説明

電子線殺菌装置

【課題】電子線照射装置28のフィラメント42の配置に密な部分と疎の部分を設け、容器2の口部2aと胴部2bに対する照射線量に差を付けることにより、殺菌効果を高めるとともに、容器2の変形を防止する。
【解決手段】真空チャンバー40内で、並列にかつ斜めに配置されたフィラメント42を加熱して熱電子を発生させ、高電圧によって電子を加速して電子線ビームとして、照射窓46から照射室30内の容器2に照射する。フィラメント42を密に配置した部分は照射線量が多く、疎に配置した部分は照射線量が少ないので、容器2の口部2aに相当する部分のフィラメント42を、胴部2bに相当する部分のフィラメント42よりも密に配置した。肉厚の厚い口部2aに充分な照射線量を確保でき、変形しやすい胴部2bには照射線量を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品に電子線を照射して殺菌を行う電子線殺菌装置に係り、特に、エリア照射式(非走査式)の電子線照射手段を備えた電子線殺菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エリア照射式(非走査式)の電子線照射装置では、複数のフィラメントを平行に等間隔で配置して、照射される電子線の分布を均一化するようにしている。このようなエリア照射式の電子線照射装置により電子線を照射して被照射物品の殺菌を行う電子線殺菌装置は従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
フィラメントを平行に配置して電子線を発生させる構成では、フィラメントとフィラメントとの間の部分は放射線量の分布が低くなるので、フィラメントを被照射物品の搬送方向と平行に配置した場合には、被照射物品の、フィラメントの正面を通過する部分が限定されるので、フィラメントの正面とフィラメントの中間部分とでは、物品に照射される照射線量に大きな差を生じてしまう。そこで、前記特許文献1に記載された発明では、物品の搬送方向に対してフィラメントを傾斜させて配置している。さらに、隣接するフィラメント同士が物品の搬送方向でオーバーラップするように配置すれば、被照射物品のフィラメントの前方を通過しない部分を無くすことができる。
【0004】
前記特許文献1に記載された発明のような構成にすれば、物品に照射される電子線の分布を均一化することができる。ところが、電子線の照射を受ける物品が、例えばペットボトルのように、胴部と口部との厚さが極端に異なる場合には、照射する電子線量が均一であると、ボトルの胴部は過照射になりやすく変形してしまうおそれがあり、逆に口部は照射線量が不足して充分な殺菌が行われないおそれがあるという問題があった。
【0005】
ペットボトルのように極度に肉厚が異なる部位を有する物品に電子線を照射して殺菌する場合に、殺菌むらが生じないようにした電子線照射装置がすでに知られている(例えば、特許文献2または特許文献3参照)。
【0006】
前記特許文献2に記載された発明は、走査式の電子線照射装置であり、被照射物に電子線を照射するにあたり、電子線の走査速度を被照射物の肉厚の厚い部位では遅く、肉厚の薄い部位では速くして、被照射物の走査方向各部位における電子線透過量と走査速度の比を一定として、被照射物の電子線吸収量を均一にしている。
【0007】
また、特許文献3に記載された発明は、ペットボトル全体に電子線を照射する電子線発生装置に加えて、前記電子線発生装置よりも弱いエネルギーの電子線を発生する別の電子線発生装置を設け、この電子線発生装置から口部に電子線を照射するようにしたものである。
【特許文献1】特開平11−72600号公報(第3−4頁、図5)
【特許文献2】特開平11−248897号公報(第5−7頁、図1)
【特許文献3】特開2002−173114号公報(第3頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献2の発明に係る電子線照射装置は走査式であり、走査速度を制御するための装置を必要とする等、非走査式の電子線照射装置に比べて構成が複雑である。また、この特許文献2に開示された構成では、容器のサイズが異なる場合に、口部の高さに応じて走査の制御を変更する必要があるという問題もあった。
【0009】
また、特許文献3に記載された発明の構成では、口部に対して別の電子線発生装置を設けており、コスト高であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、並列に配置された複数のフィラメントから電子線を発生させ、照射窓を通して所定の照射エリアに電子線を照射するエリア照射式の電子線照射手段を備え、前記照射エリア内に位置させた被照射物品に電子線を照射して殺菌する電子線殺菌装置において、前記電子線照射手段は、前記物品の特定部位に電子線が集中して照射されるように、その部位に対応する部分のフィラメントを密に配置したことを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項2に記載した発明は、前記被照射物品が樹脂製容器であり、その口部に対応する部分のフィラメントをその他の部分よりも密に配置し、口部への照射線量を高く、胴部への照射線量を低くしたことを特徴とするものである。
【0012】
さらに、請求項3に記載した発明は、容器の口部もしくはその近傍を支持して搬送する容器搬送手段を備え、この容器搬送手段によって容器を照射窓の前方へ搬送することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子線殺菌装置は、電子線を発生させるフィラメントを、物品の、電子線を集中して照射する必要がある部位に対応させて密度を高く配置したので、例えばペットボトルのように口部と胴部では肉厚が著しく異なる場合でも、それぞれの部位に適した照射線量の電子線を照射することができ、殺菌効果を高めるとともに、過剰な電子線の照射を避けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
並列に配置したフィラメントから電子線を発生させ、照射窓を通して、照射エリア内に位置する物品に照射して殺菌する装置であり、この物品の特定の部位に電子線を集中して照射できるように、その部位に対応する部分のフィラメントを密に配置するという構成にしたことにより、被照射物品が部位によって肉厚が異なる等、電子線の透過量が異なる場合でも、各部位に適した量の電子線を照射するいう目的を達成する。
【実施例1】
【0015】
以下、図面に示す実施例により本発明を説明する。図1は本発明の一実施例に係る電子線殺菌装置の全体の構成を示す平面図である。この実施例に係る電子線殺菌装置において殺菌され、その後の工程で液体等の内容物が充填される容器2はペットボトル等の樹脂製容器である。この容器2はエア搬送コンベヤ4によって連続的に搬送され、インフィードスクリュー6によって所定の間隔に切り離されつつ導入チャンバー内に搬入される。
【0016】
前記導入チャンバーは2つのチャンバー(第1導入チャンバー8と第2導入チャンバー10)に分かれており、各チャンバー8、10内にそれぞれ、容器保持手段(図示せず)を備えたロータリホイール(第1ロータリホイール12と第2ロータリホイール14)が配置されている。これら導入チャンバー8、10内に搬入された容器2は、各導入チャンバー8、10内のロータリホイール12、14に順次受け渡されて回転搬送される。前記エア搬送コンベヤ4から第1導入チャンバー8内へ容器2が搬入される部分のチャンバー壁面には、容器2が通過可能な開口(図示せず)が形成され、また、第1ロータリホイール12から第2ロータリホイール14への受け渡し部の仕切壁16には、容器2の受け渡しが可能な開口(図示せず)が形成されている。
【0017】
第2導入チャンバー10に続いて、容器2を電子線の照射により殺菌する際に、電子線やX線(制動X線)が外部に漏れないように遮蔽する鉛製壁面から成る殺菌ボックス(殺菌室)18が設置されている。この殺菌ボックス18内は、供給ホイール20が配置されている入口側の供給室22と、供給ホイール20から受け取った容器2を搬送するとともに、反転区間Aにおいて上下を反転させる容器搬送装置24が設けられたメイン室26と、電子線照射装置28の前面側に位置し、搬送される容器2が電子線の照射を受ける照射室30と、この照射室30の出口側(図1の右側)に連続して設けられ、電子線の照射により殺菌された容器2を無菌状態を維持したまま下流側に送る排出室32に区画されている。
【0018】
殺菌ボックス18の壁面の、第2導入チャンバー10のロータリホイール14から供給室22内の供給ホイール20へ容器2の受け渡しを行う部分には、容器2が通過可能な開口(図示せず)が形成されている。第2ロータリホイール14から容器2を受け取った供給ホイール20は、メイン室26の容器搬送装置24に容器2を引き渡す。供給室22とメイン室26との間の仕切壁34にも、容器2の受け渡しが可能な開口(図示せず)が形成されている。メイン室26に設置された容器搬送装置24は、多数の容器保持手段としての容器グリッパ36(後に説明する図2および図3参照)が連続して設けられた無端状の容器搬送体である容器保持帯24aと、この無端状の容器保持帯24aが掛け回されて容器グリッパ36を循環搬送させる移送回転体として2つのスプロケット(第1スプロケット24bおよび第2スプロケット24c)を備えている。
【0019】
各容器グリッパ36は、上下一対の容器保持部36A、36Bを有しており、同時に2個の容器2を保持して搬送するとともに、搬送方向に沿った軸線を中心に180°回転して上下反転することができる。各容器グリッパ36の容器保持部36A、36Bは、容器(ペットボトル)2のネック部(この実施例では、容器2の傾斜した肩部のすぐ上方の、グリッパ36によって保持する部分をネック部と呼び、このネック部を含む上方の肉厚の部分全体を口部2aと呼ぶことにする)を保持するようになっており、両容器保持部36A、36Bに保持された容器2は、口部2aを互いに向かい合わせた状態にして搬送される。
【0020】
この容器搬送装置24は、容器グリッパ36が両スプロケット24bと24cの間で直線的に移送される直線経路と、各スプロケット24b、24cに沿って周回される周回経路から構成され、第2のスプロケット24cから第1のスプロケット24bへ至る直線経路に前記反転区間Aが設定され、容器2を1周搬送する間に1回反転させて容器2の上下を入れ替えるようになっている。
【0021】
第2のスプロケット24cの周回経路には、容器グリッパ36の移送方向における下流側に容器2の供給位置Bが設定され。上流側に排出位置Cが設定されており、一つの容器2は、供給位置Bで一方の容器保持部36Aまたは36Bに保持されて2周搬送され、その間に2回上下が反転されて供給時の状態に戻った後、排出位置Cから排出室32の受け渡しホイール38に引き渡される。前記第1導入チャンバー8、第2導入チャンバー10、殺菌ボックス18内の供給室22およびこのメイン室26内は、外部から殺菌前の容器2が導入され搬送されているので、外部よりも陽圧に管理されているが完全な無菌状態が維持されてはいない。
【0022】
鉛製の殺菌ボックス18に隣接して電子線照射手段(電子線照射装置)28が配置されている。この電子線照射装置28は、容器2に電子線を照射する真空チャンバー(加速チャンバー)40を備えており、載置台41上に載置されてレール41a上を移動できるようになっている。電子線照射装置28は、周知のように、真空チャンバー40内の真空中でフィラメント42(図2参照)を加熱して熱電子を発生させ、高電圧によって電子を加速して高速の電子線ビームにしてから、照射部44に設けた照射窓46に取り付けてあるTi等の金属製の窓箔48を通して大気中に取り出して、照射窓46の開口範囲の前方の照射エリアD内に位置させた被照射物品(この実施例では容器2)に電子線を当てて殺菌等の処理を行う。
【0023】
この実施例の電子線照射装置28は、図2および図3に示すように、照射部44に4箇所の照射窓46が形成されている。この実施例の容器グリッパ36は、上下二つの容器保持部36A、36Bによって、同時に2個の容器2を保持して搬送するようになっており、これらの容器2にそれぞれ電子線を照射するために、上下の容器2に対応して照射窓46を上下に分割して設けている。
【0024】
また、電子線照射装置28においては、電子線を発生させるフィラメント42を内部に配置した真空チャンバー(加速チャンバー)40内でスパークが発生する場合があり、このようにスパークが発生した場合には電子線の照射を中断するようにしている。この中断は短時間で復帰するが、この中断中に容器2が照射窓46を通過してしまうと電子線の照射を受けず殺菌されないことになってしまうので、スパークの発生により電子線の照射が中断した場合でも、すべての容器2が必ず電子線の照射を受けられるように、容器2の搬送方向(図2および図3中に符号Xで示す)に充分な長さを確保している。そのためには、容器2の搬送方向に充分な長さを有する単一の照射窓を設けても良いが、照射窓に取り付けられる金属製の窓箔のサイズに限界があるので、この実施例では容器2の搬送方向に2つの照射窓46を並べて必要な長さを確保している。
【0025】
この電子線照射装置28のフィラメント42は、図2に示すように、複数本が平行に並列されて配置されており、しかも、容器搬送装置24による容器2の搬送方向(矢印X)に対し傾斜して配置されている。一本のフィラメント42とこのフィラメント42に隣接するフィラメント42は、容器2の搬送方向Xにおいて必ずオーバーラップしている。つまり、各フィラメント42の一端(例えば図2の右端42a)とその上方に位置しているフィラメント42の他端(左端42b)とは、容器2の搬送方向X上で必ずオーバーラップしており、照射窓46の前方を横断して搬送される容器2は、そのすべての部分がフィラメント42の前方を通過するので、すべての面に必要な量の電子線の照射を受けることができる。この実施例に係る電子線照射装置28はエリア照射式(非走査式)であり、フィラメント42は4つの照射窓46の全域を覆う広さに亘って配置されている。これらフィラメント42の両端42a、42bには、給電導体50A、50Bが接続されて電流が供給される。
【0026】
さらに、従来の電子線照射装置では、前記特許文献1に示すように、多数のフィラメント42が等間隔で配置されていたが、この実施例に係る電子線照射装置28では、容器2の口部2aが通過する位置に対向して口部2aに対応する部分に配置されたフィラメント42(この部分を図2中に符号Yで示す)が、その他の部分例えば内容物を収容する胴部2bが通過する位置に対向する部分よりも、フィラメント42の間隔を狭くして密集させ密に配置されている。従って、この密集したフィラメント42の前方を通過する容器2の口部2aは、電子線が集中して照射されて照射線量が高くなり胴部2bよりも多量の電子線の照射を受ける。逆に、胴部2bに対応する部分のフィラメント42の間隔を、口部2aに対応する部分よりも広くして粗に配置することにより、容器2の胴部2bに照射される電子線の照射線量が低くなるようになっている。このように、フィラメントの配置間隔を従来の構成のように等間隔とせず、高い照射線量を必要とする部位に対しては、フィラメントの本数を増やして密に配置し、また、照射線量を低く抑えたい部位に対しては、フィラメントの間隔を広げて粗に配置しており、所定の照射エリア内における被照射物品の部位に応じて電子線の照射線量の分布を異ならせている。
【0027】
この実施例では、電子線照射装置28を載置した載置台41はレール41a上を移動可能になっており、殺菌ボックス18に対して接近、離隔させることができる。この電子線殺菌装置を運転する際には、載置台41を殺菌ボックス18に接近させ、真空チャンバー40の照射部44を殺菌ボックス18の壁面に形成された開口18aに一致させて、これら殺菌ボックス18と電子線照射装置28とを連結する。殺菌ボックス18の内部に、前記真空チャンバー40の照射部44が連結された開口18aを囲むようにして照射室30が設けられている。前記容器搬送装置24はスプロケット24bから24cへ至る直線経路が照射室30を貫通しており、この貫通する部分に照射エリアDが設定され、容器グリッパ36の両容器保持部36A、36Bに保持された2本の容器2は、上下に垂直な状態でこの照射室30内を通過し、各容器2は、この照射エリアD内で電子線照射装置28から電子線の照射を受けて殺菌される。
【0028】
照射室30の入口側と出口側の壁面には容器グリッパ36に保持された上下2本の容器2が通過可能な開口(図示せず)が形成されている。この照射室30の出口側の壁面に連続して排出室32が形成されている。容器搬送装置24の一方のスプロケット(図1の右側のスプロケット24c)は、排出室32の内部に入り込んでおり、容器グリッパ36に保持されて上下位置で1回ずつ2回の電子線照射を受けた容器2は、排出室32内で、容器グリッパ36の下方に位置する容器保持部36Aまたは36Bからこの排出室32に設置された受け渡しホイール38に引き渡される。排出室32は、スプロケット24cの回転を妨げずに、照射室30の出口側の開口から受け渡しホイール38までの容器搬送装置24の搬送経路、および受け渡しホイール38の搬送経路を、メイン室26および供給室22から区画する仕切壁52と、この仕切壁52と対向し受け渡しホイール38の上下空間から区画する仕切壁54、および殺菌ボックス18の床面と天面とで取り囲まれている。この排出室32以降の各チャンバーは、電子線の照射により殺菌された容器2の処理を行うので、無菌状態が維持されている。
【0029】
殺菌ボックス18内の最も下流側に位置している排出室32に隣接して中間チャンバー56が設置されている。そして、この中間チャンバー56の下流側にフィラ等を収容したチャンバー(図示せず)が設置されている。中間チャンバー56内には、容器保持手段(図示せず)を備えたロータリホイール(ネックホイール)58が設けられており、このネックホイール58が前記排出室32内の受け渡しホイール38から受け取った容器2を、回転搬送した後、フィラが設置されたチャンバー内の供給ホイールに引き渡す。なお、図1中の符号Eで示す位置が、排出室32の受け渡しホイール38から中間チャンバー56のネックホイール58への受渡位置である。
【0030】
前記排出室32内の受け渡しホイール38は、中間リジェクトホイールを兼ねており、各種センサ等の情報により容器2が正常に殺菌されていると判定された場合には、容器搬送装置24から受け取った容器2を次の中間チャンバー56のネックホイール58に引き渡して次の工程に送るが、電子線が照射されなかった場合や、殺菌が不完全であると判断された場合には、中間チャンバー56のネックホイール58に引き渡さずに、殺菌ボックス18に隣接して配置されているリジェクト室60に排出する。図1中の符号Fで示す位置がリジェクト位置である。
【0031】
以上の構成に係る電子線殺菌装置の作動について説明する。この殺菌装置で殺菌され、内容液が充填される容器2はペットボトルであり、エア搬送コンベヤ4の支持レール(図示せず)に、ネック部に形成されたフランジの下面側を支持され、推進用ブロアによって後方からエアを吹き付けられて搬送される。エア搬送コンベヤ4によって搬送されてきた容器2は、第1導入チャンバー8内に入り、インフィードスクリュー6によって一定の間隔に切り離されて、第1ロータリホイール12の容器保持手段に引き渡される。第1ロータリホイール12によって回転搬送された後、第2導入チャンバー10内の第2ロータリホイール14に引き渡される。
【0032】
容器2は第2ロータリホイール14から鉛製の殺菌ボックス18の供給室22内に設置された供給ホイール20に引き渡され、供給ホイール20の容器保持手段に保持されて回転搬送され、容器搬送装置24の容器グリッパ36に引き渡される。容器グリッパ36は上下二つの容器保持部36A、36Bを有しており、その下側の容器保持部36Aまたは36Bに保持された容器2は、反転区間Aにおいて容器グリッパ36が上下反転することにより上方に移動して倒立した状態になる。倒立した容器2が第1スプロケット24bの周囲を回転移動して照射室30に入る。照射室30には、その外側に配置されている電子線照射装置28から電子線が照射されるようになっており、搬送されているこの容器2は、真空チャンバー40の照射部44に設けられた照射窓46の前方の照射エリアDを通過する。
【0033】
前記真空チャンバー40内では、フィラメント42を加熱して熱電子を発生させ、高電圧によって電子を加速して高速の電子線ビームにしてから、照射窓46に取り付けたTi等の窓箔48を通して照射室30内に照射しており、前記容器グリッパ36の容器保持部36Aまたは36Bに保持されて照射室30内を搬送されている容器2に電子線が照射されて殺菌される。この実施例では、図2に示すように、容器保持部36A、36Bに保持されているネック部よりも上方側の口部2aが通過する位置に対応する部分のフィラメントを42を、その他の部分と比較して密集して配置してあり(図2中に符号Yで示す範囲のフィラメント参照)、口部2aに照射される電子線の照射線量を、その他の部位よりも高くしているので、肉厚の厚い口部2aも確実に殺菌することができる。ペットボトル2は、近年軽量化のために胴部2bの肉厚が薄くなっており、一方、口部2aは容器の成型方法により、また、キャップを装着して密封するだけの剛性を必要とするため、胴部2bよりも肉厚が厚くなっている。従って、胴部2bと口部2aとに同じ照射線量の電子線を照射すると、胴部2bは過照射になって変形してしまうおそれがあり、一方、口部2aは照射線量が不足して電子線が透過せずに充分な殺菌が行われないおそれがあるが、この実施例では、前記のように、口部2aの通過する部分のフィラメント42と、胴部2bが通過する部分のフィラメント42の配置間隔を異ならせて配置本数に差を付けているので、ペットボトル2の口部2aを確実に殺菌するとともに、胴部2bに照射される電子線が過剰にならないようにして、胴部2bの変形を防止することができる。
【0034】
この実施例装置では、容器搬送装置24により容器2の口部2aのネック部を容器保持部36A、36Bで支持するようになっており、この容器保持部36A、36Bが通過する経路に対向する部分のフィラメント42を密に配置させているので、殺菌する容器2のサイズが変更されて胴部2bの径や長さが変わっても、フィラメントの密集部分の位置を変えるなど電子線照射手段の変更を必要とせず、また、容器2の搬送位置を変更するなど容器搬送手段にも変更の必要がない。なお、照射窓46の上下寸法(容器2の搬送方向にほぼ垂直な長手方向の寸法)は、想定される容器の全長以上に設定され、フィラメントもこれに対応できるように配置されている。また、容器保持部36A、36Bで支持する容器2の部位は口部2aを避けた直下位置などその近傍であっても良い。
【0035】
前記のように1回目の照射を終えて照射室30を抜け出した容器2は、排出室32内に入り、スプロケット24cの周囲を回転移動して再び供給ホイール20からの供給位置Bに戻る。前回この供給ホイール20から下側の容器保持部36Aまたは36Bが受け取った容器2は、反転して上方に移動しており、下方に位置している他方の容器保持部36Bまたは36Aが供給ホイール20から容器2を受け取る。その後、容器グリッパ36が反転区間Aで再度反転して、上下が入れ替わり、前回上方で電子線の照射を受けた容器2が下側に移動し、電子線の照射を受けていない面が容器搬送装置24の回転移動方向の外側を向く。2つの容器2を保持した容器グリッパ36が再び照射室30に入ると、すでに1回目の照射を受けた容器2は前回とは逆側から2回目の電子線の照射を受けて内外面全域が殺菌される。また、同時に他方の新たに保持された上方の容器2は1回目の照射を受ける。
【0036】
この実施例では、容器グリッパ36が上下二つの容器保持部36A、36Bを有しており、2個の容器2を同時に保持して搬送し、照射室30内では2つの容器2が同時に電子線の照射を受けるようになっており、フィラメント42の配置も、上下2つの容器2の口部2aに対応する部分Yを密集させているので、前記1回目の照射のときと同様に、口部2aにだけ充分な電子線の照射を受けて完全な殺菌が行われ、胴部2bは過照射とならない適量の電子線が照射される。照射室30で2回目の電子線の照射を受けて内外面全体が殺菌された容器2は、排出室32内の排出位置Cで受け渡しホイール36に引き渡され、さらに、次の中間チャンバー56内のネックホイール58に引き渡されて鉛製の殺菌ボックス18から排出される。
【0037】
以上のように、この実施例では、真空チャンバー40内に配置されたフィラメント42の、容器搬送装置24に保持されて移動する容器2の口部2aに対応する部分Yを、その他の胴部2bに対応する部分よりも密に配置しているので、容器2の口部2aの殺菌に必要な照射線量を確保するとともに、変形し易い胴部2bの照射線量を抑制することにより、殺菌効果を高くして電子線殺菌装置の信頼性を向上させることができる。また、変形しやすい胴部2bへの照射線量を抑制して不良容器の発生を防止することができる。特に変形しやすい容器2の場合には、その胴部2bに対応する部分のフィラメント42をさらに疎らに配置することにより対応可能である。なお、電子線の照射を集中させる特定部位は容器の口部に限らず、口部と同様に肉厚な底部等であっても良く、他の部位よりも高い照射線量を要求される部位の有無に応じて設定することができる。この場合には、照射対象となる1つの容器に対して、並列されたフィラメントの配置における密に配置する部分Yを2箇所以上設けることも可能である。また、殺菌する被照射物品は容器に限らず、本電子線殺菌装置における電子線の照射により殺菌可能な物品全般を対象とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】電子線殺菌装置の全体の構成を簡略化して示す平面図である。(実施例1)
【図2】電子線照射装置の真空チャンバー内に設けられたフィラメントの配置を示す図であり、図1のII方向矢視図である。
【図3】電子線照射装置の照射部の構成および容器を搬送する容器搬送手段の構成を示す図であり、図1のIII方向矢視図である。
【符号の説明】
【0039】
2 被照射物品(容器)
2a 口部
24 容器搬送手段(容器搬送装置)
42 フィラメント
46 照射窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に配置された複数のフィラメントから電子線を発生させ、照射窓を通して所定の照射エリアに電子線を照射するエリア照射式の電子線照射手段を備え、
前記照射エリア内に位置させた被照射物品に電子線を照射して殺菌する電子線殺菌装置において、
前記電子線照射手段は、前記物品の特定部位に電子線が集中して照射されるように、その部位に対応する部分のフィラメントを密に配置したことを特徴とする電子線殺菌装置。
【請求項2】
前記被照射物品が樹脂製容器であり、その口部に対応する部分のフィラメントをその他の部分よりも密に配置し、
口部への照射線量を高く、胴部への照射線量を低くしたことを特徴とする請求項1に記載の電子線殺菌装置。
【請求項3】
容器の口部もしくはその近傍を支持して搬送する容器搬送手段を備え、この容器搬送手段によって容器を照射窓の前方へ搬送することを特徴とする請求項2に記載の電子線殺菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−237380(P2008−237380A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79883(P2007−79883)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000253019)澁谷工業株式会社 (503)
【Fターム(参考)】