電子放出装置
【課題】電子放出部に炭素繊維複合材料を用いた電子放出装置を提供する。
【解決手段】本発明の電子放出装置5は、カソード電極50と、カソード電極50と電気的に接続するシート状の電子放出部52と、少なくとも絶縁部54を介して電子放出部52と電気的に絶縁するアノード電極56と、を具備している。電子放出部52は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなる。電子放出部52は、アノード電極56へ向けて電子を放出する電子放出領域522を有し、電子放出領域522は、電子放出部52の側壁に形成される。
【解決手段】本発明の電子放出装置5は、カソード電極50と、カソード電極50と電気的に接続するシート状の電子放出部52と、少なくとも絶縁部54を介して電子放出部52と電気的に絶縁するアノード電極56と、を具備している。電子放出部52は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなる。電子放出部52は、アノード電極56へ向けて電子を放出する電子放出領域522を有し、電子放出領域522は、電子放出部52の側壁に形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出部に炭素繊維複合材料を用いた電子放出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カーボンナノファイバーはマトリックスに分散させにくいフィラーであった。本発明者等が先に提案した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、これまで困難とされていたカーボンナノファイバーの分散性を改善し、エラストマーにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができた(例えば、特許文献1参照)。このような炭素繊維複合材料の製造方法によれば、エラストマーとカーボンナノファイバーを混練し、剪断力によって凝集性の強いカーボンナノファイバーの分散性を向上させている。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合し、この状態で、分子長が適度に長く、分子運動性の高い(弾性を有する)エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの変形に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散していた。このように、マトリックスへのカーボンナノファイバーの分散性を向上させることで、高価なカーボンナノファイバーを効率よく複合材料のフィラーとして用いることができるようになった。
【0003】
また、近年、省エネルギー化の要求から電界を印加することによって電子を放出させる電界電子放出現象を利用した電子放出装置として、例えば、薄型テレビなどのディスプレイ(FED)や平面照明装置などが提案されている。本発明者等は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが均一に分散された炭素繊維複合材料によって望ましい電子放出特性を得ることに成功し、炭素繊維複合材料を電子放出材料として用いた電子放出装置を提案した(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−97525号公報
【特許文献2】特開2006−167710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、電子放出部に炭素繊維複合材料を用いた電子放出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる電子放出装置は、
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有し、
前記電子放出領域は、前記電子放出部の側壁に形成されたことを特徴とする。
【0006】
本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の側壁に電子放出領域が形成されるので、構造を簡素化することができる。特に、従来の電子放出装置はアノード電極もしくはゲートと電子放出部との離間距離をスペーサで高精度に調整する必要があったが、本発明にかかる電子放出装置は電子放出部の側壁が電子放出領域となるため、比較的容易に優れた電子放出特性を得ることができる。また、本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の側壁が電子放出領域となるため、アノード電極の比較的広い範囲に電子を放出することができる。
【0007】
本発明にかかる電子放出装置は、
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、少なくとも前記アノード電極側に開口した開口部を有し、
前記開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であることを特徴とする。
【0008】
本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域として形成されるので、構造を簡素化することができる。特に、従来の電子放出装置はアノード電極もしくはゲートと電子放出部との離間距離をスペーサで高精度に調整する必要があったが、本発明にかかる電子放出装置は電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域となるため、比較的容易に優れた電子放出特性を得ることができる。また、本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域となるため、開口部の側壁によって囲まれたアノード電極の比較的広い範囲に電子を放出することができる。
【0009】
本発明にかかる電子放出装置において、
前記電子放出部の前記開口部は、シート状の前記電子放出部を貫通する貫通孔であることができる。
【0010】
本発明にかかる電子放出装置は、
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
前記電子放出部に積層されたシート状の絶縁部と、
前記絶縁部に積層されたシート状のアノード電極と、
を具備し、
前記絶縁部は、開口部を有し、
前記開口部は、前記電子放出部と前記アノード電極とに臨んで設けられ、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記開口部を通って前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有することを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部に絶縁部が積層され、さらに絶縁部にアノード電極が積層された比較的単純な構成とすることができる。特に、従来の電子放出装置はアノード電極もしくはゲートと電子放出部との離間距離をスペーサで高精度に調整する必要があったが、本発明にかかる電子放出装置は電子放出部と絶縁部とアノード電極とが積層された、比較的簡単な構成でも優れた電子放出特性を得ることができる。また、本発明にかかる電子放出装置によれば、絶縁部に電子放出領域とアノード電極とを結ぶ開口部を形成することで、比較的簡単な構成でアノード電極の比較的広い範囲に電子を放出することができる。
【0012】
本発明にかかる電子放出装置において、
前記絶縁部の前記開口部は、シート状の前記絶縁部を貫通する貫通孔であることができる。
【0013】
本発明にかかる電子放出装置は、
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続する電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を含み、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有し、
前記アノード電極を含む第1の壁部と、前記電子放出領域を含む第2の壁部と、を含む壁部によって囲まれた電子放出素子を有することを特徴とする。
【0014】
本発明にかかる電子放出装置によれば、アノード電極を含む第1の壁部と、電子放出領域を含む第2の壁部と、を含む壁部によって囲まれた電子放出素子を有する比較的単純な構成とすることができる。特に、従来の電子放出装置はアノード電極もしくはゲートと電子放出部との離間距離をスペーサで高精度に調整する必要があったが、本発明にかかる電子放出装置は電子放出素子を形成した比較的簡単な構成でも優れた電子放出特性を得ることができる。また、本発明にかかる電子放出装置によれば、第1の壁部と第2の壁部とを含む壁部によって囲まれた比較的簡単な構成の電子放出素子を得ることができる。
【0015】
本発明にかかる電子放出装置において、前記アノード電極は、蛍光体を含む蛍光部を有することができる。
【0016】
本発明にかかる電子放出装置において、前記絶縁部は、蛍光体を含むことができる。
【0017】
本発明にかかる電子放出装置は、
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、少なくとも前記アノード電極側に開口した開口部を有し、
前記アノード電極は、前記開口部側に蛍光部を有し、
前記開口部と前記蛍光部との間に配置されたグリッド電極を有し、
前記開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であることを特徴とする。
【0018】
本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域として形成されるので、構造を簡素化することができる。特に、従来の電子放出装置はアノード電極もしくはゲートと電子放出部との離間距離をスペーサで高精度に調整する必要があったが、本発明にかかる電子放出装置は電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域となるため、比較的容易に優れた電子放出特性を得ることができる。また、本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域となるため、開口部の側壁によって囲まれたアノード電極の比較的広い範囲に電子を放出することができる。さらに、開口部と蛍光部との間にグリッド電極を配置することで発光パターンが均一化することができる。
【0019】
本発明にかかる電子放出装置は、
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
前記アノード電極の前記電子放出部側に形成された蛍光部と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、第1の開口部を有し、
前記第1の開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であり、
前記絶縁部は、第2の開口部を有し、
前記蛍光部で発光された光を前記第1の開口部及び前記第2の開口部を通過して取り出す発光部を有することを特徴とする。
【0020】
本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の第1の開口部の側壁が電子放出領域として形成されるので、構造を簡素化することができる。特に、従来の電子放出装置はアノード電極もしくはゲートと電子放出部との離間距離をスペーサで高精度に調整する必要があったが、本発明にかかる電子放出装置は電子放出部と絶縁部とによって前記離間距離を容易に設定できる。また、本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域となるため、開口部の側壁によって囲まれたアノード電極の比較的広い範囲に電子を放出することができる。さらに、従来の電子放出装置はアノード電極側に発光部を有するが、本発明にかかる電子放出装置によれば電子放出部に第1の開口部が形成されているため、蛍光部で発光された光をアノード電極とは反対側の発光部から取り出すことができる。
【0021】
本発明にかかる電子放出装置において、
前記発光部は、第1の発光部であって、
前記蛍光部で発光された光を前記アノード電極側から取り出す第2の発光部をさらに有することができる。
【0022】
本発明にかかる電子放出装置において、前記炭素繊維複合材料は、前記エラストマーに、前記カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて得られることができる。
【0023】
本発明にかかる電子放出装置において、前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることができる。
【0024】
本発明にかかる電子放出装置において、前記炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100〜3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
本発明の一実施形態にかかる電子放出装置は、カソード電極と、前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、を具備し、前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有し、前記電子放出領域は、前記電子放出部の側壁に形成されたことを特徴とする。
【0027】
本発明の一実施形態にかかる電子放出装置は、カソード電極と、前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、を具備し、前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、少なくとも前記アノード電極側に開口した開口部を有し、前記開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であることを特徴とする。
【0028】
本発明の一実施形態にかかる電子放出装置は、カソード電極と、前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、前記電子放出部に積層されたシート状の絶縁部と、前記絶縁部に積層されたシート状のアノード電極と、を具備し、前記絶縁部は、前記電子放出部と前記アノード電極とを連通する開口部を有し、前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記開口部を通って前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有することを特徴とする。
【0029】
本発明の一実施形態にかかる電子放出装置は、カソード電極と、前記カソード電極と電気的に接続する電子放出部と、少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、を含み、前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有し、前記アノード電極を含む第1の壁部と、前記電子放出領域を含む第2の壁部と、を含む壁部によって囲まれた電子放出素子を有することを特徴とする。
【0030】
本発明の一実施形態にかかる電子放出装置は、カソード電極と、前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、を具備し、前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、少なくとも前記アノード電極側に開口した開口部を有し、前記アノード電極は、前記開口部側に蛍光部を有し、前記開口部と前記蛍光部との間に配置されたグリッド電極を有し、前記開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であることを特徴とする。
【0031】
本発明の一実施形態にかかる電子放出装置は、カソード電極と、前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、前記アノード電極の前記電子放出部側に形成された蛍光部と、を具備し、前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、第1の開口部を有し、前記第1の開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であり、前記絶縁部は、第2の開口部を有し、前記蛍光部で発光された光を前記第1の開口部及び前記第2の開口部を通過して取り出す発光部を有することを特徴とする。
【0032】
(I)エラストマー
まず、炭素繊維複合材料に用いられるエラストマーについて説明する。
エラストマーは、分子量が好ましくは5000〜500万、さらに好ましくは2万〜300万である。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーは、カーボンナノファイバーを分散させるために良好な弾性を有している。エラストマーは、粘性を有しているので凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、さらに弾性を有することによってカーボンナノファイバー同士を分離することができるため好ましい。
【0033】
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100〜3000μ秒、より好ましくは200〜1000μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができ、すなわちカーボンナノファイバーを分散させるために適度な弾性を有することになる。また、エラストマーは粘性を有しているので、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合したときに、エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノファイバーの相互の隙間に容易に侵入することができる。
【0034】
また、エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100〜2000μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、上記の条件を有する未架橋体を架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ上記範囲に含まれる。
【0035】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0036】
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかるエラストマーは中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0037】
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーの末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有する。かかる不飽和結合または基としては、例えば、二重結合、三重結合、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつであることができる。
【0038】
本実施の形態では、エラストマーの主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、カーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。そして、エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混練する際に、エラストマーの分子鎖が切断されて生成したフリーラジカルは、カーボンナノファイバーの欠陥を攻撃し、カーボンナノファイバーの表面にラジカルを生成すると推測できる。
【0039】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。特に、エラストマーの混練の際にフリーラジカルを生成しやすい極性の高いエラストマー、例えば、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)などが好ましい。また、極性の低いエラストマー、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)であっても、混練の温度を比較的高温(例えばEPDMの場合、50℃〜150℃)とすることで、フリーラジカルを生成するので本発明に用いることができる。
【0040】
本実施の形態のエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは架橋体あるいは未架橋体のいずれであってもよいが、未架橋体を用いることが好ましい。
【0041】
(II)カーボンナノファイバー
次に、カーボンナノファイバーについて説明する。
カーボンナノファイバーは平均直径が0.5ないし500nmであることが好ましく、カーボンナノファイバーはストレート繊維状であっても、湾曲繊維状であってもよい。また、電子放出材料に用いられるカーボンナノファイバーとしては、平均長さが20μm程度が好ましい。
【0042】
カーボンナノファイバーの配合量は、特に限定されず、用途に応じて設定できるが、炭素繊維複合材料中のカーボンナノファイバーの充填率は0.1〜40体積%が好ましい。例えば、多層ウォールカーボンナノファイバーの場合、炭素繊維複合材料100体積%中10〜40体積%の含有量とすることが好ましい。また、単層ウォールカーボンナノファイバーを用いた場合には、炭素繊維複合材料100体積%中0.2〜40体積%の含有量とすることが好ましい。
【0043】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブ、気相成長炭素繊維といった名称で称されることもある。
【0044】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0045】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0046】
カーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0047】
電子放出材料に用いられるカーボンナノファイバーとしては、平均直径が100nm未満の単層カーボンナノチューブ(SWNT)、2層カーボンナノチューブ(DWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)が好ましく、特に、電子放出性能はDWNTが優れている。
【0048】
(III)炭素繊維複合材料
次に、炭素繊維複合材料について説明する。
本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが均一に分散され、電子放出材料として用いることができる。
【0049】
炭素繊維複合材料におけるカーボンナノファイバーの分散の状態は、炭素繊維複合材料をパルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行うことで判定できる。
【0050】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法により測定されたスピン−格子緩和時間(T1)は、スピン−スピン緩和時間(T2)とともに物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、炭素繊維複合材料のスピン−格子緩和時間が短いほど分子運動性が低く、炭素繊維複合材料は固いといえ、そしてスピン−格子緩和時間が長いほど分子運動性が高く、炭素繊維複合材料は柔らかいといえる。
【0051】
炭素繊維複合材料は、基材であるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されている。このことは、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなる。なお、架橋体の炭素繊維複合材料におけるスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーの混合量に比例して変化する。
【0052】
また、エラストマー分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。なお、第1のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fn)は、fn+fnn=1であるので、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より大きくなる。
【0053】
以上のことから、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が以下の範囲にあることが望ましい。
【0054】
すなわち、炭素繊維複合材料において、150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100〜3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0055】
本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、しきい値電界が4V/μm以下であって、飽和電流密度が10mA/cm2以上の高効率の電子放出材料であることが望ましい。本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料によれば、カーボンナノファイバーをエラストマー、特に界面相で包み込むことで、長寿命でありながら、低電界における電子放出を可能とすることができる。また、本実施の形態にかかる電子放出材料は、エラストマーをマトリクスとしながら、金属に近い電気伝導性を有するので、電子注入が可能である。さらに、エラストマーをマトリクスとしているため、電子放出材料の形態の自由度が高く、多くの用途に柔軟に対応可能である。また、炭素繊維複合材料を構成するエラストマーは、架橋してもよいし、無架橋であってもよい。
【0056】
(IV)炭素繊維複合材料の製造方法
次に、炭素繊維複合材料の製造方法について図1を用いて詳細に説明する。
図1は、オープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【0057】
原料となるエラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100〜3000μ秒であることが好ましい。図1に示すように、第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、例えば0.5mm〜1.0mmの間隔で配置され、図1において矢印で示す方向に回転速度V1,V2で正転あるいは逆転で回転する。まず、第1のロール20に巻き付けられたエラストマー30の素練りを行ない、エラストマー分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっているため、素練りによって生成されたエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノファイバーと結びつきやすい状態となる。
【0058】
次に、第1のロール20に巻き付けられたエラストマー30のバンク34に、カーボンナノファイバー40を投入し、混練する。エラストマー30とカーボンナノファイバー40とを混合する工程は、オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
【0059】
さらに、第1のロール10と第2のロール20とのロール間隔dを、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0〜0.5mmの間隔に設定し、混合物をオープンロールに投入して薄通しを複数回行なう。薄通しの回数は、例えば5回〜10回程度行なうことが好ましい。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05〜3.00であることが好ましく、さらに1.05〜1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。薄通しして得られた炭素繊維複合材料は、ロールで圧延されてシート状に分出しされる。この薄通しの工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を好ましくは0〜50℃、より好ましくは5〜30℃の比較的低い温度に設定して行われ、エラストマー30の実測温度も0〜50℃に調整されることが好ましい。このようにして得られた剪断力により、エラストマー30に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバー40がエラストマー分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30中に分散される。特に、エラストマー30は、弾性と、粘性と、カーボンナノファイバー40との化学的相互作用と、を有するため、カーボンナノファイバー40を容易に分散することができる。そして、カーボンナノファイバー40の分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。
【0060】
より具体的には、オープンロールでエラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。カーボンナノファイバーの表面は高度にグラファイト化されていないため、表面に非結晶部分が適度に残されていて活性が高いため、エラストマー分子と結合し易い。次に、エラストマーに強い剪断力が作用すると、エラストマー分子の移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。本実施の形態によれば、炭素繊維複合材料が狭いロール間から押し出された際に、エラストマーの弾性による復元力で炭素繊維複合材料はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用した炭素繊維複合材料をさらに複雑に流動させ、カーボンナノファイバーをエラストマー中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0061】
エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、前記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をエラストマーに与えることができればよい。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。
【0062】
炭素繊維複合材料の製造方法は、薄通し後の分出しされた炭素繊維複合材料に架橋剤を混合し、架橋して架橋体の炭素繊維複合材料としてもよい。また、炭素繊維複合材料は、架橋させずに成形してもよい。炭素繊維複合材料の製造方法において、通常、エラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。これらの配合剤は、例えばオープンロールにおけるカーボンナノファイバーの投入前にエラストマーに投入することができる。
【0063】
なお、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法においては、ゴム弾性を有した状態のエラストマーにカーボンナノファイバーを直接混合したが、これに限らず、以下の方法を採用することもできる。まず、カーボンナノファイバーを混合する前に、エラストマーを素練りしてエラストマーの分子量を低下させる。エラストマーは、素練りによって分子量が低下すると、粘度が低下するため、凝集したカーボンナノファイバーの空隙に浸透しやすくなる。原料となるエラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100〜3000μ秒のゴム状弾性体である。この原料のエラストマーを素練りしてエラストマーの分子量を低下させ、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒を越える液体状のエラストマーを得る。なお、素練り後の液体状のエラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料のエラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の5〜30倍であることが好ましい。この素練りは、エラストマーが固体状態のままで行なう一般的な素練りとは異なり、強剪断力を例えばオープンロール法で与えることによってエラストマーの分子を切断し分子量を著しく低下させ、混練に適さない程の流動を示すまで、例えば液体状態になるまで行なわれる。この素練りは、例えばオープンロール法を用いた場合、ロール温度20℃(素練り時間最短60分)〜150℃(素練り時間最短10分)で行なわれロール間隔dは例えば0.5mm〜1.0mmで、素練りして液体状態のエラストマーにカーボンナノファイバーを投入する。しかしながら、エラストマーは液体状で弾性が著しく低下しているため、エラストマーのフリーラジカルとカーボンナノファイバーが結びついた状態で混練しても凝集したカーボンナノファイバーはあまり分散されない。
【0064】
そこで、液体状のエラストマーとカーボンナノファイバーとを混合して得られた混合物中におけるエラストマーの分子量を増大させ、エラストマーの弾性を回復させてゴム状弾性体の混合物を得た後、先に説明したオープンロール法の薄通しなどを実施してカーボンナノファイバーをエラストマー中に均一に分散させる。エラストマーの分子量が増大した混合物は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒以下のゴム状弾性体である。また、エラストマーの分子量が増大したゴム状弾性体の混合物の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料エラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の0.5〜10倍であることが好ましい。ゴム状弾性体の混合物の弾性は、エラストマーの分子形態(分子量で観測できる)や分子運動性(T2nで観測できる)によって表すことができる。エラストマーの分子量を増大させる工程は、混合物を加熱処理例えば40℃〜100℃に設定された加熱炉内に混合物を配置し、10時間〜100時間行なわれることが好ましい。このような加熱処理によって、混合物中に存在するエラストマーのフリーラジカル同士の結合などによって分子鎖が延長され、分子量が増大する。また、エラストマーの分子量の増大を短時間で実施する場合には、架橋剤を少量、例えば架橋剤の適量の1/2以下を混合させておき、混合物を加熱処理(例えばアニーリング処理)し架橋反応によって短時間で分子量を増大させることもできる。架橋反応によってエラストマーの分子量を増大させる場合には、この後の工程で混練が困難にならない程度に架橋剤の配合量、加熱時間及び加熱温度を設定することが好ましい。
【0065】
ここで説明した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、カーボンナノファイバーを投入する前にエラストマーの粘性を低下させることで、エラストマー中にカーボンナノファイバーを従来よりも均一に分散させることができる。より詳細には、先に説明した製造方法のように分子量が大きいエラストマーにカーボンナノファイバーを混合するよりも、分子量が低下した液体状のエラストマーを用いた方が凝集したカーボンナノファイバーの空隙に侵入しやすく、薄通しの工程においてカーボンナノファイバーをより均一に分散させることができる。また、エラストマーが分子切断されることで大量に生成されたエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面とより強固に結合することができるため、さらにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができる。したがって、ここで説明した製造方法によれば、先の製造方法よりも少量のカーボンナノファイバーでも同等の性能を得ることができ、高価なカーボンナノファイバーを節約することで経済性も向上する。
【0066】
炭素繊維複合材料は、オープンロール法によって得られたシート状のままでもよいし、炭素繊維複合材料を一般に採用されるゴムの成形加工例えば、射出成形法、トランスファー成形法、プレス成形法、押出成形法、カレンダー加工法などによって所望の形状例えばシート状に成形してもよい。また、炭素繊維複合材料と溶剤とを混合して塗布液を得て、その塗布液を基材上に塗布してシート状の薄膜を形成することもできる。塗布する方法としては、スピンコート法、ディッピング法、静電塗装などのスクリーン印刷法、スプレー法、インクジェット法から選ばれる方法によって実施されることが好ましい。さらに、このようにして塗布された塗布液は、減圧恒温炉中で凍結乾燥や熱処理乾燥、あるいは紫外線などによる硬化によって薄膜を形成する。薄膜の膜厚は、薄膜の成形方法によって異なるが、例えば0.5〜10μmが好ましい。
【0067】
(V)電子放出装置
図2は、本発明の一実施の形態にかかる電子放出装置5の縦断面を示す模式図である。図3は、図2に示した電子放出装置5の各シートの概略形状を示す分解斜視図である。図4は、図3に示したアノード電極56を蛍光部58側から見た平面図である。
【0068】
電子放出装置5は、シート状のカソード電極(陰極)50と、カソード電極50と電気的に接続するシート状の電子放出部52と、少なくとも絶縁部54を介して電子放出部52と電気的に絶縁するアノード電極(陽極)56と、を具備する。なお、ここでいうシートは、フィルムと区別されるものではなく、フィルムも含む。アノード電極56は蛍光体を含む蛍光部58を有し、蛍光部58はアノード電極56の電子放出部52側であって絶縁部54側と接続する表面にシート状に形成されている。電子放出装置5は、図2の下から順に、カソード電極50上に、シート状の電子放出部52が積層され、さらに電子放出部52にシート状の絶縁部54が積層され、その絶縁部54に蛍光部58と接してシート状のアノード電極56が積層されている。したがって、電子放出部52及び絶縁部54は、絶縁部54を上にしてカソード電極50とアノード電極56とで挟みこんだ比較的簡単な構造である。
【0069】
図3の分解図に示すように、電子放出部52と絶縁部54には例えば円形の第1の開口部520及び第2の開口部540が複数形成されている。そして、図4に示すように、アノード電極56の電子放出部52側の表面にはわかりやすいように点線で示した第1の開口部と同外径の丸い蛍光ブロック580に例えばRGBの3種類の蛍光体を別々に塗布し、赤色蛍光ブロック580R、緑色蛍光ブロック580G、青色蛍光ブロック580Bに形成されている。そして、これらの蛍光ブロック580は電子放出部52の第1の開口部520に対応して形成され、電子放出によってアノード電極56の第1の開口部520に対応した表面に点線で示した発光部560がRGB3色に発光する。なお、第1の開口部520及び第2の開口部540は円形に形成したが、電子放出装置の用途に合わせて他の形状、例えば多角形、楕円形、半円形、コの字形など壁部を有する形状を採用することができる。
【0070】
カソード電極50及びアノード電極56は、透明なシート状電極部材、例えばITO(酸化インジウム−スズ、Indium Tin Oxide)フィルムやITOガラスを用いることができる。したがって、アノード電極56は、ITOフィルムなどに形成された電極側表面に蛍光体を含む薄膜の蛍光部58をスクリーン印刷などの方法で塗布して形成されている。また、カソード電極50は、図2,3に示すようなシート状の基板に限らず、電子放出部52に電子を供給可能に接続されていればよく、例えば、電子放出部52の端部と電気的に接続している端子であってもよい。その場合、電子放出部52は、他の絶縁基板上に積層されて形成されていることができる。また、カソード電極50及びアノード電極56は、ITOフィルムの替わりに、透明板に真空蒸着法などでアルミニウム薄膜の電極を直接形成させてもよい。
【0071】
電子放出部52は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料をシート状に形成してなる。電子放出部52は少なくともアノード電極56側に開口した複数の第1の開口部520を有し、第1の開口部520の側壁はアノード電極56へ向けて電子を放出する電子放出領域522である。第1の開口部520は、カソード電極50側から絶縁部54側へと貫通する貫通孔に形成されている。第1の開口部520の側壁は、第1の開口部520の環状内周壁であって、アノード電極56に対し所定角度例えば90度に形成されているが、第1の開口部520の加工方法によって電子放出可能な範囲で傾斜していてもよいし湾曲面であってもよい。なお、電子放出領域522は、開口部の側壁に限らず、例えばシート状の電子放出部52の周縁端部における側壁や、該周縁端部に形成した切欠部の側壁であってもよい。
【0072】
絶縁部54は、絶縁材料であって例えばフレキシブル樹脂シートやシート状マイカなどで形成され、電子放出部52の第1の開口部520に合わせて同じ外形を有しかつ電子放出部52とアノード電極56とを連通する複数の第2の開口部540を有する。第2の開口部540は、電子放出部52とアノード電極56とに臨んで設けられ、シート状の絶縁部54を貫通する貫通孔に形成されている。そして、第1の開口部520と第2の開口部540とが重ねあわされることによって、カソード電極50とアノード電極56とが対向しかつ連通する。そして、第1の開口部520と第2の開口部540とによって形成された円筒状空間の両端をカソード電極50及びアノード電極56によって閉じた空間が電子放出素子500として形成される。少なくとも電子放出素子500内は真空状態に維持されていることが好ましく、電子放出装置5全体が真空容器中にあってもよい。なお、アノード電極56の発光部560は、図3の点線で示すように、絶縁部54の第2の開口部540で外周を囲われた蛍光部58の対向領域である。
【0073】
したがって、アノード電極56とカソード電極50との間へ電圧を印加すると、電子放出部52の電子放出領域522から第2の開口部540を通ってアノード電極56へ向かって電子(e−)を放出し、蛍光部58に当たって発光する。電子放出領域522は第1の開口部520の環状の側壁全体から、絶縁部54の第2の開口部540で外周を囲われた蛍光部58全体に向けて電子が放出されるため、従来のような点発光に比べて比較的広い範囲で発光する電子放出素子500を得ることができる。しかも、電子放出領域522とアノード電極56の蛍光部58との間には絶縁部54が挟まれている簡単な構造であるにもかかわらず、従来のように電子放出領域とアノード電極との間の距離を高度に調整しなくても、十分な発光が得られる。
【0074】
また、カソード電極50として例えば透明なITOフィルムを用いると、電子放出素子500が第1の開口部520と第2の開口部540で形成されているため、アノード電極56の発光部560に対向するカソード電極50側からでも発光が得られ、両面発光が容易に得られる。このように、本実施の形態では、電子放出素子500における少なくともアノード電極56の発光部560に対向する領域に電子放出領域522が形成されていないことも、従来の電子放出装置では得られない構造上の特徴である。
【0075】
電子放出部52を構成する炭素繊維複合材料はエラストマーをマトリックスとしたゴム組成物であるので、電子放出装置5を構成するカソード電極50、絶縁部54、蛍光部58及びアノード電極56に柔軟な例えば樹脂フィルムを採用することで、フレキシブルな電子放出装置5を得ることができる。電子放出領域522の表面は、エッチングなどによって表面処理することで、電子放出性能の向上を図ることもできる。このような電子放出装置5は、電子放出部52の全体に分散されたカーボンナノファイバーによって電子放出効率が高く、電子放出部52が金属と同等の電気伝導性を有するので電子注入が容易である。また、カーボンナノファイバーは、エラストマー特に界面相に覆われているため、長寿命である。
【0076】
電子放出領域522は、シート状の炭素繊維複合材料(ゴムシート)とシート状の絶縁材料とを重ね合わせ、好ましくは接着し、プレス機などで打ち抜き加工して第1の開口部520及び第2の開口部540を成形して得ることができる。さらに微細な電子放出素子500を成形する場合には、炭素繊維複合材料と溶剤とを混合して塗布液を得て、基材上にスクリーン印刷法、スプレー法、インクジェット法などの薄膜を形成する公知の方法によって所望の厚さや所望の直径の第1の開口部520及び第2の開口部540を有する電子放出部52及び絶縁部54を得ることができる。
【0077】
図5は、本発明の他の一実施の形態にかかる電子放出装置5aの縦断面を示す模式図である。電子放出装置5aは、絶縁部54に蛍光体を含有させたことで絶縁部54と蛍光部58を兼用し、絶縁部54に第2の開口部540が形成されていない。それ以外は、電子放出装置5と基本的に同じ構成である。したがって、アノード電極56とカソード電極50との間へ電圧を印加すると、電子放出部52の電子放出領域522からアノード電極56へ向かって電子(e−)を放出し、絶縁部54に当たって発光する。
【0078】
図6は、本発明のさらに他の一実施の形態にかかる電子放出装置5bの縦断面を示す模式図である。電子放出装置5bは、カソード電極50と、カソード電極50と電気的に接続する電子放出部52と、少なくとも絶縁部を介して電子放出部52と電気的に絶縁するアノード電極56と、を含み、電子放出部52は、アノード電極56へ向けて電子を放出する電子放出領域522を有し、アノード電極56を含む第1の壁部564と、電子放出領域522を含む第2の壁部524と、を含む壁部によって例えば円柱状に囲まれた電子放出素子500を有する。電子放出装置5bは蛍光部を有しておらず、電子放出素子500は、電子放出部52に形成された円柱状の第1の開口部520の環状内周壁及び底壁が第2の壁部524であり、円柱状の第1の開口部520を塞ぐ上蓋が第1の壁部564である。したがって、第1の開口部520はアノード電極56に向けて開口する凹部であって、貫通孔ではない。アノード電極56は、例えば透明なガラス板の第1の開口部520側表面であって第2の壁部524とは非接続に形成されている。アノード電極56の周囲は絶縁部材で形成された絶縁部54である。したがって、アノード電極56とカソード電極50との間へ電圧を印加すると、電子放出部52の電子放出領域522からアノード電極56へ向かって電子(e−)を放出する。
【0079】
図7は、本発明のさらに他の一実施の形態にかかる電子放出装置5dの縦断面を示す模式図である。電子放出装置5dは、第1の開口部520と蛍光部58との間に配置されたグリッド電極59を有している以外は、電子放出装置5と基本的に同じ構成である。グリッド電極59は、絶縁部54に挟まれて設置され、電子放出部52との間に絶縁部54が介在しかつ蛍光部58との間にも絶縁部54が介在し、電子放出部52及び蛍光部58と非接触に配置されている。したがって、グリッド電極59とカソード電極50との間へ電圧を印加し、さらにアノード電極56とカソード電極50との間へ電圧を印加すると、電子放出部52の電子放出領域522からグリッド電極59及びアノード電極56へ向かって電子(e−)を放出する。このようにグリッド電極59をさらに設けることで、発光パターンが均一化する。グリッド電極59は、導電性の多孔シートであって、例えば銅製多孔シートなどを用いることができる。
【0080】
図8は、本発明のさらに他の一実施の形態にかかる電子放出装置5eの縦断面構造がわかる斜視図を示す模式図である。図8において電子放出装置5eは、縦断面構造をわかりやすくするため、他の図と異なり、アノード電極56を下にして示した。電子放出装置5eは、透明なITOフィルムからなるアノード電極56上に、絶縁部54、電子放出部52、カソード電極50が積層し、さらにカソード電極50上には点線で図示した透明フィルム60を有している。電子放出部52の第1の開口部520と絶縁部54の第2の開口部540とは、図8の右手前から左奥へと延びる溝状であり、その溝の底部に蛍光部58が形成されている。カソード電極50は、電子放出部52の端部と部分的に接触しており、第1の開口部520の上方には透明フィルム60が存在するのみであって、蛍光部58の発光を遮るものがない。アノード電極56とカソード電極50との間へ電圧を印加すると、第1の開口部520の電子放出領域522からアノード電極56へ向かって電子(e−)を放出し、蛍光部58が発光する。蛍光部58で発光された光は、透明なアノード電極56を透過して第2の発光部560から取り出される。また、蛍光部58で発光された光は、第1の開口部520及び第2の開口部540を通過し、透明フィルム60を透過して第1の発光部562から取り出される。したがって、電子放出装置5eは、溝状に形成された電子放出素子500に対向して、透明フィルム60側とアノード電極56側に第1の発光部562と第2の発光部560とから両面発光を得ることができる。なお、本実施の形態においては、アノード電極56は透明なITOフィルムを用いたが、例えば金属板や金属コートガラスなどを用いても電子放出部52側つまり透明フィルム60側からの発光は得られるため、高価なITOフィルムを用いることなく発光装置を製造することができる。また、図8においては、溝状の電子放出素子500の前後が解放されているが、他の実施形態と同様に、図示せぬシール材で密封され、電子放出素子500内が真空状態に保たれている。
【0081】
このようにして得られた電子放出装置5は、例えば、フィールド・エミッション・ディスプレイ、電極基板の表面全体を発光させた面発光体(面蛍光体)、あるいは、蛍光ランプ、電子顕微鏡、プラズマディスプレイなどの熱陰極動作または冷陰極動作による放電を利用する各種電極として用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
(1)炭素繊維複合材料サンプルの作製
6インチオープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔1.5mm)に、100重量部(phr)のエラストマー(分子量が約300万の天然ゴム)を投入して、ロールに巻き付かせ、5分間素練りした後、20重量部(phr)の多層カーボンナノファイバー(平均直径156nmで平均長さ10μm)を投入し、混合物をオープンロールから取り出した。そして、ロール間隔を1.5mmから0.3mmへと狭くして、混合物を再びオープンロールに投入して薄通しを繰り返し5回行なった。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。さらに、ロール間隙を1.1mmにセットして、薄通しして得られた炭素繊維複合材料を投入し、分出しした。
分出しされた炭素繊維複合材料は90℃、5分間プレス成形し、それぞれ厚さ1mmのシート状の炭素繊維複合材料(無架橋体)に成形し、パルス法NMRを用いてハーンエコー法及びソリッドエコー法による測定を行った。また、薄通しして得られた炭素繊維複合材料にパーオキサイドを混合し、ロール間隙を1.1mmにセットして分出しして、さらに175℃、100kgf/cm2にて、20分間プレス架橋することで架橋した炭素繊維複合材料(架橋体)が得られた。
【0084】
(2)パルス法NMRを用いた測定
無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核が1H、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は、150℃であった。この測定によって求めた、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n/150℃)は830であり、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.11であった。測定結果を表1に示した。なお、同様に測定した原料エラストマーの天然ゴムの第1のスピンースピン緩和時間(T2n/30℃)は、700μmであった。
【0085】
(3)電子放出装置の作成
図9は、実験用に作成した電子放出装置5cの分解斜視図である。電子放出装置5cの基本的な構成は、図8の電子放出装置5eと同じであり、電子放出素子500がコの字状の電子放出領域522(側壁)に囲まれている点が異なる。架橋体の炭素繊維複合材料からなる電子放出部52に厚さ190μmのマイカ製絶縁部54を重ね合わせ、その側部を図9に示すようにコの字状にカッターで切り欠いた。切り欠きの大きさは、幅4mm、奥行き8mmであった。カッターで切り欠かれた電子放出部52及び絶縁部54は、第1の開口部520及び第2の開口部540に形成された。第1の開口部520の側壁は、電子放出領域522である。電子放出部52及び絶縁部54は、電子放出部52の表面に導電性テープ(カソード電極50)を貼って電気的に接続した。また、絶縁部54の上にITOフィルムのアノード電極56を積層し、固定した。アノード電極56の絶縁部54側に電子放出部52の切り欠きに合わせて白色蛍光体を含む薄膜の蛍光部58を形成した。この電子放出装置5cを真空チャンバー内に配置して電界電子放出実験を行なった。
【0086】
(4)電界電子放出実験結果
電子放出装置5cを真空度2.2E−6mbar中でアノード電極56とカソード電極50との間へ電圧(0〜1000V)を印加した。電子放出素子500は、図10に示す写真のように広い範囲(図9の発光部560に相当する範囲)で発光した。また、印加電圧(V)とエミッション電流(A)との関係を図11のグラフに示した。しきい値は、1.5V/μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】オープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態にかかる電子放出装置5の縦断面を示す模式図である。
【図3】図2に示した電子放出装置5の各シートの概略形状を示す分解斜視図である。
【図4】図3に示したアノード電極56を蛍光部58側から見た平面図である。
【図5】本発明の他の一実施の形態にかかる電子放出装置5aの縦断面を示す模式図である。
【図6】本発明のさらに他の一実施の形態にかかる電子放出装置5bの縦断面を示す模式図である。
【図7】本発明のさらに他の一実施の形態にかかる電子放出装置5bの縦断面を示す模式図である。
【図8】本発明のさらに他の一実施の形態にかかる電子放出装置5eの斜視図を示す模式図である。
【図9】実施例1の電子放出装置5cの縦断面を模式的に示す図である。
【図10】実施例1の電子放出装置5cの発光状態を撮影した写真である。
【図11】実施例1の電子放出装置5cの印加電圧(V)とエミッション電流(A)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0088】
5、5a〜5e 電子放出装置
10 第1のロール
20 第2のロール
30 エラストマー
40 カーボンナノファイバー
d ロール間隔
V1 第1のロールの表面速度
V2 第2のロールの表面速度
50 カソード電極
52 電子放出部
54 絶縁部
56 アノード電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出部に炭素繊維複合材料を用いた電子放出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カーボンナノファイバーはマトリックスに分散させにくいフィラーであった。本発明者等が先に提案した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、これまで困難とされていたカーボンナノファイバーの分散性を改善し、エラストマーにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができた(例えば、特許文献1参照)。このような炭素繊維複合材料の製造方法によれば、エラストマーとカーボンナノファイバーを混練し、剪断力によって凝集性の強いカーボンナノファイバーの分散性を向上させている。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合し、この状態で、分子長が適度に長く、分子運動性の高い(弾性を有する)エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの変形に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散していた。このように、マトリックスへのカーボンナノファイバーの分散性を向上させることで、高価なカーボンナノファイバーを効率よく複合材料のフィラーとして用いることができるようになった。
【0003】
また、近年、省エネルギー化の要求から電界を印加することによって電子を放出させる電界電子放出現象を利用した電子放出装置として、例えば、薄型テレビなどのディスプレイ(FED)や平面照明装置などが提案されている。本発明者等は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが均一に分散された炭素繊維複合材料によって望ましい電子放出特性を得ることに成功し、炭素繊維複合材料を電子放出材料として用いた電子放出装置を提案した(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−97525号公報
【特許文献2】特開2006−167710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、電子放出部に炭素繊維複合材料を用いた電子放出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる電子放出装置は、
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有し、
前記電子放出領域は、前記電子放出部の側壁に形成されたことを特徴とする。
【0006】
本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の側壁に電子放出領域が形成されるので、構造を簡素化することができる。特に、従来の電子放出装置はアノード電極もしくはゲートと電子放出部との離間距離をスペーサで高精度に調整する必要があったが、本発明にかかる電子放出装置は電子放出部の側壁が電子放出領域となるため、比較的容易に優れた電子放出特性を得ることができる。また、本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の側壁が電子放出領域となるため、アノード電極の比較的広い範囲に電子を放出することができる。
【0007】
本発明にかかる電子放出装置は、
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、少なくとも前記アノード電極側に開口した開口部を有し、
前記開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であることを特徴とする。
【0008】
本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域として形成されるので、構造を簡素化することができる。特に、従来の電子放出装置はアノード電極もしくはゲートと電子放出部との離間距離をスペーサで高精度に調整する必要があったが、本発明にかかる電子放出装置は電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域となるため、比較的容易に優れた電子放出特性を得ることができる。また、本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域となるため、開口部の側壁によって囲まれたアノード電極の比較的広い範囲に電子を放出することができる。
【0009】
本発明にかかる電子放出装置において、
前記電子放出部の前記開口部は、シート状の前記電子放出部を貫通する貫通孔であることができる。
【0010】
本発明にかかる電子放出装置は、
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
前記電子放出部に積層されたシート状の絶縁部と、
前記絶縁部に積層されたシート状のアノード電極と、
を具備し、
前記絶縁部は、開口部を有し、
前記開口部は、前記電子放出部と前記アノード電極とに臨んで設けられ、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記開口部を通って前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有することを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部に絶縁部が積層され、さらに絶縁部にアノード電極が積層された比較的単純な構成とすることができる。特に、従来の電子放出装置はアノード電極もしくはゲートと電子放出部との離間距離をスペーサで高精度に調整する必要があったが、本発明にかかる電子放出装置は電子放出部と絶縁部とアノード電極とが積層された、比較的簡単な構成でも優れた電子放出特性を得ることができる。また、本発明にかかる電子放出装置によれば、絶縁部に電子放出領域とアノード電極とを結ぶ開口部を形成することで、比較的簡単な構成でアノード電極の比較的広い範囲に電子を放出することができる。
【0012】
本発明にかかる電子放出装置において、
前記絶縁部の前記開口部は、シート状の前記絶縁部を貫通する貫通孔であることができる。
【0013】
本発明にかかる電子放出装置は、
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続する電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を含み、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有し、
前記アノード電極を含む第1の壁部と、前記電子放出領域を含む第2の壁部と、を含む壁部によって囲まれた電子放出素子を有することを特徴とする。
【0014】
本発明にかかる電子放出装置によれば、アノード電極を含む第1の壁部と、電子放出領域を含む第2の壁部と、を含む壁部によって囲まれた電子放出素子を有する比較的単純な構成とすることができる。特に、従来の電子放出装置はアノード電極もしくはゲートと電子放出部との離間距離をスペーサで高精度に調整する必要があったが、本発明にかかる電子放出装置は電子放出素子を形成した比較的簡単な構成でも優れた電子放出特性を得ることができる。また、本発明にかかる電子放出装置によれば、第1の壁部と第2の壁部とを含む壁部によって囲まれた比較的簡単な構成の電子放出素子を得ることができる。
【0015】
本発明にかかる電子放出装置において、前記アノード電極は、蛍光体を含む蛍光部を有することができる。
【0016】
本発明にかかる電子放出装置において、前記絶縁部は、蛍光体を含むことができる。
【0017】
本発明にかかる電子放出装置は、
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、少なくとも前記アノード電極側に開口した開口部を有し、
前記アノード電極は、前記開口部側に蛍光部を有し、
前記開口部と前記蛍光部との間に配置されたグリッド電極を有し、
前記開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であることを特徴とする。
【0018】
本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域として形成されるので、構造を簡素化することができる。特に、従来の電子放出装置はアノード電極もしくはゲートと電子放出部との離間距離をスペーサで高精度に調整する必要があったが、本発明にかかる電子放出装置は電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域となるため、比較的容易に優れた電子放出特性を得ることができる。また、本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域となるため、開口部の側壁によって囲まれたアノード電極の比較的広い範囲に電子を放出することができる。さらに、開口部と蛍光部との間にグリッド電極を配置することで発光パターンが均一化することができる。
【0019】
本発明にかかる電子放出装置は、
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
前記アノード電極の前記電子放出部側に形成された蛍光部と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、第1の開口部を有し、
前記第1の開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であり、
前記絶縁部は、第2の開口部を有し、
前記蛍光部で発光された光を前記第1の開口部及び前記第2の開口部を通過して取り出す発光部を有することを特徴とする。
【0020】
本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の第1の開口部の側壁が電子放出領域として形成されるので、構造を簡素化することができる。特に、従来の電子放出装置はアノード電極もしくはゲートと電子放出部との離間距離をスペーサで高精度に調整する必要があったが、本発明にかかる電子放出装置は電子放出部と絶縁部とによって前記離間距離を容易に設定できる。また、本発明にかかる電子放出装置によれば、電子放出部の開口部の側壁が電子放出領域となるため、開口部の側壁によって囲まれたアノード電極の比較的広い範囲に電子を放出することができる。さらに、従来の電子放出装置はアノード電極側に発光部を有するが、本発明にかかる電子放出装置によれば電子放出部に第1の開口部が形成されているため、蛍光部で発光された光をアノード電極とは反対側の発光部から取り出すことができる。
【0021】
本発明にかかる電子放出装置において、
前記発光部は、第1の発光部であって、
前記蛍光部で発光された光を前記アノード電極側から取り出す第2の発光部をさらに有することができる。
【0022】
本発明にかかる電子放出装置において、前記炭素繊維複合材料は、前記エラストマーに、前記カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて得られることができる。
【0023】
本発明にかかる電子放出装置において、前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることができる。
【0024】
本発明にかかる電子放出装置において、前記炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100〜3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
本発明の一実施形態にかかる電子放出装置は、カソード電極と、前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、を具備し、前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有し、前記電子放出領域は、前記電子放出部の側壁に形成されたことを特徴とする。
【0027】
本発明の一実施形態にかかる電子放出装置は、カソード電極と、前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、を具備し、前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、少なくとも前記アノード電極側に開口した開口部を有し、前記開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であることを特徴とする。
【0028】
本発明の一実施形態にかかる電子放出装置は、カソード電極と、前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、前記電子放出部に積層されたシート状の絶縁部と、前記絶縁部に積層されたシート状のアノード電極と、を具備し、前記絶縁部は、前記電子放出部と前記アノード電極とを連通する開口部を有し、前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記開口部を通って前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有することを特徴とする。
【0029】
本発明の一実施形態にかかる電子放出装置は、カソード電極と、前記カソード電極と電気的に接続する電子放出部と、少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、を含み、前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有し、前記アノード電極を含む第1の壁部と、前記電子放出領域を含む第2の壁部と、を含む壁部によって囲まれた電子放出素子を有することを特徴とする。
【0030】
本発明の一実施形態にかかる電子放出装置は、カソード電極と、前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、を具備し、前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、少なくとも前記アノード電極側に開口した開口部を有し、前記アノード電極は、前記開口部側に蛍光部を有し、前記開口部と前記蛍光部との間に配置されたグリッド電極を有し、前記開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であることを特徴とする。
【0031】
本発明の一実施形態にかかる電子放出装置は、カソード電極と、前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、前記アノード電極の前記電子放出部側に形成された蛍光部と、を具備し、前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、第1の開口部を有し、前記第1の開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であり、前記絶縁部は、第2の開口部を有し、前記蛍光部で発光された光を前記第1の開口部及び前記第2の開口部を通過して取り出す発光部を有することを特徴とする。
【0032】
(I)エラストマー
まず、炭素繊維複合材料に用いられるエラストマーについて説明する。
エラストマーは、分子量が好ましくは5000〜500万、さらに好ましくは2万〜300万である。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーは、カーボンナノファイバーを分散させるために良好な弾性を有している。エラストマーは、粘性を有しているので凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、さらに弾性を有することによってカーボンナノファイバー同士を分離することができるため好ましい。
【0033】
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100〜3000μ秒、より好ましくは200〜1000μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができ、すなわちカーボンナノファイバーを分散させるために適度な弾性を有することになる。また、エラストマーは粘性を有しているので、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合したときに、エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノファイバーの相互の隙間に容易に侵入することができる。
【0034】
また、エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100〜2000μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、上記の条件を有する未架橋体を架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ上記範囲に含まれる。
【0035】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0036】
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかるエラストマーは中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0037】
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーの末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有する。かかる不飽和結合または基としては、例えば、二重結合、三重結合、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつであることができる。
【0038】
本実施の形態では、エラストマーの主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、カーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。そして、エラストマーと、カーボンナノファイバーと、を混練する際に、エラストマーの分子鎖が切断されて生成したフリーラジカルは、カーボンナノファイバーの欠陥を攻撃し、カーボンナノファイバーの表面にラジカルを生成すると推測できる。
【0039】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。特に、エラストマーの混練の際にフリーラジカルを生成しやすい極性の高いエラストマー、例えば、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)などが好ましい。また、極性の低いエラストマー、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)であっても、混練の温度を比較的高温(例えばEPDMの場合、50℃〜150℃)とすることで、フリーラジカルを生成するので本発明に用いることができる。
【0040】
本実施の形態のエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは架橋体あるいは未架橋体のいずれであってもよいが、未架橋体を用いることが好ましい。
【0041】
(II)カーボンナノファイバー
次に、カーボンナノファイバーについて説明する。
カーボンナノファイバーは平均直径が0.5ないし500nmであることが好ましく、カーボンナノファイバーはストレート繊維状であっても、湾曲繊維状であってもよい。また、電子放出材料に用いられるカーボンナノファイバーとしては、平均長さが20μm程度が好ましい。
【0042】
カーボンナノファイバーの配合量は、特に限定されず、用途に応じて設定できるが、炭素繊維複合材料中のカーボンナノファイバーの充填率は0.1〜40体積%が好ましい。例えば、多層ウォールカーボンナノファイバーの場合、炭素繊維複合材料100体積%中10〜40体積%の含有量とすることが好ましい。また、単層ウォールカーボンナノファイバーを用いた場合には、炭素繊維複合材料100体積%中0.2〜40体積%の含有量とすることが好ましい。
【0043】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブ、気相成長炭素繊維といった名称で称されることもある。
【0044】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0045】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0046】
カーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0047】
電子放出材料に用いられるカーボンナノファイバーとしては、平均直径が100nm未満の単層カーボンナノチューブ(SWNT)、2層カーボンナノチューブ(DWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)が好ましく、特に、電子放出性能はDWNTが優れている。
【0048】
(III)炭素繊維複合材料
次に、炭素繊維複合材料について説明する。
本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが均一に分散され、電子放出材料として用いることができる。
【0049】
炭素繊維複合材料におけるカーボンナノファイバーの分散の状態は、炭素繊維複合材料をパルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行うことで判定できる。
【0050】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法により測定されたスピン−格子緩和時間(T1)は、スピン−スピン緩和時間(T2)とともに物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、炭素繊維複合材料のスピン−格子緩和時間が短いほど分子運動性が低く、炭素繊維複合材料は固いといえ、そしてスピン−格子緩和時間が長いほど分子運動性が高く、炭素繊維複合材料は柔らかいといえる。
【0051】
炭素繊維複合材料は、基材であるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されている。このことは、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなる。なお、架橋体の炭素繊維複合材料におけるスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーの混合量に比例して変化する。
【0052】
また、エラストマー分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。なお、第1のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fn)は、fn+fnn=1であるので、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より大きくなる。
【0053】
以上のことから、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が以下の範囲にあることが望ましい。
【0054】
すなわち、炭素繊維複合材料において、150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100〜3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0055】
本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、しきい値電界が4V/μm以下であって、飽和電流密度が10mA/cm2以上の高効率の電子放出材料であることが望ましい。本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料によれば、カーボンナノファイバーをエラストマー、特に界面相で包み込むことで、長寿命でありながら、低電界における電子放出を可能とすることができる。また、本実施の形態にかかる電子放出材料は、エラストマーをマトリクスとしながら、金属に近い電気伝導性を有するので、電子注入が可能である。さらに、エラストマーをマトリクスとしているため、電子放出材料の形態の自由度が高く、多くの用途に柔軟に対応可能である。また、炭素繊維複合材料を構成するエラストマーは、架橋してもよいし、無架橋であってもよい。
【0056】
(IV)炭素繊維複合材料の製造方法
次に、炭素繊維複合材料の製造方法について図1を用いて詳細に説明する。
図1は、オープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【0057】
原料となるエラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100〜3000μ秒であることが好ましい。図1に示すように、第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、例えば0.5mm〜1.0mmの間隔で配置され、図1において矢印で示す方向に回転速度V1,V2で正転あるいは逆転で回転する。まず、第1のロール20に巻き付けられたエラストマー30の素練りを行ない、エラストマー分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっているため、素練りによって生成されたエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノファイバーと結びつきやすい状態となる。
【0058】
次に、第1のロール20に巻き付けられたエラストマー30のバンク34に、カーボンナノファイバー40を投入し、混練する。エラストマー30とカーボンナノファイバー40とを混合する工程は、オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
【0059】
さらに、第1のロール10と第2のロール20とのロール間隔dを、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0〜0.5mmの間隔に設定し、混合物をオープンロールに投入して薄通しを複数回行なう。薄通しの回数は、例えば5回〜10回程度行なうことが好ましい。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05〜3.00であることが好ましく、さらに1.05〜1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。薄通しして得られた炭素繊維複合材料は、ロールで圧延されてシート状に分出しされる。この薄通しの工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を好ましくは0〜50℃、より好ましくは5〜30℃の比較的低い温度に設定して行われ、エラストマー30の実測温度も0〜50℃に調整されることが好ましい。このようにして得られた剪断力により、エラストマー30に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバー40がエラストマー分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30中に分散される。特に、エラストマー30は、弾性と、粘性と、カーボンナノファイバー40との化学的相互作用と、を有するため、カーボンナノファイバー40を容易に分散することができる。そして、カーボンナノファイバー40の分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。
【0060】
より具体的には、オープンロールでエラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。カーボンナノファイバーの表面は高度にグラファイト化されていないため、表面に非結晶部分が適度に残されていて活性が高いため、エラストマー分子と結合し易い。次に、エラストマーに強い剪断力が作用すると、エラストマー分子の移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。本実施の形態によれば、炭素繊維複合材料が狭いロール間から押し出された際に、エラストマーの弾性による復元力で炭素繊維複合材料はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用した炭素繊維複合材料をさらに複雑に流動させ、カーボンナノファイバーをエラストマー中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0061】
エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、前記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をエラストマーに与えることができればよい。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。
【0062】
炭素繊維複合材料の製造方法は、薄通し後の分出しされた炭素繊維複合材料に架橋剤を混合し、架橋して架橋体の炭素繊維複合材料としてもよい。また、炭素繊維複合材料は、架橋させずに成形してもよい。炭素繊維複合材料の製造方法において、通常、エラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。これらの配合剤は、例えばオープンロールにおけるカーボンナノファイバーの投入前にエラストマーに投入することができる。
【0063】
なお、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法においては、ゴム弾性を有した状態のエラストマーにカーボンナノファイバーを直接混合したが、これに限らず、以下の方法を採用することもできる。まず、カーボンナノファイバーを混合する前に、エラストマーを素練りしてエラストマーの分子量を低下させる。エラストマーは、素練りによって分子量が低下すると、粘度が低下するため、凝集したカーボンナノファイバーの空隙に浸透しやすくなる。原料となるエラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100〜3000μ秒のゴム状弾性体である。この原料のエラストマーを素練りしてエラストマーの分子量を低下させ、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒を越える液体状のエラストマーを得る。なお、素練り後の液体状のエラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料のエラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の5〜30倍であることが好ましい。この素練りは、エラストマーが固体状態のままで行なう一般的な素練りとは異なり、強剪断力を例えばオープンロール法で与えることによってエラストマーの分子を切断し分子量を著しく低下させ、混練に適さない程の流動を示すまで、例えば液体状態になるまで行なわれる。この素練りは、例えばオープンロール法を用いた場合、ロール温度20℃(素練り時間最短60分)〜150℃(素練り時間最短10分)で行なわれロール間隔dは例えば0.5mm〜1.0mmで、素練りして液体状態のエラストマーにカーボンナノファイバーを投入する。しかしながら、エラストマーは液体状で弾性が著しく低下しているため、エラストマーのフリーラジカルとカーボンナノファイバーが結びついた状態で混練しても凝集したカーボンナノファイバーはあまり分散されない。
【0064】
そこで、液体状のエラストマーとカーボンナノファイバーとを混合して得られた混合物中におけるエラストマーの分子量を増大させ、エラストマーの弾性を回復させてゴム状弾性体の混合物を得た後、先に説明したオープンロール法の薄通しなどを実施してカーボンナノファイバーをエラストマー中に均一に分散させる。エラストマーの分子量が増大した混合物は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒以下のゴム状弾性体である。また、エラストマーの分子量が増大したゴム状弾性体の混合物の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料エラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の0.5〜10倍であることが好ましい。ゴム状弾性体の混合物の弾性は、エラストマーの分子形態(分子量で観測できる)や分子運動性(T2nで観測できる)によって表すことができる。エラストマーの分子量を増大させる工程は、混合物を加熱処理例えば40℃〜100℃に設定された加熱炉内に混合物を配置し、10時間〜100時間行なわれることが好ましい。このような加熱処理によって、混合物中に存在するエラストマーのフリーラジカル同士の結合などによって分子鎖が延長され、分子量が増大する。また、エラストマーの分子量の増大を短時間で実施する場合には、架橋剤を少量、例えば架橋剤の適量の1/2以下を混合させておき、混合物を加熱処理(例えばアニーリング処理)し架橋反応によって短時間で分子量を増大させることもできる。架橋反応によってエラストマーの分子量を増大させる場合には、この後の工程で混練が困難にならない程度に架橋剤の配合量、加熱時間及び加熱温度を設定することが好ましい。
【0065】
ここで説明した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、カーボンナノファイバーを投入する前にエラストマーの粘性を低下させることで、エラストマー中にカーボンナノファイバーを従来よりも均一に分散させることができる。より詳細には、先に説明した製造方法のように分子量が大きいエラストマーにカーボンナノファイバーを混合するよりも、分子量が低下した液体状のエラストマーを用いた方が凝集したカーボンナノファイバーの空隙に侵入しやすく、薄通しの工程においてカーボンナノファイバーをより均一に分散させることができる。また、エラストマーが分子切断されることで大量に生成されたエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面とより強固に結合することができるため、さらにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができる。したがって、ここで説明した製造方法によれば、先の製造方法よりも少量のカーボンナノファイバーでも同等の性能を得ることができ、高価なカーボンナノファイバーを節約することで経済性も向上する。
【0066】
炭素繊維複合材料は、オープンロール法によって得られたシート状のままでもよいし、炭素繊維複合材料を一般に採用されるゴムの成形加工例えば、射出成形法、トランスファー成形法、プレス成形法、押出成形法、カレンダー加工法などによって所望の形状例えばシート状に成形してもよい。また、炭素繊維複合材料と溶剤とを混合して塗布液を得て、その塗布液を基材上に塗布してシート状の薄膜を形成することもできる。塗布する方法としては、スピンコート法、ディッピング法、静電塗装などのスクリーン印刷法、スプレー法、インクジェット法から選ばれる方法によって実施されることが好ましい。さらに、このようにして塗布された塗布液は、減圧恒温炉中で凍結乾燥や熱処理乾燥、あるいは紫外線などによる硬化によって薄膜を形成する。薄膜の膜厚は、薄膜の成形方法によって異なるが、例えば0.5〜10μmが好ましい。
【0067】
(V)電子放出装置
図2は、本発明の一実施の形態にかかる電子放出装置5の縦断面を示す模式図である。図3は、図2に示した電子放出装置5の各シートの概略形状を示す分解斜視図である。図4は、図3に示したアノード電極56を蛍光部58側から見た平面図である。
【0068】
電子放出装置5は、シート状のカソード電極(陰極)50と、カソード電極50と電気的に接続するシート状の電子放出部52と、少なくとも絶縁部54を介して電子放出部52と電気的に絶縁するアノード電極(陽極)56と、を具備する。なお、ここでいうシートは、フィルムと区別されるものではなく、フィルムも含む。アノード電極56は蛍光体を含む蛍光部58を有し、蛍光部58はアノード電極56の電子放出部52側であって絶縁部54側と接続する表面にシート状に形成されている。電子放出装置5は、図2の下から順に、カソード電極50上に、シート状の電子放出部52が積層され、さらに電子放出部52にシート状の絶縁部54が積層され、その絶縁部54に蛍光部58と接してシート状のアノード電極56が積層されている。したがって、電子放出部52及び絶縁部54は、絶縁部54を上にしてカソード電極50とアノード電極56とで挟みこんだ比較的簡単な構造である。
【0069】
図3の分解図に示すように、電子放出部52と絶縁部54には例えば円形の第1の開口部520及び第2の開口部540が複数形成されている。そして、図4に示すように、アノード電極56の電子放出部52側の表面にはわかりやすいように点線で示した第1の開口部と同外径の丸い蛍光ブロック580に例えばRGBの3種類の蛍光体を別々に塗布し、赤色蛍光ブロック580R、緑色蛍光ブロック580G、青色蛍光ブロック580Bに形成されている。そして、これらの蛍光ブロック580は電子放出部52の第1の開口部520に対応して形成され、電子放出によってアノード電極56の第1の開口部520に対応した表面に点線で示した発光部560がRGB3色に発光する。なお、第1の開口部520及び第2の開口部540は円形に形成したが、電子放出装置の用途に合わせて他の形状、例えば多角形、楕円形、半円形、コの字形など壁部を有する形状を採用することができる。
【0070】
カソード電極50及びアノード電極56は、透明なシート状電極部材、例えばITO(酸化インジウム−スズ、Indium Tin Oxide)フィルムやITOガラスを用いることができる。したがって、アノード電極56は、ITOフィルムなどに形成された電極側表面に蛍光体を含む薄膜の蛍光部58をスクリーン印刷などの方法で塗布して形成されている。また、カソード電極50は、図2,3に示すようなシート状の基板に限らず、電子放出部52に電子を供給可能に接続されていればよく、例えば、電子放出部52の端部と電気的に接続している端子であってもよい。その場合、電子放出部52は、他の絶縁基板上に積層されて形成されていることができる。また、カソード電極50及びアノード電極56は、ITOフィルムの替わりに、透明板に真空蒸着法などでアルミニウム薄膜の電極を直接形成させてもよい。
【0071】
電子放出部52は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料をシート状に形成してなる。電子放出部52は少なくともアノード電極56側に開口した複数の第1の開口部520を有し、第1の開口部520の側壁はアノード電極56へ向けて電子を放出する電子放出領域522である。第1の開口部520は、カソード電極50側から絶縁部54側へと貫通する貫通孔に形成されている。第1の開口部520の側壁は、第1の開口部520の環状内周壁であって、アノード電極56に対し所定角度例えば90度に形成されているが、第1の開口部520の加工方法によって電子放出可能な範囲で傾斜していてもよいし湾曲面であってもよい。なお、電子放出領域522は、開口部の側壁に限らず、例えばシート状の電子放出部52の周縁端部における側壁や、該周縁端部に形成した切欠部の側壁であってもよい。
【0072】
絶縁部54は、絶縁材料であって例えばフレキシブル樹脂シートやシート状マイカなどで形成され、電子放出部52の第1の開口部520に合わせて同じ外形を有しかつ電子放出部52とアノード電極56とを連通する複数の第2の開口部540を有する。第2の開口部540は、電子放出部52とアノード電極56とに臨んで設けられ、シート状の絶縁部54を貫通する貫通孔に形成されている。そして、第1の開口部520と第2の開口部540とが重ねあわされることによって、カソード電極50とアノード電極56とが対向しかつ連通する。そして、第1の開口部520と第2の開口部540とによって形成された円筒状空間の両端をカソード電極50及びアノード電極56によって閉じた空間が電子放出素子500として形成される。少なくとも電子放出素子500内は真空状態に維持されていることが好ましく、電子放出装置5全体が真空容器中にあってもよい。なお、アノード電極56の発光部560は、図3の点線で示すように、絶縁部54の第2の開口部540で外周を囲われた蛍光部58の対向領域である。
【0073】
したがって、アノード電極56とカソード電極50との間へ電圧を印加すると、電子放出部52の電子放出領域522から第2の開口部540を通ってアノード電極56へ向かって電子(e−)を放出し、蛍光部58に当たって発光する。電子放出領域522は第1の開口部520の環状の側壁全体から、絶縁部54の第2の開口部540で外周を囲われた蛍光部58全体に向けて電子が放出されるため、従来のような点発光に比べて比較的広い範囲で発光する電子放出素子500を得ることができる。しかも、電子放出領域522とアノード電極56の蛍光部58との間には絶縁部54が挟まれている簡単な構造であるにもかかわらず、従来のように電子放出領域とアノード電極との間の距離を高度に調整しなくても、十分な発光が得られる。
【0074】
また、カソード電極50として例えば透明なITOフィルムを用いると、電子放出素子500が第1の開口部520と第2の開口部540で形成されているため、アノード電極56の発光部560に対向するカソード電極50側からでも発光が得られ、両面発光が容易に得られる。このように、本実施の形態では、電子放出素子500における少なくともアノード電極56の発光部560に対向する領域に電子放出領域522が形成されていないことも、従来の電子放出装置では得られない構造上の特徴である。
【0075】
電子放出部52を構成する炭素繊維複合材料はエラストマーをマトリックスとしたゴム組成物であるので、電子放出装置5を構成するカソード電極50、絶縁部54、蛍光部58及びアノード電極56に柔軟な例えば樹脂フィルムを採用することで、フレキシブルな電子放出装置5を得ることができる。電子放出領域522の表面は、エッチングなどによって表面処理することで、電子放出性能の向上を図ることもできる。このような電子放出装置5は、電子放出部52の全体に分散されたカーボンナノファイバーによって電子放出効率が高く、電子放出部52が金属と同等の電気伝導性を有するので電子注入が容易である。また、カーボンナノファイバーは、エラストマー特に界面相に覆われているため、長寿命である。
【0076】
電子放出領域522は、シート状の炭素繊維複合材料(ゴムシート)とシート状の絶縁材料とを重ね合わせ、好ましくは接着し、プレス機などで打ち抜き加工して第1の開口部520及び第2の開口部540を成形して得ることができる。さらに微細な電子放出素子500を成形する場合には、炭素繊維複合材料と溶剤とを混合して塗布液を得て、基材上にスクリーン印刷法、スプレー法、インクジェット法などの薄膜を形成する公知の方法によって所望の厚さや所望の直径の第1の開口部520及び第2の開口部540を有する電子放出部52及び絶縁部54を得ることができる。
【0077】
図5は、本発明の他の一実施の形態にかかる電子放出装置5aの縦断面を示す模式図である。電子放出装置5aは、絶縁部54に蛍光体を含有させたことで絶縁部54と蛍光部58を兼用し、絶縁部54に第2の開口部540が形成されていない。それ以外は、電子放出装置5と基本的に同じ構成である。したがって、アノード電極56とカソード電極50との間へ電圧を印加すると、電子放出部52の電子放出領域522からアノード電極56へ向かって電子(e−)を放出し、絶縁部54に当たって発光する。
【0078】
図6は、本発明のさらに他の一実施の形態にかかる電子放出装置5bの縦断面を示す模式図である。電子放出装置5bは、カソード電極50と、カソード電極50と電気的に接続する電子放出部52と、少なくとも絶縁部を介して電子放出部52と電気的に絶縁するアノード電極56と、を含み、電子放出部52は、アノード電極56へ向けて電子を放出する電子放出領域522を有し、アノード電極56を含む第1の壁部564と、電子放出領域522を含む第2の壁部524と、を含む壁部によって例えば円柱状に囲まれた電子放出素子500を有する。電子放出装置5bは蛍光部を有しておらず、電子放出素子500は、電子放出部52に形成された円柱状の第1の開口部520の環状内周壁及び底壁が第2の壁部524であり、円柱状の第1の開口部520を塞ぐ上蓋が第1の壁部564である。したがって、第1の開口部520はアノード電極56に向けて開口する凹部であって、貫通孔ではない。アノード電極56は、例えば透明なガラス板の第1の開口部520側表面であって第2の壁部524とは非接続に形成されている。アノード電極56の周囲は絶縁部材で形成された絶縁部54である。したがって、アノード電極56とカソード電極50との間へ電圧を印加すると、電子放出部52の電子放出領域522からアノード電極56へ向かって電子(e−)を放出する。
【0079】
図7は、本発明のさらに他の一実施の形態にかかる電子放出装置5dの縦断面を示す模式図である。電子放出装置5dは、第1の開口部520と蛍光部58との間に配置されたグリッド電極59を有している以外は、電子放出装置5と基本的に同じ構成である。グリッド電極59は、絶縁部54に挟まれて設置され、電子放出部52との間に絶縁部54が介在しかつ蛍光部58との間にも絶縁部54が介在し、電子放出部52及び蛍光部58と非接触に配置されている。したがって、グリッド電極59とカソード電極50との間へ電圧を印加し、さらにアノード電極56とカソード電極50との間へ電圧を印加すると、電子放出部52の電子放出領域522からグリッド電極59及びアノード電極56へ向かって電子(e−)を放出する。このようにグリッド電極59をさらに設けることで、発光パターンが均一化する。グリッド電極59は、導電性の多孔シートであって、例えば銅製多孔シートなどを用いることができる。
【0080】
図8は、本発明のさらに他の一実施の形態にかかる電子放出装置5eの縦断面構造がわかる斜視図を示す模式図である。図8において電子放出装置5eは、縦断面構造をわかりやすくするため、他の図と異なり、アノード電極56を下にして示した。電子放出装置5eは、透明なITOフィルムからなるアノード電極56上に、絶縁部54、電子放出部52、カソード電極50が積層し、さらにカソード電極50上には点線で図示した透明フィルム60を有している。電子放出部52の第1の開口部520と絶縁部54の第2の開口部540とは、図8の右手前から左奥へと延びる溝状であり、その溝の底部に蛍光部58が形成されている。カソード電極50は、電子放出部52の端部と部分的に接触しており、第1の開口部520の上方には透明フィルム60が存在するのみであって、蛍光部58の発光を遮るものがない。アノード電極56とカソード電極50との間へ電圧を印加すると、第1の開口部520の電子放出領域522からアノード電極56へ向かって電子(e−)を放出し、蛍光部58が発光する。蛍光部58で発光された光は、透明なアノード電極56を透過して第2の発光部560から取り出される。また、蛍光部58で発光された光は、第1の開口部520及び第2の開口部540を通過し、透明フィルム60を透過して第1の発光部562から取り出される。したがって、電子放出装置5eは、溝状に形成された電子放出素子500に対向して、透明フィルム60側とアノード電極56側に第1の発光部562と第2の発光部560とから両面発光を得ることができる。なお、本実施の形態においては、アノード電極56は透明なITOフィルムを用いたが、例えば金属板や金属コートガラスなどを用いても電子放出部52側つまり透明フィルム60側からの発光は得られるため、高価なITOフィルムを用いることなく発光装置を製造することができる。また、図8においては、溝状の電子放出素子500の前後が解放されているが、他の実施形態と同様に、図示せぬシール材で密封され、電子放出素子500内が真空状態に保たれている。
【0081】
このようにして得られた電子放出装置5は、例えば、フィールド・エミッション・ディスプレイ、電極基板の表面全体を発光させた面発光体(面蛍光体)、あるいは、蛍光ランプ、電子顕微鏡、プラズマディスプレイなどの熱陰極動作または冷陰極動作による放電を利用する各種電極として用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
(1)炭素繊維複合材料サンプルの作製
6インチオープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔1.5mm)に、100重量部(phr)のエラストマー(分子量が約300万の天然ゴム)を投入して、ロールに巻き付かせ、5分間素練りした後、20重量部(phr)の多層カーボンナノファイバー(平均直径156nmで平均長さ10μm)を投入し、混合物をオープンロールから取り出した。そして、ロール間隔を1.5mmから0.3mmへと狭くして、混合物を再びオープンロールに投入して薄通しを繰り返し5回行なった。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。さらに、ロール間隙を1.1mmにセットして、薄通しして得られた炭素繊維複合材料を投入し、分出しした。
分出しされた炭素繊維複合材料は90℃、5分間プレス成形し、それぞれ厚さ1mmのシート状の炭素繊維複合材料(無架橋体)に成形し、パルス法NMRを用いてハーンエコー法及びソリッドエコー法による測定を行った。また、薄通しして得られた炭素繊維複合材料にパーオキサイドを混合し、ロール間隙を1.1mmにセットして分出しして、さらに175℃、100kgf/cm2にて、20分間プレス架橋することで架橋した炭素繊維複合材料(架橋体)が得られた。
【0084】
(2)パルス法NMRを用いた測定
無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核が1H、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は、150℃であった。この測定によって求めた、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n/150℃)は830であり、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.11であった。測定結果を表1に示した。なお、同様に測定した原料エラストマーの天然ゴムの第1のスピンースピン緩和時間(T2n/30℃)は、700μmであった。
【0085】
(3)電子放出装置の作成
図9は、実験用に作成した電子放出装置5cの分解斜視図である。電子放出装置5cの基本的な構成は、図8の電子放出装置5eと同じであり、電子放出素子500がコの字状の電子放出領域522(側壁)に囲まれている点が異なる。架橋体の炭素繊維複合材料からなる電子放出部52に厚さ190μmのマイカ製絶縁部54を重ね合わせ、その側部を図9に示すようにコの字状にカッターで切り欠いた。切り欠きの大きさは、幅4mm、奥行き8mmであった。カッターで切り欠かれた電子放出部52及び絶縁部54は、第1の開口部520及び第2の開口部540に形成された。第1の開口部520の側壁は、電子放出領域522である。電子放出部52及び絶縁部54は、電子放出部52の表面に導電性テープ(カソード電極50)を貼って電気的に接続した。また、絶縁部54の上にITOフィルムのアノード電極56を積層し、固定した。アノード電極56の絶縁部54側に電子放出部52の切り欠きに合わせて白色蛍光体を含む薄膜の蛍光部58を形成した。この電子放出装置5cを真空チャンバー内に配置して電界電子放出実験を行なった。
【0086】
(4)電界電子放出実験結果
電子放出装置5cを真空度2.2E−6mbar中でアノード電極56とカソード電極50との間へ電圧(0〜1000V)を印加した。電子放出素子500は、図10に示す写真のように広い範囲(図9の発光部560に相当する範囲)で発光した。また、印加電圧(V)とエミッション電流(A)との関係を図11のグラフに示した。しきい値は、1.5V/μmであった。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】オープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態にかかる電子放出装置5の縦断面を示す模式図である。
【図3】図2に示した電子放出装置5の各シートの概略形状を示す分解斜視図である。
【図4】図3に示したアノード電極56を蛍光部58側から見た平面図である。
【図5】本発明の他の一実施の形態にかかる電子放出装置5aの縦断面を示す模式図である。
【図6】本発明のさらに他の一実施の形態にかかる電子放出装置5bの縦断面を示す模式図である。
【図7】本発明のさらに他の一実施の形態にかかる電子放出装置5bの縦断面を示す模式図である。
【図8】本発明のさらに他の一実施の形態にかかる電子放出装置5eの斜視図を示す模式図である。
【図9】実施例1の電子放出装置5cの縦断面を模式的に示す図である。
【図10】実施例1の電子放出装置5cの発光状態を撮影した写真である。
【図11】実施例1の電子放出装置5cの印加電圧(V)とエミッション電流(A)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0088】
5、5a〜5e 電子放出装置
10 第1のロール
20 第2のロール
30 エラストマー
40 カーボンナノファイバー
d ロール間隔
V1 第1のロールの表面速度
V2 第2のロールの表面速度
50 カソード電極
52 電子放出部
54 絶縁部
56 アノード電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有し、
前記電子放出領域は、前記電子放出部の側壁に形成された、電子放出装置。
【請求項2】
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、少なくとも前記アノード電極側に開口した開口部を有し、
前記開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域である、電子放出装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記電子放出部の前記開口部は、シート状の前記電子放出部を貫通する貫通孔である、電子放出装置。
【請求項4】
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
前記電子放出部に積層されたシート状の絶縁部と、
前記絶縁部に積層されたシート状のアノード電極と、
を具備し、
前記絶縁部は、開口部を有し、
前記開口部は、前記電子放出部と前記アノード電極とに臨んで設けられ、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記開口部を通って前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有する、電子放出装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記絶縁部の前記開口部は、シート状の前記絶縁部を貫通する貫通孔である、電子放出装置。
【請求項6】
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続する電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を含み、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有し、
前記アノード電極を含む第1の壁部と、前記電子放出領域を含む第2の壁部と、を含む壁部によって囲まれた電子放出素子を有する、電子放出装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記アノード電極は、蛍光体を含む蛍光部を有する、電子放出装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記絶縁部は、蛍光体を含む、電子放出装置。
【請求項9】
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、少なくとも前記アノード電極側に開口した開口部を有し、
前記アノード電極は、前記開口部側に蛍光部を有し、
前記開口部と前記蛍光部との間に配置されたグリッド電極を有し、
前記開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域である、電子放出装置。
【請求項10】
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
前記アノード電極の前記電子放出部側に形成された蛍光部と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、第1の開口部を有し、
前記第1の開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であり、
前記絶縁部は、第2の開口部を有し、
前記蛍光部で発光された光を前記第1の開口部及び前記第2の開口部を通過して取り出す発光部を有する、電子放出装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記発光部は、第1の発光部であって、
前記蛍光部で発光された光を前記アノード電極側から取り出す第2の発光部をさらに有する、電子放出装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかにおいて、
前記炭素繊維複合材料は、前記エラストマーに、前記カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて得られた、電子放出装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかにおいて、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmである、電子放出装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかにおいて、
前記炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100〜3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である、電子放出装置。
【請求項1】
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有し、
前記電子放出領域は、前記電子放出部の側壁に形成された、電子放出装置。
【請求項2】
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、少なくとも前記アノード電極側に開口した開口部を有し、
前記開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域である、電子放出装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記電子放出部の前記開口部は、シート状の前記電子放出部を貫通する貫通孔である、電子放出装置。
【請求項4】
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
前記電子放出部に積層されたシート状の絶縁部と、
前記絶縁部に積層されたシート状のアノード電極と、
を具備し、
前記絶縁部は、開口部を有し、
前記開口部は、前記電子放出部と前記アノード電極とに臨んで設けられ、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記開口部を通って前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有する、電子放出装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記絶縁部の前記開口部は、シート状の前記絶縁部を貫通する貫通孔である、電子放出装置。
【請求項6】
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続する電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を含み、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域を有し、
前記アノード電極を含む第1の壁部と、前記電子放出領域を含む第2の壁部と、を含む壁部によって囲まれた電子放出素子を有する、電子放出装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記アノード電極は、蛍光体を含む蛍光部を有する、電子放出装置。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記絶縁部は、蛍光体を含む、電子放出装置。
【請求項9】
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、少なくとも前記アノード電極側に開口した開口部を有し、
前記アノード電極は、前記開口部側に蛍光部を有し、
前記開口部と前記蛍光部との間に配置されたグリッド電極を有し、
前記開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域である、電子放出装置。
【請求項10】
カソード電極と、
前記カソード電極と電気的に接続するシート状の電子放出部と、
少なくとも絶縁部を介して前記電子放出部と電気的に絶縁するアノード電極と、
前記アノード電極の前記電子放出部側に形成された蛍光部と、
を具備し、
前記電子放出部は、エラストマー中にカーボンナノファイバーが分散された炭素繊維複合材料からなると共に、第1の開口部を有し、
前記第1の開口部の側壁は、前記アノード電極へ向けて電子を放出する電子放出領域であり、
前記絶縁部は、第2の開口部を有し、
前記蛍光部で発光された光を前記第1の開口部及び前記第2の開口部を通過して取り出す発光部を有する、電子放出装置。
【請求項11】
請求項10において、
前記発光部は、第1の発光部であって、
前記蛍光部で発光された光を前記アノード電極側から取り出す第2の発光部をさらに有する、電子放出装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかにおいて、
前記炭素繊維複合材料は、前記エラストマーに、前記カーボンナノファイバーを混合させ、かつ剪断力によって分散させて得られた、電子放出装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかにおいて、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmである、電子放出装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかにおいて、
前記炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100〜3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である、電子放出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−311083(P2008−311083A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−157877(P2007−157877)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】
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