説明

電子撮像装置

【課題】レンズから撮像素子に至る光路上に設けられた光学部材への汚れや異物の付着を効果的に防止した電子撮像装置を提供する。
【解決手段】レンズから撮像素子に至る光路上に光学部材を有する電子撮像装置であって、前記光学部材は前記レンズ側から撥水性又は撥水撥油性を有する膜、赤外カット膜、光学ローパスフィルタ、接着層、赤外カットフィルタ及び反射防止膜をこの順に有し、さらに前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜から前記光学ローパスフィルタの間に金属酸化物を含む導電体又は半導電体からなる低表面抵抗膜が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塵や埃等の異物の付着を防止した光学部材を有する電子撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子光学機器、特に被写体の光学像を電気信号に変換して出力する電子撮像装置において、撮像素子面に至る光路上に設けられた光学部材に塵や埃等の異物が付着すると、取り込んだ画像に異物が写りこんでしまうという問題がある。透光性の高い物質は誘電体で あることが多く、そのため容易に帯電し、外部から侵入した異物や内部で発生した異物を引き寄せてしまう。特にレンズの交換や撮像素子のクリーニングの際などに、光学ローパスフィルタに埃が付いたり、指などが当たって汚れてしまったりするという問題がある。
【0003】
これらの異物が光学部材に付着するのを防止するため、入光面から撮像素子面に至る光路を密閉する防塵構造や、ワイパーや振動ユニットにより異物を機械的に取り除く除塵装置を電子撮像装置内部に取り付けること等が提案されている。
【0004】
これらの防塵構造や除塵装置は高価であるのみならず、これらを備えると電子撮像装置全体の重量が増すという欠点がある。また撮像素子と化学的に結合した異物については除塵装置を用いても取り除くことはできない。外部からエアーを吹き付けて埃等の異物を除去する方法も考えられるが、内部の異物を舞い上げてしまい、逆に異物の付着量が増加してしまうという結果になりかねない。
【0005】
特開2001-339055号(特許文献1)は、図13に示すように、ケーシング50内に固体撮像素子51が設けられており、ケーシング50の開口に、光学ローパスフィルタ52及び赤外線カットフィルタ53からなる透明板状のカバー部材54が取り付けられ、カバー部材54の固体撮像素子51とは反対側の面に導電膜55が形成されており、ケーシング50内を外気から遮断するようにカバー部材54の周縁部とケーシング50との間が密封された固体電子撮像装置を開示している。これにより、レンズの交換等で埃や塵等の異物が固体電子撮像装置内部に侵入したり、シャッタ機構等の撮影機構から磨耗屑が発生したりしても、カバー部材54の表面は導電膜55により覆われているため、帯電を防止することができ異物が付着するのを防ぐことができる。しかしながら、この固体電子撮像装置は、ケーシング50により固体撮像素子51と光学ローパスフィルタ52とが互いに固定された一体的な構造となっているため、利用範囲が限定されてしまう。さらに固体撮像素子51と光学ローパスフィルタ52との間隔が固定されているため、設計の自由度が低いという問題がある。
【特許文献1】特開2001-339055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は、レンズから撮像素子に至る光路上に設けられた光学部材への汚れや異物の付着を効果的に防止した電子撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、電子撮像装置において、レンズから撮像素子に至る光路上に設けられた光学部材の表面に撥水性又は撥水撥油性を有する膜を設け、さらに光学部材の表面抵抗を下げることにより、油脂等の汚れの付着や、帯電による埃等の異物の吸着を効果的に防止できることを発見し、本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明の電子撮像装置は、レンズから撮像素子に至る光路上に光学部材を有する電子撮像装置であって、前記光学部材は前記レンズ側から撥水性又は撥水撥油性を有する膜、赤外カット膜、光学ローパスフィルタ、接着層、赤外カットフィルタ及び反射防止膜をこの順に有し、さらに前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜から前記光学ローパスフィルタの間に金属酸化物を含む導電体又は半導電体からなる低表面抵抗膜が形成されていることを特徴とする。
【0009】
前記光学部材は振動機構に組み込まれ、かつこの振動機構が手ぶれ補正機能を兼ねるのが好ましい。
【0010】
前記光学部材は前記撮像素子側の表面に撥水性又は撥水撥油性を有する膜をさらに有するのが好ましい。
【0011】
前記撥水性又は撥水撥油性がフッ素を含有し、その膜の厚さが0.4〜100 nmであるのが好ましい。
【0012】
前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜に接する前記赤外カット膜の最表面層が二酸化ケイ素からなるのが好ましい。
【0013】
前記赤外カットフィルタ及び前記反射防止膜間に金属酸化物を含む導電体又は半導電体からなる第二の低表面抵抗膜が形成されているのが好ましい。
【0014】
前記接着層を構成する接着剤に金属酸化物を含む導電体を混合し帯電防止効果を持たせたのが好ましい。
【0015】
前記低表面抵抗膜の表面抵抗は1×104Ω/□〜1×1013Ω/□であるのが好ましい。
【0016】
前記光学部材のレンズ側表面の表面抵抗は1×1014Ω/□以下であるのが好ましい。
【0017】
前記金属酸化物は酸化アンチモン、インジウム酸化錫及びアンチモンドープ酸化錫からなる群から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電子撮像装置は、レンズから撮像素子に至る光路上に設けられた光学部材に、汚れの付着や異物の吸着を防止する機構が設けられているため、特にレンズの交換や撮像素子のクリーニングの際などにも、前記光学部材に埃が付かず、指などが当たっても指紋が付着しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[1] 電子撮像装置
図1 は本発明の一実施例である電子撮像装置1を示す。電子撮像装置1は、光入射側から順に配置された第一支持板8a、ステージ板8b及び第二支持板8cを有するステージ装置8と、支持部81bによりステージ板8bに固定された光学部材100及び撮像素子2と、撮像素子2に至る光路L上に設けられた複数のレンズ3a,3b・・・3nとを有する。光学部材100は、撥水性又は撥水撥油性を有する膜11(以下、単に撥水撥油性膜とも言う。)と、赤外カット膜7と、低表面抵抗膜9とをレンズ側からこの順に有する光学ローパスフィルタ4、及び撮像素子2側に反射防止膜10を有する赤外カットフィルタ5が、接着層6を介して接着され一体化しており、支持部81bにより撮像素子2とともに保持されている。光学部材100と撮像素子2との間には空隙が設けられている。
【0020】
図2に示すように、第一支持板8aは、長方形状を有し、上部両側に長方形状の突片80a,80aが設けられており、(i) ステージ板8bに固定された撮像素子2及び光学部材100を収容する長方形状の開口部81a、(ii) 後面において開口部81aの両側に左右対称的に配設され、上下方向に延在する長方形状の磁石82a,82a、(iii) 後面において下部に左右対称的に配設され、左右方向に延在する長方形状の磁石83a,83a、(iv) 後面において突片80a,80aの下部に設けられた位置センサ84a,84a、及び(v) 下端中央部及び突片80a,80aの上部に設けられた孔85a,85a,85aを有する。
【0021】
磁石82a,82aは、S極とN極が左右方向に並ぶように配設されている。磁石83a,83aは、S極とN極が上下方向に並ぶように配設されている。孔85aは、光入射側から大径部85a'と小径部85a''とを有する。第一支持板8aは軟磁性材からなるのが好ましい。
【0022】
図3に示すように、ステージ板8bは、長方形状を有し、上部両側に長方形状の突片80b,80bが設けられており、(i) 撮像素子2及び光学部材100を固定するために中央部に設けられた支持部81b、(ii) 支持部81bの両側において、第一支持板8aの磁石82a,82aに対向する位置に設けられた左右方向駆動用コイル82b,82b、(iii) 下部において、第一支持板8aの磁石83a,83aに対向する位置に設けられた上下方向駆動用コイル83b,83b、(iv) 突片80b,80bの下部において第一支持板8aの位置センサ84a,84aに対向する位置に設けられた位置センサ84b,84b、(v) 下端中央部及び突片80b,80bの上部に設けられた方形状の孔85b,85b,85b、及び(vi) 下部中央部(支持部81bと下端中央部の孔85bとの間)及び突片80b,80bの中央部(位置センサ84bと孔85bとの間)に設けられた回転部材86b,86b,86bを有する。ステージ板8bは非磁性材からなるのが好ましい。
【0023】
左右方向駆動用コイル82b,82b及び上下方向駆動用コイル83b,83bは、ステージ板8bに平行な平面コイルである。左右方向駆動用コイル82b,82bは、渦巻き状をなしており、右辺82b'及び左辺82b''が上下方向に延在している。上下方向駆動用コイル83b,83bは、渦巻き状をなしており、上辺83b'及び下辺83b''が左右方向に延在している。図3では便宜上、左右方向駆動用コイル82b,82b及び上下方向駆動用コイル83b,83bを、電気線を数回巻いたものとして示しているが、実際は数十回巻かれている。
【0024】
回転部材86bは、第二支持板8cの凹部86cに接して回転するようにステージ板8bの後面に取り付けられている。回転部材86bを用いることにより、ステージ板8bと第二支持板8cとの摩擦が小さくなり、ステージ板8bを滑らかに振動させることができる。回転部材86bの数は3以上の整数であれば特に限定されない。
【0025】
図4に示すように、回転部材86bは、円筒状孔861bを有する支持体860b、円筒状孔861bに螺合された調整部材862b及びボール863bを有する。円筒状孔861bの末端が内側に向かって僅かに湾曲しており、ボール863bが遊嵌されている。調整部材862bの凹部に、一端がボール863bに当接し、他端が調整部材862bに当接する圧縮コイルばね864bが配設されており、ボール863bは圧縮コイルばね864bにより付勢されている。
【0026】
図5に示すように、第二支持板8cは、凹字形状を有し、上部両側に長方形状の突片80c,80cが設けられており、(i) ステージ板8bの各回転部材86bに対向する位置に設けられた凹部86c,86c,86c、及び(ii) 第一支持板8aの各孔85aに対向する位置に突設された円柱状突起85c,85c,85cを有する。突起85cは、第一支持板8aの孔85aの小径部85a''に密着する先端部850c、及びネジ85を螺合するための雌ネジ孔851cを有する。第二支持板8cは軟磁性材からなるのが好ましい。
【0027】
図6に示すように、ステージ装置8は、第一及び第二の支持板8a,8cの間にステージ板8bが挟持されている。第一及び第二の支持板8a,8cは、第二支持板8cの各突起85cの先端部850cが第一支持板8aの各孔85aの小径部85a''に係合し、第二支持板8cの各突起85cの孔851cにネジ85が螺合されることにより、固定されている。突起85cは、第一及び第二の支持板8a,8cの間に空隙を設けるスペーサーとして機能している。ステージ板8bは、各孔85bに突起85cを貫通させた状態で、第一及び第二の支持板8a,8cの間に挟持されている。ステージ板8bの方形状の孔85bの辺長は、突起85cの径に比べて大きいので、ステージ板8bは第一及び第二の支持板8a,8cに対して相対的に移動することができるが、孔85bの縁部が突起85cに当接することにより、移動が制限される。すなわち、突起85cは、ステージ板8bの移動を制限するストッパとしても機能する。
【0028】
第一支持板8aの磁石82a,82aと第二支持板8cにおける対向部位との間に左右方向駆動用磁気回路が形成されている。第一支持板8aの磁石83b,83bと第二支持板8cにおける対向部位との間に上下方向駆動用磁気回路が形成されている。すなわち、第一及び第二の支持板8a,8cはヨークとして機能している。ステージ板8bは、左右方向駆動用コイル82b,82b及び左右方向駆動用磁気回路により左右方向に駆動され、上下方向駆動用コイル83b,83b及び上下方向駆動用磁気回路により上下方向に駆動される。
【0029】
突起85cのストッパとしての機能によって、左右方向駆動用コイル82bの右辺82b'と、磁石82aのN極とは常に対向し、左辺82b''と磁石82aのS極とは常に対向するようになっている。上下方向駆動用コイル83bの上辺83b'と、磁石83aのN極とは常に対向し、下辺83b''と磁石83aのS極とは常に対向するようになっている。
【0030】
図7に示すように、各上下方向駆動用コイル83bに、矢印で示す方向の電流を流すと、矢印Fで示す方向(上方向)に電磁力が生じる。従って、ステージ板8bは、図8に示す初期位置から、図9に示すように第一及び第二の支持板8a,8cに対して上方に移動する。一方、各上下方向駆動用コイル83bに、図7の矢印と逆向きの電流を流すと、下方向に電磁力が生じる。従って、ステージ板8bは、図10に示すように第一及び第二の支持板8a,8cに対して下方に移動する。よって、各上下方向駆動用コイル83bに交流電圧を印加することにより、ステージ板8bを上下方向に振動させることができる。ステージ板8bは、振動して突起85cに衝突するので、その衝撃で光学部材100に付着した塵埃を除去することができる。
【0031】
上記と同様にして各左右方向駆動用コイル82bに交流電圧を印加すると、ステージ板8bを左右方向に振動させ、突起85cに衝突させることができるので、その衝撃で光学部材100に付着した塵埃を除去することができる。
【0032】
上下方向駆動用コイル83b,83b及び左右方向駆動用コイル82b,82bにかける交流の電圧及び周波数を制御することにより、衝撃力、振動方向、振動周期等を制御することができる。例えば、上下方向の振動と、左右方向の振動とを順に生じさせたり、この組合せを繰り返したりするといったシーケンスが挙げられる。重力による衝撃も利用できる点から、上下方向の振動が主となるようにステージ板8bを振動させるのが好ましい。
【0033】
二対の位置センサ84a,84bにより、ステージ板8bの初期位置(図8参照)からのずれが検出されるので、除塵を終了した後、ステージ板8bが初期位置に戻るように、各コイル82b,83bに電流を流すようにシーケンスを設定すればよい。位置センサ84a,84bとしては、発光素子と受光素子とからなる光学式位置センサ、磁場を利用するホール素子センサ等が挙げられる。ステージ装置8を駆動させるには、従来のカメラにおいて一般的に利用されている各種回路(電源回路、カメラ全体を統括的に制御するCPU、画像信号処理回路、表示回路等)に加えて、ステージ装置8を駆動させるための回路を設ければよく、その回路構成自体は特に制限されない。例えば、除塵用スイッチを設けて、これを押すとステージ装置8が駆動する回路構成や、カメラをONにした時にステージ装置8が駆動するような回路構成が挙げられる。
【0034】
これらの振動機構は手ぶれ補正機能を兼ねるのが好ましい。
【0035】
[2] 光学部材
光学部材100は、図1(c)に示すように、撥水性又は撥水撥油性を有する膜11と、赤外カット膜7と、低表面抵抗膜9とをレンズ側からこの順に有する光学ローパスフィルタ4、及び撮像素子2側に反射防止膜10を有する赤外カットフィルタ5が、接着層6を介して接着され一体化しており、支持部81bにより撮像素子2とともに保持されている。光学部材100と撮像素子2との間には空隙が設けられている。
【0036】
(1) 低表面抵抗膜
低表面抵抗膜9は金属酸化物を含む導電体又は半導電体からなる。光学ローパスフィルタ4の入光側の面側に低表面抵抗膜9を形成することにより、光学ローパスフィルタ4の表面抵抗が低減し帯電が防止される。このため帯電による埃等の異物の吸着が防止され、また付着しても容易に除去できる。低表面抵抗膜9を形成する金属酸化物としては、透明性を有する導電性酸化物であれば特に限定されないが、五酸化アンチモン(Sb2O5),インジウム酸化錫(ITO)又はアンチモンドープ酸化錫(ATO)、又はこれらの組合せが好ましい。
【0037】
低表面抵抗膜9の膜厚は1〜5000 nmが好ましく、10〜3000 nmがより好ましい。膜厚が1 nm未満であると、帯電防止機能を充分に発揮できず、膜厚が5000 nm超であると低表面抵抗膜9の膜厚が不均一になる上に、透明性が損なわれる。低表面抵抗膜9の表面抵抗は1×10〜1×1013Ω/□であるのが好ましく、1×10〜1×1012 Ω/□であるのがより好ましい。表面抵抗が1×10Ω/□未満であると低表面抵抗膜9の透明性が悪く、1×1013 Ω/□を超えると、低表面抵抗膜9が静電気を放出するのに時間がかかり、実質的に帯電防止による防塵機能が働かない。
【0038】
低表面抵抗膜9は上記金属酸化物を含む導電体又は半導電体からのみなる場合、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、熱CVD、プラズマCVD、光CVD等の化学蒸着法等により形成することができる。なかでも経済性の観点から真空蒸着法が好ましい。また、導電体又は半導電体とバインダの複合物からなる場合は、ゾル-ゲル法等の湿式法等の成膜法により形成することができる。
【0039】
図1に示す例では、低表面抵抗膜9が赤外カット膜7と光学ローパスフィルタ4との間に形成されているが、本発明はこれに限定されず、設置される順番や箇所は必要に応じて適宜変更することができる。例えば、図12に示すように、撥水撥油性膜11と赤外カット膜7との間に設けても良い。さらに、赤外カットフィルタ5と反射防止膜10の間に設けても良い。低表面抵抗膜9が形成されている箇所が増えれば、電子撮像装置1の防塵効果は高まるが、透明性が低下するので、低表面抵抗膜9の総膜厚は前記の膜厚の範囲内にするのが好ましい。
【0040】
(2) 反射防止膜
反射防止膜10を形成する材料は特に限定されず、SiO2、TiO2、MgF2、SiN、CeO2、ZrO2等を用いることができる。反射防止膜10が多層構成の場合、同一の材料による多層膜であっても異なる材料による多層膜であってもよい。例えば、屈折率の異なる複数の膜を適宜組合せることにより、反射防止効率をより高めることが可能である。反射防止膜10は上記真空蒸着法等の物理蒸着法により形成するのが好ましい。
【0041】
(3) 撥水性又は撥水撥油性を有する膜
撥水性又は撥水撥油性膜11(以下、単に撥水撥油性膜という)を最表面に設けることにより、膜表面を化学的に不活性化することができ、タバコの煙、雨水等の汚れの化学的結合や油の付着を防ぐことができる。また撥水撥油性膜11は低表面抵抗膜9及び反射防止膜10の保護膜としても機能する。撥水撥油性膜11はフッ素系樹脂からなるのが好ましい。フッ素系樹脂は表面摩擦抵抗が小さく、表面を軽く擦るだけで、表面を傷つけることなく汚れを拭き取ることができる。フッ素系樹脂は非結晶性であるのが好ましい。非結晶性のフッ素系樹脂からなる層は優れた透明性を有する上に、液架橋力による付着力を低減し、付着した粒子を容易に除去できる。非結晶性のフッ素系樹脂の具体例として、シリコーン系のフッ素系樹脂、フルオロオレフィン系の共重合体、含フッ素脂肪族環構造を有する重合体、及びフッ素化アクリレート系の共重合体が挙げられる。
【0042】
撥水撥油性膜11の膜厚は0.4〜100 nmであるのが好ましく、10〜80 nmであるのがより好ましい。膜厚が0.4nm未満であると、撥水性又は撥水撥油性の機能を充分に発揮されず、その効果の持続性も充分でない。また膜厚が50 nm超であると第一の光学ローパスフィルタ4の透明性及び導電性が損なわれる上に、反射防止膜の光学特性を変えてしまう。撥水撥油性膜11はゾル−ゲル法等の湿式成膜法、および、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、熱CVD、プラズマCVD等の化学蒸着法等により形成することができる。
【0043】
(4) 赤外カット膜
赤外カット膜7を形成する材料は特に限定されず、AlF3、NaF、CaF2、LiF、SiO2、MgF2、HfO2、ZrO2、CeO2、Ta2O5、Nb2O5、ZnS及びTiO2等を用いることができる。赤外カット膜7は、2種以上の異なる材料による多層構成であるのが好ましい。例えば、屈折率の異なる複数の膜を適宜組合せることにより、赤外カット効率をより高めることが可能である。赤外カット膜の最表面層は二酸化ケイ素であるのが好ましい。それにより特にフルオロシリケート化合物であるような撥水撥油性膜11との結合を強固にすることができる。赤外カット膜7はゾル−ゲル法等の湿式成膜法、真空蒸着法等の物理蒸着法、化学蒸着法等により形成することができるが、物理蒸着法又は化学蒸着法により形成するのが好ましい。
【0044】
(5) 光学ローパスフィルタ
光学ローパスフィルタ4は、光学ローパスフィルタとしての機能を備えるものであれば特に限定されないが、複屈折を有する透光性の部材であるのが好ましく、例えば、水晶、リチウムナイオベート等が好ましい。
【0045】
(6) 赤外カットフィルタ
赤外カットフィルタ5は、公知の赤外吸収ガラス、赤外吸収樹脂等からなるものでよいが、赤外吸収ガラスからなるのが好ましい。赤外カットフィルタ5に反射防止膜10を設けることにより、赤外カットフィルタ5の反射率を低減することができる。図11に示すように、前記反射防止膜10の上にさらに撥水撥油性膜11を設けても良い。
【0046】
(7)接着層
接着層6は、公知の接着剤によって形成される。例えば、熱硬化性樹脂接着剤、紫外線硬化性樹脂接着剤が挙げられる。さらに、接着剤には金属酸化物を含む導電体を混合し帯電防止効果を持たせるのが好ましい。
【0047】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0048】
実施例1
水晶からなる光学ローパスフィルタと赤外吸収ガラスとを熱硬化性樹脂接着剤を用いて貼りあわせた基板の赤外吸収ガラス側の面にMgF2層(厚さ67nm)とSiO2層(厚さ17nm)とを真空蒸着法により、この順に積層して反射防止膜を形成した。一方、光学ローパスフィルタ側の面には、ITOを真空蒸着法にて成膜し低表面抵抗膜とした。この低表面抵抗膜の上にTiO2層とSiO2層とを交互に8層ずつ真空蒸着法により成膜し赤外カット膜を形成した。なお、赤外カット膜の最上層はSiO2層とした。さらに、この赤外カット膜の上にフッ素系撥水剤(キヤノンオプトロン株式会社製、「OF-110」)を厚さ10 nmになるように真空蒸着法によって成膜し、光学部品を作製した。
【0049】
実施例2
低表面抵抗膜として、ITOの代わりにATOを使用した以外は、実施例1と同様にして光学部品を作製した。
【0050】
実施例3
リチウムナイオベートからなる光学ローパスフィルタを使用した以外は、実施例1と同様にして光学部品を作製した。
【0051】
実施例4
リチウムナイオベートからなる光学ローパスフィルタを使用した以外は、実施例2と同様にして光学部品を作製した。
【0052】
実施例5
反射防止膜10の面にフッ素系撥水剤(キヤノンオプトロン株式会社製、「OF-110」)を厚さ10nmになるように真空蒸着法によって成膜した以外は、実施例1と同様にして図11に示す光学部品を作製した。
【0053】
比較例1
低表面抵抗膜6を形成しなかった以外は実施例1と同様にして光学部品を作製した。
【0054】
実施例1〜5及び比較例1で得られた光学部品の、表面抵抗、レンズ側の表面にタバコの灰を接触させ持ち上げたときの灰の付着具合、水に対する接触角、全透過率、指でさわったときの指紋の付着具合を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から明らかなように、低表面抵抗膜及び撥水撥油性膜を有する本発明の実施例1〜5の光学部品は、優れた防塵効果を有し、指紋が付きにくいことが分かった。
【0057】
実施例1〜5及び比較例1で得られた光学部品を図1に示す電子撮像装置に組み込み、通常の使用を行ったところ、本発明の実施例1〜5の光学部品をフィルタとして使用した電子撮像装置は、フィルタへの異物や指紋の付着による画像への写りこみが起こらなかった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の電子撮像装置の一例を示し、(a) は部分断面図であり、(b) は図1(a)のステージ装置を示す平面図であり、(c)は図1(b)の光学部品を示す拡大断面図である。
【図2】図1のステージ装置の第一支持板を示し、(a)は正面図であり、(b)は平面図である。
【図3】図1のステージ装置のステージ板を示し、(a)は正面図であり、(b)は平面図である。
【図4】図3のステージ板の拡大断面図である。
【図5】図1のステージ装置の第二支持板を示し、(a)は正面図であり、(b)は平面図である。
【図6】図1のステージ装置を示し、(a)は組立て前の状態を示す平面図であり、(b)は組立て後の状態を示す平面図である。
【図7】図1のステージ装置の通電により生じる電磁力Fの方向を示す拡大正面図である。
【図8】図1のステージ装置の初期状態を示す正面図である。
【図9】図1のステージ装置のステージ板が上に移動した状態を示す正面図である。
【図10】図1のステージ装置のステージ板が下に移動した状態を示す正面図である。
【図11】光学部品の一例を示す断面図である。
【図12】光学部品の他の一例を示す断面図である。
【図13】従来の電子撮像装置を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1・・・電子撮像装置
2・・・撮像素子
3a,3b・・・3n・・・レンズ
4・・・光学ローパスフィルタ
5・・・赤外線フィルタ
50・・・ケーシング
51・・・固体撮像素子
52・・・光学ローパスフィルタ
53・・・赤外線カットフィルタ
54・・・カバー部材
55・・・導電膜
6・・・接着層
7・・・赤外カット膜
8・・・ステージ装置
8a・・・第一支持板
80a・・・突片
81a・・・開口部
82a・・・磁石
83a・・・磁石
84a・・・位置センサ
85a・・・孔
85a'・・・大径部
85a''・・・小径部
8b・・・ステージ板
80b・・・突片
81b・・・支持部
82b・・・左右方向駆動用コイル
82b'・・・右辺
82b''・・・左辺
83b・・・上下方向駆動用コイル
83b'・・・上辺
83b''・・・下辺
84b・・・位置センサ
85b・・・孔
86b・・・回転部材
860b・・・支持体
861b・・・円筒状孔
862b・・・調整部材
863b・・・ボール
864b・・・圧縮コイルばね
8c・・・第二支持板
80c・・・突片
85c・・・円柱状突起
850c・・・先端部
851c・・・雌ネジ孔
86c・・・凹部
9・・・低表面抵抗膜
10・・・反射防止膜
11・・・撥水撥油性膜
100・・・光学部材
L・・・光路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズから撮像素子に至る光路上に光学部材を有する電子撮像装置であって、前記光学部材は前記レンズ側から撥水性又は撥水撥油性を有する膜、赤外カット膜、光学ローパスフィルタ、接着層、赤外カットフィルタ及び反射防止膜をこの順に有し、さらに前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜から前記光学ローパスフィルタの間に金属酸化物を含む導電体又は半導電体からなる低表面抵抗膜が形成されていることを特徴とする電子撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子撮像装置において、前記光学部材は振動機構に組み込まれ、かつこの振動機構が手ぶれ補正機能を兼ねることを特徴とする電子撮像装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子撮像装置において、前記光学部材が前記撮像素子側の表面に撥水性又は撥水撥油性を有する膜をさらに有することを特徴とする電子撮像装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電子撮像装置において、前記撥水性又は撥水撥油性がフッ素を含有し、その膜の厚さが0.4〜100 nmであることを特徴とする電子撮像装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電子撮像装置において、前記撥水性又は撥水撥油性を有する膜に接する前記赤外カット膜の最表面層が二酸化ケイ素からなることを特徴とする電子撮像装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電子撮像装置において、前記赤外カットフィルタ及び前記反射防止膜間に金属酸化物を含む導電体又は半導電体からなる第二の低表面抵抗膜が形成されていることを特徴とする電子撮像装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の電子撮像装置において、前記接着層を構成する接着剤に金属酸化物を含む導電体を混合し帯電防止効果を持たせたことを特徴とする電子撮像装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の電子撮像装置において、前記低表面抵抗膜の表面抵抗が1×104Ω/□〜1×1013Ω/□であることを特徴とする電子撮像装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の電子撮像装置において、前記光学部材のレンズ側表面の表面抵抗が1×1014Ω/□以下であることを特徴とする電子撮像装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の電子撮像装置において、前記金属酸化物が酸化アンチモン、インジウム酸化錫及びアンチモンドープ酸化錫からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする電子撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−49910(P2009−49910A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216197(P2007−216197)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】