説明

電子機器筐体用の樹脂材料および電子機器筐体

【課題】電子機器の筐体等に適した、軽量性、機械強度、熱伝導性、電界遮蔽性、導電・非帯電性、ねじのセルフタップ強度、成形の容易さを備える材料を提供する。
【解決手段】電子機器または電子部品を収容する筐体に用いる複合樹脂材料であって、PA6樹脂(ポリアミド6=6ナイロン樹脂)とABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン・共重合合成樹脂)と炭素繊維とを含み、1GHz帯での電界遮蔽性が20dB以上であり、かつ、熱伝導率が1.0W/m・K以上である複合樹脂材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器や電子部品を収容する筐体に用いる樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や電子部品を収容する筐体は、内部の電子機器や電子部品を物理的衝撃から保護するための機械強度、発生した熱を外部に逃がすための熱伝導性(放熱性)、外部からの電磁波による誤動作等を防ぐための、電界遮蔽性および導電・非帯電性が要求される。さらに、筐体自身の組み立て、収容する電子機器等の取り付け、および、他の機器との連結等のため、筐体をねじ止めする場合、確実にねじ止めできるように、ねじのセルフタップ強度が要求される。また、筐体成形時の加工コストの低減のため、材料の成形の容易さが要求される。
【0003】
図1に、筐体の例を示す。筐体100はボトムハウジング101とトップカバー103とから構成される。ボトムハウジング101はねじ受け102を備えている。トップカバー103は、ねじ孔104を備えている。ボトムハウジング101に電子機器等(不図示)を収容した後、トップカバー103をボトムハウジング101に嵌合し、ねじ止めすることで、筐体が完成する。
【0004】
電子機器や電子部品を収容する筐体としては、アルミニウム等の金属が材料として用いられてきた。しかし、金属は、重量が大きく、また、複雑な加工が必要であり加工コストが高いため、近年、軽量で加工コストが低い樹脂が、金属に代わりつつある。例えば、SSD(Solid State Drive)筐体には、現在、ダイキャスト成形や抜き打ちプレス加工によってアルミニウムを成形したものだけでなく、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン・共重合合成樹脂)単体を成形したものが市場に導入されている。なお、例えば、ボトムハウジング101をABS樹脂で成形し、トップカバー103をアルミニウムで成形するというように、複数の材料を組み合わせて筐体を構成する場合もある。
【0005】
また、近年、軽量性、機械強度、熱伝導性および導電性に優れた材料として、炭素繊維が注目されている。特許文献1は、電子部品の放熱用部材等に用いる、熱伝導性および電界遮蔽性に優れた炭素繊維シートを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/112516号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これら従来の技術では、電子機器等を収容する筐体に要求される、軽量性、機械強度、熱伝導性、電界遮蔽性、導電・非帯電性、ねじのセルフタップ強度、成形の容易さのすべてを備える筐体を提供することはできなかった。
【0008】
例えば、ABS樹脂成形体は、機械強度、熱伝導性、電界遮蔽性および導電・非帯電性が低かった。また、炭素繊維シートは、炭素繊維をシート状に成形する工程が必要なため、成形容易でなく、加工コストが高かった。
【0009】
それ故に、本発明の目的は、電子機器を収容する筐体等に適した材料として、軽量性、機械強度、熱伝導性、電界遮蔽性、導電・非帯電性、ねじのセルフタップ強度、成形の容易さのすべてを備える樹脂材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、電子機器または電子部品を収容する筐体に用いる複合樹脂材料であって、PA6樹脂(ポリアミド6=6ナイロン樹脂)とABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン・共重合合成樹脂)と炭素繊維とを含み、1GHz帯での電界遮蔽性が20dB以上であり、かつ、熱伝導率が1.0W/m・K以上である複合樹脂材料である。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、PA6樹脂およびABS樹脂は、重量比1:3−3:1で混合されていることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明において、炭素繊維は、平均直径が1−30μmであり、繊維長が2mm以下である短繊維と、繊維長が3−10mmである長繊維とが、重量比1:3−3:1で混合されていることを特徴とする。
【0013】
第4の発明は、第3の発明において、炭素繊維は、PA6樹脂およびABS樹脂の合計に対して、重量比10−30%で混合されていることを特徴とする。
【0014】
第5の発明は、電子機器または電子部品を収容する筐体であって、少なくとも一部が、第1−4の発明のいずれかの複合樹脂材料を射出成形して成形される、筐体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電子機器を収容する筐体等に適した材料として、軽量性、機械強度、熱伝導性、電界遮蔽性、導電・非帯電性、ねじのセルフタップ強度、成形の容易さのすべてを備える樹脂材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電子機器を収容する筐体の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る複合樹脂について、説明する。本発明に係る複合樹脂は、PA6樹脂とABS樹脂と炭素繊維とを混合したものであり、金属に比べて軽く、従来の樹脂と同程度の軽量性を維持している。また、PA6樹脂は、機械強度やねじのセルフタップ強度がABS樹脂に比べ高い。したがって、本発明に係る複合樹脂では、PA6樹脂を混合することにより、ABS樹脂単体に比べ、機械強度およびねじのセルフタップ強度を向上している。また、本発明に係る複合樹脂は、炭素繊維を混合することによって、機械強度、熱伝導性、導電・非帯電性および電界遮蔽性を向上している。
【0018】
ここで、本発明に係る複合樹脂において、ABS樹脂を混合している理由を説明する。PA6樹脂および炭素繊維のみを混合して射出成形した場合、表面スキン層として、PA6樹脂のみからなり炭素繊維を含まない層が現れる。このような表面スキン層では、導電性の高い炭素繊維が成形体の表面に露出しないため、成形体の電気的な接地性が悪化し、表面抵抗が高くなる。このため、成形体の導電・非帯電性が低下するとともに電界遮蔽性も低下し、炭素繊維を混合することの効果が低下してしまう。また、PA6樹脂の表面スキン層は、ヒケが発生しやすく、成形体の表面が波打った形状となり、平滑面に対しての接触面積が減り、成形体外部に対する熱伝導性が低下してしまう。
【0019】
これに対して、PA6樹脂とABS樹脂とを混合すると、成形体には、PA6樹脂のみからなる表面スキン層は発生せず、成形体表面に炭素繊維を露出させることができる。これにより、成形体の表面抵抗が下がり、導電・非帯電性および電界遮蔽性の低下を防止できる。また、成形体表面は、強固な平滑面となり、他の平滑面との接触面積が大きくなり、成形体外部に対する熱伝導性の低下も防止できる。このような効果が得られるPA6樹脂およびABS樹脂の好適な混合比率は重量比1:3−3:1である。PA6樹脂の混合比率が、この範囲より低い場合、機械強度およびやセルフタップ強度が十分得られず、この範囲より高い場合、上述の表面スキン層が発生するおそれがある。
【0020】
また、本発明に係る複合樹脂においては、炭素繊維として、長繊維のものと短繊維のものとを混合して用いている。炭素繊維の導電・非帯電性、電界遮蔽性および熱伝導性は、短繊維より長繊維のほうが優れている。ただし、長繊維のみを炭素繊維として用いた場合、炭素繊維の混合比率が高くなると、射出成形時に炭素繊維が射出ゲート部や金型ランナー部に詰まり、成形品質が低下してしまう。特に、炭素繊維の混合比率が、複合樹脂全体に対して重量比25%を超えたとき、この長繊維の詰まりの発生が顕著となる。
【0021】
本発明に係る複合樹脂では、長短混合した炭素繊維を用いることで、炭素繊維が射出ゲート部や金型ランナー部に詰まるのを防止しつつ、炭素繊維の混合比率を高くすることができる。これにより、従来の樹脂と同様、射出成形が可能であり、低い加工コストを維持しながら、導電・非帯電性、電界遮蔽性および熱伝導性を向上できる。長繊維の一例として、長さ3−10mm、平均直径1−30μmのもの、短繊維の一例として、長さ2mm以下、平均直径1−30μmのものが挙げられる。また、長繊維および短繊維の好適な混合比率は、重量比1:3−3:1であり、全炭素繊維の樹脂(PA6樹脂およびABS樹脂)に対する好適な混合比率は、重量比10−30%である。複合樹脂全体に占める長繊維の炭素繊維の混合比率が、この範囲より低い場合、導電・非帯電性、電界遮蔽性および熱伝導性の向上効果が得られにくく、この範囲より高い場合は、上述の詰まりが発生しやすくなる。
【0022】
以上のように、本発明に係る複合樹脂では、PA6樹脂とABS樹脂と炭素繊維を混合することで、電子機器を収容する筐体等において要求される、軽量性、機械強度、熱伝導性、電界遮蔽性、導電・非帯電性、および、ねじのセルフタップ強度を実現している。また、本発明に係る複合樹脂を射出成形することによって、電子機器を収容する筐体等の成形品を、低コストで作製することができる。
【0023】
本発明に係る複合樹脂材料は、図1に示すような、電子機器を収容する筐体100の材料として利用することができる。また、他の形態の成形体の材料としても利用できる。筐体100は、2つの成形体を組み合わせて、2本のねじで固定する構成としたが、筐体は、1つの成形体で構成してもよく、3つ以上の成形体によって構成してもよい。また、ねじ受け102の数および位置も、何ら限定されるものではなく、さらに多くのねじ受けを設けてもよいし、あるいはねじ受けの代わりに、つめを設けて嵌合させる等の態様としてもよい。また、筐体は、本発明に係る複合樹脂材料を用いた成形体のみで構成してもよいし、他の樹脂材料や金属材料を用いた成形体と組み合わせて構成してもよい。さらにまた、本発明に係る複合樹脂材料は、電子機器や電子部品を収容する筐体だけでなく、他の物品を収容する筐体の材料として利用してもよい。
【実施例】
【0024】
本発明に係る複合樹脂の一実施例として、PA6樹脂、ABS樹脂、長繊維炭素繊維および短繊維炭素繊維を重量比55:20:15:10で混合したものが挙げられる。また、本実施例では、炭素繊維として、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維を用いている。本発明の効果を検証するため、本実施例および複数の比較例の材料を、射出成形で成形して、図1に示す筐体を作製し、物性値を測定した。物性値は、機械強度として引張り強度、電界遮蔽性、熱伝導率、導電性として表面抵抗、および、ねじのセルフタップ強度である。また、射出成形時における射出ゲート部や金型ランナー部への炭素繊維の詰まりの発生の有無についても調査した。なお、引張り強度については、筐体から一部を切り取って測定した。また、ねじのセルフタップ強度については、ねじ受け102にねじ止めした直径2mmの皿ねじに、締め付けワイヤーをかけ、締め付けワイヤーを引っ張ることで測定した。以下に、測定に用いた比較例について説明する。
【0025】
(比較例1)
比較例1は、ABS樹脂単体である。PA6樹脂および炭素繊維は、混合していない。
【0026】
(比較例2)
比較例2は、PA6樹脂、ABS樹脂および短繊維炭素繊維を重量比35:35:30で混合したものである。長繊維炭素繊維は、混合していない。
【0027】
(比較例3)
比較例3は、ABS樹脂および長繊維炭素繊維を重量比80:20で混合したものである。PA6樹脂および短繊維炭素繊維は、混合していない。
【0028】
(比較例4)
比較例4は、PA6樹脂および長繊維炭素繊維を重量比80:20で混合したものである。ABS樹脂および短繊維炭素繊維は、混合していない。
【0029】
表1に結果を示し、以下に測定項目ごとに説明する。
【0030】
【表1】

【0031】
(引張り強度)
比較例2−4および実施例は、ABS樹脂単体の比較例1に比べて引張り強度が増加しており、炭素繊維、もしくは炭素繊維およびPA6樹脂を混合した効果が確認できた。実施例については、774Nで2位であったが、炭素繊維が詰まりを起こしていないものの中では1位であり、良好な結果といえる。
【0032】
(電界遮蔽性)
比較例2−4および実施例は、ABS樹脂単体の比較例1に比べて電界遮蔽性が強化されており、炭素繊維を混合した効果が確認できた。比較例3、4および実施例が1−3位を占めていることから、特に長繊維の炭素繊維を混合した効果が確認できる。実施例については、29dBで3位であったが、炭素繊維が詰まりを起こしていないものの中では1位であり、良好な結果といえる。
【0033】
(熱伝導率)
比較例2−4および実施例は、ABS樹脂単体の比較例1に比べて熱伝導率が向上しており、炭素繊維を混合した効果が確認できた。実施例については、1.22W/m・Kで1位であり、特に顕著な効果が確認できた。
【0034】
(表面抵抗)
比較例2−4および実施例は、ABS樹脂単体の比較例1に比べて表面抵抗が低下しており、炭素繊維を混合した効果が確認できた。また、ABS樹脂を混合した比較例2、3および実施例は、ABS樹脂を混合していない比較例4に比べて数値が減少しており、ABS樹脂を混合したことの効果が確認できた。実施例については、103Ω/sqで2位であり、特に顕著な効果が確認できた。
【0035】
(ねじのセルフタップ強度)
ABS樹脂に炭素繊維を混合した比較例3は、ABS樹脂単体の比較例1に比べて、ねじのセルフタップ強度が大幅に低下している。しかし、比較例2、4および実施例は、PA6樹脂を混合することにより、セルフタップ強度が補強されることが確認できた。実施例は127Nで3位であったが、炭素繊維が詰まりを起こしていないものの中では2位であった。1位の比較例1における147Nと比べて、同程度のセルフタップ強度を維持しており、良好な結果といえる。
【0036】
(炭素繊維の詰まり)
長繊維の炭素繊維を重量比で20%含む比較例3および4で、射出成形の際、射出ゲート部や金型ランナー部に炭素繊維の詰まりが発生した。実施例では、炭素繊維を重量比で25%含むが、そのうち10%を短繊維にし、長繊維を15%に抑えたことにより、詰まりが防止できることが確認できた。
【0037】
(まとめ)
以上のように、いずれの項目においても、実施例は良好な結果を示し、本発明の効果を検証できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、電子機器や電子部品を収容する筐体等の成形品の材料として、有用である。
【符号の説明】
【0039】
100 筐体
101 ボトムハウジング
102 ねじ受け
103 トップカバー
104 ねじ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器または電子部品を収容する筐体に用いる複合樹脂材料であって、
PA6樹脂(ポリアミド6=6ナイロン樹脂)とABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン・共重合合成樹脂)と炭素繊維とを含み、
1GHz帯での電界遮蔽性が20dB以上であり、かつ、熱伝導率が1.0W/m・K以上である複合樹脂材料。
【請求項2】
前記PA6樹脂および前記ABS樹脂は、重量比1:3−3:1で混合されていることを特徴とする、請求項1に記載の複合樹脂材料。
【請求項3】
前記炭素繊維は、平均直径が1−30μmであり、
繊維長が2mm以下である短繊維と、繊維長が3−10mmである長繊維とが、重量比1:3−3:1で混合されていることを特徴とする請求項1または2に記載の複合樹脂材料。
【請求項4】
前記炭素繊維は、前記PA6樹脂および前記ABS樹脂の合計に対して、重量比10−30%で混合されていることを特徴とする、請求項3に記載の複合樹脂材料。
【請求項5】
電子機器または電子部品を収容する筐体であって、
少なくとも一部が、請求項1−4のいずれかに記載の複合樹脂材料を射出成形して成形される、筐体。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−129625(P2011−129625A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285214(P2009−285214)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】