説明

電子部品及び信号伝達方法

【課題】送信用インダクタと受信用インダクタの相対位置がずれても、受信用インダクタが信号を受信できなくなることを抑制できるようにする。
【解決手段】複数の送信用インダクタは基板110上に形成されている。信号入力経路112は複数の送信用インダクタ120に接続しており、これら複数の送信用インダクタ120に同一の送信信号を入力する。位相差制御部130は、信号入力経路112に設けられており、複数の送信用インダクタ120相互間における信号の位相差を180°より小さい単位で制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号送信用のインダクタを有する電子部品及び信号伝達方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる回路の間で信号を伝達する方式の一つに、インダクタを用いる方式がある。この方式は、送信用インダクタと受信用インダクタを対向させ、これらの誘導結合を用いて信号を送信するものである。
【0003】
なお特許文献1には、2つのインダクタを電流の向きが互いに逆方向になるように接続することにより、磁束を局部的に封じ込めることが記載されている。
【0004】
また特許文献2には、複数のインダクタを設け、これらインダクタをトランジスタでオン/オフさせることにより、インダクタンス値を変更することが記載されている。
【0005】
また特許文献3には、第1インダクタを配線層に形成し、第2インダクタを再配線層に形成し、第1インダクタに入力される信号の電流振幅及び/又は位相を制御することで、第2インダクタを貫通する磁束を変化させることが開示されている。具体的には、第1インダクタに入力される信号の位相を第2インダクタに入力される信号と同相にすると第2インダクタを貫通する磁束が増加すること、及び、第1インダクタに入力される信号の位相を第2インダクタに入力される信号と逆相にすると第2インダクタを貫通する磁束が減少することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−327931号公報
【特許文献2】特開平08−162331号公報
【特許文献3】特開2009−152254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体装置の製造プロセスを用いてインダクタを形成する場合、インダクタを小さくすることができる。一方、インダクタの誘導結合を用いて信号を送信する場合、インダクタの通信可能範囲は、送信用インダクタが生じる磁束の分布によって決まる。送信用インダクタを小さくすると、これに伴って磁束の密度が高い領域が狭くなり、受信用インダクタが受信可能なエリアが小さくなる。このため、送信用インダクタ及び受信用インダクタが小さい場合、送信用インダクタと受信用インダクタの相対位置の精度によっては、受信用インダクタが信号を受信できなくなる場合がでてくる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、基板上に形成され、平面視で中心が互いにずれて配置されている複数の送信用インダクタと、
前記複数の送信用インダクタそれぞれに送信信号を入力する信号入力経路と、
前記信号入力経路に設けられ、前記複数の送信用インダクタ相互間における前記送信信号の位相差を180°より小さい単位で制御する位相差制御部と、
を備える電子部品が提供される。
【0009】
本発明によれば、電子部品は複数の送信用インダクタを有している。これら複数の送信用インダクタは、平面視で中心が互いにずれている。そして複数の送信用インダクタに入力される送信信号は、位相差制御部によって位相差が180°より小さい単位で制御されている。このため、この位相差を制御することにより、複数の送信用インダクタによって形成される磁束の中心を、基板に平行な面内でずらすことができる。従って、送信用インダクタと受信用インダクタの相対位置がずれても、受信用インダクタが信号を受信できなくなることを抑制できる。
【0010】
本発明によれば、平面視で中心が互いにずれて配置されている複数の送信用インダクタと、受信用インダクタとを対向させ、
前記複数の送信用インダクタそれぞれに送信信号を入力し、かつ前記複数の送信用インダクタ相互間における前記送信信号の位相差を180°より小さい単位で制御する信号伝達方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、送信用インダクタと受信用インダクタの相対位置がずれても、受信用インダクタが信号を受信できなくなることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態に係る電子部品の構成を示す図である。
【図2】電子部品の断面構造をその使用態様とあわせて示す断面図である
【図3】第2の実施形態に係る電子部品の構成を示す断面図である。
【図4】第2の実施形態に係る電子部品の構成を示す断面図である。
【図5】第3の実施形態に係る電子部品の構成を示す図である。
【図6】第4の実施形態に係る電子部品の構成を示す図である。
【図7】図6に示した電子部品の構成を示す断面図である。
【図8】第5の実施形態に係る電子部品の構成を示す図である。
【図9】図8に示した電子部品の断面構造を、その使用態様とあわせて示す断面図である
【図10】第6の実施形態に係る電子部品の構成を示す断面図である。
【図11】変形例に係る電子部品の構成を示す図である。
【図12】変形例に係る電子部品の構成を示す図である。
【図13】第6の実施形態に係る電子部品の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電子部品100の構成を示す図である。図2は、電子部品100の断面構造を、その使用態様とあわせて示す断面図である。電子部品100は、基板110、複数(例えば2つ)の送信用インダクタ120、信号入力経路112、及び位相差制御部130を備えており、電子部品200に信号を送信する機能を有している。複数の送信用インダクタは基板110上に形成されている。信号入力経路112は複数の送信用インダクタ120に接続しており、これら複数の送信用インダクタ120に同一の送信信号を入力する。位相差制御部130は、信号入力経路112に設けられており、複数の送信用インダクタ120相互間における信号の位相差を180°より小さい単位で制御する。以下、詳細に説明する。
【0015】
基板110は、例えばシリコン基板などの半導体基板であるが、これに限定されない。基板110上には多層配線層が形成されている。そして送信用インダクタ120はいずれかの配線層に形成されており、中心軸が基板110に対して垂直となっている。本図に示す例では、複数の送信用インダクタ120は互いに同一の配線層に形成されており、平面視で互いに重ならないように配置されている。送信用インダクタ120の直径は、例えば100μm以上1000μm以下である。また信号入力経路112は、多層配線層に形成された配線、ビア、及びコンタクトにより構成されている。
【0016】
位相差制御部130は、位相制御回路132及び制御部134を備えている。位相制御回路132は、例えば送信信号を遅延させる遅延回路であり、バラクタなどの可変素子を有している。制御部134は、位相制御回路132の可変素子の特性を制御することにより、複数の送信用インダクタ120相互間における信号の位相差を180°より小さい単位で制御する。図1に示す例において位相制御回路132は、複数の送信用インダクタ120それぞれに設けられているが、いずれか一つの送信用インダクタ120には位相制御回路132が設けられていなくてもよい。位相制御回路132及び制御部134は、例えば基板110に形成されたトランジスタやアナログ素子などを用いて構成されている。
【0017】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。受信側の電子部品200は、受信用インダクタ220を有しており、受信用インダクタ220が複数の送信用インダクタ120と対向する向きに配置されている。図1に示す例では、受信用インダクタ220の中心は、平面視で、2つの送信用インダクタ120の相互間に位置している。そして電子部品100,200の相対位置を決めるとき、この相対位置にはずれが生じる。このずれが大きい場合、送信用インダクタ120が一つである場合には、送信用インダクタ120によって生じる磁束が強い領域が受信用インダクタ220から外れ、送信エラーが生じることがある。
【0018】
これに対して本実施形態では、電子部品100は複数の送信用インダクタ120を有している。複数の送信用インダクタ120は、平面視で中心が互いにずれている。そして複数の送信用インダクタ120に入力される送信信号の位相差は、180°より小さい単位で制御される。このため、複数の送信用インダクタ120によって形成される磁束密度の分布を、基板110に平行な面内でずらすことができる。従って、送信用インダクタ120と受信用インダクタ220の相対位置がずれても、受信用インダクタが信号を受信できなくなることを抑制できる。
【0019】
(第2の実施形態)
図3及び図4は、第2の実施形態に係る電子部品100の構成を示す断面図である。これらの図は、第1の実施形態における図2に相当している。本実施形態に係る電子部品100は、少なくとも一つの送信用インダクタ120が、他の送信用インダクタ120とは異なる配線層に形成されている点を除いて、第1の実施形態に係る電子部品100と同様の構成である。
【0020】
互いに異なる配線層に形成されている送信用インダクタ120は、図3に示すように平面視で互いに重なっていなくてもよいし、図4に示すように一部が重なっていてもよい。
【0021】
本実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また図4に示すように複数の送信用インダクタ120を平面視で一部が重なるように配置すると、電子部品100のうち複数の送信用インダクタ120が占める面積を小さくすることができる。
【0022】
(第3の実施形態)
図5は、第3の実施形態に係る電子部品100の構成を示す図である。この図は、第1の実施形態における図1に相当している。本実施形態に係る電子部品100は、送信信号生成部170を有している点を除いて、第1の実施形態又は第2の実施形態に係る電子部品100と同様の構成である。送信信号生成部170は、信号入力経路112を介して送信用インダクタ120に接続しており、位相制御回路132を介して送信用インダクタ120に送信信号を入力する。位相制御回路132は、例えば基板110に形成されたトランジスタやアナログ素子などを用いて構成されている。
【0023】
本実施形態によっても、第1又は第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また送信用インダクタ120、位相差制御部130、及び送信信号生成部170を一つの基板110を用いて一つの半導体チップとして形成することができる。
【0024】
(第4の実施形態)
図6は、第4の実施形態に係る電子部品100の構成を示す図である。図7は、図6に示した電子部品100の構成を示す断面図である。図6は第1の実施形態における図1に相当している。本実施形態に係る電子部品100は、入力端子180を有している点を除いて、第1の実施形態又は第2の実施形態に係る電子部品100と同様の構成である。
【0025】
本実施形態に係る電子部品100は、例えばディスクリート部品であり、例えば送信用インダクタ120、位相差制御部130、入力端子180、及びこれらを接続する配線やビアのみを有している。入力端子180は、信号入力経路112を介して送信用インダクタ120に接続しており、外部から入力された送信信号を、信号入力経路112及び位相制御回路132を介して送信用インダクタ120に入力する。入力端子180は、最上層の配線層に形成されており、電極パッドと同様の構造を有している。
【0026】
本実施形態によっても、第1又は第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また他の電子部品が生成した送信信号を、電子部品100を介して電子部品200に送信することができる。
【0027】
(第5の実施形態)
図8は、第5の実施形態に係る電子部品100の構成を示す図である。図9は、図8に示した電子部品100の断面構造を、その使用態様とあわせて示す断面図である。本実施形態に係る電子部品100は、受信用インダクタ140及び信号検出部142を備える点を除いて、第1〜第4の実施形態のいずれかに示した電子部品100と同様の構成である。
【0028】
受信用インダクタ140は、平面視で複数の送信用インダクタ120と重ならないように配置されている。信号検出部142は、受信用インダクタ140に接続されており、受信用インダクタ140で発生した誘導電流の強度を検出する。
【0029】
図9に示すように受信側の電子部品200は、送信用インダクタ240を有している。送信用インダクタ240は、受信用インダクタ220で生成した誘導電流が、そのまま又は増幅回路を介して流れるようになっている。すなわち送信用インダクタ240が生成する磁束の大きさは、受信用インダクタ220で生成した誘導電流に比例する。そして送信用インダクタ240は受信用インダクタ140と対向する位置に配置されている。このため、受信用インダクタ140が生成する誘導電流の大きさは、受信用インダクタ220で生成した誘導電流に比例する。
【0030】
そして位相差制御部130の制御部134は、信号検出部142が検出した誘導電流の強度に基づいて位相差を制御する。具体的には制御部134は、信号検出部142が検出した誘導電流の強度が最大となるように、すなわち受信用インダクタ220で生成した誘導電流が最大となるように位相差を制御する。
【0031】
本実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また電子部品100,200の相対位置を決めた後に、制御部134が、信号検出部142が検出した誘導電流の強度すなわち受信用インダクタ220で生成した誘導電流が最大となるように位相差を制御する。このため、位相差の設定を容易に行うことができる。
【0032】
(第6の実施形態)
図13および図10は、本発明の第6の実施形態にかかる電子部品100の構成を示す図である。本実施形態では、図10に示すように、受信用インダクタ220と送信用インダクタ120とが対向して配置される。例えば、受信用インダクタ220と送信用インダクタ120は互いに異なる配線層に形成される。平面視において、受信用インダクタ220と送信用インダクタ120が一部重なっていると、受信用インダクタ220に流れる誘導電流を大きくできるため好適である。受信用インダクタ220は図13に示すように、信号検出部142に接続され、受信用インダクタ120が受信した受信信号の強度、具体的には誘導電流の大きさが検知される。信号検出部142は、検地した受信信号の強度を制御部134に入力する。制御部134は、受信信号強度が高くなるように位相制御回路132を制御する。なお、図10では、受信用インダクタ220と送信用インダクタ120以外の配線や位相制御部130等は省略してある。
【0033】
本実施形態によっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態によれば、受信用インダクタ220の誘導電流が大きくなるように、送信用インダクタ120の磁束を位相制御回路132により調整しているため、確実に送信用インダクタ120と受信用インダクタ220との間で信号の送受信を行うことができる。
【0034】
なお、第6の実施形態では図10を用いて説明したが、その他の各実施形態においても、図13に示すように、電子部品100に受信用インダクタ220及び受信回路(図示せず)を設けてもよい。この場合、受信用インダクタ220と送信用インダクタ120は互いに異なる配線層に形成されるが、どちらが上側の配線層に形成されても良い。
【0035】
また複数の送信用インダクタ120のレイアウトは、上記した例に限定されない。
【0036】
例えば図11に示すように、4つの送信用インダクタ120を、同一の円周上に中心が90°間隔で位置するように配置してもよい。この場合、受信用インダクタ220の中心は、上記した円の中心と重なるのが好ましい。
【0037】
また図12に示すように、1つの送信用インダクタ120の周囲に4つの送信用インダクタ120を、同一の円周上に中心が90°間隔で位置するように配置してもよい。この場合、受信用インダクタ220の中心は、中心に位置する送信用インダクタ120の中心と重なるのが好ましい。
【0038】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0039】
100 電子部品
110 基板
112 信号入力経路
120 送信用インダクタ
130 位相差制御部
132 位相制御回路
134 制御部
140 受信用インダクタ
142 信号検出部
170 送信信号生成部
180 入力端子
200 電子部品
220 受信用インダクタ
240 送信用インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成され、平面視で中心が互いにずれて配置されている複数の送信用インダクタと、
前記複数の送信用インダクタそれぞれに送信信号を入力する信号入力経路と、
前記信号入力経路に設けられ、前記複数の送信用インダクタ相互間における前記送信信号の位相差を180°より小さい単位で制御する位相差制御部と、
を備える電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の電子部品において、
前記基板上に形成された少なくとも一層の配線層を備え、
前記複数の送信用インダクタは、互いに同一の前記配線層に形成されている電子部品。
【請求項3】
請求項1に記載の電子部品において、
前記基板上に形成された複数の配線層を備え、
前記複数の送信用インダクタは、前記複数の配線層のいずれかに形成されており、
少なくとも一つの前記送信用インダクタは、他の前記送信用インダクタとは異なる配線層に形成されている電子部品。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子部品において、
前記送信信号を生成する送信信号生成部をさらに備える電子部品。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子部品において、
前記送信信号が入力される入力端子を備える電子部品。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電子部品において、
前記複数の送信用インダクタと対向する位置に配置される受信用インダクタと、
前記受信用インダクタに接続され、前記受信用インダクタで発生した誘導電流の強度を検出する信号検出部と、
を備え、
前記位相差制御部は、前記信号検出部が検出した前記強度に基づいて前記位相差を制御する電子部品。
【請求項7】
請求項6に記載の電子部品において、
前記位相差制御部は、前記信号検出部が検出した前記強度が最大となるように前記位相差を制御する電子部品。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の電子部品において、
前記複数の送信用インダクタと前記受信用インダクタは、平面視で少なくとも一部が重なるように配置される電子部品。
【請求項9】
平面視で中心が互いにずれて配置されている複数の送信用インダクタと、受信用インダクタとを対向させ、
前記複数の送信用インダクタそれぞれに送信信号を入力し、かつ前記複数の送信用インダクタ相互間における前記送信信号の位相差を180°より小さい単位で制御する信号伝達方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−233956(P2011−233956A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99798(P2010−99798)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】