説明

電子式回路遮断器

【課題】他の計測装置を設置することなく過電流域における負荷電流の変動状態を把握して過電流引外し特性を容易に設定できる電子式回路遮断器を得る。
【解決手段】電路1を開閉する開閉接点2と、この開閉接点2を開放する引き外し装置9と、電路1の電流を検出する電流検出回路4と、電路1を流れる過電流に応じて開閉接点2を開放する過電流引外し特性を設定する特性設定部7と、過電流引外し特性と電流検出回路4による検出電流に基づいて引き外し装置9に引外し信号を出力する制御装置8と、検出電流に応じた通電継続時間を計時する通電時間計測部10と、この通電時間計測部10により検出電流に応じて計測された最大の通電継続時間を記憶する最大通電時間記憶部11とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電路に流れる負荷電流を検出して過電流域では時限特性により電路を遮断保護する電子式回路遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電子式回路遮断器は、負荷側電路に接続された負荷機器の接続状況及び負荷機器の使用状況に応じて、過電流引外し特性を回路遮断器の設置後に設定することが可能である。(例えば、特許文献1 図1参照)
【0003】
【特許文献1】特開2001−128354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来の電子式回路遮断器においては、過電流引外し特性を負荷機器の使用状況に応じて設定することが可能なので、該回路遮断器の設置後に例えば負荷機器の追加接続または負荷機器の運転パターンの変更等により、負荷電流の変動が想定されるような電路に設置される。
ところが、負荷側電路にモータのような負荷機器が複数接続されている場合、運転パターンにより同時または遅延時間をもって運転されると、モータの始動電流によって負荷電流が瞬間的に大きく変動するので、過電流引外し特性を設定するために必要である過電流域における負荷電流の変動状態を把握するためには、他の計測装置を設置して負荷電流の変動状態を測定する必要があり、過電流引外し特性の設定に困難をきたしていた。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、他の計測装置を設置することなく過電流域における負荷電流の変動状態を把握して過電流引外し特性を容易に設定できる電子式回路遮断器を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電子式回路遮断器は、電路を開閉する開閉接点と、この開閉接点を開放する引き外し装置と、電路の電流を検出する電流検出手段と、電路を流れる過電流に応じて開閉接点を開放するための過電流引外し特性を設定する過電流引外し特性設定部と、過電流引外し特性と電流検出手段による検出電流に基づいて引き外し装置に引外し信号を出力する制御装置と、検出電流に応じた通電継続時間を計時する通電時間計測部と、この通電時間計測部により検出電流に応じて計測された最大の通電継続時間を記憶する最大通電時間記憶部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、電路を流れる負荷電流に応じて計測された最大の通電継続時間を計測することにより、過電流域における負荷電流の変動状況を把握可能となり、過電流引外し特性を容易に設定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における電子式回路遮断器の構成を示すブロック図、図2はサンプリングによる電流の実効値を得る方法の説明図、図3は表示部の要部拡大図、図4は電子式回路遮断器の動作を示すフローチャートである。
【0009】
図1において、電子式回路遮断器100は、交流電路1を開閉する開閉接点2と、交流電路1に設けられ、交流電路1に流れる負荷電流に比例した電流信号を出力する変流器3と、この変流器3の電流出力信号をアナログ電圧信号に変換する電流検出回路4と、電流検出回路4からのアナログ電圧信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路5と、このA/D変換回路5からのデジタル信号に基づいて交流電路1の各相に流れる電流値を演算する負荷電流演算部6と、負荷電流値に対する引外し時間の関係からなる過電流引外し特性及び定格電流を設定する特性設定部7と、この特性設定部7で設定された過電流引外し特性と負荷電流演算部6による電流値とに基づき過電流引外し信号を出力するマイクロコンピュータ(CPU)を含んだ制御装置8と、この制御装置8からの引外し信号により開閉接点2を開放する引外し回路9と、負荷電流演算部6で演算した交流電路1の負荷電流値が継続して流れ続けた時間を計時する通電時間計測部10と、この通電時間計測部10により各負荷電流値に応じて計測された最大の通電継続時間を記憶する最大通電時間記憶部11とから構成されている。
【0010】
また、制御装置8には、図3に示すように特性設定部7で設定された過電流引外し時限特性をグラフ表示した過電流引外し時限特性曲線20及び最大通電時間記憶部11へ記憶された各負荷電流値に対する最大通電継続時間の関係、すなわち最大負荷時限特性を例えば曲線などでグラフ表示した最大負荷時限特性曲線21を表示する表示部12、すなわち表示手段と、特性設定部7で設定された過電流引外し時限特性及び最大負荷時限特性のデータを例えば外部表示装置などの外部機器へ送信、及び過電流引外し時限特性の設定を受信するための通信インタフェース(通信I/F)13、すなわち通信手段とが接続されている。表示部12は例えば液晶表示装置などで構成される。
【0011】
電流検出回路4は、変流器3からの交流の電流出力信号を直流信号に変換する整流回路4aと、整流回路4aの出力電流信号を電圧信号に変換する負担回路4bと、負担回路4bに誘起する出力電圧信号の実効値を得るための波形変換回路4cから構成されている。そして、この電流検出回路4、変流器3、及びA/D変換回路5から電流検出手段は構成されている。
また、電子式回路遮断器100の負荷側には、例えばモータや電灯など複数の負荷14a、14bが接続されている。
【0012】
負荷電流演算部6での負荷電流の演算方法について図2により説明する。検出された電路1の電流はA/D変換回路5でアナログ値からデジタル値へ変換される。この電流信号の検出周期、すなわちサンプリング周期はΔtである。負荷電流は実効値を得る必要から、交流電路1の交流電源周波数が例えば50Hzの場合5周期、60Hzの場合6周期に相当する間をサンプリング数mで2乗移動平均してサンプリング電流の実効値の平方値としてI=(Σi)/mを求める。Iの平方根が負荷電流の実効値Iとなる。
【0013】
表示部12における表示は、図3に示すように横軸を負荷電流値、縦軸を回路遮断器100の動作時間とし、特性設定部7で設定された過電流引外し特性曲線20と、最大通電時間記憶部11へ記憶された各負荷電流値に対する最大通電継続時間からなるデータをグラフ表示した最大負荷時限特性曲線21とが同じ表示画面に表示される。負荷電流演算部6で演算した交流電路1の負荷電流値が、過電流引外し特性20の境界線を越えると制御装置8から引外し信号が引外し回路9に出力され、開閉接点2が開放される。
なお、表示内容として、最大負荷時限特性21の各負荷電流値に対する最大通電継続時間の数値を合わせて表示することも可能である。
【0014】
次に動作について説明する。
図4のフローチャートに従い制御装置8の動作を中心に説明する。処理ルーチンの中に通電時間データT1を持たせているので、初期処理においてデータT1をクリアする(ステップ30)。負荷電流演算部6により負荷電流値I1を求め(ステップ31)、この負荷電流値I1に基づき過電流引外し時限処理を実行し(ステップ32)、特性設定部7により設定された過電流引外し特性、例えば図3に示す過電流引外し特性20と比較し(ステップ33)、負荷電流値I1が過電流引外し特性20の境界線を越え過電流引外し動作を行う場合は、制御装置8から引外し信号が引外し回路9に出力し回路遮断器の遮断動作を実行する(ステップ42)。
【0015】
負荷電流値I1が過電流引外し特性20の境界線を越えておらず過電流引外し動作をしない場合は、演算した負荷電流値I1が前回の負荷電流値から変化したかを判定する(ステップ34)。負荷電流値I1が変化していないときは通電継続時間T1に前回の負荷電流演算部6での演算処理から今回の処理までの時間経過分Δtを加算した時間を通電継続時間T1=T1+Δtとし、通電継続時間を更新する(ステップ35)。負荷電流値I1が前回値から変化したときは、通電継続時間T1を時間経過分Δtとして、通電継続時間を更新する(ステップ36)。
【0016】
次に負荷電流値I1に対する過去の最大通電継続時間Tmax(I1)を最大通電時間記憶部11より読出し(ステップ37)、負荷電流値I1に対する現在の通電継続時間T1と過去の最大通電継続時間Tmax(I1)とを比較し(ステップ38)、現在の負荷電流値の通電継続時間が過去の最大通電継続時間を超えたときは過去の最大通電継続時間を更新(Tmax(I1)=T1)し(ステップ39)、負荷電流値に対する最大通電継続時間Tmax(I1)を最大通電時間記憶部11へ記憶する(ステップ40)。表示部12への最大負荷時限特性の表示データとして、最大通電時間記憶部11へ記憶した各負荷電流値に対する最大通電継続時間値を読出し、負荷電流値とその最大通電継続時間より最大負荷時限特性曲線21を表示する(ステップ41)。その後、新たな負荷電流値の演算を実行する(ステップ31)。
【0017】
本実施の形態によれば、電路1を流れる各負荷電流値I1に応じて通電時間計測部10のより計測された最大通電継続時間Tmax(I1)を記憶する最大通電時間記憶部11を備えたことにより、電路1に接続された複数の負荷機器の運転動作による過電流域における負荷電流の変動状況である最大負荷時限特性を把握できるので、過電流引外し特性を容易に設定できる。
【0018】
また、最大負荷時限特性曲線21と過電流引外し特性曲線20とを表示部12に一緒に表示するので、過電流引外し特性を更に容易に設定できる。
【0019】
また、最大負荷時限特性と過電流引外し特性とを構成するそれぞれのデータを外部機器と送受信するための通信インタフェース13を備えているので、遠隔地からも過電流引外し特性を容易に設定できる。
【0020】
なお、本実施の形態では、各負荷電流値I1に応じた最大通電継続時間を最大負荷時限特性とする構成としたが、各負荷電流値を、例えば回路遮断器の定格電流に対するパーセント値に置き換えて、100%以上200%未満、200%以上300%未満といった負荷電流値に範囲を持たせることで、各負荷電流値の範囲とそれに対する最大通電継続時間からなるデータの量を少なくした構成としても良い。
【0021】
実施の形態2.
図5はこの発明の実施の形態2における電子式回路遮断器101の構成を示すブロック図、図6は、電子式回路遮断器101の最大負荷時限特性と過電流引外し特性の関係を示す説明図、図7は電子式回路遮断器101の動作を示すフローチャートである。
【0022】
実施の形態1では、負荷電流値の変動を容易に把握はできるものの、実際の過電流引外し特性と最大負荷時限特性の時間に関する算出方法が異なるため、過電流引外し特性と最大負荷時限特性との整合が取れていない。本実施の形態では、最大負荷時限特性に熱的履歴を反映させるものであり、 図5に示すように、電子式回路遮断器101は通電時間計測部10を有していない。その他の構成については、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0023】
電子式回路遮断器101の過電流引外し特性は図6に示すように、負荷電流の大きさにより長限時特性、短限時特性および瞬時特性の各過電流引外し特性曲線から構成される。本実施の形態では、特に長限時特性の領域での動作について説明する。長限時特性は、特性設定部7で予め設定され、例えば長限時の引外し動作時間Teは、Te=K/Ieと設定される。ここで、Ieは負荷電流値、Teは長限時の引外し動作時間、Kは定数である。また、Kは図6の線分0−Ie、及び線分0−Teで囲まれる長方形の面積であるS0、すなわちS0=K=Te×Ieに相当する。
【0024】
電子式回路遮断器101の動作は負荷電流の実効値Ieと予め定められている定格電流I0とを比較して定格電流I0を超えているかどうかを判定する。このとき処理を簡素化するため負荷電流実効値の2乗値であるIeと定格電流の2乗値であるIとを比較してもよい。負荷電流実効値が定格電流を超えた場合は、電流積積算手段により、負荷電流実効値の2乗値Ieにサンプリング周期Δtをかけた電流積を演算するとともに、この電流積を積算累積して累積電流値S1を演算する。この累積電流値S1はS1=Σ(Δt×Ie)であり、この累積電流値S1が面積S0を超えた時点で電子式回路遮断器101の遮断動作が実行される。
【0025】
負荷電流実効値が定格電流以下になった場合は、残余電流補正手段により、冷却相当の熱的履歴Δt・Pを累積電流値S1から減算する。ここで、Pは定数であり単位時間内の放熱係数である。
【0026】
ここで、最大負荷時限特性としては、負荷電流値Ieが連続通電時間T1の期間流れたとすれば、累積電流値S1は線分0−Ie、及び線分0−T1で囲まれる長方形の面積となりS1=Ie・T1で表すことができる。
また、負荷電流値がIeからI1に変動した場合には、電流積積算手段により、前回演算時の累積電流値S2と今回の検出した負荷電流I1より累積積算値S1はS1=S2+Δt・I1で演算される。次に負荷電流I1での通電継続時間T2は、負荷電流時限換算手段によりT2=S1/I1で演算され、過去の負荷電流I1に対応した最大の通電継続時間より大きい場合、新しい最大の通電継続時間として、最大通電時間記憶部11に記憶される。そして、負荷電流I1に対する最大負荷時限特性として電子式回路遮断器101の長限時特性での過電流引外し動作と合致した特性を得ることができる。
【0027】
次に、動作について説明する。
図7のフローチャートに従い制御装置8の動作を説明する。ステップ30、31、37〜42は実施の形態1と同様なので、説明を省略する。まず、負荷電流演算部6により負荷電流I1を求め(ステップ31)、定格電流Iと比較し、負荷電流値が過電流状態か否かを判定する(ステップ50)。
【0028】
I1>I0で負荷電流値I1が定格電流I0を超えている時は、長限時引外し処理として電流積積算手段により、経過時間内の電流積が積算された累積電流値S1をS1=S2+(Δt×I1)により算出する(ステップ51)。ここでS2は前回計算時の累積電流値S1であり、初期値はゼロである。
【0029】
次に特性設定部7によって予め設定された長限時引外し特性の設定値から算出されている所定の定数Kと比較し(ステップ52)、S1>Kの場合は、電子式回路遮断器101の遮断動作を実行する(ステップ42)。
【0030】
S1≦Kの場合は、熱的履歴である経過時間内の累積電流値S1を現在の負荷電流値I1に対する通電継続時間値T1へ換算するために、負荷電流時限換算処理に移行し、負荷電流時限換算手段によりT1=S1/I1を演算して、負荷電流値I1に対する通電継続時間値T1を求める(ステップ53)。
【0031】
次に負荷電流値I1に対する過去の最大の通電継続時間Tmax(I1)を最大通電時間記憶部11より読出し(ステップ37)、負荷電流値I1に対する現在の通電継続時間T1と過去の最大の通電継続時間Tmax(I1)とを比較する(ステップ38)。今回の負荷電流値I1の通電継続時間T1が過去の最大通電継続時間Tmax(I1)を超えている場合は過去の最大通電継続時間Tmax(I1)を更新(Tmax(I1)=T1)し(ステップ39)、負荷電流値I1に対する最大通電継続時間Tmax(I1)を最大通電時間記憶部11へ記憶する(ステップ40)。
【0032】
そして、表示部12への最大負荷時限特性を表示する表示データとして、最大通電時間記憶部11へ記憶した各負荷電流値に対する最大の通電継続時間を読出し、各負荷電流値とその最大の通電継続時間よりなる最大負荷時限特性21を表示部12へ表示する(ステップ41)。その後、新たな負荷電流値の演算を実行する(ステップ31)。
【0033】
また、今回の負荷電流値I1の通電継続時間T1が過去の最大通電継続時間Tmax(I1)以下の場合は、最大通電時間記憶部11の更新処理は行わない。
【0034】
また、負荷電流値が過電流状態か否かを判定し(ステップ50)、I1≦I0の状態で負荷電流値I1が定格電流I0以下の時は、残余電流積補正処理へ移行する。残余電流積補正処理としては、残余電流積補正手段により、負荷電流値I1が定格電流I0未満になり前回の処理からの継続時間に比例した放熱補正値Δt・Pを算出し、過去の定格電流を超過した過電流状態時の経過時間内に累積された熱的履歴の累積電流値S2から放熱補正値Δt・Pを減算し、補正された累積電流値S1を算出する(ステップ54)。なお、Pは定数であり単位時間内の放熱係数であり、残余電流積補正処理は、負荷電路1の放熱冷却に対応させている。
【0035】
累積電流値S1がS1<0どうかを判定し(ステップ55)、S1<0になった場合は、今回及び前回の累積電流値を初期化、すなわちS1=S2=0とし(ステップ56)、負荷電流時限換算処理に移行する(ステップ53)。S1≧0の場合は、そのまま負荷電流時限換算処理に移行するステップ53)。
【0036】
本実施の形態によれば、電路1を流れる各負荷電流値I1に応じて通電時間計測部10のより計測された最大通電継続時間Tmax(I1)を記憶する最大通電時間記憶部11を備えたことにより、電路1に接続された複数の負荷機器の運転動作による過電流域における負荷電流の変動状況である最大負荷時限特性を把握できるので、過電流引外し特性を容易に設定できる。
【0037】
また、最大負荷時限特性の各負荷電流値に応じた最大通電継続時間の算出方法について熱的履歴を加味した方法としたことで、電子式回路遮断器101の熱的履歴を含んだ過電流引外し動作と整合が取れた最大負荷時限特性21を取得することが可能となり、過電流引外し特性を正確に設定できる。
【0038】
また、最大負荷時限特性曲線21と過電流引外し特性曲線20とを表示部12に一緒に表示するので、過電流引外し特性を更に容易に設定できる。
【0039】
また、最大負荷時限特性と過電流引外し特性とを構成するそれぞれのデータを外部機器と送受信するための通信インタフェース13を備えているので、遠隔地からも過電流引外し特性を容易に設定できる。
【0040】
なお、本実施の形態では、長限時特性の場合についてのみ記載したが、短限時特性および瞬時特性の場合についても、最大負荷時限特性21の最大通電継続時間の算出方法を各過電流引き外し処理の方法と同様にしてもよい。
【0041】
また、各負荷電流値I1に応じた最大通電継続時間を最大負荷時限特性とする構成としたが、各負荷電流値を、例えば回路遮断器の定格電流に対するパーセント値に置き換えて、100%以上200%未満、200%以上300%未満といった負荷電流値に範囲を持たせることで、各負荷電流値の範囲とそれに対する最大通電継続時間からなるデータの量を少なくした構成としても良い。
【0042】
実施の形態3.
図8はこの発明の実施の形態3における電子式回路遮断器102の動作を示すフローチャートである。電子式回路遮断器102の構成を示すブロック図は、図1と同様である。本実施の形態では、実施の形態2に通電時間計測部10を追加し、負荷電流値が定格電流以下のときは、実施の形態1と同様に最大負荷時限特性における最大通電継続時間の算出にあたって熱的履歴を反映させていないものである。その他の構成及び動作については、実施の形態2と同様なので、説明を省略する。
【0043】
次に、動作について説明する。
図8のフローチャートに従い制御装置8の動作を説明する。ステップ30、31、37〜56は実施の形態2と同様である。まず、負荷電流演算部6により負荷電流I1を求め(ステップ31)、定格電流Iと比較し、負荷電流値が過電流状態か否かを判定する(ステップ50)。
【0044】
I1>I0で負荷電流値I1が定格電流I0を超えている時は、過電流超過フラグFをオンにする(ステップ60)。そして長限時引外し処理として電流積積算手段により、経過時間内の電流積が積算された累積電流値S1をS1=S2+(Δt×I1)により算出する(ステップ51)。ここでS2は前回計算時の累積電流値S1であり、初期値はゼロである。
【0045】
次に特性設定部7によって予め設定された長限時引外し特性の設定値から算出されている所定の定数Kと比較し(ステップ53)、S1>Kの場合は、電子式回路遮断器102の遮断動作を実行する(ステップ42)。
【0046】
S1<Kの場合は、熱的履歴である経過時間内の累積電流値S1を現在の負荷電流値I1に対する通電継続時間値T1へ換算するために、負荷電流時限換算手段によりT1=S1/I1を演算し、負荷電流値I1に対する通電継続時間値T1を求める(ステップ53)。
【0047】
次に負荷電流値I1に対する過去の最大の通電継続時間Tmax(I1)を最大通電時間記憶部11より読出し(ステップ37)、負荷電流値I1に対する現在の通電継続時間T1と過去の最大の通電継続時間Tmax(I1)とを比較する(ステップ38)。今回の負荷電流値I1の通電継続時間T1が過去の最大通電継続時間Tmax(I1)を超えている場合は過去の最大通電継続時間Tmax(I1)を更新(Tmax(I1)=T1)し(ステップ39)、負荷電流値に対する最大通電継続時間Tmax(I1)を最大通電時間記憶部11へ記憶する(ステップ40)。
【0048】
そして、表示部12への最大負荷時限特性を表示する表示データとして、最大通電時間記憶部11へ記憶した各負荷電流値に対する最大の通電継続時間を読出し、負荷電流値とその最大の通電継続時間より最大負荷時限特性曲線21を表示部12へ表示する(ステップ41)。その後、新たな負荷電流値の演算を実行する(ステップ31)。
【0049】
また、今回の負荷電流値I1の通電継続時間T1が過去の最大通電継続時間Tmax(I1)以下の場合は、最大通電時間記憶部11の更新処理は行わない。
【0050】
また、負荷電流値が過電流状態か否かを判定し(ステップ50)、I1≦I0の状態で負荷電流値I1が定格電流I0以下の時は、過電流超過フラグFのオン有無を確認し(ステップ61)、過電流超過フラグFがオン(F=1)の時は残余電流積補正処理へ移行する。過電流超過フラグFがオフ(F=0)の時は残余電流積補正処理を実行せずに、次の通電時間計時処理へ移行する。
【0051】
過電流超過フラグがオン(F=1)の場合、残余電流積補正処理へ移行する。残余電流積補正処理としては、残余電流積補正手段により、負荷電流値I1が定格電流I0未満になり前回の処理からの継続時間に比例した放熱補正値Δt・Pを算出し、過去の定格電流を超過した過電流状態時の経過時間内に累積された熱的履歴の累積電流値S2から放熱補正値Δt・Pを減算し、補正された累積電流値S1を算出する(ステップ56)。なお、Pは定数であり単位時間内の放熱係数であり、残余電流積補正処理は、負荷電路1の放熱冷却に対応させている。
【0052】
累積電流値S1がS1<0になった場合は、今回及び前回の累積電流値を初期化、すなわちS1=S2=0とし(ステップ56)、さらに過電流超過フラグfをオフ(F=0)し、定格電流値以下における負荷電流値に応じた通電継続時間の計時処理へ移行する。
累積電流値S1がS1≧0の場合は、すぐに定格電流値以下における負荷電流値に応じた通電継続時間の計時処理へ移行する。
【0053】
定格電流値以下における負荷電流値に応じた通電継続時間の計時処理としては、負荷電流値I1が前回の負荷電流値と同じかを判定し(ステップ34)、負荷電流値I1が同じときは通電継続時間T1に処理時間経過分Δtを加算した時間を今回の通電継続時間T1=T1+Δtとし、通電継続時間を更新する(ステップ35)。負荷電流値I1が前回値から変化したときは、通電継続時間を時間経過分T1=Δtとして、通電継続時間T1を更新する(ステップ36)。次にこの経過時間更新処理によって算出した負荷電流値I1に対する通電継続時間T1を用いて、負荷電流値I1に対する最大通電時間算出処理を実行し(ステップ37〜40)、更新された最大負荷時限特性表示処理を行う(ステップ41)。
【0054】
本実施の形態によれば、電路1を流れる各負荷電流値I1に応じて通電時間計測部10のより計測された最大通電継続時間Tmax(I1)を記憶する最大通電時間記憶部11を備えたことにより、電路1に接続された複数の負荷機器の運転動作による過電流域における負荷電流の変動状況である最大負荷時限特性を把握できるので、過電流引外し特性を容易に設定できる。
【0055】
また、最大負荷時限特性の各負荷電流値に応じた最大通電継続時間の算出方法を熱的履歴を加味した方法としたことで、電子式回路遮断器102の熱的履歴を含む過電流引外し動作と整合が取れた最大負荷時限特性を取得することが可能となり、過電流引外し特性を正確に設定できる。
【0056】
また、定格電流値以下における負荷電流値に応じた通電継続時間の計時処理について熱的履歴を加味しない簡易方式としたことで、制御装置8の処理を軽減できる。
【0057】
また、最大負荷時限特性曲線21と過電流引外し特性曲線20とを表示部12に一緒に表示するので、過電流引外し特性を更に容易に設定できる。
【0058】
また、最大負荷時限特性と過電流引外し特性とを構成するそれぞれのデータを外部機器と送受信するための通信インタフェース13を備えているので、遠隔地からも過電流引外し特性を容易に設定できる。
【0059】
なお、本実施の形態では、長限時特性の場合についてのみ記載したが、短限時特性および瞬時特性の場合についても、最大負荷時限特性21の最大通電継続時間の算出方法を各過電流引き外し処理の方法と同様にしてもよい。
【0060】
また、各負荷電流値I1に応じた最大通電継続時間を最大負荷時限特性とする構成としたが、各負荷電流値を、例えば回路遮断器の定格電流に対するパーセント値に置き換えて、100%以上200%未満、200%以上300%未満といった負荷電流値に範囲を持たせることで、各負荷電流値の範囲とそれに対する最大通電継続時間からなるデータの量を少なくした構成としても良い。
【0061】
実施の形態4.
図9はこの発明の実施の形態4における電子式回路遮断器103のサンプリングによる負荷電流の実効値を得る方法の説明図、図10は電子式回路遮断器103の動作を示すフローチャートである。電子式回路遮断器103の構成を示すブロック図は、図1と同様である。
【0062】
実施の形態3では、負荷電流値I1及び負荷電流値I1に応じた通電継続時間の演算を電流信号の検出サンプリング周期Δt毎に実施したが、本実施の形態では、図9に示すように電路1の交流電源周波数である50Hzと60Hzの周期の公倍数にあたるΔT毎に、負荷電流値I1及び負荷電流値I1に応じた通電継続時間の演算処理を行うものである。その他の構成については、実施の形態3と同様であるので説明は省略する。
【0063】
次に動作について説明する。
図10のフローチャートに従い制御装置8の動作を説明する。本処理は、電流信号のサンプリング周期Δtではなく、電路1の交流電源周波数である50Hzと60Hzの周期の公倍数にあたるΔT毎に実施されるので、電流積積算手段により経過時間であるΔT期間分の電流積を積算するためΣ(Δt・I1)となり、累積電流値S1は、S1=S2+Σ(Δt・I1)により算出する(ステップ51a)。
【0064】
また、残余電流積補正処理も、残余電流積補正手段により負荷電流値I1が定格電流I0未満になり前回の処理からの継続時間ΔT期間分を積算するので、放熱補正値はΣ(Δt・P)となり、前回の熱的履歴の累積電流値S2から放熱補正値ΣΔt・Pを減算して補正された累積電流値S1を算出する(ステップ54a)。
【0065】
定格電流値以下における負荷電流値に応じた通電継続時間の計時処理も、負荷電流値I1が前回の負荷電流値と同じかを判定し(ステップ34)、負荷電流値I1が同じときは通電継続時間(T1)に処理時間経過分ΔTを加算した時間を今回の通電継続時間(T1=T1+Δt)とし、通電継続時間を更新する(ステップ35a)。負荷電流値I1が前回値から変化したときは、通電継続時間を時間経過分、T1=ΔTとして、通電継続時間T1を更新する(ステップ36a)。その他の動作については、実施の形態3と同様であるので、説明を省略する。
【0066】
本実施の形態によれば、電路1を流れる各負荷電流値I1に応じて通電時間計測部10のより計測された最大通電継続時間Tmax(I1)を記憶する最大通電時間記憶部11を備えたことにより、電路1に接続された複数の負荷機器の運転動作による過電流域における負荷電流の変動状況である最大負荷時限特性を把握できるので、過電流引外し特性を容易に設定できる。
【0067】
また、最大負荷時限特性の各負荷電流値に応じた最大通電継続時間の算出方法を熱的履歴を加味した方法としたことで、電子式回路遮断器103の熱的履歴を含んむ過電流引外し動作と整合が取れた最大負荷時限特性21を取得することが可能となり、過電流引外し特性を正確に設定できる。
【0068】
また、定格電流値以下における負荷電流値に応じた通電継続時間の計時処理について熱的履歴を加味しない簡易方式としたことで、制御装置8の処理を軽減できる。
【0069】
また、負荷電流値I1及び負荷電流値I1に応じた通電継続時間の演算を、電路1の交流電源周波数である50Hzと60Hzの周期の公倍数にあたるΔT毎に行うようにしたので、制御装置8の処理を更に軽減できる。
【0070】
また、最大負荷時限特性曲線21と過電流引外し特性曲線20とを表示部12に一緒に表示するので、過電流引外し特性を更に容易に設定できる。
【0071】
また、最大負荷時限特性と過電流引外し特性とを構成するそれぞれのデータを外部機器と送受信するための通信インタフェース13を備えているので、遠隔地からも過電流引外し特性を容易に設定できる。
【0072】
なお、本実施の形態では、長限時特性の場合についてのみ記載したが、短限時特性および瞬時特性の場合についても、最大負荷時限特性21の最大通電継続時間の算出方法を各過電流引き外し処理の方法と同様にしてもよい。
【0073】
また、各負荷電流値I1に応じた最大通電継続時間を最大負荷時限特性とする構成としたが、各負荷電流値を、例えば回路遮断器の定格電流に対するパーセント値に置き換えて、100%以上200%未満、200%以上300%未満といった負荷電流値に範囲を持たせることで、各負荷電流値の範囲とそれに対する最大通電継続時間からなるデータの量を少なくした構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施の形態1における電子式回路遮断器の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1における電子式回路遮断器のサンプリングによる電流の実効値を得る方法の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1における電子式回路遮断器の表示部の要部拡大図である。
【図4】本発明の実施の形態1における電子式回路遮断器の動作を示すフローチャートである。過電流と時限特性の関係を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態2における電子式回路遮断器の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態2における電子式回路遮断器の最大負荷時限特性と過電流引外し特性の関係を示す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態2における電子式回路遮断器の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態3における電子式回路遮断器の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態4における電子式回路遮断器のサンプリングによる負荷電流の実効値を得る方法の説明図である。
【図10】本発明の実施の形態4における電子式回路遮断器の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0075】
2 開閉接点、3 変流器、4 電流検出回路、5 A/D変換回路、
7 特性設定部、8 制御装置、9 引外し回路、10 通電時間計測部、
11 最大通電時間記憶部、100 電子式回路遮断器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電路を開閉する開閉接点と、この開閉接点を開放する引き外し装置と、前記電路の電流を検出する電流検出手段と、前記電路を流れる過電流に応じ前記開閉接点を開放するための過電流引外し特性を設定する過電流引外し特性設定部と、前記過電流引外し特性と前記電流検出手段による検出電流に基づいて前記引き外し装置に引外し信号を出力する制御装置と、前記検出電流に応じた通電継続時間を計時する通電時間計測部と、この通電時間計測部により前記検出電流に応じて計測された最大の通電継続時間を記憶する最大通電時間記憶部と、を備えた電子式回路遮断器。
【請求項2】
電路を開閉する開閉接点と、この開閉接点を開放する引き外し装置と、前記電路の電流を所定の検出周期で検出する電流検出手段と、前記電路を流れる過電流に応じて開閉接点を開放する過電流引外し特性を設定する過電流引外し特性設定部と、前記過電流引外し特性と前記電流検出手段による検出電流に基づいて前記引き外し装置に引外し信号を出力する制御装置と、前記検出電流に応じた最大の通電継続時間を記憶する最大通電時間記憶部と、電流検出手段による検出電流が回路遮断器の定格電流を超えたとき前記検出電流の2乗値と前記検出周期との電流積を演算すると共に前記電流積を積算累積して累積電流値を演算する電流積積算手段と、前記検出電流が前記定格電流以下になったとき、前記累積電流値から冷却相当の熱的履歴値を減算する残余電流積補正手段と、前記電流積積算手段または残余電流積補正手段から得られる前記累積電流値を前記検出電流の2乗値で除算し負荷電流通電時間を演算する負荷電流時限換算手段とを備え、最大通電時間記憶部に記憶させる前記通電継続時間は、負荷電流時限換算手段により演算された負荷電流通電時間とすることを特徴とする電子式回路遮断器。
【請求項3】
電流検出手段による検出電流に応じた通電継続時間を計時する通電時間計測部を備え、最大通電時間記憶部に記憶させる最大通電継続時間は、前記検出電流が回路遮断器の定格電流を越えたとき負荷電流時限換算手段によって得られた負荷電流通電時間とし、前記検出電流が前記定格電流以下になったとき前記通電時間計測部による最大の通電継続時間とすることを特徴とする請求項2記載の電子式回路遮断器。
【請求項4】
最大通電時間記憶部に記憶された検出電流に応じた最大の通電継続時間からなる最大負荷時限特性と過電流引外し特性とを合わせて表示する表示手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電子式回路遮断器。
【請求項5】
最大通電時間記憶部に記憶された検出電流に応じた最大の通電継続時間からなる最大負荷時限特性と過電流引外し特性とを外部機器に送信するための通信手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電子式回路遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−93946(P2010−93946A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261588(P2008−261588)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】