電子血圧計及びその信号処理方法
【課題】 オシロメトリック方式の電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を精度よく抽出する。
【解決手段】 血管を圧迫するカフと接続され、複数の脈波成分が時系列に重畳された、減圧過程におけるカフ圧力を検出可能な電子血圧計であって、前記複数の脈波成分のうち、W1−A波形及びW1−C波形が最初に出現した脈波成分502が重畳されている時点でのカフ圧力を、収縮期血圧値として抽出する手段と、前記複数の脈波成分のうち、W1−A波形が、W0波形の出現から遅延することなく出現した最初の脈波成分503が重畳されている時点でのカフ圧力を、拡張期血圧値として抽出する手段とを備える。
【解決手段】 血管を圧迫するカフと接続され、複数の脈波成分が時系列に重畳された、減圧過程におけるカフ圧力を検出可能な電子血圧計であって、前記複数の脈波成分のうち、W1−A波形及びW1−C波形が最初に出現した脈波成分502が重畳されている時点でのカフ圧力を、収縮期血圧値として抽出する手段と、前記複数の脈波成分のうち、W1−A波形が、W0波形の出現から遅延することなく出現した最初の脈波成分503が重畳されている時点でのカフ圧力を、拡張期血圧値として抽出する手段とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧測定における信号処理技術に関するものであり、特にオシロメトリック方式の血圧測定における信号処理技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オシロメトリック方式の電子血圧計における血圧値(収縮期血圧値、拡張期血圧値)の抽出方法は、カフ下の動脈の血管内の圧力を示すカフ圧力(カフ内の圧力を示す信号)に、血流の拍出に伴う血管内の圧力の微小変化が脈波成分として重畳するという特性を利用したものである。
【0003】
このようにカフ圧力に重畳した脈波成分に基づいて血圧値を抽出する方法は、オシロメトリック方式と呼ばれる。
【0004】
従来のオシロメトリック方式の電子血圧計では、血圧値の測定に際して、まず、阻血部位に巻くカフを収縮期血圧値以上に加圧した後、カフ圧力を微速度(例えば、2〜3mmHg/秒)で、大気圧近くまで減圧する。そして、この減圧過程でカフ圧力に重畳する脈波成分を取得し、取得した脈波成分の振幅値(脈波振幅値)の推移(カフ圧力の変化に対応して変化する脈波振幅値の変化プロフィル)に基づいて収縮期血圧値と拡張期血圧値とを抽出する。
【0005】
図1は、カフ圧力の減圧過程で、脈波成分が重畳したカフ圧力の変化の様子を示す図である。同図において、横軸は減圧過程における経過時間を、縦軸はカフ圧力をそれぞれ示している。同図に示すように、減圧過程の時間経過に比例してカフ圧力が減少するとともに、重畳する脈波成分の大きさや形も変化していく。
【0006】
図2は、カフ圧力の減圧過程において、カフ圧力に重畳する脈波成分の脈波振幅値の変化の様子をカフ圧力の変化と対応付けて示した図である。図2からわかるように、脈波振幅値は、カフ圧力の減圧過程では、最初、徐々に大きくなっていき、最大脈波振幅値が現れる時点Mを経過した後は、徐々に減少するという傾向をもつ。
【0007】
ここで図2を用いて、従来のオシロメトリック方式の電子血圧計における収縮期血圧値及び拡張期血圧値の抽出方法について説明する。
【0008】
従来のオシロメトリック方式の電子血圧計では、カフ圧力の減圧過程において、徐々に大きくなっていく脈波振幅値が、最大脈波振幅値PAに所定割合αをかけることで得られる閾値TH1(=α×PA)を超えた時点Lでのカフ圧力を抽出し、これを収縮期血圧値としている。
【0009】
また、最大脈波振幅値が現れる時点Mを経過した後に減少していく脈波振幅値が、最大脈波振幅値PAに所定割合βをかけることで得られる閾値TH2(=β×PA)に到達した時点Nでのカフ圧力を抽出し、これを拡張期血圧値としている。
【0010】
このようにしてカフ圧力に重畳した脈波成分より抽出される収縮期血圧値及び拡張期血圧値は、個々の測定での誤差をできるだけ小さくするために、例えば、閾値TH1、TH2については、これまで数百人のデータによる統計的な手段に基づいて設定するといった試みがなされていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のオシロメトリック方式の電子血圧計のように、統計的な手段に基づいて閾値を設定し収縮期血圧値と拡張期血圧値を抽出する方法の場合、被測定者の収縮期血圧値及び拡張期血圧値近傍での脈波振幅値の変化プロフィルの傾向が一般的な変化プロフィルの傾向と異なっている被測定者に対しては、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を正しく抽出することができないという問題があった。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、オシロメトリック方式の電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を精度よく抽出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明にかかる電子血圧計は、以下のような構成を備える。即ち、
血管を圧迫するカフと接続され、複数の脈波成分が時系列に重畳された、減圧過程におけるカフ圧力を検出可能な電子血圧計であって、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、血管内圧が伝播することによる波形成分に、前記圧迫された血管部分における血流の拍出に伴う血管の容積の微小変化に由来する波形成分が遅延して出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、収縮期血圧値として抽出する第1の抽出手段と、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、前記圧迫された血管部分における血流の拍出に伴う血管の容積の微小変化に由来する波形成分が、血管内圧が伝播することによる波形成分の出現から遅延することなく出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、拡張期血圧値として抽出する第2の抽出手段とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、オシロメトリック方式の電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を精度よく抽出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について添付の図面を参照して説明する。なお、以下に示す電子血圧計は、脈波振幅値の変化プロフィルではなく、脈波成分そのものに基づいて、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出することを特徴とする。
【0016】
また、以下に示す電子血圧計は、脈波成分に基づいて収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出するにあたり、従来のダブルカフ構造ではなく、トリプルカフ構造のカフを用いることを前提とする。以下、本発明の実施形態について詳細を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限られるものでないことはいうまでもない。
【0017】
[第1の実施形態]
1.カフ圧力と脈波成分との関係
トリプルカフ構造のカフを用いて検出されたカフ圧力に重畳された脈波成分に基づいて、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を精度よく抽出するための抽出方法を説明するにあたり、はじめに、対比のために、ダブルカフ構造のカフの構成と、当該カフの構成のもとで取得されるカフ圧力に重畳された脈波成分について説明する。
【0018】
1.1 ダブルカフ構造の場合
(1)ダブルカフ構造のカフの構成
図3Aは、カフを上腕301に捲いたときの腕の長手方向(上腕の延びる方向)の断面図である。
【0019】
図3Aに示すカフは、血管阻血用の大カフ311と圧力検出用の小カフ312とを備えるダブルカフ構造を有している。図3Aには、加圧された血管阻血用の大カフ311により血管300はQの部分で阻血され、上流側300aから下流側300bへの血流が抑えられている様子が示されている。
【0020】
血管阻血用の大カフ311により上腕301を圧拍する力は、カフ内の幅方向の中央部(図のAの部分)で最も強く、両端に近づくにつれ弱くなり、両端ではほぼ0となる。圧力検出用の小カフ312は、このカフ内の幅方向の中央部(図のAの部分)に設けられており、この部分において血管内圧力の変化を捉える。尚、本願明細書で述べる「カフ圧力」は、カフ内部の圧力を意味するが、実質的には、カフ内の幅方向の中央部(図のAの部分)での腕の圧迫力に等しい。
【0021】
このような構成のもとで圧力検出用の小カフ312により検出されるカフ圧力に重畳される脈波成分は、動脈内圧が血管を振動させ、それがカフに伝播することで生じるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分(以下、W0波形という)と、カフ内の上流側から下流側への血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分(以下、W1波形という)とカフの外側下流部の血管からの反射によるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分(以下、W2波形という)とに分けられる。
【0022】
このうち、W1波形は、便宜上、以下の3つに分けて考えることができる。
・カフ内の幅方向の中央部、すなわち、図3のAの部分(以下、単に、カフ内中央部Aという)の下の血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分W1−A(以下、W1−A波形という)
・カフ内の幅方向の上流部、すなわち、図3のBの部分(以下、単に、カフ内上流部Bという)の下の血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分W1−B(以下、W1−B波形という)
・カフ内の幅方向の下流部、すなわち、図3のCの部分(以下、単に、カフ内下流部Cという)の下の血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分W1−C(以下、W1−C波形という)。
【0023】
(2)脈波成分を構成する各波形の性質
次に、図3Aの構成のもとで、カフ圧力に重畳される上記脈波成分の波形について説明する。図3Bは、W1波形がW1−B波形とW1−A波形とW1−C波形とから合成され、更に、W0波形及びW2波形と合成され、脈波成分の波形PWができている様子を模式的に示した図である。図3Bの脈波成分の波形PWは、減圧過程においてカフ圧力が収縮期血圧値から拡張期血圧値に移行するまで間に現れる代表的な脈波成分の波形を示している。
【0024】
W0波形は、動脈内圧が血管を振動させ、それがカフに伝播することで生じるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分であるから、動脈内圧の変化と同期して信号が発生する。W2波形は、血流の拍出に対するカフの外側下流部からの反射であるから、カフの外側下流部の血管内の圧力がカフ圧力より高くなるタイミングによってピークの出現は、W1波形のピークの出現より遅れる。図3Bは、W2波形のピークの出現がW1波形のピークの出現より遅れた様子を示している。
【0025】
一般に、W2波形の形状の脈波成分の全体波形への反映は、W1波形(W1−B波形とW1−A波形とW1−C波形の合成波形)の形状の反映より小さい。また、減圧過程でのカフ圧力が拡張期血圧値の近傍では、カフ内の下流部Cの下の血管内の圧力は、カフによる阻血前の状態に十分に回復しているので、下流側の血管からの反射は実質的になくなる。したがって、拡張期血圧値の近傍で検出されるカフ圧力に重畳された波形成分は、実質的にW2が消滅している。
【0026】
減圧過程においてカフ圧力が収縮期血圧値から拡張期血圧値まで移行する間では、カフ内中央部Aに血流が流れ込み、カフ内の上流側から下流側への血流を拍出する現象がみられる。よって、カフ圧力が収縮期血圧値から拡張期血圧値まで移行する間にW1波形が重畳される。
【0027】
血流の拍出が発生するのは、血管を圧迫する力より血液が流れる力が大きくなる必要があるため、カフ圧力が動脈内圧より低くなった場合となる。カフ内上流部Bの圧迫力は、カフ内中央部Aの圧迫力より小さくなっている(このような現象を、一般に、カフエッジ効果と呼ぶ)。よってカフ内上流部Bの点の圧迫力が動脈内圧より小さくなる時間は、カフ内上流部Aの点の圧迫力が動脈内圧より小さくなる時間より早いこととなる。よってW1−B波形の波形変化は、W1−A波形の波形変化より前に出現する。
【0028】
一方、W1−C波形は、カフ内下流部C下での血流の拍出に伴うものである。カフ内下流部Cの圧迫力は、カフ内中央部Aより低くなっているので、カフ内下流部Cの圧迫力が動脈内圧を下回るのは、カフ内中央部Aでの圧迫力が動脈内圧を下回る時間より早いが、上流側のカフ内中央部Aに血流が発生しない時点では、当然それより下流のカフ内下流部Cにも血流が発生しない。よってカフ内下流部Cで血流が発生するのは、カフ内中央部Aで血流が発生するタイミングとほぼ等しくなる。よって、W1−C波形の波形変化は、W1−A波形の波形変化とほぼ同時に出現する。
【0029】
ここで、圧力検出用の小カフは、カフ内中央部Aに取り付けられていることから、W1−B波形およびW1−C波形に比べて、W1−A波形を最も検出しやすい。したがって、W1−A波形の特徴は、W1−B波形とW1−C波形の特徴と比べ、W1波形の形状に大きく反映する。
【0030】
また、カフ内上流部Bの圧迫力は、カフの端部の部分にいくにつれ急激に減少する。よってカフ内上流部B内でも、一番上流側とカフ内中央部A側とでは圧迫力が大きく異なるため、圧迫力が動脈内圧より小さくなる時間の差も大きくなる。したがって、W1−B波形の変化の幅は大きくなる。
【0031】
以上のことを総合すると、W1−B波形は、W1−A波形より時間的に前に発生し、波形の振幅は、W1−A波形より小さく、また変化する時間幅は緩やかとなる。
【0032】
W1波形は血流の拍出による発生である。血流の発生は、圧迫力が動脈内圧を下回ってはじめて発生するため、動脈内圧の変化開始する時間より、所定時間の遅れ、すなわち、所定の時間差TをもってW1波形の変化が開始するはずであるが、上記のようにカフエッジ効果により、カフの端部では圧迫力が動脈内圧を下回るのは動脈内圧の変化開始とほぼ同じタイミングとなるため、W1成分の変化は動脈内圧の変化開始とともに、徐々に大きくなる形状となる。つまり、従来はW1−B波形の変化成分のため、明確にW0波形の変化開始点とW1波形の変化開始点を区別することができなかった。
【0033】
1.2 トリプルカフ構造の場合
次に、トリプルカフ構造のカフ構成と、当該カフ構成のもとで取得されるカフ圧力に重畳された脈波成分について説明する。
【0034】
(1)トリプルカフ構造のカフの構成
図4Aに示すカフは、血管阻血用の大カフ411と圧力検出用の小カフ412に加え、大カフ内の上流側での血流による信号や振動を抑えるためのサブカフ413とを備えるトリプルカフ構造を有している。図4Aには、加圧された血管阻血用の大カフ411により血管400はQ’の部分で阻血され、上流側400aから下流側400bへの血流が抑えられている様子が示されている。
【0035】
(2)脈波成分を構成する各波形の性質
次に、図4Aの構成のもとで、カフ圧力に重畳される上記脈波成分の波形について説明する。上述のように、トリプルカフ構造の場合、加圧された血管阻血用の大カフ411及びサブカフ413により、血管400はQ’の部分で阻血され、血流がおさえられる。
【0036】
このため、圧力検出用の小カフ412により検出されるカフ圧力に重畳される脈波成分は、W1−B成分がおさえられることとなり、図4Bのようになる。
【0037】
このように、トリプルカフ構造のカフを用いると、サブカフ413の効果により、カフ内上流部のW1−B波形成分を取り除くことが可能となるため、W0波形とW1波形とは、動脈内圧の変化開始から動脈内圧がカフ圧力を上回るまでの時間差Tの遅れをもって重畳されることとなる。この結果、W1波形の変化開始点を明確に識別することが可能となる。
【0038】
1.3 カフ圧力の変化に伴う脈波成分の変化
図5は、上記トリプルカフ構造のもとで、収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において、脈波成分が重畳したカフ圧力の変化の一例を示すグラフである。なお、説明の便宜上、脈波成分の波形がわかるように、脈波成分を拡大して図示している。
【0039】
また、図5の下側(511〜514)は、各脈波成分を検出した際の、血管の様子を模式的に示した図である。
【0040】
図5によれば、収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において、1回目の脈波成分501を検出した際、カフ内中央部Aの下では、完全に阻血された状態(511)にあるため、W1−A波形、W1−C波形の成分は存在しない。また、W1−B波形の成分もトリプルカフ構造により、減衰されているため実質的に存在しない。よってカフ圧力としてはW0波形のみが検出される。
【0041】
これに対して、減圧過程において2回目の脈波成分502を検出した際には、カフ内中央部Aの下では、動脈内圧の最大値がカフ内圧より高くなるため、血液が流れ始めた状態(512)にある。このため、検出された脈波成分502には、W0波形のほか、血流の拍出による成分W1−A波形、W1−C波形が検出される。このときW0波形が検出されてから、W1−A波形およびW1−C波形が検出されるまでの時間差Tは、t1となる。
【0042】
なお、この状態(血液が流れはじめた状態512)となった時点におけるカフ圧力が、求めようとする最高血圧の正確な値となる。
【0043】
続いて、減圧過程において3回目の脈波成分503を検出した際には、カフ内中央部Aの下では、脈波成分502を検出したとき同様、動脈内圧の変化がカフ内圧より大きくなっている時間で血液の流れが起こり、W1−A波形、W1−C波形が、W0波形のほかに発生する。ただし、2回目の脈波成分502を検出した場合と比べて、カフ内圧が減少しているため、動脈内圧の変化の開始から動脈内圧の変化がカフ内圧より大きくなるまでの時間が短くなっている。よって、W0波形が検出されてからW1−A波形及びW1−C波形が検出されるまでの時間差Tをt2とすると、t2<t1となる。
【0044】
そして減圧過程において、4回目の脈波成分504を検出した際には、カフ内中央部Aの下では、カフ圧力と動脈内圧の最小値がほぼ同じであるので、カフによる血管の圧閉がなくなる状態となる。このとき、動脈圧力がカフ圧力より大きくなる時間は動脈圧力の変化開始点とほぼ等しくなるため、W0波形の出現タイミングとW1−A波形及びW1−C波形の出現タイミングとは一致し、時間差Tが発生しない。
【0045】
なお、この状態(血管が完全にもとに戻った状態514)となった時点におけるカフ圧力が求めようとする拡張期血圧値の正確な値といえる。
【0046】
2.収縮期血圧値と拡張期血圧値の抽出原理
血管の状態と脈波成分の波形との上記関係を考慮すると、オシロメトリック方式の電子血圧計において、収縮期血圧値と拡張期血圧値を精度よく抽出するためのロジックは、以下のようになる。
(1)収縮期血圧値
カフ圧力を収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において検出された各脈波成分のうち、W0波形に加えて、W1−A波形及びW1−C波形が出現した最初の脈波成分(図5の例では、脈波成分502)が重畳された時点でのカフ圧力を収縮期血圧値として抽出する。
【0047】
なお、図5に示す減圧過程を、反対にたどることによっても抽出することが可能である。すなわち、カフ圧力を拡張期血圧値以下に減圧した後の加圧過程において検出された各脈波成分のうち、W0波形に加えて出現していたW1−A波形及びW1−C波形が消失した最初の脈波成分が重畳された時点でのカフ圧力を収縮期血圧値として抽出してもよい。
(2)拡張期血圧値
カフ圧力を収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において検出された各脈波成分のうち、W0波形の出現タイミングと、W1−A波形及びW1−C波形の出現タイミングとが一致した(遅れなしの場合の)最初の脈波成分(図5の例では、脈波成分504)が重畳された時点でのカフ圧力を拡張期血圧値として抽出する。
【0048】
なお、図5に示す減圧過程を、反対にたどることによっても抽出することが可能である。すなわち、カフ圧力を拡張期血圧値以下に減圧した後の加圧過程において検出された各脈波成分のうち、W0波形の出現タイミングと、W1−A波形及びW1−C波形の出現タイミングとが一致した(遅れなしの場合の)最後の脈波成分が重畳された時点でのカフ圧力を拡張期血圧値として抽出してもよい。
【0049】
3.電子血圧計の機能構成
図6は、上記抽出原理が適用された、本発明の一実施形態にかかるトリプルカフを用いた電子血圧計を示すブロック図である。
【0050】
図6において、カフ本体601は、上腕部を含む血圧測定部位に対して着脱自在に設けられる布製のカフ部材602を備えている。また、カフ本体601には、カフ部材602の測定部位接触側の端部に、雄(フック型)面ファスナー603と雌(ループ型)面ファスナー604とが設けられている。
【0051】
このため、カフ部材602を図示のように上腕に巻き付け、各面ファスナーを係止することで、カフ本体601を上腕に装着することができる。ここで、面ファスナーは一例に過ぎず、これ以外の部材でもよく、また筒状に形成しておき上腕を挿入するように構成してもよい。
【0052】
カフ部材602の内部には、血圧測定部位の全体を圧迫するための阻血用空気袋608が敷設されている。また、この阻血用空気袋608の血圧測定部位に接する側には血圧測定部位の心臓H側を圧迫すべく幅がより狭く形成されたサブ空気袋607が敷設されている。サブ空気袋607と阻血用空気袋608との間にはサブ空気袋607の振動を減衰する第1緩衝部材609が設けられている。
【0053】
また、阻血用空気袋608の血圧測定部位の接する側に敷設されており、血圧測定部位の血管を圧迫するとともに、血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化を含む血管内の圧力を検出するための圧力検出用空気袋606と該圧力検出用空気袋606を血圧測定部位に密着させるパッキング部材605が敷設されている。
【0054】
このようにして構成されるカフ本体601を加圧及び減圧するために、ポンプ623がカフ本体601の阻血用空気袋608と、第2配管612及び配管615を介して接続されている。更に、カフ本体601の圧力検出用空気袋606と、第1配管611及び流体抵抗器614を介して接続されている。また、カフ本体601のサブ空気袋607と、第3配管613及び開閉弁616を介して接続されている。
【0055】
圧力検出用空気袋606のカフ圧力を検出する圧力センサ(カフ圧力検出手段)631は、第1配管611を介して圧力検出用空気袋606と接続されている。
【0056】
第1配管611、第2配管612、第3配管613は軟質チューブからなり、コネクタ610を介して本体630に対して着脱自在に配されている。
【0057】
なお、第3配管613には、さらに、圧力に比例して容積が大きくなることで圧力を平滑化させる機能を有するダンパー装置618(破線図示)が接続されていてもよい。
【0058】
十字分岐部620にはポンプ623と急速排気弁兼定速排気弁622が接続されている。急速排気弁兼定速排気弁622は制御部648に、開閉弁616は制御部646に夫々接続されている。急速排気弁兼定速排気弁622は中央制御部635からの指令により開口面積が制御され、開閉弁616は中央制御部635からの指令により開閉動作が制御される。
【0059】
また、ポンプ623はモータMに接続されるポンプ駆動部649からの電力供給に伴って駆動され、外気を開口部623aからポンプ623内に導入することで加圧を行う。加圧された空気は、十字分岐部620を介して配管615と第3配管613とに送ることで各空気袋(605、607、608)が加圧される。
【0060】
急速排気弁兼定速排気弁622は、毎秒2〜4mmHgの減圧速度を実現するために電磁力の強弱で開口面積を可変するよう構成されている。なお、急速排気弁兼定速排気弁622は、制御部648からのPWM駆動信号に基づいて任意の減圧速度を設定することができる。
【0061】
一方、圧力センサ631で検出されたカフ圧力は、増幅器632にて増幅され、A/D変換器633にてデジタル信号に変換された後に、中央制御部635に入力され、中央制御部635において収縮期血圧値及び拡張期血圧値が抽出される。抽出された収縮期血圧値と拡張期血圧値は、表示部637に表示される。
【0062】
なお、圧力センサ631で検出されたカフ圧力に対して、ハイパスフィルタを用いてフィルタリング処理を行うように構成してもよい。フィルタリング処理を行うことで、脈波成分が重畳したカフ圧力の中から、脈波成分のみを抽出することが可能となるからである。
【0063】
4.収縮期血圧値及び拡張期血圧値の測定処理の流れ
図7は、本実施形態にかかる電子血圧計(図6)を用いて、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を測定する際の、該電子血圧計の動作の流れを示す図である。当該測定を行うにあたっては、先ず、カフ本体601が図6で図示したように上腕部に対して装着される。
【0064】
そして、測定開始が指示されると、ステップS701では、急速排気弁兼定速排気弁622の開口面積を全開にし、また、開閉弁616を開き、各空気袋(605、607、608)の排気を行う。なお、各空気袋内の残留空気の排気が終了すると、圧力センサ631のゼロセット(初期化)が行われる。
【0065】
次にステップS702では、開閉弁616を開いた状態に維持したまま、急速排気弁兼定速排気弁622を全閉する。
【0066】
以上の処理によりカフ(阻血用空気袋、圧力検出用空気袋、サブ空気袋)への加圧の準備が整うと、ステップS703では、ポンプ623を駆動する。
【0067】
続いて、ステップS704では、カフ圧力が規定圧力(阻血の障害にならず、かつカフエッジ効果を低減できるようにサブ空気袋607を膨らませるような圧力)になったか否かをチェックする。ステップS704において、規定圧力になったと判定された場合には、ステップS705に進み、開閉弁616を閉じる。
【0068】
そして、ポンプ623の駆動を継続し、カフ圧力を予想される収縮期血圧より20〜30mmHg高い加圧設定値まで加圧する。
【0069】
ステップS706ではカフ圧力が加圧設定値になったか否かを判断し、加圧設定値になったと判断された場合には、ステップS707に進み、ポンプ駆動を停止した後に、カフ減圧ルーチン(ステップS708)に進む。
【0070】
5.カフ減圧ルーチンの流れ
図8は、カフ減圧ルーチン(ステップS708)の詳細な処理の流れを示す図である。
【0071】
ステップS801では、圧力センサ631からの信号に基づいて、減圧速度が2〜3mmHg/秒になるように急速排気弁兼定速排気弁622の開口面積の制御を開始する。また、ステップS802では、圧力センサ631にて検出されたカフ圧力の入力を開始する。
【0072】
ステップS803では、入力されたカフ圧力に重畳された各脈波成分において、W1−A波形及びW1−C波形が出現したか否かを脈波形状のパターン認識により順次判定する。ステップS803において、W1−A波形及びW1−C波形が出現したと判定された場合には、ステップS804に進み、そのときの(W1−A波形及びW1−C波形が出現した最初の脈波成分が重畳された時点での)カフ圧力を収縮期血圧値として抽出する。
【0073】
更に、ステップS805では、入力されたカフ圧力に重畳された各脈波成分について、W0波形の出現タイミングに対するW1−A波形及びW1−C波形の出現タイミングの時間差Tを順次算出し、時間差Tが0であるか否かを判定する。
【0074】
ステップS805において、時間差T=0であると判定された場合には、ステップS806に進み、そのときの(W1−A波形及びW1−C波形がW0波形の出現から遅れることなく出現した最初の脈波成分が重畳された時点での)カフ圧力を拡張期血圧値として抽出する。
【0075】
その後、ステップS807では、急速排気弁兼定速排気弁622の開口面積を全開にし、かつ、開閉弁616を開くことでカフを大気圧にする。
【0076】
ステップS808では、抽出された収縮期血圧値及び拡張期血圧値を表示部637に表示して一連の動作を終了する。
【0077】
以上の説明から明らかなように、本実施形態にかかる電子血圧計では、減圧過程においてカフ圧力に重畳された脈波成分に含まれる各成分に着目し、W1−A波形及びW1−C波形の出現時のカフ圧力を収縮期血圧値として抽出する構成とした。これにより、カフ圧力を収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において、血流が流れ始めた時点でのカフ圧力を抽出することが可能となる。この結果、従来の統計的な手段により抽出していた場合と比較して、収縮期血圧値を精度よく抽出することが可能となる。
【0078】
また、本実施形態にかかる電子血圧計では、カフ圧力を収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において、W0波形の出現タイミングとW1−A波形及びW1−C波形の出現タイミングとの時間差がゼロになった際のカフ圧力を拡張期血圧値とする構成とした。これにより、カフ圧力を収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において、血管がもとに復元された時点でのカフ圧力を抽出することが可能となる。この結果、従来の統計的な手段により抽出していた場合と比較して、拡張期血圧値を精度よく測定することが可能となる。
【0079】
なお、上記説明では、カフ圧力に重畳された脈波成分に、W1−A波形及びW1−C波形が出現したか否かを判断する方法については、特に言及しなかったが、W1−A波形及びW1−C波形が出現したか否かの判断は、脈波成分の波形に基づいて行うものとする。
【0080】
図4を用いて説明したとおり、カフ内中央部A下での血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化に由来するW1−A波形とカフ下流部C下での血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化に由来するW1−C波形は、動脈内圧が血管を振動させ、それがカフに伝播することで生じるカフの圧力の微小変化に由来するW0波形に対して、所定の時間差Tをもって出現する。このため、W1−A波形及びW1−C波形が時間差Tをもって出現した脈波成分の波形には、ノッチ形状(脈波成分の波形のボトムからピークまでの間において、傾きが大きく変化する形状)が含まれることとなる。
【0081】
そこで、本実施形態にかかる電子血圧計では、このような脈波成分の波形の特性を利用し、ノッチ形状の有無に基づいて、W1−A波形及びW1−C波形が出現したか否かを判断する。
【0082】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、カフ圧力を収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において検出されたカフ圧力に基づいて、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出する構成としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、カフ圧力を拡張期血圧値以下に減圧した後の加圧過程において検出されたカフ圧力に基づいて収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出するように構成してもよい。
【0083】
図9は、本実施形態にかかる電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出するための処理の流れを示す図である。
【0084】
ステップS901では、急速排気弁兼定速排気弁622の開口面積を全開にし、また、開閉弁616を開き、各空気袋(605、607、608)の排気を行う。なお、各空気袋内の残留空気の排気が終了すると、圧力センサ631のゼロセット(初期化)が行われる。
【0085】
次にステップS902では、開閉弁616を開いた状態に維持したまま、急速排気弁兼定速排気弁622を全閉する。
【0086】
ステップS903では、開閉弁616を開き、ステップS904では、ポンプ623を駆動する。
【0087】
ステップS905では、カフ圧力が規定圧力(例えば40mmHg)になったか否かをチェックする。ステップS905において、規定圧力になったと判定された場合には、ステップS906に進み、開閉弁616を閉じる。
【0088】
ステップS907では、ポンプ623の駆動を継続し、2〜3mmHg/secで加圧する。ステップS908では、圧力センサ631にて検出されたカフ圧力の入力を開始し、中央制御部635内のメモリに記憶する。
【0089】
ステップS909では、入力されたカフ圧力に重畳された各脈波成分についての脈波形状を取得する。
【0090】
ステップS910では、取得された脈波形状に基づいて収縮期血圧値を抽出できたか否かを判定する。なお、収縮期血圧値は、加圧過程において検出された各脈波成分のうち、W0波形に加えて出現していたW1−A波形及びW1−C波形が消失した最初の脈波成分が重畳された時点でのカフ圧力を収縮期血圧値として抽出する。
【0091】
ステップS910において収縮期血圧値を抽出できたと判定された場合には、ステップS911に進み、ポンプ623の駆動を停止する。また、ステップS912において急速排気弁兼定速排気弁622を開く。
【0092】
ステップS913では、ステップS908においてメモリに記憶されたカフ圧力に基づいて、拡張期血圧値を抽出する。
【0093】
ステップS914では、抽出された収縮期血圧値及び拡張期血圧値を表示部637に表示して一連の動作を終了する。
【0094】
以上の説明から明らかなように、本実施形態にかかる電子血圧計では、加圧過程においてカフ圧力に重畳される脈波成分に基づいて、拡張期血圧値及び収縮期血圧値を精度よく測定することが可能となる。また、本実施形態によれば、上記第1の実施形態と比べ、測定時間の短縮を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】カフ圧力の減圧過程で、脈波成分が重畳したカフ圧力の変化の様子を示す図である。
【図2】カフ圧力の減圧過程において、カフ圧力に重畳する脈波成分の脈波振幅値の変化プロフィルをカフ圧力の変化と対応付けて示した図である。
【図3A】カフ圧力を付加するために、ダブルカフ構造のカフを上腕301に捲いたときの腕の長手方向(上腕の延びる方向)の断面図である。
【図3B】ダブルカフ構造のカフの場合に、減圧過程においてカフ圧力に重畳される脈波成分の波形PWを模式的に示した図である。
【図4A】カフ圧力を付加するために、トリプルカフ構造のカフを上腕401に捲いたときの腕の長手方向(上腕の延びる方向)の断面図である。
【図4B】トリプルカフ構造のカフの場合に、減圧過程においてカフ圧力に重畳される脈波成分の波形PWを模式的に示した図である。
【図5】収縮期血圧値以上に加圧した後、カフ圧力を微速度で減圧していった場合の減圧過程において、カフ圧力に脈波成分が重畳している様子を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態にかかるトリプルカフを用いた電子血圧計を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施形態にかかる電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を測定するための動作の流れを示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態にかかる電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出するための処理の流れを示す図である。
【図9】本発明の第2の実施形態にかかる電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出するための処理の流れを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血圧測定における信号処理技術に関するものであり、特にオシロメトリック方式の血圧測定における信号処理技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オシロメトリック方式の電子血圧計における血圧値(収縮期血圧値、拡張期血圧値)の抽出方法は、カフ下の動脈の血管内の圧力を示すカフ圧力(カフ内の圧力を示す信号)に、血流の拍出に伴う血管内の圧力の微小変化が脈波成分として重畳するという特性を利用したものである。
【0003】
このようにカフ圧力に重畳した脈波成分に基づいて血圧値を抽出する方法は、オシロメトリック方式と呼ばれる。
【0004】
従来のオシロメトリック方式の電子血圧計では、血圧値の測定に際して、まず、阻血部位に巻くカフを収縮期血圧値以上に加圧した後、カフ圧力を微速度(例えば、2〜3mmHg/秒)で、大気圧近くまで減圧する。そして、この減圧過程でカフ圧力に重畳する脈波成分を取得し、取得した脈波成分の振幅値(脈波振幅値)の推移(カフ圧力の変化に対応して変化する脈波振幅値の変化プロフィル)に基づいて収縮期血圧値と拡張期血圧値とを抽出する。
【0005】
図1は、カフ圧力の減圧過程で、脈波成分が重畳したカフ圧力の変化の様子を示す図である。同図において、横軸は減圧過程における経過時間を、縦軸はカフ圧力をそれぞれ示している。同図に示すように、減圧過程の時間経過に比例してカフ圧力が減少するとともに、重畳する脈波成分の大きさや形も変化していく。
【0006】
図2は、カフ圧力の減圧過程において、カフ圧力に重畳する脈波成分の脈波振幅値の変化の様子をカフ圧力の変化と対応付けて示した図である。図2からわかるように、脈波振幅値は、カフ圧力の減圧過程では、最初、徐々に大きくなっていき、最大脈波振幅値が現れる時点Mを経過した後は、徐々に減少するという傾向をもつ。
【0007】
ここで図2を用いて、従来のオシロメトリック方式の電子血圧計における収縮期血圧値及び拡張期血圧値の抽出方法について説明する。
【0008】
従来のオシロメトリック方式の電子血圧計では、カフ圧力の減圧過程において、徐々に大きくなっていく脈波振幅値が、最大脈波振幅値PAに所定割合αをかけることで得られる閾値TH1(=α×PA)を超えた時点Lでのカフ圧力を抽出し、これを収縮期血圧値としている。
【0009】
また、最大脈波振幅値が現れる時点Mを経過した後に減少していく脈波振幅値が、最大脈波振幅値PAに所定割合βをかけることで得られる閾値TH2(=β×PA)に到達した時点Nでのカフ圧力を抽出し、これを拡張期血圧値としている。
【0010】
このようにしてカフ圧力に重畳した脈波成分より抽出される収縮期血圧値及び拡張期血圧値は、個々の測定での誤差をできるだけ小さくするために、例えば、閾値TH1、TH2については、これまで数百人のデータによる統計的な手段に基づいて設定するといった試みがなされていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来のオシロメトリック方式の電子血圧計のように、統計的な手段に基づいて閾値を設定し収縮期血圧値と拡張期血圧値を抽出する方法の場合、被測定者の収縮期血圧値及び拡張期血圧値近傍での脈波振幅値の変化プロフィルの傾向が一般的な変化プロフィルの傾向と異なっている被測定者に対しては、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を正しく抽出することができないという問題があった。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、オシロメトリック方式の電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を精度よく抽出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、本発明にかかる電子血圧計は、以下のような構成を備える。即ち、
血管を圧迫するカフと接続され、複数の脈波成分が時系列に重畳された、減圧過程におけるカフ圧力を検出可能な電子血圧計であって、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、血管内圧が伝播することによる波形成分に、前記圧迫された血管部分における血流の拍出に伴う血管の容積の微小変化に由来する波形成分が遅延して出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、収縮期血圧値として抽出する第1の抽出手段と、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、前記圧迫された血管部分における血流の拍出に伴う血管の容積の微小変化に由来する波形成分が、血管内圧が伝播することによる波形成分の出現から遅延することなく出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、拡張期血圧値として抽出する第2の抽出手段とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、オシロメトリック方式の電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を精度よく抽出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について添付の図面を参照して説明する。なお、以下に示す電子血圧計は、脈波振幅値の変化プロフィルではなく、脈波成分そのものに基づいて、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出することを特徴とする。
【0016】
また、以下に示す電子血圧計は、脈波成分に基づいて収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出するにあたり、従来のダブルカフ構造ではなく、トリプルカフ構造のカフを用いることを前提とする。以下、本発明の実施形態について詳細を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限られるものでないことはいうまでもない。
【0017】
[第1の実施形態]
1.カフ圧力と脈波成分との関係
トリプルカフ構造のカフを用いて検出されたカフ圧力に重畳された脈波成分に基づいて、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を精度よく抽出するための抽出方法を説明するにあたり、はじめに、対比のために、ダブルカフ構造のカフの構成と、当該カフの構成のもとで取得されるカフ圧力に重畳された脈波成分について説明する。
【0018】
1.1 ダブルカフ構造の場合
(1)ダブルカフ構造のカフの構成
図3Aは、カフを上腕301に捲いたときの腕の長手方向(上腕の延びる方向)の断面図である。
【0019】
図3Aに示すカフは、血管阻血用の大カフ311と圧力検出用の小カフ312とを備えるダブルカフ構造を有している。図3Aには、加圧された血管阻血用の大カフ311により血管300はQの部分で阻血され、上流側300aから下流側300bへの血流が抑えられている様子が示されている。
【0020】
血管阻血用の大カフ311により上腕301を圧拍する力は、カフ内の幅方向の中央部(図のAの部分)で最も強く、両端に近づくにつれ弱くなり、両端ではほぼ0となる。圧力検出用の小カフ312は、このカフ内の幅方向の中央部(図のAの部分)に設けられており、この部分において血管内圧力の変化を捉える。尚、本願明細書で述べる「カフ圧力」は、カフ内部の圧力を意味するが、実質的には、カフ内の幅方向の中央部(図のAの部分)での腕の圧迫力に等しい。
【0021】
このような構成のもとで圧力検出用の小カフ312により検出されるカフ圧力に重畳される脈波成分は、動脈内圧が血管を振動させ、それがカフに伝播することで生じるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分(以下、W0波形という)と、カフ内の上流側から下流側への血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分(以下、W1波形という)とカフの外側下流部の血管からの反射によるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分(以下、W2波形という)とに分けられる。
【0022】
このうち、W1波形は、便宜上、以下の3つに分けて考えることができる。
・カフ内の幅方向の中央部、すなわち、図3のAの部分(以下、単に、カフ内中央部Aという)の下の血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分W1−A(以下、W1−A波形という)
・カフ内の幅方向の上流部、すなわち、図3のBの部分(以下、単に、カフ内上流部Bという)の下の血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分W1−B(以下、W1−B波形という)
・カフ内の幅方向の下流部、すなわち、図3のCの部分(以下、単に、カフ内下流部Cという)の下の血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分W1−C(以下、W1−C波形という)。
【0023】
(2)脈波成分を構成する各波形の性質
次に、図3Aの構成のもとで、カフ圧力に重畳される上記脈波成分の波形について説明する。図3Bは、W1波形がW1−B波形とW1−A波形とW1−C波形とから合成され、更に、W0波形及びW2波形と合成され、脈波成分の波形PWができている様子を模式的に示した図である。図3Bの脈波成分の波形PWは、減圧過程においてカフ圧力が収縮期血圧値から拡張期血圧値に移行するまで間に現れる代表的な脈波成分の波形を示している。
【0024】
W0波形は、動脈内圧が血管を振動させ、それがカフに伝播することで生じるカフの圧力の微小変化に由来する波形成分であるから、動脈内圧の変化と同期して信号が発生する。W2波形は、血流の拍出に対するカフの外側下流部からの反射であるから、カフの外側下流部の血管内の圧力がカフ圧力より高くなるタイミングによってピークの出現は、W1波形のピークの出現より遅れる。図3Bは、W2波形のピークの出現がW1波形のピークの出現より遅れた様子を示している。
【0025】
一般に、W2波形の形状の脈波成分の全体波形への反映は、W1波形(W1−B波形とW1−A波形とW1−C波形の合成波形)の形状の反映より小さい。また、減圧過程でのカフ圧力が拡張期血圧値の近傍では、カフ内の下流部Cの下の血管内の圧力は、カフによる阻血前の状態に十分に回復しているので、下流側の血管からの反射は実質的になくなる。したがって、拡張期血圧値の近傍で検出されるカフ圧力に重畳された波形成分は、実質的にW2が消滅している。
【0026】
減圧過程においてカフ圧力が収縮期血圧値から拡張期血圧値まで移行する間では、カフ内中央部Aに血流が流れ込み、カフ内の上流側から下流側への血流を拍出する現象がみられる。よって、カフ圧力が収縮期血圧値から拡張期血圧値まで移行する間にW1波形が重畳される。
【0027】
血流の拍出が発生するのは、血管を圧迫する力より血液が流れる力が大きくなる必要があるため、カフ圧力が動脈内圧より低くなった場合となる。カフ内上流部Bの圧迫力は、カフ内中央部Aの圧迫力より小さくなっている(このような現象を、一般に、カフエッジ効果と呼ぶ)。よってカフ内上流部Bの点の圧迫力が動脈内圧より小さくなる時間は、カフ内上流部Aの点の圧迫力が動脈内圧より小さくなる時間より早いこととなる。よってW1−B波形の波形変化は、W1−A波形の波形変化より前に出現する。
【0028】
一方、W1−C波形は、カフ内下流部C下での血流の拍出に伴うものである。カフ内下流部Cの圧迫力は、カフ内中央部Aより低くなっているので、カフ内下流部Cの圧迫力が動脈内圧を下回るのは、カフ内中央部Aでの圧迫力が動脈内圧を下回る時間より早いが、上流側のカフ内中央部Aに血流が発生しない時点では、当然それより下流のカフ内下流部Cにも血流が発生しない。よってカフ内下流部Cで血流が発生するのは、カフ内中央部Aで血流が発生するタイミングとほぼ等しくなる。よって、W1−C波形の波形変化は、W1−A波形の波形変化とほぼ同時に出現する。
【0029】
ここで、圧力検出用の小カフは、カフ内中央部Aに取り付けられていることから、W1−B波形およびW1−C波形に比べて、W1−A波形を最も検出しやすい。したがって、W1−A波形の特徴は、W1−B波形とW1−C波形の特徴と比べ、W1波形の形状に大きく反映する。
【0030】
また、カフ内上流部Bの圧迫力は、カフの端部の部分にいくにつれ急激に減少する。よってカフ内上流部B内でも、一番上流側とカフ内中央部A側とでは圧迫力が大きく異なるため、圧迫力が動脈内圧より小さくなる時間の差も大きくなる。したがって、W1−B波形の変化の幅は大きくなる。
【0031】
以上のことを総合すると、W1−B波形は、W1−A波形より時間的に前に発生し、波形の振幅は、W1−A波形より小さく、また変化する時間幅は緩やかとなる。
【0032】
W1波形は血流の拍出による発生である。血流の発生は、圧迫力が動脈内圧を下回ってはじめて発生するため、動脈内圧の変化開始する時間より、所定時間の遅れ、すなわち、所定の時間差TをもってW1波形の変化が開始するはずであるが、上記のようにカフエッジ効果により、カフの端部では圧迫力が動脈内圧を下回るのは動脈内圧の変化開始とほぼ同じタイミングとなるため、W1成分の変化は動脈内圧の変化開始とともに、徐々に大きくなる形状となる。つまり、従来はW1−B波形の変化成分のため、明確にW0波形の変化開始点とW1波形の変化開始点を区別することができなかった。
【0033】
1.2 トリプルカフ構造の場合
次に、トリプルカフ構造のカフ構成と、当該カフ構成のもとで取得されるカフ圧力に重畳された脈波成分について説明する。
【0034】
(1)トリプルカフ構造のカフの構成
図4Aに示すカフは、血管阻血用の大カフ411と圧力検出用の小カフ412に加え、大カフ内の上流側での血流による信号や振動を抑えるためのサブカフ413とを備えるトリプルカフ構造を有している。図4Aには、加圧された血管阻血用の大カフ411により血管400はQ’の部分で阻血され、上流側400aから下流側400bへの血流が抑えられている様子が示されている。
【0035】
(2)脈波成分を構成する各波形の性質
次に、図4Aの構成のもとで、カフ圧力に重畳される上記脈波成分の波形について説明する。上述のように、トリプルカフ構造の場合、加圧された血管阻血用の大カフ411及びサブカフ413により、血管400はQ’の部分で阻血され、血流がおさえられる。
【0036】
このため、圧力検出用の小カフ412により検出されるカフ圧力に重畳される脈波成分は、W1−B成分がおさえられることとなり、図4Bのようになる。
【0037】
このように、トリプルカフ構造のカフを用いると、サブカフ413の効果により、カフ内上流部のW1−B波形成分を取り除くことが可能となるため、W0波形とW1波形とは、動脈内圧の変化開始から動脈内圧がカフ圧力を上回るまでの時間差Tの遅れをもって重畳されることとなる。この結果、W1波形の変化開始点を明確に識別することが可能となる。
【0038】
1.3 カフ圧力の変化に伴う脈波成分の変化
図5は、上記トリプルカフ構造のもとで、収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において、脈波成分が重畳したカフ圧力の変化の一例を示すグラフである。なお、説明の便宜上、脈波成分の波形がわかるように、脈波成分を拡大して図示している。
【0039】
また、図5の下側(511〜514)は、各脈波成分を検出した際の、血管の様子を模式的に示した図である。
【0040】
図5によれば、収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において、1回目の脈波成分501を検出した際、カフ内中央部Aの下では、完全に阻血された状態(511)にあるため、W1−A波形、W1−C波形の成分は存在しない。また、W1−B波形の成分もトリプルカフ構造により、減衰されているため実質的に存在しない。よってカフ圧力としてはW0波形のみが検出される。
【0041】
これに対して、減圧過程において2回目の脈波成分502を検出した際には、カフ内中央部Aの下では、動脈内圧の最大値がカフ内圧より高くなるため、血液が流れ始めた状態(512)にある。このため、検出された脈波成分502には、W0波形のほか、血流の拍出による成分W1−A波形、W1−C波形が検出される。このときW0波形が検出されてから、W1−A波形およびW1−C波形が検出されるまでの時間差Tは、t1となる。
【0042】
なお、この状態(血液が流れはじめた状態512)となった時点におけるカフ圧力が、求めようとする最高血圧の正確な値となる。
【0043】
続いて、減圧過程において3回目の脈波成分503を検出した際には、カフ内中央部Aの下では、脈波成分502を検出したとき同様、動脈内圧の変化がカフ内圧より大きくなっている時間で血液の流れが起こり、W1−A波形、W1−C波形が、W0波形のほかに発生する。ただし、2回目の脈波成分502を検出した場合と比べて、カフ内圧が減少しているため、動脈内圧の変化の開始から動脈内圧の変化がカフ内圧より大きくなるまでの時間が短くなっている。よって、W0波形が検出されてからW1−A波形及びW1−C波形が検出されるまでの時間差Tをt2とすると、t2<t1となる。
【0044】
そして減圧過程において、4回目の脈波成分504を検出した際には、カフ内中央部Aの下では、カフ圧力と動脈内圧の最小値がほぼ同じであるので、カフによる血管の圧閉がなくなる状態となる。このとき、動脈圧力がカフ圧力より大きくなる時間は動脈圧力の変化開始点とほぼ等しくなるため、W0波形の出現タイミングとW1−A波形及びW1−C波形の出現タイミングとは一致し、時間差Tが発生しない。
【0045】
なお、この状態(血管が完全にもとに戻った状態514)となった時点におけるカフ圧力が求めようとする拡張期血圧値の正確な値といえる。
【0046】
2.収縮期血圧値と拡張期血圧値の抽出原理
血管の状態と脈波成分の波形との上記関係を考慮すると、オシロメトリック方式の電子血圧計において、収縮期血圧値と拡張期血圧値を精度よく抽出するためのロジックは、以下のようになる。
(1)収縮期血圧値
カフ圧力を収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において検出された各脈波成分のうち、W0波形に加えて、W1−A波形及びW1−C波形が出現した最初の脈波成分(図5の例では、脈波成分502)が重畳された時点でのカフ圧力を収縮期血圧値として抽出する。
【0047】
なお、図5に示す減圧過程を、反対にたどることによっても抽出することが可能である。すなわち、カフ圧力を拡張期血圧値以下に減圧した後の加圧過程において検出された各脈波成分のうち、W0波形に加えて出現していたW1−A波形及びW1−C波形が消失した最初の脈波成分が重畳された時点でのカフ圧力を収縮期血圧値として抽出してもよい。
(2)拡張期血圧値
カフ圧力を収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において検出された各脈波成分のうち、W0波形の出現タイミングと、W1−A波形及びW1−C波形の出現タイミングとが一致した(遅れなしの場合の)最初の脈波成分(図5の例では、脈波成分504)が重畳された時点でのカフ圧力を拡張期血圧値として抽出する。
【0048】
なお、図5に示す減圧過程を、反対にたどることによっても抽出することが可能である。すなわち、カフ圧力を拡張期血圧値以下に減圧した後の加圧過程において検出された各脈波成分のうち、W0波形の出現タイミングと、W1−A波形及びW1−C波形の出現タイミングとが一致した(遅れなしの場合の)最後の脈波成分が重畳された時点でのカフ圧力を拡張期血圧値として抽出してもよい。
【0049】
3.電子血圧計の機能構成
図6は、上記抽出原理が適用された、本発明の一実施形態にかかるトリプルカフを用いた電子血圧計を示すブロック図である。
【0050】
図6において、カフ本体601は、上腕部を含む血圧測定部位に対して着脱自在に設けられる布製のカフ部材602を備えている。また、カフ本体601には、カフ部材602の測定部位接触側の端部に、雄(フック型)面ファスナー603と雌(ループ型)面ファスナー604とが設けられている。
【0051】
このため、カフ部材602を図示のように上腕に巻き付け、各面ファスナーを係止することで、カフ本体601を上腕に装着することができる。ここで、面ファスナーは一例に過ぎず、これ以外の部材でもよく、また筒状に形成しておき上腕を挿入するように構成してもよい。
【0052】
カフ部材602の内部には、血圧測定部位の全体を圧迫するための阻血用空気袋608が敷設されている。また、この阻血用空気袋608の血圧測定部位に接する側には血圧測定部位の心臓H側を圧迫すべく幅がより狭く形成されたサブ空気袋607が敷設されている。サブ空気袋607と阻血用空気袋608との間にはサブ空気袋607の振動を減衰する第1緩衝部材609が設けられている。
【0053】
また、阻血用空気袋608の血圧測定部位の接する側に敷設されており、血圧測定部位の血管を圧迫するとともに、血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化を含む血管内の圧力を検出するための圧力検出用空気袋606と該圧力検出用空気袋606を血圧測定部位に密着させるパッキング部材605が敷設されている。
【0054】
このようにして構成されるカフ本体601を加圧及び減圧するために、ポンプ623がカフ本体601の阻血用空気袋608と、第2配管612及び配管615を介して接続されている。更に、カフ本体601の圧力検出用空気袋606と、第1配管611及び流体抵抗器614を介して接続されている。また、カフ本体601のサブ空気袋607と、第3配管613及び開閉弁616を介して接続されている。
【0055】
圧力検出用空気袋606のカフ圧力を検出する圧力センサ(カフ圧力検出手段)631は、第1配管611を介して圧力検出用空気袋606と接続されている。
【0056】
第1配管611、第2配管612、第3配管613は軟質チューブからなり、コネクタ610を介して本体630に対して着脱自在に配されている。
【0057】
なお、第3配管613には、さらに、圧力に比例して容積が大きくなることで圧力を平滑化させる機能を有するダンパー装置618(破線図示)が接続されていてもよい。
【0058】
十字分岐部620にはポンプ623と急速排気弁兼定速排気弁622が接続されている。急速排気弁兼定速排気弁622は制御部648に、開閉弁616は制御部646に夫々接続されている。急速排気弁兼定速排気弁622は中央制御部635からの指令により開口面積が制御され、開閉弁616は中央制御部635からの指令により開閉動作が制御される。
【0059】
また、ポンプ623はモータMに接続されるポンプ駆動部649からの電力供給に伴って駆動され、外気を開口部623aからポンプ623内に導入することで加圧を行う。加圧された空気は、十字分岐部620を介して配管615と第3配管613とに送ることで各空気袋(605、607、608)が加圧される。
【0060】
急速排気弁兼定速排気弁622は、毎秒2〜4mmHgの減圧速度を実現するために電磁力の強弱で開口面積を可変するよう構成されている。なお、急速排気弁兼定速排気弁622は、制御部648からのPWM駆動信号に基づいて任意の減圧速度を設定することができる。
【0061】
一方、圧力センサ631で検出されたカフ圧力は、増幅器632にて増幅され、A/D変換器633にてデジタル信号に変換された後に、中央制御部635に入力され、中央制御部635において収縮期血圧値及び拡張期血圧値が抽出される。抽出された収縮期血圧値と拡張期血圧値は、表示部637に表示される。
【0062】
なお、圧力センサ631で検出されたカフ圧力に対して、ハイパスフィルタを用いてフィルタリング処理を行うように構成してもよい。フィルタリング処理を行うことで、脈波成分が重畳したカフ圧力の中から、脈波成分のみを抽出することが可能となるからである。
【0063】
4.収縮期血圧値及び拡張期血圧値の測定処理の流れ
図7は、本実施形態にかかる電子血圧計(図6)を用いて、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を測定する際の、該電子血圧計の動作の流れを示す図である。当該測定を行うにあたっては、先ず、カフ本体601が図6で図示したように上腕部に対して装着される。
【0064】
そして、測定開始が指示されると、ステップS701では、急速排気弁兼定速排気弁622の開口面積を全開にし、また、開閉弁616を開き、各空気袋(605、607、608)の排気を行う。なお、各空気袋内の残留空気の排気が終了すると、圧力センサ631のゼロセット(初期化)が行われる。
【0065】
次にステップS702では、開閉弁616を開いた状態に維持したまま、急速排気弁兼定速排気弁622を全閉する。
【0066】
以上の処理によりカフ(阻血用空気袋、圧力検出用空気袋、サブ空気袋)への加圧の準備が整うと、ステップS703では、ポンプ623を駆動する。
【0067】
続いて、ステップS704では、カフ圧力が規定圧力(阻血の障害にならず、かつカフエッジ効果を低減できるようにサブ空気袋607を膨らませるような圧力)になったか否かをチェックする。ステップS704において、規定圧力になったと判定された場合には、ステップS705に進み、開閉弁616を閉じる。
【0068】
そして、ポンプ623の駆動を継続し、カフ圧力を予想される収縮期血圧より20〜30mmHg高い加圧設定値まで加圧する。
【0069】
ステップS706ではカフ圧力が加圧設定値になったか否かを判断し、加圧設定値になったと判断された場合には、ステップS707に進み、ポンプ駆動を停止した後に、カフ減圧ルーチン(ステップS708)に進む。
【0070】
5.カフ減圧ルーチンの流れ
図8は、カフ減圧ルーチン(ステップS708)の詳細な処理の流れを示す図である。
【0071】
ステップS801では、圧力センサ631からの信号に基づいて、減圧速度が2〜3mmHg/秒になるように急速排気弁兼定速排気弁622の開口面積の制御を開始する。また、ステップS802では、圧力センサ631にて検出されたカフ圧力の入力を開始する。
【0072】
ステップS803では、入力されたカフ圧力に重畳された各脈波成分において、W1−A波形及びW1−C波形が出現したか否かを脈波形状のパターン認識により順次判定する。ステップS803において、W1−A波形及びW1−C波形が出現したと判定された場合には、ステップS804に進み、そのときの(W1−A波形及びW1−C波形が出現した最初の脈波成分が重畳された時点での)カフ圧力を収縮期血圧値として抽出する。
【0073】
更に、ステップS805では、入力されたカフ圧力に重畳された各脈波成分について、W0波形の出現タイミングに対するW1−A波形及びW1−C波形の出現タイミングの時間差Tを順次算出し、時間差Tが0であるか否かを判定する。
【0074】
ステップS805において、時間差T=0であると判定された場合には、ステップS806に進み、そのときの(W1−A波形及びW1−C波形がW0波形の出現から遅れることなく出現した最初の脈波成分が重畳された時点での)カフ圧力を拡張期血圧値として抽出する。
【0075】
その後、ステップS807では、急速排気弁兼定速排気弁622の開口面積を全開にし、かつ、開閉弁616を開くことでカフを大気圧にする。
【0076】
ステップS808では、抽出された収縮期血圧値及び拡張期血圧値を表示部637に表示して一連の動作を終了する。
【0077】
以上の説明から明らかなように、本実施形態にかかる電子血圧計では、減圧過程においてカフ圧力に重畳された脈波成分に含まれる各成分に着目し、W1−A波形及びW1−C波形の出現時のカフ圧力を収縮期血圧値として抽出する構成とした。これにより、カフ圧力を収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において、血流が流れ始めた時点でのカフ圧力を抽出することが可能となる。この結果、従来の統計的な手段により抽出していた場合と比較して、収縮期血圧値を精度よく抽出することが可能となる。
【0078】
また、本実施形態にかかる電子血圧計では、カフ圧力を収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において、W0波形の出現タイミングとW1−A波形及びW1−C波形の出現タイミングとの時間差がゼロになった際のカフ圧力を拡張期血圧値とする構成とした。これにより、カフ圧力を収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において、血管がもとに復元された時点でのカフ圧力を抽出することが可能となる。この結果、従来の統計的な手段により抽出していた場合と比較して、拡張期血圧値を精度よく測定することが可能となる。
【0079】
なお、上記説明では、カフ圧力に重畳された脈波成分に、W1−A波形及びW1−C波形が出現したか否かを判断する方法については、特に言及しなかったが、W1−A波形及びW1−C波形が出現したか否かの判断は、脈波成分の波形に基づいて行うものとする。
【0080】
図4を用いて説明したとおり、カフ内中央部A下での血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化に由来するW1−A波形とカフ下流部C下での血流の拍出に伴って血管の内容積が微小変化することでカフの内容積が微小変化し、それに伴って生じるカフの圧力の微小変化に由来するW1−C波形は、動脈内圧が血管を振動させ、それがカフに伝播することで生じるカフの圧力の微小変化に由来するW0波形に対して、所定の時間差Tをもって出現する。このため、W1−A波形及びW1−C波形が時間差Tをもって出現した脈波成分の波形には、ノッチ形状(脈波成分の波形のボトムからピークまでの間において、傾きが大きく変化する形状)が含まれることとなる。
【0081】
そこで、本実施形態にかかる電子血圧計では、このような脈波成分の波形の特性を利用し、ノッチ形状の有無に基づいて、W1−A波形及びW1−C波形が出現したか否かを判断する。
【0082】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、カフ圧力を収縮期血圧値以上に加圧した後の減圧過程において検出されたカフ圧力に基づいて、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出する構成としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、カフ圧力を拡張期血圧値以下に減圧した後の加圧過程において検出されたカフ圧力に基づいて収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出するように構成してもよい。
【0083】
図9は、本実施形態にかかる電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出するための処理の流れを示す図である。
【0084】
ステップS901では、急速排気弁兼定速排気弁622の開口面積を全開にし、また、開閉弁616を開き、各空気袋(605、607、608)の排気を行う。なお、各空気袋内の残留空気の排気が終了すると、圧力センサ631のゼロセット(初期化)が行われる。
【0085】
次にステップS902では、開閉弁616を開いた状態に維持したまま、急速排気弁兼定速排気弁622を全閉する。
【0086】
ステップS903では、開閉弁616を開き、ステップS904では、ポンプ623を駆動する。
【0087】
ステップS905では、カフ圧力が規定圧力(例えば40mmHg)になったか否かをチェックする。ステップS905において、規定圧力になったと判定された場合には、ステップS906に進み、開閉弁616を閉じる。
【0088】
ステップS907では、ポンプ623の駆動を継続し、2〜3mmHg/secで加圧する。ステップS908では、圧力センサ631にて検出されたカフ圧力の入力を開始し、中央制御部635内のメモリに記憶する。
【0089】
ステップS909では、入力されたカフ圧力に重畳された各脈波成分についての脈波形状を取得する。
【0090】
ステップS910では、取得された脈波形状に基づいて収縮期血圧値を抽出できたか否かを判定する。なお、収縮期血圧値は、加圧過程において検出された各脈波成分のうち、W0波形に加えて出現していたW1−A波形及びW1−C波形が消失した最初の脈波成分が重畳された時点でのカフ圧力を収縮期血圧値として抽出する。
【0091】
ステップS910において収縮期血圧値を抽出できたと判定された場合には、ステップS911に進み、ポンプ623の駆動を停止する。また、ステップS912において急速排気弁兼定速排気弁622を開く。
【0092】
ステップS913では、ステップS908においてメモリに記憶されたカフ圧力に基づいて、拡張期血圧値を抽出する。
【0093】
ステップS914では、抽出された収縮期血圧値及び拡張期血圧値を表示部637に表示して一連の動作を終了する。
【0094】
以上の説明から明らかなように、本実施形態にかかる電子血圧計では、加圧過程においてカフ圧力に重畳される脈波成分に基づいて、拡張期血圧値及び収縮期血圧値を精度よく測定することが可能となる。また、本実施形態によれば、上記第1の実施形態と比べ、測定時間の短縮を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】カフ圧力の減圧過程で、脈波成分が重畳したカフ圧力の変化の様子を示す図である。
【図2】カフ圧力の減圧過程において、カフ圧力に重畳する脈波成分の脈波振幅値の変化プロフィルをカフ圧力の変化と対応付けて示した図である。
【図3A】カフ圧力を付加するために、ダブルカフ構造のカフを上腕301に捲いたときの腕の長手方向(上腕の延びる方向)の断面図である。
【図3B】ダブルカフ構造のカフの場合に、減圧過程においてカフ圧力に重畳される脈波成分の波形PWを模式的に示した図である。
【図4A】カフ圧力を付加するために、トリプルカフ構造のカフを上腕401に捲いたときの腕の長手方向(上腕の延びる方向)の断面図である。
【図4B】トリプルカフ構造のカフの場合に、減圧過程においてカフ圧力に重畳される脈波成分の波形PWを模式的に示した図である。
【図5】収縮期血圧値以上に加圧した後、カフ圧力を微速度で減圧していった場合の減圧過程において、カフ圧力に脈波成分が重畳している様子を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態にかかるトリプルカフを用いた電子血圧計を示すブロック図である。
【図7】本発明の第1の実施形態にかかる電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を測定するための動作の流れを示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態にかかる電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出するための処理の流れを示す図である。
【図9】本発明の第2の実施形態にかかる電子血圧計において、収縮期血圧値及び拡張期血圧値を抽出するための処理の流れを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管を圧迫するカフと接続され、複数の脈波成分が時系列に重畳された、減圧過程におけるカフ圧力を検出可能な電子血圧計であって、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、血管内圧が伝播することによる波形成分に、前記圧迫された血管部分における血流の拍出に伴う血管の容積の微小変化に由来する波形成分が遅延して出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、収縮期血圧値として抽出する第1の抽出手段と、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、前記圧迫された血管部分における血流の拍出に伴う血管の容積の微小変化に由来する波形成分が、血管内圧が伝播することによる波形成分の出現から遅延することなく出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、拡張期血圧値として抽出する第2の抽出手段と
を備えることを特徴とする電子血圧計。
【請求項2】
前記カフは、
血圧測定部位に接する側に敷設され血圧測定部位全体を圧迫する阻血用空気袋と、
前記阻血用空気袋の血圧測定部位に接する側に敷設されて血圧測定部位の血管の心臓側を圧迫するサブ空気袋と、
前記阻血用空気袋の血圧測定部位に接する側に敷設され血圧測定部位の血管の中央部やや下流側の脈波を検出する脈波検出用空気袋と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の電子血圧計。
【請求項3】
血管を圧迫するカフと接続され、複数の脈波成分が時系列に重畳された、減圧過程におけるカフ圧力を検出可能な電子血圧計であって、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、脈波成分の波形にノッチ形状が出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、収縮期血圧値として抽出する第1の抽出手段と、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、脈波成分の波形に含まれていたノッチ形状が消滅した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、拡張期血圧値として抽出する第2の抽出手段と
を備えることを特徴とする電子血圧計。
【請求項4】
前記カフは、
血圧測定部位に接する側に敷設され血圧測定部位全体を圧迫する阻血用空気袋と、
前記阻血用空気袋の血圧測定部位に接する側に敷設されて血圧測定部位の血管の心臓側を圧迫するサブ空気袋と、
前記阻血用空気袋の血圧測定部位に接する側に敷設され血圧測定部位の血管の中央部やや下流側の脈波を検出する脈波検出用空気袋と
を備えることを特徴とする請求項3に記載の電子血圧計。
【請求項5】
血管を圧迫するカフと接続され、複数の脈波成分が時系列に重畳された、減圧過程におけるカフ圧力を検出可能な電子血圧計における信号処理方法であって、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、血管内圧が伝播することによる波形成分に、前記圧迫された血管部分における血流の拍出に伴う血管の容積の微小変化に由来する波形成分が遅延して出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、収縮期血圧値として抽出する第1の抽出工程と、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、前記圧迫された血管部分における血流の拍出に伴う血管の容積の微小変化に由来する波形成分が、血管内圧が伝播することによる波形成分の出現から遅延することなく出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、拡張期血圧値として抽出する第2の抽出工程と
を備えることを特徴とする信号処理方法。
【請求項6】
血管を圧迫するカフと接続され、複数の脈波成分が時系列に重畳された、減圧過程におけるカフ圧力を検出可能な電子血圧計における信号処理方法であって、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、脈波成分の波形にノッチ形状が出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、収縮期血圧値として抽出する第1の抽出工程と、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、脈波成分の波形に含まれていたノッチ形状が消滅した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、拡張期血圧値として抽出する第2の抽出工程と
を備えることを特徴とする電子血圧計における信号処理方法。
【請求項1】
血管を圧迫するカフと接続され、複数の脈波成分が時系列に重畳された、減圧過程におけるカフ圧力を検出可能な電子血圧計であって、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、血管内圧が伝播することによる波形成分に、前記圧迫された血管部分における血流の拍出に伴う血管の容積の微小変化に由来する波形成分が遅延して出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、収縮期血圧値として抽出する第1の抽出手段と、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、前記圧迫された血管部分における血流の拍出に伴う血管の容積の微小変化に由来する波形成分が、血管内圧が伝播することによる波形成分の出現から遅延することなく出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、拡張期血圧値として抽出する第2の抽出手段と
を備えることを特徴とする電子血圧計。
【請求項2】
前記カフは、
血圧測定部位に接する側に敷設され血圧測定部位全体を圧迫する阻血用空気袋と、
前記阻血用空気袋の血圧測定部位に接する側に敷設されて血圧測定部位の血管の心臓側を圧迫するサブ空気袋と、
前記阻血用空気袋の血圧測定部位に接する側に敷設され血圧測定部位の血管の中央部やや下流側の脈波を検出する脈波検出用空気袋と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の電子血圧計。
【請求項3】
血管を圧迫するカフと接続され、複数の脈波成分が時系列に重畳された、減圧過程におけるカフ圧力を検出可能な電子血圧計であって、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、脈波成分の波形にノッチ形状が出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、収縮期血圧値として抽出する第1の抽出手段と、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、脈波成分の波形に含まれていたノッチ形状が消滅した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、拡張期血圧値として抽出する第2の抽出手段と
を備えることを特徴とする電子血圧計。
【請求項4】
前記カフは、
血圧測定部位に接する側に敷設され血圧測定部位全体を圧迫する阻血用空気袋と、
前記阻血用空気袋の血圧測定部位に接する側に敷設されて血圧測定部位の血管の心臓側を圧迫するサブ空気袋と、
前記阻血用空気袋の血圧測定部位に接する側に敷設され血圧測定部位の血管の中央部やや下流側の脈波を検出する脈波検出用空気袋と
を備えることを特徴とする請求項3に記載の電子血圧計。
【請求項5】
血管を圧迫するカフと接続され、複数の脈波成分が時系列に重畳された、減圧過程におけるカフ圧力を検出可能な電子血圧計における信号処理方法であって、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、血管内圧が伝播することによる波形成分に、前記圧迫された血管部分における血流の拍出に伴う血管の容積の微小変化に由来する波形成分が遅延して出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、収縮期血圧値として抽出する第1の抽出工程と、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、前記圧迫された血管部分における血流の拍出に伴う血管の容積の微小変化に由来する波形成分が、血管内圧が伝播することによる波形成分の出現から遅延することなく出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、拡張期血圧値として抽出する第2の抽出工程と
を備えることを特徴とする信号処理方法。
【請求項6】
血管を圧迫するカフと接続され、複数の脈波成分が時系列に重畳された、減圧過程におけるカフ圧力を検出可能な電子血圧計における信号処理方法であって、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、脈波成分の波形にノッチ形状が出現した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、収縮期血圧値として抽出する第1の抽出工程と、
前記検出したカフ圧力に重畳された複数の脈波成分のうち、脈波成分の波形に含まれていたノッチ形状が消滅した最初の脈波成分が重畳された時点での前記カフ圧力を、拡張期血圧値として抽出する第2の抽出工程と
を備えることを特徴とする電子血圧計における信号処理方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2009−101090(P2009−101090A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278070(P2007−278070)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【出願人】(505155528)公立大学法人横浜市立大学 (101)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]