説明

電子部品の製造方法

【課題】直流重畳特性を改善し、インダクタンスを適宜設定することができると共に耐衝撃性に優れた特性を有する巻線型電子部品を製造することができる電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の電子部品の製造方法は、コア11の巻芯部11Aに巻線12が巻回され、一対の鍔部11B、11B間で巻線12が樹脂部13で封止された巻線型電子部品10を製造する際に、コア11の巻芯部11Aに巻線12が巻回された巻線型電子部品本体10Aを用意する第1の工程と、コア11の端子電極14のない方の鍔部11Bを液状の非磁性樹脂113A内に浸漬し、浸漬された鍔部11Bの内面に非磁性樹脂113Aを塗布して非磁性樹脂部13Aを形成する第2の工程と、コア11の巻線12に液状の磁性樹脂113Bを塗布して巻線12の外周面に磁性樹脂部13Bを形成する第3の工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアの巻芯部に巻回された巻線が磁粉を含む磁性樹脂部によって封止された電子部品の製造方法に関し、更に詳しくは、直流重畳特性を改善した電子部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
巻線型電子部品は、例えば図5の(a)、(b)に示すように、巻芯部1A及びその両端に形成された一対の鍔部1Bを有するコア1と、コア1の巻芯部1A、1Aに巻回された巻線2と、一対の鍔部1A、1Aの間で巻線2を封止する、磁粉入り樹脂材料によって形成された磁性樹脂部3と、を備えて構成されている。
【0003】
コア1の巻線2に磁性樹脂部3を塗布する方法として、例えば特許文献1に記載の塗装方法がある。特許文献1に記載の塗装方法では、塗装容器の凹部に入れた溶融塗料に電子部品を浸漬した状態で、塗料容器または電子部品の少なくともいずれか一方を振動させ、塗装容器の凹部の側壁面と電子部品との間隔を伸縮させることによって、電子部品に溶融塗料を塗布している。この方法によれば、一対の鍔部間にある巻線全長に渡って液状の磁性樹脂が濡れ上がり、巻線全体に磁性樹脂部を形成することができる。
【0004】
【特許文献1】特開平4−131163
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の塗装方法によって巻線型電子部品の磁性樹脂部を形成すると、コア1の巻芯部1Aに巻回された巻線2を磁性樹脂部3によって完全に封止することができるが、コア1が閉磁路構造になって磁気飽和を起こしやすく、直流重畳特性が悪化する問題があった。直流重畳特性を改善するためには、磁束の向きと直交する方向に非磁性樹脂層を平面状に形成すれば磁束の集中が軽減されるが、このよう非磁性樹脂層を形成することは難しい。また、巻線2間に形成された隙間にも磁性樹脂が浸透して磁性樹脂部3が形成されているため、図5の(b)に示すように巻線2を通る磁束Bが強くなって電流が巻線2側に偏在し、このことによる近接効果と、巻線2に発生する渦電流とでQ値が低下する問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、直流重畳特性及びQ値の改善をすると共にインダクタンスを適宜設定することができ、耐衝撃性にも優れた特性を有する巻線型電子部品を製造することができる電子部品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載の電子部品の製造方法は、巻芯部とその両端に形成された一対の鍔部を有するコアと、上記巻芯部に巻回された巻線と、上記一対の鍔部の間で上記巻線を封止する樹脂部と、を備えた巻線型電子部品を製造する方法において、上記樹脂部を形成する工程は、上記コアの巻芯部に巻線が巻回された巻線型電子部品本体を用意する第1の工程と、上記コアの一方の鍔部を液状の非磁性樹脂内に浸漬し、少なくとも上記鍔部の内面に上記非磁性樹脂を塗布して非磁性樹脂部を形成する第2の工程と、上記コアの巻線に液状の磁性樹脂を塗布して上記巻線上に磁性樹脂部を形成する第3の工程と、を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の請求項2に記載の電子部品の製造方法は、請求項1に記載の発明において、上記第2の工程では、上記コアの一方の鍔部を液状の非磁性樹脂内に浸漬し、上記鍔部の内面及び上記巻線の外周面に上記非磁性樹脂を塗布することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、直流重畳特性及びQ値の改善をすると共にインダクタンスを適宜設定することができ、耐衝撃性にも優れた特性を有する巻線型電子部品を製造することができる電子部品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図1〜図4に示す実施形態に基づいて本発明について説明する。尚、各図中、図1は(a)、(b)はそれぞれ本発明の電子部品の製造方法の一実施形態によって製造された巻線型電子部品を示す図で、(a)はその断面図、(b)は磁束の流れを説明するための説明図、図2の(a)、(b)はそれぞれ図1に示す巻線型電子部品の製造工程の要部を工程順に示す断面図、図3の(a)〜(c)はそれぞれ図1に示す巻線型電子部品の製造工程に続く工程を示す断面図、図4は本発明の電子部品の製造法の他の実施形態によって製造された巻線型電子部品を示す断面図である。
【0011】
まず、本発明の電子部品の製造方法によって製造される巻線型電子部品について説明する。本発明の電子部品の製造方法によって製造される巻線型電子部品10は、例えば図1の(a)、(b)に示すように、巻芯部11Aとその上下両端に形成された鍔部11Bを有するコア11と、コア11の巻芯部11Aに巻回された絶縁皮膜付きの巻線12と、上下の鍔部11Bの間で巻線12を封止する樹脂部13と、下方の鍔部11Bの下面に設けられ且つ巻線12の端部12Aが接続された端子電極14と、を備え、コア11の断面形状がH型に形成されている。
【0012】
本実施形態では樹脂部13は、図1の(a)、(b)に示すように、上側の鍔部11Bの内面及び巻線12の隙間に浸透して形成された実質的に磁粉を含有しない熱硬化性樹脂材料からなる非磁性樹脂部13Aと、上側の鍔部11Bの内面の非磁性樹脂部13Aと下側の鍔部11Bの間の空間を埋めて巻線12を封止する、磁粉入りの熱硬化性樹脂材料からなる磁性樹脂部13Bとから構成されている。非磁性樹脂部13Aは、鍔部11Bの内面を非磁性樹脂層で被覆し且つ巻線12の隙間を埋めているが、巻線12の外周面を覆っていない。従って、磁性樹脂部13Bは、巻線12の外周面に直に塗布して形成されている。
【0013】
非磁性樹脂部13Aは、実質的に磁粉を含有しないため、熱硬化性樹脂の透磁率と実質的に同一で、磁性樹脂部13Bと比較して透磁率が小さく、磁路ギャップ層として形成されている。このように樹脂部13の一部として非磁性樹脂部13Aからなる磁路ギャップを図1の(b)に示す磁束Bと直交する方向に設けることにより、コア11の樹脂部13での磁束Bの集中を抑制あるいは防止し、磁気的に飽和し難く、直流重畳特性が改善されて、定格電流を大きく取ることができ、安定したインダクタンスを得ることができる。また、非磁性樹脂部13Aの厚みを調整することにより、インダクタンスを適宜調整することができる。また、磁性樹脂部13Bの透磁率は、磁粉の含有量によって異なるが、例えば2〜15の範囲が好ましい。
【0014】
コア11の材料は、透磁率の高い材料であれば特に制限されないが、例えばフェライト等の透磁率の高い磁性材料が好ましい。磁性樹脂部13Bの磁粉の材料としては、磁性体材料であれば特に制限されないが、例えばMn−Zn系やNi−Zn系のフェライト材料が好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂及びポリエステル樹脂などが好ましい。液状の熱硬化性樹脂は、主成分である熱硬化性樹脂と、副成分である分散剤等の添加剤とを含んでいる。また、端子電極14の材料は、電極として用いられる金属であれば特に制限されないが、例えば銀、ニッケル、銅及び錫の合金によって形成されている。
【0015】
次に、図2の(a)、(b)及び図3の(a)〜(c)を参照しながら本発明の電子部品の製造方法の一実施形態について説明する。
まず、巻芯部11Aに巻線12が巻回して形成されたコア11を用意する。このコア11の下側の鍔部11Bに導電性ペーストを塗布し、加熱処理して左右一対の端子電極14を形成した後、巻線12を所定の巻数だけ巻芯部11Aに巻回し、巻線12の両端部を端子電極14に接合することによって、図2の(a)に示す巻線型電子部品本体10Aを作製する。
【0016】
次いで、図2の(a)に示すように巻線型電子部品本体10Aの端子電極14のない鍔部11Bを下側にして、同図の(b)に示すように下側の鍔部11Bを容器100の液状の熱硬化性樹脂(例えば、主成分がエポキシ樹脂)からなる非磁性樹脂113A内に浸漬する。この時、液状の非磁性樹脂113Aが毛細管現象により巻芯部11Aの巻線12の隙間に浸透して濡れ上がり、巻線12の外周面以外を液状の非磁性樹脂113Aで被覆する。巻線型電子部品本体10Aを容器100の液状の非磁性樹脂113Aから引き上げて、巻線型電子部品本体10Aに液状の非磁性樹脂113Aを塗布した後、巻線型電子部品10Aを熱処理して塗布された非磁性樹脂113Aを熱硬化させる。
【0017】
巻線型電子部品本体10Aの非磁性樹脂113Aを熱硬化させて、図3の(a)に示すように下側の鍔部11Bの内面が非磁性樹脂部13Aで被覆された巻線型電子部品本体10Aを得る。次いで、図3の(b)に示すように例えばディスペンサ(図示せず)を用いてコア11の一対の鍔部11B、11B間に磁粉(例えば、Mn−Zn系フェライト)入りの熱硬化性樹脂(例えば、主成分がエポキシ樹脂)を液状の磁性樹脂113Bとして注入して、巻線12を磁性樹脂113Bで塗布する。
【0018】
この時、図3の(a)に示すように巻線12の隙間には既に非磁性樹脂部13Aが形成されているため、図3の(b)に示すように液状の磁性樹脂113Bを塗布しても巻線12の隙間に液状の磁性樹脂113Bが浸透することがなく、時間の経過と共に液状の磁性樹脂113Bの浸透によって一対の鍔部11B、11B間の液状の磁性樹脂113が減肉することがない。従って、図3の(b)に示すように液状の磁性樹脂113Bを塗布した後、直ぐに巻線型電子部品本体10Aを熱処理して液状の磁性樹脂113Bを熱硬化させても図1の(a)、(b)及び図3の(c)に示すように鍔部11B、11Bの外周部まで磁性樹脂部13Bが形成され、鍔部11B、11Bが樹脂部13によって機械的に補強された巻線型電子部品10が得られる。
【0019】
これに対して、従来の塗布方法では、磁性樹脂3が巻線に塗布された後、磁性樹脂3が巻線の隙間に浸透し磁性樹脂部3が減肉して、図5の(a)において楕円で囲んで示すように鍔部11B、11Bの外周部から磁性樹脂部3が内側へ後退し、鍔部11B、11Bの機械的強度が低下する。
【0020】
以上説明したように本実施形態によれば、巻芯部11Aとその両端に形成された一対の鍔部11Bを有するコア11と、一対の鍔部11Bの間で巻芯部11Aに巻回された巻線12と、一対の鍔部11Bの間で巻線12を封止する樹脂部13と、を備えた巻線型電子部品10を製造する際に、コア11の巻芯部11Aに巻線12が巻回された巻線型電子部品本体10Aを用意する第1の工程と、コア11の一方の鍔部11Bを液状の非磁性樹脂113A内に浸漬し、浸漬された鍔部11Bの内面に非磁性樹脂113Aを塗布して非磁性樹脂部13Aを形成する第2の工程と、コア11の巻線12に液状の磁性樹脂113Bを塗布して巻線12上に磁性樹脂部13Bを形成する第3の工程と、を備えているため、巻線12を封止する樹脂部13のうち、端子電極14のない一方の鍔部11Bの内面に磁束Bと直交する方向に形成された非磁性樹脂部13Aを有する巻線型電子部品10が得られる。
【0021】
本実施形態によって得られた巻線型電子部品10は、図1の(a)、(b)に示すように巻線12を封止する樹脂部13のうち、端子電極14のない一方の鍔部11Bの内面に磁束Bと直交する方向の非磁性樹脂部13Aからなる磁路ギャップが形成されているため、巻線12近傍での磁束の集中を抑制あるいは防止し、磁気的に飽和し難く、直流重畳特性が改善されて、定格電流を大きく取ることができ、安定したインダクタンス値を得ることができる。
【0022】
また、巻線12の隙間には非磁性樹脂部13Aが形成されているため、巻線12から磁束Bを遠ざけて、巻線12間の近接効果及び巻線12での渦電流によるQ値の低減を抑制し、Q値を改善することができる。
【0023】
また、本実施形態によれば、磁性樹脂部13Bを形成する前に、端子電極14のない一方の鍔部11Bの内面を非磁性樹脂部13Aで被覆する際に、巻線12の隙間を非磁性樹脂部13Aで埋めることができるため、磁性樹脂部13Bを形成する時には一対の鍔部11B、11B間に液状の磁性樹脂部113Bを注入しても時間の経過と共に磁性樹脂部13Bが減肉することなく一対の鍔部11B、11Bの外周まで磁性樹脂部13Bを形成することができ、鍔部11B、11Bの機械的強度を高めることができる。
【0024】
また、図4は本発明の電子部品の製造方法によって製造された他の巻線型電子部品を示す断面図である。この巻線型電子部品20は、図4に示すように巻芯部21A及び鍔部21Bを有するコア21、巻線22、樹脂部23及び端子電極24を備え、樹脂部23以外は図1に示す巻線型電子部品10と同様に形成されている。
【0025】
樹脂部23では、非磁性樹脂部23Aが巻線22の外周面を被覆してある程度の厚みを持って形成されている。従って、磁性樹脂部23Bは、非磁性樹脂部23Aの外周面に形成され、巻線22には接触していない。これに対して、図1に示す巻線型電子部品10の場合には巻線12の外周面が露出し、磁性樹脂部13Bが直に巻線12に接触している。このように巻線22の外周面にも非磁性樹脂部23Aが形成されているため、上記の実施形態に比べて直流重畳特性が更に改善されると共にQ値の低減が更に抑制される。
【0026】
図4に示す巻線型電子部品20を製造する場合には、巻線型電子部品本体の端子電極24のない鍔部21Bを図2の(b)に示す場合よりも深く、対向する鍔部23に達するほどに浸漬して引き上げることによって、巻線22の外周面に液状の非磁性樹脂を塗布することができる。巻線22に非磁性樹脂が被覆された状態で熱処理することによって巻線型電子部品20を得ることができる。
【0027】
尚、本発明は上記各実施形態に何等制限されるものではない。本発明の巻線型電子部品の各要素は必要に応じて適宜設計変更することができる。要は、巻線型電子部品本体に樹脂部を形成する際に、コアの一方の鍔部を液状の非磁性樹脂内に浸漬し、少なくとも鍔部の内面に非磁性樹脂を塗布して非磁性樹脂部を形成する工程と、コアの巻線に液状の磁性樹脂を塗布して巻線上に磁性樹脂部を形成する工程と、を備えた電子部品の製造方法であれば本発明に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、電子機器や通信機器等に使用される巻線型電子部品を製造する場合に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)、(b)はそれぞれ本発明の電子部品の製造方法の一実施形態によって製造された巻線型電子部品を示す図で、(a)はその断面図、(b)は磁束の流れを説明するための説明図である。
【図2】(a)、(b)はそれぞれ図1に示す巻線型電子部品の製造工程の要部を工程順に示す断面図である。
【図3】(a)〜(c)はそれぞれ図1に示す巻線型電子部品の製造工程に続く工程を示す断面図である。
【図4】本発明の電子部品の製造法の他の実施形態によって製造された巻線型電子部品を示す断面図である。
【図5】(a)、(b)はそれぞれ従来の巻線型電子部品の一例を示す図で、(a)はその断面図、(b)は磁束の流れを説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0030】
10、20 巻線型電子部品
11、21 コア
11A、21A 巻芯部
11B、21B 鍔部
12、22 巻線
13、23 樹脂部
13A、23A 非磁性樹脂部
13B、23B 磁性樹脂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯部とその両端に形成された一対の鍔部を有するコアと、上記巻芯部に巻回された巻線と、上記一対の鍔部の間で上記巻線を封止する樹脂部と、を備えた巻線型電子部品を製造する方法において、上記樹脂部を形成する工程は、上記コアの巻芯部に巻線が巻回された巻線型電子部品本体を用意する第1の工程と、上記コアの一方の鍔部を液状の非磁性樹脂内に浸漬し、少なくとも上記鍔部の内面に上記非磁性樹脂を塗布して非磁性樹脂部を形成する第2の工程と、上記コアの巻線に液状の磁性樹脂を塗布して上記巻線上に磁性樹脂部を形成する第3の工程と、を備えたことを特徴とする巻線型電子部品の製造方法。
【請求項2】
上記第2の工程では、上記コアの一方の鍔部を液状の非磁性樹脂内に浸漬し、上記鍔部の内面及び上記巻線の外周面に上記非磁性樹脂を塗布することを特徴とする請求項1に記載の巻線型電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−141086(P2009−141086A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315306(P2007−315306)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】