説明

電子線殺菌装置

【課題】電子線照射装置28内でスパークが発生した場合でも、搬送されているすべての容器2に電子線を照射して確実に殺菌する。
【解決手段】真空チャンバー40内に配置されたフィラメント42を加熱して電子線を発生させ、照射部44に設けた照射窓46の窓箔48を通して大気中に取り出して容器2に照射する。容器2は容器搬送装置24の容器保持部36A、36Bに保持されて搬送され、照射窓46の前方を通過する。スパークが発生すると電子線の照射が一時中断されるが、その中断している時間内に容器2が搬送される距離よりも、照射窓46の容器搬送方向Xにおける長さを大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子線殺菌装置に係り、特に、電子線の照射中に真空チャンバー内でスパークが発生した場合でも、被照射物を確実に殺菌することができる電子線殺菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子線殺菌装置は、電子線やX線が漏れることを防ぐための鉛製の殺菌チャンバー内で被照射物を搬送する搬送手段と、殺菌ボックス内の被照射物に対して電子線を照射する電子線照射装置とを備えている。電子線照射装置は、真空チャンバー内の真空中でフィラメントを加熱して熱電子を発生させ、高電圧によって電子を加速して高速の電子線ビームにしてから、照射窓に取り付けたTi等の金属製の窓箔を通して大気中に取り出して被処理物に電子線を当てて殺菌等の処理を行う。
【0003】
電子線照射装置では、電子線を発生させるフィラメントを内部に設けた真空チャンバー内でスパークが発生する場合がある。スパークが発生すると、それが復帰するまでの間は電子線が照射されないため殺菌効果がなく、被照射物が未殺菌のまま下流側に送られてしまう。そこでスパークが発生した場合に、一旦運転を停止した後できるだけ早く復帰させるようにしている。このような運転を再開するまでの時間をできるだけ短縮するようにした電子線照射装置用制御方式が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
前記特許文献1に記載された発明の構成は、スパークが発生した場合に、フィラメントの電源の出力をそのときの値に固定し、加速電圧用の直流高圧電源の出力をスパークに応じた値に絞り込み、スパークが消滅したときには直流高圧電源の出力をスパーク発生以前の値に戻し、フィラメントの電源の出力の固定を解除するようにしたものである。
【0005】
【特許文献1】特許2848136号公報(第2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された発明の構成では、スパークの発生により運転を停止した後、運転再開までには数ミリ秒〜数十ミリ秒を要する。このようにスパーク発生による中断時間を短時間に短縮するように制御されているが、短時間であっても、その間に電子線照射装置の照射窓の前面側を通過してしまう物品があれば、電子線の照射を受けず殺菌されないまま下流側に送られてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、電子線照射装置の真空チャンバー内でスパークが発生し、電子線の照射が中断した場合でも、搬送されているすべての容器に電子線を照射することが可能な電子線殺菌装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、照射窓を通して電子線を照射する電子線照射手段と、前記照射窓の前方で容器を搬送する容器搬送手段とを備え、電子線照射手段から容器に電子線を照射して容器を殺菌する電子線殺菌装置において、前記照射窓の容器搬送方向における長さを、電子線照射手段のスパーク発生による照射中断時間内に容器が移動する距離よりも長くしたことを特徴とするものである。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、照射窓が容器の搬送方向に沿って複数配置され、これら複数の照射窓の長さの合計が、スパーク発生による照射中断時間に容器が移動する距離よりも長いことを特徴とするものである。
【0010】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記容器搬送手段が、2つの容器を上下に保持する容器支持手段と、上下の容器支持手段を反転させる反転手段とを備え、容器を上下に支持した状態で照射窓の前面を通過するように構成し、上下の容器にそれぞれ電子線が照射されるように、照射窓が上下に配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電子線殺菌装置は、電子線照射手段の照射窓の、容器搬送方向における長さを、スパークの発生により電子線の照射を中断している時間内に容器が移動する距離よりも長く設定したので、すべての容器が必ず電子線の照射を受けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
照射窓を通して電子線を照射する電子線照射手段と、この電子線照射手段の照射窓の前方を容器を保持して搬送する容器搬送手段を備えており、前記照射窓の容器搬送方向における長さを、スパークの発生により電子線の照射を中断している時間内に容器が移動する距離よりも長くするという構成により、電子線照射手段でスパークが発生して電子線の照射が中断した場合でも、容器搬送手段により搬送されているすべての容器に電子線を照射することを可能にするという目的を達成する。
【実施例1】
【0013】
以下、図面に示す実施例により本発明を説明する。図1は本発明の一実施例に係る電子線殺菌装置の全体の構成を示す平面図である。この実施例に係る電子線殺菌装置において殺菌され、その後の工程で液体等の内容物が充填される容器2はペットボトル等の樹脂製容器である。この容器2はエア搬送コンベヤ4によって連続的に搬送され、インフィードスクリュー6によって所定の間隔に切り離されつつ導入チャンバー内に搬入される。
【0014】
前記導入チャンバーは2つのチャンバー(第1導入チャンバー8と第2導入チャンバー10)に分かれており、各チャンバー8、10内にそれぞれ、容器保持手段(図示せず)を備えたロータリホイール(第1ロータリホイール12と第2ロータリホイール14)が配置されている。これら導入チャンバー8、10内に搬入された容器2は、各導入チャンバー8、10内のロータリホイール12、14に順次受け渡されて回転搬送される。前記エア搬送コンベヤ4から第1導入チャンバー8内へ容器2が搬入される部分のチャンバー壁面には、容器2が通過可能な開口(図示せず)が形成され、また、第1ロータリホイール12から第2ロータリホイール14への受け渡し部の仕切壁16には、容器2の受け渡しが可能な開口(図示せず)が形成されている。
【0015】
第2導入チャンバー10に続いて、容器2を電子線の照射により殺菌する際に、電子線やX線(制動X線)が外部に漏れないように遮蔽する鉛製壁面から成る殺菌ボックス(殺菌室)18が設置されている。この殺菌ボックス18内は、供給ホイール20が配置されている入口側の供給室22と、供給ホイール20から受け取った容器2を搬送するとともに、反転区間Aにおいて上下を反転させる容器搬送装置24が設けられたメイン室26と、電子線照射装置28の前面側に位置し、搬送される容器2が電子線の照射を受ける照射室30と、この照射室30の出口側(図1の右側)に連続して設けられ、電子線の照射により殺菌された容器2を無菌状態を維持したまま下流側に送る排出室32に区画されている。
【0016】
殺菌ボックス18の壁面の、第2導入チャンバー10のロータリホイール14から供給室22内の供給ホイール20へ容器2の受け渡しを行う部分には、容器2が通過可能な開口(図示せず)が形成されている。第2ロータリホイール14から容器2を受け取った供給ホイール20は、メイン室26の容器搬送装置24に容器2を引き渡す。供給室22とメイン室26との間の仕切壁34にも、容器2の受け渡しが可能な開口(図示せず)が形成されている。メイン室26に設置された容器搬送装置24は、多数の容器保持手段としての容器グリッパ36(後に説明する図2および図3参照)が連続して設けられた無端状の容器搬送体である容器保持帯24aと、この無端状の容器保持帯24aが掛け回されて容器グリッパ36を循環搬送させる移送回転体として2つのスプロケット(第1スプロケット24bおよび第2スプロケット24c)を備えている。
【0017】
各容器グリッパ36は、上下一対の容器保持部(請求項3に記載した容器支持手段)36A、36Bを有しており、同時に2個の容器2を保持して搬送するとともに、相前後する各容器グリッパ36毎に搬送方向に沿った軸線を中心に回転自在になっており、移動しながら180°回転して上下反転することができる。各容器グリッパ36の容器保持部36A、36Bは、容器(ペットボトル)2のネック部(この実施例では、容器2の傾斜した肩部のすぐ上方の、グリッパ36によって保持する部分をネック部と呼び、このネック部を含む上方の肉厚の部分全体を口部2aと呼ぶことにする)を保持するようになっており、両容器保持部36A、36Bに保持された容器2は、口部2aを互いに向かい合わせた状態にして搬送される。
【0018】
この容器搬送装置24は、容器グリッパ36が両スプロケット24bと24cの間で直線的に移送される直線経路と、各スプロケット24b、24cに沿って周回される周回経路から構成され、第2のスプロケット24cから第1のスプロケット24bへ至る直線経路に前記反転区間Aが設定され、容器2を1周搬送する間に1回反転させて容器2の上下を入れ替えるようになっている。
【0019】
図4は、図2および図3にその一部を示す無端状の容器保持帯24a(図1参照)が掛け回される2つのスプロケット24b、24cと、これら両スプロケット24b、24c間を走行する容器保持帯24aを案内する直線ガイドおよび反転ガイド等からなる循環移動経路を拡大して示す図であり、この図により前記グリッパ36を反転させる構成について簡単に説明する。第1スプロケット24bから第2スプロケット24cに至る搬送経路には、上下左右4本の平行なレールからなる直線ガイド24dが配置されており、図3に示すように、上下一対のローラ36a、36bおよび進行方向左右に設けられた一対の側方ローラ36c(一方は図示せず)が、それぞれ直線ガイド24dの4本のレール間に保持されて、両グリッパ36が上下一直線上に直立した状態を維持して走行する。この直線ガイド24dに案内されて搬送される区間に、前記照射室30が設けられており、グリッパ36に保持された容器2がこの照射室30内を通過する間に電子線が照射される。
【0020】
また、第2スプロケット24cから第1スプロケット24bに至る搬送経路には、上流側の直線ガイド24e、中間の反転ガイド24fおよび下流側の直線ガイド24gが、連続する4本のレールによって構成されている。上流側と下流側の直線ガイド24e、24gは、4本のレールが、前記直線ガイド24dと同様に、上下左右に平行に配置されており、一対のグリッパ36は上下一直線の姿勢を維持したまま搬送される。中間の反転ガイド24fは、4本のレールが平行な状態を維持したまま、上流側の直線ガイド24eの上方の2本のレールが下方側へ移るとともに、下方の2本のレールが上方側に移ることにより、各レール間に保持した前記グリッパ36の上下ローラ36a、36bおよび側方ローラ36cの位置を180度入れ換えて、2つのグリッパ36の上下を反転させる。この反転ガイド24gが、図1に示す反転区間Aに配置されており、請求項3に記載した反転手段を構成している。なお、第1スプロケット24bおよび第2スプロケット24cの外周側には、それぞれ円弧状のガイド24h、24iが配置され、前記容器保持帯24aの走行を案内するようになっている。
【0021】
第2のスプロケット24cの周回経路には、容器グリッパ36の移送方向における下流側に容器2の供給位置Bが設定され。上流側に排出位置Cが設定されており、一つの容器2は、供給位置Bで一方の容器保持部36Aまたは36Bに保持されて2周搬送され、その間に2回上下が反転されて供給時の状態に戻った後、排出位置Cから排出室32の受け渡しホイール38に引き渡される。前記第1導入チャンバー8、第2導入チャンバー10、殺菌ボックス18内の供給室22およびこのメイン室26内は、外部から殺菌前の容器2が導入され搬送されているので、外部よりも陽圧に管理されているが完全な無菌状態が維持されてはいない。
【0022】
鉛製の殺菌ボックス18に隣接して電子線照射手段(電子線照射装置)28が配置されている。この電子線照射装置28は、容器2に電子線を照射する真空チャンバー(加速チャンバー)40を備えており、載置台41上に載置されてレール41a上を移動できるようになっている。電子線照射装置28は、周知のように、真空チャンバー40内の真空中でフィラメント42(図2参照)を加熱して熱電子を発生させ、高電圧によって電子を加速して高速の電子線ビームにしてから、照射部44に設けた照射窓46に取り付けてあるTi等の金属製の窓箔48を通して大気中に取り出して被処理物(この実施例では容器2)に電子線を当てて殺菌等の処理を行う。
【0023】
この実施例の電子線照射装置28は、図2および図3に示すように、照射部44に4箇所の照射窓46が形成されている。この実施例の容器グリッパ36は、上下二つの容器保持部36A、36Bによって、同時に2個の容器2を保持して搬送するようになっており、これらの容器2にそれぞれ電子線を照射するために、上下の容器2に対応して照射窓46を上下に分割して設けている。
【0024】
また、電子線照射装置28においては、電子線を発生させるフィラメント42を内部に配置した真空チャンバー(加速チャンバー)40内でスパークが発生する場合があり、このようにスパークが発生した場合には電子線の照射を中断するようにしている。この中断は短時間で復帰するが、この中断中に容器2が照射窓46を通過してしまうと電子線の照射を受けず殺菌されないことになってしまうので、スパークの発生により電子線の照射が中断した場合でも、すべての容器2が必ず電子線の照射を受けられるように、容器2の搬送方向(図2および図3中に符号Xで示す)に充分な長さを確保している。そのためには、容器2の搬送方向に充分な長さを有する単一の照射窓を設けても良いが、照射窓に取り付けられる金属製の窓箔のサイズに限界があるので、この実施例では容器2の搬送方向に2つの照射窓46を並べて必要な長さを確保している。
【0025】
前記照射窓46の容器搬送方向Xにおける長さについて、具体例により説明すると、真空チャンバー40内でスパークが発生した場合の、発生から復帰までに要する時間は0.1秒未満(数ミリ秒〜数十ミリ秒)であることから、最大中断時間を0.1秒とする。そして、例えばこの実施例に係る殺菌装置の処理能力が600bpmで、容器2の搬送速度が56m/分であるとすると、容器グリッパ36に保持されて搬送される容器2は、0.1秒間に93mm移動する。従って、照射窓46の容器搬送方向Xにおける長さを93mm以上とする。つまり、容器2が照射窓46の上流端に到達した際にスパークが発生し、0.1秒間電子線の照射が中断したと仮定すると、その間に容器2は93mm進むため、照射窓46の容器搬送方向Xにおける長さが93mmよりも短い場合には、電子線の照射が復帰した時点では、容器2が照射窓46の前方側をすでに通過していたり、部分的に通過しているため、電子線の照射が行われない、あるいは不完全であるという状態になる。これに対して前記のように照射窓46の容器搬送方向Xの長さを93mmよりも長くしておけば、容器2の搬送方向前後の全範囲に渡って電子線が照射される。図3に示すこの実施例では、一つの照射窓46の幅W1(容器搬送方向Xにおける長さ)が65mmであり、これら2つの照射窓46の間隔W2が55mmに設定してある。よって、この実施例では、容器の0.1秒間における移動距離が93mmであるのに対して、照射窓は130mm(65mm×2)の長さを有している。なお、この実施例では、容器搬送方向Xに2つの照射窓46を並べて配置することにより必要な長さを確保しているが、照射窓46の数は必ずしも2つに限るものではなく、容器2の搬送速度等の条件に応じて3つ以上の照射窓46を並べて配置することも可能である。
【0026】
この電子線照射装置28のフィラメント42は、図2に示すように、複数本が平行に配置されており、しかも、容器搬送装置24による容器2の搬送方向(矢印X)に対し傾斜して配置されている。一本のフィラメント42とこのフィラメント42に隣接するフィラメント42は、容器2の搬送方向Xにおいて必ずオーバーラップしている。つまり、各フィラメント42の一端(例えば図2の右端42a)とその上方に位置しているフィラメント42の他端(左端42b)とは、容器2の搬送方向X上で必ずオーバーラップしており、照射窓46の前方を横断して搬送される容器2は、そのすべての部分がフィラメント42の前方を通過するので、すべての面に必要な量の電子線の照射を受けることができる。この実施例に係る電子線照射装置28はエリア照射式(非走査式)であり、フィラメント42は4つの照射窓46の全域を覆う広さに亘って配置されている。これらフィラメント42の両端42a、42bには、給電導体50A、50Bが接続されて電流が供給される。
【0027】
さらに、この実施例に係る電子線照射装置28では、容器2の口部2aが通過する部分に配置されたフィラメント42(この部分を図2中に符号Yで示す)が、その他の部分例えば胴部2bが通過する部分よりも密集して配置されている。従って、この密集したフィラメント42の前面を通過する容器2は、胴部2bよりも多量の電子線の照射を受ける。逆に、胴部2bが通過する部分のフィラメント42の間隔を、従来の構成よりも大きくすることにより、容器2の胴部2bに照射される電子線量を従来よりも少なくすることもできる。
【0028】
この実施例では、電子線照射装置28を載置した載置台41はレール41a上を移動可能になっており、殺菌ボックス18に対して接近、離隔させることができる。この電子線殺菌装置を運転する際には、載置台41を殺菌ボックス18に接近させ、真空チャンバー40の照射部44を殺菌ボックス18の壁面に形成された開口18aに一致させて、これら殺菌ボックス18と電子線照射装置28とを連結する。殺菌ボックス18の内部に、前記真空チャンバー40の照射部44が連結された開口18aを囲むようにして照射室30が設けられている。前記容器搬送装置24はスプロケット24bから24cへ至る直線経路が照射室30を貫通しており、この貫通する部分に照射位置(照射部)Dが設定され、容器グリッパ36の両容器保持部36A、36Bに保持された2本の容器2は、上下に垂直な状態でこの照射室30内を通過し、各容器2は、この照射位置Dで電子線照射装置28から電子線の照射を受けて殺菌される。
【0029】
照射室30の入口側と出口側の壁面には容器グリッパ36に保持された上下2本の容器2が通過可能な開口(図示せず)が形成されている。この照射室30の出口側の壁面に連続して排出室32が形成されている。容器搬送装置24の一方のスプロケット(図1の右側のスプロケット24c)は、排出室32の内部に入り込んでおり、容器グリッパ36に保持されて上下位置で1回ずつ2回の電子線照射を受けた容器2は、排出室32内で、容器グリッパ36の下方に位置する容器保持部36Aまたは36Bからこの排出室32に設置された受け渡しホイール38に引き渡される。排出室32は、スプロケット24cの回転を妨げずに、照射室30の出口側の開口から受け渡しホイール38までの容器搬送装置24の搬送経路、および受け渡しホイール38の搬送経路を、メイン室26および供給室22から区画する仕切壁52と、この仕切壁52と対向し受け渡しホイール38の上下空間から区画する仕切壁54、および殺菌ボックス18の床面と天面とで取り囲まれている。この排出室32以降の各チャンバーは、電子線の照射により殺菌された容器2の処理を行うので、無菌状態が維持されている。
【0030】
殺菌ボックス18内の最も下流側に位置している排出室32に隣接して中間チャンバー56が設置されている。そして、この中間チャンバー56の下流側にフィラ等を収容したチャンバー(図示せず)が設置されている。中間チャンバー56内には、容器保持手段(図示せず)を備えたロータリホイール(ネックホイール)58が設けられており、このネックホイール58が前記排出室32内の受け渡しホイール38から受け取った容器2を、回転搬送した後、フィラが設置されたチャンバー内の供給ホイールに引き渡す。なお、図1中の符号Eで示す位置が、排出室32の受け渡しホイール38から中間チャンバー56のネックホイール58への受渡位置である。
【0031】
前記排出室32内の受け渡しホイール38は、中間リジェクトホイールを兼ねており、各種センサ等の情報により容器2が正常に殺菌されていると判定された場合には、容器搬送装置24から受け取った容器2を次の中間チャンバー56のネックホイール58に引き渡して次の工程に送るが、電子線が照射されなかった場合や、殺菌が不完全であると判断された場合には、中間チャンバー56のネックホイール58に引き渡さずに、殺菌ボックス18に隣接して配置されているリジェクト室60に排出する。図1中の符号Fで示す位置がリジェクト位置である。
【0032】
電子線照射装置28では、スパークの発生を検出するようになっており、スパークが発生したときには検出信号を図示しない制御装置に出力する。制御装置では、信号が入力されたタイミングにおける、容器搬送装置24のエンコーダのパルスを認識して該当容器2を特定し、この容器2がリジェクト位置Fに到達したことをパルスのカウントから検出してリジェクトすることができる。この場合は、スパークの発生により電子線の照射を中断したときに、照射窓46の前方に位置していた容器2のすべてをリジェクトする。
【0033】
以上の構成に係る電子線殺菌装置の作動について説明する。この殺菌装置で殺菌され、内容液が充填される容器2はペットボトルであり、エア搬送コンベヤ4の支持レール(図示せず)に、ネック部に形成されたフランジの下面側を支持され、推進用ブロアによって後方からエアを吹き付けられて搬送される。エア搬送コンベヤ4によって搬送されてきた容器2は、第1導入チャンバー8内に入り、インフィードスクリュー6によって一定の間隔に切り離されて、第1ロータリホイール12の容器保持手段に引き渡される。第1ロータリホイール12によって回転搬送された後、第2導入チャンバー10内の第2ロータリホイール14に引き渡される。
【0034】
容器2は第2ロータリホイール14から鉛製の殺菌ボックス18の供給室22内に設置された供給ホイール20に引き渡され、供給ホイール20の容器保持手段に保持されて回転搬送され、容器搬送装置24の容器グリッパ36に引き渡される。容器グリッパ36は上下二つの容器保持部36A、36Bを有しており、その下側の容器保持部36Aまたは36Bに保持された容器2は、反転区間Aにおいて容器グリッパ36が上下反転することにより上方に移動して倒立した状態になる。倒立した容器2が第1スプロケット24bの周囲を回転移動して照射室30に入る。照射室30には、その外側に配置されている電子線照射装置28から電子線が照射されるようになっており、搬送されているこの容器2は、真空チャンバー40の照射部44に設けられた照射窓46の前方(照射区間D)を通過する。
【0035】
前記真空チャンバー40内では、フィラメント42を加熱して熱電子を発生させ、高電圧によって電子を加速して高速の電子線ビームにしてから、照射窓46に取り付けたTi等の窓箔48を通して照射室30内に照射しており、前記容器グリッパ36の容器保持部36Aまたは36Bに保持されて照射室30内を搬送されている容器2に電子線が照射されて殺菌される。この実施例では、図2に示すように、容器保持部36A、36Bに保持されているネック部よりも上方側の口部2aが通過する部分のフィラメントを42を、その他の部分と比較して密集して配置してあり(図2中に符号Yで示す範囲のフィラメント参照)、口部2aに照射される電子線の照射線量を、従来の構成よりも多くしているので、肉厚の厚い口部2aも確実に殺菌することができる。ペットボトル2は、近年軽量化のために胴部2bの肉厚が薄くなっており、一方、口部2aはキャップを装着して密封する必要があるため、胴部2bよりも肉厚が厚くなっている。従って、胴部2bと口部2aとに同じ照射線量の電子線を照射すると、胴部2bは過照射になって変形してしまうおそれがあり、一方、口部2aは照射線量が不足して充分な殺菌が行われないおそれがあるが、この実施例では、前記のように、口部2aの通過する部分のフィラメント42と、胴部2bが通過する部分のフィラメント42の配置に差を付けているので、ペットボトル2の口部2aを確実に殺菌するとともに、胴部2bに照射される電子線が過剰にならないようにして、胴部2bの変形を防止することができる。
【0036】
前記のように1回目の照射を終えて照射室30を抜け出した容器2は、排出室32内に入り、スプロケット24cの周囲を回転移動して再び供給ホイール20からの供給位置Bに戻る。前回この供給ホイール20から下側の容器保持部36Aまたは36Bが受け取った容器2は、反転して上方に移動しており、下方に位置している他方の容器保持部36Bまたは36Aが供給ホイール20から容器2を受け取る。その後、容器グリッパ36が反転区間Aで再度反転して、上下が入れ替わり、前回上方で電子線の照射を受けた容器2が下側に移動し、電子線の照射を受けていない面が容器搬送装置24の回転移動方向の外側を向く。2つの容器2を保持した容器グリッパ36が再び照射室30に入ると、すでに1回目の照射を受けた容器2は前回とは逆側から2回目の電子線の照射を受けて内外面全域が殺菌される。また、同時に他方の新たに保持された上方の容器2は1回目の照射を受ける。
【0037】
この実施例では、容器グリッパ36が上下二つの容器保持部36A、36Bを有しており、2個の容器2を同時に保持して搬送し、照射室30内では2つの容器2が同時に電子線の照射を受けるようになっており、フィラメント42の配置も、上下2つの容器2の口部2aが通過する部分Yを密集させているので、前記1回目の照射のときと同様に、口部2aにだけ充分な電子線の照射を受けて完全な殺菌が行われ、胴部2bは過照射とならない適量の電子線が照射される。照射室30で2回目の電子線の照射を受けて内外面全体が殺菌された容器2は、排出室32内の排出位置Cで受け渡しホイール36に引き渡され、さらに、次の中間チャンバー56内のネックホイール58に引き渡されて鉛製の殺菌ボックス18から排出される。
【0038】
電子線照射装置28はスパークを発生する場合があり、この場合には電子線の照射を一時停止する。その後、復帰するまでに要する時間は最大限で0.1秒であり、容器搬送装置24の容器グリッパ36に保持された容器2がこの0.1秒間に移動する距離よりも大きい長さを有する照射窓46を設けてあるので、スパークが発生した場合でも、すべての容器2が電子線の照射を受けることができる。しかしながら、このようなスパークによる電子線の照射が中断された場合でも殺菌に必要とする充分な電子線照射量を得られる場合だけではなく、電子線の強度や照射時間、容器の搬送速度等、装置に設定されている照射条件によっては、充分な照射量が得られない場合もあり得る。この場合には、スパークが発生して電子線の照射が中断している間に照射窓46の前方を通過していた容器2はすべてリジェクトするように構成する。リジェクトする容器2は、前述のように、スパーク検出信号が入力された制御装置が、その入力されたタイミングにおける、容器搬送装置24のエンコーダのパルスを認識して該当容器2を特定する。この容器2が前記リジェクト位置Fに到達したことを、パルスのカウントにより検出してリジェクトする。スパークの発生により容器をリジェクトする場合でも、本発明によれば、容器はスパーク発生の前後何れかで必ず電子線の照射を受けるようになっているため、リジェクトされる容器が照射室30から無菌状態の搬出室32に搬送されるよう構成されていても、何ら殺菌を受けていない容器が無菌状態が維持される搬出室32以降の無菌空間へ搬出されることはなく、外部の雑菌が持ち込まれることが防止されるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】電子線殺菌装置の全体の構成を簡略化して示す平面図である。(実施例1)
【図2】電子線照射装置の真空チャンバー内に設けられたフィラメントの配置を示す図であり、図1のII方向矢視図である。
【図3】電子線照射装置の照射部の構成および容器を搬送する容器搬送手段の構成を示す図であり、図1のIII方向矢視図である。
【図4】容器搬送装置を構成する循環移動経路を示す平面図である。
【符号の説明】
【0040】
2 容器
24 容器搬送手段(容器搬送装置)
28 電子線照射手段(電子線照射装置)
36A 容器保持部(容器支持手段)
36B 容器保持部(容器支持手段)
42 フィラメント
46 照射窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射窓を通して電子線を照射する電子線照射手段と、前記照射窓の前方で容器を搬送する容器搬送手段とを備え、電子線照射手段から容器に電子線を照射して容器を殺菌する電子線殺菌装置において、
前記照射窓の容器搬送方向における長さを、電子線照射手段のスパーク発生による照射中断時間内に容器が移動する距離よりも長くしたことを特徴とする電子線殺菌装置。
【請求項2】
照射窓が容器の搬送方向に沿って複数配置され、これら複数の照射窓の長さの合計が、スパーク発生による照射中断時間に容器が移動する距離よりも長いことを特徴とする請求項1に記載の電子線殺菌装置。
【請求項3】
前記容器搬送手段が、2つの容器を上下に保持する容器支持手段と、上下の容器支持手段を反転させる反転手段とを備え、容器を上下に支持した状態で照射窓の前面を通過するように構成し、上下の容器にそれぞれ電子線が照射されるように、照射窓が上下に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子線殺菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−239181(P2008−239181A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79888(P2007−79888)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000253019)澁谷工業株式会社 (503)
【Fターム(参考)】