説明

電子部品及び電子部品の製造方法

【課題】浮いた部分を有する電子部品中の圧電体膜を効率よく形成することができる電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】圧電体20の平坦な表面20aからイオンを注入して、圧電体20内において表面20aから所定の深さの領域にイオン注入層22を形成する。圧電体20の表面20aの一部の上に犠牲層30を形成した後、圧電体20の表面20a及び犠牲層30に絶縁体34を形成して圧電構造体10sを形成する。圧電体20を加熱して圧電体20をイオン注入層22で分離して、圧電体20から分離された圧電体膜24と絶縁体34とが接合された圧電体膜構造体10tを形成する。圧電体膜構造体10tの圧電体膜24のイオン注入層22に沿って形成された分割面24aのうち少なくとも犠牲層30に対向する部分に電極を含む素子パターン16を形成した後、圧電体膜構造体10tから犠牲層30を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の製造方法に関し、詳しくは、ラム波やSH波を用いる板波デバイス、ジャイロ、RFスイッチなどの振動部や可動部が、支持部材から浮いた状態で支持部材に保持された電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板波を利用する振動部や可動部が、支持部材から浮いた状態で支持部材に保持された電子部品が製造されている。
【0003】
例えば図5の断面図に示すラム波デバイス110は、支持部材である補強基板150に圧電基板120が接合され、振動部が浮いた状態で補強基板150に保持されている。すなわち、圧電基板120は、補強基板150に形成された凹部153により空間154を介して補強基板150から浮いた状態の部分に、IDT電極130や反射器141,142が形成されている。
【0004】
このラム波デバイス110は、図7の断面図に示す工程で製造される。すなわち、図7(a)に示すようにSiの平板からなる補強基板150に凹部153を形成した後、図7(b)に示すように凹部153内部に犠牲層156を形成し、犠牲層156及び補強基板150の縁部151の上面を、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法等を用いて平滑処理を行う。次いで、図7(c)に示すように圧電基板の原料である水晶基板の厚板120aを直接接合や化学的結合又は接着剤等の接合手段を用いて接合した後、図7(d)に示すように厚板120aを研磨して所定の厚さHを有する圧電基板120を形成する。次いで、図7(e)に示すように圧電基板120の表面にIDT電極130、反射器141,142等を形成した後、図7(f)に示すように犠牲層156を除去して空間154を形成し、振動部が補強基板150から浮いた状態とする。
【0005】
一方、単結晶薄膜を製造する方法として、単結晶基板の表面から一定の深さの領域にイオンを注入して損傷層を形成し、損傷層よりも単結晶基板の表面側を剥離させることにより単結晶薄膜を形成するイオンスライス法が知られている。このイオンスライス法によれば、損傷層の深さはイオン注入のパラメータにより可変でき、μmのオーダーの単結晶薄板を剥離できる(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、圧電膜の製造方法として、図6の断面図に示すように、圧電体の粗面化された一方主面111aに支持部材となる厚さ数百μmの溶射膜112を形成した後、圧電体を研磨して薄くし、圧電体膜111と溶射膜112との接合体101を形成する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2007−251910号公報
【特許文献2】特表2002−503885号公報
【特許文献3】特開2008−54276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図7のように支持部材に圧電体を接合した状態で、圧電体を研磨して薄膜を形成する方法では、効率よく製造することが困難である。
【0008】
例えば、図5に示したラム波デバイス110の振動部においてRF周波数帯でラム波を励振させるには、ラム波の波長に応じて圧電基板120の厚さを数μmとしなくてはならない。そのため、圧電基板120が割れやすく取扱いが困難となり、良品率が低下する問題がある。
【0009】
また、圧電膜が薄くなると、圧電体と支持部材との接合に必要な平坦度の要求が厳しくなり、研磨/研削による平坦化には材料毎のCMPスラリーの適正化など課題が多い。圧電体と絶縁体との接合に接着剤等を用いた場合、接着剤自身の弾性や経時変化などに問題がある。常温接合により圧電体と支持部材とを接合する場合、表面クリーニング装置や真空チャンバー等の高価な設備が必要であり、スループットが悪い。
【0010】
本発明は、かかる実情に鑑み、浮いた部分を有する電子部品中の圧電体膜を効率よく形成することができる電子部品の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成した電子部品の製造方法を提供する。
【0012】
電子部品の製造方法は、(i)平坦な表面を有する圧電体を用意する、第1の工程と、(ii)前記圧電体の前記表面からイオンを注入して、前記圧電体内において前記表面から所定の深さの領域にイオン注入層を形成する、第2の工程と、(iii)前記圧電体の前記表面の一部の上に犠牲層を形成する、第3の工程と、(iv)前記圧電体の前記表面及び前記犠牲層に絶縁体を形成して圧電構造体を形成する、第4の工程と、(v)前記圧電体を加熱して前記圧電体を前記イオン注入層で分離して、前記圧電体から分離された前記圧電体の前記表面と前記イオン注入層との間の圧電体膜と前記絶縁体とが結合された圧電体膜構造体を形成する、第5の工程と、(vi)前記圧電体膜構造体の前記圧電体膜の前記イオン注入層に沿って形成された分割面のうち少なくとも前記犠牲層に対向する部分に電極を形成する、第6の工程と、(vii)前記圧電体膜構造体から前記犠牲層を除去する、第7の工程とを備える。
【0013】
上記方法により、圧電体膜構造体の表面に極めて薄い圧電体膜を形成することができる。例えば単結晶の圧電体を用いて、圧電体の極薄単結晶膜を有する圧電体膜構造体を製造することができる。
【0014】
上記方法によれば、圧電体膜が剥離された後の圧電体は、圧電体膜構造体の製造に再び利用することができる。1枚の圧電体から多量の圧電体膜構造体を製造することができ、支持部材に接合された圧電体を研磨して圧電膜を形成する場合に比べ、圧電体材料を廃棄する量が減るので、効率よく圧電体膜を形成することができる。
【0015】
また、圧電体膜の厚みは、イオン注入するときのエネルギーで決まり、圧電体に支持部材を接合して圧電体を研磨する場合のように接合面のうねりによって圧電体膜の厚みが左右されることがないため、極薄でも均一な圧電体膜を形成することができる。
【0016】
また、例えば圧電体として圧電単結晶基板を用い、圧電単結晶基板の平坦な表面上に犠牲層等を形成すると、弾性波デバイス等を製造するための通常の前工程が使用できる。
【0017】
また、蒸着、スパッタリング、CVDなどの堆積法では製造のばらつきが大きく、均一な膜質の圧電体膜を得ることが困難であるが、例えば単結晶の圧電体から剥離した圧電体膜を用いると、圧電体膜を堆積法で形成する場合よりも良好なデバイス特性の電子部品を容易に製造することができる。
【0018】
また、支持部材の凹部に犠牲層を形成して圧電体を接合する場合には、圧電体を接合する前に犠牲層や支持部材の縁部の平坦化工程が必要となるが、本発明の上記方法においては、圧電体の表面に犠牲層を形成した後に絶縁体を形成するため、平坦化工程が不要となる。
【0019】
また、圧電体の表面に絶縁体を形成した後に圧電体から圧電体膜を剥離するため、圧電体に支持部材を接合した状態で圧電体を研磨する場合と比べると、圧電体(圧電体膜)と絶縁体との間の界面に力が作用する時間が短く、圧電体膜と絶縁体との密着性、信頼性が確保できる。
【0020】
また、直接接合によって圧電体を接合する場合に必要な高価でスループットの低い接合装置が、不要である。
【0021】
好ましくは、前記第4の工程において、前記圧電体の前記表面及び前記犠牲層の上に、前記圧電体とは反対側に前記圧電体の前記表面よりも粗い表面を有する接着層を形成した後、前記接着層の前記圧電体の前記表面よりも粗い前記表面に前記絶縁体を形成することにより、前記圧電体の前記表面及び前記犠牲層に前記接着層を介して前記絶縁体が形成され前記圧電構造体を形成する。
【0022】
この場合、接着層を形成することにより、圧電体と絶縁体との間の接着強度を高くできる。
【0023】
なお、接着層の圧電体とは反対側の表面は、接着層が形成されたときに、すでに圧電体の表面よりも粗い表面であっても、接着層が形成された後、絶縁体が形成されるまでの間に、圧電体の表面よりも粗い表面にされてもよい。
【0024】
好ましくは、前記接着層がスパッタリング又はCVD(chemical vapor deposition;化学的気相成長法)により形成される。
【0025】
この場合、接着層の形成が容易である。
【0026】
好ましくは、前記接着層は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、金属酸化膜及び金属窒化膜から選択された少なくとも1種からなる。
【0027】
この場合、接着層の形成が容易である。
【0028】
好ましくは、前記第4の工程において、前記圧電体の前記表面及び前記犠牲層の上に、前記接着層を形成した後に、前記接着層の前記圧電体とは反対側の表面を粗面処理して、前記接着層の前記圧電体の前記表面よりも粗い前記表面を形成する。
【0029】
この場合、接着層の表面の粗面処理によって、圧電体膜と絶縁体との接合強度を高めることができる。
【0030】
好ましくは、前記絶縁体が溶射法により形成される。
【0031】
この場合、圧電体に接合される絶縁体を、容易に形成することができる。
【0032】
好ましくは、溶射法により形成された前記絶縁体の粒界及び空孔を充填する工程をさらに有する。
【0033】
この場合、溶射法により形成された絶縁体の粒界及び空孔を充填することで、溶射法により形成された絶縁体の剛性を高めることができる。
【0034】
好ましくは、前記絶縁体がCVDにより形成される。
【0035】
この場合、圧電体に接合される絶縁体を、容易に形成することができる。
【0036】
好ましくは、前記絶縁体がスピン塗布により形成される。
【0037】
この場合、圧電体に接合される絶縁体を、容易に形成することができる。
【0038】
好ましくは、前記絶縁体が、SOGをスピン塗布することにより形成される。
【0039】
この場合、SOG(スピンオンガラス)を用いて、絶縁体を容易に形成することができる。
【0040】
また、本発明は、以下のように構成した電子部品を提供する。
【0041】
電子部品は、(a)支持部材と、(b)互いに平行な一対の主面を有し、前記支持部材に支持されていない第1部分と前記支持部材に支持された第2部分とを含む圧電体膜と、(c)前記支持部材と前記圧電体膜の前記第2部分との間に配置され、前記支持部材と前記圧電体膜の前記第2部分とに接している接着層と、(d)前記圧電体膜の前記第1部分の少なくとも一方の前記主面に形成された電極とを備える。前記接着層は、前記支持部材に接している面の表面粗さが、前記前記圧電体膜の前記第2部分に接している面の表面粗さよりも大きくされている。
【0042】
上記構成によれば、接着層の支持部材に接着された面の表面粗さを大きくすることで、圧電体膜と支持部材との間の接着強度が大きくできるので、機械的強度の高い、電気的特性のすぐれた電子部品が得られる。
【0043】
好ましくは、前記圧電体膜は、一対の前記主面がいずれも鏡面である。
【0044】
この場合、電極によって励振された弾性波が乱反射することなく伝搬されるので、損失を小さくできる。
【0045】
好ましくは、前記電極により、前記圧電体膜を伝搬する板波が励振される。
【0046】
この場合、板波デバイスを形成することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、浮いた部分を有する電子部品中の圧電体膜を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図4を参照しながら説明する。図1は、電子部品10の断面図である。図2〜図4は、電子部品10の製造工程を示す断面図である。
【0049】
図1に模式的に示すように、電子部品10は、絶縁体の支持部材34の上に、接着層32を介して、圧電体膜24が保持されている。支持部材34には空隙13が形成されている。
【0050】
圧電体膜24は、空隙13の上に浮いた状態となっており、支持部材34に支持されていない第1部分24tと、接着層32を介して支持部材34に支持されている第2部分24sとを有する。圧電体膜24の第1部分24tには、IDT電極を含む電極構造16が形成されている。圧電体膜24の第1部分24t及び第2部分24sには、電極構造16のIDT電極に接続された配線電極18が形成されている。
【0051】
電子部品10は、例えばラム波やSH波等の板波を用いる板波デバイスである。
【0052】
図1では詳しく図示していないが、圧電体膜24の第2部分24tに形成された電極構造16は、一対のIDT電極と、反射器とを含む。
【0053】
IDT電極は、一対の櫛歯電極からなる。一対の櫛歯電極は、それぞれ、所定の間隔で互いに平行に配置された複数の電極指を有し、電極指の一端がバスバーで接続され、櫛歯状に形成されている。一対の櫛歯電極は、それぞれのバスバーが互いに反対側に配置され、電極指が交互に配置されている。IDT電極で励振された板波は、電極指の配列方向、すなわち各電極指の延在方向に対して直角方向に伝搬する。
【0054】
反射器は、IDT電極の板波進行方向両側に配置されている。反射器は、板波進行方向に沿って所定の間隔で互いに平行に配置された複数の電極指を有し、電極指の両端が格子状に接続されている。反射器の電極指は、板波進行方向に対して直角方向に延在している。
【0055】
次に、電子部品10が板波デバイスである場合の製造方法について、図2〜図4を参照しながら説明する。
【0056】
まず、図2(a)に示すように、平坦な表面20aを有する圧電体20を用意し、圧電体20の表面20aからイオンを注入して、表面20aから所定の深さの領域に、破線で示すイオン注入層22を形成する。イオン注入層22は、圧電体20の結晶構造に欠陥が形成された部分である。イオン注入層22の深さは、イオン注入の条件によって変えることができる。
【0057】
製造例では、圧電体20として、ウェハ厚が500μm、表面粗さRaが0.30nmのLiTaOウェハを用意した。イオン注入の条件は、イオン種=H+、注入エネルギー=150KeV、ドーズ量=1E17cm−2とした。この条件では、後述するように、イオン注入層22の深さは1μmとなる。圧電体20には、LiNbO等を用いてもよい。
【0058】
次いで、図2(b)に示すように、圧電体20の表面20aの一部に犠牲層30を形成する。犠牲層30は、板波が伝搬する領域よりも広い面積となるように形成する。
【0059】
製造例では、蒸着によりCu膜を、又はスピン塗布によりレジスト膜を、10μmの厚さでウェハ表面20aの全面に形成した後、フォトリングラフィー法を用いて、150μm×300μmのサイズの犠牲層30を複数個所に形成した。SiO、PSG、ZnOで犠牲層を形成してもよい。
【0060】
次いで、図2(c)に示すように、圧電体20の表面20a及び犠牲層30の上に接着層32を形成する。
【0061】
例えば、接着層32として、厚さ10μmのSiN、SiO、Taを形成する。
【0062】
次いで、図3(d)に示すように、接着層32の表面32aの粗面処理を行う。このとき、接着層32は、圧電体20の表面20aに形成された部分の表面も、犠牲層30上に形成された部分の表面も粗す。例えば、表面粗さRaが5nm以上となるように、粗面処理を行う。
【0063】
次いで、図3(e)に示すように、粗面処理された接着層32の表面32aの上に、絶縁体の支持部材34が形成された圧電構造体10sを形成する。支持部材34は、スパッタリング、CVD、溶射などによって形成する。成膜レートを考慮すると、溶射を用いて支持部材34を形成することが好ましい。
【0064】
例えば、支持部材34として、厚さ150μmとなるように、Alの溶射膜を形成する。
【0065】
溶射膜がポーラスである場合には、その剛性(ヤング率)が相対的に小さいので、溶射膜に充填材料を充填させ、その剛性を高めるようにしてもよい。例えば、溶射膜の上に、感光性塗布ガラス材料であるSOG(スピンオンガラス)や樹脂などをスピン塗布して、
溶射膜の粒界及び空孔に含浸させて硬化する。これにより、溶射膜の剛性を高めることができるとともに、溶射膜に洗浄液などの不要物が侵入することを防止できる。
【0066】
次いで、図3(f)に示すように、圧電構造体10sを、圧電体20に形成されたイオン注入層22で分離し、圧電体20から圧電体膜24を剥離する。このとき、圧電体膜24は、接着層32及び犠牲層30を介して支持部材34に結合された状態のままとなる。
【0067】
例えば、厚さ500μmの圧電体20を加熱することにより、接着層32及び犠牲層30に結合された厚さ1μmの圧電体膜24が剥離され、圧電体膜24を含む圧電体膜構造体10tと、厚さ499μmの圧電体とに分離される。
【0068】
圧電体膜24が剥離された後の圧電体は、圧電体膜構造体の製造に再び利用することができる。1枚の圧電体から多量の圧電体膜構造体を製造することができ、支持部材に接合された圧電体を研磨して圧電膜を形成する場合に比べ、圧電体材料を廃棄する量が減るので、圧電体膜を効率よく形成することができる。
【0069】
次いで、図3(g)に示すように、圧電体膜24の上にIDT電極や反射器を含む電極構造16と、電極構造16のIDT電極に接続される配線電極18とを形成する。
【0070】
例えば、イオン注入層22で剥離された圧電体膜24の分割面24aを、CMPにより表面粗さRaが1nm以下になるように研磨した後、リフトオフ法を用いて圧電体膜24の分割面24aに、板波共振子電極を含む電極構造16と配線電極18を形成する。このとき、ウェハには、0.8mm×0.6mmのサイズの板波素子が格子状に配列される。圧電体膜24の一対の主面がいずれも鏡面であり、電極によって励振された弾性波が乱反射することなく伝搬されるので、損失を小さくできる。
【0071】
次いで、図4(h)に示すように、例えばフォトリソグラフィー法によりマスクパターン36を形成する。マスクパターン36は、電極構造16及び配線電極18を覆う。また、マスクパターン36には、犠牲層30の上に後述する圧電体膜24の貫通孔26を形成するための貫通孔38を形成する。
【0072】
次いで、図4(i)に示すように、マスクパターン36を介して圧電体膜24のエッチングを行い、圧電体膜24に貫通孔26を形成する。
【0073】
次いで、図4(j)に示すように、マスクパターン36及び圧電体膜24の貫通孔38,26を介して、犠牲層30を除去する。
【0074】
例えば、犠牲層30がSiOからなる場合には、フッ素系ガスを用いたRIE(反応性イオンエッチング)を行う。犠牲層30がCuの場合には、過硫酸アンモニウムを用いてエッチングを行う。また、犠牲層30がレジストの場合には、N−メチルピロリドンの混合液を用いてエッチングを行う。
【0075】
次いで、図4(k)に示すように、マスクパターン36を除去した後、ウェハを個々の電子部品に分割する。
【0076】
以上の工程によって、図1に示した電子部品10を複数個同時に製造することができる。
【0077】
例えば、圧電体20として、LiTaO、Z板(90°Yカット)の圧電単結晶基板を用い、IDT電極及び反射器を含む電極構造16として圧電体膜上に厚さ10nmのTi膜を形成し、このTi膜の上に厚さ250nmのAl膜を形成した後、フォトリソグラフィー法により板波共振子電極を形成した。板波共振子電極における電極指のピッチで定まる板波の波長λが7μm、反射器における電極指のピッチで定まる板波の波長λが7μmとしたことによって、共振周波数2GHzの共振子が得られた。
【0078】
上記のように、圧電体として圧電単結晶基板を用い、圧電単結晶基板の平坦な表面上に犠牲層等を形成するので、通常の前工程が使用できる。
【0079】
また、圧電体膜を、スパッタリングやCVD法などで材料を堆積して形成する堆積法ではなく、単結晶の圧電体から剥離することにより形成する。そのため、圧電体膜を堆積法で形成する場合よりも良好なデバイス特性の電子部品を製造することができる。
【0080】
また、支持部材の凹部に犠牲層を形成した後に圧電体を接合する場合には、圧電体を接合する前に犠牲層や支持部材の縁部の平坦化工程が必要となるが、本発明の上記方法においては、圧電体の表面に犠牲層を形成した後に絶縁体を形成するため、平坦化工程が不要となる。
【0081】
また、圧電体の表面に接着層を介して絶縁体を形成した後に圧電体から圧電体膜を剥離するため、圧電体に支持部材を接合した状態で圧電体を研磨する場合と比べると、圧電体(圧電体膜)と絶縁体との間の接着層との界面に力が作用する時間が短く、圧電体膜と絶縁体との密着性、信頼性が確保できる。
【0082】
また、直接接合によって圧電体を接合する場合に必要な高価でスループットの低い接合装置が、不要である。
【0083】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。
【0084】
例えば、支持部材に貫通孔を設けて犠牲層を除去するようにしてもよい。また、圧電体膜の支持部材側の主面にIDT電極などの素子パターンや配線パターンの一部を形成してもよい。
【0085】
本発明は、ラム波やSH波等の板波を用いる板波デバイスに限らず、ジャイロ、RFスイッチなどの振動部、可動部が絶縁体の支持部材から浮いた状態で絶縁体の支持部材に保持された電子部品に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】電子部品の断面図である。(実施例)
【図2】電子部品の製造工程を示す断面図である。(実施例)
【図3】電子部品の製造工程を示す断面図である。(実施例)
【図4】電子部品の製造工程を示す断面図である。(実施例)
【図5】電子部品の断面図である。(従来例1)
【図6】電子部品の断面図である。(従来例2)
【図7】電子部品の製造工程を示す断面図である。(従来例1)
【符号の説明】
【0087】
10 電子部品
10s 圧電構造体
10t 圧電体膜構造体
20 圧電体
20a 表面
22 イオン注入層
24 圧電体膜
24s 第2部分
24t 第1部分
30 犠牲層
32 接着層
34 支持部材(絶縁体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な表面を有する圧電体を用意する、第1の工程と、
前記圧電体の前記表面からイオンを注入して、前記圧電体内において前記表面から所定の深さの領域にイオン注入層を形成する、第2の工程と、
前記圧電体の前記表面の一部の上に犠牲層を形成する、第3の工程と、
前記圧電体の前記表面及び前記犠牲層に絶縁体を形成して圧電構造体を形成する、第4の工程と、
前記圧電体を加熱して前記圧電体を前記イオン注入層で分離して、前記圧電体から分離された前記圧電体の前記表面と前記イオン注入層との間の圧電体膜と前記絶縁体とが結合された圧電体膜構造体を形成する、第5の工程と、
前記圧電体膜構造体の前記圧電体膜の前記イオン注入層に沿って形成された分割面のうち少なくとも前記犠牲層に対向する部分に電極を形成する、第6の工程と、
前記圧電体膜構造体から前記犠牲層を除去する、第7の工程と、
を備えたことを特徴とする、電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記第4の工程において、
前記圧電体の前記表面及び前記犠牲層の上に、前記圧電体とは反対側に前記圧電体の前記表面よりも粗い表面を有する接着層を形成した後、前記接着層の前記圧電体の前記表面よりも粗い前記表面に前記絶縁体を形成することにより、前記圧電体の前記表面及び前記犠牲層に前記接着層を介して前記絶縁体が形成され前記圧電構造体を形成することを特徴とする、請求項1に記載の電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記接着層がスパッタリング又はCVDにより形成されることを特徴とする、請求項2に記載の電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記接着層は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、金属酸化膜及び金属窒化膜から選択された少なくとも1種からなることを特徴とする、請求項2又は3に記載の電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記第4の工程において、前記圧電体の前記表面及び前記犠牲層の上に、前記接着層を形成した後に、前記接着層の前記圧電体とは反対側の表面を粗面処理して、前記接着層の前記圧電体の前記表面よりも粗い前記表面を形成することを特徴とする、請求項2乃至4いずれか一項に記載の電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記絶縁体が溶射法により形成されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電子部品の製造方法。
【請求項7】
溶射法により形成された前記絶縁体の粒界及び空孔を充填する工程をさらに有することを特徴とする、請求項6に記載の電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記絶縁体がCVDにより形成されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電子部品の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁体がスピン塗布により形成されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の電子部品の製造方法。
【請求項10】
前記絶縁体が、SOGをスピン塗布することにより形成されることを特徴とする、請求項9に記載の電子部品の製造方法。
【請求項11】
支持部材と、
互いに平行な一対の主面を有し、前記支持部材に支持されていない第1部分と前記支持部材に支持された第2部分とを含む圧電体膜と、
前記支持部材と前記圧電体膜の前記第2部分との間に配置され、前記支持部材と前記圧電体膜の前記第2部分とに接している接着層と、
前記圧電体膜の前記第1部分の少なくとも一方の前記主面に形成された電極と、
を備え、
前記接着層は、前記支持部材に接している面の表面粗さが、前記前記圧電体膜の前記第2部分に接している面の表面粗さよりも大きくされていることを特徴とする、電子部品。
【請求項12】
前記圧電体膜は、一対の前記主面がいずれも鏡面であることを特徴とする、請求項11に記載の電子部品。
【請求項13】
前記電極により、前記圧電体膜を伝搬する板波が励振されることを特徴とする、請求項11又は12に記載の電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−56736(P2010−56736A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218053(P2008−218053)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】