説明

電導性層および内側非金属層を含む反応容器

化学または生化学反応、例えばポリメラーゼ連鎖反応を行なうための反応容器であって、該容器の少なくとも1つの壁が金属層および内側非金属層を含んでいる反応容器。本発明の容器およびそれを加熱するための機器の組み合わせを含む反応装置、ならびに好ましい反応容器もまた開示され、そして特許請求されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御された加熱および/または冷却を受けることが必要とされる化学ならびに生化学反応に有用な反応容器、特には異なる温度の連続が必要とされる熱サイクルを受けることが求められる容器に関する。
【背景技術】
【0002】
このような反応の具体的な例は多くの核酸増幅法、特にはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。よく知られているように、この反応においては、核酸の指数関数的な増幅が、標的の核酸を含むか、もしくは含むことが推定される試料の、特別に設計されたプライマー配列およびそれらのプライマー配列を延ばすことができるポリメラーゼ酵素の存在の下での、異なる温度の反復した連続を通した繰り返し(cycling)によって達成される。これらの温度は、核酸の変性(そして通常は約95℃の温度を必要とする)、プライマーアニーリング(より低温、例えば約55℃)およびプライマー延長(これは中間的な温度、例えば約74℃を必要とする)に必要な温度を表している。
【0003】
しばしばPCR反応の結果を迅速に得る必要が生じるが、例えば敵意のある活動の結果である可能性がある環境汚染の場合である。しかしながら、臨床もしくは診断の局面であってさえも、迅速に結果を出すことは、特に患者の服薬遵守または回復に問題がある可能性がある場合には、有用である場合がある。
【0004】
明らかに、迅速なPCRのためには試料は迅速に加熱および冷却されなければならない。このことは試料を小さくしてその熱質量を低減することによって、また熱を伝えなければならない距離を最小化することによって促進される。これと同じ考え方が試料の容器にも適用されなければならない。
【0005】
従って、PCRを実施するように設計された装置の多くの例が、毛管形式を含む反応容器(すなわち、長くまた細い;国際公開第2005/019836号)、または平面構造(平坦で、また薄い)を用いており(国際公開第2006/024879号)、その内容をここに参照によって組み込む。
【0006】
種々の加熱装置が迅速なPCRを達成するために用いられている。これらには例えば流体を主体とする装置が含まれ、そこでは熱い流体、例えば空気が加熱の目的のために試料の容器に供給され、また非加熱流体が冷却をもたらすために供給される(例えば米国特許第6787338号明細書および国際公開第2007/054747号を参照。それらの内容をここに参照により組み込む。)。
【0007】
他の形式の装置では、導電性ポリマー(ECP)が、加熱要素および場合によっては容器の両方に用いられる(国際公開第98/24548号を参照。その内容をここに参照により組み込む。)。
【0008】
このECPは抵抗加熱器として作用し、そしてそのために電気的接続によって電源供給に接続されている必要がある。試料の熱質量を低減し、また試料への、そして試料からの熱伝達を促進することの必然的な結果として、ECPの接続および配置の方法は試料に重大な熱的効果を有する可能性がある。
【0009】
特に問題となるのは温度勾配の形成であり、それは加熱されるのと冷却されるのとのそれぞれの場合に、電気的接続を通して、ECP管の先端から、また先端への両方で熱が伝導される可能性があるからである。
【0010】
この問題は、幾つかの例において、電気的な接続それ自体、そして特に電極の取り付けを調べることによって検討されてきた。これらは電気的に絶縁であり、また好ましくは熱的に断熱でなければならない。しかしながら、断熱特性はそれ自体十分ではない。
【0011】
電気的結合子(もしくは電極)は熱的に熱を絶縁し、また緩やかに冷たくなり、そのことはそれらを急速な熱サイクルの間の長手方向の温度勾配の形成への重大な貢献者とさせる効果を有している。従って、取付台もまた断熱材であると同時に、低熱質量を有していなければならない。このことは、その熱質量を低減させるように構成され、一方で電極を支持するのに必要な物理的な完全性を保っている断熱材料を配置することによって達成することができる。このような構成は、要するに取付台の中に空隙を必要とする。このことは、電極用の取付台を形成するのに、発泡体材料、例えばハニカムまたは網目状の発泡体を用いることによって達成することができる。この取付台は、電気的接続用の支柱のある、または波形の取付台の形態であることが好ましい(例えば、国際公開第2005/0011834号、国際公開第2004/045772号および同時継続中の英国特許出願第0623910.7号明細書に記載されているような)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2005/019836号
【特許文献2】国際公開第2006/024879号
【特許文献3】米国特許第6787338号明細書
【特許文献4】国際公開第200/054747号
【特許文献5】国際公開第98/24548号
【特許文献6】国際公開第2005/0011834号
【特許文献7】国際公開第2004/045772号
【特許文献8】英国特許出願第0623910.7号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
PCRでは、試料の全ての部分を、常に同じ制御された温度にしておくことが理想的である。このことは急速に加熱および冷却される系では極めて困難である。毛管形式では、半径方向および長手方向の両方の温度勾配が形成される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
しかしながら本願出願人は、高熱伝導性の層、例えば金属層を反応容器、例えばPCRに用いられる反応容器の壁に用いることによって、このような勾配を低減することができることを見出した。
【0015】
本発明によれば、化学または生化学反応を実施する反応容器であって、該容器の少なくとも1つの壁が高熱伝導性の材料の層(好ましくは金属層)および内側の非金属層を含んでいる反応容器が提供される。好ましくは前記の反応容器は毛管容器または扁平な毛管容器を含んでいる。
【0016】
疑問を回避するために、ここで用いられる用語「層」は材料のいずれかの本質的に層状の配置を称し、自立層と被覆物の両方を含んでいる。自立型でない層もしくは被覆物は、通常は関連する基材の形状に適応し、そして例えば実際には、特には管状を含むいずれの形状にも適合する。同様に自立型の層は、それらが用いられる情況との関係で特に都合のよいどのような形態もとることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の反応容器は、壁の高熱伝導性の層の存在の結果として、良好な熱伝導性を有しており、そして従って、温度の制御、または特に良好な温度の均一性を備えた温度サイクルが重要な反応において用いることができる。従って、それらは、熱サイクルを含む核酸増幅反応、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような反応において特に有用であることができる。良好な熱伝導性とは、著しい温度勾配が容器を通して形成されないこと、またはもしもそれが発生した場合には迅速に同等になることを意味しており、その結果試料に沿った、もしくは試料を横切った温度分布は平坦に(より均質に)される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明による反応容器の第1の実施態様の断面を示している。
【図2】図2は図1に示した反応容器の一部の拡大図を示しており、これは本発明の要素を含んでいる。
【図3】図3は図1の反応容器の透視図である。
【図4】図4は図3の実施態様で用いられている電気的接続を示している。
【図5】図5は熱サイクル装置の第1の実施態様の中で、所定の位置にある図1に示した容器を示す概略図である。
【図6】図6は本発明による反応容器の第2の実施態様の断面図を示している。
【図7】図7は熱サイクル装置の第2の実施態様の中で、所定の位置にある図1もしくは6に示した容器を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
通常は、壁が金属の容器はこれまで反応容器には用いられてこなかった、何故ならばそれらは通常は、特に生体分子、例えば核酸およびタンパク質と化学的に反応性であり、また金属が容器内の試薬を妨害し、また反応を中断させるからである。しかしながら、本願出願人は、熱伝導層、例えば金属層と接触して効果的に複合材を形成するように、内側の非金属層を具備することによって、この問題を克服することが出来ることを見出した。
【0020】
この容器は、好ましくは細長い容器であり、少なくとも1つの長い壁を形成する層状の壁を備えており、容器中の試薬の近傍にある金属を含む壁の表面積を増やすようにしている。好ましくは、この容器は毛管容器または扁平な毛管容器であり、その長さは試料の体積に適応するように選択され、また内径は小さい。好ましくは、毛管の内径は0.2〜2mmの範囲にある。壁の厚さは通常は約0.1〜約1.5mmの範囲である。
【0021】
このような容器の例は、例えば国際公開第2004/054715号、米国特許第6015534号明細書および国際公開第2005/019836号中に記載されており、これらの内容をここに参照により組み込む。
【0022】
このような容器は単一の半径方向の側壁を有効に含み、そしてこれは好ましくはその面積の実質的に全て、そして好ましくは全てを覆う金属層を含んでいる。
【0023】
扁平な管が用いられる場合には、それらは国際公開第2006/024879号中に記載された形状のものであることができ、その内容をここに参照により組み込む。特に、このような容器は幅:深さの比が、約2:1、またはそれ以上、例えば3:1もしくはそれ以上である。通常は、この容器の幅は1mm以下の水準であることができ、例えば0.8mm以下であり、一方で、その深さは通常は0.5mm以下であり、そして好ましくは0.3mm未満である。この容器は先細であることができる。
【0024】
これらの場合には、少なくとも1つの側壁は金属層を含み、そして好ましくは全ての側壁が金属層を含んでいる。下側の壁もまたこの構造を有していることができるが、しかしながら多くの例においては、この容器の基部を形成する下側の壁は透明な材料であり、例えばガラスまたは透明ポリマー、例えばポリカーボネートであることが好ましく、それにより反応容器の内容物を反応の間に、光学的に監視することができる。この透明な材料は、ECPによって加えられる熱に耐えるような適度に高い融点を有していなければならない。好ましくは、透明な材料と毛管容器もしくは扁平な毛管容器との間に、封止がなされている。好ましい封止はO−リングであり、これはこの透明材料と一体であっても、または別個であってもよい。
【0025】
このことはいわゆる「実時間」PCR反応を用いる場合に特に有用であり、この場合にはPCR反応に加えられた信号を出す試薬からの光学的信号、特には蛍光性の信号が、反応が進行するにつれて種々の信号を生じさせ、それによって反応の進行を監視することができる。このような監視は、初期の試料内の標的の核酸の量を定量する選択を与え、例えば診断において、特定の状態の深刻さを決定するのに用いることができる更なる情報を提供する。
【0026】
内側の非金属層のための好ましい非金属材料としては、ポリマー材料またはガラスまたは、更には金属の陽極酸化もしくは同様の方法によって生成された不動態化された層、またはそれらの組み合わせを挙げることができる。しかしながら、好ましくは内側の非金属層はポリマーまたはガラスまたはそれらの組み合わせである。
【0027】
好ましい実施態様では、ガラスはポリメラーゼ連鎖反応を含む多くの生化学および化学反応に耐えることが一般によく認識されているので、内側の非金属層はガラス層である。
【0028】
しかしながら、ポリマー材料、例えばポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリカーボネートは、シリコーンと同様に、試料および反応容器内部で行なわれる特定の反応に適応することができる。
【0029】
このような内側層は通常は堅く、そして支持構造であり、それらは射出成形または押出成形などの方法によって形成することができる。次いで、これらは金属層で被覆するか、またはそれらは金属層上に直接に押出すか、もしくは形成することができる。
【0030】
しかしながら、もしも必要であり、もしくは求められるのであれば、例えばポリマー材料の薄層は金属層上に、例えば蒸着、液相堆積またはプラズマ重合などの技術を用いて、比較的に薄い層を与えることができ、これ自体が内側の非金属層を構成することができる。あるいは、このような薄層は上記の異なる内側非金属層に適用されて、複合材構造を形成することができる。
【0031】
この種類の特に好ましいポリマー層はパリレンまたはその誘導体から形成される。パリレンはポリキシリレンに適用される一般名であり、例えば米国特許第3343754号明細書中に記載されており、この内容をここに参照により組み込む。
【0032】
この種類の化合物は一般式(I)によって表すことができる。
【0033】
【化1】

【0034】
ここで、Rは置換基であり、mは0または1〜3の整数であり、またnはこの化合物がポリマーであるのに十分な値である。
mが1より大きい場合には、それぞれのRは同じでも異なっていてもよい。
1つの実施態様では、mは0である。
【0035】
好ましい置換基Rとしては、R、OR、SR、OC(O)R、C(O)OR、ヒドロキシル、ハロゲン、ニトロ、ニトリル、アミン、カルボキシまたはメルカプトが挙げられる(そしてRはいずれかの炭化水素基であり、またRは場合によっては、ヒドロキシル、ハロゲン、ニトロ、ニトリル、アミンもしくはメルカプトから選ばれる1つまたはそれ以上の基で置換されていてもよい)が、これらには限定されない。
【0036】
好ましい炭化水素基としては、アルキル基、例えば直鎖もしくは分岐した連鎖のC1−10アルキル基、アルケニル基、例えば直鎖もしくは分岐したC2−10アルケニル基、アルキニル基、例えば直鎖もしくは分岐したC2−10アルキニル基、アリール基、例えばフェニルもしくはナフチル、アラルキル基、例えばアリール(C1−10)アルキル、例えばベンジル、C3−10シクロアルキル、C3−10シクロアルキル(C1−10)アルキルが挙げられ、ここでいずれかのアリールもしくはシクロアルキル基は場合によっては他の炭化水素基、特には上記のようなアルキル、アルケニルもしくはアルキニル基で置換されていてもよい。
【0037】
R基の好ましい例としては、アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチルもしくはヘキシル(これらは場合によってはヒドロキシ、ハロもしくはニトリルで置換されていてもよく、例えばヒドロキシメチルもしくはヒドロキシエチルであり)、アルケニル、例えばビニル、アリール、好ましくはフェニルもしくはナフチル(これらは場合によってはハロもしくはアルキル基で置換されていてもよく、例えばハロフェニルもしくはC1−4アルキルフェニルであり)、アルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、カルボキシ、カルボメトキシ、カルボエトキシ、アセチル、プロピオニルまたはブチリルが挙げられる。
【0038】
好ましくは、Rはハロゲン(好ましくは塩素もしくは臭素)、メチル、トリフルオロメチルエチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、フェニル、C1−4アルキルフェニル、ナフチル、シクロへキシルおよびベンジルから選ばれる。
【0039】
このようなポリマーの例は、「パリレン」として市販されている。入手可能なパリレンの好ましい種類としては、パリレンN(mが0である)、パリレンC(mが1でRがクロロである)、パリレンF(mが1でRがトリフルオロメチルである)およびパリレンD(mが2でそれぞれのRがクロロである)が挙げられる。
【0040】
パリレンは、金属表面への内側被覆を与えるための特に便利なポリマー材料であるが、それはこれが蒸着法を用いて容易に適用することができるからである。この方法では式(II)の固体の二量体(Rおよびmは上記の定義された通り)が、適切な蒸着チャンバー中に固体形態で配置される。
【0041】
【化2】

【0042】
このチャンバーが低圧下で、例えば低圧、例えば約1mmHgで約150℃の温度で加熱された場合には、このダイマーは蒸発する。次いでこの蒸気は熱分解チャンバー中に移され、ここでは温度はより高く、例えば約650℃であり、また圧力は例えば0.5mmHgである。
【0043】
熱分解は、式(III)の反応性モノマー種の形成をもたらすように起こる。
【0044】
【化3】

【0045】
これが、コーティングされる物を収容した更なるチャンバー(これは周囲温度であるがしかしながら低圧力、例えば0.1mmHgでもあるが)中に移された場合には、化学種(III)の重合がこの対象物の表面上で起こり、上記の式(I)のポリマーの被覆が生成される。
【0046】
この化学種(III)は表面上に多結晶型で固体化し、共形(conformal)でピンホールのない被覆を与える。このことは、反応容器内のいずれの試料も金属層から分離されていることを確実にするために重要である。
【0047】
液体プロセスに比較して、重力および表面張力の影響は無視できるので、ブリッジング(bridging)、薄くなること(thin-out)、ピンホール、流出(run-off)またはたるみ(sagging)はない。また、このプロセスは室温で起こるので、対象物への熱的または機械的なストレスはない。
【0048】
パリレンは、その使用できる温度範囲においては、物理的に安定、また化学的に不活性であり、その温度範囲はPCR反応が行なわれる温度を含んでいる。パリレンはまた、水分、腐食性蒸気、溶媒、空中浮揚の汚染物質および他の好ましくない環境からの優れた保護を与える。
【0049】
エレクトロニクス産業では、電子部品を被覆し、そして保護することが広範に行なわれている。しかしながら、本願出願人は、パリレンが化学または生化学反応、特にはPCR反応に耐えられることを最初に見出したものであり、またパリレンの反応容器、特にはPCR反応容器の被覆への利用を、本願出願人の同時係属中の同日付けの出願中に開示し、そして特許請求している。
【0050】
この装置の容器中で、金属層は効果的に熱的分路(shunt)を形成し、熱を反応容器の一部から他の部分へ迅速に伝導する。従って、これは容器中の、従って反応の間の試料中の温度勾配の増加を最小化し、このことは反応が効率的にそして良好に進行することを確実にするのに重要である。
【0051】
従って、高熱伝導性材料を含む容器は、最も好ましくは15W/mK超の熱伝導度を有する材料を含んでいる。この特性を有する材料は通常は金属質の性質であるが、しかしながら特定のポリマー、特には「クールポリマー(cool polymer)」として知られているポリマー、または熱伝導性のセラミック、例えば窒化ホウ素、もしくはダイヤモンドを含むポリマーが、求められる熱伝導度の水準を有することができる。しかしながら、好ましくは高熱伝導性の材料は金属質であり、アルミニウム、鉄、鋼、例えばステンレス鋼、銅、鉛、錫もしくは銀を含む、いずれかの適切な金属または金属合金であることができる。好ましくは、この金属層はアルミニウムを含んでいる。金属または金属合金の使用は、試料容器に剛性を与えるという更なる利点を有している。
【0052】
高熱伝導性の材料の厚さは、好ましくはt・λ>0.11W/Kという一般的要求に合致するように選ばれ、ここでtは熱的な短絡(thermal short)の壁の厚さ、またλは熱伝導度である。この組み合わせは、軸内の(within the stalk)試料中の熱的な均一性を確実にする。アルミニウムは237W/mKの熱伝導度λを有しており、そして好ましい壁厚さは0.5mmである。この場合には、t×λ=0.005×237=0.1185W/Kであり、これは上記の要求に合致する。
【0053】
本発明による反応容器は、いずれかの好ましい加熱手段によって加熱されてよく、また容器の壁が、高熱伝導性の層の存在によって良好な熱伝導性である結果、熱が容易に容器の内容物へと伝わる。
【0054】
従って、この容器は広い範囲の装置、特に熱サイクル装置における使用に好ましい。これらは、流体加熱器および冷却器、例えば空気加熱器および冷却器、好ましくはハロゲン電球によって加熱される流体加熱器を含む、多くの異なる種類の技術を用いて(それは例えば米国特許第6787338号および国際公開第2007/054747号中に記載されており、その内容を参照により組み込む)、ならびにECPを抵抗加熱要素として用いる容器中において(例えば国際公開第98/24548号および国際公開第2005/019836号中に記載されており、更に以下で議論されるように)、加熱および/または冷却することができる。また、これらの容器はより慣用の装置、例えば中実のブロックヒータ中で用いられてもよく、それらは電気的要素または金属層内に電流を誘導する誘導加熱器によって加熱される。この装置の冷却には、必要に応じて熱電装置、圧縮器冷却器技術、強制空気または冷却流体を組み込むことができる。しかしながら、本発明の容器が金属層を含む場合には、このことはこの容器が例えば誘導法を用いても加熱することができることを意味している。本発明の容器をこのように加熱するのに用いられる装置は、容器を電磁誘導、例えば高周波交流(AC)を金属内に渦電流を誘導するように用いることによって加熱する機能を有している。これらの電流に対する金属の抵抗は、金属のジュール加熱をもたらす。また熱は磁気ヒステリシス損失によっても発生する。誘導加熱装置における使用には、容器内の金属層はこのように加熱されることを可能にするのに好ましい材料でなければならないことは明らかであり、また例えば鉄金属層が好ましく、ステンレス鋼または銅が挙げられる。
【0055】
上記の反応容器と、該反応容器に適合することができ、そして該容器を、好ましくは上記のいずれかの方法を用いて制御可能に加熱および冷却するように適用された加熱装置を含む機器との組み合わせを含む反応装置は、本発明の更なる態様を形成する。この機器は複数の反応容器に適合することができる。
【0056】
本発明の反応容器が抵抗加熱要素、例えばECPと組み合わせて用いられた場合において、高熱伝導性の層がまた電導性であり、例えば金属層である場合には、短絡などを防ぐために、これは抵抗加熱器から電気的に絶縁されていることを確実にする必要がある。本願出願人は、金属層の表面を不動態化してこれをECPから電気的に絶縁し、しかしながら熱的にはなお良好に接触させることが可能であることを見出した。例えば、アルミニウム金属層の場合には、抵抗加熱器、例えばECPと接触するようになるアルミニウム層のいずれかの表面の陽極酸化はこのような絶縁を与える。
【0057】
あるいは、上記のように好ましいパリレン層は、ECPと接触する高熱伝導性の層、例えば金属層の表面に適用して、効果的な電気絶縁層を与えることができる。このような層は容器の大きさまたは熱質量を著しく増加しないという利点を有している。
【0058】
ECPは、国際公開第98/24548号に記載されているように、高熱伝導性の層およびその電気絶縁層の外側に配置された覆いまたは被覆として好ましく配置される。反応容器の要素を、好ましくは薄層として小さく保つことによって、容器の熱質量は小さく、そして迅速なPCRに求められるような迅速な加熱および冷却を起こすことができる。
【0059】
従って、特に好ましい実施態様では、反応容器の壁および好ましくは容器の全体の側壁は、例えばガラスもしくはポリマー材料の内側非金属層を含んでいる。これは、上記のように金属層で被覆されており、金属層それ自体は電気絶縁層、上記したように例えば陽極酸化されたアルミニウムもしくはパリレンまたはそれらの誘導体によって被覆されている。この層の外側は、好ましくは電気絶縁ポリマーの層を与えられている。このような容器は通常は、1回の使用の後に使い捨てされることが意図される。
【0060】
他の好ましい実施態様では、反応容器の壁および好ましくは該容器の全体の側壁は金属層、例えばアルミニウムを含んでいる。これは、電気絶縁層、上記のように例えば陽極酸化されたアルミニウムまたはパリレンまたはそれらの誘導体で被覆されている。この層の外側は好ましくは電気絶縁ポリマーの層が与えられている。
【0061】
加熱遅れは、ECPを高熱伝導性の層との密接な接触を保つ(すなわち、空隙を避ける)ことによって低減される。加熱遅れは、高熱伝導性の層にパリレン被覆以外には内側層を与えないことによって更に低減されるが、パリレン被覆は非常に薄い(約5μm)ために断熱材としては最小限の影響しか有していない。
【0062】
電導性ポリマーは、電源供給に接続されている必要があり、そしてそのような電気的接続は容器と一体化されていてもよく、好ましくはECPのそれぞれの端部に与えられる。
【0063】
容器中で抵抗加熱要素として用いられるECP要素は、種々の方法によって作ることができるが、しかしながら最も便利な方法としてはポリマーの射出成形が挙げられる。しかしながら、射出成形の過程においては、この材料は外側にポリマーに富む表皮を形成する傾向があり、これは、電気的な接触をしようとする外部のいずれかの手段に対して、少なくとも部分的な電気絶縁障壁を作り出す可能性がある。
【0064】
このような場合において、本願出願人は、この絶縁性の表皮を突破し、そしてこの材料本体と電気的な接触をさせることが、加熱装置の効率を増大させるためには、有用であることを見出した。
【0065】
従って、好ましい実施態様では、上記のようにこの反応容器は、電気絶縁ポリマーの表面を貫通する逆とげをつけた(barbed)電気接点によって電源供給に接続可能である。これらは好ましくは容器と一体化されている。
【0066】
このような逆とげをつけた(barbed)結合子は、反応容器自体の特定の形状によって種々の形態をとることができる。好ましくは、容器が通常の円筒形の形状である場合には、好ましい逆とげをつけた(barbed)結合子は内側に突き出た逆とげなどを備えた、「スターロックワッシャー(Starlock Washers)」と同様の意匠である、環状の金属環の形態をとることができる。
【0067】
内側に突き出た逆とげ(burbs)は、絶縁性の表皮を突き抜けて導電性の材料本体と電気接点を作り出すであろうし、ならびにこの環を適切な位置に保つ。外側の部分は電気的相互接続のための金属表面を与え、そしてこの容器に適合しようとする機器は適切に配置することができるようになる。
【0068】
更に、逆とげ(burbs)は効率的に扇形をした(scalloped)端部を与え、それが大きさ、また従って結合子の熱質量を低減することを援け、そしてまたECPとの接触面積を低減する。このことは、電気的結合子とECPとの間の熱交換を最小化するという更なる利点を有し、そうして望まれない温度勾配の形成を低減することを更に援ける。
【0069】
結合子および好ましくはその逆とげ(barbs)は、好ましくは高い機械的強度を有する材料で構成されており、そのためにこの逆とげ(barbs)は貫通能力を高めるために鋭利にすることができる。多くの金属はこの機能を満足することができるが、この結合子に特に好ましい金属はステンレス鋼であることが見出された。これは求められる機械的強度および電導性を有しているばかりでなく、他の多くの金属と比較して驚くべき低い熱伝導性である16W/mKで、高い腐食抵抗を有している(参照:銅は399W/mK,アルミニウムは237W/mK)。この材料を用いることによって、そして結合子をその面積が可能な限り小さくなるように設計することによって、電極における望まれない熱的な影響を低減することを援けることができる。
【0070】
この種類の結合子は製造するのに費用効率が高く、このことは提案されるPCR容器が大きな体積の使い捨て可能な物である場合には特に有利である。
【0071】
これらは事実、ECPを抵抗加熱器として含むいずれかの容器または装置との接続に用いられており、そしてそのような反応容器および装置は本発明の更なる態様を形成する。
【0072】
1つの実施態様では、ECPの外形はそれ自体がその半径方法の厚さを変えるように調整することができ、それによって抵抗加熱を、勾配を低減させるような仕方で不均一に分配することができる。このことは経験的に、いずれかの特定の容器の種類との関係で、発生する勾配のプロフィールを決定し、そしてそれによって容器の種々の領域におけるECPの厚さを調整することによって、行なうことできる。通常は、この外形は漸減するものであり、容器の上端よりも底において狭幅になっている。
【0073】
このような変更は、高熱伝導性の層が存在しているか否かに関わらず、ECP抵抗加熱器を含む、もしくは用いる容器に含むことができ、またこのような容器は更に本発明の態様を形成する。
【0074】
上記で簡単に議論したように、容器が使用のために適合される機器は、好ましくは電気的絶縁体および断熱材(すなわち、この材料は熱をゆっくりと吸収しまた放出する)の両方であり、そしてまた低い熱質量を有する材料の取付台を与えられる。このことは、電極の取付台を「空気様」、すなわち発泡体、骨格またはハニカム構造として形成することによって達成することができる。しかしながら、それらは電極を物理的に支持し、またその位置を定めることができなくてはならず、従ってそれらはある程度の剛性、堅固さ、および/または弾性を有していなければならない。
【0075】
従って、上記のように反応容器の内容物を熱サイクルするための機器の好ましい実施態様では、前記の電気接点の少なくとも1つと直接接触するように配置された固体発泡体材料を含んでいる。
【0076】
この固体発泡体材料は断熱材として作用し、熱が流れるのを、そして特には電気接点を通した熱損失を防ぐ。結果として、より均一な温度が反応容器内で維持されることが可能となる。慣用の固体断熱材、例えば固体プラスチック断熱材よりも、特に固体発泡体を用いることによって、機器の性能は著しく向上する。反応容器内に発生する温度勾配は更に低減することができる。
【0077】
このことは、発泡体様の材料が固体よりも小さい熱質量を有しているという事実によるものであることが信じられる。従って、電気接点を通した反応容器への、また反応容器からの熱の流れを防ぐ断熱を与えることに加えて、これらは加熱および冷却過程を著しく妨げることはない。
【0078】
対照的に、大きな熱質量を備えた固体断熱材は、ゆっくりと加熱され、また冷却され(全くしない訳ではなく)、従って試料と比べたそれらの温度によって、熱源または熱吸収源として作用することが見出された。このことは、この関係においては不利であることが見出された。
【0079】
好ましい固体発泡体としては、金属、ガラス、炭素、ポリマー、セラミック発泡体、またはこれらの幾つかから作られる複合材が挙げられる。
このような発泡体材料の具体的な例は、ポリマー発泡体、例えばポリウレタンもしくはポリスチレン発泡体である。
【0080】
好ましい実施態様では、この発泡体材料はセラミック発泡体である。セラミック発泡体は、通常は無機の、結晶構造を備えた非金属材料(例えば金属酸化物、ケイ化物、窒化物、炭化物またはホウ化物)を含んでおり、これらは通常は、それらの製造の間のいずれかの時に高温で処理される。
【0081】
このような発泡体の多くは、現在商業的に入手可能である。これらは主に航空宇宙産業のために開発されてきており、そこではそれらの断熱材としての有用性はそれらの軽量の結果である。
【0082】
固体発泡体は通常は、固体内に捕捉された多くの気泡を有する固体を含んでいる。それらは堅いまたは柔軟な性質であることができるが、しかしながら好ましくは電気接点を支持できるほどに堅い。それらが柔軟である場合には、この発泡体は好ましくは良好な「形状記憶」を有している。
【0083】
種々の形態および種類の固体発泡体材料が知られている。一部は「耐熱」発泡体として知られている。それらは用いられる材料の性質によって種々の方法によって作られる。例えば、ポリマーを含む固体発泡体は、当技術分野でよく知られているように、発泡剤を調合過程に含めることによって迅速に調製することができる。シンタクチック発泡体および自己発泡(self-foamed)材料、例えば発泡ガラスもまた同様の方法で調製することができる。
【0084】
他の個体発泡体は、発泡したポリマーを基礎の出発材料として用いることができ、そして材料はそれらの上を、もしくはポリマー発泡体の熱分解によって形成される炭素の骨格上を本質的に被覆される。例えば、セラミック発泡体は、ポリマー発泡体を、もしくはそれから誘導された炭素骨格を、適当なバインダーおよびセラミック相で被覆し、そして高温で焼結することによって作ることができる。金属発泡体は、金属をポリマー発泡体上に電解堆積する(electrolytically depositing)ことによって形成することができ、電着によるポリマー発泡体前駆体上への金属の堆積に無電極法を用いる。
【0085】
固体発泡体材料は好ましくは、光源で照らされた場合でも蛍光またはりん光特性を有しない材料のものである。このことは、固体発泡材料が、増幅反応の生成品の検出にしばしば用いられる蛍光信号もしくは標識システムを妨害する可能性がないことを意味している。このようなシステムは、増幅の生成品を検出するために、反応の終点で、もしくは漸次、反応の進行につれて「実時間」で用いることができる。これらのシステムは、よく知られている「タクマン(Taqman(登録商標))」システム、ならびに他のシステム、例えば、Lee, M.A.、Squirrell, D.J.、Leslie, D. L.およびBrown, T著、実時間PCRのための均一蛍光化学、実時間PCR:基本指針、J.Logan、K.EdwardsおよびN.Saunders編、Horizon Scientific Press、ワイモンダム、2004年、p.31〜70に記載されているシステムを含んでおり、これをここに参照により組み込む。例えば、一般的な方法は、二本鎖DNA種に結合した時に増加した蛍光を示すDNA挿入染料を用いる。増幅の間のDNAの容積濃度の上昇による蛍光の増加は、反応の進行を測定し、また標的分子の複製数を測定するために用いることができる。更に、温度を制御して変化させて蛍光を監視することによって、DNA融解曲線を、例えばPCR熱サイクルの終点で、生成することができる。
【0086】
しかしながら、材料がある程度の蛍光を有している場合には、用いる前に発泡体を染色する、被覆する、またはインクで塗ることによってこれを回避することができる。
【0087】
この固体発泡体材料は、少なくとも1つ、そして好ましくは両方の電気接点と接触するように配置される。適切に十分な発泡体材料が、使用に当たり、それが環境影響から電気接点を効果的に分離するように配置される。このことは、固体発泡体を電気接点の少なくとも互いに離れた端と接して配置することによって通常達成される。
【0088】
必要ならば、固体断熱材料もまた固体発泡体材料に接触するように提供および配置することができる。
【0089】
好ましい固体断熱材料は当技術分野でよく知られており、そしてポリマー材料および繊維性材料が挙げられる。好ましくは固体断熱材はポリマー断熱材であり、例えばアセタールホモポリマー樹脂、例えばデルリン(登録商標)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合体(ABS)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。
【0090】
この固体断熱材は、実質的な部分、例えば固体発泡体材料の少なくとも1つの側面と接触するように配置することができる。この更なる断熱は、固体発泡体材料自体を環境温度の変化から保護し、そしてこの装置の全体的な信頼性を向上させるであろう。好ましくは、この補足的な固体断熱材は反応容器を使用時に外部環境から効果的に隔離するように与えられる。従って固体断熱材の的確な配置は、反応容器の性質およびそれが用いられる方法によって変わる。
【0091】
上述したように、発泡体様材料を含む取付台の例は、例えば国際公開第2005/0011834号、国際公開第2004/045772号(そこではこの発泡体材料はそれらが結合子を堅固に保持することができるように一定の柔軟性もしくは追従性を有している)、または同時係属中の英国特許出願第0623910.7号明細書(そこでは固い発泡体様の材料を用いることができ、それは結合子への十分に堅固な保持が達成されることが確実にされるようにバネで留められている)中に記載されており。
【0092】
他の実施態様では、この容器が使用のためにその中に収容される機器は、1つまたはそれ以上の小さい体積の固体断熱材料の取付台を与えることによって低熱質量の取付台を与えられる。好ましい固体断熱材は当技術分野でよく知られており、そしてポリマー断熱材または繊維状材料が挙げられる。好ましくは、固体断熱材はポリマー断熱材であり、例えばアセタールホモポリマー樹脂、例えばデルリン(登録商標)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合体(ABS)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。好ましい実施態様では、固体断熱材料の3つの小さい体積の取付台が容器を支持するために与えられる。
【0093】
この機器には、容器の電気結合子との接続のために電気接点を与えることができる。この電気接点はバネ接点であることができ、これは小さい体積で、熱質量を低減する利点を有している。1つまたはそれ以上の電気接点が1つまたはそれ以上の取付台と一体化することができる。
【0094】
上記の反応容器およびそれらを含む反応装置は、必要に応じて化学および生化学反応に用いることができる。従って、更なる態様では、本発明は少なくとも1つの加熱工程を必要とする化学もしくは生化学反応を実施するための方法を提供し、この方法は化学もしくは生化学試薬を上記の反応容器中に配置すること、および該試薬を加熱して該化学もしくは生化学反応をもたらすことを含んでいる。好ましくは、この容器はこれを保持し、また必要に応じて加熱および/もしくは冷却するように特別に設計された機器中に配置される。好ましくは、この機器は上記のような熱サイクル装置を含み、またこの反応は熱サイクルを必要とし、特にはポリメラーゼ連鎖反応である。
【実施例】
【0095】
本発明は、ここに例として添付した図面を参照して具体的に説明される。
【0096】
図1に示した反応容器は、例えば国際公開第2005/019836号中に記載されている反応容器と同じ一般的な種類のものであり、PCR反応を行なうための機器中で用いることが意図されている。
【0097】
この容器はプラスチック本体(1)を含み、これは上部試料受容部分(2)を備えており、これは比較的に広い口部を備えていて、これにより試薬を容易に添加することができる。図示された実施態様では、上側部分は突き出たフランジ(6)を含み、これは、国際公開第2005/019836号中に記載されているように、機器中の吊り腕と相互に作用して、反応を自動で行なうように適応させた機器中に該容器を移動させることを可能にする。
【0098】
試料受容部分(2)の下側の端部で、この容器は毛管(3)で終わっており、それは透明な封止材(4)によって下側の端部が封止されており、透明な窓を形成することによって細長い反応容器を形成しており、これは毛管の区域内に比較的に小さい試料(7)を収容することができる。
【0099】
アルミニウム被覆層(5)が毛管(3)を取り囲んでおり、またこれと熱的に緊密に接触している。この被覆層(5)は熱的分路として作用し、これは、加熱および/または冷却に付される管(3)に沿った、そして従って試料(7)内に蓄積される温度勾配を迅速に消散させることができる。アルミニウム被覆層(5)の外側表面は陽極処理されており、その絶縁体層を生成するようにされている。しかしながら、他の実施態様ではアルミニウム被覆層(5)の外側表面は電気的絶縁を与えるようにパリレンで被覆されている。
【0100】
ECP層(8)が、アルミニウム被覆層(5)、ならびに下部の封止材(4)の側面および上部の部分(2)の基部を完全に覆っている。上部および下部の隆起部(ridges)(9、10)がそれぞれ与えられ、これらは上部および下部の環状の電気結合子(11、12)にそれぞれ適合することができる。それぞれの電気的結合子(11、12)には、多数の内側に突出した逆とげ(barbs)(13)(図3および4)が与えられており、これはECPの表面を突き抜けることができ、ECP本体との電気接点が作られることを確実にする。
【0101】
使用にあたっては、この特定の容器は、国際公開第2005/019836号中に記載されているように、試料およびPCR試薬を充填することができる。調製された試料(7)はPCR反応を行なうのに必要な全ての試薬が加えられており、上部の部分(2)中に配置され、そして必要ならば蓋(示されていない)が開放端上に配置される。次いで、試料(7)を容器の毛管(3)区域中に押し込むために、容器全体を遠心機に掛ける。
【0102】
しかしながら、他の実施態様では、試料および試薬は、本出願人らの本願と同日付けの同時係属中の英国特許出願中に記載し、そして特許請求しているように、特別に設計された先端の細いピペッタを用い、そして付随するピペッタの取出しの精密な制御を伴って、毛管(3)中に直接充填することができる。
【0103】
次いで、この容器は機器(図5)中で適切に配置されて、結合子(11、12)が電源供給に結合可能なように、しかしながら一対の支持体上に収まるように、容器を適合することができるようにする。
【0104】
固体発泡体断熱材料(14)(ポリウレタンエンジニアリング発泡体)の環が、上部の電気接点(11)の下端の部分と接触させられる。下部の電気接点(12)は成形された、また固体発泡体断熱材料の支持体(15)上に保持される。
【0105】
この固体発泡体断熱材料は、電気接点からの伝熱を最小限にするように配置されるが、しかしながら電源供給(示されていない)との接触を妨げない。
【0106】
固体断熱材料、例えばデルリンの環(16)が、固体発泡体断熱材料(14)の環に隣接して、それと接触して与えられる。この環(16)は上部電気接点(11)の残りを効果的に取り囲むが、しかしながらそれとは直接には接触しない。結果として、これは上部からくる環境影響からの断熱材として作用するが、しかしながら電気接点自体に対して熱吸収源または熱源のいずれとしても作用しない。
【0107】
同様に、固体発泡体断熱材料の成形された支持体(15)は、それ自体が固体断熱材料、例えばデルリンの環(17)上に支持されており、下側の電気接点(5)のために同様の保護を与えている。この固体断熱材の環(16、17)は、電気接続のための導管を与えられており、そして筐体(18)中にバネで取り付けられる。
【0108】
使用にあたっては、固体断熱材の環(16、17)は、その中に容器が保持された機器と組み合わされて、管(2)のための、環境から効果的に隔離されたチャンバーを定義する。しかしながら、この電気接点それ自体は低熱質量の固体発泡体材料と接触している。
【0109】
このように配置された場合には、この機器は、断熱材料を配置しない、もしくは外の配置を有する装置と比較して、はるかに効果的で、また信頼できる仕方でポリメラーゼ連鎖反応に用いることができる。
【0110】
次いで、結合子(11、13)は電源供給に接続され、電源供給は、好ましくは自動的にECP層(5)を通して電流を通すように制御され、それでECP層(5)は連続した加熱および冷却サイクルを迅速に進行させ、試料が同様のサイクル条件に付されることを確実にする。このことは試料(7)がPCR反応に付されることを可能にする。
【0111】
試料(7)に実時間監視システムが含まれる場合には、PCRの進行は、慣用の方法を用いて、封止材(4)を通して監視することができる。
【0112】
結果として、迅速なPCRを達成することができる。容器(1)、そして従って試料内の温度勾配の存在は、特に熱的な分路として作用するアルミニウム被覆層(5)の存在を含めた、取られた処置によって低減される。従って、信頼できる、そして再現可能な結果を達成することが可能である。
【0113】
試料容器の他の設計を図6に示した。多くの特徴は図1および2中に示したのと同様であり、また同じ参照記号を用いている。
【0114】
上部本体(2)は図1に示した実施態様と同様であり、そして更に詳細には説明しない。図6に示した図は、2つの突き出た突出部(28)を示しており、これは受け口と相互作用してこの容器を遠心機に掛けることを可能にする。この実施態様では、毛管(20)はアルミニウムで作られている。このアルミニウム毛管(20)は、陽極処理されており、またパリレンで被覆されている。この陽極処理された層は電気的絶縁を与え、一方でパリレン層は生体適合性を与える(また電気的絶縁を援けもする)。
【0115】
透明の窓(4)はアルミニウム毛管の端部に挿入され、締り嵌めによってその場に保持される。この透明窓(4)はポリカーボネート、好ましくはマクロロン(Makrolon)(登録商標)で作られており、これは窓を毛管中に挿入するのを可能にするのに十分な剛性を有し、また試料の所望による光学的監視を可能にするように透明である。この透明な窓はケイ素オー・リングを与えられ、この透明な窓が所定の位置にある場合には、毛管の溝を付けた端部に対して配置されており、良好な密封を確実にする。このオー・リングはポリプロピレン窓上に外側被覆した(overmoulded)ケイ素で作られている。この透明な窓は毛管中に1〜1.5mmにわたり、ある程度広がっている。このことはECPの端部に隣接する毛管の底の領域は、温度勾配が最も大きい領域であるので有利である。この領域を透明な窓で満たすことにより、試料をアルミニウム毛管(20)およびECP(8)の端部から離して、温度勾配の小さい領域に配置することができる。
【0116】
この透明の窓が毛管中に挿入されると、毛管はECP(8)で外側被覆される(overmoulded)。窓の端部はECPがなく、そのために窓は透明のままである。
【0117】
図7は図5に示した機器の他の実施態様を示している。サンプル容器(1)は機器中に挿入されて示されている。このサンプル容器は3つの立ち上がった取付台(30)(1つだけが示されている)によって所定の位置に保持されている。これらの取付台は、それらの小さい体積および低熱伝導性によって低熱質量を有している。この実施態様では、取付台は黒のデルリンで作られている。取付台(3)は底部接点保持器(34)中に保持されており、この底部接点保持器は次に底部平板38上にバネで取り付けられている。
【0118】
上部の電気接点33は金属バネの形態であり、容器の上部電気接続に対して擦れあっている。底部の電気接点は立ち上がった取付台(30)の1つに組み込まれている。上部および下部の電気接点は、それらの小さい体積のために低熱質量を有している。
【0119】
また、図7は、垂直の細隙(36)を通してECPの温度を検知するための熱電対(32)を示しており、この垂直の細隙は、機器の他の部品から最小限の妨害で容器のECP層を見るように配置された視野を有している。
【0120】
また、図7は、容器の上部区域中の切断器/栓(22)を示している。2つの破裂した封止材(24)、(26)もまた示されており、これらはこの切断器/栓によって貫通されている。切断器(22)は上部および下部封止材(24)、(26)を貫通するように移動して、それらの間に貯蔵されている試薬もしくは溶媒を試料容器中へと放出する。降下した場合にはこの切断器/栓は試料容器を密封する。このような組み合わさった切断器および栓は国際公開第2005/019836号に記載されている。金属毛管の使用は、ECPと接触している栓では良好な密閉を得るのは困難であるのとは対照的に、それが栓と良好な密閉を形成するという利点を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学または生化学反応を行なうための反応容器であって、該反応容器が毛管容器または扁平な毛管容器を含んでおり、また該容器の少なくとも1つの壁が高熱伝導層および内側非金属層を含んでいる、反応容器。
【請求項2】
前記の高熱伝導層が金属層である、請求項1記載の反応容器。
【請求項3】
前記の1つの壁が少なくとも1つの長い壁を形成する、請求項1または2記載の反応容器。
【請求項4】
前記の毛管容器または扁平な毛管容器の基部が透明材料からなる、請求項3記載の反応容器。
【請求項5】
前記の透明材料および前記の毛管もしくは扁平な毛管の間に封止材が与えられている、請求項4記載の反応容器。
【請求項6】
前記の容器の全体の側壁が金属層および内側非金属層を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の反応容器。
【請求項7】
前記の熱伝導層がアルミニウムを含む金属層である、請求項1〜6のいずれか1項記載の反応容器。
【請求項8】
前記の内側非金属層が、ポリマー材料、ガラス、不動態化された金属またはそれらの組み合わせである、請求項1〜7のいずれか1項記載の反応容器。
【請求項9】
前記のポリマー層がパリレンまたはその誘導体を含む、請求項8記載の反応容器。
【請求項10】
ブロックヒータ中での使用に適合されている、請求項1〜9のいずれか1項記載の反応容器。
【請求項11】
更に加熱装置を含む、請求項1〜10のいずれか1項記載の反応容器。
【請求項12】
前記の加熱装置が一体化された加熱装置である、請求項11記載の反応容器。
【請求項13】
前記の一体化された加熱装置が、前記の金属層の外側に配置されているが、しかしながら該金属層から電気的に絶縁されている抵抗加熱要素を含む、請求項12記載の反応容器。
【請求項14】
前記の抵抗加熱要素が電導性ポリマーを含む、請求項13記載の反応容器。
【請求項15】
前記の抵抗加熱要素が前記の金属層と、それらの間の絶縁層によって絶縁されている、請求項13または14記載の反応容器。
【請求項16】
前記の絶縁層が陽極酸化されたアルミニウム層またはポリマー層である、請求項15記載の反応容器。
【請求項17】
前記の絶縁層がポリマー層である、請求項16記載の反応容器。
【請求項18】
前記のポリマー層がパリレンまたはその誘導体を含む、請求項17記載の反応容器。
【請求項19】
前記の電導性ポリマーの表面を貫通し、また前記の電導性ポリマーの制御可能な加熱を可能とする制御システムと結合することができる逆とげを付けた電気接点を更に含む、請求項14記載の反応容器。
【請求項20】
前記の電導性ポリマーの半径方向の厚さが前記の容器に沿って、それに沿った温度勾配を低減するように変わる、請求項14記載の反応容器。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項記載の反応容器、ならびに該反応容器と適合することができ、また該容器を制御可能に加熱および冷却するように適用された加熱装置を含む機器を含む反応装置。
【請求項22】
前記の反応容器の壁の熱伝導層が金属層であり、また前記の加熱装置が誘導加熱装置であって前記の反応容器の金属層と相互に作用して誘導によって加熱することができる、請求項21記載の反応装置。
【請求項23】
前記の加熱装置が加熱流体(例えば空気)を前記の容器またはその近傍に供給して加熱を実施し、また場合によっては更に非加熱流体を前記の容器またはその近傍に供給して冷却を実施する、請求項21記載の反応装置。
【請求項24】
前記の反応容器が請求項13〜19のいずれか1項記載の容器であり、また加熱装置が電導性ポリマーに結合されている、請求項21記載の反応装置。
【請求項25】
前記の機器が、前記の抵抗加熱要素の少なくとも1つの電気結合子と直接に接触するように配置された固体発泡体材料を含む、請求項23記載の反応装置。
【請求項26】
前記の発泡体材料がハニカムまたは網目状の発泡体である、請求項25記載の反応装置。
【請求項27】
前記の発泡体材料が前記の電気結合子のための支柱のある、または波形の取付台を形成する、請求項25または26記載の反応装置。
【請求項28】
前記の機器が複数の反応容器に適合することができる、請求項21〜27のいずれか1項記載の反応装置。
【請求項29】
少なくとも1つの加熱工程を必要とする化学もしくは生化学反応を行なう方法であって、該方法は化学もしくは生化学試薬を請求項1〜120のいずれか1項記載の反応容器、または請求項21〜27のいずれか1項記載の反応装置の反応容器中に配置すること、ならびに該化学もしくは生化学反応を引き起こすように該試薬を加熱することを含む方法。
【請求項30】
前記の反応が熱サイクルを必要とする、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記の反応がポリメラーゼ連鎖反応である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
反応容器加熱装置であって、反応容器のための加熱要素として作用するように配置された電導性ポリマー、および該電導性ポリマーの表面を貫通することが可能な1つもしくはそれ以上の逆とげを付けた電気接点を含む、反応容器加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−535469(P2010−535469A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518740(P2010−518740)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002631
【国際公開番号】WO2009/019454
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(506072055)エニグマ ディアグノスティックス リミテッド (13)
【Fターム(参考)】