路7は、図1の電流出力部120である電流出力部722,723の出力線713,714と抵抗710の間に、ゲート端子がバイアス電源702を介して接地されたNMOSトランジスタ701で構成されたゲート接地増幅部726を接続して構成されている。NMOSトランジスタ701は、バイアス電源702によってゲートに直流バイアスされたゲート接地による増幅段であり、電流出力部722,723の出力電流を加算し増幅する。
NMOSトランジスタ701の作用によって、電流出力部722,723それぞれの内部のNMOSトランジスタ103,104のドレイン出力抵抗による分流を減じてゲインをブーストする。出力インピーダンスはより高くなり、抵抗710や負荷変動が大きくなっても出力線713,714から流出する電流の和をより正確に取り出せるようになる。
この電子回路7では、NMOSトランジスタ701によるカスケード接続をすることによって、微弱な信号でも増幅しつつ信号の二乗値の検出が可能となる。
【0083】
(第8実施形態)
次に、第8実施形態に係る電子回路の構成について、図8を参照して説明する。図8は、第8実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図である。第8実施形態では、図3の電流出力部320をn=2個並列にm=1個のゲート接地増幅部322(図4)を介して電流加算部321に接続した二乗和回路の場合を示す。
【0084】
図8に示すように、電子回路8は、図3の電流出力部320である電流出力部822,823の出力線813,814と抵抗810の間に、ゲート端子がバイアス電源802を介して接地されたNMOSトランジスタ801で構成されたゲート接地増幅部826を接続して構成されている。NMOSトランジスタ801は、バイアス電源802によってゲートに直流バイアスされたゲート接地による増幅段であり、電流出力部822,823の出力電流を加算し増幅する。
【0085】
(第9実施形態)
次に、第9実施形態に係る電子回路の構成について、図9を参照して説明する。図9は、第9実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図である。第9実施形態では、図1の電流出力部120をn=2個並列にm=2個のゲート接地増幅部122(図2)を介して電流加算部921に接続した二乗和回路の場合を示す。
【0086】
図9に示すように、電子回路9は、図1の電流出力部120である電流出力部922の出力線913と抵抗910の間に、ゲート端子がバイアス電源902を介して接地されたNMOSトランジスタ901で構成されたゲート接地増幅部926を接続し、図1の電流出力部120である電流出力部923の出力線933と抵抗910の間に、ゲート端子がバイアス電源902を介して接地されたNMOSトランジスタ903で構成されたゲート接地増幅部927を接続して構成されている。NMOSトランジスタ901,903は、バイアス電源902によってゲートに直流バイアスされたゲート接地による増幅段であり、電流出力部922,923の出力電流を増幅しその出力電流は並列接続によって加算され電流加算部921に入力する。
【0087】
抵抗910の抵抗値は、電流出力部922,923を並列に接続したと考え、個別の回路(第2実施形態、すなわち図2)の場合の半分の抵抗値としてもよいし、個別の回路のときの抵抗値と同一の抵抗値をとってもよい。同一の抵抗値に設定した場合は、(式8)における直流項β(Vb−Vt)2による電圧降下分が倍になる。また、半分の抵抗値に設定した場合は、電圧降下分の増加はないが、目的とするβvi2の項を電圧に変換して取り出そうとすると、その振幅値は半分になってしまう。両者を勘案して、抵抗910の抵抗値を第3の適当な値に設定することも可能である。また電流の変化分のみを取り出すために、抵抗910の代わりにインダクタンスを用いることもできる。インダクタンスを用いると、直流項β(Vb−Vt)2による電圧降下は除去することができる。
【0088】
ここで、電流出力部922の入力端子924に入力される信号をvi1、電流出力部923の入力端子925に入力される信号をvi2とし、バラン102による振幅の損失分を無視(すなわちトランジスタ103,104のゲートに印加される電圧をそれぞれ±vi1,±vi2と)すると、抵抗910に流れる電流I0は、電流出力部922の電流I01と電流出力部923による電流I02の合計となるので(式8)を参照して、
I0=I01+I02=β{vi12+(Vb−Vt)2}+β{vi22+(Vb−Vt)2}=β(vi12+vi22)+2β(Vb−Vt)2 ・・・(式14)
となり、(式12)と同様の結果が得られる。(式14)の右辺第1項は、vi12とvi22の和であり、これが目的の出力である。また、(式14)の右辺第2項は、直流成分であり、コンデンサによって容易に遮断できる。
【0089】
バイアス電圧Vbをどのように選んでも、誤差項としては簡単に排除できる直流成分しか残らないので、NMOSトランジスタ103,104が安定に動作する領域に設定することが可能である。特に、雑音特性などを気にする場合は、ショットノイズなどのドレイン電流に依存するノイズをバイアス電圧Vbを調整することにより低減することができる。
【0090】
本第9実施形態の電子回路9は、ゲート接地型のカスケード段を有する第2実施形態の電子回路2をワイヤードオア接続したものである。カスケード段の働きによって、微弱の信号でも有効に検出できる。また、電流出力部922,923の出力インピーダンスはより高められるため、出力インピーダンスによる分流が減って電流加算による誤差を少なくすることができる。また低い入力インピーダンス特性によって入力回路のマッチング設計が容易になる。
【0091】
本第9実施形態による信号の二乗値を求める電子回路9は、電界効果型トランジスタによって構成できるため、半導体プロセスによるオンチップ化が可能であり、特に、電界効果型トランジスタの限界周波数程度の高周波高速動作が可能なので、IR通信などの高速動作が必要なシステムへの応用が可能となる。これによって、システム一体化が容易な受信機の復調回路やパルス検出回路が実現できる。
【0092】
(第10実施形態)
次に、第10実施形態に係る電子回路の構成について、図10を参照して説明する。図10は、第10実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図である。第10実施形態では、図3の電流出力部320をn=2個並列にm=2個のゲート接地増幅部322(図4)を介して電流加算部321に接続した二乗和回路の場合を示す。
【0093】
図10に示すように、電子回路10は、図3の電流出力部320である電流出力部1022の出力線1013と抵抗1010の間に、ゲート端子がバイアス電源1002を介して接地されたNMOSトランジスタ1001で構成されたゲート接地増幅部1026を接続し、図3の電流出力部320である電流出力部1023の出力線1033と抵抗1010の間に、ゲート端子がバイアス電源1004を介して接地されたNMOSトランジスタ1003で構成されたゲート接地増幅部1027を接続して構成されている。NMOSトランジスタ1001,1003は、バイアス電源1002,1004によってゲートに直流バイアスされたゲート接地による増幅段であり、電流出力部1022,1023の出力電流を加算し増幅する。
【0094】
(第11実施形態)
次に、第11実施形態に係る電子回路を備えた電子装置である受信装置の構成について、図11及び図12を参照して説明する。図11は、第11実施形態に係る受信装置の構成を示す回路図である。図12は、第11実施形態に係る受信装置の動作を示すタイミング図である。
【0095】
本第11実施形態では、UWB−IRのパルス信号として矩形のパルスを搬送波周波数fcの正弦波によって乗算した図12の受信信号aに示すような波形を用いる場合を例に説明するが、これに限ったものではない。IR信号として多用されるガウシアンモノパルス、エルミートパルス、あるいはそれらのn階微分波形、さらに、それらに搬送波周波数fcの正弦波を乗算しスペクトルを周波数軸上で移動したパルス、その他のパルスでもよい。特に、搬送波周波数fcの正弦波を乗算して得られるパルスは、直流成分を含まず、スペクトルが搬送波周波数fcを中心に対称であるなどの理由で多用される。本第11実施形態では、最も簡単な矩形パルスに正弦波を乗算して得られるパルスをIR信号として使用するUWB−IRの受信装置(電子装置)を例に説明する。
【0096】
図11に示すように、受信装置11は、アンテナ1101と、低雑音増幅回路(LNA:Low Noise Amplifier)1102と、二乗回路1103(図1〜4)と、低域通過濾波器(LPF:Low-Pass Filter)1104と、信号処理部である判別回路1105と、から構成されている。
【0097】
アンテナ1101によって受信された受信信号a(図12)は、LNA1102によって増幅される。平衡出力を持つLNA1102を増幅回路として構成とすると、図1〜図4に示したバラン102,302を省略することができる。二乗回路1103は、受信信号aを二乗し、二乗信号b(図12)を出力する。LPF1104は、二乗信号bの高周波成分を除去し、LPF信号c(図12)を出力する。LPF1104は、積分回路を用いてもよい。判別回路1105は、LPF信号cの二値化処理を行い、二値化信号d(図12)を出力し、パルスの有無を検出できる。
【0098】
UWB−IRでは、送信する情報のビット1または0に応じて、パルスを送る送らないを制御するようにすれば、OOK(On-Off-Keying)と呼ばれる変調方式となる。また、送信ビット情報に応じてパルスの位置を制御すれば、PPM(Pulse Position Modulation:パルス位置変調)と呼ばれる変調方式となる。上記受信装置11の構成では、送信されたパルスの有無、または位置を検出できるのでUWB−IRの復調ができる。判別回路1105によって検出されたパルスにより、次に受信されるパルス信号のタイミングが予想できるとそれまでの期間回路の動作を信号1107で停止させ、受信装置11の消費電力を削減することが可能である。
【0099】
本第11実施形態のように二乗回路1103を用いれば、UWB−IR通信を簡単に実現できる受信装置11を構成できる。受信装置11で使用される回路は、どれもCMOSによる半導体集積回路などで集積化が可能であり、高信頼かつ低価格の受信装置実現が可能である。
【0100】
本第11実施形態による受信装置11の構成は、また振幅変調による信号の受信装置に使用することも可能である。その場合、判別回路1105は不要であり、LPF1104に受信信号の包絡線が出力される。すなわち、振幅変調信号からその包絡線を検出することが可能であり、これは振幅変調信号の復調に他ならない。
【0101】
(第12実施形態)
次に、第12実施形態に係る電子回路を備えた電子装置である受信装置の構成について、図13及び図14を参照して説明する。図13は、第12実施形態に係る受信装置の構成を示す回路図である。図14は、第12実施形態に係る受信装置の動作を示すタイミング図である。
【0102】
図13に示すように、受信装置13は、アンテナ1301と、LNA1302と、ミキサ1303,1304と、LPF1305,1306と、二乗和回路1307(図5〜10)と、テンプレート発生回路1308と、判別回路1309と、AD変換回路1311と、から構成されている。
【0103】
本第12実施形態も第11実施形態と同様に、UWB−IRのパルス信号として矩形のパルスを搬送波周波数fcの正弦波によって乗算した図14の受信信号aに示すような波形を用いる場合を例に説明するが、これに限ったものではない。IR信号として多用されるガウシアンモノパルス、エルミートパルス、あるいはそれらのn階微分波形、さらにそれらに搬送波周波数fcの正弦波を乗算しスペクトルを周波数軸上で移動したパルス、その他のパルスでもよい。特に、搬送波周波数fcの正弦波を乗算して得られるパルスは直流成分を含まず、スペクトルが搬送波周波数fcを中心に対称であるなどの理由で多用される。本第12実施形態では、最も簡単な矩形パルスに正弦波を乗算して得られるパルスをIR信号として使用するUWB−IRの受信装置13を例に説明する。
【0104】
受信装置13を構成する際の復調の方法として、同期検波と呼ばれる方法がある。この方法は、受信機側で用意したテンプレートと受信信号との相関を計算し相関値から送信されてきた情報を抽出するものである。相関値は、テンプレートと受信信号を乗算しその結果をさらに積分して得られる。積分は、ローパスフィルタによる高域の除去と同様の効果があり、しばしば積分はローパスフィルタによって代用される。
【0105】
本第12実施形態は、二乗和回路(図5〜10)を用いた同期検波のUWB−IR受信装置である。
【0106】
アンテナ1301によって受信されたUWB−IR信号である受信信号a(図14)は、差動のLNA1302によって増幅され、ミキサ1303,1304に入力される。それぞれのミキサ1303,1304は、テンプレート発生回路1308によって発生された直交する2つのテンプレート信号と乗算され、乗算波形b,c(図14)を出力する。これらの乗算波形b,cは、LPF1305,1306によって高周波成分を取り除かれたLPF信号d,e(図14)を二乗和回路1307に入力し、それぞれのLPF信号d,eの二乗和が二乗和信号f(図14)として出力される。この二乗和信号fは、受信信号aの包絡線の二乗値に等しい。LPF1305,1306は、積分回路を用いることもできる。この二乗和信号fから判別回路1309でパルスの有無を判別することによって、受信した信号から送信されてきた情報を取り出し復元し、出力端子1310より復元信号g(図14)として出力することができる。
【0107】
LNA1302、ミキサ1303,1304、テンプレート発生回路1308の信号は、平衡型の信号(差動信号)を扱うことができる平衡型回路で構成すれば、二乗和回路1307に入力される信号は平衡型の信号となり、図5〜10のバラン102,302を省略することができる。
【0108】
判別回路1309は、また受信装置全体の動作の制御も行う。すなわち、復元した復元信号gの情報に基づき、次に受信信号aがやってくるタイミングが予測できれば、それまでの時間、制御信号h1,h2,h3により回路の動作を停止させ消費電力の節約を図ることができる。テンプレート発生回路1308で発生するテンプレート信号は、信号が受信されるであろう時間だけ間欠的に発生させてもよいし、予測できない時は連続的に発生させてもよい。
【0109】
以下、上記のような構成で、正確な周波数および位相の同期なしで信号の振幅(の二乗値)が検出できることを上記説明の補足として式を用いて説明する。
【0110】
まず、UWB−IR信号として上述の矩形のパルス(パルス幅をTpとする)を搬送波周波数fcで乗算した信号が時間間隔Tb毎に送信されてくるものとすると、受信されるUWB−IR信号Sは、nTb≦t≦nTb+Tpの期間は、S=cos(2πfct)で表され、nTb+Tp<t<(n+1)Tbの期間は、S=0で表すことができる。ここで、tは時間、nは整数である。図14の受信信号aが、この波形である。
【0111】
また、テンプレート発生回路1308で発生する直交する2つのテンプレート信号をPI,PQとすると、PI=cos{(ωc+Δω)t+φ}、PQ=sin{(ωc+Δω)t+φ}と表すことができる。ここで、ωc=2πfc、Δω=2πΔfcであり、Δfcはテンプレート信号の搬送波周波数fcとの誤差である。またφは位相が一致していないことを表す位相差である。
【0112】
ミキサ1303,1304の出力IFI、IFQは、それぞれSとPI、PQとの乗算であるので、nTb≦t≦nTb+Tpの期間は、
IFI=SPI=cos(ωct)cos{(ωc+Δω)t+φ}=(1/2){cos((2ωc+Δω)t+φ)+cos(Δωt+φ)} ・・・(式15)
IFQ=SPQ=cos(ωct)sin{(ωc+Δω)t+φ}=(1/2){sin((2ωc+Δω)t+φ)+sin(Δωt+φ)} ・・・(式16)
で表され、nTb+Tp<t<(n+1)Tbの期間は、IFI=IFQ=0となる。図14の乗算波形b,cが、この波形である。
【0113】
LPF1305,1306は、この信号から高周波成分、すなわち(式15)、(式16)の右辺から第1項を取り除く。従って、LPF1305,1306を通過したIFI、IFQのそれぞれの信号をIFI’、IFQ’とすると、nTb≦t≦nTb+Tpの期間は、
IFI’=(1/2)cos(Δωt+φ) ・・・(式17)
IFQ’=(1/2)sin(Δωt+φ) ・・・(式18)
となり、nTb+Tp<t<(n+1)の期間は、IFI’=IFQ’=0となる。ここでLPFによる信号の遅延は無視した。図14のLPF信号d,eが、この波形である。よって、二乗和回路1307の出力をBとすると、nTb≦t≦nTb+Tpの期間は、
B=IFI’2+IFQ’2=(1/4){cos2(Δωt+φ)+sin2(Δωt+φ)}=1/4 ・・・(式19)
となり、nTb+Tp<t<(n+1)の期間は、B=0となり、搬送波周波数fcの誤差Δfcおよび位相ずれφに関係なく、UWB−IR信号が受信された時に振幅1/4のパルスが出力される。
【0114】
また、BPMのように搬送波の位相に対して変調がかかっている場合においても、
Φ=tan-1(IFI’/IFQ’) ・・・(式19)
を計算することによって容易に知ることができる。(式19)の計算において(IFI’/IFQ’)の値は1〜2ビットの分解能があれば十分であり、簡単なコンパレータによるAD変換回路1311によって簡単に知ることができる。AD変換回路1311は、BPMのためのAD変換回路1311であり、LPF1305,1306の出力値をAD変換し、判別回路1309にてUWB−IR信号Sの絶対値の二乗を表す二乗和回路1307の出力とともに、AD変換回路1311の出力によって移送情報を抽出し復調する。なお、OOKやPPMの場合は、AD変換回路1311の省略は可能である。
【0115】
以上述べたように、二乗和回路1307を使用すると、正確な位相、周波数の同期なしで同期検波を行うことができる。これによって、受信装置13の構造を著しく簡略化することができる。
【0116】
(第13実施形態)
次に、第13実施形態に係る電子回路を備えた電子装置である受信装置の構成について、図15を参照して説明する。図15は、第13実施形態に係る受信装置の構成を示す回路図である。
【0117】
上記第12実施形態では、直交する2つのテンプレート信号を用いる場合について説明した。上記第12実施形態を、2以上の複数の直交するテンプレート信号を用いる場合に拡張することができる。
【0118】
UWB−IR通信に限らず、一般に信号をn次元(nは整数、または無限大)空間上の1点を表す位置ベクトルとみて、その解析や処理を行うことが可能である。本第13実施形態の説明は、この手法を用いて行う。当業者においてこのような手法は自明であるが、確認のためにこの手法によって従来の技術を見たときにどのようになるか以下に概説する。
【0119】
いくつかの数字を並べ括弧で括ったものをベクトルといい、方向と大きさを持った量を表すことができる。信号波形の例えば1シンボル区間において、所定の間隔でサンプリングすると、n個のサンプリング値s1,s2,・・・snが得られる。このサンプリング値を順に並べ括弧でくくったもの(s1,s2,・・・sn)は、ベクトルである。n個の数字が並んでいるのでn次元ベクトルであり、n次元空間内の座標を表すことができる。今これをsと表記すると、s=(s1,s2,・・・sn)となる。ベクトルsは、信号を表すことも、また位置ベクトルとして位置も表すことができるので、単に「信号s」、「点s」と記すこともある。
【0120】
n次元空間では、n個の線形独立なベクトルのセットを選ぶことができ、この空間内の任意のベクトルは、それらの線形結合として表すことができる。特に、絶対値1で互いに直交するn個のベクトルのセットは正規直交基底と呼ばれる。これをe1、e2、・・・enとすると、任意のベクトルxは、
=(x、e1)e1+(x、e2)e2+・・・+(x、en)en ・・・(式20)
のように表すことができる。ここで(x、y)はベクトルxとyの内積を表す。この式は、n次元空間上に座標軸としてe1、e2、・・・enを取った時、点Xを表す位置座標が((x、e1)、(x、e2)、・・・(x、en))となることを示している。e1、e2、・・・enとして周期Tの整数i分の1の三角関数のセットを用いたものが、離散的フーリエ級数展開である。ここで、iは1≦i≦nの整数である。
【0121】
今、(式20)右辺の任意のm個の項を省略し、k=n−m項だけで近似する場合を考えると、
x’=(x、e1)e1+(x、e2)e2+・・・+(x、ek)ek ・・・(式21)
となる。
【0122】
をx’で近似する時、ei(ただしiは1≦i≦kの整数)の係数を上記のように(x、ei)にした時に、誤差x−x’の絶対値の二乗(エネルギーの誤差)が最小となることが知られている。
【0123】
ベクトルxの大きさは、その絶対値の二乗値を計算するのが便利である。それ自身との内積(x,x)を計算することによって、簡単に知ることができる。また、(式20)から容易に、
(x,x)= Σ(x、ei2 ・・・(式22)
となることも分かる(Σは、i=1〜nの総和)。
【0124】
従来の相関検波では、受信信号rとテンプレートp0,p1との相関、すなわち、内積を計算することにより、rとp0,p1の「類似度合」を知り復調していた。ここでp0,p1は、それぞれ送信される情報がビット0、ビット1であることを表すテンプレートである。テンプレートとrが一致する時、その値が最も大きくなるので、両者を比較し送信された情報をより高い精度で知ることができる。ただし、従来の同期検波では、rとp0,p1のタイミングを完全に一致させる必要があった。また、n次元空間内のベクトルrは、p0とp1の張る2次元部分空間内(またはそのごく近傍)にあることが必要である。一般に送信側でテンプレート数kを多くすると、シンボルあたりで伝送できる情報量を多くすることができるが、受信装置のみでkを増やしても良い。この場合、rの存在が許容される範囲はn次元空間内におけるk次元部分空間に拡張されるためより同期精度やテンプレート信号の選び方などの自由度が増す。
【0125】
の位相情報は、以下のようにして求めることができる。すなわち、{(x、ei)|iは1≦i≦kの整数}は、k次元部分空間上の位置座標を表わし、規格化によって{ei}に対するrの方向余弦が求まる。多くの場合、信号シンボルのベクトルは、なるべくシンボル間の距離が大きくなるように配置され、n次元空間内で原点を中心に対称となるように配置される。上記第12実施形態のk=2の場合は、(式19)で得られたが、これはUWB−IR信号SのPI,PQに対する方向余弦の比を求めているにすぎない。BPMの場合は、信号シンボルが原点を中心に対称の位置の2点に取られるので、IFI’,IFQ’は1ビットAD変換にてその符号(相関値が正か負か)が分かれば復調が可能であった。すなわち、受信された信号がk次元部分空間内のどの象限に存在するかが分かれば、復調できる。SN比が悪い場合やテンプレートの精度や搬送波周波数、位相のずれが大きいときには、k=2では精度良いAD変換が必要であったが、kを多くすると選択自由度が増して1ビットAD変換でも(すなわちその符号が正か負かが分かるだけで)正確に判定できるようになる。
【0126】
以上の説明ではrや{pi}は、n個のサンプリングによって得られるn次元ベクトル、すなわち離散的(時間)関数として説明した。しかし、上記説明は、よく知られている線形代数の技法によって一般の信号のような連続関数でも適用できることに注意したい。その場合は、サンプリング数nを無限大とした極限(無限大次元)を考える。内積は、離散量の場合は積和が用いられるが、連続量の場合はその極限として積分が用いられる。
【0127】
図15に示すように、受信装置15は、アンテナ1501と、LNA1502と、k個の相関回路1508,1509,・・・1510と、二乗和回路1506(図5〜10)と、AD変換回路1507と、判別回路1511と、から構成されている。
【0128】
アンテナ1501で受信された受信信号は、LNA1502によって増幅され、k個の相関回路1508,1509,・・・1510に送られる。LNA1502の出力信号ベクトルを、rとする。
【0129】
k個の相関回路1508,1509,・・・1510の構成は同じなので、相関回路1508についてその構成を詳述する。相関回路1508は、テンプレート発生回路1505と乗算回路1503と積分回路(またはLPF)1504とによって構成される。テンプレート発生回路1505は、テンプレートp1を発生し、乗算回路1503にて受信信号rと乗算され、積分回路1504にて積分することで相関値ρ1を得る。相関値ρ1は、スカラー量である。同様に、相関回路1509は、受信信号rとテンプレートp2の相関値ρ2を出力し、・・・、相関回路1510は、受信信号rとテンプレートpkの相関値ρkを出力する。これらの相関値ρ1,ρ2,・・・ρkは、二乗和回路1506及びAD変換回路1507に入力される。
【0130】
二乗和回路1506では、(式22)に基づきrの絶対値が出力される。この場合、二乗和回路1506は、図1〜4の電子回路1〜4をk個ワイヤードオア接続したk入力の二乗和回路である。(k=2の場合は図5〜図10に例示した。k>2の場合も電流出力部を必要数並列接続すればよい。)判別回路1511では、二乗和回路1506及びAD変換回路1507の出力値から送信された情報を推定し復調する。
【0131】
判別回路1511では、受信装置15全体の制御も受け持ち、受信信号で得られるタイミングから次に信号受信の期待できるタイミングを推定し、テンプレートを起動したり、受信信号がない時には装置の電源をオフにして消費電力の節約を図ったりする。また、通信のリンクの始まりにおいて捕捉を行う。さらに、送受信で搬送波周波数がずれている時は、テンプレートとのずれが受信毎にずれていくが、この位相ずれの補正も行う。すなわち、AD変換回路1507によって前回受信したrの(k次元空間内の)位置から次に受信されるべき信号位置を推定できるので、それらを基に補正していく。
【0132】
本第13実施形態では、受信装置15の構成においてそのテンプレート数を多くすることができるので、正確な搬送波周波数、位相の同期なしで、また低分解能の簡単なAD変換回路1507も用いても、復調の際の精度をより高めることができる。以上述べたように、二乗和回路1506によって受信機の構造を著しく簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】第1実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図。
【図2】第2実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図。
【図3】第3実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図。
【図4】第4実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図。
【図5】第5実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図。
【図6】第6実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図。
【図7】第7実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図。
【図8】第8実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図。
【図9】第9実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図。
【図10】第10実施形態に係る電子回路の構成を示す回路図。
【図11】第11実施形態に係る受信装置の構成を示す回路図。
【図12】第11実施形態に係る受信装置の動作を示すタイミング図。
【図13】第12実施形態に係る受信装置の構成を示す回路図。
【図14】第12実施形態に係る受信装置の動作を示すタイミング図。
【図15】第13実施形態に係る受信装置の構成を示す回路図。
【符号の説明】
【0134】
1〜10…電子回路、101…入力端子、102…バラン、103,104…NMOSトランジスタ、105,106…コンデンサ、107,108…抵抗、109…バイアス電源、110…抵抗、111…電源電圧線、112…出力端子、113…出力線、120…電流出力部、121…電流加算部、122…ゲート接地増幅部、201…NMOSトランジスタ、202…バイアス電源、301…入力端子、302…バラン、303,304…NMOSトランジスタ、305,306…コンデンサ、307,308…抵抗、309…バイアス電源、310…抵抗、311…電源電圧線、312…出力端子、313…出力線、320…電流出力部、321…電流加算部、322…ゲート接地増幅部、401…NMOSトランジスタ、402…バイアス電源、510…抵抗、511…電源電圧線、513,514…出力線、515…出力端子、521…電流加算部、522,523…電流出力部、524,525…入力端子、610…抵抗、611…電源電圧線、613,614…出力線、615…出力端子、621…電流加算部、622,623…電流出力部、624,625…入力端子、701…NMOSトランジスタ、702…バイアス電源、710…抵抗、713,714…出力線、715…出力端子、722,723…電流出力部、726…ゲート接地増幅部、801…NMOSトランジスタ、802…バイアス電源、807…二乗和回路、810…抵抗、813,814…出力線、815…出力端子、822,823…電流出力部、826…ゲート接地増幅部、901,903…NMOSトランジスタ、902…バイアス電源、910…抵抗、913…出力線、922,923…電流出力部、924,925…入力端子、926,927…ゲート接地増幅部、933…出力線、1001,1003…NMOSトランジスタ、1002,1004…バイアス電源、1010…抵抗、1013…出力線、1022,1023…電流出力部、1026,1027…ゲート接地増幅部、1033…出力線、1101…アンテナ、1102…LNA、1103…二乗回路、1104…LPF、1105…判別回路、1107…信号、1301…アンテナ、1302…LNA、1303,1304…ミキサ、1305,1306…LPF、1307…二乗和回路、1308…テンプレート発生回路、1309…判別回路、1310…出力端子、1311…AD変換回路、1501…アンテナ、1502…LNA、1503…乗算回路、1504…積分回路、1505…テンプレート発生回路、1506…二乗和回路、1507…AD変換回路、1508,1509…相関回路、1511…判別回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート端子に平衡信号の一方が接続され、ソース端子が接地された第1の電界効果型トランジスタと、
ゲート端子に前記平衡信号の他の一方が接続され、ソース端子が接地された第2の電界効果型トランジスタと、
前記第1の電界効果型トランジスタのドレイン端子と前記第2の電界効果型トランジスタのドレイン端子とを相互に接続しドレイン電流を出力する出力端子と、
を含んで構成されるn個(nは1以上の整数)の電流出力部と、
前記n個の電流出力部のn個の前記出力端子と接続され、前記n個の電流出力部から出力される前記ドレイン電流の総和に比例する信号を出力する電流加算部と、
を含む、
ことを特徴とする電子回路。
【請求項2】
請求項1に記載の電子回路において、前記電子回路は、前記n個の電流出力部の前記出力端子と前記電流加算部との間に接続され、ゲート端子が第1のバイアス電圧を介して接地されたm個(mは1以上n以下の整数)の第3の電界効果型トランジスタを含むことを特徴とする電子回路。
【請求項3】
ソース端子に平衡信号の一方が接続され、ゲート端子が第2のバイアス電圧を介して接地された第1の電界効果型トランジスタと、
ソース端子に前記平衡信号の他の一方が接続され、ゲート端子が前記第2のバイアス電圧を介して接地された第2の電界効果型トランジスタと、
前記第1の電界効果型トランジスタのドレイン端子と前記第2の電界効果型トランジスタのドレイン端子とを相互に接続しドレイン電流を出力する出力端子と、
を含んで構成されるn個(nは1以上の整数)の電流出力部と、
前記n個の電流出力部のn個の前記出力端子と接続され、前記n個の電流出力部から出力される前記ドレイン電流の総和に比例する信号を出力する電流加算部と、
を含む、
ことを特徴とする電子回路。
【請求項4】
請求項3に記載の電子回路において、前記電子回路は、前記n個の電流出力部の前記出力端子と前記電流加算部との間に接続され、ゲート端子が第1のバイアス電圧を介して接地されたm個(mは1以上n以下の整数)の第3の電界効果型トランジスタを含むことを特徴とする電子回路。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の電子回路を備えて構成されることを特徴とする電子装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電子装置において、前記電子装置は、供給されたUWB信号が担うパルスを検出する信号処理部を備えることを特徴とする電子装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の電子装置において、
前記電子装置は、
互いに直交する第1の信号及び第2の信号を発生するテンプレート信号発生部と、
前記第1の信号と受信信号とを乗算した第1の乗算信号を出力する第1の乗算器と、
前記第2の信号と前記受信信号とを乗算した第2の乗算信号を出力する第2の乗算器と、
前記第1の乗算信号から高周波成分を取り除いた第1の低域通過濾波信号を出力する第1の低域通過濾波器と、
前記第2の乗算信号から高周波成分を取り除いた第2の低域通過濾波信号を出力する第2の低域通過濾波器と、
を含んで構成されることを特徴とする電子装置。
【請求項8】
互いに直交する第1の信号及び第2の信号を発生するテンプレート信号発生部と、
前記第1の信号と受信信号とを乗算した第1の乗算信号を出力する第1の乗算器と、
前記第2の信号と前記受信信号とを乗算した第2の乗算信号を出力する第2の乗算器と、
前記第1の乗算信号から高周波成分を取り除いた第1の低域通過濾波信号を出力する第1の低域通過濾波器と、
前記第2の乗算信号から高周波成分を取り除いた第2の低域通過濾波信号を出力する第2の低域通過濾波器と、
請求項1から4のいずれか一項に記載の電子回路と、
を含む電子装置のパルス検出方法であって、
前記第1の低域通過濾波信号と前記第2の低域通過濾波信号とを前記電子回路により二乗和出力しパルスを検出する、
ことを特徴とする電子装置のパルス検出方法。
【請求項9】
請求項8に記載の電子装置のパルス検出方法において、供給されたUWB信号が担うパルスを検出することを特徴とする電子装置のパルス検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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