説明

電子放出源用ペーストの製造方法

【課題】 電子放出に要する駆動電圧を低くできる電子放出源用ペーストを提供する。
【解決手段】 上記課題は、分散処理用有機溶媒にカーボンナノチューブとガラスフリットを分散させる分散工程、前記分散工程を経た分散処理用有機溶媒と水を混合し、カーボンナノチューブおよびガラスフリットを凝集させる分離工程、前記分離工程を経た分散処理用有機溶媒の水溶液を濾過する濾過工程、前記濾過工程によって得られた濾物を真空中で乾燥する乾燥工程、前記乾燥工程によって乾燥された濾物と、バインダー樹脂と、ペースト用溶媒とを混練する混練工程とを備えたことを特徴とする電子放出源用ペーストの製造方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極基板上に塗布する電子放出源用ペーストの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電極基板上に塗布する電子放出源用ペーストとしては、例えば、カーボンナノチューブと、ガラスフリットと、バインダー樹脂と、溶媒とを含むものが知られている(特許文献1)。例えば、カーボンナノチューブ3%、バインダーとしてエチルセルロース25%、ベヒクルとしてガラスパウダー5%、溶媒としてテルピネオール67%よりなるものが用いられ、これを基板に20ミクロンの厚さでスクリーン印刷し、400℃で焼成後、粘着テープによる引き剥がしを行っている。この方法で得られた、電極基板上に固着されたカーボンナノチューブのSEM像を図3のAとBに示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−56818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着テープをペースト膜の表面に貼り付けたときの状態をミクロ的に観察すると、粘着テープは、ペースト膜全面に付着するのではなく、主としてペースト膜の表面に顔を出しているガラスフリットに付着している。粘着テープに付着したガラスフリットの一部は、粘着テープと一体となって引き剥がされる。ガラスフリットにはカーボンナノチューブが絡みついているので、ガラスフリットが引き剥がされると、それに伴ってカーボンナノチューブが起毛する。また、基板に強固に溶着したガラスフリットは引き剥がされないが、そのガラスフリットの周囲に付着しているカーボンナノチューブは多くが引き剥がされ、一部がガラスフリットに付着したまま起毛する。すなわち、ガラスフリットに絡みついているカーボンナノチューブが多いと、ペースト膜の単位面積あたりの起毛するカーボンナノチューブが多くなる。
【0005】
従来のペースト膜は、カーボンナノチューブが全体に均一に分布しているため、ガラスフリットに絡みついていないカーボンナノチューブが多かった。その様なカーボンナノチューブは起毛しにくいので、結果的に電子放出源の電子放出効率が低くなる原因となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するべくなされたものであり、有機溶媒にカーボンナノチューブとガラスフリットを分散し、それを濾過した残渣である濾物を用いてペーストを製造することにより、ガラスフリットに絡みつくカーボンナノチューブが多くなり、粘着テープの引き剥がし時に起毛するカーボンナノチューブが増え、電子放出源の電子放出効率が高くなることを見出してなされたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、分散処理用有機溶媒にカーボンナノチューブとガラスフリットを分散させる分散工程、
前記分散工程を経た分散処理用有機溶媒と水を混合し、カーボンナノチューブおよびガラスフリットを凝集させる分離工程、
前記分離工程を経た分散処理用有機溶媒の水溶液を濾過する濾過工程、
前記濾過工程によって得られた濾物を真空中で乾燥する乾燥工程、
前記乾燥工程で得られた濾物と、バインダー樹脂と、ペースト用溶媒とを混練する混練工程を備えたことを特徴とする電子放出源用ペーストの製造方法によりなるものである。
【0008】
ここで、前記分散工程において、前記分散処理用有機溶媒に分散媒を混入させてもよい。また、前記分散工程において、前記分散処理用有機溶媒に酸を混入させてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、分散処理用有機溶媒にカーボンナノチューブとガラスフリットを分散し、その濾物を用いてペーストを製造することにより、ガラスフリットに絡みつくカーボンナノチューブが増える。そうすることにより、引き剥がし時に起毛するカーボンナノチューブが増えるので、従来法に比べ電子放出に要する駆動電圧が低くでき、省エネ効果が高くなる。また電子放出量の面分布が均一となるので、例えば電子を蛍光物質に当て光らせる発光デバイスなどに使用すれば性能の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明のペーストと従来法によるペーストを用いて作製した電子放出源の電子放出特性を示すグラフである。
【図2】本発明のペーストを用いて作製した印刷膜の起毛後の状態を倍率を変えて示すSEM像である。
【図3】従来の方法で電極基板上に固着されたカーボンナノチューブのSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電子放出源用ペーストの製造方法は、カーボンナノチューブと、ガラスフリットと、バインダー樹脂とペースト用溶媒とを混練するものであり、カーボンナノチューブとガラスフリットを前処理するところに特徴がある。
【0012】
前処理は、まず、分散処理用有機溶媒にカーボンナノチューブとガラスフリットを分散させて行う。その後、カーボンナノチューブとガラスフリットが分散している分散処理用有機溶媒を水で希釈する。しばらく放置すると、カーボンナノチューブとガラスフリットが塊となって凝集、分離する。これは、水に対するカーボンナノチューブの分散性に対し、分散処理用有機溶媒に対する分散性が著しく高いからである。この際、分散処理用有機溶媒に浮遊しているガラスフリットを多く取り込み、カーボンナノチューブが凝集する。
【0013】
この分離した状態の分散処理用有機溶媒水溶液を、濾紙で濾過する。すると、濾紙上にカーボンナノチューブとガラスフリットが濾物として残る。その濾物を真空乾燥装置で乾燥させ、有機溶媒成分などを揮発させる。
【0014】
分散処理用有機溶媒には、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、エチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系など、カーボンナノチューブに不活性な一般の有機溶媒を広く利用できる。カーボンナノチューブに対する分散処理用有機溶媒の使用量は、カーボンナノチューブの分散状態を維持できるように定められ、カーボンナノチューブの重量に対して100〜5000倍程度、特に300〜1000倍程度が適当である。
【0015】
ガラスフリットは、ベヒクルとして使用されるものであり、ガラスパウダーなどを用いることができる。
カーボンナノチューブ及びガラスフリットの分散方法は、公知の分散方法を用いることができ、例えば超音波を利用することができる。
この様にして前処理されたカーボンナノチューブ及びガラスフリットを、バインダー樹脂及びペースト用溶媒と混練することによりペーストが作成される。
バインダー樹脂は、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂などが使用可能である。
【0016】
また、ペースト用溶媒は、テルピオネール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノールなどの有機溶媒が使用可能である。酸処理用有機溶媒の沸点が100℃未満なのに対し、ペースト用溶媒の沸点は100℃以上であるものが望ましい。
【0017】
最終的な配合比は、カーボンナノチューブが1〜5重量%程度、バインダー樹脂が10〜30重量%程度、ガラスフリット(ベヒクル)が1〜10重量%程度、そして溶媒は40〜80重量%程度が適当である。
【0018】
この様にして出来たペーストは、表面にITO(錫ドープ酸化インジウム)皮膜を有するガラス基板などに塗布してペースト膜を形成する。ペースト膜の厚みは、乾燥厚みで1〜10μm程度でよく、例えば、スクリーン印刷等で膜を形成できる。
【0019】
ペースト膜を形成したら、次いで焼成する。焼成とは、ペースト中の有機成分を炭化させると共に、基板との密着性を強固にするために行う。焼成は大気中で、温度は400〜500℃程度で10〜30分程度行なえばよい。焼成後は、そのまま粘着テープの貼り付けと引き剥がしを行い、カーボンナノチューブを起毛させる。
【0020】
前処理において、分散処理用有機溶媒に凝集剤を混入することができる。凝集剤には、有機溶媒に対して溶解度が高く、水には低い物質を用いると、凝集効果をより一層高めることが出来る。また、凝集剤には比較的低温度にて昇華性を有する物質を用いると、その後の乾燥工程において凝集剤を昇華させることによって容易に取り除くことが出来る。この昇華は三重点の温度以下において、全ての固体で起こる現象であり、本発明では液体及び溶液状態においてカーボンナノチューブを分解せず、分散が可能な物質であれば何でもよい。なお、三重点が常温以上にあり、常温での蒸気圧が比較的高い物質としては、パラジクロルベンゼンの他にナフタレン、d−カンファー(樟脳)などがあり、これらの物質を用いると常温での昇華が可能であるので、工業的に有利である。例えば、パラジクロルベンゼンは常温における蒸気圧が比較的高い(約0.17kPa)物質であるために、常温にて迅速な昇華が行える。また、融点は常温以上のものが望ましい。融点の上限は特に制限されないが、実用上500℃程度までのものがよい。
【0021】
また、前処理において、分散処理用有機溶媒に酸を混入することのできる。酸の添加は、水を加えた際の凝集速度を速める効果がある。この酸は、強酸、例えば、硝酸、塩酸、硫酸などの鉱酸あるいは、スルホン酸や酢酸などの強酸性有機酸がよい。これらの酸は、水溶液や低級アルコールなどのアルコール溶液等として用いることができ、酸処理用有機溶媒に対する酸の濃度としては、0.001〜1vol%程度、特に0.01〜0.5vol%程度が好ましい。カーボンナノチューブに対する酸の使用量としては、重量にして0.1〜5倍程度、特に0.2〜1倍程度が適当である。
【実施例】
【0022】
(1) カーボンナノチューブ0.1g、パラジクロロベンゼン3g、ガラスフリット0.7g、5%硝酸アルコール1ccを、メタノール30ccに入れて、10分間超音波分散させた。
(2) その後、イオン交換水70ccを混ぜて、10分間静置した。
(3) その水溶液を濾過して、濾物を採取した。
(4) 採取した濾物を約一日間真空乾燥し、濾物に残った溶媒、水を蒸発させると共にパラジクロロベンゼンを昇華させ取り除いた。
(5) 乾燥した濾物と、バインダー樹脂2.2g、テルピネオール(溶媒)7gを自動乳鉢に入れ、1時間混練した。
(6) さらに、(5)を回転ミキサーで30分間混ぜた。
【0023】
この様にして得られたペーストを、ITO膜を有するガラス基板上に約20μmの厚さにスクリーン印刷した。これを100℃のホットプレートの上に約10分間置き、溶媒を蒸発させてペーストを乾燥させた後、大気中450℃で10分間焼成した。
【0024】
焼成後は、粘着テープを軽く押し付けて貼り付け、次いで粘着テープを引き剥がしてカーボンナノチューブ電子放出源を得た。
【0025】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を場所と倍率を変えて撮影し、図2に示す像を得た。同図Bに示すように、ガラスフリットにカーボンナノチューブ(CNT)が多数絡みついていることがわかる。このCNT電子放出源で電流密度1mA/cmの放出電流が得られる平均電界値は図1に示すように、2.0V/μmであった。尚、図1において従来法とあるのは、ガラスフリットを(1)の工程では添加せず、(5)の工程で添加したほかは同様に処理して得られたものである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明で得られるカーボンナノチューブ電子放出源は、電子放出特性にすぐれていることから、電界放出方電子放出素子として、種々の電気機器、電子装置に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散処理用有機溶媒にカーボンナノチューブとガラスフリットを分散させる分散工程、
前記分散工程を経た分散処理用有機溶媒と水を混合し、カーボンナノチューブおよびガラスフリットを凝集させる分離工程、
前記分離工程を経た分散処理用有機溶媒の水溶液を濾過する濾過工程、
前記濾過工程によって得られた濾物を真空中で乾燥する乾燥工程、
前記乾燥工程によって乾燥された濾物と、バインダー樹脂と、ペースト用溶媒とを混練する混練工程
とを備えたことを特徴とする電子放出源用ペーストの製造方法。
【請求項2】
前記分散工程において、前記分散処理用有機溶媒に昇華性を有する凝集剤を混入させることを特徴とする請求項1に記載の電子放出源用ペーストの製造方法。
【請求項3】
前記分散工程において、前記分散処理用有機溶媒に酸を混入させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子放出源用ペーストの製造方法。
【請求項4】
前記分散処理用有機溶媒は、ケトン類、アルコール類、エステル類、エーテル類または芳香族炭化水素から選択される1種類以上の液体からなることを特徴とする請求項1及至請求項3のいずれかに記載の電子放出源用ペーストの製造方法。
【請求項5】
前記分散処理用有機溶媒は、ケトン類、アルコール類、エステル類、エーテル類または芳香族炭化水素から選択される1種類以上の液体と、前記液体と親和性のある液体との混合液であることを特徴とする請求項1及至請求項3のいずれかに記載の電子放出源用ペーストの製造方法。
【請求項6】
前記凝集剤は、パラジクロルベンゼン、ナフタレンまたは樟脳であることを特徴とする請求項2及至請求項5のいずれかに記載の電子放出源用ペーストの製造方法。
【請求項7】
前記酸は、硝酸、塩酸、硫酸もしくは酢酸のいずれかの水溶液またはアルコール溶液であることを特徴とする請求項3及至請求項6のいずれかに記載の電子放出源用ペーストの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−198602(P2011−198602A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63867(P2010−63867)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】