説明

電子線硬化ポリエステル射出成形品

【課題】複雑な精密成形品を効率よく生産した後、架橋処理することにより高耐熱の成形品を得る。高い耐ハンダ性や異常過熱時の絶縁が保持できる電気・電子部品を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂1kg当たりにアリル基を0.01〜5グラム当量含有するポリエステル樹脂からなるポリエステル樹脂組成物を射出成形後、電子線照射して得られる、200〜280℃の温度範囲に10〜43J/gの融解エンタルピーを有し、試験荷重10Nのビカット軟化点が230〜300℃であることを特徴とする電子線硬化ポリエステル射出成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線(以下EBともいう)硬化ポリエステル射出成形品に関する。さらに詳しくは、薄肉で複雑な成形品を生産性の高い射出成形により成形後、EBを照射して硬化して耐熱性を付与したことを特徴とする耐熱性を有するEB硬化射出成形品に関するものである。本発明の射出成形品は、高い生産性と耐熱性を有することから、電気絶縁性や断熱性や耐ハンダ性が必要な電気・電子部品に、また燃焼時非滴下性が要求される成形部品などに供されるものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、高い電気絶縁や高い断熱性が必要な電気・電子部品に使用される。特に、保安部品に関しては、異常高温時にも安全上これらの絶縁性が保持されなければならないことから主に生産性の低い熱硬化性樹脂や高価な耐熱樹脂が使用されていた。また部品によっては、製造時ハンダにより結線や回路の接合がなされる。ハンダ工程において樹脂が溶融や変形してピンの倒れが起こらないように、融点やガラス転移点が高い高価な樹脂か三次元硬化する熱硬化性樹脂が使用されていた。高い融点を持つ耐熱性樹脂は、高い結晶化温度も必要なことから高温の金型を使用した成形が必要であった。高温金型を使用すると固化時間がかかることや精密金型で金型のかじりの発生や火傷の危険など作業性に問題があった。また熱硬化性樹脂の場合、成形品のバリ処理が必要なことや熱可塑性樹脂の射出成形に比較して成形時間がかかり生産性が低く、トータルコストが高くなるという問題があった。
【0003】
また、ポリエステルの重合時に3官能基を有するポリカルボン酸や多価アルコールを共重合することにより耐熱性を高めることも研究されたが、濃度が低いと効果がなく、濃度が高いと成形時の流動性が低下して、成形性と耐熱性の両立が困難であった。また、有機過酸化物やラジカル発生剤を混合して溶融成形することにより、成形時3次元構造を導入する方法も開示されているが、架橋度の分布のバラツキが大きく実用的でなかった。
【0004】
特開昭59−12946号公報に、ガラス繊維を使用せずにポリブチレンテレフタレート樹脂に架橋助剤を配合して放射線を照射した成型物が開示されているが、ハンダ時流動はしないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂の荷重たわみ温度の60℃を超えるとヒートサグが大きく実用化に困難があった。また、特開平10−147720号公報に、結晶性ポリマーに架橋性モノマーを配合して活性エネルギー線照射されたゴム弾性を有し形状記憶性を有する組成物が開示されているが、流動は防止されているが、荷重たわみ温度が低く、形状記憶性はあるものの、使用時のヒートサグが大きく形状の安定性に問題があり、電気・電子部品には適さなかった。また、特開2003−327713号公報に、難燃剤を含有して260℃の貯蔵弾性率が2.0MPa以上である260℃、60秒間の耐リフロー性を有する架橋ポリエステル樹脂成形品が開示されているが、記載されている実施例すべてのようなポリブチレンテレフタレート樹脂をベースとした場合は、融点や荷重たわみ温度が一般的な300℃以上のハンダ浴に対する耐熱性には不十分であり、工業的に供さなかった。また、特開2004−203948号公報にポリブチレンテレフタレート樹脂にジアリルモノグリシジルイソシアヌレートを配合することが開示されている。しかし、単純なテストピースでは形状保持されるが、荷重たわみ温度が低く複雑な実成形品では使用時の変形が大きく実用できなかった。
【特許文献1】特開昭59−12946号公報
【特許文献2】特開平10−147720号公報
【特許文献3】特開2003−327713号公報
【特許文献4】特開2004−203948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、成形性が大変よく、加工時や使用時には高い耐熱変形性を有する射出成形品を開発することを目的としている。このために、ポリエステル樹脂の優れた成形性や物性を保持してベースレジンに特定量の不飽和結合を均一に導入することである。また、前記の不飽和結合を含有する成形品に適度のEB照射を行うことにより、異常加熱時にも電気絶縁性や断熱性が保持され耐熱ハンダ性を有する射出成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため、前述の公知文献に開示されている組成物や方法の不具合の原因調査含めて鋭意研究した結果、遂に本発明を完成するに到った。即ち本発明は、ポリエステル樹脂1kg当たりにアリル基を0.01〜5グラム当量含有するポリエステル樹脂からなるポリエステル樹脂組成物を射出成形後、電子線照射して得られる、200〜280℃の温度範囲に10〜43J/gの融解エンタルピーを有し、流動開始温度が325℃以上であることを特徴とする電子線硬化ポリエステル射出成形品である。好ましい態様は、ポリエステル樹脂組成物が、繊維状強化材および/又は無機強化材を10〜70質量%含有し、電子線照射して得られる電子線硬化ポリエステル射出成形品の試験荷重10Nのビカット軟化点が220〜280℃であることを特徴とする前記の電子線硬化ポリエステル射出成形品である。また、好ましい態様は、アリル基を含有するポリエステル樹脂が、ジアリルモノグリシジルイソシアヌル酸によりアリル基が導入された前記の電子線硬化ポリエステル射出成形品である。特に好ましい態様は、アリル基を含有するポリエステル樹脂が、エチレンテレフタレート単位を80モル%以上含有するポリエステル樹脂である前記の電子線硬化ポリエステル射出成形品である。
【発明の効果】
【0007】
前記の構成からなる本発明のEB硬化ポリエステル射出成形品は、寸法精度に優れ高い生産性とハンダ耐熱性と有し、不良率の少ない電気・電子部品を提供する。また、ポリエステル樹脂の融点より高温でも流動しないことから、電気部品の異常発熱時も絶縁性が保持されるので安全性の高い電気部品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に使用されるアリル基を含有するポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の重合時や重合の最終段階で、アリル基を含むカルボン酸、アリル基を含むカルボン酸エステル、あるいはアリル基を含むアルコールを共重合することよって得られる。また、ポリエステルの末端に、アリル基と反応性を有するエポキシ基やイソシナネート基やオキサゾリン基などの官能基を有するモノマーを溶融混練することにより得られる。
ポリエステル樹脂に含有させるアリル基の濃度としては、ポリエステル樹脂1kg当たりにアリル基を0.01〜5グラム当量含有することが必要である。好ましくは、0.05〜3グラム当量含有することが必要である。0.01グラム当量未満では、高温における流動防止ができなく、また5グラム当量を越えると、材料の強伸度が低下して成形品の使用上好ましくない。成形品の用途により、最適の架橋度があるので、成形品により架橋度が調節されることが好ましい。
アリル基を含まないポリエステル樹脂に溶融混練によりアリル基を導入することは、経済的な多様性に対する対応の面から好ましい手法である。
【0009】
本発明に使用するアリル基を含有するポリエステル樹脂のポリエステル樹脂の部分は、例えばジカルボン酸成分とジオール成分を重合することによって得られる。ジカルボン酸成分としては、高い融点が得られる点と経済性の面からテレフタル酸が好ましい。これ以外の酸成分としては、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などが使用される。これらの中では、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸は、耐熱性の低下が小さいので好ましい。ジカルボン酸としては、テレフタル酸が80モル%以上のものが耐熱性という面から好ましい。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、1,3プロピレングリコール、1,4ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。ジオール成分としては、エチレングリコール、1,4ブタンジオール、および/又はシクロヘキサンジメタノールが80モル%以上含有したものであることが耐熱性の面から好ましい。
【0010】
本発明に使用するアリル基を含有するポリエステル樹脂のポリエステル樹脂の部分を具体的に例示すると、ポリエチレンテレフタレート、ボリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどが挙げられる。特にポリエチレンテレフタレート成分を80モル%以上含ものが好ましい。酸成分として、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの不飽和酸、不飽和酸の2量体やこれらの2量体を水素添加したいわゆるダイマー酸なども使用される。
本発明に使用される使用するアリル基を含有するポリエステル樹脂のポリエステル樹脂の部分の融点は、特に限定されないが200〜295℃であり、好ましくは240〜295℃である。融点がこの範囲にあると、成形性と常用時の耐熱性の面から好ましい。
【0011】
本発明に使用するアリル基を含有するポリエステル樹脂のポリエステル樹脂へ組み込まれるアリル化合物としては、ジアリルモノグリシジルイソシアヌル酸、トリアリルシアヌル酸、トリアリルイソシアヌル酸、トリメチルアリルイソシアヌル酸、これらのメチル、エチル、ブチル、イソブチルエステルなどが挙げられる。これらの中では、ジアリルモノグリシジルイソシアヌル酸、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレートが、ポリエステル変性時の耐熱性の面から好ましい。アリル基を含有するポリエステル樹脂は、固有粘度(JIS K7390準拠、溶媒:フェノール/テトラクロロエタン=6/4質量比、ウベローデ粘度計、測定温度:30℃)が0.50〜1.00dl/gであることが好ましい。特には0.55〜0.85dl/gが好ましい。固有粘度が0.50以下では、強伸度が低く実用上好ましくない。また、1.00dl/g以上では、射出成形時流動性が低く、薄肉の部品や精密成形品に適さないので好ましくない。
【0012】
アリル基をポリエステル樹脂に導入する方法としては、ポリエステルの重合時共重合する他に、ポリエステル樹脂にポリエステルと反応性のある官能基を分子内に有するアリル化合物を予備混合して押出機やバンバリミキサーにより溶融混練することでポリエステルの末端変性物として得られる。反応を促進するために、例えばリン酸、亜リン酸、次亜リン酸などのリン化合物やステアリン酸塩などの高級脂肪酸塩などを加えることが好ましく、特に、トリフェニルホスフィンやステアリン酸カルシュウムが好ましい。この変性は、他の配合物のコンパウンドと同時行うことも可能である。溶融混練は、融点より10〜50℃高い温度が好ましい。反応後の固有粘度は、上記のように0.5〜1.00dl/gが射出成形上好ましい。
【0013】
本発明に使用するアリル基を含有するポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂全体1kg当たりにアリル基を0.05〜1グラム当量含有すればよく、アリル基を含むポリエステル樹脂にアリル基を含まないポリエスエテル樹脂を混合しても構わない。アリル基を含むポリエステル樹脂にアリル基を含まないポリエスエテル樹脂を混合しても流動開始温度が325℃以上の射出成形品を得ることができる。アリル基を含むポリエステル樹脂が30〜90質量%あれば架橋のネットワークが形成されるためと考察される。アリル基含有ポリエステル樹脂のマスターバッチを汎用のポリエステルに混合することも可能である。
【0014】
本発明に使用するアリル基を含有するポリエステル樹脂からなるポリエステル樹脂組成物は、耐熱性を増すために繊維状強化材および/又は無機強化材を、アリル基を含むポリエステル樹脂からなるポリエステル樹脂組成物に対して10〜70質量%配合することができる。好ましくは、10〜60質量%配合される。10質量%以下では、ポリエステル樹脂の融点以上での剛性を高める効果が少ない。また、70質量%以上では射出成形性が低下するので好ましくない。本発明に使用される繊維状強化材としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリュウム、アラミド繊維、PBO繊維が例示される。コスト/性能の面からガラス繊維・炭素繊維が好ましい。無機強化材としては、タルク、クレイ、ワラストナイト、シリカ、炭酸カルシュウム、カオリンなどが例示される。
これらの中でも特に、融点以上での剛性を高める効果があるタルク、ワラストナイトが好ましい。剛性と表面外観の両立の面から繊維状強化材と無機強化材の併用も好ましい。
【0015】
射出成形後電子線照射して得られる本発明の成形品において、試験荷重10Nにおけるビカット軟化点は、220〜300℃が好ましい。特に好ましくは240〜300℃であると効果が更に発揮される。この範囲のビカット軟化点の電子線硬化ポリエステル射出成形品は、成形品の架橋度と結晶化度と強化材の量を制御することで得られる。
【0016】
本発明においては、上記のポリエステル樹脂組成物を射出成形により成形する。成形前は、ポリエステル樹脂は3次元化されておらず、溶融時は高い流動性を有し、成形品厚さ0.3mm〜7mm程度の金型に射出され成形品が得られる。本発明の成形品の要件のひとつに、200℃から280℃の温度範囲に、好ましくは、240℃〜280℃の温度範囲に10〜43J/g、好ましくは15〜35J/gの融解エンタルピーを有することが必要である。このためにポリエステル樹脂の結晶化が十分進行する金型温度である60℃〜170℃に温度調節された金型にて成形されることが好ましい。結晶化が不十分の場合は、成形後EB照射前に80℃〜170℃にて熱処理により結晶化を進行することが好ましい。分子間に架橋が形成されたEB照射後では結晶化が阻害されるので好ましくない。融解エンタルピーが10〜43J/gの場合に、耐熱変形性が高い理由は明らかではないが、融解エンタルピーが10J/g未満では、特公昭44−457号公報に記載されているように、ポリエステル樹脂をガラス繊維などで強化してもガラス転移点温度以上で成形品が軟化して熱変形するので好ましくなく。また、43J/g以上では、非結晶の分率が低下してEB照射による架橋が不十分となり耐熱変形性が不十分となるためと考察される。
【0017】
本発明の射出成形品は、EB照射され架橋される。EB照射線量は、樹脂組成や成形品の形状により異なるが、50〜4000kGyが好ましい。特に70〜400KGyが好ましい。50kGyでは硬化不足で、4000kGy以上では劣化により強伸度が低下して好ましくない。成形品のEBの遮蔽性から、成形品の表面にEBが有効に作用し、表面の架橋度は高く、内部に進むにつれて架橋度は低下する。本発明の目的である耐ハンダ性や異常過熱時の形状保持の面や燃焼時の滴下防止には、成形品表面の架橋度が重要であり、本発明は、目的に大変有効である。
【0018】
本発明の好ましい架橋度(硬化度ともいう)としては、樹脂成形品が荷重10MPaの下で1mmφ×10mmLのノズルから流出を開始する流動開始温度が325℃以上である。特に335℃以上が好ましい。(流動開始温度の詳細な測定方法は、実施例に記載したとおりである。)流動開始温度が325℃以下の架橋度では、ハンダ浴に浸漬するハンダ方法のための耐熱性が得られない。
【0019】
本発明には、EB架橋型のポリマーを予めポリエステル樹脂中に架橋助剤として加えることができる。架橋助剤としては、ポリエチレン、ポリエチレンプロピレンラバー、エチレン−プロピレン−ジェン共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体やこれらの無水マレイン酸変性体やエポキシ変性体などが例示される。これらの一部は、ポリエステル中のアリル基とEB照射により結合する。
【0020】
さらに、本発明に使用されるポリエステル樹脂組成物には、常用の添加剤、例えば耐熱安定剤、耐侯剤、耐加水分解剤、顔料などを添加してもよい。熱安定剤としては、ヒンダードフェノール系、チオエーテル系、ホスファイト系等やこれらの組み合わせを挙げることができる。耐侯剤としては、ベンゾフェノン系、トリアゾール系、ヒンダードアミン系などが挙げることができる。また、耐加水分解剤としては、カルボジイミド、ビスオキサゾリン、エポキシ、イソシアネート化合物が挙げることが出来る。また、蛍光染料を配合することもできる。
【0021】
本発明に使用されるポリエステル樹脂組成物には、前記の各構成成分を重合段階で混合し重合することができる。また、いろいろな安定剤は重合前後に混合することもでき、また単軸押出機、2軸押出機やニーダーなどの装置を用いて、離型剤や安定剤を混練することができる。安定剤をより高濃度に含む樹脂組成物を予め溶融混練して、成型時にこれをマスターバッチとして混合することもできる。
【0022】
本発明においては、上記ポリエステル樹脂組成物には、離型剤を0.01〜2質量%を追加することができる。離型剤としては、例えば、高級脂肪酸エステル系、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸のモノアミド、高級脂肪酸のビスアミドが挙げられる。特に、高級脂肪酸金属塩や高級脂肪酸のビスアミドが好ましい。これらの離型剤はポリエステル樹脂組成物100質量部に対して好ましく0.01〜0.8質量部が配合される。2質量部を超えると成形体の表面外観が損なわれるので本発明には好ましくない。該離型剤の配合により、金型よりの成形体の離型性が向上し、生産の安定性がより向上する。
【0023】
本発明のEB硬化ポリエステル樹脂射出成形品の用途は特に限定されないが、上記した特性を有するので、ハンダ工程のある電気・電子部品や異常加熱時に電気絶縁性の必要な電気部品に用いられことが好ましい実施態様である。
【実施例】
【0024】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお明細書中の物性評価は以下の方法により測定した。
(1)EB照射条件
電子線照射装置(RDI社製、ダイナミトロン型5MeV電子加速器)を使用して、電圧4.6MeV、電流20mAにて120kGyを成形品の1方向から照射した。
【0025】
(2)融解エンタルピー
射出成形により得られた100mm×50mm×3mmの成形品を上記EB照射して得られたEB硬化ポリエステル射出成形品の表面から200μmの層10mgをアルミパンにサンプリングして精秤した。これを示差走査熱量計(セイコーインスルメンツ(株)製、SSC5200型)を使用して、昇温速度20℃/分、窒素40ml/分流動下にて熱分析を行い、JIS K7122に準じて200〜280℃間の融解エンタルピーを求めた。
(3)ビカット軟化点
射出成形により得られた100mm×50mm×3mmの成形品を上記EB照射して得られたEB硬化ポリエステル射出成形品から20mm×20mm×3mmのサンプルを切り出した。これをビカット軟化点測定機(東洋精機(株)製、ヒートデストーションテスター)を使用して、JIS K7206に準じて、試験荷重10Nの下で測定した。
【0026】
(4)流動開始温度
フロテスター((株)島津製作所製、CFT500C)に1mmφ×10mmLのノズルをセットした。EB硬化ポリエステル射出成形品の表面より深さ0.5mmまでの層からサンプリングして、10メッシュパスに粉砕した成形品を1cm2の断面のシリンダーに入れ、10MPaの荷重をかけて200℃から2℃/分にて昇温して、2℃/分毎にピストン位置を記録した。ピストンが上昇後再び明らかに降下を開始した温度を流出開始温度とした。
(5)ヒートサグ
JISK7195に準じて試験した。射出成形により得られた12.7mm×12.7mm×3.2mmの成形品を上記EB照射して得られたEB硬化ポリエステル成形品の試験片を試験片保持具に固定して、自由端部の上面と基板の距離S0を測定した。測定後、予め280℃に調節された熱風乾燥機中にて10分処理した。取り出し後、23℃の部屋に1時間放置後、試験片の自由端部の上面と基板間の距離Sfを測定した。
ヒートサグ値Sを(1)式により求めた。
S=S0−Sf (1)
ヒートサグ値から次のように評価した。
×:S≧50mm,
△:50mm>S≧20,
○:20>S
【0027】
(6)曲げ試験
射出成形により得られた幅12.7mm×厚さ3.2mmの成形品を上記EB照射して得られたEB硬化ポリエステル成形品の試験片について、スパン長50mm、変形速度1mm/分にて曲げ強さ、曲げ破壊ひずみを測定した。
【0028】
(実施例1〜6)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(東洋紡績(株)製、極限粘度0.75dl/g)に表1に示したように、アリル化合物、無機強化材、架橋助剤、離型剤を予備混合した。実施例1〜6のポリエステル樹脂1kg中のアリル基の含有量は、0.23グラム当量である。この予備混合体を、265℃に温度調節された2軸押出機(池貝鉄工(株)製、PCM30)のホッパーに供給して、100rpmにて溶融混練してアリル基を含有した変性ポリエステル樹脂組成物を得た。得られたペレットを130℃にて3時間乾燥後シリンダー温度265℃に温度調節された射出成形機と120℃に温度調節された金型を使用して、射出成形により127mm×12.7mm×3.2mmと100mm×50mm×3mmのテストピースを得た。
この平板に電子線照射装置を用いて、1方向からEBを150kGy照射して、EB硬化射出成形品を得た。得られたテストピースの特性値を表1に示す。
【0029】
(比較例1)
アリル化合物を配合しない以外は、実施例1と全く同様な方法において、コンパウンド、射出成形、EB照射してテストピースを得た。テストピースの特性値を表1に示す。
(比較例2)
実施例1と同様にコンパウンドと成形をして、得られた射出成形品にEB照射することなく使用する場合のテストピースの特性値を表1に示す。
(比較例3)
実施例1と同様にコンパウンドし、金型温度を50℃にした以外は実施例1と同様に成形して、得られた射出成形品にEB照射した場合のテストピースの特性値を表1に示す。
【0030】
(実施例7〜8)
ポリエステル樹脂として、ポリブチレンテレフタレート(東洋紡績(株)製、極限粘度0.84dl/gを使用した以外は、それぞれ実施例1〜6と同様にして得られたEB照射射出成形品の特性値を表2に示した。ポリエステル樹脂1kg中のアリル基の含有量は、実施例1〜6同様に0.23グラム当量である。
(比較例4および5)
比較例4として、実施例7においてアリル化合物を配合しない以外は全く同様にして得られたテストピースについて表2に特性を示した。また実施例7のEB未照射の射出成形品の特性を比較例5として表2に示した。
【0031】
実施例1〜8で得られたEB照射射出成形体はいずれもが、流動開始温度は340℃以上で320℃30分処理でも成形品の形状を保持しており、耐熱性が飛躍的に向上している。透明性、色調、溶出量および耐放射線耐久性に優れており、医療用用具用として好適に使用することができる。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表中の略号は次の通りである。
PET:ポリエチレンテレフタレート(東洋紡績(株)製、極限粘度0.75dl/g)
PBT:ポリブチレンテレフタレート(東洋紡績(株)製、極限粘度0.84dl/g)
DAMG:ジアリルモノグリシジルイソシアヌル酸(ナカライテスク(株)製、試薬GP)
TAI:トリアリルイソシアヌル酸(ナカライテスク(株)製、試薬GP)
TA:タルク(林化成(株)社、ミクロンホワイト(登録商標)#5000A)
TPP:トリフェニルホスフィン(ナカライテスク(株)製、試薬GP)
St−Ca:ステアリン酸カルシューム(ナカライテスク(株)製、試薬GP)
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のEB照射ポリエステル射出成形品は、成形前は280℃以下で高い流動性を有して、射出性に優れ、射出成形後EB照射により、280℃のヒートサグが小さく、また320℃では溶融変形しなく高い耐熱性を保持している。高い生産性と耐熱性を有しハンダ工程のある電気・電子部品や異常時も形状を保持して絶縁性が保持される。安全性の高い電気部品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂1kg当たりにアリル基を0.01〜5グラム当量含有するポリエステル樹脂からなるポリエステル樹脂組成物を射出成形後、電子線照射して得られる、200〜280℃の温度範囲に10〜43J/gの融解エンタルピーを有し、流動開始温度が325℃以上であることを特徴とする電子線硬化ポリエステル射出成形品。
【請求項2】
ポリエステル樹脂組成物が、繊維状強化材および/又は無機強化材を10〜70質量%含有し、電子線照射して得られる電子線硬化ポリエステル射出成形品の試験荷重10Nのビカット軟化点が220〜300℃であることを特徴とする請求項1に記載の電子線硬化ポリエステル射出成形品。
【請求項3】
アリル基を含有するポリエステル樹脂が、ジアリルモノグリシジルイソシアヌル酸によりアリル基が導入されたポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2いずれかに記載の電子線硬化ポリエステル射出成形品。
【請求項4】
アリル基を含有するポリエステル樹脂が、エチレンテレフタレート単位を80モル%以上含有するポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の電子線硬化ポリエステル射出成形品。

【公開番号】特開2006−232977(P2006−232977A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48847(P2005−48847)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】