説明

電子音響部材

単結晶のLiNbO3からなる基板を有する電子音響部材が提案される。この第2オイラー角μに関しては以下のことが該当する。−74°≦μ≦−52°または23°≦μ≦36°。第1オイラー角λに関しては、
【数1】


が、また第3オイラー角θに関しては
【数2】


が該当する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
単結晶のLiNbOの結晶面はたとえば、文献DE 19641662B4から公知である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
本発明の課題は、周波数の温度係数が低く(たとえば共振周波数または中心周波数)、また意図しない音波の放射による損失がより少ない、音波により作動する部材を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0003】
音波により作動する部材はとりわけ、変換器を備える共振器を有することが可能であり、この中で音波が電気的に励起可能である。変換器は通常、電極グリッドを有する。電極はその際、波動の広がり方向に対して垂直に配置される金属帯である。変換器は、変換器の作動領域の音波の確認に適している2つの音響反射板の間に配置されることが可能である。部材は、通過領域と少なくとも1つの閉鎖領域とを有する。
【0004】
上記の部材は、表面音響波の励起用に適していることが可能である。しかし、上記部材は、英語で「Guided bulk acoustic wave」またはGBAWと呼ばれる誘導バルク音波の励起に適していることも可能である。
【0005】
結晶面は、3つのオイラー角により示されることが可能である。オイラー角については、後ほど図1に基づいて説明する。これ以降、第1オイラー角はλ、第2オイラー角はμおよび第3オイラー角はθで示される。
【0006】
単結晶LiNbOでは、結晶面に応じてせん断波および/またはレイリー波が励起可能である。電子音響結合係数Kは、せん断波に関しては結晶面(0°,μ,0°)で
【0007】
【数1】

【0008】
の際、またレイリー波に関しては結晶面(0°,μ,0°)で
【0009】
【数2】

【0010】
である際に、実質的にゼロであることが確認された。つまり、そこでは各波動が全く励起されない、またはきわめて弱いということである。それぞれ偏向が異なる波は強く励起される。結晶の対称性により、オイラー角(0°,μ,0°)、(0°,μ+180°,0°)、(0°,μ−180°,0°)は、音響特性に関して同等である。
【0011】
第1の好適な実施形態に係り、単結晶LiNbOからなる基板を有する電子音響部材が提示され、この第2のオイラー角μに関しては、−74°≦μ≦−52°が該当する。
第1オイラー角λは、
【0012】
【数3】

【0013】
である。第3オイラー角θに関しては、
【0014】
【数4】

【0015】
である。
実質的にゼロであるオイラー角とは、特に−5°から+5°の間にある角度領域のことをいう。これは角λおよびθに関して当てはまる。しかし、−3°から+3°の間の角度領域であることも可能である。
【0016】
第1オイラー角λに関しては、好適にはλ=0°が該当する。第3オイラー角θに関しては、好適にはθ=0°が該当する。基板の境界面では水平の偏波のせん断波が励起可能であり、これは好適な変形例ではGBAWである。水平偏向は、せん断波が実質的には横方向の面に偏波していることを意味する。特に有利であるのはこの場合、67°≦μ≦−61°の角度範囲である。
【0017】
せん断波は第1に、横方向面X、Yにおいて波動の広がる方向Xを実質的に横断して偏波している成分を含む。また、横方向面に対して垂直に偏波する波の成分が存在することも可能である。
【0018】
部材は好適には、せん断波がメインモードとして伝播可能である変換器を有する。変換器は、そのアドミタンス曲線が主共振の共振周波数f以下では副共振を有さないことを特徴とする。fと1.5f-との間の周波数領域では、副共振はわずかな強度しか持たない。
【0019】
第2の好適な実施形態に係り、単結晶LiNbOからなる基板を有する電子音響部材が提供され、その第2オイラー角μに関しては、23°≦μ≦36°が該当する。第1オイラー角λに関しては、好適には
【0020】
【数5】

【0021】
が当てはまる。第3オイラー角θに関しては好適には
【0022】
【数6】

【0023】
が該当する。この場合、基板の境界面ではレイリー波が励起可能であり、これは好適な変形例ではGBAWである。特に有利であるのは、この場合28°≦μ≦32°の角度範囲である。
【0024】
レイリー波は第1に、矢状面(X,Z)において横方向面に対して実質的に垂直に偏波している成分を含む。また、波の伝播方向Xを横断して偏波している小さな波動成分が存在することが可能である。
【0025】
部材は好適には、レイリー波がメインモードとして伝播可能である変換器を有する。変換器は、そのアドミタンス曲線が主共振における共振周波数f以下では副共振を有さないことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、第1および第2実施形態に係り部材の実施例を説明する。
基板上には、波長λを有する音波を励起するための電極が形成されている金属層が配置されている。これは、部材の通過領域にある周波数における波長である。電極は、変換器の周期的電極グリッドを形成することが可能であり、波動伝播方向で測定された2つの反対の極性を有する電極間の距離は半波長である。
【0027】
金属層は好適にはタングステン層を含み、これの波長に対する厚さは最大10%であり、好適な変形例では1%から6.5%の間である。タングステン層は特に、波長に対して5%であることが可能である。
【0028】
また、電極はアルミニウムまたはアルミニウム合金を含むことが可能である。たとえば、少なくとも1つのアルミニウム層を有することが可能であるが、その他の層、特に銅の層を有することが可能である。電極の全体の高さは、たとえば波長の10%までであることが可能である。
【0029】
部材は誘導バルク音波により作動する部材として構築されていることが可能であり、好適にはさらなる追加の基板と、第1基板上で電極と配置されており特に平坦化層として適している中間層とを含む。
【0030】
追加の基板は、少なくとも1つの外層により代替可能である。追加の基板に関して述べたことは外層に関しても該当する。外層は異なる材料からなる複数の層を含むことが可能である。
【0031】
追加の基板に向けられた中間層の境界面は、平面である、ないしは平面化されていることが好適である。これにより、第1基板と金属層と中間層とを含む第1ウエハが、ウエハ直接ボンディング(Direct Wafer Bonding)により第2基板と接続されることが可能である。
【0032】
金属層は基板と中間層との間に配置されている。中間層は金属層と追加の基板との間に配置されている。波動の伝播速度は、好適には基板および追加の基板内では中間層内より高い。
【0033】
部材の音響的に作動する領域における第1基板の表面の金属化面の割合は好適には0.3から0.7の間であるが、この範囲に限定はされない。
【0034】
基板および追加の基板はそれぞれ、好適には少なくとも7.5λの厚さを有する。追加の基板はシリコン、特に結晶面(0°,0°,0°)のシリコンからなることが可能で
ある。
【0035】
電子音響部材の周波数fの温度応答はテイラー展開により示すことが可能である。
【0036】
【数7】

【0037】
dfは、温度差ΔTの場合の部材の温度による周波数のずれである。これは、たとえば室温ないしは所定の基準温度からの温度のずれであることが可能である。この式の線形項前の係数TCF1は、線形温度係数として示される。この式の二次項の前の係数TCF2は、二次温度係数として示される。曲線df/f(ΔT)は、係数TCF2が小さい場合、実質的に直線である。
【0038】
結晶面、電極の金属化部分の高さおよび部材の音響作動領域における金属化面の割合は、好適には線形温度係数TCF1が小さく、好適には実質的にゼロであるように選択される。
【0039】
中間層は好適にはSiO、その際1.6≦x≦2.1であるが、しかしその他の材料から選択されていることも可能である。波長に対する中間層の厚さは20%から200%の間である。このような比較的厚い中間層の長所は、これにより部材においてパラメータTCF1に比較的低い値が得られることである。たとえば、第1実施形態に係る部材において以下のことがいえる。層の相対厚さ25%の中間層に関してはTCF1=−33ppm/K、層の相対厚さ150%の中間層に関してはTCF1=−23ppm/Kである。第2実施形態に係る部材においては以下の通り決定された。層の相対厚さ25%の中間層に関してはTCF1=−35ppm/K、層の相対厚さ150%の中間層に関してはTCF1=−20ppm/K。
【0040】
比較的厚い中間層の長所はさらに、電極端部において比較的高い波動の反射係数Rが得られることである。第2実施形態に係る部材内の短絡電極グリッドに関しては以下の通り決定された。層の相対厚さ25%の中間層に関してはR=9.34%、層の相対厚さ150%の中間層に関してはR=15.07%。部材の作動領域内の金属化面の割合は、その際0.5であった。電極は相対厚さ5%のタングステンからなる。
【0041】
電子音響部材において比較的高い電子音響結合係数Kを得ることが可能である。その際、第1実施形態に係る部材におけるせん断波に関してはK>12%であり、第2実施形態に係る部材におけるレイリー波に関してはK>6%である。
【0042】
第1実施形態に係る部材では結合係数Kについて、層の相対厚さ25%の中間層に関してはK=15.08%、層の相対厚さ150%の中間層に関してはK=12.34%が決定され、その際部材の作動領域内の金属化面の割合は0.5であった。
【0043】
第2実施形態に係る部材では、層の相対厚さ25%の中間層に関してはK=7.74%、層の相対厚さ150%の中間層に関してはK=6.31%が決定され、その際部材の作動領域内の金属化面の割合は0.5であった。
【0044】
概略図に基づいて部材について説明する。これは正確な縮尺を示してはいない。
図1に基づきオイラー角を説明する。結晶物理学的座標系(x,y,z)の軸線は、単結晶の単位格子の結晶軸(a,b,c)に沿って合わせられる。第1オイラー角λは、z
軸を中心とする座標系の回転を示す。図1を参照のこと。一度回転された座標系は(x’,y’,z)で示される。第2オイラー角μは、一度回転された座標系のx’軸を中心とする回転を示す。その際、座標系(x’,y’’,Z)に移行する。第3オイラー角θは、二度回転された座標系のZ軸を中心とする回転を示す。ここで得られた座標系(X,Y,Z)のX軸は、音波の伝播方向とされる方向に合わせられている。音波は平面X、Yで広がり、これは基板の平面断面でもある。Z軸はこの平面に対する垂線である。
【0045】
図2では、変換器W1を有する部材が部分的に示されており、この中で誘導バルク音波、すなわちGBAWが励起可能である。
【0046】
第1基板は、既述の結晶面を有するニオブ酸リチウムである。第1基板S1には、変換器W1とこれと電気接続している接触面KF1とを有する金属層が配置されている。変換器は電極E1、E2を含み、第1電極E1および第2電極E2は音波伝播方向xに交互に配置されている。これはそれぞれ、横方向面でこの方向に対して垂直に延伸する。
【0047】
金属層の構造E1、E2、KF1には、第1基板S1のこれらの構造のない表面で終端する中間層ZSが被せられている。中間層ZSの高さは少なくとも金属層と同じである。
【0048】
接触面KF1は、第2基板Siと中間層ZSを通されるスルーホールDKにより外側から接触可能である。このスルーホールは、表面が金属化されている穴として構成されている。金属化部分は、第2基板S2の覆われていない部分にも載せられており、外側接点AEを形成する。
【0049】
部材は、図2に示されている例に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】結晶面におけるオイラー角の説明である。
【図2】GBAWにより作動する部材の例である。
【符号の説明】
【0051】
AE 外側電極
DK スルーホール
E1、E2 電極
KF1 接触面
S1 第1基板
S2 第2基板
ZS 中間層
X 波動伝播方向
Y、Z 空間方向
x、x’、y、y’、y’’、z 空間方向
λ 第1オイラー角
μ 第2オイラー角
θ 第3オイラー角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶LiNbOからなる基板を有し、
その第1オイラー角λに関しては、
【数1】

であり、
その第2オイラー角μに関しては、−74°≦μ≦−52°であり、
その第3オイラー角θに関しては、
【数2】

である、
電子音響部材。
【請求項2】
水平方向に偏向されるせん断波が励起可能である、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
単結晶LiNbOからなる基板を有し、
その第1オイラー角λに関しては、
【数3】

であり、
その第2オイラー角μに関しては、23°≦μ≦36°であり、
その第3オイラー角θに関しては、
【数4】

である、
電子音響部材。
【請求項4】
レイリー波が励起可能である、請求項3に記載の部材。
【請求項5】
波長λの音波の励起のための電極を有し、前記基板上に配置される金属層を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の部材。
【請求項6】
前記金属層がタングステン層を含み、波長に対するその厚さは最大10%である、請求項5に記載の部材。
【請求項7】
誘導バルク音波により作動し、
追加の基板と中間層とを含み、
前記金属層が、前記基板と前記中間層との間に配置されており、
前記中間層が、前記金属層と前記追加の基板との間に配置されており、
前記基板および前記追加の基板内の波動の伝播速度が、前記中間層内の伝播速度より高い、
請求項5または6に記載の部材。
【請求項8】
誘導バルク音波により作動し、
外層と中間層とを含み、
前記金属層が、前記基板と前記中間層との間に配置されており、
前記中間層が、前記金属層と前記外層との間に配置されており、
前記基板および前記外層内の波動の伝播速度が、前記中間層内の伝播速度より高い、
請求項5または6に記載の部材。
【請求項9】
前記中間層がSiOからなり、1.6≦x≦2.1である、請求項7または8に記載の部材。
【請求項10】
前記中間層がSiOからなり、1.95≦x≦2.05である、請求項9に記載の部材。
【請求項11】
前記中間層の厚さが、波長λに対して20%から200%である、請求項6から10のいずれか一項に記載の部材。
【請求項12】
前記追加の基板がSiからなる、請求項6から11に記載の部材。
【請求項13】
前記基板および前記追加の基板がそれぞれ少なくとも10λの厚さを有する、請求項6から12のいずれか一項に記載の部材。
【請求項14】
第2オイラー角μに関しては、67°≦μ≦−61°である、請求項1に記載の部材。
【請求項15】
第2オイラー角μに関しては、28°≦μ≦32°である、請求項3に記載の部材。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−524955(P2009−524955A)
【公表日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551645(P2008−551645)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【国際出願番号】PCT/DE2007/000128
【国際公開番号】WO2007/085237
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】