説明

電子部品用トレイ

【課題】十分な耐電防止性を確保しつつ、コンタミネーションの発生を大幅に低減し得る電子部品用トレイを提供する。
【解決手段】磁気ヘッドアセンブリ2を搬送するための電子部品用トレイ1であって、直径が15μm以下で、かつ繊維長と直径の比が100以上12000以下の範囲内であるステンレス繊維を含有するポリカーボネート樹脂で成形されている。磁気ヘッドアセンブリ2は、電子部品用トレイ1に複数形成されたヘッド載置部23に載置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ用の磁気ヘッドアセンブリなどの電子部品が搭載されて、電子部品の加工、洗浄、移送および保管などに使用される電子部品用トレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一例である磁気ヘッドアセンブリは、近年のハードディスクの大容量化に伴う高密度記録化に対応して、MRヘッドチップを使用したものからGMRヘッドチップやTMRヘッドチップのような大容量化に対応したヘッドチップを使用したものへと変化してきている。一方、このような大容量化したヘッドチップでは、微弱なノイズ電流が流れただけでも、破壊に至る危険性が高い。したがって、このようなヘッドチップを使用した磁気ヘッドアセンブリの加工、洗浄、移送および保管などに使用される電子部品用トレイ(磁気ヘッド用トレイ)については、従来の磁気ヘッド用トレイ以上に静電気対策や、静電気対策のために樹脂に含有される導電性フィラーに起因したコンタミネーション対策が必須となっている。
【0003】
このため、この種の磁気ヘッド用トレイとして、下記特許文献1に開示された磁気ヘッド用トレイが開発されている。この磁気ヘッド用トレイは、導電性熱可塑性樹脂組成物を成形してなるトレイであって、表面抵抗値が10〜1012Ωであり、純水500ml中に、表面積100〜1000cmのトレイを浸漬し、40KHzの超音波を60秒間印加したときに、表面から脱落する粒径1μm以上のパーティクルの数が5000pcs/cm以下となるように規定されている。この場合、導電性熱可塑性樹脂組成物として、熱可塑性樹脂に、ポリエーテル系高分子型帯電防止剤、導電性フィラー及び炭素フィブリルよりなる群から選ばれた1種又は2種以上の導電性充填材を静電気対策のために配合してなる樹脂組成物が使用される。また、導電性フィラーとしては、特に、繊維径5μm以下、望ましくは2μm以下で、繊維長と直径の比(繊維長を直径で割った値であり、以下、アスペクト比ともいう)が5以上、望ましくは10以上の導電性繊維が好ましく、具体的には、ステンレス繊維、銅繊維、ニッケル繊維などの金属繊維、カーボンウィスカ、酸化チタンウィスカ、炭化珪素ウィスカなどの導電性ウィスカや、チタン酸カリウムウィスカやホウ酸アルミニウムウィスカ等の絶縁性ウィスカの表面に導電性カーボン皮膜や導電性酸化スズ皮膜を形成した複合系導電性ウィスカが使用されている。
【0004】
これにより、この磁気ヘッド用トレイでは、表面抵抗値が10〜1012Ωとなって十分な帯電防止性を確保できるため、磁気ヘッドアセンブリの接触に起因した静電気放電や過度の接触電流の導通を防止できる結果、ヘッドチップに対する電気的損傷が防止されており、また上記した条件下において表面から脱落する粒径1μm以上のパーティクルの数が5000pcs/cm以下となるように規定されているため、ひっかき、摩耗および洗浄によって脱落するパーティクルによる磁気ヘッドアセンブリの物理的ないし化学的な汚染や損傷についても防止されている。
【特許文献1】特開2001−118224号公報(第1−3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本願発明者は、上記公報において使用の可能性については開示されてはいるものの、具体的な技術的内容については開示されていないステンレス繊維を導電性フィラーとして磁気ヘッド用トレイに含有させる構成について着目し、鋭意研究を重ねた。その結果、ステンレス繊維を含有させた樹脂を使用した場合に、十分に低い表面抵抗値を容易に確保できた。しかしながら、上記した数値範囲の10に近いアスペクト比のステンレス繊維(例えば、アスペクト比が30程度のステンレス繊維)を使用したときに、ステンレス繊維の剛性が高くなる。この場合、ステンレス繊維の端部が磁気ヘッド用トレイの表面に露出したり、さらには表面から突出したりすることがあり、磁気ヘッド用トレイを搬送する際には、磁気ヘッド用トレイが他の部品と擦れたり、磁気ヘッド用トレイに磁気ヘッドアセンブリを搭載する際には、他の部品や磁気ヘッドアセンブリが、磁気ヘッド用トレイの表面に露出しているステンレス繊維と接触することに起因して、ステンレス繊維の一部が脱落したり、逆にステンレス繊維によって他の部品や磁気ヘッドアセンブリに削れが発生したりして、コンタミネーションの原因となることを見出した。
【0006】
一方、炭素フィブリル(カーボンナノチューブ)を混合した樹脂では、この問題は解消される。しかしながら、射出成形するときに、金型内の樹脂の流路やキャビティへの樹脂注入口であるゲートが摩耗し、これにより金型の金属粉がトレイに混入して、新たなコンタミネーションが発生することが確認された。このため、本願発明者は、更なる研究の末、上記公報に開示されたステンレス繊維のアスペクト比の数値範囲(5以上、望ましくは10以上)内ではあるものの、この数値範囲の下限値から大きくかけ離れたアスペクト比のステンレス繊維を使用することにより、十分に低い表面抵抗値を確保しつつ、このコンタミネーションの発生を大幅に低減できることを見出した。
【0007】
本発明は、かかる問題点を解決すべくなされたものであり、十分な耐電防止性を確保しつつ、コンタミネーションの発生を大幅に低減し得る電子部品用トレイを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく本発明に係る電子部品用トレイは、電子部品を搬送するための電子部品用トレイであって、直径が15μm以下で、かつ繊維長と当該直径の比が100以上12000以下の範囲内であるステンレス繊維を含有するポリカーボネート樹脂で成形されている。ここで、「電子部品」には、磁気ヘッド、トランジスタ等の半導体素子、および半導体素子やコンデンサ等が実装されて回路が形成された基板アセンブリが含まれるものとする。
【0009】
また、本発明に係る他の電子部品用トレイは、電子部品を搬送するための電子部品用トレイであって、直径が15μm以下で、かつ繊維長と当該直径の比が100以上12000以下の範囲内であるステンレス繊維を含有するポリエーテルイミド樹脂で成形されている。
【0010】
また、本発明に係る他の電子部品用トレイは、電子部品を搬送するための電子部品用トレイであって、直径が15μm以下で、かつ繊維長と当該直径の比が100以上12000以下の範囲内であるステンレス繊維を含有するポリエーテルイミド樹脂およびポリカーボネート樹脂の複合樹脂で成形されている。
【0011】
本発明に係る他の電子部品用トレイは、前記ステンレス繊維と共に潤滑剤を含有する前記樹脂で成形されている。
【0012】
また、本発明に係る電子部品用トレイは、前記潤滑剤としてフッソ系樹脂が混合されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電子部品用トレイによれば、直径が15μm以下で、かつアスペクト比が100以上12000以下の範囲内のステンレス繊維を含有する(ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、またはこれらの複合樹脂)で磁気ヘッド用トレイ1を射出成形することにより、厚み(板厚)内にステンレス繊維を沈み込ませて、表面にステンレス繊維を露出させない構成にすることができる。したがって、この磁気ヘッド用トレイによれば、ステンレス繊維が表面に露出しないため、ステンレス繊維によって十分な導電性(十分に低い表面抵抗値)を確保しつつ、ひっかき、摩耗および洗浄によるステンレス繊維の脱落を確実に防止することができる。
【0014】
また、本発明に係る電子部品用トレイによれば、ステンレス繊維と共に潤滑剤を含有する樹脂で成形されたことにより、含有する潤滑剤によって表面の摺動性(耐摩耗性)を向上させることができ、ステンレス繊維の脱落をより確実に防止することができる。また、この結果、電子部品製造の上での清浄度を向上させることができる。
【0015】
また、本発明に係る電子部品用トレイによれば、潤滑剤としてフッ素系樹脂(例えば、PTFE(四フッ化エチレン樹脂))を使用することにより、摺動性の向上に加えて、耐熱性および耐薬品性についても向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る電子部品用トレイの好適な実施の形態について説明する。なお、本発明に係る電子部品用トレイの一例として、電子部品の一例である磁気ヘッドを搬送するための磁気ヘッド用トレイを例に挙げて説明する。
【0017】
最初に、図1に示す磁気ヘッド用トレイ1に搭載される磁気ヘッドアセンブリ2の概要について図2を参照して説明する。
【0018】
磁気ヘッドアセンブリ2は、不図示のヘッドチップが搭載されたスライダ11と、スライダ11に接着されてこのスライダ11を支持するフレクシャ12と、フレクシャ12に連結されてこのフレクシャ12をハードディスク装置のアーム(図示せず)に固定するためのベースプレート13とを備えて構成されている。また、ベースプレート13には、ハードディスク装置のアームに固定するための固定用孔13aが形成されている。
【0019】
次いで、磁気ヘッド用トレイ1の構成について、図面を参照して説明する。
【0020】
磁気ヘッド用トレイ1は、上記の磁気ヘッドアセンブリ2の加工、洗浄、移送および保管などに使用される磁気ヘッド用トレイであって、一例として、図1に示すように、枠体部21、格子部22および複数のヘッド載置部23を備えている。枠体部21は、同図に示すように、所定の厚みで、かつ平面視長方形に形成されている。格子部22は、枠体部21と同じ厚みに形成された複数(一例として2つ)の縦材24および複数(一例として2つ)の横材25を備え、各縦材24と各横材25とが互いに直交した状態で枠体部21の内側に配設されている。ヘッド載置部23は、複数の横材25のうちの1つの横材25の表面に、この横材25の長手方向に沿って並列して複数(本例では10個)形成されている。各ヘッド載置部23は、ベースプレート13が載置される凹部23aと、ベースプレート13の固定用孔13a内に挿通される柱状突起部23bとを備え、同一の形状に構成されている。
【0021】
また、磁気ヘッド用トレイ1は、直径が15μm以下であってアスペクト比が100以上であるステンレス繊維(図示せず)を含有させたポリカーボネート樹脂を使用して、射出成形によって一体成形されて構成されている。
【0022】
この磁気ヘッド用トレイ1の製造に際しては、図3に示すように、直径が15μm以下で、アスペクト比が100以上のステンレス繊維32がポリカーボネート樹脂33に1つまたは複数(同図では一例として複数)含浸された射出成形用の樹脂ペレット31を使用する。本例では、このステンレス繊維32の一例として、直径が8μmで、繊維長が2.5〜3mmのステンレス繊維32(アスペクト比が312.5〜375のステンレス繊維32)を使用する。この場合、ステンレス繊維32の直径については、15μmを超えたときには、アスペクト比を100以上としたとしても、後述する高い柔軟性を確保できず、磁気ヘッドアセンブリ2や他の部品などを傷付けるおそれがあるため、直径が15μm以下とする必要がある。
【0023】
また、ステンレス繊維32のアスペクト比については100以上としたが、柔軟性を確保するためには、直径については細ければ細い程良いが、第1に、直径の細いステンレス繊維32の製造限界は現在のところ約0.5μmであること、第2に、一般的な射出成形機で使用される樹脂ペレットの長さは長いものでも6mmであり、後述するように繊維長が樹脂ペレット31の長さとほぼ一致することの2点を考慮すると、ステンレス繊維32のアスペクト比の上限値は約12000であると考えられる。
【0024】
この樹脂ペレット31は、図4に示すように、押出機41の中で加熱・加圧されて流動状態となっているポリカーボネート樹脂33を複数本の長尺なステンレス繊維34と共にダイ42を通して連続して押し出し、次いで、この押し出されたポリカーボネート樹脂33をこのポリカーボネート樹脂33に含浸されたステンレス繊維34と共に所定の長さ(2.5〜3mm)にカッター装置43で切断することによって製造される。この製造方法では、上記したように、ポリカーボネート樹脂33と共に押出機から押し出されるステンレス繊維34は線状に押し出されるポリカーボネート樹脂33の内部にその長さ方向に沿って線状のまま埋もれた状態となっているため、押し出されたポリカーボネート樹脂33をカッター装置43で切断されて形成される樹脂ペレット31の内部に埋もれた状態のステンレス繊維32は、樹脂ペレット31とほぼ同じ長さ(2.5〜3mm)に形成されて、そのアスペクト比が(312.5〜375)となる。この場合、樹脂ペレット31は、磁気ヘッド用トレイ1の必要な電気抵抗値(表面抵抗値)にもよるが、例えば、ステンレス繊維32の含有量が5重量%以上15重量%以下の範囲内となるように形成して、十分な表面抵抗値10Ω以上1012Ω以下の範囲内を確保するのが好ましい。
【0025】
このようにして製造された樹脂ペレット31を使用して、直径が15μm以下で、かつアスペクト比が100以上12000以下の範囲内のステンレス繊維32を含有するポリカーボネート樹脂33で磁気ヘッド用トレイ1を成形することにより、成形された磁気ヘッド用トレイ1の厚み(板厚)内にステンレス繊維32が沈み込み、磁気ヘッド用トレイ1の表面にステンレス繊維32が露出しない構成にすることができる。これは、ステンレス繊維32は、アスペクト比が100以上であり、従来の磁気ヘッド用トレイで使用されるステンレス繊維よりもその繊維長が極めて長いため、柔軟性も高くなることに起因して、成形時においてポリカーボネート樹脂33の表面から端部が浮き上がる事態が回避されるためであると考えられる。したがって、このようにして製造された磁気ヘッド用トレイ1では、表面にステンレス繊維32が露出しない構成であるため、ステンレス繊維32を使用して十分な導電性(十分に低い表面抵抗値)を確保しつつ、ひっかき、摩耗および洗浄によるステンレス繊維32の脱落が確実に防止されている。また、磁気ヘッド用トレイ1の成形時の金型温度については、なるべく高い温度(例えば、90℃以上120℃以下の範囲内)に設定することが好ましい。実験により、この金型温度で成形することで、ステンレス繊維32を磁気ヘッド用トレイ1の厚み内に確実に沈み込ませることができることが確認されている。
【0026】
また、上記したように、樹脂ペレット31に含浸されているステンレス繊維32は、高い柔軟性を有しているため、磁気ヘッド用トレイ1の成形時に溶融したポリカーボネート樹脂33と共に金型内に押し出される際に、金型内の流路の表面やゲートの表面に接触したとしても、金型を殆ど摩耗させることがない。したがって、ステンレス繊維32の接触に起因した金型の摩耗、ひいては摩耗による金型からの金属粉の発生が大幅に低減されるため、磁気ヘッド用トレイ1への金属粉の混入が十分に回避されて、磁気ヘッド用トレイ1での金属粉の混入に起因したコンタミネーションの発生が確実に防止されている。
【0027】
このように、この磁気ヘッド用トレイ1によれば、直径が15μm以下で、かつアスペクト比が100以上12000以下の範囲内に規定されて高い柔軟性を有するステンレス繊維32を含有させたポリカーボネート樹脂33で成形されることによって、厚み(板厚)内にステンレス繊維32が沈み込んで、表面にステンレス繊維32が露出しない構成となるため、十分な導電性(十分に低い表面抵抗値)を確保しつつ、ひっかき、摩耗および洗浄によるステンレス繊維32の脱落を確実に防止することができる。また、この磁気ヘッド用トレイ1によれば、高い柔軟性を備えたステンレス繊維32を含有する構成のため、成形時におけるステンレス繊維32の接触に起因した金型からの金属粉の発生が大幅に低減されて、この金属粉の混入が十分に回避されていることから、この金属粉の混入に起因したコンタミネーションの発生を確実に防止することができる。
【0028】
なお、樹脂ペレット31を形成する樹脂材料としてポリカーボネート樹脂33のみを使用する構成について上記したが、ポリカーボネート樹脂33に潤滑剤を混合させた樹脂ペレット31を使用することもできる。この構成により、磁気ヘッド用トレイ1も潤滑剤を含有する構成となるため、含有する潤滑剤によって表面の摺動性(耐摩耗性)が向上して、ステンレス繊維32の脱落をより確実に防止することができる結果、電子部品製造の上での清浄度を向上させることができる。また、潤滑剤としてフッ素系樹脂(例えば、PTFE(四フッ化エチレン樹脂))を使用することにより、摺動性の向上に加えて、耐熱性および耐薬品性についても向上させることができる。
【0029】
また、樹脂ペレット31を形成する樹脂材料としてポリカーボネート樹脂33を使用する構成について上記したが、ポリカーボネート樹脂33に代えて、ポリエーテルイミド樹脂を使用することもできるし、複合樹脂(ポリエーテルイミド樹脂とポリカーボネート樹脂との複合樹脂)を使用することもできる。これらの樹脂を使用した樹脂ペレット31で成形された磁気ヘッド用トレイ1によれば、ポリカーボネート樹脂33で成形されたときよりも耐熱性が向上するため、ポリカーボネート樹脂33で形成された樹脂ペレット31と同様にして、ステンレス繊維32の脱落やコンタミネーションの発生を防止しつつ、磁気ヘッドアセンブリ2の製造工程におけるスライダ11とフレクシャ12の接続部の乾燥工程においても使用することができる。また、磁気ヘッド用トレイ1の使用目的により、ポリカーボネート樹脂33、ポリエーテルイミド樹脂、およびポリエーテルイミド樹脂とポリカーボネート樹脂との複合樹脂以外の樹脂を使用して磁気ヘッド用トレイ1を成形してもよいのは勿論である。
【0030】
また、電子部品用トレイの一例として、磁気ヘッドアセンブリ2を収容可能に構成されて、この収容された磁気ヘッドアセンブリ2を搬送するために使用される磁気ヘッド用トレイ1を例に挙げて説明したが、本発明に係る電子部品用トレイは、磁気ヘッド用トレイ1のヘッド載置部23の形状を、収納する電子部品の形状に合わせて形成することにより、ICなどの半導体装置の収容・搬送や、トランジスタなどの半導体素子の収容・搬送に適用することもできるし、また半導体素子などで構成された電子回路が形成された基板の収容・搬送にも適用できるのは勿論である。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を挙げて本発明に係る磁気ヘッド用トレイ1について詳細に説明する。
【0032】
[実施例1〜4および比較例1〜2]
まず、押出機の中で加熱・加圧されて流動状態となっているポリカーボネート樹脂を図5に示す繊維径(繊維の直径)のステンレス繊維と共にダイを通して連続して押し出し、次いで、この押し出されたポリカーボネート樹脂をこのポリカーボネート樹脂に含浸されたステンレス繊維と共に所定の長さ(同図に示す繊維長さと同じ)にカッター装置で切断することにより、同図に示す繊維混合比(重量%。同図ではwt%と表記している)の樹脂ペレットを作製した。続いて、この作製した樹脂ペレットを使用して、実施例1〜4および比較例1〜2のそれぞれについて、平板状のサンプルおよび磁気ヘッド用トレイのサンプルを射出成形によって作製し、実施例1〜4および比較例1〜2に対して下記の試験を実施した。
【0033】
[アルミニウム板の損傷試験]
作製した実施例1〜4および比較例1〜2についての各平板状のサンプルをアルミニウム板に載置し、荷重100グラムを加えた状態で20mmの距離を10往復させることで、各サンプルがアルミニウム板に与える損傷の程度について観察した。この試験結果を図5に示す。なお、◎を付したサンプルはアルミニウム板の表面を全く損傷させなかったものであり、○を付したサンプルはアルミニウム板の表面に許容範囲内の傷(具体的には5本以下で、かつ浅い傷)を与えたものであり、×を付したサンプルはアルミニウム板の表面に許容範囲を超える傷(具体的には6本以上の傷か、または1本以上の深い傷)を与えたものである。
【0034】
[異物の付着試験]
作製した実施例1〜4および比較例1〜2についての磁気ヘッド用トレイのサンプルに対して、磁気ヘッドアセンブリ2の着脱を1000回実行して、磁気ヘッド用トレイおよび磁気ヘッドアセンブリ2への異物の付着状況を観察した。この試験結果を図5に示す。なお、○を付したサンプルは異物の付着が観察されなかったものであり、△を付したサンプルは異物の僅かな付着が観察されたものであり、×を付したサンプルは異物の多量の付着が観察されたものである。
【0035】
上記の各試験結果によれば、図5に示すように、直径が15μm以下で、かつアスペクト比が100以上(本実施例では113.3以上1200以下の範囲内)のステンレス繊維を含有する樹脂ペレットで作製された実施例1〜4の各サンプルでは、アルミニウム板に対する損傷を許容範囲内に抑えることができると共に、着脱を繰り返したときの磁気ヘッド用トレイおよび磁気ヘッドアセンブリ2への異物の付着についても十分に低いレベルに抑制できることが確認される。
【0036】
一方、直径が15μmを超えるステンレス繊維を含有する樹脂ペレットで作製された比較例1のサンプルでは、このステンレス繊維のアスペクト比が100以上であったとしても、ステンレス繊維の柔軟性が低下することに起因して、アルミニウム板に対して許容範囲を超える損傷を与えること、および着脱を繰り返したときに磁気ヘッド用トレイおよび磁気ヘッドアセンブリ2への異物の付着が発生することが確認される。また、アスペクト比が100未満のステンレス繊維を含有する樹脂ペレットで作製された比較例2のサンプルでは、このステンレス繊維の直径が15μmであったとしても、やはりステンレス繊維の柔軟性が低下するため、アルミニウム板に対して許容範囲を超える損傷を与えること、および着脱を繰り返したときに磁気ヘッド用トレイおよび磁気ヘッドアセンブリ2への異物の付着が発生することが確認される。
【0037】
また、実施例1〜4および比較例1〜2の各サンプルは、5重量%以上(具体的には10重量%以上)のステンレス繊維を含有しているため、その表面抵抗値が十分に低い抵抗値(1012Ω以下)に維持されていることが抵抗値測定試験で確認されている。
【0038】
また、各実施例1〜4および比較例1〜2ではポリカーボネート樹脂を使用したが、この樹脂に代えて、ポリエーテルイミド樹脂、またはポリエーテルイミド樹脂およびポリカーボネート樹脂の複合樹脂を使用しても、上記各試験について、ポリカーボネート樹脂を使用したときと同様の結果となることが実験によって確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】磁気ヘッド用トレイ1の斜視図である。
【図2】磁気ヘッド用トレイ1の拡大斜視図、および磁気ヘッドアセンブリ2の斜視図である。
【図3】磁気ヘッド用トレイ1の製造に使用される樹脂ペレット31の斜視図である。
【図4】樹脂ペレット31の製造方法を説明するための説明図である。
【図5】実施例1〜4および比較例1〜2に使用されるステンレス繊維の構成と、各試験結果とを示す試験結果図である。
【符号の説明】
【0040】
1 磁気ヘッド用トレイ
2 磁気ヘッドアセンブリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品を搬送するための電子部品用トレイであって、
直径が15μm以下で、かつ繊維長と当該直径の比が100以上12000以下の範囲内であるステンレス繊維を含有するポリカーボネート樹脂で成形されている電子部品用トレイ。
【請求項2】
電子部品を搬送するための電子部品用トレイであって、
直径が15μm以下で、かつ繊維長と当該直径の比が100以上12000以下の範囲内であるステンレス繊維を含有するポリエーテルイミド樹脂で成形されている電子部品用トレイ。
【請求項3】
電子部品を搬送するための電子部品用トレイであって、
直径が15μm以下で、かつ繊維長と当該直径の比が100以上12000以下の範囲内であるステンレス繊維を含有するポリエーテルイミド樹脂およびポリカーボネート樹脂の複合樹脂で成形されている電子部品用トレイ。
【請求項4】
前記ステンレス繊維と共に潤滑剤を含有する前記樹脂で成形されている請求項1から3のいずれかに記載の電子部品用トレイ。
【請求項5】
前記潤滑剤としてフッソ系樹脂が混合されている請求項4記載の電子部品用トレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−40474(P2009−40474A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208181(P2007−208181)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】