電子血圧計
【課題】2つのポンプを駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧しても、ポンプの脈動が血管の脈波に重畳することを防ぎ、正確な血管の脈波を得ることができる電子血圧計を提供する。
【解決手段】電子血圧計1は、測定者の上腕を挿入して血管を加圧するための空気袋14と、空気袋14内に空気を供給する第1ポンプ44と第2ポンプ45と、第1ポンプ44と第2ポンプ45を駆動する駆動部62と、駆動部62に指令を与えて、血管の脈波を検出する際に第1ポンプ44を回転駆動させ、第2ポンプ45を第1ポンプ44の回転数よりも低い回転数で駆動させる制御部56と、第1ポンプ44の回転数と第2ポンプ45の回転数との間の回転数差により生じるビートをカットするフィルタ400とを有する。
【解決手段】電子血圧計1は、測定者の上腕を挿入して血管を加圧するための空気袋14と、空気袋14内に空気を供給する第1ポンプ44と第2ポンプ45と、第1ポンプ44と第2ポンプ45を駆動する駆動部62と、駆動部62に指令を与えて、血管の脈波を検出する際に第1ポンプ44を回転駆動させ、第2ポンプ45を第1ポンプ44の回転数よりも低い回転数で駆動させる制御部56と、第1ポンプ44の回転数と第2ポンプ45の回転数との間の回転数差により生じるビートをカットするフィルタ400とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子血圧計に関し、特に空気袋に空気を供給する2つのポンプを有する電子血圧計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機関で行われている高血圧治療向けの血圧測定において、白衣性高血圧症による擬似高血圧が問題にされている。この擬似高血圧症の原因としては、病院内での医師の前での緊張、不安等の精神面での不安定が考えられている。これに対して、精神的に安定している家庭にて一人で測定した血圧値に注目が集まっている。このため、この家庭血圧測定に用いる一人で測定するタイプの電子血圧計が注目されている。
このタイプの血圧計で測定上問題となるのが、腕帯部の腕への装着の仕方である。腕帯部内の空気袋の位置が上腕に対して適当でない場合や、上腕に対して巻き付け強さが適当でない場合に、腕帯部の空気袋の圧迫が上腕に正しく行われず、血圧が高く測定される場合がある。近年、これを解決するために、筒状の腕帯部に腕を挿入するだけで、自動的に腕帯部の空気袋を腕の正しい位置に配置し、正しい巻き付け強さにて血圧測定を行うことができるようにした血圧計本体と腕帯部を一体とした電子血圧計(以降、アームインタイプと呼ぶ)が開発されている(特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、使用者が上記アームインタイプの血圧計を使用すると、腕を挿入する腕帯部が血圧計本体と一体となっているので、血圧計本体の位置が測定者から離れていた場合には、測定者は前かがみ状態での測定となり易い。このため、測定者の腹部が圧迫されて腹圧が上昇し、その結果、血圧が上昇する現象が見られる場合がある。この血圧上昇を、新たな擬似高血圧症の発生として、指摘されている。
そこで、このような擬似高血圧症の発生という不都合に対応するために、血圧計本体から腕帯部が分離できて、血圧計本体の設置場所が測定者から離れていても、測定者が座位にて背を伸ばした状態で腹圧の掛からない測定をすることが可能なタイプ(以降、スル−インタイプと呼ぶ)の電子血圧計が開発されている。このスルーインタイプの電子血圧計では、腕帯部内の空気袋に上腕を挿入して、その空気袋内に2つのポンプを用いて空気を供給し、そして空気の供給を停止してバルブを緩めながらマイクロフォンを用いて血管の脈波をマイクロフォンで取って最高血圧と最低血圧を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005―237427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したスル−インタイプの電子血圧計では、空気袋内に必要な空気容量を供給するために、2つのポンプが必要である。しかも、空気袋内には50秒以下で空気を供給して血圧を測定するためには、2つのポンプが必要である。
ところが、2つのポンプを同じ回転数で駆動しようとしても、2つのポンプの製造時のバラツキから、2つのポンプ間では回転数の差が生じることがある。2つのポンプ間での回転数の差により、2つのポンプ間ではビート(うなり)であるポンプ脈動が発生する。従って、2つのポンプを駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧しようとすると、2つのポンプ間でポンプ脈動が発生して、このポンプ脈動が血管の脈波に重畳してしまい、必要とする正確な血管の脈波が得られず、正確な血圧測定ができないおそれがある。
そこで、上記課題を解消するために、本発明は、2つのポンプを駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧しても、ポンプの脈動が血管の脈波に重畳することを防ぎ、正確な血管の脈波を得ることができる電子血圧計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電子血圧計は、測定者の上腕を挿入して血管を加圧するための空気袋と、前記空気袋内に空気を供給する第1ポンプと第2ポンプと、前記第1ポンプと前記第2ポンプを駆動する駆動部と、前記駆動部に指令を与えて、前記血管の脈波を検出する際に前記第1ポンプを回転駆動させ、前記第2ポンプを前記第1ポンプの回転数よりも低い回転数で駆動させる制御部と、前記第1ポンプの回転数と前記第2回転数との間の回転数差により生じるビートをカットするフィルタとを有することを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、2つのポンプを駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧しても、ポンプの脈動が血管の脈波に重畳することを防ぎ、正確な血管の脈波を得ることができる。
【0008】
本発明の電子血圧計では、前記空気袋内の空気の圧力が前記停止目標圧力に到達後、コロトコフ音(K音)を検出して最高血圧を検出し、前記コロトコフ音(K音)の消失により最低血圧を検出するためのマイクロフォンを有することを特徴とする。
上記構成によれば、マイクロフォンを用いて、コロトコフ音(K音)の検出と消失を用いて確実に最高血圧と最低血圧を検出できる。
【0009】
本発明の電子血圧計では、前記空気袋を保持する硬質の筒体を有する腕帯部と、前記第1ポンプと前記第2ポンプを有する血圧計本体と、を有し、前記腕帯部と前記血圧計本体とは別体に形成されていることを特徴とする。
上記構成によれば、血圧計本体の設置場所が測定者から離れていても、測定者が座位にて背を伸ばした状態で腹圧の掛からない測定をすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2つのポンプを駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧しても、ポンプの脈動が血管の脈波に重畳することがなく、正確な血管の脈波を得ることができる電子血圧計を提供することができるとともに、腕帯を持ち上げて腕を入れるだけの簡単操作で、お腹を圧迫することなくリラックスした正しい測定姿勢をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の電子血圧計の好ましい実施形態を前側から示す斜視図である。
【図2】電子血圧計を後側から示す斜視図である。
【図3】図3(A)は、電子血圧計の腕帯部と血圧計本体を分離した状態を示す斜視図であり、図3(B)は、腕帯部に測定者の上腕を挿入した状態を示す斜視図である。
【図4】腕帯部の構造例を示す斜視図である。
【図5】腕帯部の内部構造例を示す断面図である。
【図6】図6(A)は、外布と空気袋のユニットUTを示す斜視図であり、図6(B)は、このユニットUTを別の方向から見た斜視図であり、図6(C)は、ユニットUTを折りたたんだ状態を示す斜視図である。
【図7】図7(A)は、空気袋とマイクを示す斜視図であり、図7(B)は、空気袋と外布と内布カバーと、マイクを示す図である。
【図8】空気袋を形成するシート例を示す図である。
【図9】空気袋を形成する工程例を示す図である。
【図10】空気袋の内面が測定者の被測定面を当接している様子を示す図である。
【図11】電子血圧計のブロック構成図である。
【図12】圧力検出フィルタの例を示す図である。
【図13】ポンプの印加電圧と回転数の関係例を示す図である。
【図14】図14(A)は曲線MHと,脈波にポンプのうなりが重畳している波形WHを示し、図14(B)は脈波だけの波形THを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
図1は、本発明の電子血圧計の好ましい実施形態を前側から示す斜視図であり、図2は、この電子血圧計を後側から示す斜視図である。図3(A)は、電子血圧計の腕帯部と血圧計本体を分離した状態を示す斜視図であり、図3(B)は、腕帯部に測定者の上腕を挿入した状態を示す斜視図である。
図1〜図3に示す電子血圧計1は、自動電子血圧計ともいい、血圧計本体10から腕帯部2を分離でき、血圧計本体10の設置場所が測定者から離れていても、測定者は座位にて背を伸ばして腹圧の掛からない状態で測定が可能なタイプ(以下では、スル−インタイプと呼ぶ。)の電子血圧計である。この電子血圧計1は、血圧測定方式の一例としてリバロッチ・コロトコフ法が用いられ、コロトコフ音(K音)を検出して血圧測定を行う装置である。図1〜図3に示すように、電子血圧計1は、腕帯部2と、血圧計本体10を備える。腕帯部2と血圧計本体10は別体であり、図3に示すように腕帯部2が血圧計本体10に固定できるとともに、腕帯部2が血圧計本体10から分離可能に形成されている。
【0013】
図3(B)に示すように、この電子血圧計1は、測定者の上腕Tを腕帯部2の挿入開口11Pから、D1方向に沿って挿入して血圧を測定するスルーイン式の血圧計である。腕帯部2と血圧計本体10とは有線(電気信号線)3により電気的に接続され、しかも腕帯部2と血圧計本体10とがエアーの給排気路であるフレキシブルなチューブ4により接続されている。
【0014】
まず、図1〜図3を参照して、血圧計本体10の構造について説明する。
図1に示すように、血圧計本体10は、ケーシング30と表示部31を有している。ケーシング30は、例えばプラスチック製の薄型の内部空間を有する部材であり、傾斜した上面部32と、前端面部33と後端面部34と、側面部35,36と、底面部42を有している。
図1に示すように、ケーシング30の上面部32には、傾斜した表示部31が配置されており、測定者が表示部31の表示内容を容易に確認できるようになっている。ケーシング30には、測定開始操作部の一例としての開始/停止ボタン37と、メモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38と、モード選択ボタン39と、窪み部分40が設けられている。測定者が開始/停止ボタン37を押すことで、血圧測定操作の開始あるいは停止をするためのボタンである。
【0015】
図1において、時刻を設定する場合には、例えば、メモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38とモード選択ボタン39を同時に長押しすることで、操作・設定・入力機能として作用させることにより、表示部31には時刻設定画面が表示され、時刻設定画面に表示されている時刻は、メモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38で選択しながら設定することができる。
【0016】
また、図1において、例えばメモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38を押すことにより、過去の例えば100件の血圧測定記録を表示部31に表示できる。表示部31に表示される各件の最高血圧値、最低血圧値、脈拍数、日時が、メモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38を押す毎に順番に表示できる。
【0017】
図3に示すように、ケーシング30の上面部32の中央部分には、Y方向に沿って窪み部分40が形成されている。窪み部分40は、ケーシング30の中央部分から後端面部34にかけて形成されており、窪み部分40は半円形状部分40Pと長方形状部分40Rを有し、この窪み部分40の半円形状部分40Pの中央部には、円形状の開始/停止ボタン37が配置されている。窪み部分40の長方形状部分40Rには、溝部分41が形成されている。
【0018】
図3に示すように、ケーシング30には、窪み部分40の開始/停止ボタン37と溝部分41の付近にマグネット40Mが配置されている。このマグネット40Mは例えば長方形状の板状の永久磁石であるが、特に形状に限定されず、円形状あるいは楕円形状等であっても良い。また、マグネット40Mは、ケーシング30の外側に露出していても良い。
図3の窪み部分40と前端面部33の間には、表示部31がX方向に沿って配置されている。この表示部31は、例えば液晶表示装置を用いることができ、一例として図1に示すように、表示部31は、最高血圧値、最低血圧値、脈拍数、脈圧、測定動作中の表示マーク、電池交換の表示マーク等の各種の測定値等を表示することができる。
【0019】
図1と図2に示すように、測定者が血圧計本体10を持ち易いようにするために、側面部35,36は曲面状に形成されている。メモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38とモード選択ボタン39は、上面部32の表示部31の付近に配置されている。図1に示すように、ケーシング30の内部には、スピーカ43と、2つのポンプ(第1ポンプ)44とポンプ(第2ポンプ)45と、排気バルブ46と、制御バルブ47と、制御システムを含む回路基板48と、メモリ部69が配置されている。スピーカ43は、音声によるガイドや音楽によるガイドを出力するために設けられている。
【0020】
次に、図1〜図3と、図4と図5を参照して、腕帯部2の構造について説明する。
図4は、腕帯部2の構造例を示す斜視図である。図5は、腕帯部2の内部構造例を示す断面図である。
図3(B)に示すように、腕帯部2は、血圧測定時に測定者の上腕Tを挿入して圧迫するために、図1と図2に示すように上腕Tに差し込むことが可能な両端部が切れた略円筒状構造(筒状体)を有している。これにより、この腕帯部2は、通常の腕帯部と異なり測定者の上腕Tに対して巻き付ける必要が無く、左右のいずれの上腕Tへの挿入が可能で、測定者は容易に血圧測定ができる。
【0021】
図4と図5に示すように、腕帯部2は、硬質の本体ケース11と、空気袋(カフともいう)14と、外布16と、内布カバー17Cを有している。腕帯部2の総重量は330g〜410gが好ましく、高齢者の方でも片手で容易に操作できるように軽量化されている。
図4と図5に示す本体ケース11は、例えばプラスチックにより形成され略円筒状構造を有しており、開口部11Pと開口部11Rを有している。図1に示すように、本体ケース11は、D1方向に向かって先細りになるように形成され、開口部11Pの直径L1は開口部11Rの直径L2よりも大きい。例えば、L1は138mm〜142mm、L2は126mm〜130mmが好ましく、本体ケース11の厚みは、2〜3mmが好ましい。この寸法は、測定者の上腕挿入に適した寸法であり、本体ケース11は、およそ9割以上の一般の測定者の血圧測定に適合した形状となっている。また、本体ケース11は、開口部11R側に例えばほぼ扇型の把持部11Hを有している。
例えば、図5に示す左腕の上腕TをD1方向に挿入孔77に対して挿入し、あるいは逆方向に上腕Tを外す動作は、右手でこの把持部11Hを持って行うことができる。また、右腕の上腕TをD1方向に挿入穴77に挿入し、あるいは逆方向に上腕Tを外す動作は、左手でこの把持部11Hを持って行うことができる。これにより、測定者は左右いずれの上腕Tに対しても、腕帯部2の装着動作あるいは取り外し動作を容易に行うことができる。
【0022】
図1と図3に示すように、本体ケース11の下側部分には、磁気吸着用部材の一例としての磁気吸着用のプレート部材210が設けられている。このプレート部材210は、例えば金属板であり、本体ケース11の軸方向に沿って長くなるように形成され、血圧計本体10のマグネット40Mにより磁気的に吸着されるようになっている。このプレート部材210とマグネット40Mは、腕帯部2を血圧計本体10に固定(あるいは結合)するための固定手段250を構成している。
【0023】
この固定手段250は、腕帯部2を血圧計本体10から持ち上げる時に、血圧計本体10と腕帯部2との結合力が解除される程度の力を有している。これにより、測定者が血圧測定をしない場合には腕帯部2が血圧計本体10からは簡単に転がってしまうことがなく、また測定者が血圧測定をしようとする場合には、腕帯部2が血圧計本体10から取りづらくなるということが無くなる。これにより、腕帯部2が血圧計本体10と別体になっていても、使用勝手が良い。
さらに好ましくは、このマグネット40Mがプレート部材210を磁気的に吸着する力は、例えば血圧計本体10の重量を超えるように設定することができる。これにより、測定者が電子血圧計1を運ぶ際に、測定者が血圧計本体10を持たずに腕帯部2だけを持ち上げてしまった場合に、腕帯部2から血圧計本体10だけが不用意に落下することを防止できる。
【0024】
また、すでに説明したように、プレート部材210は、本体ケース11の軸方向に沿って長くなるように形成されているので、腕帯部2は、血圧計本体10に対して、磁気的吸引力を維持しながら、血圧計本体11の窪み部分40に沿ってY方向に移動可能である。これにより、測定者が腕帯部2を血圧計本体10に対して、磁気的吸引力を維持しながらY方向に移動できるので、腕帯部2が表示部31に被さった状態から腕帯部2を後退させて、表示部31が腕帯部2により見えなくなってしまうという不都合を解消できる。このため、測定者は表示部31の表示内容を容易に確認でき、使用勝手が向上する。
【0025】
さらに、図1に示すように、腕帯部2が血圧計本体10の窪み部分40に配置されている収納状態では、開始/停止ボタン37が腕帯部2の下部にある。つまり、腕帯部2が収納されている状態では、測定者は開始/停止ボタン37を押せないようになっている。そして、測定者が腕帯部2を血圧計本体10の窪み部分40から磁気的吸着力に抗して取り外せば、開始/停止ボタン37が露出するので、測定者はこの開始/停止ボタン37を押すことができる。
【0026】
図4と図5に示す空気袋14は、例えば、塩化ビニル,ウレタン、合成ゴム,天然ゴム等の伸縮性を有する材質で形成されている。空気袋14内へは、図1に示す血圧計本体10内の破線で示す第1ポンプ44と第2ポンプ45の作動により、チューブ4を通じてエアーを供給されることにより膨張することで上腕Tを圧迫する。空気袋14の内圧を一定速度で減圧するため、制御バルブ47により空気袋14内からエアーを徐々に外へ排気でき、測定を終了したときに、排気バルブ46により空気袋14内からエアーを外へ急排気できる。この空気袋14の詳しい構造については、後で説明する。
【0027】
図4と図5に示す外布16は、空気袋14の外側と本体ケース11の内側の間に配置され、変形可能で伸縮性が無い布部材である外側部材に相当する。図4と図5に示す内布カバー17Cは、カフリングともいい、空気袋14の内側を覆うことができ、この内布カバー17Cを配置することで、測定者は上腕をスムーズに挿入したり外したりできる。内布カバー17Cは、上述した空気袋14の内側に着脱可能に配置でき、伸縮性を有する布部分17Dと2つのO−リング状のリング部材17F、17Gを有している。布部分17Dは、長さ方向と円周方向にいずれにも伸縮可能なナイロン、スパンデックス等のすべり性のあるストレッチ素材で形成されている。
【0028】
図6(A)は、外布16と空気袋14のユニットUTを示す斜視図であり、図6(B)は、このユニットUTを別の方向から見た斜視図であり、図6(C)は、ユニットUTを折りたたんだ状態を示す斜視図である。
図6(A)と図6(B)に示すように、ユニットUTは4つに折り曲げてほぼ正方形断面の開口部Gを形成することができる。ユニットUTは4つの折り曲げ部分200を有していることにより、図6(C)に示すように簡単に折りたたむことができる構造である。
図7(A)は、空気袋14とマイクロフォンMを示す斜視図であり、図7(B)は、空気袋14と外布16と内布カバー17Cと、マイクロフォンMを示す図である。図7に示すように、2つのマイクロフォンMが空気袋14に取り付けられ、2つのマイクロフォンMは互いに向かい合っている。
【0029】
ここで、空気袋14の構造例を説明する。
図8は、空気袋14を形成するためのシート例を示している。
図8に示すシートSWは、ほぼ長方形状の例えば透明のプラスチックシートであり、伸縮性を備えていない例えばほぼ長方形状のプラスチック製のシート、一例としてポリウレタンシートにより形成されている。このシートSWは、フィルタ付き接続管220、コードフック221、4つの折れ線部分222、接合部分223,224、2つのマイクロフォン保持部225を有している。
接続管220は、図1に示すチューブ4の端部を接続する。コードフック221は、図1に示す有線3とチューブ4を掛ける。接合部分223,224は熱圧着により空気袋14を形成する。マイクロフォン保持部225はそれぞれマイクロフォンMを保持できる。シートSWは4つの折れ線部分222の部分で折り曲げることにより、図7に示す形状の空気袋14を形成できる。
【0030】
図9は、空気袋14を形成する工程例を示している。図10は、空気袋14の内面が測定者の被測定面HMを当接している様子を示す図である。
図9(A)に示すように、シートSWは、折り曲げ線226,227で折り曲げて,図9(B)に示すように接合部分223,224を接合する。そして、図9(C)に示すように、4つの折れ線部分222で折り曲げることで空気袋14が完成する。この空気袋14は、4つの側面部231,232,233,234を備える。
なお、図8(B)に示すように、この空気袋14内には、間隔をおいて3つのスペーサ240が配置されている。このスペーサ240は、弾性変形可能な直方体形状の部材であり、例えばプラスチックスポンジ等である。これにより、スペーサ240が配置されていることで、空気袋14が必要以上につぶれてしまうのを防止できる。
また、図8(B)と図10に示すように、空気袋14の幅Wは、好ましくは12cm以上である。空気袋14の内側が測定者の被測定面HMに対して少なくとも8cm以上当接していないと正しい血圧測定ができないので、8cm以上接しているためには、空気袋14の幅Wは12cm以上必要である。
【0031】
次に、図11は、図1の電子血圧計1のブロック構成図である。
図11に示す電子血圧計1の回路ブロックを説明する。電子血圧計1の回路ブロックを示している。電子血圧計1の回路ブロックの破線で示すように、血圧計本体10は、コロトコフ音(K音)検出システム50と、加圧システム51と、排気システム52と、圧力検出システム53と、電源システム54と、音声システム55と、制御システム56を有する。
【0032】
制御システム56は、表示部31の駆動部58と、タイマ59と、メモリ部69等を有する。表示部31の駆動部58は、表示部31を駆動制御して表示すべき項目を表示させる。メモリ部69は、制御システム56のCPU(中央処理部)により処理すべきプログラムが記憶されているROM(読み出し専用メモリ)である。タイマ59は、各種の動作の時間のカウントを行う。操作部57は、制御システム56に電気的に接続されており、すでに説明した開始/停止ボタン37と、メモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38と、モード選択ボタン39を有している。
【0033】
図11のコロトコフ音(K音)検出システム50は、腕帯部2の2つのマイクロフォンMと、K音検出回路部60と、ノイズセンサ15と、ノイズセンサ検出回路部61を有している。2つのマイクロフォンMは、K音検出回路部60を介して制御システム56に電気的に接続されている。図1に示すように、2つのマイクロフォンMは、開口部16に対して互いに対向した位置(上腕Tの動脈に近い位置と遠い位置)に配置されている。
【0034】
図11の2つのマイクロフォンMは、測定者の血流音(血管情報)を検知し、K音検出回路部60はこの血流音からK音を検出して制御システム56にK音信号を伝える。制御システム56は、入力されたK音信号からコロトコフ音と、このコロトコフ音の発生ポイントと、消滅ポイントを検出する。ノイズセンサ15は、外部からマイクロフォンMに入る振動ノイズを検知して、ノイズセンサ検出回路部61を介して制御システム56にノイズ信号を送る。これにより、制御システム56は、K音信号からノイズを除去することで、K音検出信号の精度を高めている。
【0035】
制御部としての制御システム56は、K音信号を検出する。すなわち、加圧して血管内の血流を止めた後に減圧し、再び血流が流れる時の最初のK音信号が検出された時点の圧力を最高血圧値に設定し、更に減圧を続けて血管の管路断面積が十分に拡がり、K音信号が検出されなくなったら、最後のK音信号が検出された時点の圧力を最低血圧値に設定する。また、制御システム56は、最高血圧値と最低血圧値から得られる血管脈動またはK音信号の出現間隔から脈拍数を演算する。
図11に示す圧力検出システム53は、配管部63と、圧力センサ64と、チューブ4を有している。圧力センサ64は、圧力検出フィルタ400と、アンプ65(ここではアンプ65は、フィルタ、積分A/D部も含んでいる)を介して制御システム56に電気的に接続されている。
図12は、圧力検出フィルタ400を示しており、圧力検出フィルタ400は、第1ポンプ44の回転数RV1と、第2ポンプ45の回転数RV2との差(RV1−RV2)により発生するビート(Hz)をカットするためのローパスフィルタ(L.P.F)である。これにより、第1ポンプ44と第2ポンプ45間では、ビート(うなり)であるポンプ脈動が発生する。従って、駆動部62が第1ポンプ44と第2ポンプ45を駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧しようとすると、第1ポンプ44と第2ポンプ45との間でビートであるポンプ脈動が発生して、このポンプ脈動が血管の脈波に重畳してしまい、必要とする正確な血管の脈波が得られず、正確な血圧測定ができないことを防止する。
図12に示す圧力検出フィルタ400は、抵抗R1、R2と、コンデンサC1、C2と、比較器401を有している。例えば、抵抗R1、R2の抵抗値は100kオーム、コンデンサC1の容量は0.47μF、コンデンサC2n容量は0.22μFである。この場合の圧力検出フィルタ400のカットオフ周波数は、f0=5.0Hzである。
【0036】
加圧システム51は、第1ポンプ44と第2ポンプ45と、第1ポンプ44と第2ポンプ45の駆動部62を有する。制御部としての制御システム56の指令により、例えば駆動部62は、第1ポンプ44をPWM(パルス幅制御)制御により回転数の駆動制御をするとともに、第2ポンプ45をPWM(パルス幅制御)制御により回転数の駆動制御をすることができる。このように、第1ポンプ44と第2ポンプ45は、駆動部62によりそれぞれ別々に駆動制御できるようになっている。
第1ポンプ44と第2ポンプ45は、圧力検出システム53の配管部63を通じて腕帯部2の空気袋14内に接続されている。
電子血圧計1では、腕帯部2内を第1ポンプ44と第2ポンプ45で加圧した後、微速度で排気して減圧しつつ圧力センサ64を用いて腕帯部2の空気袋内の圧力を検出すると同時に、マイクロフォンMを用いてコロトコフ音(K音)を検出する。そして、電子血圧計1は、K音信号と、このK音信号の発生ポイントと消滅ポイントを検出することで、最高血圧値と最低血圧値を算出して、算出した最高血圧値と最低血圧値を表示部31に表示できる。
【0037】
次に、排気システム52について説明する。排気システム52は、2つの駆動部66,67と、排気バルブ(強制排気部)46と、制御バルブ(減圧制御部)47を有する。排気バルブ46と制御バルブ47は配管部63の途中に配置されている。制御システム56が駆動部66に指令をすることで、排気バルブ46の開閉を行い、制御システム56が駆動部67に指令をすることで、制御バルブ47の開閉を行う。
【0038】
電源システム54は、電池68と、電源コントロール部69Cと、電源監視部70を有する。電池68は、繰り返して充電可能な例えばリチウムイオン電池であるが、特に種類は限定されず、乾電池等でも良い。電池68の電圧は、電源コントロール部69Cにより制御されて制御システム56に供給されるとともに、第1ポンプ44と第2ポンプ45の駆動電源、音声制御部71へ供給する電源でもある。電源監視部70は、電池68の残量等の監視を行う。また、ACアダプタを用いることで100Vの商用電源を用いることができる。
【0039】
音声システム55は、音声制御部71と、増幅部72を有している。音声制御部71と増幅部72は、制御システム56からの指令により制御される。音声制御部71は、制御システム56の指令により、音声によるガイダンスデータもしくは音楽データを増幅部72に送って増幅することで、スピーカ43は音声によるガイド用のアナウンスと音楽によるガイド用のアナウンスを発生することができる。
【0040】
次に、上述した電子血圧計1を用いて、血圧測定プログラムの手順に従って、血圧測定を行う例を説明する。
血圧測定プログラムでは、例えば通常モードM1、最高血圧モードM2、最低血圧モードM3を有する。以下に、これらのモードを順番に説明する。
(通常モードM1)
図1に示す腕帯部2の本体ケース11のプレート部材210は、すでに説明したように本体ケース11の軸方向に沿って長くなるように形成されており、腕帯部2は、このプレート部材210を用いて、血圧計本体10のマグネット40Mにより血圧計本体10の窪み部分40において磁気的に吸着して結合されている。図3に示すように、測定者は、この腕帯部2を血圧計本体10の窪み部分40から、マグネット40Mの磁気的吸引力に抗して持ち上げることで、腕帯部2を血圧計本体10の窪み部分40から容易に外すことができる。このように、測定者が血圧測定をする際には、腕帯部2を血圧計本体10から簡単に取り外すことができる。これにより、血圧計本体10の設置場所が測定者から離れていても、測定者は座位にて背を伸ばして腹圧の掛からない状態で容易に血圧測定ができる。
【0041】
好ましくは、このマグネット40Mがプレート部材210を磁気的に吸着する力は、例えば血圧計本体10の重量を超えるように設定することができる。これにより、測定者が電子血圧計1を運ぶ際に血圧計本体10を持たずに腕帯部2だけを持ち上げてしまった場合に、腕帯部2から血圧計本体10だけが不用意に落下することを防止できる。
図1に示すように、腕帯部2を血圧計本体10の窪み部分40に載置された場合に、開始/停止ボタン37は腕帯部2の下側に位置しており、測定者が腕帯部2を血圧計本体10の窪み部分40から持ち上げて外さないと、開始/停止ボタン37が外部に露出しないようになっている。これにより、測定者は、腕帯部2を持ち上げて上腕Tを通して測定しようとする状態になってから、開始/停止ボタン37を押すことができるので、測定しない時に不用意に開始/停止ボタン37を押してしまうといったことが無くなる。
【0042】
次に、測定者は把持部11Hを把持しながら例えば右の上腕を開口部11Pから開口部11Rにかけて挿入する。測定者が図1に示すモード選択ボタン39を押して通常モードM1を選択した場合には、測定者は図1の開始/停止ボタン37を押して血圧測定を開始する。図1の第1ポンプ44と第2ポンプ45が全速力で空気袋14を昇圧して、2つのマイクロフォンMが、測定者の血流音(血管情報)を検知して脈が消滅するまで全速力で腕帯部2内の空気袋14を昇圧する。制御システム56が脈の消失を判断したら腕帯部2内の昇圧を停止する。
そして、腕帯部2内を少しずつ減圧(例えば2〜5mmHg/秒)していき、最高血圧値と最低血圧値を検出する。最高血圧値と最低血圧値を図1の表示部31に表示して、ポンプ44,45と排気バルブ46を作動して腕帯部2内の空気袋14を急排気する。このように、最高血圧値と最低血圧値を表示部31に表示できた時点で、腕帯部2内の空気袋14を急排気することで、測定者の上腕に対する圧迫を即座に解消できるので、測定者への負担を軽減できる。
【0043】
(最高血圧モードM2)
また、測定者は把持部11Hを把持しながら例えば右の上腕を開口部11Pから開口部11Rにかけて挿入する。測定者が図1に示すモード選択ボタン39を押して最高血圧モードM2を選択した場合には、測定者は図1の開始/停止ボタン37を押して血圧測定を開始する。図1のポンプ44,45が全速力で空気袋14を昇圧して、2つのマイクロフォンMが、測定者の血流音を検知して脈が消滅するまで全速力で腕帯部2内の空気袋14を昇圧する。制御システム56が脈の消失を判断したら腕帯部2内の空気袋14の昇圧を停止する。
【0044】
そして、少しずつ減圧(例えば2〜5mmHg/秒)していき、図1のスピーカ43が腕帯部2内の空気袋14を減圧時のカフ値毎に、例えば10mmHg毎に圧力値を音声によりアナウンスし、最高血圧値だけを検出する。その後、図1のスピーカ43は最高血圧値と脈拍数を音声によるガイドでアナウンスして、第1ポンプ44と第2ポンプ45と排気バルブ46を作動して腕帯部2内の空気袋14を急排気する。これにより、最高血圧値と脈拍数を音声によるガイドでアナウンスしながら腕帯部2内を急排気することで、測定者の上腕に対する圧迫を即座に解消できるので、測定者への負担を軽減できる。
【0045】
(最低血圧モードM3)
また、測定者は把持部11Hを把持しながら例えば右の上腕を開口部11Pから開口部11Rにかけて挿入する。その後、測定者が図1に示すモード選択ボタン39を押して最低血圧モードM3を選択した場合には、測定者は図1の開始/停止ボタン37を押して血圧測定を開始する。少しずつ昇圧(例えば2〜5mmHg/秒)していき、図1のスピーカ43が腕帯部2内の空気袋14を昇圧時のカフ値毎に、例えば10mmHg毎に圧力値を音声アナウンスし、最低血圧値を検出する。その後、脈が消失したら昇圧を停止して、図3のスピーカ43が最低血圧値を音声によるガイドでアナウンスをするとともに、第1ポンプ44と第2ポンプ45と排気バルブ46を作動して腕帯部2内の空気袋14を急排気する。
【0046】
図13は、図11の駆動部62が第1ポンプ44と第2ポンプ45に印加する印加電圧と回転数の関係例を示している。例えば、具体的には、第1ポンプ44の全開時の回転数と第2ポンプ45の全開時の回転数は2340rpmであり、図13に示すように、2340rpmの時の終止電圧は3.6Vである。例えば第2ポンプ45が全開時の70%時の回転数は、1638rpmである。
【0047】
ところで、通常、第1ポンプ44と第2ポンプ45が同時に駆動される場合に、第1ポンプ44の回転数と第2ポンプ45の回転数に差が出ることがある。
例えば、第1ポンプ44と第2ポンプ45の間で、最も回転数に差が出る場合の例としては、第1ポンプ44を回転数2340rpmにより全開で回転させると、第1ポンプ44の回転数は実際には2340rpm×0.9=2106rpmとなり、第2ポンプ45を全開時の70%で回転された場合には、第2ポンプ45の回転数は実際には1638rpm×1.1=1801rpmとなる。
この倍率0.9と倍率1.1の値は、ポンプの製造上のばらつきを考慮しているためである。ポンプは、100%駆動させても、製造ばらつきにより最大±10%の回転数ばらつきがあることが実験等より明らかになっている。
【0048】
この第1ポンプ44の回転数2106rpmと、第2ポンプ45の回転数1801rpmの回転数差は、2106rpm−1801rpm=305rpmとなり、305rpmは周波数に変えると5.1Hzである。従って、この例では、第1ポンプ44と第2ポンプ45の回転数の差から、第1ポンプ44と第2ポンプ45の間には、5.1Hzのビートが発生することになる。
【0049】
図14(A)には、ポンプ加圧中に圧力センサが感知する圧力値の時間的変化を曲線MHで示している。図14(A)の右軸は圧力(mmHg)を100倍したスケールで表しており、曲線MHは、0mmHg付近から約200mmHgまでポンプ加圧による圧力上昇を示したものである。この曲線MH上には、人の上腕から伝わる脈波と2つのポンプを同じ回転数で駆動することで生じるうなり成分が重畳している。曲線MHに対して脈波とうなり成分は微小なため、図14(A)の右軸スケールでは曲線MH上に目視確認できない。このため、信号処理により曲線MHの傾き成分を除去し、図14(A)の左軸スケールで表したものが波形WHである。波形WHは心臓の拍動から生じ、人の上腕からカフを通じて伝わる脈波と2つのポンプによるうなり成分が重畳した波形である。図14(B)は、脈波(波形TH)だけを示したものである。図14(B)に示すように最高血圧以上に圧力が上昇すると血管が閉塞し、曲線MH上の脈波は消失(図14(B)の消失Sを参照)する。血圧計の処理手順では、この脈波の消失を確認することで、ポンプによる加圧を停止するが、図14(A)の波形WHのように、ポンプによるうなりが重畳することで、この消失が確認できないという問題が生じている。さらに、脈波とうなり成分は、その周波数成分が同じ帯域を含むため、人の上腕からカフを通じて伝わる脈波だけを波形WHから分離することが難しいという問題が生じている。
【0050】
そこで、すでに説明したように、図11と図12に示す圧力検出フィルタ400では、カットオフ周波数が、f0=5.0Hzに設定されているので、圧力検出フィルタ400は、この第1ポンプ44と第2ポンプ45の間に生じる5.1Hzのビートをカットすることができる。これにより、第1ポンプ44と第2ポンプ45を駆動して空気袋14内に空気を供給して上腕の血管を加圧しようとすると、第1ポンプ44と第2ポンプ45の間でポンプ脈動(ビート)が発生しても、圧力検出フィルタ400によりカットできるので、このポンプ脈動が血管の脈波に重畳することがなく、必要とする正確な血管の脈波が得られ、正確な最高血圧と最低血圧の測定ができる。
【0051】
なお、第2ポンプ45の回転数は、全開の回転数の70%で説明しているが、更に回転数のバラツキの余裕を見て、第2ポンプ45の回転数は、全開の回転数の60%まで落とすこともできる。この場合には、第1ポンプ44と第2ポンプ45の回転数差から9.4Hzのビートが発生するので、圧力検出フィルタ400のコンデンサC1とコンデンサC2の容量を変えることで、このビートをカットできるカットオフ周波数を設定する。
また、第1ポンプ44と第2ポンプ45により最初に空気袋14内に空気を送って加圧する際には、大きい加圧オーバーシュート(例えば10mmHg程度)が発生することがあるが、この加圧オーバーシュートの低減するためにも、第2ポンプ45の回転数を全開の回転数よりも落とすことが有効である。
【0052】
本発明の各実施形態の電子血圧計では、2つのポンプを駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧する際に、2つのポンプに回転数差により生じるビートの周波数に合わせてフィルタの周波数カットオフ値を設定することにより、ビートをカットできる。このため、ポンプ脈動が血管の脈波に重畳することがなく、正確な血管の脈波を得ることができる。
本発明の各実施形態の電子血圧計では、測定しようとする時には腕帯部が血圧計本体から簡単に取り外しできるようにする一方、血圧測定をしない時には腕帯部が血圧計本体から脱落しないように固定できる。このため、測定者は電子血圧計を用いて血圧測定をする際に使用勝手を向上できる。
【0053】
ところで、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変形例を採用することができる。例えば、図示例では、把持部11Hはほぼ扇型であるが、これに限らず任意の形状を採用できる。表示部31は、例えば液晶表示装置の他に、有機EL装置、蛍光表示装置等、特に種類は限定されない。
上述した本発明の実施形態では、電子血圧計は、血圧測定方式としてリバロッチ・コロトコフ法が用いられ、コロトコフ音(K音)を検出して血圧測定を行うようになっているが、圧脈波(オシロメトリック法)等の他の血圧測定方式を採用しても良い。
【符号の説明】
【0054】
1・・・電子血圧計、2・・・腕帯部、10・・・血圧計本体、11・・・本体ケース(硬質の筒体の一例)、・・・、11P、11R・・・開口部、16・・・外布、17C・・・内布カバー、44・・・第1ポンプ、45・・・第2ポンプ、50・・・コロトコフ音(K音)検出システム、51・・・加圧システム、52・・・排気システム、53・・・圧力検出システム、56・・・制御システム(制御部)、62・・・ポンプの駆動部、400・・・圧力検出フィルタ(フィルタ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子血圧計に関し、特に空気袋に空気を供給する2つのポンプを有する電子血圧計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機関で行われている高血圧治療向けの血圧測定において、白衣性高血圧症による擬似高血圧が問題にされている。この擬似高血圧症の原因としては、病院内での医師の前での緊張、不安等の精神面での不安定が考えられている。これに対して、精神的に安定している家庭にて一人で測定した血圧値に注目が集まっている。このため、この家庭血圧測定に用いる一人で測定するタイプの電子血圧計が注目されている。
このタイプの血圧計で測定上問題となるのが、腕帯部の腕への装着の仕方である。腕帯部内の空気袋の位置が上腕に対して適当でない場合や、上腕に対して巻き付け強さが適当でない場合に、腕帯部の空気袋の圧迫が上腕に正しく行われず、血圧が高く測定される場合がある。近年、これを解決するために、筒状の腕帯部に腕を挿入するだけで、自動的に腕帯部の空気袋を腕の正しい位置に配置し、正しい巻き付け強さにて血圧測定を行うことができるようにした血圧計本体と腕帯部を一体とした電子血圧計(以降、アームインタイプと呼ぶ)が開発されている(特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、使用者が上記アームインタイプの血圧計を使用すると、腕を挿入する腕帯部が血圧計本体と一体となっているので、血圧計本体の位置が測定者から離れていた場合には、測定者は前かがみ状態での測定となり易い。このため、測定者の腹部が圧迫されて腹圧が上昇し、その結果、血圧が上昇する現象が見られる場合がある。この血圧上昇を、新たな擬似高血圧症の発生として、指摘されている。
そこで、このような擬似高血圧症の発生という不都合に対応するために、血圧計本体から腕帯部が分離できて、血圧計本体の設置場所が測定者から離れていても、測定者が座位にて背を伸ばした状態で腹圧の掛からない測定をすることが可能なタイプ(以降、スル−インタイプと呼ぶ)の電子血圧計が開発されている。このスルーインタイプの電子血圧計では、腕帯部内の空気袋に上腕を挿入して、その空気袋内に2つのポンプを用いて空気を供給し、そして空気の供給を停止してバルブを緩めながらマイクロフォンを用いて血管の脈波をマイクロフォンで取って最高血圧と最低血圧を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005―237427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したスル−インタイプの電子血圧計では、空気袋内に必要な空気容量を供給するために、2つのポンプが必要である。しかも、空気袋内には50秒以下で空気を供給して血圧を測定するためには、2つのポンプが必要である。
ところが、2つのポンプを同じ回転数で駆動しようとしても、2つのポンプの製造時のバラツキから、2つのポンプ間では回転数の差が生じることがある。2つのポンプ間での回転数の差により、2つのポンプ間ではビート(うなり)であるポンプ脈動が発生する。従って、2つのポンプを駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧しようとすると、2つのポンプ間でポンプ脈動が発生して、このポンプ脈動が血管の脈波に重畳してしまい、必要とする正確な血管の脈波が得られず、正確な血圧測定ができないおそれがある。
そこで、上記課題を解消するために、本発明は、2つのポンプを駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧しても、ポンプの脈動が血管の脈波に重畳することを防ぎ、正確な血管の脈波を得ることができる電子血圧計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電子血圧計は、測定者の上腕を挿入して血管を加圧するための空気袋と、前記空気袋内に空気を供給する第1ポンプと第2ポンプと、前記第1ポンプと前記第2ポンプを駆動する駆動部と、前記駆動部に指令を与えて、前記血管の脈波を検出する際に前記第1ポンプを回転駆動させ、前記第2ポンプを前記第1ポンプの回転数よりも低い回転数で駆動させる制御部と、前記第1ポンプの回転数と前記第2回転数との間の回転数差により生じるビートをカットするフィルタとを有することを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、2つのポンプを駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧しても、ポンプの脈動が血管の脈波に重畳することを防ぎ、正確な血管の脈波を得ることができる。
【0008】
本発明の電子血圧計では、前記空気袋内の空気の圧力が前記停止目標圧力に到達後、コロトコフ音(K音)を検出して最高血圧を検出し、前記コロトコフ音(K音)の消失により最低血圧を検出するためのマイクロフォンを有することを特徴とする。
上記構成によれば、マイクロフォンを用いて、コロトコフ音(K音)の検出と消失を用いて確実に最高血圧と最低血圧を検出できる。
【0009】
本発明の電子血圧計では、前記空気袋を保持する硬質の筒体を有する腕帯部と、前記第1ポンプと前記第2ポンプを有する血圧計本体と、を有し、前記腕帯部と前記血圧計本体とは別体に形成されていることを特徴とする。
上記構成によれば、血圧計本体の設置場所が測定者から離れていても、測定者が座位にて背を伸ばした状態で腹圧の掛からない測定をすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、2つのポンプを駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧しても、ポンプの脈動が血管の脈波に重畳することがなく、正確な血管の脈波を得ることができる電子血圧計を提供することができるとともに、腕帯を持ち上げて腕を入れるだけの簡単操作で、お腹を圧迫することなくリラックスした正しい測定姿勢をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の電子血圧計の好ましい実施形態を前側から示す斜視図である。
【図2】電子血圧計を後側から示す斜視図である。
【図3】図3(A)は、電子血圧計の腕帯部と血圧計本体を分離した状態を示す斜視図であり、図3(B)は、腕帯部に測定者の上腕を挿入した状態を示す斜視図である。
【図4】腕帯部の構造例を示す斜視図である。
【図5】腕帯部の内部構造例を示す断面図である。
【図6】図6(A)は、外布と空気袋のユニットUTを示す斜視図であり、図6(B)は、このユニットUTを別の方向から見た斜視図であり、図6(C)は、ユニットUTを折りたたんだ状態を示す斜視図である。
【図7】図7(A)は、空気袋とマイクを示す斜視図であり、図7(B)は、空気袋と外布と内布カバーと、マイクを示す図である。
【図8】空気袋を形成するシート例を示す図である。
【図9】空気袋を形成する工程例を示す図である。
【図10】空気袋の内面が測定者の被測定面を当接している様子を示す図である。
【図11】電子血圧計のブロック構成図である。
【図12】圧力検出フィルタの例を示す図である。
【図13】ポンプの印加電圧と回転数の関係例を示す図である。
【図14】図14(A)は曲線MHと,脈波にポンプのうなりが重畳している波形WHを示し、図14(B)は脈波だけの波形THを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
図1は、本発明の電子血圧計の好ましい実施形態を前側から示す斜視図であり、図2は、この電子血圧計を後側から示す斜視図である。図3(A)は、電子血圧計の腕帯部と血圧計本体を分離した状態を示す斜視図であり、図3(B)は、腕帯部に測定者の上腕を挿入した状態を示す斜視図である。
図1〜図3に示す電子血圧計1は、自動電子血圧計ともいい、血圧計本体10から腕帯部2を分離でき、血圧計本体10の設置場所が測定者から離れていても、測定者は座位にて背を伸ばして腹圧の掛からない状態で測定が可能なタイプ(以下では、スル−インタイプと呼ぶ。)の電子血圧計である。この電子血圧計1は、血圧測定方式の一例としてリバロッチ・コロトコフ法が用いられ、コロトコフ音(K音)を検出して血圧測定を行う装置である。図1〜図3に示すように、電子血圧計1は、腕帯部2と、血圧計本体10を備える。腕帯部2と血圧計本体10は別体であり、図3に示すように腕帯部2が血圧計本体10に固定できるとともに、腕帯部2が血圧計本体10から分離可能に形成されている。
【0013】
図3(B)に示すように、この電子血圧計1は、測定者の上腕Tを腕帯部2の挿入開口11Pから、D1方向に沿って挿入して血圧を測定するスルーイン式の血圧計である。腕帯部2と血圧計本体10とは有線(電気信号線)3により電気的に接続され、しかも腕帯部2と血圧計本体10とがエアーの給排気路であるフレキシブルなチューブ4により接続されている。
【0014】
まず、図1〜図3を参照して、血圧計本体10の構造について説明する。
図1に示すように、血圧計本体10は、ケーシング30と表示部31を有している。ケーシング30は、例えばプラスチック製の薄型の内部空間を有する部材であり、傾斜した上面部32と、前端面部33と後端面部34と、側面部35,36と、底面部42を有している。
図1に示すように、ケーシング30の上面部32には、傾斜した表示部31が配置されており、測定者が表示部31の表示内容を容易に確認できるようになっている。ケーシング30には、測定開始操作部の一例としての開始/停止ボタン37と、メモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38と、モード選択ボタン39と、窪み部分40が設けられている。測定者が開始/停止ボタン37を押すことで、血圧測定操作の開始あるいは停止をするためのボタンである。
【0015】
図1において、時刻を設定する場合には、例えば、メモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38とモード選択ボタン39を同時に長押しすることで、操作・設定・入力機能として作用させることにより、表示部31には時刻設定画面が表示され、時刻設定画面に表示されている時刻は、メモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38で選択しながら設定することができる。
【0016】
また、図1において、例えばメモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38を押すことにより、過去の例えば100件の血圧測定記録を表示部31に表示できる。表示部31に表示される各件の最高血圧値、最低血圧値、脈拍数、日時が、メモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38を押す毎に順番に表示できる。
【0017】
図3に示すように、ケーシング30の上面部32の中央部分には、Y方向に沿って窪み部分40が形成されている。窪み部分40は、ケーシング30の中央部分から後端面部34にかけて形成されており、窪み部分40は半円形状部分40Pと長方形状部分40Rを有し、この窪み部分40の半円形状部分40Pの中央部には、円形状の開始/停止ボタン37が配置されている。窪み部分40の長方形状部分40Rには、溝部分41が形成されている。
【0018】
図3に示すように、ケーシング30には、窪み部分40の開始/停止ボタン37と溝部分41の付近にマグネット40Mが配置されている。このマグネット40Mは例えば長方形状の板状の永久磁石であるが、特に形状に限定されず、円形状あるいは楕円形状等であっても良い。また、マグネット40Mは、ケーシング30の外側に露出していても良い。
図3の窪み部分40と前端面部33の間には、表示部31がX方向に沿って配置されている。この表示部31は、例えば液晶表示装置を用いることができ、一例として図1に示すように、表示部31は、最高血圧値、最低血圧値、脈拍数、脈圧、測定動作中の表示マーク、電池交換の表示マーク等の各種の測定値等を表示することができる。
【0019】
図1と図2に示すように、測定者が血圧計本体10を持ち易いようにするために、側面部35,36は曲面状に形成されている。メモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38とモード選択ボタン39は、上面部32の表示部31の付近に配置されている。図1に示すように、ケーシング30の内部には、スピーカ43と、2つのポンプ(第1ポンプ)44とポンプ(第2ポンプ)45と、排気バルブ46と、制御バルブ47と、制御システムを含む回路基板48と、メモリ部69が配置されている。スピーカ43は、音声によるガイドや音楽によるガイドを出力するために設けられている。
【0020】
次に、図1〜図3と、図4と図5を参照して、腕帯部2の構造について説明する。
図4は、腕帯部2の構造例を示す斜視図である。図5は、腕帯部2の内部構造例を示す断面図である。
図3(B)に示すように、腕帯部2は、血圧測定時に測定者の上腕Tを挿入して圧迫するために、図1と図2に示すように上腕Tに差し込むことが可能な両端部が切れた略円筒状構造(筒状体)を有している。これにより、この腕帯部2は、通常の腕帯部と異なり測定者の上腕Tに対して巻き付ける必要が無く、左右のいずれの上腕Tへの挿入が可能で、測定者は容易に血圧測定ができる。
【0021】
図4と図5に示すように、腕帯部2は、硬質の本体ケース11と、空気袋(カフともいう)14と、外布16と、内布カバー17Cを有している。腕帯部2の総重量は330g〜410gが好ましく、高齢者の方でも片手で容易に操作できるように軽量化されている。
図4と図5に示す本体ケース11は、例えばプラスチックにより形成され略円筒状構造を有しており、開口部11Pと開口部11Rを有している。図1に示すように、本体ケース11は、D1方向に向かって先細りになるように形成され、開口部11Pの直径L1は開口部11Rの直径L2よりも大きい。例えば、L1は138mm〜142mm、L2は126mm〜130mmが好ましく、本体ケース11の厚みは、2〜3mmが好ましい。この寸法は、測定者の上腕挿入に適した寸法であり、本体ケース11は、およそ9割以上の一般の測定者の血圧測定に適合した形状となっている。また、本体ケース11は、開口部11R側に例えばほぼ扇型の把持部11Hを有している。
例えば、図5に示す左腕の上腕TをD1方向に挿入孔77に対して挿入し、あるいは逆方向に上腕Tを外す動作は、右手でこの把持部11Hを持って行うことができる。また、右腕の上腕TをD1方向に挿入穴77に挿入し、あるいは逆方向に上腕Tを外す動作は、左手でこの把持部11Hを持って行うことができる。これにより、測定者は左右いずれの上腕Tに対しても、腕帯部2の装着動作あるいは取り外し動作を容易に行うことができる。
【0022】
図1と図3に示すように、本体ケース11の下側部分には、磁気吸着用部材の一例としての磁気吸着用のプレート部材210が設けられている。このプレート部材210は、例えば金属板であり、本体ケース11の軸方向に沿って長くなるように形成され、血圧計本体10のマグネット40Mにより磁気的に吸着されるようになっている。このプレート部材210とマグネット40Mは、腕帯部2を血圧計本体10に固定(あるいは結合)するための固定手段250を構成している。
【0023】
この固定手段250は、腕帯部2を血圧計本体10から持ち上げる時に、血圧計本体10と腕帯部2との結合力が解除される程度の力を有している。これにより、測定者が血圧測定をしない場合には腕帯部2が血圧計本体10からは簡単に転がってしまうことがなく、また測定者が血圧測定をしようとする場合には、腕帯部2が血圧計本体10から取りづらくなるということが無くなる。これにより、腕帯部2が血圧計本体10と別体になっていても、使用勝手が良い。
さらに好ましくは、このマグネット40Mがプレート部材210を磁気的に吸着する力は、例えば血圧計本体10の重量を超えるように設定することができる。これにより、測定者が電子血圧計1を運ぶ際に、測定者が血圧計本体10を持たずに腕帯部2だけを持ち上げてしまった場合に、腕帯部2から血圧計本体10だけが不用意に落下することを防止できる。
【0024】
また、すでに説明したように、プレート部材210は、本体ケース11の軸方向に沿って長くなるように形成されているので、腕帯部2は、血圧計本体10に対して、磁気的吸引力を維持しながら、血圧計本体11の窪み部分40に沿ってY方向に移動可能である。これにより、測定者が腕帯部2を血圧計本体10に対して、磁気的吸引力を維持しながらY方向に移動できるので、腕帯部2が表示部31に被さった状態から腕帯部2を後退させて、表示部31が腕帯部2により見えなくなってしまうという不都合を解消できる。このため、測定者は表示部31の表示内容を容易に確認でき、使用勝手が向上する。
【0025】
さらに、図1に示すように、腕帯部2が血圧計本体10の窪み部分40に配置されている収納状態では、開始/停止ボタン37が腕帯部2の下部にある。つまり、腕帯部2が収納されている状態では、測定者は開始/停止ボタン37を押せないようになっている。そして、測定者が腕帯部2を血圧計本体10の窪み部分40から磁気的吸着力に抗して取り外せば、開始/停止ボタン37が露出するので、測定者はこの開始/停止ボタン37を押すことができる。
【0026】
図4と図5に示す空気袋14は、例えば、塩化ビニル,ウレタン、合成ゴム,天然ゴム等の伸縮性を有する材質で形成されている。空気袋14内へは、図1に示す血圧計本体10内の破線で示す第1ポンプ44と第2ポンプ45の作動により、チューブ4を通じてエアーを供給されることにより膨張することで上腕Tを圧迫する。空気袋14の内圧を一定速度で減圧するため、制御バルブ47により空気袋14内からエアーを徐々に外へ排気でき、測定を終了したときに、排気バルブ46により空気袋14内からエアーを外へ急排気できる。この空気袋14の詳しい構造については、後で説明する。
【0027】
図4と図5に示す外布16は、空気袋14の外側と本体ケース11の内側の間に配置され、変形可能で伸縮性が無い布部材である外側部材に相当する。図4と図5に示す内布カバー17Cは、カフリングともいい、空気袋14の内側を覆うことができ、この内布カバー17Cを配置することで、測定者は上腕をスムーズに挿入したり外したりできる。内布カバー17Cは、上述した空気袋14の内側に着脱可能に配置でき、伸縮性を有する布部分17Dと2つのO−リング状のリング部材17F、17Gを有している。布部分17Dは、長さ方向と円周方向にいずれにも伸縮可能なナイロン、スパンデックス等のすべり性のあるストレッチ素材で形成されている。
【0028】
図6(A)は、外布16と空気袋14のユニットUTを示す斜視図であり、図6(B)は、このユニットUTを別の方向から見た斜視図であり、図6(C)は、ユニットUTを折りたたんだ状態を示す斜視図である。
図6(A)と図6(B)に示すように、ユニットUTは4つに折り曲げてほぼ正方形断面の開口部Gを形成することができる。ユニットUTは4つの折り曲げ部分200を有していることにより、図6(C)に示すように簡単に折りたたむことができる構造である。
図7(A)は、空気袋14とマイクロフォンMを示す斜視図であり、図7(B)は、空気袋14と外布16と内布カバー17Cと、マイクロフォンMを示す図である。図7に示すように、2つのマイクロフォンMが空気袋14に取り付けられ、2つのマイクロフォンMは互いに向かい合っている。
【0029】
ここで、空気袋14の構造例を説明する。
図8は、空気袋14を形成するためのシート例を示している。
図8に示すシートSWは、ほぼ長方形状の例えば透明のプラスチックシートであり、伸縮性を備えていない例えばほぼ長方形状のプラスチック製のシート、一例としてポリウレタンシートにより形成されている。このシートSWは、フィルタ付き接続管220、コードフック221、4つの折れ線部分222、接合部分223,224、2つのマイクロフォン保持部225を有している。
接続管220は、図1に示すチューブ4の端部を接続する。コードフック221は、図1に示す有線3とチューブ4を掛ける。接合部分223,224は熱圧着により空気袋14を形成する。マイクロフォン保持部225はそれぞれマイクロフォンMを保持できる。シートSWは4つの折れ線部分222の部分で折り曲げることにより、図7に示す形状の空気袋14を形成できる。
【0030】
図9は、空気袋14を形成する工程例を示している。図10は、空気袋14の内面が測定者の被測定面HMを当接している様子を示す図である。
図9(A)に示すように、シートSWは、折り曲げ線226,227で折り曲げて,図9(B)に示すように接合部分223,224を接合する。そして、図9(C)に示すように、4つの折れ線部分222で折り曲げることで空気袋14が完成する。この空気袋14は、4つの側面部231,232,233,234を備える。
なお、図8(B)に示すように、この空気袋14内には、間隔をおいて3つのスペーサ240が配置されている。このスペーサ240は、弾性変形可能な直方体形状の部材であり、例えばプラスチックスポンジ等である。これにより、スペーサ240が配置されていることで、空気袋14が必要以上につぶれてしまうのを防止できる。
また、図8(B)と図10に示すように、空気袋14の幅Wは、好ましくは12cm以上である。空気袋14の内側が測定者の被測定面HMに対して少なくとも8cm以上当接していないと正しい血圧測定ができないので、8cm以上接しているためには、空気袋14の幅Wは12cm以上必要である。
【0031】
次に、図11は、図1の電子血圧計1のブロック構成図である。
図11に示す電子血圧計1の回路ブロックを説明する。電子血圧計1の回路ブロックを示している。電子血圧計1の回路ブロックの破線で示すように、血圧計本体10は、コロトコフ音(K音)検出システム50と、加圧システム51と、排気システム52と、圧力検出システム53と、電源システム54と、音声システム55と、制御システム56を有する。
【0032】
制御システム56は、表示部31の駆動部58と、タイマ59と、メモリ部69等を有する。表示部31の駆動部58は、表示部31を駆動制御して表示すべき項目を表示させる。メモリ部69は、制御システム56のCPU(中央処理部)により処理すべきプログラムが記憶されているROM(読み出し専用メモリ)である。タイマ59は、各種の動作の時間のカウントを行う。操作部57は、制御システム56に電気的に接続されており、すでに説明した開始/停止ボタン37と、メモリ呼び出し・時刻・アラーム設定ボタン38と、モード選択ボタン39を有している。
【0033】
図11のコロトコフ音(K音)検出システム50は、腕帯部2の2つのマイクロフォンMと、K音検出回路部60と、ノイズセンサ15と、ノイズセンサ検出回路部61を有している。2つのマイクロフォンMは、K音検出回路部60を介して制御システム56に電気的に接続されている。図1に示すように、2つのマイクロフォンMは、開口部16に対して互いに対向した位置(上腕Tの動脈に近い位置と遠い位置)に配置されている。
【0034】
図11の2つのマイクロフォンMは、測定者の血流音(血管情報)を検知し、K音検出回路部60はこの血流音からK音を検出して制御システム56にK音信号を伝える。制御システム56は、入力されたK音信号からコロトコフ音と、このコロトコフ音の発生ポイントと、消滅ポイントを検出する。ノイズセンサ15は、外部からマイクロフォンMに入る振動ノイズを検知して、ノイズセンサ検出回路部61を介して制御システム56にノイズ信号を送る。これにより、制御システム56は、K音信号からノイズを除去することで、K音検出信号の精度を高めている。
【0035】
制御部としての制御システム56は、K音信号を検出する。すなわち、加圧して血管内の血流を止めた後に減圧し、再び血流が流れる時の最初のK音信号が検出された時点の圧力を最高血圧値に設定し、更に減圧を続けて血管の管路断面積が十分に拡がり、K音信号が検出されなくなったら、最後のK音信号が検出された時点の圧力を最低血圧値に設定する。また、制御システム56は、最高血圧値と最低血圧値から得られる血管脈動またはK音信号の出現間隔から脈拍数を演算する。
図11に示す圧力検出システム53は、配管部63と、圧力センサ64と、チューブ4を有している。圧力センサ64は、圧力検出フィルタ400と、アンプ65(ここではアンプ65は、フィルタ、積分A/D部も含んでいる)を介して制御システム56に電気的に接続されている。
図12は、圧力検出フィルタ400を示しており、圧力検出フィルタ400は、第1ポンプ44の回転数RV1と、第2ポンプ45の回転数RV2との差(RV1−RV2)により発生するビート(Hz)をカットするためのローパスフィルタ(L.P.F)である。これにより、第1ポンプ44と第2ポンプ45間では、ビート(うなり)であるポンプ脈動が発生する。従って、駆動部62が第1ポンプ44と第2ポンプ45を駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧しようとすると、第1ポンプ44と第2ポンプ45との間でビートであるポンプ脈動が発生して、このポンプ脈動が血管の脈波に重畳してしまい、必要とする正確な血管の脈波が得られず、正確な血圧測定ができないことを防止する。
図12に示す圧力検出フィルタ400は、抵抗R1、R2と、コンデンサC1、C2と、比較器401を有している。例えば、抵抗R1、R2の抵抗値は100kオーム、コンデンサC1の容量は0.47μF、コンデンサC2n容量は0.22μFである。この場合の圧力検出フィルタ400のカットオフ周波数は、f0=5.0Hzである。
【0036】
加圧システム51は、第1ポンプ44と第2ポンプ45と、第1ポンプ44と第2ポンプ45の駆動部62を有する。制御部としての制御システム56の指令により、例えば駆動部62は、第1ポンプ44をPWM(パルス幅制御)制御により回転数の駆動制御をするとともに、第2ポンプ45をPWM(パルス幅制御)制御により回転数の駆動制御をすることができる。このように、第1ポンプ44と第2ポンプ45は、駆動部62によりそれぞれ別々に駆動制御できるようになっている。
第1ポンプ44と第2ポンプ45は、圧力検出システム53の配管部63を通じて腕帯部2の空気袋14内に接続されている。
電子血圧計1では、腕帯部2内を第1ポンプ44と第2ポンプ45で加圧した後、微速度で排気して減圧しつつ圧力センサ64を用いて腕帯部2の空気袋内の圧力を検出すると同時に、マイクロフォンMを用いてコロトコフ音(K音)を検出する。そして、電子血圧計1は、K音信号と、このK音信号の発生ポイントと消滅ポイントを検出することで、最高血圧値と最低血圧値を算出して、算出した最高血圧値と最低血圧値を表示部31に表示できる。
【0037】
次に、排気システム52について説明する。排気システム52は、2つの駆動部66,67と、排気バルブ(強制排気部)46と、制御バルブ(減圧制御部)47を有する。排気バルブ46と制御バルブ47は配管部63の途中に配置されている。制御システム56が駆動部66に指令をすることで、排気バルブ46の開閉を行い、制御システム56が駆動部67に指令をすることで、制御バルブ47の開閉を行う。
【0038】
電源システム54は、電池68と、電源コントロール部69Cと、電源監視部70を有する。電池68は、繰り返して充電可能な例えばリチウムイオン電池であるが、特に種類は限定されず、乾電池等でも良い。電池68の電圧は、電源コントロール部69Cにより制御されて制御システム56に供給されるとともに、第1ポンプ44と第2ポンプ45の駆動電源、音声制御部71へ供給する電源でもある。電源監視部70は、電池68の残量等の監視を行う。また、ACアダプタを用いることで100Vの商用電源を用いることができる。
【0039】
音声システム55は、音声制御部71と、増幅部72を有している。音声制御部71と増幅部72は、制御システム56からの指令により制御される。音声制御部71は、制御システム56の指令により、音声によるガイダンスデータもしくは音楽データを増幅部72に送って増幅することで、スピーカ43は音声によるガイド用のアナウンスと音楽によるガイド用のアナウンスを発生することができる。
【0040】
次に、上述した電子血圧計1を用いて、血圧測定プログラムの手順に従って、血圧測定を行う例を説明する。
血圧測定プログラムでは、例えば通常モードM1、最高血圧モードM2、最低血圧モードM3を有する。以下に、これらのモードを順番に説明する。
(通常モードM1)
図1に示す腕帯部2の本体ケース11のプレート部材210は、すでに説明したように本体ケース11の軸方向に沿って長くなるように形成されており、腕帯部2は、このプレート部材210を用いて、血圧計本体10のマグネット40Mにより血圧計本体10の窪み部分40において磁気的に吸着して結合されている。図3に示すように、測定者は、この腕帯部2を血圧計本体10の窪み部分40から、マグネット40Mの磁気的吸引力に抗して持ち上げることで、腕帯部2を血圧計本体10の窪み部分40から容易に外すことができる。このように、測定者が血圧測定をする際には、腕帯部2を血圧計本体10から簡単に取り外すことができる。これにより、血圧計本体10の設置場所が測定者から離れていても、測定者は座位にて背を伸ばして腹圧の掛からない状態で容易に血圧測定ができる。
【0041】
好ましくは、このマグネット40Mがプレート部材210を磁気的に吸着する力は、例えば血圧計本体10の重量を超えるように設定することができる。これにより、測定者が電子血圧計1を運ぶ際に血圧計本体10を持たずに腕帯部2だけを持ち上げてしまった場合に、腕帯部2から血圧計本体10だけが不用意に落下することを防止できる。
図1に示すように、腕帯部2を血圧計本体10の窪み部分40に載置された場合に、開始/停止ボタン37は腕帯部2の下側に位置しており、測定者が腕帯部2を血圧計本体10の窪み部分40から持ち上げて外さないと、開始/停止ボタン37が外部に露出しないようになっている。これにより、測定者は、腕帯部2を持ち上げて上腕Tを通して測定しようとする状態になってから、開始/停止ボタン37を押すことができるので、測定しない時に不用意に開始/停止ボタン37を押してしまうといったことが無くなる。
【0042】
次に、測定者は把持部11Hを把持しながら例えば右の上腕を開口部11Pから開口部11Rにかけて挿入する。測定者が図1に示すモード選択ボタン39を押して通常モードM1を選択した場合には、測定者は図1の開始/停止ボタン37を押して血圧測定を開始する。図1の第1ポンプ44と第2ポンプ45が全速力で空気袋14を昇圧して、2つのマイクロフォンMが、測定者の血流音(血管情報)を検知して脈が消滅するまで全速力で腕帯部2内の空気袋14を昇圧する。制御システム56が脈の消失を判断したら腕帯部2内の昇圧を停止する。
そして、腕帯部2内を少しずつ減圧(例えば2〜5mmHg/秒)していき、最高血圧値と最低血圧値を検出する。最高血圧値と最低血圧値を図1の表示部31に表示して、ポンプ44,45と排気バルブ46を作動して腕帯部2内の空気袋14を急排気する。このように、最高血圧値と最低血圧値を表示部31に表示できた時点で、腕帯部2内の空気袋14を急排気することで、測定者の上腕に対する圧迫を即座に解消できるので、測定者への負担を軽減できる。
【0043】
(最高血圧モードM2)
また、測定者は把持部11Hを把持しながら例えば右の上腕を開口部11Pから開口部11Rにかけて挿入する。測定者が図1に示すモード選択ボタン39を押して最高血圧モードM2を選択した場合には、測定者は図1の開始/停止ボタン37を押して血圧測定を開始する。図1のポンプ44,45が全速力で空気袋14を昇圧して、2つのマイクロフォンMが、測定者の血流音を検知して脈が消滅するまで全速力で腕帯部2内の空気袋14を昇圧する。制御システム56が脈の消失を判断したら腕帯部2内の空気袋14の昇圧を停止する。
【0044】
そして、少しずつ減圧(例えば2〜5mmHg/秒)していき、図1のスピーカ43が腕帯部2内の空気袋14を減圧時のカフ値毎に、例えば10mmHg毎に圧力値を音声によりアナウンスし、最高血圧値だけを検出する。その後、図1のスピーカ43は最高血圧値と脈拍数を音声によるガイドでアナウンスして、第1ポンプ44と第2ポンプ45と排気バルブ46を作動して腕帯部2内の空気袋14を急排気する。これにより、最高血圧値と脈拍数を音声によるガイドでアナウンスしながら腕帯部2内を急排気することで、測定者の上腕に対する圧迫を即座に解消できるので、測定者への負担を軽減できる。
【0045】
(最低血圧モードM3)
また、測定者は把持部11Hを把持しながら例えば右の上腕を開口部11Pから開口部11Rにかけて挿入する。その後、測定者が図1に示すモード選択ボタン39を押して最低血圧モードM3を選択した場合には、測定者は図1の開始/停止ボタン37を押して血圧測定を開始する。少しずつ昇圧(例えば2〜5mmHg/秒)していき、図1のスピーカ43が腕帯部2内の空気袋14を昇圧時のカフ値毎に、例えば10mmHg毎に圧力値を音声アナウンスし、最低血圧値を検出する。その後、脈が消失したら昇圧を停止して、図3のスピーカ43が最低血圧値を音声によるガイドでアナウンスをするとともに、第1ポンプ44と第2ポンプ45と排気バルブ46を作動して腕帯部2内の空気袋14を急排気する。
【0046】
図13は、図11の駆動部62が第1ポンプ44と第2ポンプ45に印加する印加電圧と回転数の関係例を示している。例えば、具体的には、第1ポンプ44の全開時の回転数と第2ポンプ45の全開時の回転数は2340rpmであり、図13に示すように、2340rpmの時の終止電圧は3.6Vである。例えば第2ポンプ45が全開時の70%時の回転数は、1638rpmである。
【0047】
ところで、通常、第1ポンプ44と第2ポンプ45が同時に駆動される場合に、第1ポンプ44の回転数と第2ポンプ45の回転数に差が出ることがある。
例えば、第1ポンプ44と第2ポンプ45の間で、最も回転数に差が出る場合の例としては、第1ポンプ44を回転数2340rpmにより全開で回転させると、第1ポンプ44の回転数は実際には2340rpm×0.9=2106rpmとなり、第2ポンプ45を全開時の70%で回転された場合には、第2ポンプ45の回転数は実際には1638rpm×1.1=1801rpmとなる。
この倍率0.9と倍率1.1の値は、ポンプの製造上のばらつきを考慮しているためである。ポンプは、100%駆動させても、製造ばらつきにより最大±10%の回転数ばらつきがあることが実験等より明らかになっている。
【0048】
この第1ポンプ44の回転数2106rpmと、第2ポンプ45の回転数1801rpmの回転数差は、2106rpm−1801rpm=305rpmとなり、305rpmは周波数に変えると5.1Hzである。従って、この例では、第1ポンプ44と第2ポンプ45の回転数の差から、第1ポンプ44と第2ポンプ45の間には、5.1Hzのビートが発生することになる。
【0049】
図14(A)には、ポンプ加圧中に圧力センサが感知する圧力値の時間的変化を曲線MHで示している。図14(A)の右軸は圧力(mmHg)を100倍したスケールで表しており、曲線MHは、0mmHg付近から約200mmHgまでポンプ加圧による圧力上昇を示したものである。この曲線MH上には、人の上腕から伝わる脈波と2つのポンプを同じ回転数で駆動することで生じるうなり成分が重畳している。曲線MHに対して脈波とうなり成分は微小なため、図14(A)の右軸スケールでは曲線MH上に目視確認できない。このため、信号処理により曲線MHの傾き成分を除去し、図14(A)の左軸スケールで表したものが波形WHである。波形WHは心臓の拍動から生じ、人の上腕からカフを通じて伝わる脈波と2つのポンプによるうなり成分が重畳した波形である。図14(B)は、脈波(波形TH)だけを示したものである。図14(B)に示すように最高血圧以上に圧力が上昇すると血管が閉塞し、曲線MH上の脈波は消失(図14(B)の消失Sを参照)する。血圧計の処理手順では、この脈波の消失を確認することで、ポンプによる加圧を停止するが、図14(A)の波形WHのように、ポンプによるうなりが重畳することで、この消失が確認できないという問題が生じている。さらに、脈波とうなり成分は、その周波数成分が同じ帯域を含むため、人の上腕からカフを通じて伝わる脈波だけを波形WHから分離することが難しいという問題が生じている。
【0050】
そこで、すでに説明したように、図11と図12に示す圧力検出フィルタ400では、カットオフ周波数が、f0=5.0Hzに設定されているので、圧力検出フィルタ400は、この第1ポンプ44と第2ポンプ45の間に生じる5.1Hzのビートをカットすることができる。これにより、第1ポンプ44と第2ポンプ45を駆動して空気袋14内に空気を供給して上腕の血管を加圧しようとすると、第1ポンプ44と第2ポンプ45の間でポンプ脈動(ビート)が発生しても、圧力検出フィルタ400によりカットできるので、このポンプ脈動が血管の脈波に重畳することがなく、必要とする正確な血管の脈波が得られ、正確な最高血圧と最低血圧の測定ができる。
【0051】
なお、第2ポンプ45の回転数は、全開の回転数の70%で説明しているが、更に回転数のバラツキの余裕を見て、第2ポンプ45の回転数は、全開の回転数の60%まで落とすこともできる。この場合には、第1ポンプ44と第2ポンプ45の回転数差から9.4Hzのビートが発生するので、圧力検出フィルタ400のコンデンサC1とコンデンサC2の容量を変えることで、このビートをカットできるカットオフ周波数を設定する。
また、第1ポンプ44と第2ポンプ45により最初に空気袋14内に空気を送って加圧する際には、大きい加圧オーバーシュート(例えば10mmHg程度)が発生することがあるが、この加圧オーバーシュートの低減するためにも、第2ポンプ45の回転数を全開の回転数よりも落とすことが有効である。
【0052】
本発明の各実施形態の電子血圧計では、2つのポンプを駆動して空気袋内に空気を供給して上腕の血管を加圧する際に、2つのポンプに回転数差により生じるビートの周波数に合わせてフィルタの周波数カットオフ値を設定することにより、ビートをカットできる。このため、ポンプ脈動が血管の脈波に重畳することがなく、正確な血管の脈波を得ることができる。
本発明の各実施形態の電子血圧計では、測定しようとする時には腕帯部が血圧計本体から簡単に取り外しできるようにする一方、血圧測定をしない時には腕帯部が血圧計本体から脱落しないように固定できる。このため、測定者は電子血圧計を用いて血圧測定をする際に使用勝手を向上できる。
【0053】
ところで、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変形例を採用することができる。例えば、図示例では、把持部11Hはほぼ扇型であるが、これに限らず任意の形状を採用できる。表示部31は、例えば液晶表示装置の他に、有機EL装置、蛍光表示装置等、特に種類は限定されない。
上述した本発明の実施形態では、電子血圧計は、血圧測定方式としてリバロッチ・コロトコフ法が用いられ、コロトコフ音(K音)を検出して血圧測定を行うようになっているが、圧脈波(オシロメトリック法)等の他の血圧測定方式を採用しても良い。
【符号の説明】
【0054】
1・・・電子血圧計、2・・・腕帯部、10・・・血圧計本体、11・・・本体ケース(硬質の筒体の一例)、・・・、11P、11R・・・開口部、16・・・外布、17C・・・内布カバー、44・・・第1ポンプ、45・・・第2ポンプ、50・・・コロトコフ音(K音)検出システム、51・・・加圧システム、52・・・排気システム、53・・・圧力検出システム、56・・・制御システム(制御部)、62・・・ポンプの駆動部、400・・・圧力検出フィルタ(フィルタ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定者の上腕を挿入して血管を加圧するための空気袋と、
前記空気袋内に空気を供給する第1ポンプと第2ポンプと、
前記第1ポンプと前記第2ポンプを駆動する駆動部と、
前記駆動部に指令を与えて、前記血管の脈波を検出する際に前記第1ポンプを回転駆動させ、前記第2ポンプを前記第1ポンプの回転数よりも低い回転数で駆動させる制御部と、
前記第1ポンプの回転数と前記第2回転数との間の回転数差により生じるビートをカットするフィルタと
を有することを特徴とする電子血圧計。
【請求項2】
前記空気袋内の空気の圧力が前記停止目標圧力に到達後、コロトコフ音(K音)を検出して最高血圧を検出し、前記コロトコフ音(K音)の消失により最低血圧を検出するためのマイクロフォンを有することを特徴とする請求項1に記載の電子血圧計。
【請求項3】
前記空気袋を保持する硬質の筒体を有する腕帯部と、前記第1ポンプと前記第2ポンプを有する血圧計本体と、を有し、前記腕帯部と前記血圧計本体とは別体に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の電子血圧計。
【請求項1】
測定者の上腕を挿入して血管を加圧するための空気袋と、
前記空気袋内に空気を供給する第1ポンプと第2ポンプと、
前記第1ポンプと前記第2ポンプを駆動する駆動部と、
前記駆動部に指令を与えて、前記血管の脈波を検出する際に前記第1ポンプを回転駆動させ、前記第2ポンプを前記第1ポンプの回転数よりも低い回転数で駆動させる制御部と、
前記第1ポンプの回転数と前記第2回転数との間の回転数差により生じるビートをカットするフィルタと
を有することを特徴とする電子血圧計。
【請求項2】
前記空気袋内の空気の圧力が前記停止目標圧力に到達後、コロトコフ音(K音)を検出して最高血圧を検出し、前記コロトコフ音(K音)の消失により最低血圧を検出するためのマイクロフォンを有することを特徴とする請求項1に記載の電子血圧計。
【請求項3】
前記空気袋を保持する硬質の筒体を有する腕帯部と、前記第1ポンプと前記第2ポンプを有する血圧計本体と、を有し、前記腕帯部と前記血圧計本体とは別体に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の電子血圧計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−83496(P2011−83496A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239785(P2009−239785)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
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