説明

電子回路、電子装置、その駆動方法、電気光学装置および電子機器

【課題】各単位回路の構成を簡素化する。
【解決手段】駆動トランジスタTDRは、電圧供給線17と電気光学素子Eとの間に介在する。スイッチング素子SWは、設定期間PSTにて駆動トランジスタTDRをダイオード接続する。容量素子Cは、駆動トランジスタTDRのゲートに接続された第1電極E1と信号線15に接続された第2電極E2とを含む。設定期間PSTは第1期間P1と第2期間P2とを含む。第1期間P1では、信号線15のデータ信号D[j]が電圧V0に設定されることでゲートの電圧が上昇して駆動トランジスタTDRはオン状態となる。第2期間P2では、データ信号D[j]がデータ電圧V[i]に設定されることで、データ電圧V[i]に応じた電圧が容量素子Cに保持される。設定期間PSTの経過後の駆動期間PDRにおいては、電気光学素子Eが、容量素子Cに保持された電圧に応じた階調に制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオード(以下「OLED(Organic Light Emitting Diode)」という)素子、液晶素子、電気泳動素子、エレクトロクロミック(Electrochromic)素子、電子放出素子、抵抗素子など各種の被駆動素子を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の被駆動素子を駆動するための様々な技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、OLED素子を被駆動素子として含む複数の単位回路を面状に配列した構成が開示されている。各単位回路は、OLED素子に供給される電流をゲートの電圧に応じて制御する駆動トランジスタと、駆動トランジスタをダイオード接続するためのリセットトランジスタと、OLED素子への電流の供給の可否を切り替える発光制御トランジスタとを含む。特許文献1の構成によれば、各単位回路における駆動トランジスタの閾値電圧の誤差(バラツキ)を補償することが可能である。
【特許文献1】特開2003−122301号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ひとつの単位回路を構成するトランジスタの総数は少ないことが望ましい。トランジスタの総数が多いほど単位回路の構成が複雑化して製造コストが増大するからである。また、単位回路を画素として利用した電気光学装置においてはトランジスタの総数が多いほど開口率が低下するという問題もある。しかし、各単位回路のトランジスタの総数を削減するのは困難である。例えば、特許文献1の構成において、単位回路にデータを書込む期間にてOLED素子を消灯させるためには、発光制御トランジスタを省略することはできない。本発明のひとつの形態は、例えば各単位回路の構成を簡素化するために有効である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のひとつの形態に係る電子回路は、駆動電圧または駆動電流が供給される被駆動素子を駆動する電子回路であって、信号線と、前記信号線に接続された単位回路と、電圧供給線とを具備し、前記単位回路は、ゲート端子と第1端子と前記電圧供給線に接続された第2端子と前記第1端子および前記第2端子の間に形成されたチャネルとを備えた駆動トランジスタと、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子と前記第1端子および前記第2端子の何れか一方との電気的な接続を制御するスイッチング素子と、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子に接続された第1電極と前記信号線に接続された第2電極とを備える容量素子とを含み、前記第1端子と前記第2端子との導通状態は、前記ゲート端子に印加されるゲート電圧によって制御され、前記スイッチング素子がオフ状態である期間の少なくとも一部である第1期間(例えば図2における期間P1の前半期間)において、前記信号線に第1信号(例えば図2や図8の電圧V0)が供給されることによって前記ゲート電圧の電圧レベルは第1電圧レベルから第2電圧レベルに変化し、前記信号線に第2信号が供給される期間の少なくとも一部である第2期間(例えば図2における期間P2の前半期間)において、前記スイッチング素子はオン状態に設定され、前記第2期間の少なくとも一部において、前記ゲート電圧の電圧レベルは第3電圧レベルに設定される。例えば、前記ゲート電圧の電圧レベルが前記第2電圧レベルに設定された後に前記スイッチング素子がオン状態とされることにより、前記ゲート電圧は前記第3電圧レベルに変化する。
【0005】
なお、第1信号としては、例えば第2信号とは別個に生成された信号が使用される。また、第1信号の前に信号線に供給される第2信号(例えば直前にデータが書き込まれる他の単位回路に供給される第2信号)や第1信号の後に供給される第2信号に応じて第1信号が設定される構成も採用される。また、データの書込に先立って信号線を充放電するプリチャージ信号を第1信号として兼用してもよい。なお、駆動トランジスタのゲート端子を閾値電圧に応じた電圧に初期化することで駆動トランジスタの閾値電圧の誤差を補償する構成においては、当該初期化に先立って、駆動トランジスタを確実にオン状態とするような信号を第1信号として供給することが望ましい。
【0006】
本発明の好適な態様において、前記ゲート電圧が前記第2電圧レベルとされるときの前記第1端子と前記第2端子との間の導通状態は、前記ゲート電圧が前記第1電圧レベルとされるときの前記第1端子と前記第2端子との間の導通状態よりも高い(すなわちオン状態に近い)導通状態である。以上の態様によれば、ゲート電圧が第3電圧レベルに設定される前に第1端子と第2端子との間が高い導通状態に設定されるから、ノイズなどの外乱に起因して駆動トランジスタのゲート電圧が変動する影響を抑制して安定的な動作が実現される。
【0007】
さらに具体的な態様において、前記第2期間における前記第2電極の電圧レベルと前記第3電圧レベルとの差異は、所定の期間内に前記被駆動素子に供給される駆動電流の積分量に対応する。なお、所定の期間は任意に設定されるが、例えば、(1)1垂直走査期間、(2)単位回路にデータ線が供給されてから次のデータ信号が当該単位回路に供給されるまでの期間、(3)ひとつの階調の表現が完結する1フレーム期間などである。
【0008】
本発明の好適な態様において、被駆動素子は、第2期間における第2電極の電圧レベルと前記第3電圧レベルとの差異に応じた状態に駆動される。例えば、所定の期間内に被駆動素子に供給される駆動電流の積分量は、第2期間における第2電極の電圧レベルと前記第3電圧レベルとの差異に応じて設定される。換言すると、駆動電流または駆動電圧が前記被駆動素子に供給される時間長は、第2期間における第2電極の電圧レベルと前記第3電圧レベルとの差異に応じて設定される。
【0009】
以上の各形態に係る電子回路を具備する電子装置としても本発明は特定される。本発明のひとつの態様に係る電子装置は、信号線と、前記信号線に接続された複数の単位回路と、電圧供給線とを具備し、前記複数の単位回路のうちのひとつの単位回路は、ゲート端子と第1端子と前記電圧供給線に接続された第2端子と前記第1端子および前記第2端子の間に形成されたチャネルとを備えた駆動トランジスタと、被駆動素子と、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子と前記第1端子および前記第2端子の何れか一方との電気的な接続を制御するスイッチング素子と、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子に接続された第1電極と前記信号線に接続された第2電極とを備える容量素子とを含み、前記第1端子と前記第2端子との導通状態は、前記ゲート端子に印加されるゲート電圧によって制御され、前記スイッチング素子がオフ状態である期間の少なくとも一部である第1期間において、前記信号線に第1信号が供給されることによって前記ゲート電圧の電圧レベルは第1電圧レベルから第2電圧レベルに変化し、前記信号線に第2信号が供給される期間の少なくとも一部である第2期間において、前記スイッチング素子はオン状態に設定され、前記第2期間の少なくとも一部において、前記ゲート電圧の電圧レベルは第3電圧レベルに設定される。以上の構成によっても、本発明の具体的な態様に係る電子回路と同様の作用および効果が奏される。なお、第1信号は、例えば、複数の単位回路のうちの前記ひとつの単位回路とは異なる他の単位回路に供給されるデータ信号であってもよい。
【0010】
以上の態様に係る電子装置においては、前記電圧供給線の電位を複数の電位に設定するための電圧制御回路(例えば図1の電圧制御回路27)や、前記電圧供給線と所定の電位との電気的な接続を制御するための電圧制御回路(例えば図7のスイッチSW0)がさらに設けられる。
【0011】
以上の各態様に係る電子装置は各種の電子機器に利用される。電子機器の典型例は、電子装置を表示装置として利用した機器である。この種の電子機器としては、パーソナルコンピュータや携帯電話機などがある。もっとも、本発明に係る電子装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光線の照射によって感光体ドラムなどの像担持体に潜像を形成するための露光装置(露光ヘッド)としても本発明の電子装置を適用することができる。
【0012】
本発明のひとつの形態に係る電子装置は、信号線と、前記信号線に接続された単位回路と、電圧供給線とを具備し、前記単位回路は、ゲート端子と第1端子と前記電圧供給線に接続された第2端子とを備え、前記第1端子と前記第2端子との間の導通状態が前記ゲート端子の電圧に応じて設定される駆動トランジスタと、被駆動素子と、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子と前記第1端子および前記第2端子の何れか一方との電気的な接続を制御するスイッチング素子と、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子に接続された第1電極と前記信号線に接続された第2電極とを備える容量素子とを含み、前記信号線に対するデータ電圧の供給に応じて前記ゲート端子の電圧を設定することで、前記第1端子と前記第2端子との間の導通状態に対応したレベルの駆動電流および駆動電圧の少なくとも一方を前記被駆動素子に供給し、前記スイッチング素子は、少なくとも第1期間と第2期間とにおいてオン状態となり、前記第1期間において、前記信号線には所定の電圧(例えば図2や図8の電圧V0)が供給され、当該供給に伴なう前記ゲート端子の電圧の変動によって前記駆動トランジスタはオン状態となり、前記第2期間において、前記信号線には前記データ電圧が供給される。
【0013】
以上の各態様に係る電子装置においては、信号線と第2電極との間に両者の電気的な接続を制御する(信号線の電圧を第2電極に供給するか否かを切り替える)ためのスイッチング素子を配置してもよいが、単位回路の簡素化を促進するという観点からすると、第2電極は信号線に対して直接に(すなわちスイッチング素子を介在させることなく)接続されていることが望ましい。
【0014】
本発明の好適な態様においては、前記第1期間と前記第2期間とを含む設定期間の経過後の駆動期間にて、前記スイッチング素子がオフ状態となることで前記第1電極がフローティング状態に設定されるとともに、経時的に変化する制御電圧が前記第2電極に供給される。第1電極の電圧(すなわち駆動トランジスタのゲート端子の電圧)は、容量素子における容量カップリングによって、データ電圧と制御電圧との差分値に応じて変動する。したがって、本態様によれば、データ電圧に応じた時間長にわたって被駆動素子を駆動することができる。
なお、以上の態様の駆動回路において、データ電圧を単位回路に供給する回路と制御電圧を単位回路に供給する回路とは、相互に離間した別個の回路として電子装置に実装されてもよいし、双方が単一の回路(例えばICチップ)に搭載された形態で電子装置に実装されてもよい。また、制御電圧を単位回路に供給するための配線として信号線が兼用される構成としてもよいし、信号線とは別個の配線を介して制御電圧が単位回路に供給される構成としてもよい。
【0015】
さらに具体的な態様においては、前記設定期間の少なくとも一部にて前記電圧供給線の電圧が前記第1端子よりも低位の第1電圧値に設定され、前記駆動期間の少なくとも一部にて前記電圧供給線の電圧が前記第1端子よりも高位の第2電圧値に設定される。以上の態様においては、設定期間の少なくとも一部において電圧供給線の電圧が第1端子よりも低位の第1電圧値に設定されるから、電圧供給線の電圧が第2電圧値に設定される構成と比較して、設定期間にて被駆動素子に付与される電気エネルギ(被駆動素子に供給される駆動電流または駆動電圧)が低減される。したがって、被駆動素子に対する電気エネルギの付与の可否を制御するためのスイッチング素子(例えば特許文献1における「発光制御トランジスタ」)が配置されていなくても、原理的には設定期間内における被駆動素子への電気エネルギの供給を抑制(理想的には停止)することができる。ただし、発光制御トランジスタが原理的に不要であるとは言っても、この発光制御トランジスタが配置された構成を本発明の範囲から除外する趣旨ではない。すなわち、本発明の構成にあっても、被駆動素子が駆動される期間をより確実に規定することを目的として、特許文献1の発光制御トランジスタのように、被駆動素子に対する電気エネルギの付与の可否を制御するためのスイッチング素子が配置されてもよい。
【0016】
ところで、単位回路を構成するトランジスタ(特に駆動トランジスタ)としては、例えば、各種の半導体材料(例えば、多結晶シリコン、微結晶シリコン、単結晶シリコンまたはアモルファスシリコン)からなる半導体層を含むトランジスタ(典型的には薄膜トランジスタ)を採用することができる。半導体層が例えばアモルファスシリコンで形成されたトランジスタは、これに流れる電流の方向が恒常的に固定されていると閾値電圧が経時的に変動していくことが知られている。本形態によれば、設定期間においては電流(例えば図5の電流I0)が第1端子から第2端子を経由して電圧供給線に流れ込む一方、駆動期間においては電流が第2端子から第1端子を経由して被駆動素子に供給される。すなわち、駆動トランジスタに流れる電流の方向が設定期間と駆動期間とで逆転するから、本形態によれば駆動トランジスタの半導体層がアモルファスシリコンからなる構成であっても、その閾値電圧の変動を抑制することができる。換言すると、駆動トランジスタの半導体層がアモルファスシリコンからなる構成に対して本形態は特に好適に採用されるということができる。
【0017】
さらに他の態様において、前記スイッチング素子は、スイッチングトランジスタであり、前記単位回路に含まれるトランジスタは、前記駆動トランジスタおよび前記スイッチングトランジスタのみである。本態様によれば、単位回路に含まれるトランジスタが、駆動トランジスタとスイッチングトランジスタという2個のトランジスタに削減されるという利点がある。
【0018】
以上の構成においては、駆動トランジスタのゲート端子と第1端子および第2端子の一方とがスイッチング素子を介して電気的に接続されることで駆動トランジスタや被駆動素子の閾値電圧の誤差が補償される一方、駆動トランジスタのゲートの電圧が、当該ゲートに容量素子を介して容量的に結合した信号線の電圧に応じた電圧値に設定される。したがって、極めて簡素な構成によって、駆動トランジスタや被駆動素子の閾値電圧の誤差を補償しながら被駆動素子を駆動することができる。さらに、第1期間において信号線に所定の電圧が供給されるから、第1期間の開始前における駆動トランジスタのゲートの電圧に拘わらず、駆動トランジスタは第1期間にてオン状態となる。したがって、ノイズなどの外乱に起因して駆動トランジスタのゲートの電圧が変動する影響を抑制して安定的な動作が実現される。
【0019】
本発明における被駆動素子は、電気的に駆動される総ての要素を含む。被駆動素子の典型例は、電気エネルギの付与によって輝度や透過率といった光学的な性状(階調)が変化する電気光学素子である。本発明のひとつの形態に係る電気光学装置は、信号線と、前記信号線に接続された単位回路と、電圧供給線とを具備し、前記単位回路は、ゲート端子と第1端子と前記電圧供給線に接続された第2端子と前記第1端子および前記第2端子の間に形成されたチャネルとを備えた駆動トランジスタと、電気光学素子と、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子と前記第1端子および前記第2端子の何れか一方との電気的な接続を制御するスイッチング素子と、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子に接続された第1電極と前記信号線に接続された第2電極とを備える容量素子とを含み、前記第1端子と前記第2端子との導通状態は、前記ゲート端子に印加されるゲート電圧によって制御され、前記スイッチング素子がオフ状態である期間の少なくとも一部である第1期間において、前記信号線に第1信号が供給されることによって前記ゲート電圧の電圧レベルは第1電圧レベルから第2電圧レベルに変化し、前記信号線に第2信号が供給される期間の少なくとも一部である第2期間において、前記スイッチング素子はオン状態に設定され、前記第2期間の少なくとも一部において、前記ゲート電圧の電圧レベルは第3電圧レベルに設定される。以上の電気光学装置によっても、本発明に係る電子装置と同様の作用および効果が奏される。また、電子回路や電子装置について以上に列挙した各態様は、電気光学装置に対しても同様に適用される。
【0020】
また、本発明のひとつの形態は、以上に説明した各形態に係る電子装置を駆動する方法である。ひとつの形態に係る駆動方法は、信号線に接続された単位回路が、ゲート端子と第1端子と電圧供給線に接続された第2端子と前記第1端子および前記第2端子の間に形成されたチャネルとを備えた駆動トランジスタと、被駆動素子と、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子と前記第1端子および前記第2端子の何れか一方との電気的な接続を制御するスイッチング素子と、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子に接続された第1電極と前記信号線に接続された第2電極とを備える容量素子とを具備し、前記第1端子と前記第2端子との導通状態が、前記ゲート端子に印加されるゲート電圧によって制御される電子装置の駆動方法であって、前記スイッチング素子がオフ状態である期間の少なくとも一部である第1期間において、前記信号線に第1信号を供給されることによって前記ゲート電圧の電圧レベルを第1電圧レベルから第2電圧レベルに変化させ、前記信号線に第2信号を供給する期間の少なくとも一部である第2期間において、前記スイッチング素子をオン状態に設定し、前記第2期間の少なくとも一部において、前記ゲート電圧の電圧レベルを第3電圧レベルに設定する。以上の方法によっても、本発明に係る電子装置と同様の作用および効果が奏される。また、電子装置について以上に列挙した各態様は、この駆動方法に対しても同様に適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る電子装置の構成を示すブロック図である。同図に例示される電子装置100は、画像を表示するための装置として様々な電子機器に採用される電気光学装置であり、複数の単位回路Uが面状に配列された素子アレイ部10と、各単位回路Uを駆動するための走査線駆動回路23および信号線駆動回路25と、各単位回路Uに電圧Aを供給する電圧制御回路27とを含む。なお、走査線駆動回路23と信号線駆動回路25と電圧制御回路27とは、各々が別個の回路として電子装置100に実装されてもよいし、これらの回路の一部または全部が単一の回路として電子装置100に実装されてもよい。
【0022】
図1に示すように、素子アレイ部10には、X方向に延在するm本の走査線13と、X方向に直交するY方向に延在するn本の信号線15とが形成される(mおよびnの各々は自然数)。各単位回路Uは、走査線13と信号線15との交差に対応した位置に配置される。したがって、これらの単位回路Uは縦m行×横n列のマトリクス状に配列する。
【0023】
素子アレイ部10には、各走査線13と対をなしてX方向に延在するm本の電圧供給線17が形成される。各電圧供給線17は電圧制御回路27の出力端に対して共通に接続される。したがって、電圧制御回路27から出力される電圧Aは、各電圧供給線17を介して複数の単位回路Uに共通に供給される。
【0024】
図2は、電子装置100の動作を説明するためのタイミングチャートである。同図に示すように、各フレームFは設定期間PSTと駆動期間PDRとを含む。ひとつの設定期間PSTは、単位回路Uの総行数(走査線13の総本数)に相当するm個の単位期間PUを含む。さらに、ひとつの単位期間PUは第1期間P1と第2期間P2とを含む。
【0025】
図2に示すように、電圧制御回路27は、各電圧供給線17に供給される電圧Aを、設定期間PSTにて電圧値Vssに設定し、駆動期間PDRにて電圧値Vddに設定する。電圧値Vssは、各部で使用される電圧の基準となる電位(接地電位)である。電圧値Vddは、電圧値Vssよりも高位の電圧(例えば高位側の電源電位)である。
【0026】
図1の走査線駆動回路23は、設定期間PST内にm本の走査線13の各々を順次に選択する(単位回路Uを行単位で選択する)ための回路である。さらに詳述すると、走査線駆動回路23は、図2に示すように、設定期間PST内の各単位期間PUにて順番にハイレベルとなる走査信号S[1]〜S[m]を生成して各走査線13に出力する。第i行目(iは1≦i≦mを満たす整数)の走査線13に供給される走査信号S[i]は、設定期間PSTのうち第i番目の単位期間PUの始点から所定の時間が経過した時点と当該単位期間PUの終点から所定の時間だけ手前の時点との間においてハイレベルとなり、それ以外の期間(駆動期間PDRを含む)にてローレベルを維持する。走査信号S[i]のハイレベルへの遷移が第i行の選択を意味する。
【0027】
信号線駆動回路25は、各信号線15にデータ信号D[1]〜D[n]を出力する。図2に示すように、第j列目(jは1≦j≦nを満たす整数)の信号線15に供給されるデータ信号D[j]は、設定期間PST内の各単位期間PUにおける第1期間P1にて所定の電圧V0(詳細は後述する)に設定される。さらにデータ信号D[j]は、設定期間PSTのうち第i番目の単位期間PU(すなわち第i行が選択される単位期間PU)内の第2期間P2において、第i行に属する第j列目の単位回路Uに指定された階調に対応するデータ電圧V[i]となる。各単位回路Uの階調は、外部から指定される画像信号によって指定される。
【0028】
一方、駆動期間PDRにおける総てのデータ信号D[1]〜D[n]は、電圧値が経時的に変化する制御電圧VCTに設定される。本形態における制御電圧VCTは、駆動期間PDRの中点tc(駆動期間PDRを2等分する時点)を基準として線対称となる三角波である。すなわち、制御電圧VCTは、図2に示すように、駆動期間PDRの始点から中点tcにかけて電圧値VLからこれよりも高位の電圧値VHまで時間の経過とともに直線的に上昇していき、中点tcから終点にかけて電圧値VHから時間の経過とともに直線的に低下して電圧値VLに到達する。
【0029】
次に、図3を参照して、各単位回路Uの具体的な構成を説明する。なお、同図においては、第i行に属する第j列目のひとつの単位回路Uが代表的に図示されている。
【0030】
図3に示すように、単位回路Uは、電気光学素子Eと駆動トランジスタTDRとスイッチング素子SWと容量素子Cとを含む。電気光学素子Eは、自身に供給される電流(以下「駆動電流」という)I1に応じた強度で発光する電流駆動型の発光素子である。本形態における電気光学素子Eは、相対向する陽極と陰極との間に有機EL(Electroluminescence)材料の発光層を介在させたOLED素子である。各単位回路Uにおける電気光学素子Eの陰極は接地(電圧値Vss)される。
【0031】
図3の駆動トランジスタTDRは、駆動電流I1の電流値を制御するためのnチャネル型のトランジスタである。より具体的には、駆動トランジスタTDRは、ゲートとソースとドレインとソース−ドレイン間のチャネルとを含む能動素子であり、ソースとドレインとの電気的な導通状態がゲートの電圧Vgに応じて変化することで、電圧Vgに応じた電流値の駆動電流I1を生成する。したがって、電気光学素子Eは、駆動トランジスタTDRのゲートの電圧Vgに応じた輝度で発光する。
【0032】
なお、本形態において駆動トランジスタTDRのソースおよびドレインの各々の電圧値の高低は順次に逆転するため、厳密な意味では駆動トランジスタTDRのドレインとソースとは随時に入れ替わる。しかし、以下では説明の便宜のために、電気光学素子Eに駆動トランジスタTDRを介して駆動電流I1が供給されるときの駆動トランジスタTDRの各端子の電圧の高低を基準として、駆動トランジスタTDRのうち電気光学素子E側の端子を「ソース(S)」と表記するとともにその反対側の端子を「ドレイン(D)」と表記する。
【0033】
駆動トランジスタTDRは電気光学素子Eと電圧供給線17との間に介在する。すなわち、駆動トランジスタTDRのドレインは電圧供給線17に接続され、ソースは電気光学素子Eの陽極に接続される。駆動トランジスタTDRのソースは電気光学素子Eに対して直接的に接続される。つまり、駆動トランジスタTDRのソースから電気光学素子Eの陽極に至る駆動電流I1の経路上には如何なるスイッチング素子も介在しない。
【0034】
スイッチング素子SWは、駆動トランジスタTDRのゲートとソースとの間に介在して両者の電気的な接続を制御するnチャネル型のトランジスタである。このスイッチング素子SWのゲートは走査線13に接続される。したがって、走査信号S[i]がハイレベルに遷移するとスイッチング素子SWがオン状態に変化して駆動トランジスタTDRがダイオード接続され、走査信号S[i]がローレベルに遷移するとスイッチング素子SWがオフ状態となって駆動トランジスタTDRのダイオード接続は解除される。
【0035】
容量素子Cは、相互に対向する第1電極E1および第2電極E2と、両電極の間隙に介在する誘電体とを含む。第1電極E1は駆動トランジスタTDRのゲートに接続される。第2電極E2は信号線15に対して直接的に接続される(すなわち第2電極E2と信号線15との間にスイッチング素子は介在しない)。容量素子Cは、第1電極E1と第2電極E2との電位差(すなわち信号線15と駆動トランジスタTDRのゲートとの電位差)に応じた電荷を保持するための手段である。
【0036】
次に、図4および図5を参照しながら電子装置100の具体的な動作を説明する。以下では、第i行に属する第j列目の単位回路Uの動作を、設定期間PSTのひとつの単位期間PU(第1期間P1および第2期間P2)と駆動期間PDRとに区分して説明する。
【0037】
(a)設定期間PST(図4)
図2に示すように、単位期間PUの始点から走査信号S[i]がハイレベルに変化するまでの期間においては、スイッチング素子SWがオフ状態を維持することで容量素子Cの第1電極E1はフローティング状態となる。したがって、第1期間P1の始点にてデータ信号D[j]が電圧V0に上昇すると、容量素子Cを介して信号線15に容量的に結合する駆動トランジスタTDRのゲートの電圧Vgは、データ信号D[j]の電圧の変動に応じて上昇する。以上のようにゲートの電圧Vgが上昇することで駆動トランジスタTDRはオン状態となる。すなわち、データ信号D[j]の電圧V0は、第1期間P1の始点におけるゲートの電圧Vgに拘わらず第1期間P1内にて駆動トランジスタTDRがオン状態となるように充分に高い電圧値に設定される。なお、設定期間PSTにおいて電圧供給線17の電圧Aは電圧値Vssに維持されるから、駆動トランジスタTDRがオン状態に遷移しても電気光学素子Eに駆動電流I1は供給されない。
【0038】
次いで、走査信号S[i]がハイレベルに遷移すると、スイッチング素子SWがオン状態となって駆動トランジスタTDRがダイオード接続される。第1期間P1の始点にてデータ信号D[j]が電圧V0に上昇することで駆動トランジスタTDRのゲートは電圧供給線17の電圧A(電圧値Vss)よりも高位となるから、図4に示すように、駆動トランジスタTDRのゲートからスイッチング素子SWおよび駆動トランジスタTDRのソースおよびドレインを以上の順番に経由した電流I0が電圧供給線17に流れ込む。以上のように駆動トランジスタTDRに電流I0が流れると、駆動トランジスタTDRのゲートの電圧Vgは、電圧値Vssと駆動トランジスタTDRの閾値電圧Vth_TRとの加算値(Vss+Vth_TR)に収束する。
【0039】
一方、第2期間P2の始点においては、駆動トランジスタTDRのダイオード接続が維持された状態でデータ信号D[j]が電圧V0からデータ電圧V[i]に変更される。以上のような電圧の関係が維持されたまま第2期間P2の途中の時点で走査信号S[i]がローレベルに遷移すると、スイッチング素子SWがオフ状態となって容量素子Cの第1電極E1はフローティング状態となる。したがって、図4に示すように、走査信号S[i]がローレベルに遷移した時点における第1電極E1の電圧(Vss+Vth_TR)と第2電極E2の電圧(V[i])との差分値が容量素子Cに保持される。すなわち、データ電圧V[i]が容量素子Cに書き込まれる。
【0040】
設定期間PSTにおいては、以上のようにデータ電圧V[i]と閾値電圧Vth_TRとに応じた電荷を容量素子Cに蓄積するための動作が第1行目から第n行目の各単位回路Uについて単位期間PUごとに順番に実行される。なお、Y方向に配列する各単位回路Uの第2電極E2は共通の信号線15に接続されるから、設定期間PSTにて容量素子Cにデータ電圧V[i]の書込が完了した単位回路Uであっても、第2電極E2の電圧は他の単位回路Uに対する書込に伴なって随時に変動する。しかし、データ電圧V[i]の書込が完了した単位回路Uにおいては、スイッチング素子SWがオフ状態に設定されることで第1電極E1がフローティング状態を維持するから、第1電極E1の電圧は第2電極E2の電圧の変動分だけ随時に変動する。したがって、容量素子Cの電圧は、第2電極E2の電圧の変動に拘わらず、設定期間PSTにて設定された電圧に維持される。
【0041】
ところで、様々な外乱(例えばノイズ)によって駆動トランジスタTDRのゲートの電圧Vgが電圧値Vss以下に低下する場合がある。いま、第2期間P2に先立ってデータ信号D[j]を電圧V0まで上昇させないとすれば、設定期間PSTの開始前に電圧Vgが偶発的に電圧Vss以下に低下した場合に、駆動トランジスタTDRをダイオード接続しても電流I0が発生しない。したがって、電圧Vgは閾値電圧Vth_TRに応じた電圧値に収束せず、電気光学素子Eが所期の状態に駆動されないという問題がある。本形態においては、ゲートの電圧Vgが電圧Vss以下に低下している場合であっても、第2期間P2に先立ってデータ信号D[j]を電圧V0に上昇させることで第2期間P2においては駆動トランジスタTDRを確実にオン状態に遷移させることが可能である。したがって、ノイズなどの外乱の影響を低減して安定的な動作が実現されるという利点がある。
【0042】
(b)駆動期間PDR(図5)
駆動期間PDRにおいて走査信号S[1]〜S[m]はローレベルを維持するから、総ての単位回路Uのスイッチング素子SWはオフ状態となって駆動トランジスタTDRのダイオード接続は解除される。したがって、総ての単位回路Uにおける容量素子Cの第1電極E1はフローティング状態を維持する。一方、駆動期間PDRにおいて、電圧制御回路27は、電圧供給線17の電圧Aを電圧値Vddに維持する。
【0043】
以上の状況において、各単位回路Uの容量素子Cの第2電極E2には、経時的に変化する制御電圧VCTが各信号線15を介して供給される。第1電極E1はフローティング状態となっているから、駆動トランジスタTDRのゲートの電圧Vg(すなわち第1電極E1の電圧)は、第2電極E2の電圧の変動に応じた電圧値ΔVだけ変化する。第1電極E1の電圧の変化と駆動電流I1との関係について詳述すると以下の通りである。
【0044】
まず、駆動期間PDRにて第2電極E2に印加される制御電圧VCTが、直前の設定期間PSTにて印加されていたデータ電圧V[i]よりも高位になると、駆動トランジスタTDRのゲートの電圧Vgは、設定期間PSTにて設定された電圧値(Vss+Vth_TR)から、制御電圧VCTとデータ電圧V[i]との差分に相当する電圧値ΔVだけ上昇する。これによって駆動トランジスタTDRはオン状態(導通状態)となるから、図5に示すように、駆動電流I1が電圧供給線17から駆動トランジスタTDRを経由して電気光学素子Eに供給される。そして、この駆動電流I1の供給によって電気光学素子Eは発光する。
【0045】
一方、駆動期間PDRにて第2電極E2に印加される制御電圧VCTが、直前の設定期間PSTにて印加されていたデータ電圧V[i]よりも低位になると、駆動トランジスタTDRのゲートの電圧Vgは、設定期間PSTにて設定された電圧値(Vss+Vth_TR)から、データ電圧V[i]と制御電圧VCTとの差分に相当する電圧値ΔVだけ下降する。このとき駆動トランジスタTDRはオフ状態(非導通状態)となるから、電圧供給線17から電気光学素子Eに至る経路が遮断されて電気光学素子Eは消灯する。
【0046】
このように、駆動期間PDRにおける各単位回路Uの駆動トランジスタTDRは、制御電圧VCTがデータ電圧V[i]よりも高位となる期間にてオン状態となり、制御電圧VCTがデータ電圧V[i]よりも低位となる期間にてオフ状態となる。すなわち、各単位回路Uの電気光学素子Eは、駆動期間PDRのうちデータ電圧V[i]に応じた時間長の期間にて発光するとともに、駆動期間PDRの残余の期間にて消灯する。したがって、各電気光学素子Eは、データ電圧V[i]に応じた階調に制御される(パルス幅変調による階調制御)。
【0047】
以上に説明したように、本形態においては、設定期間PSTにおいて駆動トランジスタTDRのゲートの電圧Vgが閾値電圧Vth_TRに応じた電圧値に設定される。換言すると、駆動トランジスタTDRは、閾値電圧Vth_TRの高低に拘わらず、導通状態と非導通状態との境界の状態に強制的に移行させられる。したがって、駆動期間PDRのうち駆動トランジスタTDRがオン状態となって電気光学素子Eに駆動電流I1が供給される時間長はデータ電圧V[i]に応じて決定され、駆動トランジスタTDRの閾値電圧Vth_TRには依存しない。すなわち、本形態によれば、駆動トランジスタTDRの閾値電圧Vth_TRの誤差(設計値との相違)を補償して電気光学素子Eを高い精度で所期の階調に制御することができる。
【0048】
また、本形態においては、ひとつの単位回路Uに含まれるトランジスタの総数は「2」である。したがって、駆動トランジスタTDRの閾値電圧のバラツキを補償するためにひとつの単位回路あたり少なくとも3個のトランジスタが不可欠である特許文献1の構成と比較して、電子装置100の構成の簡素化や製造コストの低減が実現され、さらには各単位回路Uの開口率(単位回路Uが分布する領域のうち電気光学素子Eからの放射光が出射する領域の割合)を増加させることができる。
【0049】
ところで、単位回路Uを構成する各トランジスタ(特に駆動トランジスタTDR)としては、例えば多結晶シリコン・微結晶シリコン・単結晶シリコンまたはアモルファスシリコンを半導体層の材料に採用した薄膜トランジスタや、バルクシリコンから形成されたトランジスタを採用することができる。これらのトランジスタのうち特に半導体層がアモルファスシリコンで形成されたトランジスタは、これに流れる電流の方向が恒常的に固定されていると閾値電圧Vth_TRが経時的に変動していくことが知られている。
【0050】
本形態の構成のもとでは、駆動期間PDRにおいては駆動電流I1が駆動トランジスタTDRのドレインからソースに向かって流れるのに対し、設定期間PSTにおいては図4のように電流I0がソースからドレインに向かって流れる。すなわち、駆動トランジスタTDRに流れる電流の方向が設定期間PSTと駆動期間PDRとで逆転する。したがって、本形態によれば、半導体層がアモルファスシリコンからなる薄膜トランジスタを駆動トランジスタTDRに採用した構成のもとで、閾値電圧Vth_TRの経時的な変動を抑制することができる。
【0051】
<B:第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下の各形態において作用や機能が第1実施形態と共通する要素については、以上と同じ符号を付して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0052】
第1実施形態においては、ひとつのフレームFの総ての設定期間PSTにてデータ信号D[j]を電圧V0に上昇させる構成を例示したが、駆動トランジスタTDRを導通させるためにデータ信号D[j]を電圧V0に設定する動作(以下「電圧設定処理」という)の周期は適宜に変更される。本形態においては、図6に示すように、電圧設定処理の対象となる行がフレームF(F1,F2,F3,……)ごとに変更される。すなわち、フレームF1においては第1行の各単位回路Uについてのみ電圧設定処理が実行され、フレームF2においては第2行の各単位回路Uについてのみ電圧設定処理が実行され、フレームF3においては第3行の各単位回路Uについてのみ電圧設定処理が実行されるといった具合である。
【0053】
さらに詳述すると、図6に示すように、フレームF1のうち走査信号S[1]がハイレベルとなる単位期間PUにおいては、第1期間P1にてデータ信号D[j]が電圧V0に設定されるとともに第2期間P2にてデータ信号D[j]がデータ電圧V[1]に設定される。一方、フレームF1における他の単位期間PUにおいては、始点から終点までの全区間にわたってデータ信号D[j]がデータ電圧V[i](V[2],V[3],……)に維持される。また、フレームF2においては、走査信号S[2]がハイレベルとなる単位期間PUの第1期間P1に限ってデータ信号D[j]が電圧V0に設定され、他の単位期間PUにおいてはデータ信号D[j]はデータ電圧V[i]を維持する。
【0054】
以上に説明したように、本形態においては電圧設定処理の回数が第1実施形態と比較して削減されるから、信号線駆動回路25にて消費される電力が低減されるという利点がある。また、データ信号D[j]の電圧を変動させる回数が削減されるから、データ信号D[j]の電圧の変動に起因したノイズの発生が抑制されるという利点もある。
【0055】
なお、電圧設定処理の周期は以上の例示に限定されない。例えば、奇数番目のフレームでは奇数行目の各単位回路Uについて電圧設定処理を実行し、偶数番目のフレームでは偶数行目の各単位回路Uについて電圧設定処理を実行するといった構成も採用される。また、電圧設定処理が実行されないフレームを設定してもよい。例えば、ひとつまたは複数のフレームにおいて各単位回路Uについて電圧設定処理を実行すると、後続の所定数のフレームにおいては電圧設定処理を実行しないといった構成としてもよい。
【0056】
<C:第3実施形態>
図7は、本発明の第3実施形態における単位回路Uの構成を示す回路図である。同図に示すように、本形態においては、pチャネル型のトランジスタが駆動トランジスタTDRとして利用される。駆動トランジスタTDRのソースは電圧供給線17に接続され、ソースは電気光学素子Eの陽極に接続される。また、電圧供給線17はスイッチSW0を介して電圧制御回路27に接続される。電圧制御回路27は電圧Vddを各行のスイッチSW0に出力する。
【0057】
図8は、第i行が選択される単位期間PUにおける走査信号S[i]とデータ信号D[j]と電圧Aとの波形を示すタイミングチャートである。同図に示すように、単位期間PU内の第1期間P1においては、容量素子Cの第1電極E1がフローティング状態に維持されたまま(すなわち走査信号S[i]がローレベルにある段階で)、信号線15のデータ信号D[j]が電圧V0に低下する。信号線15に容量的に結合されたゲートの電圧Vgはデータ信号D[j]の変動に伴なって低下するから、駆動トランジスタTDRはオン状態となる。すなわち、電圧V0は、第1期間P1の始点におけるゲートの電圧Vgに拘わらず第1期間P1内にて駆動トランジスタTDRがオン状態となるように充分に低い電圧値に設定される。データ信号D[j]が第2期間P2内にてデータ電圧V[i]に設定される点は第1実施形態と同様である。
【0058】
一方、図8に示すように、第i番目の単位期間PUのうちデータ信号D[j]が電圧V0に低下してから走査信号S[i]がローレベルに遷移するまでの期間内においては、第i行目のスイッチSW0がオン状態に設定される。したがって、第i行の各単位回路Uに供給される電圧Aは電圧値Vddに設定される。駆動トランジスタTDRはデータ信号D[j]の電圧の低下によってオン状態となっているから、電圧供給線17から駆動トランジスタTDRを経由して電気光学素子Eに電流が流れる。また、電圧Aが電圧値Vddに設定されている期間内には、走査信号S[i]がハイレベルに遷移することで駆動トランジスタTDRがダイオード接続される。そして、スイッチSW0がオフ状態に遷移して電圧値Vddの電圧Aの供給が停止すると、駆動トランジスタTDRのドレインの電圧(さらにはゲートの電圧Vg)は、経時的に低下して電気光学素子Eの閾値電圧Vth_ELに収束する。したがって、走査信号S[i]がローレベルに遷移して第1電極E1がフローティング状態になると、駆動トランジスタTDRのゲート(第1電極E1)の電圧Vg(Vth_EL)と第2電極E2の電圧V[i]との差分値が容量素子Cに保持されるとともに、電気光学素子Eの陽極の電圧が電圧Vth_ELに設定される。
【0059】
駆動期間PDRにおいては全行のスイッチSW0がオン状態に設定される。したがって、各単位回路Uに供給される電圧Aは電圧値Vddに設定される。また、データ信号D[j]が制御電圧VCTに設定されることで、第1実施形態と同様に、駆動トランジスタTDRの導通状態は直前の単位期間PUにおけるデータ電圧V[i]に応じて変化する。以上のような駆動トランジスタTDRの動作に応じて電気光学素子Eの陽極の電圧が変化するから、電気光学素子Eはデータ電圧V[i]に応じた階調に制御される。駆動期間PDRの始点において電気光学素子Eの陽極の電圧は自身の閾値電圧Vth_ELに設定される。すなわち、駆動期間PDRにおいて電気光学素子Eの陽極の電圧は閾値電圧Vth_ELを起点として変動するから、本形態においては各電気光学素子Eの閾値電圧Vth_ELのバラツキを補償することが可能である。
【0060】
以上に説明したように、本形態においては、第2期間P2に先立ってデータ信号D[j]を電圧V0に低下させることで、第1期間P1の始点におけるゲートの電圧Vgの高低に拘わらず駆動トランジスタTDRが確実にオン状態に変化するから、データ電圧V[i]に応じた所期の電圧を容量素子Cに確実に保持させることが可能となる。したがって、第1実施形態と同様に、ノイズなどの外乱の影響を低減して安定的な動作が実現されるという利点がある。
【0061】
<D:変形例>
以上の各形態には様々な変形を加えることができる。具体的な変形の態様を例示すれば以下の通りである。なお、以下の各態様を適宜に組み合わせてもよい。
【0062】
(1)変形例1
駆動期間PDRにおけるデータ信号D[1]〜D[n]の波形(制御電圧VCTの波形)は適宜に変更される。例えば、以上の各形態においては三角波を例示したが、制御電圧VCTの波形の対称性は必須ではない。例えば、ランプ波や鋸歯波(鋸波)やマルチランプ波(階段波)など様々な波形が制御電圧VCTとして採用される。また、電圧値が直線的に変化する波形だけでなく正弦波など曲線的に変化する波形を制御電圧VCTとして採用してもよい。
【0063】
また、各実施形態においては駆動期間PDRにおける制御電圧VCTが三角波の1周期分の波形となる構成を例示したが、三角波や以上に例示したランプ波や鋸歯波など様々な単位波形の複数を駆動期間PDR内にて連続させた波形(すなわち電圧の上昇と下降とを複数回にわたって繰り返す波形)を制御電圧VCTに適用してもよい。すなわち、本発明の好適な態様においては、駆動期間PDR内にて時間の経過とともに電圧が変動する様々な波形が制御電圧VCTとして採用され得る。
【0064】
(2)変形例2
OLED素子は電気光学素子の例示に過ぎない。本発明に適用される電気光学素子について、自身が発光する自発光型と外光の透過率を変化させる非発光型(例えば液晶素子)との区別や、電流の供給によって駆動される電流駆動型と電圧(駆動電圧)の印加によって駆動される電圧駆動型との区別は不問である。例えば、無機EL素子、フィールド・エミッション(FE)素子、表面導電型エミッション(SE:Surface-conduction Electron-emitter)素子、弾道電子放出(BS:Ballistic electron Surface emitting)素子、LED(Light Emitting Diode)素子、液晶素子、電気泳動素子、エレクトロクロミック素子など様々な電気光学素子を本発明に利用することができる。また、本発明は、バイオチップなどのセンシング装置にも適用される。本発明の被駆動素子とは、電気エネルギの付与によって駆動される総ての要素を含む概念であり、発光素子などの電気光学素子は被駆動素子の例示である。
【0065】
<E:応用例>
次に、電子装置100を利用した電子機器について説明する。
図9は、以上に説明した何れかの形態に係る電子装置100を表示装置として採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、表示装置としての電子装置100と本体部2010とを備える。本体部2010には、電源スイッチ2001およびキーボード2002が設けられている。この電子装置100は電気光学素子EにOLED素子を利用しているので、視野角が広く見易い画面を表示できる。
【0066】
図10に、実施形態に係る電子装置100を適用した携帯電話機の構成を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002、ならびに表示装置としての電子装置100を備える。スクロールボタン3002を操作することによって、電子装置100に表示される画面がスクロールされる。
【0067】
図11に、実施形態に係る電子装置100を適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)の構成を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002、ならびに表示装置としての電子装置100を備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった各種の情報が電子装置100に表示される。
【0068】
なお、本発明に係る電子装置(電気光学装置)が適用される電子機器としては、図9から図11に示したもののほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンタ、スキャナ、複写機、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。また、本発明に係る電子装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光書込み型のプリンタや電子複写機といった画像形成装置においては、用紙などの記録材に形成されるべき画像に応じて感光体を露光する書込みヘッドが使用されるが、この種の書込みヘッドとしても本発明の電子装置は利用される。本発明にいう単位回路とは、表示装置の画素を構成する回路(いわゆる画素回路)のほか、画像形成装置における露光の単位となる回路をも含む概念である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】第1実施形態に係る電子装置の構成を示すブロック図である。
【図2】電子装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図3】ひとつの単位回路の構成を示す回路図である。
【図4】設定期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図5】駆動期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図6】第2実施形態に係る電子装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図7】第3実施形態に係る単位回路の構成を示す回路図である。
【図8】電子装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図9】電子機器のひとつの形態(パーソナルコンピュータ)を示す斜視図である。
【図10】電子機器のひとつの形態(携帯電話機)を示す斜視図である。
【図11】電子機器のひとつの形態(携帯情報端末)を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
100……電子装置、U……単位回路、TDR……駆動スイッチング素子、SW……スイッチング素子、C……容量素子、E1……第1電極、E2……第2電極、E……電気光学素子、13……走査線、15……信号線、17……電圧供給線、23……走査線駆動回路、25……信号線駆動回路、27……電圧制御回路、A……電圧供給線の電圧、S[i]……走査信号、D[j]……データ信号、V[i]……データ電圧、VCT……制御電圧、PST……設定期間、PDR……駆動期間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動電圧または駆動電流が供給される被駆動素子を駆動する電子回路であって、
信号線と、
前記信号線に接続された単位回路と、
電圧供給線とを具備し、
前記単位回路は、
ゲート端子と第1端子と前記電圧供給線に接続された第2端子と前記第1端子および前記第2端子の間に形成されたチャネルとを備えた駆動トランジスタと、
前記駆動トランジスタの前記ゲート端子と前記第1端子および前記第2端子の何れか一方との電気的な接続を制御するスイッチング素子と、
前記駆動トランジスタの前記ゲート端子に接続された第1電極と前記信号線に接続された第2電極とを備える容量素子とを含み、
前記第1端子と前記第2端子との導通状態は、前記ゲート端子に印加されるゲート電圧によって制御され、
前記スイッチング素子がオフ状態である期間の少なくとも一部である第1期間において、前記信号線に第1信号が供給されることによって前記ゲート電圧の電圧レベルは第1電圧レベルから第2電圧レベルに変化し、
前記信号線に第2信号が供給される期間の少なくとも一部である第2期間において、前記スイッチング素子はオン状態に設定され、
前記第2期間の少なくとも一部において、前記ゲート電圧の電圧レベルは第3電圧レベルに設定される
ことを特徴とする電子回路。
【請求項2】
前記ゲート電圧の電圧レベルが前記第2電圧レベルに設定された後に前記スイッチング素子がオン状態とされることにより、前記ゲート電圧が前記第3電圧レベルに変化する
請求項1に記載の電子回路。
【請求項3】
前記ゲート電圧が前記第2電圧レベルとされるときの前記第1端子と前記第2端子との間の導通状態は、前記ゲート電圧が前記第1電圧レベルとされるときの前記第1端子と前記第2端子との間の導通状態よりも高い導通状態である
請求項1または請求項2に記載の電子回路。
【請求項4】
前記第2期間における前記第2電極の電圧レベルと前記第3電圧レベルとの差異は、所定の期間内に前記被駆動素子に供給される駆動電流の積分量に対応する
請求項1から請求項3の何れかに記載の電子回路。
【請求項5】
前記第2期間における前記第2電極の電圧レベルと前記第3電圧レベルとの差異は、駆動電流または駆動電圧が前記被駆動素子に供給される時間長に対応する
請求項1から請求項3の何れかに記載の電子回路。
【請求項6】
信号線と、
前記信号線に接続された複数の単位回路と、
電圧供給線とを具備し、
前記複数の単位回路のうちのひとつの単位回路は、
ゲート端子と第1端子と前記電圧供給線に接続された第2端子と前記第1端子および前記第2端子の間に形成されたチャネルとを備えた駆動トランジスタと、
被駆動素子と、
前記駆動トランジスタの前記ゲート端子と前記第1端子および前記第2端子の何れか一方との電気的な接続を制御するスイッチング素子と、
前記駆動トランジスタの前記ゲート端子に接続された第1電極と前記信号線に接続された第2電極とを備える容量素子とを含み、
前記第1端子と前記第2端子との導通状態は、前記ゲート端子に印加されるゲート電圧によって制御され、
前記スイッチング素子がオフ状態である期間の少なくとも一部である第1期間において、前記信号線に第1信号が供給されることによって前記ゲート電圧の電圧レベルは第1電圧レベルから第2電圧レベルに変化し、
前記信号線に第2信号が供給される期間の少なくとも一部である第2期間において、前記スイッチング素子はオン状態に設定され、
前記第2期間の少なくとも一部において、前記ゲート電圧の電圧レベルは第3電圧レベルに設定される
ことを特徴とする電子装置。
【請求項7】
前記電圧供給線の電位を複数の電位に設定するための電圧制御回路をさらに具備する
請求項6に記載の電子装置。
【請求項8】
前記電圧供給線と所定の電位との電気的な接続を制御するための電圧制御回路をさらに具備する
請求項6に記載の電子装置。
【請求項9】
前記第2電極は前記信号線に対して直接に接続される
請求項6から請求項8の何れかに記載の電子装置。
【請求項10】
前記第1期間と前記第2期間とを含む設定期間の経過後の駆動期間においては、前記スイッチング素子がオフ状態となることで前記第1電極はフローティング状態に設定されるとともに、経時的に変化する制御信号が前記第2電極に供給される
請求項6から請求項9の何れかに記載の電子装置。
【請求項11】
前記設定期間の少なくとも一部にて前記電圧供給線の電圧を前記第1端子よりも低位の第1電圧値に設定し、前記駆動期間の少なくとも一部にて前記電圧供給線の電圧を前記第1端子よりも高位の第2電圧値に設定する
ことを特徴とする請求項10に記載の電子装置。
【請求項12】
前記スイッチング素子は、スイッチングトランジスタであり、
前記単位回路に含まれるトランジスタは、前記駆動トランジスタおよび前記スイッチングトランジスタのみである
請求項6から請求項11の何れかに記載の電子装置。
【請求項13】
請求項6から請求項12の何れかに記載の電子装置を具備する電子機器。
【請求項14】
信号線と、
前記信号線に接続された単位回路と、
電圧供給線とを具備し、
前記単位回路は、
ゲート端子と第1端子と前記電圧供給線に接続された第2端子と前記第1端子および前記第2端子の間に形成されたチャネルとを備えた駆動トランジスタと、
電気光学素子と、
前記駆動トランジスタの前記ゲート端子と前記第1端子および前記第2端子の何れか一方との電気的な接続を制御するスイッチング素子と、
前記駆動トランジスタの前記ゲート端子に接続された第1電極と前記信号線に接続された第2電極とを備える容量素子とを含み、
前記第1端子と前記第2端子との導通状態は、前記ゲート端子に印加されるゲート電圧によって制御され、
前記スイッチング素子がオフ状態である期間の少なくとも一部である第1期間において、前記信号線に第1信号が供給されることによって前記ゲート電圧の電圧レベルは第1電圧レベルから第2電圧レベルに変化し、
前記信号線に第2信号が供給される期間の少なくとも一部である第2期間において、前記スイッチング素子はオン状態に設定され、
前記第2期間の少なくとも一部において、前記ゲート電圧の電圧レベルは第3電圧レベルに設定される
ことを特徴とする電気光学装置。
【請求項15】
信号線に接続された単位回路が、ゲート端子と第1端子と電圧供給線に接続された第2端子と前記第1端子および前記第2端子の間に形成されたチャネルとを備えた駆動トランジスタと、被駆動素子と、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子と前記第1端子および前記第2端子の何れか一方との電気的な接続を制御するスイッチング素子と、前記駆動トランジスタの前記ゲート端子に接続された第1電極と前記信号線に接続された第2電極とを備える容量素子とを具備し、前記第1端子と前記第2端子との導通状態が、前記ゲート端子に印加されるゲート電圧によって制御される電子装置の駆動方法であって、
前記スイッチング素子がオフ状態である期間の少なくとも一部である第1期間において、前記信号線に第1信号を供給されることによって前記ゲート電圧の電圧レベルを第1電圧レベルから第2電圧レベルに変化させ、
前記信号線に第2信号を供給する期間の少なくとも一部である第2期間において、前記スイッチング素子をオン状態に設定し、前記第2期間の少なくとも一部において、前記ゲート電圧の電圧レベルを第3電圧レベルに設定する
ことを特徴とする電子装置の駆動方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−122748(P2008−122748A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307550(P2006−307550)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】