説明

電子時計の押ボタンスイッチ及び該押ボタンスイッチを備えた電子時計

【課題】 長期間安定に動作し且つ確実にクリック感を与え得る電子時計の押ボタンスイッチ及びこれを備えた電子時計を提供すること
【解決手段】 電子時計の押ボタンスイッチ1は、手前側に突出する突出位置P1と奥に押込まれた押込み位置P2との間で長手方向Aに往復動可能に支持された棒状体5であって、大径部55、該大径部55よりも奥側に位置する小径部57、及び該小径部57と大径部55とをつなぐ斜面形成部59を備えたもの5と、棒状体5が突出位置P1にある際に該棒状体の小径部57の側面54Aに対面し棒状体5が押込み位置P2にある際に該棒状体5の大径部55の側面に対面する位置において、棒状体5の側面に先端部76が弾性的に押付けられた金属製の側面押えばね7と、棒状体5を突出位置P2に戻す向きA2に該棒状体5に偏倚力を及ぼす金属製の戻しばね6とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子時計の押ボタンスイッチ及び該押ボタンスイッチを備えた電子時計に係る。
【背景技術】
【0002】
従来の電子時計の押ボタンスイッチとしては、一般的には、スイッチ接点部を備えたスイッチばねを回路ブロックのスイッチパターンに接触させるようにスイッチばねをスイッチパターンに押付けることにより電気的な接続を確立させる構造が採用されている。この場合、押しボタンスイッチとして、例えば、押しボタンの押圧力を受ける剛性を備えるように、配線パターンのところにピンを立てその背後を剛性支持するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、この特許文献1の押ボタンスイッチの技術は、配線パターンがフレキシブル基板に形成されたときには利用され難い。また、この特許文献1の押ボタンスイッチは、押圧操作に際してクリック感がないので、押圧操作が確実に行われたか否かをユーザが実感し難く、操作ミスにつながる虞れがある。
【0004】
すなわち、押ボタンスイッチにおいて、その押圧操作が確かに行われたことを操作者が実感できることが望ましい。特に、腕時計のような電子時計において、クロノグラフ機能等の作動や停止等に用いられる押ボタンスイッチは、該電子時計において利用可能なスペースが限られることから、そのサイズが小さくなるので、クリック感付与のために各種の構造が提案されている。
【0005】
クリック感を付与し得るタイプの押ボタン用スイッチとしては、押ボタンの軸部の外周の溝部にゴムのような材料弾性を備えた弾性材を突出可能に取付けておくと共に、ボタン軸部が嵌合された穴の周面に溝を設けておき、押ボタンの押圧に伴いボタン軸部が該軸部の延在方向に押込まれる際、弾性材が溝部に対面する中間押込み位置に達すると弾性材が突出して溝部に一旦係合し更に強い押込み力の作用下で初めて弾性材が引込んで軸部が更に奥に押込まれるものが提案されている(特許文献2)。この場合一旦溝部に嵌った弾性材を溝部から引込めるように軸部を押込む際に、クリック感が得られる。なお、このタイプのスイッチ構造体では、押ボタンを元の突出位置に復帰させる戻しばねとしてコイルばねが用いられている。
【0006】
しかしながら、溝部、ゴム様弾性材及びコイルばねを押ボタンのところに組込もうとすると、特許文献1の図1〜図4に示されているように、押ボタン自体の構造が複雑化するのを避け難い。また、ゴム弾性を利用するだけでなく、該ゴムが嵌合面に交差する方向に突出したり引込んだりするように変形する必要があることから、長期間安定に動作され難い虞れがある。
【0007】
一方、押ボタンによって回動変位されるレバーにU字形のばねを一体的に形成し、該U字形ばねの先端部に形成した凹部がピンに係脱可能にしたものも提案されている(特許文献3)。この場合、ピンに一旦係合したU字形ばねの先端部の凹部がピンを乗越えて係合状態から脱するようにレバー一体化U字形ばねを回動させるべく押ボタンを押込む際に、クリック感が得られる。なお、このタイプのスイッチ構造体では、押ボタンを元の突出位置に復帰させる戻しばねとして板ばねが用いられている。
【0008】
しかしながら、この場合、U字形ばねが全体として揺動される必要があることから、例えば、特許文献2の図1に示されているように、U字形ばね(7b)の動作領域を広く確保する必要がある。しかも、U字形ばねが揺動されその先端部(先端側脚部)の凹部が前記ピンを乗越える際に、該先端脚部が座屈方向の力を受けて変形される必要があることから、該先端脚部が破損され易い。
【特許文献1】実願平2−19647号のマイクロフィルム(実開平3−110397号)
【特許文献2】特許第3551726号明細書
【特許文献3】特許第3232598号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記諸点に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、長期間安定に動作し且つ確実にクリック感を与え得る電子時計の押ボタンスイッチ及びこれを備えた電子時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電子時計の押ボタンスイッチは、前記目的を達成すべく、手前側に突出する突出位置と奥に押込まれた押込み位置との間で長手方向に往復動可能に支持された棒状体であって、大径部、該大径部よりも奥側に位置する小径部、及び該小径部と前記大径部とをつなぐ斜面形成部を備えたものと、該棒状体が前記突出位置にある際に該棒状体の前記小径部の側面に対面し前記棒状体が前記押込み位置にある際に該棒状体の前記大径部の側面に対面する位置において、前記棒状体の側面に先端部が弾性的に押付けられた金属製の側面押えばねと、前記押込み位置にある前記棒状体を前記突出位置に移動させる向きに該棒状体に偏倚力を及ぼす金属製の戻しばねとを有する。
【0011】
本発明の電子時計の押ボタンスイッチでは、「手前側に突出する突出位置と奥に押込まれた押込み位置との間で長手方向に往復動可能に支持された棒状体であって、大径部、該大径部よりも奥側に位置する小径部、及び該小径部と前記大径部とをつなぐ斜面形成部を備えたものと、該棒状体が前記突出位置にある際に該棒状体の前記小径部の側面に対面し前記棒状体が前記押込み位置にある際に該棒状体の前記大径部の側面に対面する位置において、前記棒状体の側面に先端部が弾性的に押付けられた金属製の側面押えばねと」が設けられているので、側面押えばねの弾性力の作用下で棒状体を、突出位置から押込み位置に押込むと、棒状体の小径部の側面に押付けられていた側面押えばねの先端部が、棒状体の斜面部(斜面形成部によって形成される斜面)に沿って引っ込められた後、棒状体の大径部の側面に押付けられることになる。すなわち、ユーザが指先等で突出位置から押込み位置に棒状体を押込む際、側面押えばねの先端部が斜面部に押付けられている間は徐々に増加する抵抗が感じられ、側面押えばねの先端部が大径部の側面に押付けられるようになると側面押えばねによる抵抗が突然急激に減少する。この抵抗の急激な減少が、ユーザによって、クリック感として確実に感知され得る。ここで、ユーザが棒状体を指先等で棒状体を直接押込むようになっていても、別体の押ボタン等を介して棒状体を直接押込むようになっていてもよい。
【0012】
棒状体は、典型的には、相似断面形状(典型的には断面円形)のピン状体からなり、小径部及び大径部は同心の柱状部(円柱状部)からなる。その場合、斜面形成部は、同心の錐台状部(典型的には円錐台状部)の傾斜した外周面からなる。但し、所望ならば、例えば、小径部及び大径部が、夫々、狭幅部及び広幅部からなり、斜面形成部が該狭幅部及び広幅部の側縁をつなぐ斜面部(傾斜側面部)からなっていてもよい。その場合、小径部及び大径部の夫々を構成する狭幅部及び広幅部、並びに斜面形成部を構成する幅変動部の反対側側面は、例えば、面一の平面からなっていてもよい。
【0013】
この押ボタンスイッチでは、このクリック感が、「長手方向に往復動可能で斜面形成部を備えた棒状体と、該棒状体の斜面部を含む側面に先端部が弾性的に押付けられる金属製の側面押えばねと」により付与され得るので、ゴム様弾性材に起因する動作不良の虞れ(特許文献1)やU字状ばねに起因する動作不良の虞れがないから、長期間安定に動作され得る。
【0014】
本発明の電子時計の押ボタンスイッチでは、典型的には、前記戻しばねが前記棒状体の奥端に係合して該棒状体に前記偏倚力を与えるように構成される。但し、所望ならば、棒状体の中間部に突起部を形成しておいて該突起部に戻しばねが作用するようになっていてもよい。ここで、戻しばねは、典型的には、板ばねからなる。但し、所望ならば、戻しばねがコイルばねその他のばねであってもよい。
【0015】
以上において、電子時計の押ボタンスイッチは、典型的には、電子時計の時計ケースの側面に設けられるサイドスイッチからなる。
【0016】
本発明の電子時計の押ボタンスイッチでは、典型的には、前記棒状体が、前記小径部よりも奥側に該棒状体の往復動を案内する奥側大径部を備える。
【0017】
その場合、棒状体の往復動が、奥側及び手前側の大径部によって案内され得るから、棒状体の往復動の案内が安定にないし確実に行われ得る。但し、小径部で棒状体の奥側部分の往復動の案内が行われるようになっていても、また、前述のように、面一の一側縁で棒状体の往復動が案内されるようになっていてもよい。
【0018】
本発明の電子時計の押ボタンスイッチでは、典型的には、前記棒状体の横断面が円形であり、該棒状体が前記小径部を形成する環状溝部を備える。
【0019】
その場合、棒状体が、環状溝部の奥側に該棒状体の往復動を案内する奥側大径部を備え得ることになるので、上述のように安定に往復動され得る棒状体が容易に形成され得る。
【0020】
本発明の電子時計の押ボタンスイッチでは、典型的には、前記側面押えばねが板ばねであり、前記棒状体の長手方向への該板ばねの位置ズレを規制する位置ズレ規制壁部を備える。
【0021】
その場合、側面押えばねが、容易に形成され得、且つ位置ズレ規制壁部によって規制されることにより、安定に動作され易い。
【0022】
本発明の電子時計の押ボタンスイッチでは、典型的には、前記棒状体が、金属ピンからなる芯体部と、該芯体の外周部の少なくとも一部を蔽う樹脂製被覆部とを有する。
【0023】
その場合、棒状体の機械的強度が確保され易く且つ該棒状体を形成する金属ピンにより電気的な接点を形成することが可能になる。
【0024】
本発明の電子時計の押ボタンスイッチでは、典型的には、前記芯体部が、前記側面押えばねに当接可能なように、前記棒状体の前記小径部又は該小径部よりも手前側の前記大径部のうちのいずれか一方の箇所で露出している。
【0025】
その場合、棒状体の往復動に伴う位置変動に伴って電気的な接点がON/OFFされ得る。この場合、押ボタンスイッチにおける電気的な接点のON/OFF動作が、棒状体の押込み方向への押圧力を直接受ける戻しばねのところではなく、側面押えばねのところに形成され得るので、電気的な接点部分に過大な押圧力がかかる虞れがない。従って、この押ボタンスイッチは、フレキシブル基板のような剛性を欠く基板においても安定に動作するスイッチ接点を与え得る。このようなスイッチ接点が形成され得るのは、押ボタンスイッチを、小径部と大径部と両者をつなぐ斜面形成部とを備えた棒状体に側面押えばねを組合わせてクリック感を出させる構造にしたことによる。換言すれば、クリック感を出させるべく小径部と大径部と両者をつなぐ斜面形成部とを備えた棒状体に側面押えばねを組合わせてなる押ボタンスイッチにおける小径部及び大径部を接点のON/OFF位置として用いるようにしたことにより、フレキシブル基板のような剛性を欠く基板においても安定に動作するスイッチ接点が得られた。この押ボタンスイッチは、前述のように、電子時計のサイドスイッチとして好適である。但し、他の部位に用いられていてもよい。
【0026】
本発明の電子時計の押ボタンスイッチでは、典型的には、前記芯体部がその奥端に露出した露出端部を備え、該露出端部において前記戻しばねに当接している。
【0027】
その場合、戻しばねと側面押えばねとが金属ピンからなる芯体と協働して、電気的な接点のON/OFFを行うスイッチを構成し得る。この場合、例えば、側面押えばねが回路ブロックの電源電圧給電パターンに電気的に接続されるか該パターンの一部として一体的に形成された片状部からなり、戻しばねがその基端側で回路ブロックのスイッチパターンに電気的に接続される。勿論、戻しばねがスイッチパターンの一部として一体的に形成された片状部であってもよい。
【0028】
本発明の電子時計の押ボタンスイッチでは、典型的には、前記露出端部が大径の鍔状部を有し、該鍔状部が前記棒状体の突出を規制する係止面を備える。
【0029】
その場合、棒状体が突出位置において安定に保持され得る。
【0030】
本発明の電子時計は、前記のような押ボタンスイッチを備える。この押ボタンスイッチは、典型的には、電子時計のサイドスイッチとして用いられる。但し、他の部位のスイッチとして用いられてもよい。また、この押ボタンスイッチは、例えば、クロノグラフ時計その他の時計のSTART/STOPスイッチやリセットスイッチとして用いられ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の好ましい一実施の形態を添付図面に示した好ましい実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0032】
図1には、本発明の好ましい一実施例の押ボタンスイッチ1をサイドスイッチの形態で備えた本発明の好ましい一実施例の電子時計2が示されている。
【0033】
電子時計2は、地板20を有する。地板20は、図1に加えて該地板20の平面説明図である図2の(a)からわかるように、供給電源となるボタン型電池11を支えるための凹凸部21や、クロック信号の発振器を構成する水晶ユニット12を支えるための凹凸部22や、クロノグラフ機能等を備えた時計用IC(集積回路)13Aを含む回路ブロック13を支えるための凹凸部23や、10分の1秒クロノグラフ用モータ14A及び分秒クロノグラフ用モータ14Bや通常運針時計用モータ14Cを載置し支持するための凹凸部24A,24B,24Cや、クロノグラフ等特殊機能用輪列15A,15Bや時計輪列15Cを支える各種の凹凸部25A,25B,25Cや、巻真16を支えるための凹凸部26等を備える。地板20は、更に、一側縁に、押ボタンスイッチ1を構成する各種部品を支えるためのスイッチ用凹凸部30を備える。この例では、押ボタンスイッチ1として、スタート/ストップ用の押ボタンスイッチと、リセット用の押ボタンスイッチとがある。両スイッチは、実際上同様に構成されるので、以下では、一方の押ボタンスイッチについて、詳細に説明する。
【0034】
電子時計2の回路ブロック13は、図1に加えて図3の(a)〜(c)に示したように、フレキシブル回路基板17及び支持スペーサ13B並びに板状接地端子又は板状電源電圧(VDD)端子18及びスイッチ端子パターン19を含む。以下では、説明の簡単化のために接地端子であるとする。板状接地端子18は、例えば、電池11のプラス電極につながった電池プラス端子であって、電子時計2の各種電気部品や各種電子部品の共通接地電位を与えるべく、基板17の表側(図1の表面側であって電子時計2の裏蓋側(文字板とは反対側))に沿って面状に延在し、所望部位において、片状接点部18Aを備える。
【0035】
押ボタンスイッチ1は、該スイッチ1の部分を拡大して示した図3の(a)〜(c)並びに該スイッチ1の動作状態を示し後で詳述する図4の(a)及び(b)からわかるように、地板20のスイッチ用凹凸部30に加えて、棒状体5と、戻しばね6と、側面押えばねとしての接点ばね7とを有する。この例では、接点ばね7は、回路ブロック13の板状接地端子18の一部をなし、戻しばね6は、スイッチ端子パターン19に電気的につながっている。
【0036】
棒状体5は、図1や図3の(a)や図4の(a)に示した突出位置P1と図4の(b)に示した押込み位置ないし引込み位置P2との間で、長手方向Aに沿ってA1,A2方向に往復動可能である。
【0037】
棒状体5は、図3の(a)〜(c)や図4の(a)〜(b)からわかるように、金属ピンからなる芯体部ないし真体部40と、該芯体部40の外周の少なくとも一部を蔽う樹脂製被覆部50とを有する。この棒状体5は、典型的には、金属ピン40をインサート成形してなる。
【0038】
金属ピンの形態の芯体部40は、細長い円柱状のピン本体部41と、該ピン本体部41の先端ないし奥端42に形成された大径フランジ状部43と、該ピン状本体部41の基端44に形成された小径フランジ状部45と、長手方向中間の所定部位46に形成された中径フランジ状部47とを備える。
【0039】
樹脂製被覆部ないし外層部50は、芯体部40の大径フランジ状部43と小径フランジ状部45との間において、該芯体部40を蔽う円筒状体51からなり、先端側円筒状部52と基端側ないし手前側円筒状部53との間に環状溝部ないし小径円筒状部54を備える。先端側及び基端側円筒状部52及び53は、芯体部40の中径フランジ状部47とほぼ同一の径を有し、基端側円筒状部53の中間に芯体部40の中径フランジ状部47の外周面48が露出している。従って、基端側円筒状部53は、より詳しくは、第一の基端側円筒状部分55と第二の基端側円筒状部分56とからなる。ここで、芯体部40の中径フランジ状部47の周面48が確実に露出し得るように、第一及び第二の基端側円筒状部分55,56の径は、中径フランジ状部47の径よりも僅かに小さいか該径と実質的に同一(但し該径を越えない)である。勿論、後述する側面押えばねとしての接点ばね7の先端部が狭幅で突出している場合には、第一及び第二の基端側円筒状部分55,56の径が中径フランジ状部47の径よりも僅かに大きくてもよい。
【0040】
環状溝部54は、円筒状底面54Aと、先端側側面54Bと、基端側傾斜側面54Cとによって規定される。基端側傾斜側面54Cは、大径部としての第一の基端側円筒状部分55と溝部54の底面54Aを構成する小径部としての円筒状部分57とをつなぐ斜面形成部としての円錐台状部分59の傾斜した周面からなる。
【0041】
図2の(a)〜(b)、図3の(a)〜(c)及び図4の(a)〜(b)からわかるように、地板20のスイッチ用凹凸部30は、地板20の外周面27に沿った壁部31に形成された溝部32を含む。溝部32は、棒状体5の樹脂製被覆部50の中径円筒状部52,53及び芯体40の中径フランジ状部47がA方向に摺動可能に挿通されるように、該中径円筒状部52,53及び中径フランジ状部47の径に実際上一致する長さの辺を備えた正方形断面を有する。中径円筒状部52,53及び中径フランジ状部47の横断面により規定される円が実際上内接する大きさ及び形状の横断面を備える限り、溝32の横断面形状は正方形の代わりに他の形状でもよい。壁部31の奥端面33側には、戻しばね6の作動用凹部34が形成され、戻しばね作動用凹部34の近傍には、戻しばね6の固定部35が形成されている。棒状体摺動溝部32の中間部の一側には、側面押えばねとしての接点ばね7の作動用凹部ないし溝部36が形成されている。接点ばね作動用溝部36は、棒状体摺動溝部32に交差し、且つ該溝部32よりも深い溝部36からなる。図2の(a)や(b)においては、接点ばね作動用溝部36は、溝部32の一側に重なっているだけであるけれども、想像線36で示したように、より広い範囲で溝部32に交差していてもよい(図4の(a)〜(b)ではそのように広範囲で交差した溝部36が示されている)。以下では、凹凸部30の溝部32のうち厚さ方向溝部36よりも奥の部分(A1方向に位置する部分)を奥側溝部分37ともいい、厚さ方向溝部36よりも手前の部分(A2方向に位置する部分)を手前側(外側)溝部分38ともいう。
【0042】
棒状体5は、芯体部40の大径フランジ状部43の手前側面43Aが壁部31の奥端面33に当接する突出位置P1にある際、樹脂製被覆部50の環状溝部54が接点ばね作動用溝部36に丁度対面する大きさ及び形状を有する。
【0043】
戻しばね6は、戻しばね固定部35に固定された基部61と、該基部61から延在した板ばねの形態の戻しばね本体部62とからなる。なお、戻しばね固定部35には、スイッチ端子パターン19が配置され、戻しばね6は、その基部61とスイッチ端子パターン19との導通が確保される状態で、固定部35に留めねじ等により固定される。スイッチ端子パターン19と等電位にある戻しばね本体部62は、戻しばね作動用凹部34内で揺動可能で、先端の突出部ないし作動部63において、棒状体5の芯体部40の大径フランジ状部43の奥側面43BにA2方向の偏倚力すなわち戻し力F1を及ぼす。
【0044】
側面押えばねとしての接点ばね7は、他の片状接点部18Aと同様に、板状接地端子18の一側縁から延設された板ばねからなる。
【0045】
すなわち、接点ばね7は、図3の(a)〜(c)及び図4の(a)〜(b)からわかるように、電子時計2の主面の延在方向に平行に延びた狭幅の帯状基部71と、該基部71に対して直角に電子時計2の厚さ方向に延びた接点ばね本体部72とを有する。狭幅の帯状基部71は、基端側端部73で板状接地端子18の本体部18Bに連続的につながり、該基部71の先端74において、接点ばね本体部72の基端75に連続的につながる(図3の(b))。接点ばね本体部72は、基部71に対して直角になるように、端部74,75間において滑らかに湾曲されている。従って、接点ばね7は、その本体部72の折曲方向B1,B2に撓み可能である。接点ばね7の本体部72は、典型的には、棒状体5が丁度突出位置P1にあって棒状体5の溝部54に対面するときには、該溝部54の斜面54Cに軽く接触ないし当接する。但し、所望ならば、棒状体5が突出位置P1にある場合には、接点ばね7の本体部72と棒状体5の溝部54の斜面54Cとの間に狭い間隙が残っていてもよい。また、所望ならば、その反対に、棒状体5が突出位置P1にある場合に、接点ばね7の本体部72が棒状体5の溝部54の斜面54Cに対して比較的強くB1方向に押付けられていてもよい。
【0046】
接点ばね7の本体部72は、凹凸部30の接点ばね作動用溝部36内を電子時計2の厚さ方向に延び、該接点ばね作動用溝部36内でB1,B2方向に可動なように小さな間隙が残る状態で、該溝部36に嵌る大きさを有する。接点ばね7の本体部72は、棒状体5の環状溝部54に遊嵌され得る大きさ及び形状の凸部76を備える。凸部76は、棒状体5が突出位置P1にある際に、棒状体5の環状溝部54に嵌り込み、該凸部76の一側縁77が棒状体5の傾斜側面54Cに当接し、棒状体5に対して、B1方向のばね力を及ぼす。従って、接点ばね7は、その凸部76と棒状体5の傾斜斜面54Cとの接触を介して、棒状体5に対してA2方向の力F20を及ぼす。なお、斜面54Cは、A方向に対して相当程度傾斜しており、典型的には、力F20は、力F1よりも小さい。但し、斜面54Cの傾斜が相当程度大きいことにより、棒状体5をA1方向に押込むときには、接点ばね7のB1方向ばね力に起因する抵抗力(負荷)F2の方が戻しばね6のA2方向ばね力F1に起因する抵抗力(負荷)F1よりも大きい。但し、場合によっては、F2がF1と同程度かF1よりも多少小さくてもよい。
【0047】
次に、以上の如く構成された押ボタンスイッチ1の操作及び動作について、主として、図4の(a)及び(b)に基づいて、説明する。
【0048】
外力をかけていない状態では、図4の(a)に示したように、棒状体5は、戻しばね6によるA2方向偏倚力F1の作用下で、大径フランジ状部43の手前側面43Aが地板20の壁部31の奥側面33に当接する突出位置P1を採る。棒状体5が突出位置P1にある際、棒状体5の小径フランジ状部45の外側端面45Aには、押ボタン8の奥端面8Aが当接する。但し、端面45A,8A間に小間隙が残っていてもよい。なお、押ボタン8は、A方向に移動可能に時計ケース(図示せず)の穴内に嵌合され、外側端部が時計ケースの外周面の外に突出している。
【0049】
棒状体5が突出位置P1にある場合、前述のように、接点ばね7の作動用凸部76が、丁度、棒状体5の環状溝部54に嵌り、凸部76の一側縁77が溝部54の斜面54Cに当接する。従って、棒状体5が突出位置P1にある状態では、棒状体5は、外層樹脂部ないし樹脂被覆部50の奥側の中径円筒状部52並びに該樹脂被覆部50の手前側の中径円筒状部53及び芯体部40の中径フランジ状部47で、夫々、溝部32の奥側溝部分37及び外側溝部分38に内接している。
【0050】
この状態S1では、接点ばね7と戻しばね6及び芯体部40との導通は、樹脂被覆部50によって断たれ、押ボタンスイッチ1は、OFF状態にある。すなわち、スイッチ端子パターン19は、電源側パターン18の電位には設定されない。
【0051】
ユーザが指先等で押ボタン8をA1方向に押すと、押ボタン8のA1方向変位に伴って棒状体5もA1方向に押込まれる。ここで、棒状体5をA1方向に変位させるためには、戻しばね6の大径フランジ状部43に対するA2方向偏倚力F1及び接点ばね7の凸部76の斜面部54Cに対するB1方向偏倚力に起因するA2方向抵抗力ないし負荷F2を越える押圧力をA1方向に加える必要がある。ここで、斜面部54Cの傾斜の故に、接点ばね7のばね力が比較的弱くても、負荷F2の方が負荷F1よりも大きい。
【0052】
棒状体5がA1方向に変位し始めると、棒状体5は大径フランジ状部43の奥側面43Bで戻しばね6の凸部63をA1方向に押すと共に斜面部54Cで接点ばね7の凸部76をB2方向に押す。棒状体5のA1方向変位に伴い力F1,F2が共に多少は増大するけれども、ここでは、説明の簡明化のために、その変動量は小さいとみなす。
【0053】
従って、ユーザは、実際上、接点ばね7の凸部76を斜面部54CでB2方向に押し且つ戻しばね6の凸部63をA1方向に押すことに対する負荷F=(F2+F1)を感じつつボタン8をA1方向に押込んで棒状体5をA1方向に変位させる。なお、この棒状体5のA1方向の押込みに際し、奥側及び手前側中径円筒状部52,53が溝32の奥側及び手前側部分37,38に沿って摺動案内されるので、棒状体5は、溝32に沿って確実にA1方向に進む。
【0054】
負荷ないし抵抗Fは、手前側中径円筒状部53の第一の基端側円筒状部分55が接点ばね7の凸部76に対面する位置に達するまで、換言すれば接点ばね7の凸部76が斜面部54Cを上って手前側中径円筒状部53の第一の基端側円筒状部分55に達するまで、続く。
【0055】
手前側中径円筒状部53の第一の基端側円筒状部分55が接点ばね7の凸部76に対面する位置に達すると、接点ばね7の凸部76が中径部55(53)及び47の外周面58及び48に沿って摺動するだけになるから抵抗力F2が突然なくなり、抵抗力Fが急激に減少する。この抵抗力Fの急激な減少が、ユーザにクリック感を与える。
【0056】
抵抗力Fが急激に減少すると、ボタン8及び棒状体5は、殆ど抵抗を受けない状態で、直ちに押込み位置P2まで押込まれる。この押込み位置P2は、典型的には、ボタン8の手前側端面が時計ケース(図示せず)の外表面と面一になる程度までA1方向に押込まれた位置に対応し、厳密に一定の位置でなくてもよい。但し、所望ならば、棒状体5が押込み位置P2に達した際に、棒状体5のA1方向変位を停止させるストッパが設けられていてもよい。
【0057】
この押込み位置P2では、接点ばね7は、凸部76で芯体40の中径フランジ状部47の外周面47Aに当接する。その結果、接点ばね7から芯体40を介して戻しばね6に至る導電路が形成され、スイッチ1がON状態S1になる。従って、戻しばね6につながったスイッチ端子パターン19が電源パターン18と等電位に設定される。
【0058】
この押ボタンスイッチ1では、スイッチ接点が押ボタンスイッチ1の押ボタン8または棒状体5(又はこれらのA1方向押圧力を直接的に受ける戻しばね6等)がフレキシブル基板17の接点パターンに直接押付けられるのではなく、接点ばね7に押付けられるだけであるから、基板17の剛性の程度にかかわらず適用され得る。また、接点のON/OFF(電気的接触)が、基板17上のパターンではなく、接点ばね7と棒状体5の芯体40との間で形成されるので、長期間安定なスイッチ動作が行われ得る。加えて、この押ボタンスイッチ1では、接点ばね7と棒状体5の芯体40との接点が、クリック感を生起させるための段差構造ないし斜面構造に対応する形態で形成されるので、クリック感を出すための形状的な特徴がスイッチにおけるON/OFF動作を確実に行わせるためにそのまま利用され得る。
【0059】
なお、以上においては、斜面形成部59と芯体40の中径フランジ状部47との間に樹脂部分55があるけれども、接点ばね7の凸部76が斜面54Cを上りきったら直ちに接点がONになるように、樹脂部分55は、なくてもよい。更に、所望ならば、接点ばね7の凸部76が斜面54Cを上りきる直前に接点がONになるように、斜面形成部59の一部まで中径フランジ状部47が拡がっていてもよい。
【0060】
以上においては、押ボタンスイッチ1が位置P1にあるときにスイッチがONになる例について説明したけれども、その代わりに、位置P2にあるときスイッチがONになるようになっていてもよい。その場合、例えば、接点ばね7が溝54の底面54Aに当接しているとき芯体40と導通するように底面54Aに芯体40の周面が露出するようになっていてもよい。なお、押ボタンスイッチ1を該押ボタンスイッチ1の導通状態に応じて作動される別の電子的なスイッチと組合わせて全体としてON/OFFを逆転させてもよい。更に、戻しばね6及び接点ばね7のうちの少なくとも一方又は両方のB1,B2方向及びQ1,A2方向の動作位置に応じて接点がON/OFFされるようになっていてもよい。その場合、芯体40は、露出していなくてもよい。その場合でも、芯体を金属で形成することにより、棒状体に機械的強度を付与しておいてもよい。但し、所望ならば、棒状体5の全体を樹脂等のような電機絶縁材料で形成しておいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の好ましい一実施例の押ボタンスイッチを備えた本発明の好ましい一実施例の電子時計の平面説明図(時計ケースその他の外装部分を取り除いた状態)
【図2】図1の電子時計の地板を示したもので、(a)は地板の全体を示した平面説明図、(b)は(a)の一部を拡大して示した拡大平面説明図。
【図3】図1の電子時計の押ボタンスイッチを含む部分を拡大して示したもので、(a)は平面説明図、(b)は(a)のIIIB−IIIB線断面説明図、(c)は(a)のIIIC−IIIC線断面説明図。
【図4】図3の押ボタンスイッチの動作を示したもので、(a)は突出位置にある押ボタンスイッチについての図3の(a)のIVA−IVA線断面説明図、(b)は押込み位置にある押ボタンスイッチについての(a)と同様な断面説明図。
【符号の説明】
【0062】
1 押ボタンスイッチ
2 電子時計
5 棒状体
6 戻しばね
7 接点ばね(側面押えばね)
8 押ボタン
8A 奥端面
11 電池
12 水晶ユニット
13 回路ブロック
13B スペーサ
14A,14B,14C モータ
15A,15B,15C 輪列
16 巻真
17 基板
18 板状接地端子
18A 片状接点部
19 スイッチ端子パターン
20 地板
21,22,23,24A,24B,24C,25A,25B,25C,26 凹凸部
27 外周面
30 スイッチ用凹凸部
31 壁部
32 溝部
33 奥端面
34 戻しばね作動用凹部
35 固定部
36 接点ばね作動用凹部(溝部)
37 奥側溝部分
38 手前側(外側)溝部分
40 芯体部
41 ピン本体部
42 先端(奥端)
43 大径フランジ状部
43A 手前側面
43B 奥側面
44 基端(手前端)
45 小径フランジ状部
45A 外側端面
47 中径フランジ状部
48,58 外周面
50 樹脂製被覆部
51 円筒状体
52 先端側円筒状部
53 基端側(手前側)円筒状部
54 環状溝部
54A 円筒状底面
54B 先端側側面
54C 基端側傾斜側面(斜面)
55 第一の基端側円筒状部分
56 第二の基端側円筒状部分
57 溝部を形成する円筒状部分
59 溝部を形成する円錐台状部分
61 基部
62 戻しばね本体部
63 作動部
71 狭幅帯状基部
72 側面押えばね本体部
73 基端側端部
74,75 端
76 凸部
77 側縁
A,A1,A2,B1,B2 方向
F,F1,F2 力(抵抗)
P1 突出位置
P2 押込み位置(引込み位置)
S1 突出状態(OFF状態)
S2 押込み状態(ON状態)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子時計の押ボタンスイッチであって、
手前側に突出する突出位置と奥に押込まれた押込み位置との間で長手方向に往復動可能に支持された棒状体であって、大径部、該大径部よりも奥側に位置する小径部、及び該小径部と前記大径部とをつなぐ斜面形成部を備えたものと、
該棒状体が前記突出位置にある際に該棒状体の前記小径部の側面に対面し前記棒状体が前記押込み位置にある際に該棒状体の前記大径部の側面に対面する位置において、前記棒状体の側面に先端部が弾性的に押付けられた金属製の側面押えばねと、
前記押込み位置にある前記棒状体を前記突出位置に移動させる向きに該棒状体に偏倚力を及ぼす金属製の戻しばねと
を有する電子時計の押ボタンスイッチ。
【請求項2】
前記戻しばねが前記棒状体の奥端に係合して該棒状体に前記偏倚力を与えるように構成された請求項1に記載の電子時計の押ボタンスイッチ。
【請求項3】
前記棒状体が、前記小径部よりも奥側に該棒状体の往復動を案内する奥側大径部を備える請求項1又は2に記載の電子時計の押ボタンスイッチ。
【請求項4】
前記棒状体の横断面が円形であり、該棒状体が前記小径部を形成する環状溝部を備える請求項1から3までのいずれか一つの項に記載の電子時計の押ボタンスイッチ。
【請求項5】
前記側面押えばねが板ばねであり、前記棒状体の長手方向への該板ばねの位置ズレを規制する位置ズレ規制壁部を備える請求項1から4までのいずれか一つの項に記載の電子時計の押ボタンスイッチ。
【請求項6】
前記棒状体が、金属ピンからなる芯体部と、該芯体の外周部の少なくとも一部を蔽う樹脂製被覆部とを有する請求項1から5までのいずれか一つの項に記載の電子時計の押ボタンスイッチ。
【請求項7】
前記芯体部が、前記側面押えばねに当接可能なように、前記棒状体の前記小径部又は該小径部よりも手前側の前記大径部のうちのいずれか一方の箇所で露出している請求項6に記載の電子時計の押ボタンスイッチ。
【請求項8】
前記芯体部がその奥端に露出した露出端部を備え、該露出端部において前記戻しばねに当接している請求項6又は7に記載の電子時計の押ボタンスイッチ。
【請求項9】
前記露出端部が大径の鍔状部を有し、該鍔状部が前記棒状体の突出を規制する係止面を備える請求項8に記載の電子時計の押ボタンスイッチ。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか一つの項に記載の押ボタンスイッチを備えた電子時計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−198543(P2008−198543A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34453(P2007−34453)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】