説明

電子銃のコンディショニング方法および電子ビーム描画装置

【課題】電子銃の異常放電を効果的に抑制することのできる電子銃のコンディショニング方法および電子ビーム描画装置を提供する。
【解決手段】加熱により電子を放出するカソードと、カソードとの間でバイアス電圧が印加されるウェネルトと、カソードとの間に加速電圧が印加され、カソードから放出された電子を集束して電子ビームを形成するアノードとを備えた電子銃に対し、アノードとウェネルトの間に電圧を印加してこれらの表面に放電を生じさせる電子銃のコンディショニング方法である。アノードとウェネルトの間への電圧の印加は、電圧を所定値まで増加させた後にこの所定値を超えない範囲で電圧を周期的に変化させて行う。そして、放電の停止を確認し所定時間が経過してから、電圧を周期的に変化させての電圧の印加を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子銃のコンディショニング方法および電子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化および大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅は益々狭く微細なものとなっている。半導体素子は、回路パターンが形成された原画パターン(マスクまたはレチクルを指す。以下では、マスクと総称する。)を用い、いわゆるステッパと呼ばれる縮小投影露光装置によって、ウェハ上にパターンを露光転写して回路形成することにより製造される。こうした微細な回路パターンをウェハに転写するためのマスクの製造に電子ビーム描画装置が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置には、電子ビームを放出する電子銃が配置される。電子銃に高電圧が印加されると、電極表面におけるバリや傷などの突起部、塵埃等の付着物などの放電要因に起因した異常放電が発生することがある。また、電極間の絶縁体表面における不純物や付着物などが放電要因となって大きな沿面放電が生じることもある。このような異常放電の発生頻度は、新しい電子銃の取り付け後や交換後または電子銃のメンテナンス後であって、電子銃の使用開始から数十時間程度といった初期段階で高くなる。
【0004】
電子銃に異常放電が発生すると、電子ビーム描画装置の高電圧源に電圧ドロップが引き起こされて稼動停止となる。その結果、電子ビーム描画装置の稼働率が低下する。また、描画工程で本来必要な電子ビームが消えてしまうことにより、描画精度が低下して製品歩留まりも低下する。
【0005】
そこで、こうした異常放電を抑制または防止するために、新しい電子銃を取り付けたり、交換したりした後、あるいは、電子銃をメンテナンスした後に、電子銃に対してコンディショニング処理を行う(例えば、特許文献1および2参照。)。コンディショニング処理は、電極表面や絶縁体表面における放電要因を除去し、電子銃の耐電圧特性を向上するのに効果的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−026112号公報
【特許文献2】特開平3−133040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のコンディショニング方法では、微小放電の要因となる微小な突起部や不純物あるいは付着物を十分に取り去ることができない。このため、電子銃の実使用時において、かかる微小放電の要因に起因した異常放電が発生し易いという問題があった。
【0008】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、電子銃の異常放電を効果的に抑制することのできる電子銃のコンディショニング方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明の目的は、電子銃の異常放電を効果的に抑制することのできるコンディショニング装置を備えた電子ビーム描画装置を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的および利点は、以下の記載から明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、加熱により電子を放出するカソードと、カソードとの間でバイアス電圧が印加されるウェネルトと、カソードとの間に加速電圧が印加され、カソードから放出された電子を集束して電子ビームを形成するアノードとを備えた電子銃に対し、アノードとウェネルトの間に電圧を印加してこれらの表面に放電を生じさせる電子銃のコンディショニング方法であって、
アノードとウェネルトの間への電圧の印加は、電圧を所定値まで増加させた後にこの所定値を超えない範囲で電圧を周期的に変化させて行うものであり、
放電の停止を確認し所定時間が経過してから、電圧を周期的に変化させての電圧の印加を停止することを特徴としている。
【0012】
本発明の第1の態様において、放電の有無は、電子銃内の圧力変化により検知することが好ましい。
【0013】
本発明の第1の態様では、電圧増加時の変化を急峻にして電圧を周期的に変化させることが好ましい。
【0014】
本発明の第2の態様は、加熱により電子を放出するカソード、カソードとの間でバイアス電圧が印加されるウェネルト、カソードとの間に加速電圧が印加され、カソードから放出された電子を集束して電子ビームを形成するアノードを備えた電子銃と、
電子銃のコンディショニングを行うコンディショニング装置とを有する電子ビーム描画装置であって、
コンディショニング装置は、アノードとウェネルトの間に電圧を印加してこれらの表面に放電を生じさせるものであり、
アノードとウェネルトの間に電圧を供給する供給部と、
供給部から供給される電圧を調整する調整部と、
調整部を制御する制御部とを有し、
制御部は、供給部から供給される電圧が、所定値まで増加した後にこの所定値を超えない範囲で周期的に変化するように、また、放電の停止から所定時間経過後に電圧を周期的に変化させての電圧の印加を停止するように調整部を制御することを特徴としている。
【0015】
本発明の第2の態様は、電子銃内の圧力を検出する検出部を有し、
制御部は、検出部の検出結果から放電の有無を判定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の態様によれば、電子銃の異常放電を効果的に抑制することのできる電子銃のコンディショニング方法が提供される。
【0017】
本発明の第2の態様によれば、電子銃の異常放電を効果的に抑制することのできるコンディショニング装置を備えた電子ビーム描画装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の形態における電子銃の構成を模式的に示す図である。
【図2】本実施の形態におけるコンディショニング装置の構成を示す図である。
【図3】本実施のコンディショニング方法を示すフローチャートである。
【図4】本実施の形態のコンディショニング方法において、電子銃に印加する電圧と圧力の時間変化を示す図である。
【図5】(a)〜(c)は、電子銃に印加する電圧波形の例である。
【図6】本実施の形態の電子ビーム描画装置の構成を示す図である。
【図7】本実施の形態における電子ビーム描画方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本実施の形態における電子銃の構成を模式的に示す図である。
【0020】
図1に示すように、電子銃100は、電子光学鏡筒101の上方部に配設されており、一対の第1の電極102(102a、102b)と、第2の電極としてのコラム103と、第3の電極としてのウェネルト(または引き出し電極)104とを有する。
【0021】
電子ビーム描画装置の動作時には、電子銃100および電子光学鏡筒101の内部が高真空(例えば、10−7Pa程度)になる。そして、第1の電極102の先端に取り付けられたカソード105と、アノード107との間に、例えば、50kV程度の高電圧(加速電圧)が印加される。これにより、アノード107は、カソード105から放出された電子を集束して電子ビームを形成する。また、ウェネルト104には、カソード105との間で所望のビーム電流を放出するためのバイアス電圧が印加される。尚、カソード105には、例えば、六硼化ランタン(LaB)が用いられる。
【0022】
第1の電極102a、102bの間に電圧が印加されると、カソード105から熱電子が出射する。この熱電子は、上記高電圧により加速され、電子ビーム106となって電子光学鏡筒101内に放出される。その後、電子ビーム106は、電子光学鏡筒101内に設けられた各種レンズ、各種偏向器、ビーム成形アパーチャなど(図示せず)によって所望の形状に成形された後、描画対象となるマスク(図示せず)上の所望の位置に照射される。
【0023】
電子銃100において、ウェネルト104は、高電圧源108の負極側に接続されており、第1の電極102は、バイアス電源109を介して、高電圧源108の負極側に接続されている。ここで、ウェネルト104は、第1の電極102よりも、例えば、500V程度負側に高くなる。また、アノード107およびコラム103は、高電圧源108の正極側に接続されるとともに接地電位にされる。ここで、図示しないが、第1の電極102a、102bと、コラム103と、ウェネルト104との間は、例えば、セラミックス絶縁体によって絶縁分離されている。
【0024】
電子銃100に上記高電圧が印加されると、電極間、特に、アノード107とウェネルト104との間において、電極表面におけるバリや傷などの突起部、塵埃などの付着物などに起因した異常放電が発生する。あるいは、電極間の絶縁体表面における不純物、付着物などの放電要因に起因した大きな沿面放電が生じる。このような異常放電の発生頻度は、新しい電子銃の取り付け後や交換後、または、電子銃のメンテナンス後において、電子銃の使用を開始してから数十時間といった初期段階で高い。
【0025】
そこで、こうした異常放電を抑制または防止するためコンディショニング処理を行う。以下では、本実施の形態における電子銃のコンディショニング方法について述べる。本実施の形態では、新しい電子銃の取り付け後や交換後、または、電子銃のメンテナンス後にこのコンディショニング方法を実施することが好ましい。
【0026】
図2に、本実施の形態におけるコンディショニング装置の構成を示す。
【0027】
図2において、コンディショニング装置200は、電子銃100のコンディショニングを行う。このコンディショニング装置200は、電子銃100に高電圧を供給する電圧供給手段としての電圧供給部11と、電圧供給部11の電圧値を調整する電圧調整手段としての電圧調整部12とを有する。電圧調整部12は、後述する制御PC17からの指令によって、電圧供給部11の出力電圧を自在に昇圧したり降圧したりする。また、接続部14は、図1の第1の電極102とウェネルト104とを短絡し、電圧供給部11から接続部14によって第1の電極102とウェネルト104に負極の高い電圧が印加される。
【0028】
また、コンディショニング装置200は、真空排気部15と、圧力検出部16とを有する。圧力検出部16は電子銃100内の圧力を検出し、真空排気部15は電子銃100内を所定の減圧状態に調節する。ここで、真空排気部15は、イオンポンプおよびターボ分子ポンプなどの真空ポンプを備えた真空排気装置とすることができ、電子銃100内の真空度を10−1Pa以下の低圧力で制御できることが好ましい。尚、かかる真空排気装置は、電子銃100が搭載される装置、例えば、図1の電子光学鏡筒101の減圧に使用される真空排気装置と兼用されてもよく、または、これとは別個の真空排気装置として設けられていてもよい。一方、圧力検出部16は、通常のB−A真空計のような電離真空計を備えており、電子銃100内の真空度を検出してその検出データを制御PC17に供給する。
【0029】
コンディショニング装置200は、データ処理手段として、例えば、制御用のパーソナルコンピュータ(以下、制御PCと称する。)17を備える。制御PC17は、圧力検出部16で検出された検出値を用いて演算処理を行い、真空排気部15を制御して電子銃100内を所定の真空度にする他、電圧調整部12を制御して電子銃100に所定の電圧を供給する。
【0030】
制御PC17は、例えば、ノートパソコンとすることができ、マイクロプロセッサ(MPU)を内蔵して各種データ処理を行うとともに、メモリ部、入出力部、表示部を備えている。そして、制御PC17は、電子銃100のコンディショニング処理に関する全体制御を行う。例えば、圧力検出部16から送られた電子銃100内の真空度に基づき、真空排気部15を制御して、電子銃100内の真空度が例えば10−5Pa程度の一定圧力になるように制御する。また、制御PC17は、内部にタイマーを備えており、コンディショニング処理の経過時間を制御する。
【0031】
図3は、本実施のコンディショニング方法を示すフローチャートである。また、図4は、このコンディショニング方法において、電子銃100に印加する電圧と圧力の時間変化を示す図である。
【0032】
本実施の形態におけるコンディショニング方法では、制御PC17による自動制御によって、電子銃100の電極間、具体的には、アノード107とウェネルト104との間に電圧を印加する。このとき、本実施の形態においては、まず、印加電圧をコンディショニング電圧まで増加させる(S101)。このときの印加電圧の増加は、単調増加、すなわち、一次関数的増加とすることができる。次いで、コンディショニング電圧を超えない範囲で印加電圧の値を周期的に変化させる(S102)。これにより、電子銃100に放電を発生させる。
【0033】
S102では、例えば、コンディショニング電圧が80kVである場合に、印加電圧の振幅を10kV、周期を1秒とすることができる。すなわち、70〜80kVの範囲で印加電圧を1秒周期で変化させることができる。このときの電圧波形に特に制限はなく、例えば、図5(a)〜(c)に示すいずれの波形も用いることができる。但し、電圧が急峻に増加するほど放電が起こり易いことから、図5(c)、(a)、(b)の順で、図5(c)が最も好ましい。
【0034】
S103では、印加電圧を変化させた後、放電が起きたか否かを判定する。図4に示すように、印加電圧をコンディショニング電圧まで増加した後、この電圧を超えない範囲で電圧を周期的に変化させると、電子銃100内で圧力変化が生じる。これにより、電子銃100に放電が生じたことが検知される。尚、この圧力変化は、図2の圧力検出部16で検出可能である。
【0035】
S103において、圧力変化が生じていると判定された場合には、放電が起こらなくなるまで判定を繰り返す。そして、S103で放電が起こらなくなったと判定された後も、放電が起こらなくなってからの時間tが、所定の無放電時間(例えば、1時間)Tを過ぎるまで判定を繰り返す。
【0036】
時間tが無放電時間Tを過ぎたか否かの判定はS104で行う。無放電時間Tを過ぎていないと判定された場合には、S103に戻って同様の工程を繰り返す。一方、S104で時間tが無放電時間Tを過ぎたと判定された場合には、S105に進み、印加電圧を周期的に変化させるルーチンを停止する。その後、S106で印加電圧を0Vにし、一連のコンディショニング処理を終了する。
【0037】
以上述べたように、本実施の形態における電子銃のコンディショニング方法では、新しい電子銃の取り付け後や交換後、または、電子銃のメンテナンス後において、電子銃のアノードとウェネルトの間に電圧を印加する。このとき、印加する電圧を、コンディショニング電圧まで単調に増加させてから、コンディショニング電圧を超えない範囲でその大きさを周期的に変化させる。コンディショニング電圧は、電子銃の実使用時に印加する電圧よりも高い電圧である。
【0038】
かかるコンディショニング方法は、図2で説明したコンディショニング装置200によって行われる。ここで、コンディショニング装置200は、電子銃100のアノードとウェネルトの間に電圧を印加してこれらの表面に放電を生じさせるものである。コンディショニング装置200は、アノードとウェネルトの間に電圧を供給する電圧供給部11と、電圧供給部11から供給される電圧を調整する電圧調整部12と、電圧調整部12を制御する制御部としての制御PC17とを有する。制御PC17は、電圧供給部11から電子銃100に供給される電圧が、所定値(コンディショニング電圧値)まで増加した後にこの所定値を超えない範囲で周期的に変化するように、また、放電の停止から所定時間(例えば1時間)経過後に電圧を周期的に変化させての電圧の印加を停止するように電圧調整部12を制御する。また、図2のコンディショニング装置200において、圧力検出部16は、電子銃100内の圧力を検出するものであり、制御部PC17は、圧力検出部16の検出結果から放電の有無を判定する。
【0039】
上記のようにして、アノードとウェネルトの間に電圧を印加することで、電子銃に放電を誘起して、電極表面や絶縁体表面における放電要因を除去する。大きさを周期的に変化させての電圧印加は、放電が所定時間起こらなくなったことが確認されるまで行う。このようにすることにより、従来のコンディショニング方法では、十分に取り去ることのできなかった微小放電要因まで除去することが可能である。したがって、電子銃の実使用時において、かかる微小放電要因に起因する異常放電を抑制することができる。
【0040】
尚、特許文献2には、−50kVの直流電源に10〜15kVの交流電源を重畳させてコンディショニングを行うことが記載されている。しかしながら、特許文献2では、電子銃側の終端部をコンディショニングの対象としている。一方、本実施の形態は、電子銃のアノードとウェネルトの間に電圧を印加して、アノードとウェネルトの表面のコンディショニングを行うものであり、特許文献2とは異なる。
【0041】
図6は、本実施の形態の電子ビーム描画装置について、主として描画制御部の構成を示す図である。この電子ビーム描画装置は、図1および図2で説明した本実施の形態の電子銃およびコンディショニング装置を備えており、本実施の形態による電子銃のコンディショニング方法の実施が可能である。
【0042】
図6において、電子ビーム描画装置30の試料室31内には、試料であるマスク基板32が設置されたステージ33が設けられている。ステージ33は、ステージ駆動回路34によりX方向(紙面における左右方向)とY方向(紙面における垂直方向)に駆動される。ステージ33の移動位置は、レーザ測長計等を用いた位置回路35により測定される。
【0043】
試料室31の上方には、電子ビーム光学系40が設置されている。この電子ビーム光学系40は、本実施の形態の電子銃100、各種レンズ37、38、39、41、42、ブランキング用偏向器43、成形偏向器44、ビーム走査用の主偏向器45、ビーム走査用の副偏向器46、および、2個のビーム成形用アパーチャ47、48等から構成されている。
【0044】
電子銃100は、図1の電子銃100に対応するものであり、図2のコンディショニング装置200が接続している。これらによって、電子ビーム描画装置30では、電子銃100のコンディショニングを行うことができる。すなわち、電子銃100のアノードとウェネルトの間に電圧を印加して、電子銃100に放電を誘起する。印加する電圧は、コンディショニング電圧まで単調に増加させてから、コンディショニング電圧を超えない範囲でその大きさを周期的に変化させる。この操作は、放電が所定時間起こらなくなったことが確認されるまで行う。これにより、微小放電要因まで除去できるので、電子銃100の実使用時において、かかる微小放電要因に起因した異常放電を抑制可能である。
【0045】
図7は、本実施の形態における電子ビーム描画方法の説明図である。この描画方法は、本実施の形態の電子ビーム描画装置30を使用することにより実現される。すなわち、図7に示す電子ビーム20は、本実施の形態の電子ビーム描画装置30の電子銃100によって放出された電子ビームである。
【0046】
図7に示すように、マスク基板32上に描画されるパターン81は、短冊状のフレーム領域82に分割されている。電子ビーム描画装置30の電子銃100によって放出される電子ビーム20による描画は、ステージ33が一方向(例えば、X方向)に連続移動しながら、フレーム領域82毎に行われる。フレーム領域82は、さらに副偏向領域83に分割されており、電子ビーム20は、副偏向領域83内の必要な部分のみを描画する。尚、フレーム領域82は、主偏向器45の偏向幅で決まる短冊状の描画領域であり、副偏向領域83は、副偏向器46の偏向幅で決まる単位描画領域である。
【0047】
副偏向領域83内での電子ビーム20の位置決めは、副偏向器46で行われる。副偏向領域83の位置制御は、主偏向器45によってなされる。すなわち、主偏向器45によって、副偏向領域83の位置決めがされ、副偏向器46によって、副偏向領域83内でのビーム位置が決められる。さらに、成形偏向器44とビーム成形用アパーチャ47、48によって、電子ビーム20の形状と寸法が決められる。そして、ステージ33を一方向に連続移動させながら、副偏向領域83内を描画し、1つの副偏向領域83の描画が終了したら、次の副偏向領域83を描画する。フレーム領域82内の全ての副偏向領域83の描画が終了したら、ステージ33を連続移動させる方向と直交する方向(例えば、Y方向)にステップ移動させる。その後、同様の処理を繰り返して、フレーム領域82を順次描画して行く。
【0048】
電子ビームによる描画を行う際には、まず、CADシステムを用いて設計された半導体集積回路などのパターンデータ(CADデータ)が、図6の電子ビーム描画装置30に入力することのできる形式のデータ(レイアウトデータ)に変換される。次いで、レイアウトデータが変換されて描画データが作成された後、描画データは実際に電子ビーム20がショットされるサイズに分割された後、ショットサイズ毎に描画が行われる。
【0049】
レイアウトデータから変換された描画データは、記憶媒体である入力部51に記録された後、制御計算機50によって読み出され、フレーム領域82毎にパターンメモリ52に一時的に格納される。パターンメモリ52に格納されたフレーム領域82毎のパターンデータ、すなわち、描画位置や描画図形データ等で構成されるフレーム情報は、データ解析部であるパターンデータデコーダ53と描画データデコーダ54に送られる。次いで、これらを介して、副偏向領域偏向量算出部60、ブランキング回路55、ビーム成形器ドライバ56、主偏向器ドライバ57、副偏向器ドライバ58に送られる。
【0050】
また、制御計算機50には、偏向制御部62が接続している。偏向制御部62は、セトリング時間決定部61に接続し、セトリング時間決定部61は、副偏向領域偏向量算出部60に接続し、副偏向領域偏向量算出部60は、パターンデータデコーダ53に接続している。また、偏向制御部62は、ブランキング回路55と、ビーム成形器ドライバ56と、主偏向器ドライバ57と、副偏向器ドライバ58とに接続している。
【0051】
パターンデータデコーダ53からの情報は、ブランキング回路55とビーム成形器ドライバ56に送られる。具体的には、パターンデータデコーダ53で描画データに基づいてブランキングデータが作成され、ブランキング回路55に送られる。また、描画データに基づいて所望とするビーム寸法データも作成されて、副偏向領域偏向量算出部60とビーム成形器ドライバ56に送られる。そして、ビーム成形器ドライバ56から、電子ビーム光学系40の成形偏向器44に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム20の形状と寸法が制御される。
【0052】
副偏向領域偏向量算出部60は、パターンデータデコーダ53で作成したビーム形状データから、副偏向領域83における、1ショット毎の電子ビームの偏向量(移動距離)を算出する。算出された情報は、セトリング時間決定部61に送られ、副偏向による移動距離に対応したセトリング時間が決定される。
【0053】
セトリング時間決定部61で決定されたセトリング時間は、偏向制御部62へ送られた後、パターンの描画のタイミングを計りながら、偏向制御部62より、ブランキング回路55、ビーム成形器ドライバ56、主偏向器ドライバ57、副偏向器ドライバ58のいずれかに適宜送られる。
【0054】
描画データデコーダ54では、描画データに基づいて副偏向領域83の位置決めデータが作成され、このデータは、主偏向器ドライバ57と副偏向器ドライバ58に送られる。そして、主偏向器ドライバ57から、電子ビーム光学系40の主偏向器45に所定の偏向信号が印加されて、電子ビーム20が所定の主偏向位置に偏向走査される。また、副偏向器ドライバ58から、副偏向器46に所定の副偏向信号が印加されて、副偏向領域83内での描画が行われる。この描画は、具体的には、設定されたセトリング時間が経過した後、電子ビーム20を繰り返し照射することによって行われる。
【0055】
以上述べたように、本実施の形態の電子ビーム描画装置は、本実施の形態の電子銃のコンディショニング方法を実施可能なコンディショニング装置を有する。したがって、電子銃のアノードとウェネルトの間に電圧を印加して、電子銃に放電を誘起させることができる。このとき、印加する電圧は、コンディショニング電圧まで単調に増加させてから、コンディショニング電圧を超えない範囲でその大きさを周期的に変化させる。そして、放電が所定時間起こらなくなったことを確認するまでこの操作を行う。これにより、微小放電要因まで除去できるので、電子銃の実使用時において、かかる微小放電要因に起因する異常放電することができる。したがって、電子銃の異常放電による電子ビーム描画装置の稼動停止や、描画工程で本来必要な電子ビームが消えてしまうことによる描画精度の低下を抑制して、製品歩留まりを向上させることができる。
【0056】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、種々変形して実施することができる。例えば、上記実施の形態では電子ビームを用いたが、本発明は、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームを用いた荷電粒子銃のコンディショニング方法やこの荷電粒子銃を備えた荷電粒子ビーム描画装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
11 電圧供給部
12 電圧調整部
14 接続部
15 真空排気部
16 圧力検出部
17 制御PC
100 電子銃
101 電子光学鏡筒
102、102a、102b 第1の電極
103 コラム
104 ウェネルト
105 カソード
106 電子ビーム
107 アノード
108 高電圧源
109 バイアス電源
200 コンディショニング装置
20 電子ビーム
30 電子ビーム描画装置
31 試料室
32 マスク基板
33 ステージ
34 ステージ駆動回路
35 位置回路
37、38、39、41、42 各種レンズ
40 電子ビーム光学系
43 ブランキング用偏向器
44 成形偏向器
45 主偏向器
46 副偏向器
47、48 ビーム成形用アパーチャ
50 制御計算機
51 入力部
52 パターンメモリ
53 パターンデータデコーダ
54 描画データデコーダ
55 ブランキング回路
56 ビーム成形器ドライバ
57 主偏向器ドライバ
58 副偏向器ドライバ
60 副偏向領域偏向量算出部
61 セトリング時間決定部
62 偏向制御部
81 描画されるパターン
82 フレーム領域
83 副偏向領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱により電子を放出するカソードと、前記カソードとの間でバイアス電圧が印加されるウェネルトと、前記カソードとの間に加速電圧が印加され、前記カソードから放出された電子を集束して電子ビームを形成するアノードとを備えた電子銃に対し、前記アノードと前記ウェネルトの間に電圧を印加してこれらの表面に放電を生じさせる電子銃のコンディショニング方法であって、
前記アノードと前記ウェネルトの間への電圧の印加は、電圧を所定値まで増加させた後に該所定値を超えない範囲で電圧を周期的に変化させて行うものであり、
前記放電の停止を確認し所定時間が経過してから、前記電圧を周期的に変化させての前記電圧の印加を停止することを特徴とする電子銃のコンディショニング方法。
【請求項2】
前記放電の有無は、前記電子銃内の圧力変化により検知することを特徴とする請求項1に記載の電子銃のコンディショニング方法。
【請求項3】
電圧増加時の変化を急峻にして前記電圧を周期的に変化させることを特徴とする請求項1または2に記載の電子銃のコンディショニング方法。
【請求項4】
加熱により電子を放出するカソード、前記カソードとの間でバイアス電圧が印加されるウェネルト、前記カソードとの間に加速電圧が印加され、前記カソードから放出された電子を集束して電子ビームを形成するアノードを備えた電子銃と、
前記電子銃のコンディショニングを行うコンディショニング装置とを有する電子ビーム描画装置であって、
前記コンディショニング装置は、前記アノードと前記ウェネルトの間に電圧を印加してこれらの表面に放電を生じさせるものであり、
前記アノードと前記ウェネルトの間に電圧を供給する供給部と、
前記供給部から供給される電圧を調整する調整部と、
前記調整部を制御する制御部とを有し、
前記制御部は、前記供給部から供給される電圧が、所定値まで増加した後に該所定値を超えない範囲で周期的に変化するように、また、前記放電の停止から所定時間経過後に前記電圧を周期的に変化させての前記電圧の印加を停止するように前記調整部を制御することを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項5】
前記電子銃内の圧力を検出する検出部を有し、
前記制御部は、前記検出部の検出結果から前記放電の有無を判定することを特徴とする請求項4に記載の電子ビーム描画装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−38858(P2012−38858A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176453(P2010−176453)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】