説明

電子部品用樹脂付着防止組成物

【課題】生体及び環境への影響が少ない炭素数が6以下のポリフルオロアルキル基等を有する不飽和化合物から導かれる重合単位を有する重合体を含む電子部品用樹脂付着防止組成物であって、従来のポリフルオロアルキル基の炭素数が8以上の不飽和化合物から導かれる重合単位を有する重合体を含む組成物と同等の性能を有する電子部品用樹脂付着防止組成物の提供。
【解決手段】下記式(a)で表される化合物から導かれる重合単位(A)を有する重合体を含む、電子部品用樹脂付着防止組成物。
CH2=C(R1)−COO−(CH2)n−Rf・・・式(a)
式(a)中、R1:ハロゲン原子又はトリフルオロメチル基、Rf:主鎖炭素数6以下のポリフルオロアルキル基又はポリフルオロエーテル基、n:0〜6の整数。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の被覆に用いられる樹脂が、目的外の部分へ浸入及び付着することを防ぐためのものである。特に、電子部品の封止時に、目的外の部分に樹脂が付着することを防止するための前処理剤として用いられる電子部品用樹脂付着防止組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板に搭載された電子部品素子の表面は、防湿及び保護の目的からエポキシ樹脂等による被覆がなされてきた。また、ここでエポキシ樹脂が電子部品のリードや電極に付着すると接触不良や半田づけに障害を起こすので、リードや電極に樹脂が付着するのを防ぐために付着防止剤の塗布が行われてきた。
【0003】
付着防止剤としては、従来、種々のものが用いられている。例えば、シリコーン系のものやフッ素系のものが挙げられる。しかし、シリコーン系の付着防止剤は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の付着防止性が低いばかりでなく、半田特性が悪く、リード線に残ったシリコーン系付着防止剤が導電不良を生じさせ得る欠点を有している。これに対して、フッ素系の付着防止剤は表面張力が低く付着防止力が優れ、かつ半田特性も優れている(特許文献1等参照)。
【0004】
また、付着防止剤はリード線上の特性、つまり金属表面での特性が注目されているが、最近の表面実装形の電子部品素子にはリード線が存在しない。これに対してフッ素系の付着防止剤は表面張力が低いので、セラミックパッケージ表面上でも優れた付着防止力を発揮する。そのためフッ素系の付着防止剤は非常に有効である。
【0005】
一方、米国環境保護庁(USEPA)が、野生動物や人の血液を含め、種々の環境から検出されるパーフロオロオクタン酸(PFOA)の安全性に関する予備リスク調査報告書を2003年3月に公開した。報告書では、PFOAの発生の恐れのあるパーフルオロアルキル基の炭素数が8であるものについて、生体及び環境への影響が指摘された。そして、2006年1月には、PFOAとその類縁物質、及びこれらの前駆体物質の環境中への排出削減と製品中の含有量削減計画への参加をフッ素樹脂メーカー等に提唱している。
【0006】
【特許文献1】特開平07−018243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これに対してパーフルオロアルキル基の炭素数が6以下になると、生体及び環境へのリスクが大きく低下する。しかし、重合体中のパーフルオロアルキル基に起因する疎水性、疎油性などの性能は、パーフルオロアルキル基の炭素数が8以上であると高いが、炭素数が6以下であると著しく低下する。これは、炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基が結晶性を持つためと考えられる。
したがってパーフルオロアルキル基の炭素数が6以下であって、かつ疎水性、疎油性などの性能が良好である付着防止剤の開発が望まれる。
【0008】
本発明は、生体及び環境への影響が少ない炭素数が6以下のポリフルオロアルキル基等を有する不飽和化合物から導かれる重合単位を有する重合体を含む電子部品用樹脂付着防止組成物であって、従来のポリフルオロアルキル基の炭素数が8以上の不飽和化合物から導かれる重合単位を有する重合体を含む組成物と同等の性能を有する電子部品用樹脂付着防止組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、パーフルオロアルキル基の炭素数が6以下であっても、その構造が特定のものであれば、炭素数が8以上のものと同等の性能を有し、安全性が高く樹脂付着防止性能も高い電子部品用樹脂付着防止組成物が得られることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の電子部品用樹脂付着防止組成物を提供する。
本発明の電子部品用樹脂付着防止組成物は、下記式(a)で表される化合物から導かれる重合単位(A)を有する重合体を含む。
CH2=C(R1)−COO−(CH2)n−Rf・・・式(a)
式(a)中、
1:ハロゲン原子又はトリフルオロメチル基
f:主鎖炭素数6以下のポリフルオロアルキル基又はポリフルオロエーテル基
n:0〜6の整数。
【0011】
また、前記重合体は、前記重合単位(A)と、下記式(b)で表される化合物から導かれる重合単位(B)とを有するのが好ましい。
CH2=C(R2)−COO−(CH2)n−Rf・・・式(b)
式(b)中、
2:水素原子又はメチル基
f:主鎖炭素数6以下のポリフルオロアルキル基又はポリフルオロエーテル基
n:0〜6の整数。
【0012】
また、前記重合体を構成する前記重合単位(A)及び前記重合単位(B)の合計量が、前記重合体において90質量%以上であるのが好ましい。
また、前記重合単位(A)の質量が、前記重合体において30質量%以上であるのが好ましい。
【0013】
本発明の電子部品用樹脂付着防止組成物は、付着を防止する樹脂がエポキシ樹脂であるのが好ましい。
【0014】
また、本発明は、リード線及び電子部材の表面の少なくとも一部に前記のいずれかに記載の電子部品用樹脂付着組成物からなる被膜を形成し、その後、封止用樹脂からなる被膜を形成する工程を具備する製造方法によって製造された、前記リード線及び前記電子部材への前記封止用樹脂の付着が防止された電子部品材料も提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、式(a)で表される化合物から導かれる重合単位(A)を有する重合体を使用することで、生体及び環境への影響が少ない炭素数が6以下のポリフルオロアルキル基又はポリフルオロエーテル基を有する不飽和化合物を用いながらも、従来のポリフルオロアルキル基の炭素数が8以上の不飽和化合物から導かれる重合単位を有する重合体を含む樹脂付着防止組成物と同等の性能を有する電子部品用樹脂付着防止組成物の提供を可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の電子部品用樹脂付着防止組成物(以下、「本発明の樹脂付着防止剤」ともいう。)は、被膜成分として特定の重合体(以下、「本発明の重合体」ともいう。)を含む。本発明の重合体は、下記式(a)で表される化合物から導かれる重合単位(A)を有する。なお、本明細書において式(a)で表される化合物を化合物(a)とも記す。他の式で表される化合物も同様である。
【0017】
CH2=C(R1)−COO−(CH2)n−Rf・・・式(a)
式(a)中、
1:ハロゲン原子又はトリフルオロメチル基
f:主鎖炭素数6以下のポリフルオロアルキル基又はポリフルオロエーテル基
n:0〜6の整数。
【0018】
式(a)で表される化合物(a)から導かれる重合単位(A)は、次のように表される重合単位である。
【0019】
【化1】

【0020】
式(a)において、Rfは主鎖炭素数6以下のポリフルオロアルキル基又はポリフルオロエーテル基である。
【0021】
ポリフルオロアルキル基とは、主鎖の炭素数(側鎖を含まない炭素数)が1〜6のアルキル基に対応するフッ素置換数2以上の基であり、直鎖構造又は分岐構造のいずれであってもよい。例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルなどの直鎖又は分岐構造のアルキル基に対応する部分フルオロ置換又はパーフルオロ置換アルキル基などが挙げられる。分岐構造のポリフルオロアルキル基としては、イソプロピル基、3−メチルブチル基のパーフルオロ置換アルキル基などが挙げられる。
また、ポリフルオロエーテル基とは、上記ポリフルオロアルキル基中及びポリフルオロアルキル基中及び結合末端の少なくとも1箇所以上の炭素−炭素原子間にエーテル性酸素原子が挿入された基を意味する。例えば、オキシポリフルオロエチレン、オキシポリフルオロプロピレンなどのオキシポリフルオロアルキレン繰り返し単位を有する基などが挙げられる。
【0022】
fは実質的に全フッ素置換されたパーフルオロアルキル基(以下、RFとも記す)であることが好ましく、Rfは直鎖構造又は分岐構造のいずれであってもよい。
【0023】
式(a)においてnは0〜6の整数である。合成が容易であるという観点から0〜2の整数であることが好ましい。
【0024】
式(a)においてR1はハロゲン原子(F、Cl、Br、I又はAt)又はトリフルオロメチル基である。中でも化合物の安定性、取り扱いの容易さの観点から、フッ素原子、塩素原子又はトリフルオロメチル基であることが好ましく、樹脂付着防止性能が良好であるという観点から、嵩高い構造のものであることがより好ましく、具体的には塩素原子又はトリフルオロメチル基であることがより好ましく、塩素原子であることがさらに好ましい。
【0025】
上記式(a)で表される化合物の具体例として、以下の化合物が挙げられるが、本発明における化合物(a)はこれらに限定されるものではない。
これら化合物におけるR1、n及びRfの組み合わせを第1表に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
本発明の重合体は、重合単位(A)の他に、さらに下記化合物(b)から導かれる重合単位(B)を1種以上有していてもよい。
【0028】
CH2=C(R2)−COO−(CH2)n−Rf・・・式(b)
式(b)中、
2:水素原子又はメチル基
f:主鎖炭素数6以下のポリフルオロアルキル基又はポリフルオロエーテル基。
n:0〜6の整数。
【0029】
式(b)で表される化合物から導かれる重合単位(B)は、次のように表される重合単位である。
【0030】
【化2】

【0031】
化合物(b)におけるR2は水素原子又はメチル基であり、好ましくはメチル基である。nは0〜6の整数であり、合成が容易であるという観点から0〜2の整数であることがより好ましい。Rfは、化合物(a)で説明したRfと同意である。
【0032】
このような好ましい化合物(b)の具体例を以下に示すが、化合物(b)はこれらに限定されるものではない。
これら化合物におけるn、R2及びRfの組み合わせを第2表に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
本発明の重合体を構成する前記重合単位(A)の前記重合体における質量が30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。重合単位(A)の質量比率が上記範囲内であると、本発明の樹脂付着防止剤の樹脂付着防止性能がより良好だからである。なお、前記重合体における前記重合単位(A)の質量比率(前記重合体の全質量に対する、そこに含まれる前記重合単位(A)の質量の百分率)は、本発明の重合体を製造する際に用いる化合物(a)及び化合物(b)並びに後述する化合物(c)の実質的な重合仕込み量(原料としての使用量)から、仕込んだ化合物の全量が本発明の重合体となるとみなして算出することができる。後述する重合単位(B)及び重合単位(C)の前記重合体における質量比率、並びに前記重合単位(A)及び前記重合単位(B)の合計量についても同様に算出するものとする。
【0035】
本発明の重合体を構成し得る前記重合単位(B)の前記重合体における質量が70質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0036】
本発明の重合体が重合単位(B)を有する場合は、本発明の重合体を構成する前記重合単位(A)及び前記重合単位(B)の合計量が、前記重合体において50質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0037】
本発明の重合体を構成する前記重合単位(A)の質量比率が、前記重合単位(B)の質量比率を上回っていることが好ましい。
【0038】
本発明の重合体は、上記のような化合物(a)及び化合物(b)から導かれる重合単位(A)及び重合単位(B)の他に、さらにこれら以外の化合物(c)から導かれる重合単位(C)を1種又は2種以上含んでいても構わない。この化合物(c)は、前記化合物(a)及び前記化合物(b)と重合体を形成し得る他の化合物であれば特に限定されない。
【0039】
このような化合物(c)としては、例えばRf基を持たず重合性の基を有する化合物が挙げられる。
具体的には、スチレン系化合物(c1)、前記重合単位(A)及び前記重合単位(B)について例示した化合物以外の(メタ)アクリル酸系化合物(c2)などの不飽和基を有する化合物(c)及びさらに他の重合性化合物(c3)が挙げられる。このような化合物(c)の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0040】
上記(c1)としては、下記式で表わされるスチレン系化合物が挙げられる。
【化3】

【0041】
式中、R3:−H、CH、−Cl、−CHO、−COOH、−CH2Cl、−CH2NH2、−CH2N(CH3)2、−CH2N(CH3)3Cl、−CH2NH3Cl、−CH2CN、−CH2COOH、−CH2N(CH2COOH)2、−CH2SH、−CH2SO3Na又は−CH2OCOCH3である。
【0042】
上記(c2)としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−クロロアクリル酸及び下記式で表わされる(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリル酸エステル及びメタアクリル酸エステルの両方又はどちらか一方を意味する。
【0043】
CH2=CH(R2)−COO−R4
【0044】
式中、R2:H又はCH3である。
また、R4:−CH3−CH2CH2N(CH3)2、−(CH2)mH(m=2〜20の整数)、−CH2CH(CH3)2、−CH2−C(CH3)2−OCO−Ph(「Ph」はフェニル基を意味する。以下同様である。)、−CH2Ph、−CH2CHOPh、−CH2N(CH33Cl、−(CH2CH2O)mCH3(m=2〜20の整数)、−(CH2)2−NCO、
【0045】
【化4】

【0046】
である。
【0047】
上記(c2)としては、さらにアクリル酸ジエステル等の(メタ)アクリル酸のポリエステル及び下記式で表わされる化合物なども挙げられる。
【0048】
CH2=CH(R2)−CONH−R5
【0049】
式中、R2:H又はCH3、R5:−Cm2m+1(m=2〜20の整数)又は−Hである。
【0050】
さらに他の重合性化合物(c3)としては、上記(c1)及び(c2)以外のビニル化合物、例えば塩化ビニル(CH2=CHCl)、アクリロニトリル(CH2=CHCN)などが挙げられる。
また、重合性化合物(c3)としては、以下のようなエポキシ基を有する化合物も挙げられる。
【0051】
【化5】

【0052】
本発明の重合体は上記のような化合物(c)から導かれる重合単位(C)を、その種類によっても異なるが、前記重合体において50質量%以下で含むことができ、10質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
本発明の重合体の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)で1×103〜1×107であることが好ましく、1×105〜1×106であることが好ましい。分子量がこのような範囲であると、本発明の樹脂付着防止剤が十分に性能を発揮することができるからである。一方、分子量が大きすぎると本発明の重合体の溶媒への溶解性が悪くなる傾向があり好ましくない。
【0054】
本発明の重合体は、上記のような化合物(a)から導かれる重合単位(A)を含み、化合物(b)から導かれる重合単位(B)を含んでよく、さらに付加的に化合物(c)から導かれる重合単位(C)を含んでよいこと以外は、重合形態など特に制限されない。
重合形態は特に制限されず、ランダム、ブロック、グラフトなどのいずれでもよいがランダム重合体であることが好ましい。
【0055】
本発明の重合体の製造方法も特に限定されず、各種の公知の方法を採用し得る。例えば重合性の不飽和基を有する化合物を用いる場合は、各化合物中の不飽和基に基づき付加重合させることができる。重合に際しては、公知の不飽和化合物の付加重合条件を適宜に採択して行うことができる。例えば重合開始源として有機過酸化物、アゾ化合物、過硫酸塩等の通常の開始剤が利用できる。
【0056】
本発明の樹脂付着防止剤の製造方法も限定されない。例えば本発明の重合体を公知の溶媒に溶解させて得ることができる。また、例えば化合物(a)を溶媒に添加し、この溶媒を重合媒体とする溶液重合によって本発明の重合体を製造し、本発明の重合体を含む前記溶媒を得て、これを本発明の樹脂付着防止剤とすることもできる。乳化重合させることで本発明の重合体を含む溶液を得て、これを本発明の樹脂付着防止剤とすることもできる。ここで得られた本発明の重合体を分離し、他の溶媒に溶解させてもよい。また、重合原料の化合物が、塩化ビニルなどのガスである場合には、圧力容器を用いて、加圧下に連続供給してもよい。
【0057】
本発明の樹脂付着防止剤を形成する溶媒は、本発明の重合体を溶解又は分散できるものであればよく、特に限定されず、各種有機溶媒、水又はこれらの混合媒体などが挙げられる。特に本発明の重合体に含まれるRf基の鎖長が短い場合には、アルコール以外の極性溶媒を主溶媒とすることができる。具体的には、ケトン系としてはアセトンやメチルエチルケトン、エステル系としては酢酸エチル、エーテル系としてはテトラヒドロフランなどが挙げられる。フッ素系溶媒であれば、重合体中のR基の鎖長に関係なく選ぶことが可能である。ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)及び(パーフルロロカーボン(PFC)の使用も可能であるが、社会的環境問題を考慮するとハイドロフルオロカーボン(HFC)又はハイドロフルオロエーテル(HFE)などが好ましい。使用可能なフッ素系溶媒の具体例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。
【0058】
m-キシレンヘキサフルオリド(以下、m-XHFと記す。)
p-キシレンヘキサフルオリド(以下、p-XHFと記す。)
CF3CH2CF2CH3
CF3CH2CF2
613OCH3
613OC25
37OCH3
37OC25
613
CF2HCF2CH2OCF2CF2
CF3CFHCFHCF2CH3
CF3(OCF2CF2)n(OCF2)mOCF2
817OCH3
715OCH3
49OCH3
49OC25
49CH2CH3
CF3CH2OCF2CF2CF2
(上記例示中、m、nは各々1〜20の整数を表す。)
【0059】
本発明の樹脂付着防止剤は、本発明の重合体を0.1〜20質量%で含有することが好ましく、1〜5質量%で含有することがより好ましい。本発明の樹脂付着防止剤における本発明の重合体の濃度がこの範囲内であると、付着防止性能が十分に発揮でき、本発明の樹脂付着防止剤の安定性も良好である。
本発明の樹脂付着防止剤における本発明の重合体の濃度は最終的濃度であればよく、例えば本発明の樹脂付着防止剤を重合組成物として直接調製する場合には、重合直後の重合組成物の重合体濃度(固形分濃度)が20質量%を超えていてもなんら差し支えない。高濃度の重合組成物は、最終的に上記好ましい濃度となるように適宜に希釈することができる。
【0060】
本発明の樹脂付着防止剤は、その組成物としての安定性、樹脂付着防止性能又は外観等に悪影響を与えない範囲であれば、前記した以外の他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えば被膜表面の腐食を防止するためのpH調整剤、防錆剤、組成物を希釈して使用する場合に液中の重合体の濃度管理をする目的や未処理部品との区別をするための染料、染料の安定剤、難燃剤、消泡剤、又は帯電防止剤等が挙げられる。
【0061】
本発明の樹脂付着防止剤を用いて付着を防止する樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ビスマレイミド樹脂等、電子部品に用いられる各種樹脂が挙げられる。中でもエポキシ樹脂が好ましい。
【0062】
本発明の樹脂付着防止剤は、上記エポキシ樹脂等の付着を防止したい電子部品(例えばリード線等)の例えば一部に塗布して被膜を形成して利用することができる。また、例えば本発明の樹脂付着防止剤を目的及び用途に応じて、任意の濃度に希釈し、リード線又は電子部材の表面の一部に被覆することができる。被覆方法としては一般的な被覆加工方法が採用できる。例えば浸漬塗布、スプレー塗布又はローラー等による塗布等の方法がある。
【0063】
本発明の樹脂付着防止剤の塗布後は、溶媒の沸点以上の温度で乾燥を行うことがより好ましい。無論、被処理部品の材質などにより加熱乾燥が困難な場合には、加熱を回避して乾燥すべきである。なお、熱処理の条件は、塗布する組成物の組成や、塗布面積等に応じて選択すればよい。
【0064】
リード線及び電子部材の表面の少なくとも一部に、本発明の樹脂付着防止剤からなる被膜を形成し、その後、封止用樹脂からなる被膜を形成する工程を具備する製造方法によって電子部品材料を得ることができる。このような工程を具備する製造方法によって電子部品材料は、前記リード線及び前記電子部材への前記封止用樹脂の付着が防止されている。
【実施例】
【0065】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断わりのない限り、以下の実施例の記載において「%」で表示されるものは「質量%」を表すものとする。
【0066】
本発明で使用している化合物を第3表に示す。化合物(a)以外の化合物は、すべて市場から試薬として入手することができる。
【0067】
【表3】

【0068】
〔C6F(Cl)Aの合成〕
α-クロロアクリル酸(1eq)、C6AL(1eq)、シクロヘキサン(0.4wt for C6AL)、p-トルエンスルホン酸・1水和物(0.05eq)、ヒドロキノンを仕込み、共沸脱水により脱水反応を行った。反応終了後、シクロヘキサンを留去した後、t-ブチルカテコールを1000ppm加えて、減圧蒸留を行い、C6F(Cl)Aを得た(1〜2mmHg、57〜64℃)。
【0069】
〔重合体1〜3の合成〕
密閉容器に、第4表に記載の仕込み比(質量部)及び濃度となるように各化合物、重合溶剤(m−XHF)、開始剤(V-601)をそれぞれ仕込み、70℃で18時間以上反応を行った後、メタノールで再沈殿して重合体を取り出した。数回メタノールで洗浄した後、減圧乾燥機で乾燥させ重合体1〜3を得た。
【0070】
【表4】

【0071】
〔比較重合体1〜3の合成〕
各化合物を第5表で示す質量比及び濃度で仕込む以外は、上記重合体1〜3の場合と同様にして比較重合体1〜3を得た。
【0072】
【表5】

【0073】
[樹脂付着防止組成物の調合]
樹脂付着防止剤1〜3及び比較組成物1〜5を、第6表に示した内容で調合した。溶媒には、m−XHFを用いた。
【0074】
【表6】

【0075】
[接触角の測定]
樹脂付着防止剤1〜3及び比較組成物1〜5を常温とし、各々にガラス板を浸漬した。そして1分後に取り出し約110℃で5分間乾燥させ、樹脂付着防止剤又は比較組成物の被膜を有する各ガラス板を得た。
次に各々の種類の被膜を形成した各ガラス板の被膜上にn-ヘキサデカン(n-HD)を滴下し、接触角を測定した。接触角の測定には自動接触角計OCA−20[dataphysics社製]を用いた。評価結果を第6表に示した。
【0076】
[重量平均分子量(Mw)の測定]
重合体1〜3及び比較重合体1〜3の各々を、重合体の濃度が約1質量%になるように、アサヒクリンAK−225(旭硝子株式会社製)を用いて希釈し、測定サンプルとした。昭和電工株式会社製のShodex GPC−104を用いて、以下の測定条件で重量平均分子量(Mw)を測定した。評価結果を第6表に示した。
【0077】
<GPC測定条件>
Separtion Column:LF−604×2
Default Column:KF600RH×2
Clean Liquid:AK-225
Flow Rate:0.2ml/min
標準物質:ポリメチルメタクリレート
【0078】
[樹脂付着防止性能の評価]
長さが約5cmの錫めっきしたリード線を8本用意し、各々のリード線の3cm以上の部分を樹脂付着防止剤1〜3及び比較組成物1〜5の各々に1分間浸漬し、被膜を形成した。
次に、約110℃で5分間乾燥させた後、よく攪拌したエポキシ樹脂組成物にリード線の被膜形成部分の2cmを浸漬した。そして、2mm/sのスピードで引き上げ、約25度の室内で垂直な状態で保持した。結果を第6表に示す。エポキシ樹脂組成物が全く垂れず、浸漬した2cmの部分にエポシキ樹脂組成物が付着したままであったものを「×」、これに対してエポキシ樹脂組成物がリード線の末端まで落ちきったものを「○」とした。なお、ここで使用したエポキシ樹脂組成物は、第7表に示した主剤、希釈剤および硬化剤を第7表中の比率(質量部)で配合して調合したものを用いた。評価は、エポキシ樹脂組成物を配合後、1時間以内に行った。
【0079】
【表7】

【0080】
従来、樹脂付着防止性能は、撥油性と相関があると考えられていた。そのため、撥油性の指標となるn-HDの接触角の高いものほど良好と考えられていた。しかしながら、本発明により、樹脂付着防止性能は撥油性だけに依存するものでないことを明らかとなり、ポリフルオロアルキル基の炭素数が6以下であっても、従来のパーフルオロアルキル基の炭素数が8以上のものと同等の性能を示す樹脂付着防止剤を提供できることがわかった。このことは、本発明が生体及び環境へのリスクが大きく低下させながらも、従来品と同程度の高い性能を有する樹脂付着防止剤の提供を可能にしたことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(a)で表される化合物から導かれる重合単位(A)を有する重合体を含む、電子部品用樹脂付着防止組成物。
CH2=C(R1)−COO−(CH2)n−Rf・・・式(a)
式(a)中、
1:ハロゲン原子又はトリフルオロメチル基
f:主鎖炭素数6以下のポリフルオロアルキル基又はポリフルオロエーテル基
n:0〜6の整数。
【請求項2】
前記重合体が、さらに下記式(b)で表される化合物から導かれる重合単位(B)を有する、請求項1記載の電子部品用樹脂付着防止組成物。
CH2=C(R2)−COO−(CH2)n−Rf・・・式(b)
式(b)中、
2:水素原子又はメチル基
f:主鎖炭素数6以下のポリフルオロアルキル基又はポリフルオロエーテル基
n:0〜6の整数。
【請求項3】
前記重合体を構成する前記重合単位(A)及び前記重合単位(B)の合計量が、前記重合体において90質量%以上である、請求項1又は2に記載の電子部品用樹脂付着防止組成物。
【請求項4】
前記重合体を構成する前記重合単位(A)の質量が、前記重合体において30質量%以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の電子部品用樹脂付着防止組成物。
【請求項5】
付着を防止する樹脂がエポキシ樹脂である、請求項1〜4のいずれかに記載の電子部品用樹脂付着防止組成物。
【請求項6】
リード線及び電子部材の表面の少なくとも一部に請求項1〜5のいずれかに記載の電子部品用樹脂付着組成物からなる被膜を形成し、その後、封止用樹脂からなる被膜を形成する工程を具備する製造方法によって製造された、前記リード線及び前記電子部材への前記封止用樹脂の付着が防止された電子部品材料。

【公開番号】特開2010−24381(P2010−24381A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188781(P2008−188781)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】