説明

電子回路の駆動方法

【課題】駆動トランジスタのゲートの電位を所期値に設定するための時間を短縮する。
【解決手段】データ書込期間P1においては駆動トランジスタTdrのゲートと容量素子Caの電極Ea1とにデータ線14から電位Vdataが供給され、これによって電位Vdataに応じた電圧が容量素子Caに保持される。補償期間P2においては駆動トランジスタTdrのゲートがそのドレインと容量素子Cbの電極Eb1とに接続され、これによって駆動トランジスタTdrの閾値電圧Vthに応じた電圧が容量素子Cbに保持される。駆動期間P3においては容量素子Caの電極Ea2と容量素子Cbの電極Eb1とがトランジスタTr1によって電気的に接続される。これによって駆動トランジスタTdrのゲートは電位Vdataと閾値電圧Vthとに応じた電位に設定され、電気光学素子Eはこの設定後の電位に応じた階調に駆動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオード(以下「OLED(Organic Light Emitting Diode)」という)素子、液晶素子、電気泳動素子、エレクトロクロミック(Electrochromic)素子、電子放出素子、抵抗素子またはセンサ素子など各種の被駆動素子の挙動を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の被駆動素子を駆動する電圧または電流の生成のためにトランジスタ(以下「駆動トランジスタ」という)を利用した電子装置が従来から提案されている。例えば、被駆動素子としてOLED素子を採用した発光装置においては、各OLED素子に供給される電流の電流値が、そのOLED素子に対応して配置された駆動トランジスタによって制御される。しかしながら、この構成においては、駆動トランジスタの特性(特に閾値電圧)の誤差に起因して各被駆動素子の駆動状態(例えば階調や輝度)にバラツキが発生するという問題がある。この問題を解決するために、特許文献1には、駆動トランジスタの閾値電圧の誤差を補償する構成が開示されている。
【0003】
図14は、特許文献1に開示された構成を示す回路図である。この構成においては、第1に、トランジスタTrAを介して駆動トランジスタTdrをダイオード接続し、これによって駆動トランジスタTdrのゲートをその閾値電圧Vthに応じた電位(Vdd−Vth)に設定する。第2に、トランジスタTrBを介してデータ線Lと容量素子Cの電極aとを電気的に接続することで、電極aの電位(駆動トランジスタTdrのゲートの電位)をデータ線Lの電位Vdataに応じて変化させる。以上の動作によって、駆動トランジスタTdrのゲートの電位は電極aの電位の変化量に応じたレベルだけ変動し、この変動後の電位に応じた電流Iel(閾値電圧Vthに依存しない電流)の供給によって被駆動素子Eが駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−99773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
各被駆動素子の高精細化や大画面化の実現のためには、駆動トランジスタTdrのゲートを閾値電圧Vthに応じた電位(Vdd−Vth)に設定する動作やこれを電位Vdataに応じて変動させるための時間をより短縮する駆動方法や駆動回路が望まれる。本発明のひとつの形態は、例えば、駆動トランジスタのゲートの電位を所期値に設定する時間をより短縮するために有効である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のひとつの形態に係る電子回路(例えば図2の単位回路U)は、制御端子(ゲート)と第1端子(ソースおよびドレインの一方)と第2端子(ソースおよびドレインの他方)とを備えるとともに制御端子の電位に応じて第1端子と第2端子との導通状態が変化する駆動トランジスタ(例えば図2の駆動トランジスタTdr)と、駆動トランジスタの導通状態に応じた電圧レベルを有する駆動電圧および駆動トランジスタの導通状態に応じた電流レベルを有する駆動電流(例えば図2の駆動電流Iel)の少なくとも一方が供給される被駆動素子(例えば図2の電気光学素子E)と、第1電極(例えば図2の電極Ea1)と第2電極(例えば図2の電極Ea2)とを備えるとともに第1電極が制御端子に電気的に接続された第1容量素子(例えば図2の容量素子Ca)と、第3電極(例えば図2の電極Eb1)と第4電極(例えば図2の電極Eb2)とを備えるとともに駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を電圧を保持する第2容量素子(例えば図2の容量素子Cb)と、第2電極と第3電極との電気的な接続を制御する第1スイッチング素子(例えば図2のトランジスタTr1)とを具備する。
【0007】
以上の構成においては、例えば、データ線にデータ電位が供給される書込期間の少なくとも一部において制御端子と第1電極とにデータ電位が供給され、書込期間の経過後の駆動期間にて第2電極と第3電極とが第1スイッチング素子を介して電気的に接続される。この構成によれば、駆動トランジスタの制御端子がデータ線のデータ電位とその閾値電圧とに応じた電位に設定されるから、駆動トランジスタの閾値電圧の誤差を補償したうえで被駆動素子を駆動することができる。また、電子回路にデータ線からデータ電位を取り込む書込期間においてデータ電位に応じた電位が制御端子に供給されるから、書込期間において、駆動トランジスタの状態を駆動期間での動作点(導通状態)に近づけることができる。したがって、駆動トランジスタの制御端子をデータ電位と閾値電圧とに応じた電位に設定するための時間を短縮することが可能である。
【0008】
本発明の好適な態様においては、第2電極と所定の電位(例えば図2において電源電位Vddが供給される電源線17)との電気的な接続を制御する第3スイッチング素子(例えば図2のトランジスタTr3)が設置される。この態様によれば、第1容量素子の第1電極にデータ電位が供給される書込期間において第2電極が所定の電位に維持されるから、データ電位に応じた電圧を第1容量素子に正確に保持させることができる。
【0009】
より具体的な態様においては、制御端子と第1端子との電気的な接続を制御する第4スイッチング素子(例えば図2のトランジスタTr4)と、制御端子と第3電極との電気的な接続を制御する第5スイッチング素子(例えば図2のトランジスタTr5)とが設置される。この構成のもとでは、例えば、書込期間の経過後の補償期間の少なくとも一部において制御端子と第1端子とが第4スイッチング素子を介して接続されるとともに、制御端子と第3電極とが第5スイッチング素子を介して接続される。これによって駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷(電圧)を確実に第2容量素子に保持させることができる。
【0010】
本発明のひとつの態様に係る電子装置は、以上に説明した何れかの態様に係る単位回路を具備する。すなわち、この電子装置は、複数のデータ線(例えば図1のデータ線14)と、以上の各態様に係る複数の単位回路とを具備する。この態様に係る電子装置の典型例は、電気エネルギの付与によって輝度や透過率といった光学的な性状が変化する電気光学素子を被駆動素子として採用した電気光学装置(例えば発光素子を電気光学素子として採用した発光装置)である。
【0011】
本発明に係る電子装置は各種の電子機器に利用される。この電子機器の典型例は、本発明の電子装置を表示装置として利用した機器である。この種の電子機器としては、パーソナルコンピュータや携帯電話機などがある。もっとも、本発明に係る電子装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光線の照射によって感光体ドラムなどの像担持体に潜像を形成するための露光装置(露光ヘッド)、液晶装置の背面側に配置されてこれを照明する装置(バックライト)、あるいは、スキャナなどの画像読取装置に搭載されて原稿を照明する装置など各種の照明装置など、様々な用途に本発明の電子装置を適用することができる。
【0012】
本発明の別の形態は、以上に説明した各形態に係る電子回路を駆動する方法である。この駆動方法は、制御端子(ゲート)と第1端子(ソースおよびドレインの一方)と第2端子(ソースおよびドレインの他方)とを備えるとともに制御端子の電位に応じて第1端子と第2端子との導通状態が変化する駆動トランジスタ(例えば図2の駆動トランジスタTdr)を含み、被駆動素子(例えば図2の電気光学素子E)を駆動するための電子回路を駆動する方法であり、書込期間において、制御端子にデータ電位(例えば図4の電位「Vdd−Vdata」)を供給することによって制御端子の電位を第1の電位(例えば電位「Vdd−Vdata」)に設定し、駆動期間において、制御端子の電位を第1の電位から駆動トランジスタの閾値電圧に応じて変化させることによって第2の電位(例えば図6の電位「Vdd−Vdata−Vth」)に設定し、第2の電位に応じた電圧レベルを有する駆動電圧および第2の電位に応じた電流レベルを有する駆動電流の少なくとも一方を被駆動素子に供給する。この方法によれば、制御端子に対するデータ電位の供給によって書込期間にて駆動トランジスタの状態を駆動期間での動作点(導通状態)に近づけることができる。したがって、駆動トランジスタの制御端子をデータ電位と閾値電圧とに応じた電位に設定するための時間を短縮することが可能である。
【0013】
本発明の駆動方法の好適な態様において、電子回路は、第1電極(例えば図2の電極Ea1)と第2電極(例えば図2の電極Ea2)とを備えるとともに第1電極が制御端子に電気的に接続された第1容量素子(例えば図2の容量素子Ca)を含み、書込期間において、制御端子と第1電極とにデータ電位を供給することでデータ電位に応じた電荷を第1容量素子に保持させる。この態様によれば、データ電位に応じた電荷を第1容量素子に保持させる動作と並行して制御端子にデータ電位が供給されるから、各々が別個の期間にて実行される構成と比較して、制御端子の電位を所期値に設定するための時間をいっそう短縮することができる。
【0014】
さらに好適な態様において、電子回路は、第3電極(例えば図2の電極Eb1)と第4電極(例えば図2の電極Eb2)とを備える第2容量素子(例えば図2の容量素子Cb)を含み、書込期間の経過後の補償期間において、駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を第2容量素子に保持させ、補償期間の経過後の駆動期間において、第2電極と第3電極とを電気的に接続することによって、制御端子の電位をデータ電位および閾値電圧に応じた第2の電位に設定する。この態様によれば、制御端子がデータ電位および閾値電圧に応じた第2の電位に設定されるから、閾値電圧の誤差を補償することが可能である。
【0015】
より具体的な態様では、補償期間の少なくとも一部において、制御端子を第1端子と第3電極とに電気的に接続することによって、閾値電圧に応じた電荷を第2容量素子に保持させる。この態様によれば、閾値電圧に応じた電荷を簡易な構成によって確実に第2容量素子に保持させることができる。
【0016】
第1の態様においては、書込期間の少なくとも一部において、第2電極が、所定の電位が供給される給電線(例えば図2の電源線17)に電気的に接続される。この態様によれば、第1容量素子の第1電極にデータ電位が供給される書込期間において第2電極が所定の電位に維持されるから、データ電位に応じた電圧を第1容量素子に正確に保持させることができる。この態様の具体例は第1実施形態として後述される。
また、第2の態様においては、書込期間の開始前の初期化期間において、第2電極に所定の電位(例えば図9の電位Vref)が供給され、書込期間の少なくとも一部において、第2電極がフローティング状態とされる(図10参照)。この態様によれば、書込期間が開始される時点において第2電極の電位が所定値(電位Vref)に設定されるから、データ電位に応じた電圧を第1容量素子に正確に保持させることができる。なお、この態様の具体例は第2実施形態として後述される。
以上に例示した第1および第2の態様においては、書込期間の経過後であって駆動期間の開始前に、第2電極をフローティング状態とすることが望ましい(例えば図5参照)。この態様によれば、書込期間にて第1容量素子に保持された電圧がその経過後にも維持されるから、駆動期間において被駆動素子を所期の状態(例えば階調)に駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電子装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ひとつの単位回路の構成を示す回路図である。
【図3】電子装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図4】データ書込期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図5】補償期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図6】駆動期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るひとつの単位回路の構成を示す回路図である。
【図8】電子装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【図9】初期化期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図10】データ書込期間における単位回路の様子を示す回路図である。
【図11】本発明に係る電子機器の具体的な形態を示す斜視図である。
【図12】本発明に係る電子機器の具体的な形態を示す斜視図である。
【図13】本発明に係る電子機器の具体的な形態を示す斜視図である。
【図14】従来の電子装置の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る電子装置の構成を示すブロック図である。同図に例示された電子装置Dは、画像を表示する手段として各種の電子機器に搭載される電気光学装置(発光装置)であり、複数の単位回路(画素回路)Uが面状に配列された素子アレイ部10と、各単位回路Uを駆動するための走査線駆動回路22およびデータ線駆動回路24とを含む。なお、走査線駆動回路22およびデータ線駆動回路24は、素子アレイ部10とともに基板上に形成されたトランジスタによって構成されてもよいしICチップの形態で実装されてもよい。
【0019】
図1に示すように、素子アレイ部10には、X方向に延在するm本の走査線12と、X方向に直交するY方向に延在するn本のデータ線14とが形成される(mおよびnはともに自然数)。各単位回路Uは、走査線12とデータ線14との交差に対応する各位置に配置される。したがって、これらの単位回路Uは縦m行×横n列のマトリクス状に配列する。各単位回路Uには、走査線12と対をなしてX方向に延在する電源線17を介して高位側の電源電位Vddが供給される。
【0020】
走査線駆動回路22は、複数の走査線12の各々を順番に選択するための回路である。データ線駆動回路24は、走査線駆動回路22が選択する走査線12に接続された1行分(n個)の単位回路Uの各々に対応するデータ信号X[1]〜X[n]を生成して各データ線14に出力する。第i行(iは1≦i≦mを満たす整数)の走査線12が選択される期間(後述するデータ書込期間P1)にて第j列目(jは1≦j≦nを満たす整数)のデータ線14に供給されるデータ信号X[j]は、第i行に属する第j列目の単位回路Uに指定された階調に応じた電位(Vdd−Vdata)となる。各単位回路Uの階調は、外部から供給される階調データによって指定される。
【0021】
次に、図2を参照して、各単位回路Uの具体的な構成を説明する。同図においては、第i行の第j列目に位置するひとつの単位回路Uのみが図示されているが、その他の単位回路Uも同様の構成である。同図に示すように、単位回路Uは、電源線17と接地線(接地電位Gnd)との間に介在する電気光学素子Eを含む。電気光学素子Eは、これに供給される駆動電流Ielに応じた階調(輝度)となる電流駆動型の被駆動素子である。本実施形態における電気光学素子Eは、有機EL(ElectroLuminescent)材料からなる発光層を陽極と陰極との間に介在させたOLED素子(発光素子)である。電気光学素子Eの陰極は接地(Gnd)される。
【0022】
図2に示すように、図1において便宜的に1本の配線として図示された走査線12は、実際には4本の配線(第1制御線121・第2制御線122・第3制御線123および第4制御線124)を含む。各配線には走査線駆動回路22から所定の信号が供給される。さらに詳述すると、第i行目の走査線12を構成する第1制御線121には第1制御信号Ya[i]が供給される。同様に、第2制御線122には第2制御信号Yb[i]が供給され、第3制御線123には第3制御信号Yc[i]が供給され、第4制御線124には第4制御信号Yd[i]が供給される。なお、各信号の具体的な波形やこれに応じた単位回路Uの動作については後述する。
【0023】
図2に示すように、電源線17から電気光学素子Eの陽極に至る経路上にはpチャネル型の駆動トランジスタTdrが介挿される。駆動トランジスタTdrのソース(S)は電源線17に接続される。この駆動トランジスタTdrは、ソースとドレイン(D)との導通状態(ソース−ドレイン間の抵抗値)がゲートの電位(以下「ゲート電位」という)Vgに応じて変化することで当該ゲート電位Vgに応じた駆動電流Ielを生成する手段である。すなわち、電気光学素子Eは、駆動トランジスタTdrの導通状態に応じて駆動される。なお、本実施形態においては、駆動電流Ielが駆動トランジスタTdrから電気光学素子Eに流れている期間における電位の高低に基づいて、駆動トランジスタTdrのうち電気光学素子E側の第1端子および駆動トランジスタTdrの電源線17側の第2端子をそれぞれドレインおよびソースと便宜的に定義している。例えば駆動電流Ielが流れる方向とは逆方向の電流(逆バイアス電流)が駆動トランジスタTdrに流れる期間においては、駆動トランジスタTdrのソースとドレインとが逆転することになる。
【0024】
駆動トランジスタTdrのドレインと電気光学素子Eの陽極との間には両者の電気的な接続を制御するnチャネル型のトランジスタ(以下「発光制御トランジスタ」という)Telが介在する。この発光制御トランジスタTelのゲートは第4制御線124に接続される。したがって、第4制御信号Yd[i]がハイレベルに遷移すると発光制御トランジスタTelがオン状態に変化して電気光学素子Eに対する駆動電流Ielの供給が可能となる。これに対し、第4制御信号Yd[i]がローレベルである場合には発光制御トランジスタTelがオフ状態を維持するから、駆動電流Ielの経路が遮断されて電気光学素子Eは消灯する。
【0025】
図2に示すように、本実施形態の単位回路Uは、2個の容量素子(Ca・Cb)と、nチャネル型の5個のトランジスタ(Tr1・Tr2・Tr3・Tr4・Tr5)とを含む。容量素子Caは、電極Ea1と電極Ea2との間隙に誘電体が介挿された素子である。同様に、容量素子Cbは、電極Eb1と電極Eb2との間隙に誘電体が介挿された素子である。容量素子Caの電極Ea1は駆動トランジスタTdrのゲートに接続される。容量素子Cbの電極Eb2は電源線17に接続される。トランジスタTr1は、容量素子Caの電極Ea2と容量素子Cbの電極Eb1との間に介在して両者の電気的な接続(導通/非導通)を制御するスイッチング素子である。トランジスタTr1のゲートは第3制御線123に接続される。
【0026】
トランジスタTr2は、容量素子Caの電極Ea1(駆動トランジスタTdrのゲート)とデータ線14との間に介在して両者の電気的な接続を制御するスイッチング素子である。また、トランジスタTr3は、容量素子Caの電極Ea2と電源線17(駆動トランジスタTdrのソース)との間に介在して両者の電気的な接続を制御するスイッチング素子である。トランジスタTr2およびトランジスタTr3の各々のゲートは第1制御線121に接続される。
【0027】
トランジスタTr4は、駆動トランジスタTdrのゲートとドレインとの間に介在して両者の電気的な接続を制御するスイッチング素子である。このトランジスタTr4がオン状態に遷移すると駆動トランジスタTdrはダイオード接続される。トランジスタTr5は、駆動トランジスタTdrのゲートと容量素子Cbの電極Eb1との間に介在して両者の電気的な接続を制御するスイッチング素子である。トランジスタTr4およびトランジスタTr5の各々のゲートは第2制御線122に接続される。
【0028】
次に、図3を参照して、電子装置Dで利用される各信号の具体的な波形を説明する。同図に示すように、第1制御信号Ya[1]〜Ya[m]は各フレーム期間F内の所定の期間(以下「データ書込期間」という)P1ごとに順番にハイレベルとなる信号である。すなわち、第1制御信号Ya[i]は、ひとつのフレーム期間Fのうち第i番目のデータ書込期間P1にてハイレベルを維持するとともにそれ以外の期間にてローレベルを維持する。第1制御信号Ya[i]のハイレベルへの遷移は第i行の選択を意味する。
【0029】
図3に示すように、第2制御信号Yb[i]は、第1制御信号Ya[i]がハイレベルとなるデータ書込期間P1の経過後の所定の期間(以下「補償期間」という)P2にてハイレベルとなり、それ以外の期間にてローレベルを維持する。また、第3制御信号Yc[i]は、第2制御信号Yb[i]がハイレベルとなる補償期間P2の経過後から次に第1制御信号Ya[i]がハイレベルとなるデータ書込期間P1の開始前までの所定の期間(以下「駆動期間」という)P3にてハイレベルとなり、それ以外の期間にてローレベルを維持する。第4制御信号Yd[i]は、第3制御信号Yc[i]がハイレベルとなる駆動期間P3にてハイレベルとなり、書込期間P1や補償期間P2にてローレベルを維持する。なお、図3に示すように、第3制御信号Yc[i]と第4制御信号Yd[i]とを同じ波形とすることも可能であり、その場合には発光制御トランジスタTelのゲートが第3制御線123に接続されてもよい。
【0030】
データ書込期間P1は、外部から供給される階調データによって単位回路Uに指定される階調に応じた電圧Vdataを容量素子Caに保持させるための期間である。また、補償期間P2は、駆動トランジスタTdrの閾値電圧Vthを容量素子Cbに保持させるための期間である。そして、駆動期間P3においては、容量素子Caに保持された電圧Vdataと容量素子Cbに保持された閾値電圧Vthとに基づいて電気光学素子Eが駆動される。以下、図4ないし図6を参照しながら、第i行に属する第j列目の単位回路Uの動作の詳細をデータ書込期間P1と補償期間P2と駆動期間P3とに区分して説明する。
【0031】
(a)データ書込期間P1(図4)
データ書込期間P1においては、図3に示すように、第2制御信号Yb[i]および第3制御信号Yc[i]がローレベルを維持する。したがって、図4に示すように、トランジスタTr4およびトランジスタTr5はオフ状態となる。また、トランジスタTr1がオフ状態となることによって、容量素子Caの電極Ea2と容量素子Cbの電極Eb1とは電気的に絶縁される。さらに、ローレベルの第4制御信号Yd[i]によって発光制御トランジスタTelがオフ状態を維持するから、電気光学素子Eに対する駆動電流Ielの供給は遮断される。
【0032】
また、データ書込期間P1においては、データ線14に供給されるデータ信号X[j]の電位が「Vdd−Vdata」に設定される。一方、図3に示すように、第1制御信号Ya[i]がデータ書込期間P1においてハイレベルに遷移することにより、図4に示すように、トランジスタTr2およびトランジスタTr3はオン状態に変化する。したがって、駆動トランジスタTdrのゲートと容量素子Caの電極Ea1とがトランジスタTr2を介してデータ線14に電気的に接続される。これによって駆動トランジスタTdrのゲートおよび容量素子Caの電極Ea1にはデータ線14から電位「Vdd−Vdata」が供給される。また、容量素子Caの電極Ea2はトランジスタTr3を介して電源線17に接続されるから、容量素子Caの電極Ea2には電源電位Vddが供給される。以上の動作によって、図4に示すように、データ書込期間P1においては電圧Vdataに応じた電荷が容量素子Caに蓄積される(すなわち電圧Vdataが容量素子Caに保持される)。
【0033】
(b)補償期間P2(図5)
データ書込期間P1の経過後の補償期間P2においては、図3に示すように、第1制御信号Ya[i]がローレベルに遷移する。したがって、図5に示すように、トランジスタTr2はオフ状態に変化し、これによって駆動トランジスタTdrのゲートと容量素子Caの電極Ea1とはデータ線14から電気的に絶縁される。また、トランジスタTr2とともにトランジスタTr3もオフ状態に変化するから、容量素子Caの電極Ea2は電源線17から電気的に絶縁される。さらに、補償期間P2においてトランジスタTr1はオフ状態を維持するから、電極Ea2はフローティング状態となる。したがって、電極Ea1と電極Ea2との電位差Vdataが補償期間P2においても容量素子Caに保持されることになる。また、発光制御トランジスタTelは、ローレベルの第4制御信号Yd[i]によって補償期間P2においてもオフ状態を維持する。以上のように発光制御トランジスタTelがオフ状態を維持することで電気光学素子Eと駆動トランジスタTdrとが電気的に絶縁されるから、データ書込期間P1や補償期間P2においては電気光学素子Eの誤動作(誤発光)が有効に防止される。
【0034】
図3に示すように、第2制御信号Yb[i]は補償期間P2においてハイレベルに遷移する。したがって、図5に示すように、トランジスタTr4がオン状態に変化して駆動トランジスタTdrがダイオード接続されるとともに、トランジスタTr5がオン状態に変化して駆動トランジスタTdrのゲート(およびドレイン)と容量素子Cbの電極Eb1とが電気的に接続される。すなわち、電源線17から駆動トランジスタTdrのソースおよびドレインとトランジスタTr4と駆動トランジスタTdrのゲートとトランジスタTr5とを経由して容量素子Cbの電極Eb1に到達する経路が確立される。この経路に電流が流れることによって電極Eb1の電位は電源電位Vddと駆動トランジスタTdrの閾値電圧Vthとの差分値「Vdd−Vth」に収束する。電極Eb2は電源電位Vddに維持されているから、補償期間P2においては閾値電圧Vthに応じた電荷が容量素子Cbに蓄積される(すなわち閾値電圧Vthが容量素子Cbに保持される)。
【0035】
(c)駆動期間P3(図6)
補償期間P2の経過後の駆動期間P3においては、図3に示すように、第1制御信号Ya[i]はローレベルを維持する。したがって、図6に示すように、トランジスタTr2およびトランジスタTr3は補償期間P2と同様にオフ状態を維持する。また、第2制御信号Yb[i]は補償期間P2においてローレベルに遷移する。したがって、トランジスタTr4がオフ状態に変化して駆動トランジスタTdrのダイオード接続が解除されるとともに、トランジスタTr5がオフ状態に変化して駆動トランジスタTdrのゲートと容量素子Cbの電極Eb1とが電気的に絶縁される。駆動トランジスタTdrのゲートのインピーダンスは充分に高いから、容量素子Caの電極Ea1はフローティング状態となる。
【0036】
駆動期間P3においては、図3に示すように、第3制御信号Yc[i]がハイレベルに遷移する。したがって、図6に示すように、トランジスタTr1がオン状態に変化して容量素子Caの電極Ea2と容量素子Cbの電極Eb1とが電気的に接続される。いま、容量素子Caの電極Ea1はフローティング状態にあるから、電極Ea2と電極Eb1とがトランジスタTr1を介して接続されると、電極Ea1の電位(すなわちゲート電位Vg)は変動する。駆動期間P3の直前の時点で容量素子Caには電圧Vdataが保持されるとともに容量素子Cbには閾値電圧Vthが保持されているから、駆動期間P3においてトランジスタTr1がオン状態に遷移すると、電極Ea1のゲート電位Vgは「Vdd−Vdata−Vth」に変化する。
【0037】
さらに、駆動期間P3においては第4制御信号Yd[i]がハイレベルに遷移して発光制御トランジスタTelがオン状態に変化する。したがって、駆動トランジスタTdrのゲート電位Vg(=Vdd−Vdata−Vth)に応じた駆動電流Ielが電源線17から駆動トランジスタTdrと発光制御トランジスタTelとを経由して電気光学素子Eに供給される。駆動トランジスタTdrが飽和領域にて動作すると仮定すると、駆動電流Ielは以下の式(1)で表現される電流値となる。式(1)における「β」は駆動トランジスタTdrの利得係数であり、「Vgs」は駆動トランジスタTdrのゲート−ソース間の電圧である。
Iel=(β/2)(Vgs−Vth)2 ……(1)
【0038】
駆動トランジスタTdrのソースは電源線17に接続されているから、式(1)における電圧Vgsはゲート電位Vgと電源電位Vddとの差分値(Vgs=Vdd−Vg)である。駆動期間P3においてゲート電位Vgが「Vdd−Vdata−Vth」に設定されることを考慮すると、式 (1)は式(2)に変形される。
Iel=(β/2){Vdd−(Vdd−Vdata−Vth)−Vth}2
=(β/2)(Vdata)2 ……(2)
式(2)から理解されるように、駆動電流Ielは電位Vdataによって決定され、駆動トランジスタTdrの閾値電圧Vthには依存しない。したがって、各単位回路Uにおける駆動トランジスタTdrの閾値電圧Vthのバラツキを補償して各電気光学素子Eの階調(輝度)のムラを抑制することができる。
【0039】
以上に説明したように、本実施形態においては、データ書込期間P1にて駆動トランジスタTdrのゲートがデータ線14に接続される。この構成によれば、データ書込期間P1において、駆動トランジスタTdrの動作点を、駆動期間P3で電気光学素子Eを駆動するときの導通状態(オン状態)に近づけることができる。したがって、例えばデータ書込期間P1において駆動トランジスタTdrのゲートに電源電位Vddが供給される構成と比較して、駆動期間P3にてゲート電位Vgを所期値(Vdd−Vdata−Vth)に設定するための時間長を短縮することができる。
【0040】
なお、以上の効果を得るための構成としては、例えば、容量素子Caに電圧Vdataを保持させるデータ書込期間P1とは別個の期間において駆動トランジスタTdrのゲートに所定の電圧(電源電位Vddよりも低電位)を供給することで駆動トランジスタTdrを導通状態に近づける構成も考えられる。しかしながら、この構成においては、データ書込期間P1や補償期間P2とは別個の期間が必要になるという問題や、駆動トランジスタTdrのゲートに供給される所定の電位を電位「Vdd−Vdata」とは別個に生成する必要があるといった問題が生じ得る。これに対し、本実施形態においては、駆動トランジスタTdrを導通状態に近づける動作(駆動トランジスタTdrのゲートに電位「Vdd−Vdata」を供給する動作)がデータ書込期間P1にて実行され、さらには駆動トランジスタTdrを導通状態に近づけるための電位として電位「Vdd−Vdata」が兼用されるから、これらの問題を解消できるという利点がある。
【0041】
図14に例示した構成(特許文献1)に適用される典型的な駆動方法においては、まず、駆動トランジスタTdrのゲート電位Vgがその閾値電圧Vthに応じた電位に設定され、その設定後に駆動トランジスタTdrのゲート電位Vgを電位Vdataに応じて変動させることで閾値電圧Vthの誤差が補償される。これに対し、本実施形態においては、駆動トランジスタTdrの閾値電圧Vthを補償するための動作(すなわち補償期間P2において閾値電圧Vthを容量素子Cbに記憶させる動作)に先立って容量素子Caに電位Vdataが保持される構成となっている。
【0042】
なお、以上の形態においては、単位回路Uを構成する複数のトランジスタのゲートが共通の配線に接続された構成を例示した。例えば、トランジスタTr2およびトランジスタTr3の各々のゲートは第1制御線121に接続され、トランジスタTr4およびトランジスタTr5の各々のゲートは第2制御線122に接続される。この構成によれば、各トランジスタのゲートが別個の配線に接続された構成と比較して、配線数の削減やこれによる開口率(単位回路Uが配置される領域のうち電気光学素子Eによる放射光が実際に出射する領域の割合)の向上が実現されるという利点がある。ただし、本発明においては各トランジスタのゲートが別個の配線に接続された構成としてもよい。例えば、トランジスタTr2のゲートとトランジスタTr3のゲートとが別個の配線に接続された構成も採用される。このような構成によれば、各トランジスタのオン・オフの切換えを時間的に精密に制御できるといった利点がある。
【0043】
<B:第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態に係る要素のうち第1実施形態と共通する要素には同一の符号を付してその詳細な説明を適宜に省略する。
【0044】
図7は、本実施形態における単位回路Uの構成を示す回路図である。同図に示すように、本実施形態におけるひとつの走査線12は、第1実施形態における第1制御線121ないし第4制御線124に加えて第5制御線125を含む。第5制御線125には、走査線駆動回路22から第5制御信号Ye[i]が供給される。トランジスタTr5のゲートは第5制御線125に接続される。
【0045】
また、図7に示すように、本実施形態の単位回路Uは、第1実施形態におけるトランジスタTr3が省略された構成となっている。この構成によれば、ひとつの単位回路Uに含まれるトランジスタの総数が第1実施形態の単位回路Uと比較して削減される。したがって、単位回路Uの構成の簡素化やこれによる開口率の向上が実現されるという利点がある。
【0046】
ところで、各フレーム期間Fの開始点における電極Ea1や電極Ea2の電位は、その直前のフレーム期間Fにおける電位Vdataに応じて相違する。第1実施形態の構成のもとでは、データ書込期間P1に電源線17の電源電位VddがトランジスタTr3を介して電極Ea2に供給されるから、各フレーム期間Fのデータ書込期間P1においてはその直前のフレーム期間Fでの電気光学素子Eの階調に拘わらず容量素子Caに電圧Vdataを正確に保持させることができる。しかしながら、本実施形態のようにトランジスタTr3が省略された構成においては、容量素子Caの電極Ea2と電源線17とが電気的に接続されない。したがって、フレーム期間Fが経過した直後からデータ書込期間P1が開始されるとすれば、データ書込期間P1にて容量素子Caに保持される電圧がその直前のフレーム期間Fにおける電位Vdataに影響される可能性がある。この問題を解消するために、本実施形態においては、各単位回路Uに対する電位Vdataの供給に先立って、容量素子Caの電極Ea1および電極Ea2が所定の電位Vrefに初期化される構成となっている。
【0047】
図8は、本実施形態にて利用される各信号の具体的な波形を示すタイミングチャートである。同図に示すように、ひとつのフレーム期間Fにおけるデータ書込期間P1の開始前には初期化期間P0が設定される。第1制御信号Ya[i]は、初期化期間P0とその直後のデータ書込期間P1とにおいて連続してハイレベルを維持する。
【0048】
第3制御信号Yc[i]は、駆動期間P3に加えて、第1制御信号Ya[i]がハイレベルとなる初期化期間P0においてもハイレベルに遷移する。また、第5制御信号Ye[i]は、初期化期間P0と補償期間P2とにおいてハイレベルに遷移するとともにそれ以外の期間においてローレベルを維持する。第2制御信号Yb[i]および第4制御信号Yd[i]の波形は第1実施形態と同様である。
【0049】
図9は、初期化期間P0における単位回路U(特に各トランジスタの状態)の様子を示す回路図である。初期化期間P0において第2制御信号Yb[i]と第4制御信号Yd[i]とはローレベルを維持する。したがって、トランジスタTr4と発光制御トランジスタTelとはオフ状態となる。一方、第1制御信号Ya[i]と第3制御信号Yc[i]と第5制御信号Ye[i]とは初期化期間P0においてハイレベルに遷移するから、図9に示すように、トランジスタTr2とトランジスタTr1とトランジスタTr5とはオン状態となる。したがって、容量素子Caの電極Ea1がトランジスタTr2を介してデータ線14に接続されるとともに、容量素子Caの電極Ea2がトランジスタTr1とトランジスタTr5とトランジスタTr2とを介してデータ線14に接続される。
【0050】
また、初期化期間P0においては、データ線14に供給されるデータ信号X[j]が所定の電位Vrefに設定される。したがって、図9に示すように、容量素子Caの電極Ea1および電極Ea2の双方にデータ線14から電位Vrefが供給される。すなわち、初期化期間P0においては、その直前のフレーム期間Fにて単位回路Uに取り込まれた電位Vdataに拘わらず、電極Ea1および電極Ea2は電位Vrefに初期化される。電位Vrefは任意の定電位であって適宜に選定される。例えばデータ線14の電位を初期化期間P0において電源電位Vddとすることによって電源電位Vddを電位Vrefとして流用することができる。
【0051】
図10は、以上に説明した初期化期間P0の経過後のデータ書込期間P1における単位回路Uの様子を示す回路図である。データ書込期間P1においては第1制御信号Ya[i]のみがハイレベルを維持する。したがって、図10に示すように、容量素子Caの電極Ea1と駆動トランジスタTdrのゲートとがトランジスタTr2を介してデータ線14に接続される。一方、ローレベルの第3制御信号Yc[i]によってトランジスタTr1はオフ状態に変化するから、データ書込期間P1において容量素子Caの電極Ea2はフローティング状態となる。
【0052】
以上の状態のもとで、データ線14のデータ信号X[j]が電位Vrefと電位Vdataとの差分値「Vref−Vdata」に設定される。したがって、容量素子Caにおいては、電極Ea2がフローティング状態に維持されたまま、他方の電極Ea1に電位「Vref−Vdata」が供給される。これによって容量素子Caには電圧Vdataが保持される。また、第1実施形態と同様に、容量素子Caによる電圧Vdataの保持に並行して、駆動トランジスタTdrのゲート電位Vgは電位「Vref−Vdata」に設定される。したがって、本実施形態においても第1実施形態と同様の効果が奏される。なお、補償期間P2および駆動期間P3における動作は第1実施形態と同様である。
【0053】
また、本実施形態においては、トランジスタTr3の省略によって単位回路Uの構成を簡素化しながら、電極Ea1および電極Ea2の電位の初期化によってデータ書込期間P1にて容量素子Caに正確に電圧Vdataを保持させることができる。したがって、各電気光学素子Eを高い精度で所期の階調に制御することが可能となる。
【0054】
<C:変形例>
以上の各形態には様々な変形を加えることができる。具体的な変形の態様を例示すれば以下の通りである。なお、以下の各態様を適宜に組み合わせてもよい。
【0055】
(1)変形例1
以上の各形態においては駆動期間P3の全区間にわたってトランジスタTr1がオン状態に維持される構成を例示したが、駆動期間P3の一部のみにおいてトランジスタTr1をオン状態とする構成も採用される。この構成における第3制御信号Yc[i]は、図3に破線で示されるように、駆動期間P3の始点を含む所定の期間にてハイレベルに遷移するとともにそれ以外の期間においてローレベルを維持する。ただし、以上の各形態のように駆動期間P3の全区間にわたって電極Ea2と電極Eb1とが電気的に接続される構成によれば、電源線17における電源電位Vddの変動が電気光学素子Eの階調に与える影響を低減することができる。この効果について詳述すると以下の通りである。
【0056】
図6に示した駆動期間P3においては、各単位回路Uの電気光学素子Eに対する駆動電流Ielの供給に起因して電源線17の電源電位Vddが低下(変動量Δ)する場合がある。この場合に駆動トランジスタTdrのソースの電位は変動量Δだけ低下する。ここで、駆動期間P3においてトランジスタTr1がオフ状態に遷移する構成(以下「構成1」という)においては、駆動トランジスタTdrのゲートと電源線17とがトランジスタTr1によって電気的に分離されるから、電源電位Vddの変動はゲート電位Vgに影響しない。
【0057】
これに対し、図6に示すように駆動期間P3においてトランジスタTr1がオン状態を維持する構成(以下「構成2」という)においては、トランジスタTr1によって接続された電極Ea2と電極Eb1とを介して駆動トランジスタTdrのゲートと電源線17とが容量的に結合するから、電源電位Vddが変動量Δだけ低下するとゲート電位Vgも変動量Δに応じて低下する。すなわち、構成2においては、電源電位Vddが変動したときの駆動トランジスタTdrのゲート−ソース間の電圧Vgsの変動が、構成1よりも緩和される。式(1)で表現されるように、駆動電流Ielは駆動トランジスタTdrのゲート−ソース間の電圧Vgsに応じて決定される。したがって、駆動期間P3においてトランジスタTr1がオン状態を維持する構成2(第1実施形態や第2実施形態)によれば、トランジスタTr1がオフ状態となる構成1と比較して、駆動電流Ielに対する電源電位Vddの変動の影響を低減することができる。
【0058】
(2)変形例2
単位回路Uの具体的な構成は以上の例示に限定されない。例えば、単位回路Uを構成する各トランジスタの導電型は図2や図7の態様から適宜に変更される。また、図2や図7における発光制御トランジスタTelは適宜に省略される。
【0059】
(3)変形例3
以上の各形態においてはデータ書込期間P1と補償期間P2との間に間隔が介挿された構成を例示したが、データ書込期間P1と補償期間P2とが連続する構成としてもよい。同様に、補償期間P2と駆動期間P3とが連続する構成としてもよい。また、第2実施形態においては初期化期間P0とデータ書込期間P1とが連続する構成を例示したが、各期間の間に間隔が介挿された構成としてもよい。
【0060】
(4)変形例4
以上の形態においては電気光学素子EとしてOLED素子を例示したが、本発明の電子装置に採用される電気光学素子(被駆動素子)はこれに限定されない。例えば、OLED素子に代えて、無機EL素子や、フィールド・エミッション(FE)素子、表面導電型エミッション(SE:Surface-conduction Electron-emitter)素子、弾道電子放出(BS:Ballistic electron Surface emitting)素子、LED(Light Emitting Diode)素子といった様々な自発光素子、さらには液晶素子や電気泳動素子やエレクトロクロミック素子など様々な電気光学素子を利用することができる。また、本発明は、バイオチップなどのセンシング装置にも適用される。
【0061】
以上に例示したように、本発明の被駆動素子とは、電気エネルギの付与によって所期の状態に制御(駆動)される総ての要素を含む概念であり、発光素子などの電気光学素子は被駆動素子の例示に過ぎない。なお、被駆動素子には、OLED素子のような電流駆動型の素子のほか、各々に印加される電圧(以下「駆動電圧」という)に応じて駆動される電圧駆動型の被駆動素子がある。電圧駆動型の被駆動素子が採用された電子装置Dにおいては、電位Vdataと閾値電圧Vthとに応じて決定される電位(以上の各形態における「Vdd−Vdata−Vth」)が駆動期間P3にて駆動トランジスタTdrのゲートに供給され、この制御電位に対応した電圧値の駆動電圧が供給されることで被駆動素子が駆動される。
【0062】
<D:応用例>
次に、本発明に係る電子装置(電気光学装置)を利用した電子機器について説明する。図11ないし図13には、以上に説明した何れかの形態に係る電子装置Dを表示装置として採用した電子機器の形態が図示されている。
【0063】
図11は、以上の各形態に係る電子装置Dを採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、各種の画像を表示する電子装置Dと、電源スイッチ2001やキーボード2002が設置された本体部2010とを具備する。電子装置DはOLED素子を電気光学素子Eとして使用しているので、視野角が広く見易い画面を表示できる。
【0064】
図12に、以上の各形態に係る電子装置Dを適用した携帯電話機の構成を示す。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002と、各種の画像を表示する電子装置Dとを備える。スクロールボタン3002を操作することによって、電子装置Dに表示される画面がスクロールされる。
【0065】
図13に、以上の各形態に係る電子装置Dを適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)の構成を示す。情報携帯端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002と、各種の画像を表示する電子装置Dとを備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった様々な情報が電子装置Dに表示される。
【0066】
なお、本発明に係る電子装置が適用される電子機器としては、図11から図13に示した機器のほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンタ、スキャナ、複写機、ビデオプレーヤ、タッチパネルを備えた機器等などが挙げられる。また、本発明に係る電子装置の用途は画像の表示に限定されない。例えば、光書込み型のプリンタや電子複写機といった画像形成装置においては、用紙などの記録材に形成されるべき画像に応じて感光体を露光する書込みヘッドが使用されるが、この種の書込みヘッドとしても本発明の電子装置は利用される。
【符号の説明】
【0067】
D……電子装置、U……単位回路、E……電気光学素子、10……素子アレイ部、12……走査線、121……第1制御線、122……第2制御線、123……第3制御線、124……第4制御線、125……第5制御線、14……データ線、17……電源線、22……走査線駆動回路、24……データ線駆動回路、Ca,Cb……容量素子、Ea1,Ea2,Eb1,Eb2……電極、Tdr……駆動トランジスタ、Tel……発光制御トランジスタ、Tr1,Tr2,Tr3,Tr4,Tr5……トランジスタ、P0……初期化期間、P1……データ書込期間、P2……補償期間、P3……駆動期間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御端子と第1端子と第2端子とを備えるとともに前記制御端子の電位に応じて前記第1端子と前記第2端子との導通状態が変化する駆動トランジスタを含み、被駆動素子を駆動するための電子回路を駆動する方法であって、
書込期間において、前記制御端子にデータ電位を供給することによって前記制御端子の電位を第1の電位に設定し、
駆動期間において、前記制御端子の電位を前記第1の電位から前記駆動トランジスタの閾値電圧に応じて変化させることによって第2の電位に設定し、
前記第2の電位に応じた電圧レベルの駆動電圧および前記第2の電位に応じた電流レベルの駆動電流のうち少なくとも一方を前記被駆動素子に供給する
ことを特徴とする電子回路の駆動方法。
【請求項2】
前記電子回路は、第1電極と第2電極とを備えるとともに前記第1電極が前記制御端子に電気的に接続された第1容量素子を含み、
前記書込期間において、前記制御端子と前記第1電極とに前記データ電位を供給することで前記データ電位に応じた電荷を前記第1容量素子に保持させる
ことを特徴とする請求項1に記載の電子回路の駆動方法。
【請求項3】
前記電子回路は、第3電極と第4電極とを備える第2容量素子を含み、
前記書込期間の経過後の補償期間において、前記駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を前記第2容量素子に保持させ、
前記補償期間の経過後の前記駆動期間において、前記第2電極と前記第3電極とを電気的に接続することによって、前記制御端子の電位を前記データ電位および前記閾値電圧に応じた前記第2の電位に設定する
ことを特徴とする請求項2に記載の電子回路の駆動方法。
【請求項4】
前記補償期間の少なくとも一部において、前記制御端子を前記第1端子と前記第3電極とに電気的に接続することによって、前記閾値電圧に応じた電荷を前記第2容量素子に保持させる
ことを特徴とする請求項3に記載の電子回路の駆動方法。
【請求項5】
前記書込期間の少なくとも一部において、前記第2電極を所定の電位に設定する
ことを特徴とする請求項2から請求項4の何れかに記載の電子回路の駆動方法。
【請求項6】
前記書込期間の開始前の初期化期間において、前記第2電極を所定の電位に設定し、
前記書込期間の少なくとも一部において、前記第2電極をフローティング状態とする
ことを特徴とする請求項2から請求項4の何れかに記載の電子回路の駆動方法。
【請求項7】
前記書込期間の経過後に、前記第2電極をフローティング状態とする
ことを特徴とする請求項5または請求項6に記載の電子回路の駆動方法。
【請求項8】
制御端子と第1端子と第2端子とを備えるとともに前記制御端子の電位に応じて前記第1端子と前記第2端子との導通状態が変化する駆動トランジスタと、
前記駆動トランジスタの導通状態に応じた電圧レベルを有する駆動電圧および前記駆動トランジスタの導通状態に応じた電流レベルを有する駆動電流のうち少なくとも一方が供給される被駆動素子と、
第1電極と第2電極とを備えるとともに前記第1電極が前記制御端子に電気的に接続された第1容量素子と、
第3電極と第4電極とを備えるとともに前記駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を保持する第2容量素子と、
前記第2電極と前記第3電極との電気的な接続を制御する第1スイッチング素子と
を具備することを特徴とする電子回路。
【請求項9】
前記制御端子とデータ線との電気的な接続を制御する第2スイッチング素子をさらに具備し、
前記データ線にデータ電位が供給される書込期間の少なくとも一部において前記第2スイッチング素子を介して前記制御端子に前記データ電位が供給され、
前記書込期間の経過後の駆動期間の少なくとも一部において前記第2電極と前記第3電極とが前記第1スイッチング素子を介して電気的に接続される
請求項8に記載の電子回路。
【請求項10】
前記第2電極と所定の電位との電気的な接続を制御する第3スイッチング素子をさらに具備する
ことを特徴とする請求項8または請求項9に記載の電子回路。
【請求項11】
前記制御端子と前記第1端子との電気的な接続を制御する第4スイッチング素子と、
前記制御端子と前記第3電極との電気的な接続を制御する第5スイッチング素子と
を具備することを特徴とする請求項8から請求項10の何れかに記載の電子回路。
【請求項12】
前記制御端子と前記第1端子との電気的な接続を制御する第4スイッチング素子と、
前記制御端子と前記第3電極との電気的な接続を制御する第5スイッチング素子とを具備し、
前記書込期間の経過後の補償期間の少なくとも一部において前記制御端子と前記第1端子とが前記第4スイッチング素子を介して電気的に接続され、
前記補償期間の少なくとも一部において前記制御端子と前記第3電極とが前記第5スイッチング素子を介して電気的に接続される
ことを特徴とする請求項9または請求項10に記載の電子回路。
【請求項13】
複数のデータ線と複数の単位回路とを含み、
前記複数の単位回路の各々は、
制御端子と第1端子と第2端子とを備えるとともに前記制御端子の電位に応じて前記第1端子と前記第2端子との導通状態が変化する駆動トランジスタと、
前記駆動トランジスタの導通状態に応じた電圧レベルを有する駆動電圧および前記駆動トランジスタの導通状態に応じた電流レベルを有する駆動電流のうち少なくとも一方が供給される被駆動素子と、
第1電極と第2電極とを備えるとともに前記第1電極が前記制御端子に電気的に接続された第1容量素子と、
第3電極と第4電極とを備えるとともに前記駆動トランジスタの閾値電圧に応じた電荷を保持する第2容量素子と、
前記第2電極と前記第3電極との電気的な接続を制御する第1スイッチング素子と、
前記制御端子と前記複数のデータ線のうちのひとつのデータ線との電気的な接続を制御する第2スイッチング素子と
を具備することを特徴とする電子装置。
【請求項14】
請求項13に記載の電子装置を具備することを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−108532(P2012−108532A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−9819(P2012−9819)
【出願日】平成24年1月20日(2012.1.20)
【分割の表示】特願2005−365921(P2005−365921)の分割
【原出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】